会長日記
2014年10月
会 長 三 浦 邦 俊(37期)
給費制復活の運動
司法修習生への給費の実現と司法修習の充実を求める福岡集会が、9月6日(土)エルガーラホールで開催されました。ビギナーズネットの法科大学院生や司法浪人、学生の方、貸与制による修習を受けた65期、66期、67期の方など170名の方々が参加されました。
例によって、冒頭に主催者代表としてあいさつをしなければならないので、修習生の貸与制の内容について、最高裁のホームページで確認してみました。そこには、貸与制は司法修習生に修習に専念してもらうための制度だと書いてありましたが、そりゃないでしょうというのが率直な感想です。他方で、最高裁にも、司法修習の時代が如何に重要であるかの認識はあるという点が確認できました。司法修習時代に裁判官や検察官を志望する同期と一緒に修習し、勉強することが出来ることは、我が国の司法制度の向上に役立っている点については異論がないと思われます。また、この時期に一生懸命研修をすることが将来の司法界を背負う人材の成長に必要であることも異論がないと思われます。修習に専念させるために生活に必要な資金を貸し付けるというのは、返済は可能であるという前提に立っているわけですが、近頃の修習生の就職難、民事受訴件数の減少などの影響か、年収300万円に満たない弁護士が30%にものぼっているそうです。貸与制は、大学や法科大学院の時代の奨学金の返済を継続するために貸し付けているようなもので、1年が経過したところで、借金が増えるばかりであることが明らかです。借金の怖さから人々を守る人材が借金の返済に怯えなければならないという現状に関して、貸与制を許してしまった最高裁判所、財務省のお役人は責任を取ってもらわなければなりませんが、需要予測などが甘かった点や、そもそも給費制の復活の話をすること自体を避けられるようで、全く無責任な話であると思います。給費制の復活の運動は、こんな人たちがいるおかげで道は険しいものがあると言わざるを得ませんが、復活のための運動を粘り強く継続して、最終的に、給費制の復活を勝ち取らなければならないと思います。この問題は国民のための司法制度を崩壊させかねない問題であることが、一般に知られるようになってきており、地道に取り組めば必ず成果が上がると信じることが出来ると思っています。集会に参加して事態が深刻だと思ったのは、貸与制に変わった結果、今の修習生は病気や怪我にも怯えなければならないという点です。最高裁から給与が支給されなくなったことから、司法修習生の大部分の人は、国民健康保険の加入者になるようですが、保険料を支払っていないので、医療を受けられない、医療費がもったいないので病院に行かないという修習生がいるような話でした。悲惨な話のなかで唯一の救いは、集会に参加した受験生や若手弁護士が元気一杯であった点でした。このような若い方のやる気を盛り上げるような制度を作ることが、先輩法曹の役割であることを実感した集会でした。
司法試験の合格者数
3日後の9月9日(火)、司法試験の合格発表があり、合格者は1810名となりました。3日前に会ったビギナーズのメンバーは合格したのだろうかと少し心配になりましたが、少なくとも、あれだけ元気があれば、そのうち合格することは疑いのないところだと思いました。
司法試験の合格者数は、司法試験管理委員会が決定する権限を持っているので、減るかどうかは発表まで全く分からないといわれながら、他方で、継続的な働きかけの中で、公明党が1800名程度、自由民主党が1500名程度という数値目標を出して、その後も管理委員会に対して政党からの働きかけが継続して行われた結果、今年の夏ころには、取りあえず1800名程度までは減るのではないかという観測がありました。この数字は正にその観測の通りの数字になったものですが、日弁執行部の地道なロビー活動によって、かなり正確な予測ができるようになっている一つの事例だと評価できます。他方で、法曹人口の問題に関しては、内閣の中に置かれている法曹養成顧問会議、同推進室がこれに関する実証的検証を行ってから最終合格者数を決めていくとしていることを尊重してか、当会では法曹人口問題に関する議論に関してはあまり熱心な議論をしてきていません。