福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画

声明

「政治家の思想・言論の自由を封殺する一切のテロ行為を断固として許さない」会長声明

2006年(平成18)年9月13日

福岡県弁護士会 会長 羽田野節夫

1、本年8月15日早朝、小泉首相は、国の内外から反対の声が強かった靖国神社への参拝を全国民注視の中で、実行した。
 自民党の元幹事長で山形県選出の衆議院議員加藤紘一氏は、かねてより小泉首相の靖国神社への参拝を批判し、終戦記念日の参拝に反対し、当日の小泉首相の行動に対し、マスコミを通じ批判していた。
 加藤紘一議員が自己の信念に基づき小泉首相の言動を批判するのは、思想、言論の自由が保障されている現代社会において、政治家として当然のことである。
2、然るに、本年8月15日夕刻、山形県鶴岡市に所在する、加藤紘一議員の実家と事務所が放火により全焼するという事件が発生した。新聞報道によれば、この放火事件は、小泉首相の靖国神社参拝についての加藤紘一議員の批判発言に対して、放火という暴力行為によって抗議しようとした、右翼団体に所属する男性の「政治的テロ行為」であることが明らかになった。
 このような政治家の身辺に対するテロ、暴力行為は、それによって、他の政治家や他の諸団体、更には、国民の言論の自由や、政治活動の自由をも牽制し、健全な批判精神は元より、自由な意見発表などの言論活動を萎縮させる効果をもたらし、ひいては、マスコミの報道の自由に対してさえも著しく悪影響を与えるおそれがある。
3、とくに、今や、自民党の総裁が交代し、新政権の発足が予定され、憲法改正が具体的政治日程にのぼっている頃である。
 当然ながら、憲法改正問題は、民主主義国家としての我が国最大の政治課題である。
 今後、憲法改正の是非が国民の間で自由に、徹底的に論議されなければならない。
このような時にこそ、政治家に対してはもちろん、国民も、マスコミも、等しく、思想、言論、表現、報道の各自由が保障されるべきことは言うまでもない。自由で徹底的な議論や論争によってしか、真に国民の自由と権利を守る憲法は誕生しえないからである。
4、今回のような、政治家の言論をテロ、暴力によって封殺するような行為を断固として許してはならない。
 福岡県弁護士会会員一同は、我が国の民主主義を守るためには、憲法で保障された思想、言論の自由、そして、政治活動の自由を絶対に保障すべきものと考える。
 今後、再び、思想、言論の自由を封殺する一切のテロ行為を断固として許さない意思を内外に明らかにし、この声明によって、思想、言論の自由、及び政治活動の自由の大切さを強く表明するものである。

                                                       以上

2006年9月 1日

例外なき金利規制を政府に強く求める会長声明

平成18年9月1日

福岡県弁護士会 会長 羽 田 野 節 夫

多様な現在の貧困の原因のうち,高金利が貧困問題の重大な原因であることがかねてから指摘されていた。すなわち,1962年に米国で発表された消費者利益保護に関するケネディ教書において,「消費者の所得を増加させようと努力するよりも,同じ努力をするのならば,消費者の所得をできるかぎり有効に使う努力の方が,多くの家庭の福祉の増進に大きく寄与することができる」とされているとおり,消費者の利益を保護するためには,家計にとって完全な冗費である高金利の支払いを許容し続けるべきではない。ところが,我が国は,未だ高金利を認めているために,2000万人にも及ぶサラ金・クレジット利用者の日々の生活・生存が危機に直面し、経済苦を理由とする自殺者が年間8000人とも言われる事態にあること,国民の健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を保障すべき生活保護行政においても,高金利を原因とする多重債務問題が大きな問題を投げかけていることを認識できる。
政府与党は、平成18年7月6日、「貸金業制度等の改革に関する基本的考え方」をまとめたが、その内容は、少額短期の貸付や事業者に対する貸付につき特例金利を認める余地を残しているなど、未だ極めて不十分な内容であると言わざるを得ない。
その後金融庁は、貸付金利の上限を引き下げるのに併せ、少額短期の貸し付けについては、上限金利の上乗せを認める方向で検討に入ったと報道されている。当会は、断固としてこれに反対し、改めて社会的・経済的弱者の生存権の保障・救済という観点に立ち、以下の内容を含む例外なき金利規制を政府に強く求めるとともに、今後、多重債務問題に苦しむ市民を行政・司法といった枠にとらわれず,できるだけ広く救済していくために最大限の努力を尽くすことを誓い、ここに声明する。

