会長日記

2017年9月1日

会長 作間 功(40期)

(2017年7月30日アイレフで行われたシンポジウム「犯罪被害者支援条例を考える」の挨拶より)

1 福岡県弁護士会会長の作間でございます。

本日は,皆様には暑い中,お越しくださいまして有難うございます。

また,事例報告をしていただく山本美也子様,パネリストの佐藤悦子様,大庭茂彌様,松原道明様,精神科医の本田洋子様には,遠いところあるいはお忙しい中ご参加賜り,心から感謝申し上げます。また,当会会員の林誠弁護士,世良洋子弁護士,今日は,よろしくお願いします。

2 弁護士会の取組

弁護士会が犯罪被害者のために取り組むべきであると認識したのは,実は最近のことではありません。今から50年以上前の1960年第3回人権大会において,日弁連は被害者の人権擁護の決議をしています。

確かに,日弁連は,先駆的役割を果たしたのですが,その後の取組は決して十分であったとは言えませんでした。

個々の弁護士も,刑事事件における示談で被害者側代理人として,あるいは民事裁判の損害賠償請求事件の原告側代理人として活動はしてきました。しかし,それは,経済的な補償という,犯罪被害者救済の一局面に限定されていました。

日弁連も弁護士も,トータル的な十分な支援活動をしてこなかったのです。

その後,地下鉄サリン事件等を経て,日弁連が,人権大会で,犯罪被害者支援のための決議をしたのは,2003年松江大会のときでした。「犯罪被害の権利の確立とその総合的支援を求める決議」です。

当会が犯罪支援者委員会を立ち上げたのは,2000年3月でした。

罪を犯した被疑者や被告人には弁護士がつくのに,どうして犯罪被害者に弁護士がつかないのだ。こうした極めて正当な意見が社会に広く浸透したのは,1990年代後半でした。先にご紹介した2003年の松江宣言の翌年,2004年に犯罪被害者基本法が成立し,犯罪被害者は「個人の尊厳が重んぜられ,その尊厳にふさわしい処遇を保障される権利」の主体であることが宣言されました。

犯罪被害者の方々の立場からすると,いかにも遅い,というご批判があろうかと思います。

弁護士会は日本で最大・最強の人権擁護NGOですが,ご批判は極めてもっともなことだと受け止めねばならないと思います。

3 社会全体が犯罪被害者のことを考える意味

犯罪被害にあった方々は,社会全体からすると,その数は多数とはいえないでしょう。個々の人々が声をあげても,かき消され,上にはなかなか届かないのです。

なるほど私たちは,民主主義社会に生きています。しかし,民主主義の内容を,多数決のみが支配する民主政だ,と理解してしまうと,犯罪被害者の方々のための施策は,後回しになってしまいます。

しかし,それでいいのでしょうか。 

わたしたちは,どのような社会を目指しているのでしょうか。どのような社会を構築すべきなのでしょうか。

一人ひとりの命が尊重される社会,理不尽な犯罪に遭遇し,その人の,あるいは家族の人生が絶望的なものになったとき,社会全体で手を差し伸べる社会,そういう社会を構築していくべきではないでしょうか。それが,公正な社会,正義が行き渡った社会,豊かな社会なのではないでしょうか。

私たちは,一人ひとり,様々なグループ,社会的層に所属しています。ある人は高齢者グループに,ある人は難治性の患者グループにという具合です。その他,障がい,認知症,LGBT,貧困,過労死・自殺,倒産,あるいは今般の豪雨の被災者,等々。数からすると,こうしたグループは全て社会的に少数です。

思えば,私たちは全て,幾つかの,何らかの少数者グループに属しているのです。常に多数者のグループに入り続ける,ということはあり得ません。

このように考えていくと,少数者の権利を守ることの大切さがわかります。少数者が被害に遭っている状況は,他人ごとではないのです。自分の問題なのです。こうした思いが広がり,社会的な共感を呼び,連帯が始まれば,国を動かすことができます。

4 本シンポの位置づけ

私たちは,長年,犯罪被害者の方々の苦しみに気づかず,あるいは気づいていながらも,十分な取り組みが出来ていませんでした。

確かに,犯罪被害者保護二法,犯罪被害者等給付金の支給等に関する法律の一部改正,刑事訴訟法や犯罪被害者保護法の改正がなされました。国の犯罪被害者等基本計画は,2016年3月に第3次を数え,この中で,刑事手続への関与をより実質化させるための方策や,損害回復・経済的支援等への取り組み,地方公共団体における被害者支援体制の整備及び関連機関の連携等が重点課題として検討され始めています。

しかしながら,今でも,事件発生直後に公費で被害者支援弁護士を選任する制度はありません。

また,経済的損害について民事裁判や損害賠償命令制度を利用したとしても,実際には金銭賠償を受けることが困難な場合が,まま生じます。

犯罪被害者等給付金制度は自賠責並みになったと言われてはいるものの,その額は損害を回復するには少なすぎるというべきです。

性犯罪・性暴力の被害者の精神的・身体的負担を軽減するには,そこへ行けばワンストップで必要十分な医療面・精神面・刑事手続等の支援を受けられる,そういうワンストップ支援センターが望ましいのですが,全国各地のセンターは財政難にあえいでおり,泣き寝入りしている多くの被害者をすくい上げ,きめ細かな支援をするにはまだまだ不十分です。

このように依然として道半ばにある被害者支援を担う立場の中でも行政,なかでも地方自治体・地方公共団体の役割は極めて重要だと言わねばなりません。

生活支援を含めたきめ細かい支援を実現するためには,犯罪被害者が生活基盤を置く自治体による支援が不可欠です。持続的な支援サービスを提供するためには財政的な裏付けが必要です。こうした自治体による活動には,法的根拠としての条例が必要です。

今日は,犯罪被害に遭った方々を支援する「条例」にスポットを当てて,考えていきたいと思います。

自らの住むまちを安全安心なまちにするため,犯罪被害にあった市民の権利を守るため,市民の力で条例を作るということは,まさしく自治の実践であり,意義深いことです。福岡県弁護士会としても,被害者支援のひとつとして,条例制定という立法活動を支えることは,法律の専門家集団として当然のことでありますし,また,やりがいのあることです。

5 まとめ

今日のシンポジウムは,犯罪被害者やそのご家族の方々の声を直接聞く貴重なものであり,条例制定に向けて,私たちが,犯罪被害者の方々やそのご家族のために,何ができるかを考え,少しでも社会が前進する機会となることを祈念いたしまして,主催者の挨拶といたします。