福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画

声明

2007年8月24日

死刑執行に関する会長声明

2007年(平成19年)8月23日

福岡県弁護士会 会長 福島康夫


1 本日、東京拘置所及び名古屋拘置所において3名の死刑が執行された。
  今回の死刑執行は、昨年12月の4名、本年4月27日の3名に続くものである。
2 我が国では、過去において、4つの死刑確定事件(いわゆる免田事件、財田川事件、松山事件、島田事件)について再審無罪が確定している。また、本年4月にも、佐賀県内で3名の女性が殺害されたとされる事件(いわゆる北方事件)で死刑求刑された被告人に対する無罪判決が確定した。このような実例は、死刑事件についても誤判や誤った訴追があることを明確に示している。
  また、死刑と無期刑の選択についても、裁判所の判断が分かれる事例が相次いで出されており明確な基準が存在しない。
  我が国の死刑確定者は、国際人権(自由権)規約、国連決議に違反した状態におかれ、特に過酷な面会・通信の制限は、死刑確定者の再審請求、恩赦出願などの権利行使にとって大きな妨げとなって来た。今般、刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律が施行されたが、未だに死刑確定者と再審弁護人との接見に施設職員の立ち会いが付されるなど、死刑確定者の権利行使が十分に保障されているとは言い難い。
  このような状況のもとで、今回死刑が執行されたことには重大な問題があると言わざるを得ない。
3 国際的にも、1989年(平成元年)に国連総会で採択された死刑廃止条約が1991年(平成3年)7月に発効して以来、死刑廃止が国際的な潮流となっている。すなわち、すでに死刑制度を全面的に廃止した欧州地域をはじめとし死刑廃止国が130か国であるのに対し、死刑存置国は67か国(本年7月31日現在)である。そのような潮流の中で、国連規約人権委員会は、1993年(平成5年)11月4日及び1998年(平成10年)11月5日の2回にわたり、日本政府に対し、死刑廃止に向けた措置をとるよう勧告している。
  国内的にも、1993年(平成5年)9月21日の最高裁判決中の大野正男裁判官の補足意見では、死刑の廃止に向かいつつある国際的動向とその存続を支持するわが国民の意識の整合を図るための立法施策が考えられるべきであるとの指摘がなされている。
4 このような国際的な潮流と国内的な状況を踏まえて、日本弁護士連合会も、死刑制度の存廃につき国民的議論を尽くし、また死刑制度に関する改善を行うまでの一定期間、死刑確定者に対する死刑執行を停止する旨の時限立法(死刑執行停止法)の制定を提唱している。
  当会も、これまで、死刑確定者からの処遇改善や再審援助要請といった人権救済申立事件処理を通じて、死刑制度の存廃を含めた問題に積極的に取組み、死刑が執行されるたびに、会長声明において、死刑執行は極めて遺憾であるとの意を表明し、法務大臣に対し、死刑の執行を差し控えるべきであることの要望も重ねてきた。
5 さらに、2007年(平成19年)5月18日に示された、国連の拷問禁止委員会による日本政府報告書に対する最終見解・勧告においては、我が国の死刑制度の問題が端的に示された。すなわち、死刑確定者の拘禁状態はもとより、その法的保障措置の不十分さについて、弁護人との秘密交通に関して課せられた制限をはじめとして深刻な懸念が示された上で、死刑の執行を速やかに停止すること、死刑を減刑するための措置を考慮すべきこと、恩赦を含む手続的改革を行うべきこと、すべての死刑事件において上訴が必要的とされるべきこと、死刑の実施が遅延した場合には減刑をなし得ることを確実に法律で規定すべきこと、すべての死刑確定者が条約に規定された保護を与えられるようにすべきことが勧告されたのである。我が国の死刑確定者が、同条約上の保護を与えられていないことが明確に指摘され、それゆえ、勧告の筆頭に死刑執行の速やかな停止が掲げられているのであって、その意義は極めて重い。
6 以上述べたように国内的にも国際的にも、日本の死刑制度に対する非難が高まった状況下において断行された今回の死刑執行は、我が国が批准した条約を尊重しないことを国際社会に宣言するに等しい。
7 当会は、今回の死刑執行に関して、法務大臣に対し、極めて遺憾であるとの抗議の意を表明するとともに、更なる死刑の執行を停止するよう強く要請する。