1.出資法の上限金利年29.2%を、利息制限法で定める年15%から20%の制限金利まで引き下げること。
2.貸金業の規制等に関する法律第43条(みなし弁済)を撤廃すること。
3.「日賦貸金業者及び電話担保金融に対する特例金利」を直ちに廃止すること。
4.少額短期の貸付や事業者に対する貸付も含め全ての貸付について特例金利を認めないこと。
5.保証料・振込手数料については、利息概念に含めること。

2006年7月13日

北九州矯正センター構想に反対する声明

2006(平成18)年7月12日

福岡県弁護士会 会長 羽田野節夫
同北九州部会 部会長  横光幸雄


1,当会は、平成7年2月に小倉刑務所敷地に医療刑務所・小倉少年鑑別所(現福岡少年鑑別所小倉支所)・福岡拘置所小倉支所の3施設を移転させるという「北九州矯正センター構想」(以下、「本構想」という)が発表されて以来、一貫して本構想に反対し、対策本部を設置して、様々な活動を展開してきた。その結果、本構想は長期にわたり凍結されたままの状態となっていたところである。
2,ところが、平成16年度に小倉少年鑑別所を小倉刑務所跡地に移転する計画が突然予算化された。そこで、当会は、本構想に反対することとあわせ、当面の問題として少年鑑別所を刑務所と隣接敷地に設置することにより、少年鑑別所に収容される少年に多大な悪影響を及ぼし、少年の健全な育成が阻害されること、少年鑑別所が刑務所と類似した矯正施設であるかのような誤解や偏見を世間に与える事態が生じることなどを理由に、小倉少年鑑別所を小倉刑務所跡地に移転させる構想に断固として反対してきたところである。
3,その後、法務省は、地域住民の反対もあって、一旦着工を延期したものの、地域住民から提出された道路整備等を内容とする要望書の一部を受け入れる形で地域住民の自治会組織である小倉南区自治総連合会の同意を取り付け、平成18年6月7日に小倉少年鑑別所新築工事の入札を実施し、平成19年3月までに完成させる予定で工事を着工しようとしている。
4,しかしながら、法務省は矯正施設である刑務所、鑑別施設である少年鑑別所、無罪の推定の働く未決者の拘置施設である拘置所を併設することの問題点について、抜本的な解決を図る姿勢が全くない。のみならず、地域住民に対して、本構想の全容、特に将来的には本構想に基づき福岡拘置所小倉支所の小倉刑務所跡地への移転計画が存在することについて十分な説明を行っておらず、地域住民の鑑別所移転についての合意形成手続についても重大な疑問があるといわざるを得ない。
5,そこで、当会としては、このような経過を踏まえて、改めて、本構想の撤回及び少年の健全な育成を理念とする少年法の趣旨に反する小倉少年鑑別所の小倉刑務所跡地への移転に断固として反対するものである。
  さらに、当会としては、本構想に基づき近い将来予想される福岡拘置所小倉支所の小倉刑務所跡地への移転にも強く反対し、引き続き本構想の全面的な撤回を求めるものである。
                          以 上