全国の単位会においては、敢えて合格者数を1000名や500名にすべきであるとの単位会決議を行うところも散見されますが、当会ではそのような動きはしておりません。この点は、何名の合格者が適正であるのかに関して実証的な検証結果が出されていない段階で、1000名又は500名が適正だとする根拠を示すことが出来ないと思われることと、果たして法曹界は法的需要の増加に対して努力を払ったかとの批判に耐えられるのかという点を問われると何とも心もとないと思う点があるからです。ここ数年の執行部が、任期付き公務員の採用を地方自治体に働きかけ、企業内弁護士の採用を県内企業に働きかけることに力を注いでいる理由は、勿論、実際に弁護士の活動領域を広げていきたい、若手の活躍の場を確保したいからですが、このような非難の声を封じたいという思いもあって行っている活動でもあります。他方で、究極的には、日本の社会において、法の支配の原則に基づいて、争いごとだけではなく、心配ごと、悩みごとを解決する習慣が国民に根付かなければならないわけで、この面では法教育の活動を地道に行うだけだと腹をくくるしかないと思います。古賀和孝日弁連副会長によると、法曹人口問題を議論していただいている国会議員の方から何時も言われるのは、「自分たちは弁護士のために議論や、活動をしているわけではない。」という点だそうです。その意味は、適正な法曹人口は幾らかという議論は、国民が必要としている法曹人口として適正な人数は何人かという観点から行うべきことで、法律家が食えるようにしてくれという視点では議論をすべきでないということだと思います。
ロースクール問題
他方で、九州地区では、九州大学法科大学院の合格者数が37名、西南学院大学法科大学院1名、福岡大学法科大学院2名、久留米大学法科大学院2名、熊本大学法科大学院3名、鹿児島大学法科大学院4名、琉球大学法科大学院3名で、今年は募集を停止してしまった法科大学院の健闘が目立つ一方で、全体的には低調であると言わざるを得ず、本州の有力六大学といわれるところに益々集中する傾向が高まっています。また、他方で、相変わらず予備試験組の高い合格率が目立っています。この中には、法科大学院や法学部の在学生が多数含まれているとのことで、優秀な人材は上記のような酷い状況の中でも法曹を目指しているとの評価もできると思いますが、他方で、受験生心理としては、安く、早く合格したいということであろうと思われます。
福岡県弁護士会、九弁連としては、地方に根付いた法律家が育って欲しいという願いは決して下ろすべきではないと思います。当会としては、九大の健闘と、西南、福大の奮起を願わずにはいられませんが、久留米大出身の方でまだまだ合格を目指していらっしゃることも忘れてはならず、今後も有形無形の方法で応援をしてゆきたいと考えています。
ジュニアロースクール
前後しましたが、8月23日(土)午後1時から西南学院大学法科大学院の法廷教室においてジュニアロースクールが開催され、冒頭あいさつと懇親会に参加しました。私が同席できたのは、冒頭のあいさつと午後4時から30分程度でした。その間は何をしていたかと言えば、九弁連の司法改革委員会に参加しておりました。参加者の動員については、前から知っている人は、中学の時に参加したから高校生になっても参加したという人もいらしたようですが、現役の先生が生徒さんに呼びかけて連れて来られるケースが圧倒的に多いとのことでした。今年は、参加者が少し少なかったようですが、参加した中学生、高校生は、役に立った、面白かったという感想を持ってくれたようです。
春田委員長以下、法教育委員会の委員の方が、早くから準備して、教材を練ってくれているので、もっと広がるはずだと思うとともに、小さなお子さんがいらっしゃる女性会員は午後5時からの懇親会にも参加が困難であることが判りました。男女共同参画のためには、委員会活動の時間を日中にするなどの配慮をしなければならないと思うと共に、午後1時から4時30分までの活動を完璧にこなす法教育委員会の女性会員には感服しましたし、男性会員には、午前様まで元気に盛り上がっていただきました。未来は明るいと思った一日でした。