福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画

声明

2003年2月12日

弁護士報酬の敗訴者負担に反対する決議

福岡県弁護士会 会長  藤井克已

平成15年(2003年)2月12

 当会は、弁護士報酬を敗訴者の負担とする一般的な負担制度の導入に強く反対する。以上のとおり決議する。

  理 由
 2001(平成13)年6月12日、司法制度改革審議会は最終意見書を公表し、その中で、弁護士報酬の敗訴者負担制度につき、「一定の要件の下に弁護士報酬の一部を訴訟に必要な費用と認めて敗訴者に負担させることができる制度を導入すべきである」とした。この意見を受け、現在、司法制度改革推進本部司法アクセス検討会において、同制度につき本格的な検討がされようとしている。\n しかし当会は、以下の理由から、その一般的敗訴者負担制度の導入に反対の意見を表明するものである。\n
  訴訟は本来、当事者が自己の権利ないし地位を実現ないし保全するため提起するものであり、自分が依頼する弁護士の報酬を相手から回収できないために訴訟を回避することは、通常は考えられない。
 むしろ、当事者としては、敗訴した場合に相手方が依頼した弁護士の報酬を負担させられることを恐れ、訴訟を断念する可能性が高い。すなわち、訴訟においては、訴訟を提起する段階又は応訴する段階では勝敗の見通しが立たない場合が少なくない。薬害・医療過誤訴訟、公害訴訟など、証拠が偏在している場合も同様である。このように訴訟の勝敗の見通しが立たない場合、当事者は勝訴する可能\性よりも敗訴する危険性を恐れ、その結果当事者の訴訟提起を萎縮又は裁判による解決を断念させてしまい、市民の司法へのアクセスを阻害することが一般的に予想される。\n また、公害訴訟、消費者訴訟、労災訴訟などにおいては、従来裁判上認められていなかった権利が度重なる敗訴判決を経て漸く認められたり、またそのような事例が集積されて新たな法令や制度が創設された例が多数存在するが、このような訴訟の人権保障機能や法創造機能\は敗訴した場合でも自分が依頼した弁護士の報酬のみを負担すれば足り、敗訴の危険性を顧みず当事者が訴訟を提起できたからこそ生まれてきたものである。ところが、弁護士報酬の敗訴者負担制度が導入されてしまうと、自分のために全力を尽くしてくれた弁護士の報酬のみならず、相手方を弁護した弁護士の報酬まで負担しなければならなくなり、当事者としてはそのような危険を冒してまで訴訟を提起しようとせず、ひいては訴訟の人権保障機能や法創造機能\が損なわれることは明らかである。
 更に、資金力のない社会的・経済的弱者と資金力の豊富な社会的・経済的強者との訴訟では、訴訟の人権保障機能や法創造機能\が重要な役割を果たしている上、証拠が偏在している場合が多く、弁護士報酬の敗訴者負担制度の導入による弊害は著しく、弁護士報酬の敗訴者負担制度は社会的・経済的弱者の訴訟アクセスを断念させ、憲法が保障する「裁判を受ける権利」を侵害しかねないというべきである。
 当会は、司法制度改革審議会の意見書を尊重するものであるが、弁護士報酬の敗訴者負担の一般的導入は市民の司法へのアクセスを阻害するとともに、訴訟の人権保障機能や法創造機能\を損なうものであるから、改革審議会の意見書が意図したところではないと考える。敗訴者負担を導入するのであれば、司法へのアクセスを高めることにつながる片面的敗訴者負担制度(例えば、国や地方自治体に対する公益のための訴訟などに限って原告勝訴の場合にのみ被告に弁護士報酬を負担させる制度)を導入するべきである。
 よって当会は、弁護士報酬の一般的敗訴者負担制度を導入することには強く反対するものである。
日 