死刑執行の停止を求める会長声明

2006(平成18)年7月12日

福岡県弁護士会 会長 羽田野節夫


1 わが国での死刑執行は、1989年11月から1993年3月までの3年以上にわたって執行が控えられていた。
 ところが、その後死刑執行が再開され、2005年9月16日までに19回にわたり執行され、その被執行者数の累計は47名に及んでいる。
 しかし、国際的には、1989年に国連総会において採択された死刑廃止条約が、1991年7月に発効しており、2006年6月7日現在、死刑存置国71カ国に対して死刑廃止国125カ国(法律で廃止している国と過去10年以上執行していない事実上の廃止国を含む。)と、死刑廃止が国際的な潮流となっている。その中で、1998年11月5日、日本政府の第4回定期報告書を審査した国連規約人権委員会は、その最終見解において、わが国の死刑制度に関して1993年11月4日に同委員会が表明した懸念事項が実施されていないことにつき重大な懸念を抱いていることを示し、改めて死刑廃止に向けた措置をとるよう勧告している。
 国内的には、1993年9月21日の最高裁判決中の大野正男裁判官の補足意見にて、死刑の廃止に向かいつつある国際的動向とその存続を支持するわが国民の意識の整合を図るための立法施策が考えられるとの指摘がありながらも、十分な議論が尽くされないまま死刑執行が繰り返されてきた。
2 このような国際的な潮流と国内的な状況を踏まえ、とりわけ、現に死刑確定者が収容されている死刑執行施設を備えた福岡拘置所がある当地において、当会は、これまでに、死刑確定者からの処遇改善や再審援助要請といった人権救済申立事件を受理し、同事件処理をとおして、死刑制度の存廃を含めた問題に取り組む必要性を痛感し、より積極的な取組みをするべきであると考えてきた。
 ゆえに、当会は、これまで、数回にわたり、当会会長声明において、死刑執行に対して極めて遺憾であるとの意を表明し、法務大臣に対し、死刑の執行を差し控えるべきであるとの要望を重ねてきた。
 また、当会は、2004年10月7日の日弁連人権大会に向けたプレシンポを九州弁護士会連合会と共に「アジアにおける死刑―死刑廃止の胎動」と題して9月4日に開催し、隣国の韓国及び台湾(中華民国)が死刑廃止立法に向けた確かな歩みをしている事例を紹介し、日本においても死刑廃止を含めた死刑制度の国民的議論の必要性を喚起した。
3 しかしながら、死刑制度存廃につき国民的議論が尽くされないまま、死刑の執行が繰り返されてきた。しかも、これまで国会閉会直後や国政選挙直前あるいは年末など、国会による議論を避け、国民の関心が他に向けられやすい日程で死刑の執行が行われている。
このような状況に照らせば、83名の死刑確定者(2006年6月6日現在)に対し、今後、近いうちに死刑の執行が行われる可能性がある。
 そこで、当会は、法務大臣に対して、今後、死刑の執行を停止するよう強く要請する。
              

2006年6月29日

薬害肝炎被害の早期解決と肝炎の治療体制整備を求める会長声明

2006(平成18)年6月28日     

福岡県弁護士会 会長 羽田野節夫

 2006(平成18)年6月21日、全国5地裁(福岡、東京、名古屋、大阪、仙台)に係属している「薬害肝炎訴訟」の初めての判決が、大阪地方裁判所において下された。
 この薬害肝炎訴訟は、血液製剤の投与によりC型肝炎ウイルスに感染させられた原告らが国と製薬企業を被告として、血液製剤を承認し、製造・販売したことが違法であるとしてその損害賠償を求めた訴訟である。

 まず、判決は、血液製剤(フィブリノゲン製剤)の1987(昭和62)年の製造承認につき、「厚生大臣は、より一層の慎重な調査、検討をするどころか、非加熱製剤を加熱製剤に切り替えさせるという方針を立て、あらかじめ申請及び承認時期を定めた上で、極めて短期間に、いわば結論ありきの製造承認を行ったものであるから、安全確保に対する意識や配慮に著しく欠けていたといわなければならない」などと指摘して、原告5人の国に対する損害賠償請求を認容した。

 次に、判決は、1985(昭和60)年、「製薬企業が、製剤の不活化処理について、ほとんど不活化効果がなかった方法に戻し、C型肝炎感染の危険性をより一層高めた」として、原告9人の製薬企業に対する損害賠償請求を認容した。

 その上で、判決は、国及び製薬企業がフィブリノゲン製剤の危険性に関する情報を軽視した結果、原告らが「何らの落ち度がないにもかかわらず、C型肝炎ウイルスに感染し、その結果、深刻な被害を受けるに至った」ことを認めた。そして、高額な治療を受けることが容易でなく、社会の理解がいまだ不十分であるため、肝炎患者が、社会において多大な苦しみを被っていることをも指摘している。
 