2007年8月20日

割賦販売法改正についての会長声明

産業構造審議会割賦販売分科会基本問題小委員会が本年6月19日に中間整理案を発表した。
この整理案では,従来からの加盟店管理を求める行政指導や業界の自主的取組にもかかわらず,悪質販売業者による高齢者等を狙った強引又は詐欺的な勧誘による被害が多発し,それにクレジット会社が安易に与信をして救済が十分なされないケースが相変わらず発生しているという現状が指摘され,このようなクレジットトラブルの背景にはクレジットシステムの構造的危険性があり,クレジットシステム提供者として一定の責務があるという認識を示している点は十分評価できる。
この整理案で議論されている論点のうち,このようなクレジット被害救済や防止に不可欠な不適正与信の防止,過剰与信防止の2つの論点では複数の意見が併記された形になっており,今後の議論次第ではどのような結論になるのか予断を許さない状況になっている。
当会は,本年6月9日に九州弁護士会連合会との共催でクレジットシンポジウムを開催し,アピールを採択したところであるが,改めてクレジットトラブルを真に救済し防止できるような制度改正が是非とも必要であると考え,この中間整理案の2つの論点について以下のような意見を述べる。


1,不適正与信の防止について
中間整理案で,不適正与信を行ったクレジット事業者に対して経済的不利益をもたらすような何らかの民事ルールが必要であると指摘している点はその通りである。しかしながら,その方策として信義則を拠り所にした過失「損害賠償責任」説と,日弁連が提唱する無過失「共同責任」説が両方紹介されている点については,前者は妥当でなく,あくまで後者こそが妥当であると考える。
  まず,同整理案がクレジットシステムの構造的危険性を指摘し,システム提供者の責務を議論しているところからすると,それで利益を得ているクレジット事業者には被害防止の責任を負わせるべきことが当然導かれるものと考える。
  そして,悪質商法と結びついたクレジット被害の予防・救済の見地からは,現行の抗弁対抗規定(割賦販売法30条の4)だけでは,クレジット事業者が加盟店への与信を適正に行う動機付けとしては不十分であり,既払金の返還という法的効果を定めるべきである。
  その際,消費者側がクレジット会社と加盟店との間の内部事情を知ることは極めて困難であることから,既払金返還に伴ってクレジット会社の故意・過失の証明 を要求すると現実の救済には繋がらないことは明らかであり,過失損害賠償責任説は妥当とは思われない。
  よって,実効的な被害の予防・救済のため,クレジット会社の無過失の共同責任を定めることが不可欠である。


2,過剰与信の禁止について
中間整理案が次々販売等による過剰与信を防止する責務があると指摘している点,信用情報調査による支払能力の調査及びその結果による信用情報機関への登録を義務づけるべきとの指摘はその通りである。
 しかし,現在多発している次々販売等の過剰与信被害を予防するためには,ク レジット会社の明確な過剰与信基準を法律で定めた上で,これに違反したクレジ ット会社に対しては厳しいペナルティを課す必要があると考える。過剰与信基準については,顧客の債務額が一定の基準を超える場合はそれ以上クレジットの利用ができないよう厳しい審査を求めるとともに,販売信用の特性に見合った基準を設けることでバランスをとるべきである。
  また,個々の販売行為が詐欺や特商法違反などに当たらなくとも,高齢者等を狙った著しい過剰与信被害が発生している現状からして,このようなケースを救済するためには,クレジット会社の請求権制限等の民事的効果を明文で定めるべきものと考える。
  当会は,このような割賦販売法の改正が実現されて初めてクレジット被害が根絶され,消費者が真に保護される安全なクレジット社会を構築できるものと考える。その結果として,消費者とクレジット業界双方に利益がもたらされることになり,健全なクレジット社会の発展が実現できると確信する。


3,結論
  以上をふまえ,当会は,割賦販売法の改正においては,下記の制度を設けることを要望する。

 ? 不適正与信による被害の予防・救済のため,クレジット会社の無過失の共同責任を定めること。
 ? 過剰与信による被害を防止するため,クレジット会社の明確な過剰与信基準を定め,かつ,これに違反した場合には,請求権制限等の民事的効果を定めること。


  
                2007年(平成19年)8月8日
                      福岡県弁護士会
                       会 長  福 島  康 夫