2002年9月24日

死刑執行に関する福岡県弁護士会会長声明

福岡県弁護士会 会長  藤井克已
 
 平成14年(2002年)9月24日

  本年9月18日、福岡拘置所及び名古屋拘置所において、それぞれ1名、合計2名に対する死刑執行が行われた。
 2 わが国での死刑執行は、1989年11月福岡拘置所での執行以来、1993年3月に再開されるまで3年余の間、その執行が控えられていたが、再開後今回の執行を含め被執行者数が43名に及んでいる。 
 死刑が人間の尊厳を否定する残虐な刑罰であることは明らかである。そこで、国際 的にも、世界の相当数の国が法律上あるいは事実上死刑を廃止している。また、1989年に国連総会において採択された死刑廃止条約が、1991年7月に発効している。さらに、1998年11月5日、日本政府の第4回定期報告書を審査した国連規 約人権委員会は、その最終見解において、我が国の死刑制度に関して1993年11月4日に同委員会が表明した懸念事項が実施されていないことにつき重大な懸念を抱いていることを示し、改めて死刑廃止に向けた措置をとるよう勧告している。\n 他方、国内的にも、1993年9月21日の最高裁判決中の大野正男裁判官の補足意見にて、死刑の廃止に向かいつつある国際的動向とその存続を支持するわが国民の意識の整合を図るための立法施策が考えられるとの指摘がなされている。
  当会は、これまで、1996年2月14日、1998年7月7日及び1999年12月28日に当会会長声明において、死刑執行に対して極めて遺憾であるとの意を表明し、法務大臣に対し、死刑の執行を差し控えるべきとの要望を重ねてきた。\n
 そこで、当会は、今回の死刑執行に対して、極めて遺憾であるとの意を表明し、法務大臣に対して、今後、死刑の執行を差し控えることを強く要望する。\n

2002年8月 5日

住民基本台帳ネットワークシステムの稼働の一時停止を求める声明

福岡県弁護士会 会長  藤井克已 

 平成14年(2002年)8月5日

本日8月5日、国は、改正住民基本台帳法の施行に伴い、住民基本台帳ネットワークシステム(以下「住基ネット」という。)の正式稼働を開始した。
 住基ネットは、各市町村が管理する住民基本台帳に記載された高度のプライバシーに属する個人情報である住民票コードを含む6情報ないし13情報をコンピュータネットワークに乗せ、他の地方自治体や国の行政機関からのアクセスを可能にするシステムである。その前提として、個人情報の漏洩や、行政機関による個人情報の濫用を防止するための個人情報保護法制の整備がなされない限り稼働できないことが、国会における首相答弁や、住基法附則1条2項により確認されていたところである。\n しかるに、国は、稼働の前提条件である個人情報保護法制を全く整備しないまま、また、全市町村のセキュリティーに対しても、分厚いマニュアルを配布するのみで、経済的援助、及び技術的指導を全く放棄したまま稼働を強行した。このような状況においては、国の行政機関による個人情報の濫用や、個人情報の漏洩を防止する対策は極めて不十分と言わざるを得ない。\n この住基ネットについては、異例にも、24の市区町村長と、2県及び68市区町村の議会で、延期を求める意見書が採択されている。また、矢祭町、杉並区、国分寺市が離脱を表明し、横浜市は、希望しない市民には接続しない選択肢を与える運用を行う意思を表\明している。杉並区によれば、区民の72%が凍結・延期すべきと考えているという。このように、自己のプライバシー権侵害を危惧する隠れた多数の国民、及び住民のプライバシー権を保護しようと真剣に苦悩している多数の自治体の声を無視して、危険な住基ネットの稼働を行うことは、行政機関に対する自己情報コントロール権が保障されている国民のプライバシー権保護の観点、及び地方自治の本旨の保障の観点から、到底是認できないものであり、極めて遺憾である。
 従って、当会では、国における個人情報保護法制無きままの住基ネットの稼働の一時停止を求め、今後とも国に対して個人情報保護法の制定を求めていくとともに、住基ネットに載せる情報を住民基本台帳事項に限定することを求める。また、自治体において、緊急時に住基ネットとの接続を切断をするための法整備に協力するなどして、個人のプライバシー権が可及的に守られるための努力を継続する所存である。


2002年6月17日

住民基本台帳ネットワークシステムの稼働の延期を求める声明

福岡県弁護士会 会長  藤井克已 

 平成14年(2002年)6月17日

1.今年8月5日の改正住民基本台帳法の施行に伴い,住民基本台帳ネットワークシステム(以下「住基ネット」という。)の稼働が予定されている。これは,各市町村が管理する住民基本台帳に記載された高度のプライバシーに属する個人情報である住民票コードを含む6情報ないし13情報をコンピュータネットワークに乗せ,他の地方自治体や国の行政機関からのアクセスを可能\にするものである。
 確かに,行政の効率化の点では利便性があるかもしれないが,コンピューター上のデータは紙の上のデータと異なりネットワーク上での拡散も簡単であることから,ネットワークの広域化によりネットワーク外への情報流出の可能性が格段に高まり,その利便性とは裏腹にプライバシーに修復不可能\なダメージを与える危険性を孕んでいる。
 現在,93の国の事務が住基ネットを利用することが決まっているが,更に,「行政手続きオンライン化関連3法案」によって171事務が追加されようとしている。住民票コードに付された個人情報をネットワークに流通させることは,各事務で得られた個人情報を集約することを容易にするもので,それ自体が個人のプライバシーに対する脅威となりうる。