 以上から、当会は、国と製薬企業が法的責任に基づき薬害の被害者である原告らを直ちに救済するとともに、全国で350万人ともいわれるウイルス性肝炎患者の被害回復のために、肝炎患者らの訴えに真摯に耳を傾けた上で、治療体制の確立・新薬の開発等の恒久対策を一刻も早く実現するよう求めるものである。

2006年5月12日

教育基本法改正法案を廃案とし,あらためて十分かつ慎重な調査と討議を求める会長声明

2006年(平成18年)5月11日
福岡県弁護士会 会長 羽田野節夫

 政府は、4月28日、教育基本法改正法案を閣議決定して国会に提出した。
 法案は、2003年6月に設置された「与党教育基本法改正に関する協議会」及びその下の「検討会」において、精力的な議論を重ねたうえで取りまとめられたものとされるが、この間、2004年6月に中間報告が公表されたことを除いては、全て非公開にて議論が進められており、国民に向けて開かれた議論が行われたとは言い難い。
 日本弁護士連合会は、去る2月3日、準憲法的な性格を持ち国際条約との間の整合性をも確保する必要性が高い教育基本法については、衆参両院に、教育基本法について広範かつ総合的に調査研究討議を行なう機関としての「教育基本法調査会」を設置し、同調査会のもとで、その改正の要否を含めた十分かつ慎重な調査と討議がなされるよう求める提言を行っている。
 また、当会は、2002年4月、福岡市の小学校6年生の通知表の評価項目に「国を愛する心」の文言を掲げ、愛国心という内心の問題を成績評価を通じて強制することは人権侵害のおそれが強いとして警告を発し、さらに、2003年9月13日、「教育基本法『改正』を問う」市民集会を主催し、講演とシンポジウムを通じて現行法の改正の要否を含めて法案には様々な問題点があることを明らかにしてきた。
 そもそも、教育は、本来人間の内面的価値に関する文化的な営みであって、政治的な立場や利害から中立なものでなければならない。伝えられるとおり、政府・与党内での合意のみで作成された法案であれば、国会での質疑・討論は、時の政治的な立場によって左右され、中立性が損なわれることになりかねない。このような形の法改正は、教育の憲法ともいわれる教育基本法の改正の在り方としては不適切であり、百年の計といわれる教育を根本において誤まらせることになる。
 このように準憲法的性格を有する教育基本法については、現行法の改正の要否を含めた十分かつ慎重な調査と討議を経ることが必要不可欠である。
 以上の観点から、当会は、今回の教育基本法改正法案を廃案とした上,あらためて衆参両院に「教育基本法調査会」を設置して,改正の要否を含めた十分かつ慎重な調査と討議をするよう求めるものである。

以上

少年法等「改正」法案に反対する会長声明

2006(平成18)5月11日
福岡県弁護士会 会長  羽田野節夫

少年法等「改正」法案が,本年2月24日に衆議院に再上程され,5月中旬から審議入りと伝えられている。当会は,昨年6月23日,会長声明を発表し,少年法「改正」法案に反対したところであるが,あらためて以下のとおり反対する。

この改正法案は,
(1)14歳未満の低年齢非行少年に対する厳罰化(少年院送致を可能に)。
(2)触法少年・ぐ犯少年に対する警察官の調査権限の付与(福祉的対応の後退)。
(3)保護観察中の遵守事項を守らない少年に対する少年院収容処分の導入。
などの点において,下記1〜3項に詳論するとおり,少年法の福祉主義の理念を後退させ,保護観察制度の根幹を揺るがす極めて問題ある内容を含むものである。このため,当会は,下記4項で述べる国選付添人制度導入の点を除いて,本法案に強く反対するものである。