2007年8月 8日

死刑執行の停止を求める声明

2007年(平成19年)8月7日
                 
福岡県弁護士会 会長 福島康夫


1 我が国では、過去において、4つの死刑確定事件(いわゆる免田事件、財田川事件、松山事件、島田事件)について再審無罪が確定している。また、本年4月にも、佐賀県内で3名の女性が殺害されたとされる事件(いわゆる北方事件)で死刑求刑された被告人に対する無罪判決が確定した。このような実例は、死刑事件についても誤判や誤った訴追があることを明確に示している。
  また、死刑と無期刑の選択についても、裁判所の判断が分かれる事例が相次いで出されており明確な基準が存在しない。
  我が国の死刑確定者は、国際人権(自由権)規約、国連決議に違反した状態におかれ、特に過酷な面会・通信の制限は、死刑確定者の再審請求、恩赦出願などの権利行使にとって大きな妨げとなって来た。今般、刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律が施行されたが、未だに死刑確定者と再審弁護人との接見に施設職員の立ち会いが付されるなど、死刑確定者の権利行使が十分に保障されているとは言い難い。
  このような状況のもとで直ちに死刑が執行されることは重大な問題があると言わざるを得ない。
2 国際的にも、1989年(平成元年)に国連総会で採択された死刑廃止条約が、1991年(平成3年)7月に発効して以来、死刑廃止が国際的な潮流となっている。すなわち、すでに死刑制度を全面的に廃止した欧州地域をはじめとし死刑廃止国が130か国であるのに対し死刑存置国は67か国(本年7月31日現在)である。そのような潮流の中で、国連規約人権委員会は、1993年(平成5年)11月4日及び1998年(平成10年)11月5日の2回にわたり、日本政府に対し、死刑廃止に向けた措置をとるよう勧告している。
  国内的にも、1993年(平成5年)9月21日の最高裁判決中の大野正男裁判官の補足意見では、死刑の廃止に向かいつつある国際的動向とその存続を支持するわが国民の意識の整合を図るための立法施策が考えられるべきであるとの指摘がなされている。
3 このような国際的な潮流と国内的な状況を踏まえて、日本弁護士連合会も、死刑制度の存廃につき国民的議論を尽くし、また死刑制度に関する改善を行うまでの一定期間、死刑確定者に対する死刑執行を停止する旨の時限立法(死刑執行停止法)の制定を提唱している。
  当会も、これまで、死刑確定者からの処遇改善や再審援助要請といった人権救済申立事件処理を通じて、死刑制度の存廃を含めた問題に積極的に取組み、死刑が執行されるたびに、会長声明において、死刑執行は極めて遺憾であるとの意を表明し、法務大臣に対し、死刑の執行を差し控えるべきであることの要望も重ねてきた。
4 しかし、日弁連や当会の度重なる要請にもかかわらず、死刑執行が繰り返されて来たが、最近の社会の重罰化傾向も反映してか死刑確定者数が100名を超える事態を迎え、死刑執行が急がれているとの印象も免れない。
  長勢甚遠法務大臣は、就任後の記者会見で「確定した裁判の執行は厳正に行われるべきものである」から「法の規定に沿って判断して行きたい」と発言し、昨年12月には4名、本年4月27日には3名の死刑執行を行った。
5 2007年(平成19年)5月18日に示された、国連の拷問禁止委員会による日本政府報告書に対する最終見解・勧告においては、我が国の死刑制度の問題が端的に示された。すなわち、死刑確定者の拘禁状態はもとより、その法的保障措置の不十分さについて、弁護人との秘密交通に関して課せられた制限をはじめとして深刻な懸念が示された上で、死刑の執行を速やかに停止すること、死刑を減刑するための措置を考慮すべきこと、恩赦を含む手続的改革を行うべきこと、すべての死刑事件において上訴が必要的とされるべきこと、死刑の実施が遅延した場合には減刑をなし得ることを確実に法律で規定すべきこと、すべての死刑確定者が条約に規定された保護を与えられるようにすべきことが勧告されたのである。我が国の死刑確定者が、同条約上の保護を与えられていないことが明確に指摘され、それゆえ、勧告の筆頭に死刑執行の速やかな停止が掲げられているのであって、その意義は極めて重い。
  参議院選挙を終えて、今また、新たな死刑執行が危惧されるが、死刑の執行は、我が国が批准した条約を尊重しないことを国際社会に宣言するに等しい。
6 このような状況を踏まえ、当会は、法務大臣に対し、死刑確定者106名(本年8月2日現在)に死刑が執行されないよう強く要請する。