2.ところで,1999年6月10日に行われた地方行政委員会(第145国会)において,当時の小渕首相は,住基ネットの「実施にあたりましては,民間部門をも対象とした個人情報保護に関する法整備を含めたシステムを速やかに整えることが前提であるとの認識に至った」と答弁し,改正住基法付則1条2項には「この法律の施行に当たっては,政府は,個人情報の保護に万全を期するため,速やかに所要の措置を講ずるものとする」との規定が盛られているのであるから,住基ネットの稼働には個人情報保護法制の万全な整備が不可欠の前提である。

3.そこで,現行法制及び改正法案を見るに,現行の「行政機関の保有する電子計算機処理に係る個人情報の保護に関する法律」は,情報の収集制限に関する明確な規定がないこと,行政機関相互の目的外利用を広範囲に認めていること,安全確保義務違反に対する罰則がないことなど個人情報保護制度としては,極めて不十分である。\n 次に,今国会で審議中の「行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律案」(以下,「行政機関個人情報保護法案」という。)においても,何ら問題点は改善されていない。すなわち,
 1:蒐集制限に関する明確な規定がないこと,
 2:「相 当の関連性」があれば利用目的の変更が容易に容認されること,
 3:「職務上必要な限度」「相当な理由」があれば行政機関相互の目的外利用が極めて広範に容認されること, 4:「2:」「3:」の判断は当該行政機関に委ねられていること,
 5:個人情報の開示義務規定は盛られているが,拡大解釈される懸念のある広汎な除外規定によって骨抜きになっていること,
 6:安全確保義務違反に罰則がないこと,
など多くの点に問題があり,個人情報保護制度としては極めて不十分であるどころか,逆に,現状以上に行政機関による個人のプライバシー侵害に適法性のお墨付きを与えかねず,国民の個人情報を保護することよりも,全ての国民の個人情報を一元的に管理することを狙いとしたものと言わざるを得ないものである。\n
4.今般,防衛庁による情報公開請求者の身元・思想信条等のセンシティブ情報を含む個人情報リストの作成保有並びに利用という事件が発覚し,防衛庁は内部調 査の結果,その行為の一部について違法性はないと結論づけている。
 この防衛庁の対応と一連の流れによって,個人情報を隠密裡に蒐集し管理しようとする行政機関の体質が露呈され,万全の個人情報保護法制を欠く現状においては個人のプライバシーがいかに脆いものであるかが明らかになった。

5.このように,行政機関個人情報保護法案には重大な問題があり,住基ネット実施のための前提条件である個人情報保護に万全を期するための「所要の措置」が講じられているとは到底評価できない現状にある。
 従って,8月5日に予定されている住基ネットの稼働は,万全の個人情報保護立法がなされるまでは延期されるべきである。\n

2002年6月10日

いわゆるメディア規制3法案の廃案等を求める声明

福岡県弁護士会 会長  藤井克已 

 平成14年(2002年)6月10日

  現在国会で審議中の人権擁護法案、個人情報保護法案、並びに国会上程予定の青少年社会環境対策基本法案はいわゆるメディア規制3法案と呼ばれているように、報道の自由、市民の知る権利を侵害する恐れの強いものである。\n
  人権擁護法案は、本年3月15日付日本弁護士連合会理事会決議で指摘されているように、
 1:法案の人権委員会は法務省の外局とされ、必要十分な専任職員をおかず、しかもその事務を地方法務局に委任する等政府から独立した実効性のある人権救済機関とは到底言えない。\n 2:労働分野での人権侵害を切り離して厚生労働省の機関に委ねたことは労働分野の人権侵害救済の実効性が果たされない。
 3:かかる独立性の保障のない人権委員会がメディアの調査を行い、取材行為停止等の勧告権限を有することは、市民の知る権利を侵害する恐れが強い。
という問題点があり、その名称とは異質の法律案となっている。

  個人情報保護法案は、「基本原則」で個人情報を「適切かつ適正な方法で取得」し「本人が適正に関与し得るように配慮」を求めているが、この法律が施行されれば、政治家個人に対する政治的道義的責任追求を行うについての個人情報の収集や公表が個人情報保護法違反に問われる危険性もあり、日本新聞協会の意見書が指摘するような「取材を受ける側の情報提供が萎縮したり」「基本原則を口実に取材を拒否するケースが増加」することも予\想され、規制法の色彩が強くなっている。また、「報道機関」以外のものが行う表現行為(著作物など)に対する罰則(主務大臣の改善・中止命令違反に対し両罰規定を伴う)の適用があり、これらの表\現の自由に対して大きな侵害となる。その一方で、個人情報に関する自己決定権が保障されず、プライバシー権の明記もない。市民が自らの個人情報の開示を事業者に求めても、事業者の業務の都合で開示請求を拒否できるなど、個人情報を保護する法律としても極めて問題の多いものである。