              記

1  少年院送致年齢の下限(14歳)の撤廃
そもそも,本法案が想定するような,14歳未満の少年による事件の凶悪化は統計上認められず,この点を厳罰化の根拠とすることはできない。
そして,14歳未満の低年齢の少年が非行を起こす場合の多くは,心身の発達状況や家庭における生育歴などに問題を抱えている場合が多く,とりわけ,重大な事件を犯すに至った低年齢の少年ほど,被虐待体験を含む複雑な生育歴を有し,このため,人格形成が未熟で,規範を理解し受け容れる土壌が育っていないことが多い。その意味で,低年齢の触法少年に対しては,それぞれの少年が抱える問題に応じた個別の福祉的,教育的対応が不可欠であり,そのための専門の施設として児童自立支援施設における処遇が適切であって,これに対して,主として集団的で,かつ,「厳しい規律」を前提とした矯正教育を行っている少年院での処遇は適さない。
児童自立支援施設においては,低年齢の少年に対する福祉的教育的指導を行うべく多大な努力が行われ,かつ,一定の成果を修めているところであるが,仮に現状に問題があるとするなら,まずは,この児童自立支援施設の一層の専門性強化とこれに要する人的物的資源の充実が求められるところであって,性質の異なる少年院に,14歳未満の少年を収容可能とすることで,低年齢少年の非行に対処しようとするのは,本末転倒といわざるを得ない。

2 触法少年・ぐ犯少年に対する警察官の調査権限の付与
そもそも現行法上,触法少年の行為は犯罪ではない。触法少年の特徴は先に指摘したとおりであり,かつ,触法少年は表現能力も劣る。そうした少年に対する調査は,福祉的,教育的な観点から,児童福祉の専門機関である児童相談所のソーシャルワーカーや心理相談員を中心として進め,その実態に迫っていくとともに,適切なケアを図っていくべきである。こうした専門性を有しない警察官に調査権限を認めることは,教育的・福祉的対応を後退させるばかりか,少年を萎縮させ,かえって真実発見に支障を来す結果をもたらす危険が大きい。
また,ぐ犯は犯罪ではなく,一般にぐ犯に該当するか否かの判断は困難である。ところが,さらに本法案は,「ぐ犯である疑いのある者」まで調査対象とするが,そうなると,警察官の調査権限は際限なく広がり,少年に真に必要とされる教育的・福祉的対応が後退すると言わざるを得ない。

3  保護観察中の遵守事項を守らない少年に対する少年院収容処分
現行法においても,保護観察中の遵守事項違反に対しては「ぐ犯通告」制度が存在し,それで対応が十分可能であるし,むしろ,そうすべきである。
非行少年の更生は一朝一夕にはなしえない。少年を取り巻く環境が劇的に変化することも稀である。保護観察は,そうした状況を踏まえながら,少年の自ら立ち直る力を育て,更生させるため,保護観察官と保護司が少年との信頼関係に基づいて,長期的な視点から,少年に対しねばり強く働きかける制度である。そこでは,少年が不都合なことでも,また,ときに遵守事項を破った場合でも,そのことを素直に話せる関係が存在することが必要である。ところが,本法案は,「少年院送致」を威嚇の手段として遵守事項を守るよう少年に求めるものであり,そうした環境では,真実の信頼関係は育たず,かつ,保護観察制度の実質的な変容を迫るものである。
さらに,こうした制度を設けることは,一事不再理ないしは二重の危険の法理に実質的に反するばかりか,いたずらに厳罰化を図るものである。
現行の保護観察制度は相応に機能しているのであって,この制度のさらなる実効性を確保することこそが求められている。そのためには,何よりもまず保護観察官の増員や適切な保護司の確保といった方策が実施されるべきであり,制度の本質を変容させてはならない。

4  全面的な国選付添人制度の実現を
本法案は,ごく限定的ではあるが,従前の検察官関与とは切り離して国選付添人制度を導入している。これは当会が全国の弁護士会に先駆けて実践してきた身柄事件全件付添人活動がここ数年,全国に波及していく中で,これらの実績に基づいて有用性が証明され,国としてもその成果に配慮したことによるものであると確信する。その意味で,国選付添人制度の導入は,我々のこれまでの活動が実を結び,将来の全面的な国費による付添人制度への橋渡しになりうるものとして一定の評価をする。
しかし,その対象事件は極めて限られ,かつ,少年が釈放された場合には国選付添人選任の効力が失われるなど,なお著しく不十分,不適切なものにとどまっている。
我々は,さらに,全面的な国選付添人制度の実現を強く求めるとともに,今後とも,少年付添人活動の一層の充実に努めていく決意である。

以 上

2006年5月 8日

共謀罪の新設に反対する会長声明

2006年(平成18年)5月8日

福岡県弁護士会 会 長 羽田野節夫

1 与党は、本年4月21日、「犯罪の国際化及び組織化並びに情報処理の高度化に対処するために刑法等の一部を改正する法律案」(略称「刑法・組織犯罪処罰法等改正案」。以下「本法案」という)の修正案を衆議院法務委員会に提出し、今国会での成立を期し、5月9日の強行採決をも辞さない姿勢を示している。
2 福岡県弁護士会は、昨年8月31日、会長声明を発表し、本法案第6条の2に規定されている共謀罪について、以下のとおり広範な市民の人権が侵害される危険性を指摘して、その立法化に強く反対してきた。すなわち、
 第一に、犯罪の実行着手前の意思形成段階に過ぎない共謀それ自体を処罰の対象とすることは、現行刑法の大原則である行為主義に真っ向から反している。
 第二に、犯罪の合意そのものを処罰することにより、ひいては思想、信条の自由、表現の自由、集会・結社の自由などの憲法上の基本的人権が重大な脅威にさらされることは避けられない。
 第三に、市民生活の隅々に及ぶ法律に規定されたおびただしい数の犯罪に関する「共謀」が処罰対象とされることになり市民生活は抑圧される。
 第四に、「越境性」や「組織犯罪性」を要件としていない結果、いわゆる越境的組織犯罪集団とは関係のない団体もすべて取締りの対象にすることができる点で極めて危険であり、明らかに不当である。
3 このたびの与党の修正案は、?適用対象団体の活動を「その共同の目的が罪を実行することにある団体である場合に限る」とし、?共謀に加えて、「共謀に係る犯罪の実行に資する行為」を要求し、?思想良心の自由の侵害や団体の正当な活動の制限をしてはならないとの注意規定を設ける、というものである。
  しかしながら、我々は、この修正案についても強く反対せざるを得ない。その理由は、
 第一に、「団体」を国連条約が取締りを求める組織的犯罪集団に限定するものではない点でそもそも不当であるうえ、今回の修正案をもってしても犯罪を謀議したことを根拠に当該団体が「共同目的が罪を実行することにある」と認定される危険性は払拭されず、市民団体が際限なく適用対象となりうる点において、何らの限定にもなっていない。
 第二に、「犯罪の実行に資する行為」という抽象的な概念を付加しても濫用の歯止めにはなり得ないのは明らかであり、行為主義を原則とする現行刑法体系に抵触する点で極めて不当である。
 第三に、たとえ上記?の注意規定をもうけたとしても、そもそも構成要件自体が不明確なのであるから、抑止的効果は期待できない。
 第四に、「共謀」の事実は関係者の供述のみで立証がなされうることから、ひとたび虚偽の供述がなされれば冤罪の発生を止めることは極めて困難で、こうした事態を我々弁護士は強く危惧せざるを得ない。
4 このように、共謀罪の新設は、人権侵害に至る危険性が極めて高く、捜査機関の権限が不当に強化されかねない点において、到底、容認することはできない。
よって、当会は再度その立法化に強く反対し、政府与党に対し、直ちにその立法化を断念するよう求める。
                                               以上