  青少年社会環境対策基本法案は、2001年2月21日付日本弁護士連合会会長声明で指摘されているように、2000年に設立された第三者機関「放送と青少年に関する委員会」などによる自主的努力を一層強めることが本筋であり、同法案にある行政機関のメディアへの勧告権限、氏名公表、指導権限など、メディアへの直接介入、検閲の危険がある内容となっている。\nさらに、規制対象とされる有害な社会環境の内容も曖昧であり、表現の自由を侵害する法案と断ぜざるを得ない。\n
  これらメディア規制3法案は、報道の自由、国民の知る権利を侵害する危険性が著しく高いものであるので、この3法案に反対し、国会審議中の2法案については今国会で直ちに廃案にするとともに、全ての法案について、国民の意見を求めた上、根本的な見直を行うべきである。

2002年6月 4日

「『有事法制』に反対する常議員会決議

福岡県弁護士会 会長  藤井克已 

 平成14年(2002年)6月4日

4月17日,政府は衆議院に「武力攻撃事態における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律案」(「武力攻撃事態」法案という)、「安全保障会議設置法の一部を改正する法律案」(安全保障会議設置法「改正」法案という),「自衛隊法及び防衛庁の職員の給与等に関する法律の一部を改正する法律案」(自衛隊法等「改正」法案という)に上程した(以上を有事法制3法案という)。そして4月26日衆議院本会議において趣旨説明がなされ,各党からの代表質問がされ,特別委員会における審議が本格的に開始される状況にある。\n 有事法制3法案には憲法原理に照らし,少なくとも以下に指摘する重大な問題点と危険性が存在する。

 1 「武力攻撃のおそれのある事態」や「事態が緊迫し,武力攻撃が予想されるに至った事態」までが「武力攻撃事態」とされており,その範囲・概念は極めて曖昧である。政府の判断によりどのようにも「武力攻撃事態」を認定することが可能\であり,しかも国会の承認は「対処措置」実行後になされることから、政府の認定を追認するものとなるおそれが大きい。

 2 いったん内閣により「武力攻撃事態」の認定が行われると,陣地構築,軍事物資の確保等のための私有財産の収用・使用,軍隊・軍事物資の輸送,戦傷者治療などのための市民に対する役務の強制、交通、通信、経済などの市民生活・経済活動の規制などを行うことにより,市民の基本的人権を大きく制限することとなるが,これは憲法規範の中核をなす基本的人権保障原理を変質させる重大な危険性を有する。\n
 3 曖昧な概念の下で拡張された「武力攻撃事態」における自衛隊の行動は、憲法の定める平和主義の原理,憲法9条の戦争放棄,軍備及び交戦権の否認に抵触するのではないかとの重大な疑念が存在する。
 また,周辺事態法と連動して,米軍が主体的に関与する戦争あるいは紛争にわが国を参加させることにより,日米の共同行動すなわち個別的自衛権の枠を越えた「集団的自衛権の行使」となり,わが国に対する攻撃を招く危険を生じさせる。

 4 武力の行使,情報・経済の統制等を含む幅広い事態対処権限を内閣総理大臣に集中し,その事務を閣内の「対策本部」に所掌させることは行政権は合議体である内閣に属するとの憲法規定と抵触し,また内閣総理大臣の地方公共団体に対する指示権及び地方公共団体が行う措置を直接実施する権限は地方自治の本旨に反し、憲法が定める民主的な統治構造を大きく変容させ,民主政治の基盤を侵食する危険性を有する。\n
 5 日本放送協会(NHK)などの放送機関を指定公共機関とし,これらに対し,「必要な措置を実施する責務」を負わせ,内閣総理大臣が対処措置を実施すべきことを指示し,実施されない時は自ら直接対処措置を実施することができるとすることにより,政府が放送メディアを統制下に置き,市民の知る権利,メディアの権力監視機能,報道の自由を侵害し,国民主権と民主主義の基盤を崩壊させる危険を有する。\n
 以上のように有事法制3法案は,武力又は軍事力の行使を許容する為の強大な権限を内閣総理大臣に付与する授権法であり、基本的人権侵害のおそれ,平和原則への抵触のおそれだけでなく、憲法が予定する民主的な統治構\造を変容させ,地方公共団体,メディアを含む指定公共機関の責務と内閣総理大臣の指示権,直接実施権及び国民の協力・努力義務を定めることにより,国家総動員体制の道を切り開く重大な危険性を有するものである。
 福岡県弁護士会は,同法案の持つ重大性,危険性に鑑み,有事法制3法案に反対し,同法案を廃案にするように求めるものである。

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