2006年4月10日

未決拘禁法案の廃案を求める会長声明

2006(平成18)年4月10日

福岡県弁護士会 会長 羽田野 節夫


本年3月13日,「刑事施設及び受刑者の処遇等に関する法律の一部を改正する法律案」(いわゆる未決拘禁法案)が国会に提出された。
しかし,同法案には,代用監獄を存続させていること,未決拘禁者の処遇原則として「無罪推定を受ける者にふさわしい処遇」を規定していないこと,未決拘禁者と弁護人との接見や外部交通に不要な制限があること等,多くの問題がある。とりわけ,代用監獄を存続させながら,その廃止の方向性を明示していないことはきわめて重大な問題であると言わざるを得ない。
捜査と拘禁の分離は国際人権法の求めるところであり,勾留中の被疑者・被告人は,捜査機関とは分離された拘置所に拘禁されなければならない。ところが,我が国においては,拘置所の代用として警察の留置場への拘禁が長期間許されてきた。このため警察の留置場は代用監獄と呼ばれ,いまや勾留中の被疑者の98%が代用監獄に留置されている。
代用監獄には,警察の意に沿う被疑者には便宜を与え,否認している被疑者にはいつ食事にありつけるかわからない,いつ房に戻って眠れるか分からないと不安にさせる等,捜査当局が,劣悪な環境の下での身体的拘束・収容を自白強要の手段として利用する実態がある。代用監獄が虚偽自白と誤判を生み出す温床となっていることは,これまでの数多くの冤罪によっても明らかである。死刑再審無罪事件においても,すべて代用監獄において虚偽自白が強制的にとられたことが誤判の最大の原因となっている。本年3月31日に当会が主催した「代用監獄の廃止を求める市民集会」においても,無罪を主張していた被疑者が,代用監獄での長期間におよぶ拘禁期間中に,劣悪な環境の下で,連日10時間以上におよぶ取り調べを受け続け,捜査官より自白を強要された複数の事例が報告された。
このような弊害があるため,代用監獄は,国連の規約人権委員会が2度にわたり廃止に向けた勧告を行う等,国内外から厳しく批判されてきた。
しかるに,同法案は,警察内部での拘禁部門と捜査部門の分離を定めるだけにとどまり,代用監獄はそのまま存続させ,その廃止・漸減への道筋すら展望していない。警察内部において拘禁部門と捜査部門を分離しても,警察が被疑者の拘禁を執行,管理することに変わりはない。そのような方法で捜査のための拘禁の利用という代用監獄の弊害を解消することができないことは,警察庁が捜査部門と留置部門を分離したとする1980年代以降も,代用監獄での自白強要事例が後を絶たないことからして明らかである。
したがって,同法案が代用監獄をそのまま温存させ,その将来的な廃止すら展望していないことに対しては,厳しく批判せざるを得ない。
以上より,当会は,同法案には強く反対し,同法案についは廃案とした上で抜本的な見直しをするよう求めるものである。
       

2006年3月10日

出資法の上限金利の引き下げ等を求める会長声明

声 明 の 趣 旨

 当会は2007(平成19)年1月までに見直しが予定されている貸金業規制法及び出資法の上限金利のあり方について、以下の点を強く求めるとともに、当会として、今後とも多重債務問題の解決のために全力を傾けることを宣言する。
1.出資法の上限金利年29.2%を、少なくとも利息制限法所定の年15ないし20%の制限金利まで引き下げること。
2.貸金業規制法43条のみなし弁済規定を廃止すること
3.出資法の日賦貸金業、電話担保に認められている年54.75%の特例金利を廃止すること

  声 明 の 理 由

 2007(平成19)年1月を目処に行うとされている貸金業制度・出資の受け入れ・預り金及び金利等の取締に関する法律(以下「出資法」という)の上限金利の見直しのための法案が国会に上程される見通しとなっている。2003年(平成15)7月に成立したいわゆるヤミ金対策法(貸金業規制法と出資法の改正法)において2007(平成19)年1月までに貸金業制度及び出資法の上限金利の見直しを行うとの付帯決議がなされたことを背景としている。金融庁においては、昨2005年7月に貸金業制度等に関する懇談会が発足し、現在、金利の見直し等のための検討が行われているところである。
 これに対し貸金業業界は現在、出資法の上限金利を2004(平成16)年6月改正前の40.004%に戻すこと、貸金業規制法43条のみなし弁済規定の要件緩和、同法17条書面、18条書面のIT化(電子メール等の電子的手段によっても交付を認めて、みなし弁済の適用を容易にしようとするもの)等を求めて、国会への要請に力を注ぎ、消費者金融サービス学会に研究費などを提供して上限金利の自由化ないし引き上げを狙っている。殊に、最高裁で平成16年2月20日、みなし弁済規定についての厳格解釈の判断が示された以降、貸金業界は立法によるみなし弁済規定の復活のため、自民党や民主党等の政党に対する働きかけを強めている。また、日本には、GE、CFJ等アメリカ資本の貸金業者も進出しているが、アメリカ政府の対日要求である規制改革要望書の中では、政府に対して貸金業についての書面要件をIT書面に代えることを要求している。

 わが国の大多数の消費者金融は、利息制限法超過の金利で営業を行っているが、その借主は、消費者金融系の信用情報センターの登録件数から考えて全国で約2千万人にも達し、日本の就業人口の3~4人に1人が利用していることになる。ほとんどの借主が、消費者金融の貸付金利年25〜29.2%が暴利行為を規制する利息制限法に違反し、支払う必要のない金利であることを理解しないまま、借り入れし支払いを継続している。業界の発表でも、平均借入期間6.5年、利用者の3割が10年以上利用しているとされている。我々の経験的な理解によれば、利息制限法により再計算をすると6年程度でほとんど残債は残らず、さらに10年継続して利用した場合、ほとんどが過払いになっていると考えられるので、2千万人の3割600万人が支払い義務のない「貸付金」の返済を強要されていることになる。しかもその高利の返済のために、多くの多重債務者が生み出されており、その結果、極めて深刻な事態が発生している。
 ここ3年、自己破産の申立件数は20万件を超え、過去5年で約100万人が自己破産の手続きを取っていて、さらに破産予備軍も200万人にも及ぶと言われている。多重債務を原因とした失業や家庭崩壊や失踪は後を絶たず、更には多重債務による経済苦、生活苦による自殺も多発し、2004(平成16)年には全国で約8千人にも達し、交通事故の死者を上回っている。また、一家無理心中や凶悪な犯罪等も発生している。その上、多重債務者の多くが家賃や固定資産税や国民健康保険料等を滞納しており、自治体財政にも悪影響を及ぼし、保険証がなく医療を受けられない状況や、ホームレスを生み出す等、法治国家である日本において不正義が蔓延している。これらの被害の救済と根絶のためには、現行の出資法・貸金業規制法の改正が不可欠である。
出資法の上限金利は現在年29.2%と定められている。これは超低金利政策が長期間継続されていることに照らすと極めて高い。したがって、これを少なくとも利息制限法所定の年15ないし20%の制限金利にまで引き下げることが必要である(利息制限法所定の利率の引き下げも検討が必要であろう)。
 また多重債務問題の根元にあるのが、利息制限法と出資法のすき間(いわゆるグレーゾーン)を容認する貸金業規制法43条のみなし弁済規定であることは論を待たない。多くの者が支払う必要のない金利であることを理解しないまま、借り入れし支払いを継続して経済的破綻に追い込まれているのである。したがって、これを直ちに廃止することが必要である。
 さらに、出資法で日賦貸金業・電話担保に認められている年54.75%の特例金利についても、かかる立法を基礎づける社会的事実(立法事実)が無いばかりか、この規定が多大なる社会的弊害を生み出していることに鑑みると、これを直ちに廃止することが不可欠である。

 日弁連及び九州弁護士会連合会は、これまで何度も高金利被害を根絶するために、出資法の上限金利を利息制限法まで引き下げること等を求めてきた。最高裁判所において、昨年7月には取引履歴の開示義務が肯定され、12月にはリボルビング方式のみなし弁済の適用が否定され、本年1月13日及び1月19日、期限の利益の喪失約款が利息制限法超過利息の支払を事実上強制しているとして、みなし弁済を否定する判決が下され、更には1月24日、九州で顕著な被害が出ている日賦貸金業者に対する特例金利の適用を事実上否定する判決が出されるなど、司法の分野においては、高金利を否定する判決が相次いで出されている。これを立法及び行政に活かすべきことは、法律制度の改善及び進歩を目的とする弁護士及び弁護士会の責務であると言わなければならない。
 そのためには、人権の擁護と社会正義の実現を目的とする弁護士会が強力な運動によって出資法の上限金利を利息制限法まで引き下げる運動を展開していく必要がある。現在の状況は、弁護士および弁護士会が国民運動を起こさない限り、金利規制の緩和の大きな流れを押しとどめることは不可能である。

 よって、頭書のとおり声明する。

2006(平成18)年3月10日

福岡県弁護士会
   会 長 川  副  正  敏

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