2007年7月19日

刑事弁護における弁護人の責務についての理解と弁護活動の自由の確保を求める声明

広島高等裁判所に係属中の殺人事件(いわゆる「光市母子殺害事件」)に関して、先日、日本弁護士連合会宛に「元少年(被告人)を死刑に出来ぬなら、元少年を助けようとする弁護士たちを処刑する」などと記載された脅迫文書が届き、さらに同様の脅迫文書が新聞各社にも届いたとのことである。
 憲法第37条3項は「刑事被告人は、いかなる場合にも、資格を有する弁護人を依頼することができる」とし、国連の「弁護士の役割に関する基本原則」(以下「基本原則」という)も、「すべて人は、自己の権利を保護、確立し、刑事手続きのあらゆる段階で自己を防御するために、自ら選任した弁護士の援助を受ける権利を有する」(第1条)と定めている。このような被告人の権利は、刑事裁判において被告人に十分に防御の機会を与えることによって被告人に対し適正な裁判を受ける権利を保障するものであって、歴史的に確立されてきた大原則である。
 弁護人は、被告人のこのような権利を守るために最大限の努力をする責務を負っている。
 ところが、今回の日本弁護士連合会や弁護人に対する脅迫行為は、被告人が弁護人の援助を受ける権利を否定し憲法の保障する適正手続きを根幹から揺るがす行為である。
 基本原則16条も「政府は、弁護士が脅迫、妨害、困惑あるいは不当な干渉を受けることなく、その専門的職務をすべて果たし得ること、自国内及び国外において、自由に移動し、依頼者と相談し得ること、確立された職務上の義務、基準、倫理に則った行為について、弁護士が、起訴、あるいは行政的、経済的その他の制裁を受けたり、そのような脅威にさらされないことを保障するものとする」と定めている。
 当会は、今回の脅迫行為に強く抗議する。
 さらに、当会は、こうした弁護士や弁護活動への妨害や脅迫行為が、被告人の弁護人の援助を受ける権利を否定し適正手続きを保障した憲法の理念に反するという認識を広く市民と共有できるよう最大の努力をするとともに、刑事弁護における弁護人の責務について理解を求め弁護活動の自由を確保するために、全力を尽くす決意である。

2007年(平成19年)7月18日
              福岡県弁護士会
              会  長  福  島  康  夫

生活保護の適正な運用を求める声明

 本年7月10日、北九州市小倉北区で52歳の男性が自宅で死後1ヶ月経った状態で発見された。新聞報道によれば、この男性は、昨年12月26日から生活保護を受給していたものの、本人から「辞退届」が出されたということで本年4月10日に保護廃止となったとのことであり、2ヶ月後には孤独死したことになる。
 当会では、昨年、日本弁護士連合会において採択された「貧困の連鎖を断ち切り、すべての人の尊厳に値する生存を実現することを求める決議」を受けて、生活保護をめぐる相談・援助体制を構築するためのプロジェクトチームを発足させるなど、生活保護の運用が適法・適正に行われるよう求める活動に取り組んでいるところである。
 ところが、北九州市では、生活保護申請が認められなかった人が孤独死する事件が相次ぎ、本年5月に生活保護行政検証委員会(第三者機関)が設置され、検証・審議が進められているのであるが、今回またしても救済できたはずの人命を孤独死に至らしめたことは極めて遺憾である。また、新聞報道によれば、北九州市に限らず、「辞退届」を提出させ、保護を打ち切るという運用が全国的に蔓延していることも指摘されているが、生活保護法上、廃止を行いうる場面は限定されていることからして、非常に問題のある運用と言わざるを得ない。
 生活保護はあらゆる社会保障制度の中でも最後の砦ともいうべき制度であり、対象者の生命にかかわる問題であるから、一度は要保護性が認められた者の保護を廃止するにあたっては、特に慎重な調査が要求されることは言うまでもない。
 すなわち、たとえ「辞退届」なる書面が提出されたとしても、それが任意かつ真しな意思に基づくものでなければ、生活保護を廃止する理由とはなり得ない。広島高裁(2006(平成18)年9月27日判決)も、要保護状態が解消したのか否かについて必要な調査を行わないまま自立の目途があるとして提出させた辞退届は錯誤によるもので無効であるとした上で、廃止は保護受給権を侵害するとして東広島市の不法行為責任を認めている。
 新聞報道によれば、男性は「働けないのに働けと言われた」等と日記に記していたとのことであり、「辞退届」が真意に基づくものでなかった可能性が強く、小倉北福祉事務所が、男性に自立するための仕事や収入源があるか否かについて慎重な調査確認を行ったとは考えられない。
 報道が事実であるとすれば、このような運用は、人の生きる権利を奪うものであって、生存権を保障する憲法25条に照らしても、絶対に容認できるものではない。
 当会は、北九州市に対し、再びこのような事件が起きることのないよう、早急に徹底的な真相解明を行うよう求めるとともに、生活保護制度の適法・適正な運用のための具体的な改善策を直ちに講じることを強く求めるものである。

2007(平成19)年7月18日
                 福岡県弁護士会
                   会 長   福  島  康  夫

2007年6月22日

犯罪被害者刑事手続参加制度に関する法律成立に抗議する声明

2007年(平成19年)6月21日
                  
福岡県弁護士会 会長 福島康夫

 昨日、国会において「犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事訴訟法等の一部を改正する法律」が成立した。この法律は、裁判員裁判対象事件や業務上過失致死傷等の事件について、裁判所に参加を申し出た被害者やその遺族に対し、公判への出席、情状に関する事項についての証人に対する尋問、被告人質問、証拠調べ終了後の求刑を含む弁論としての意見陳述を認める制度であるが、当会は、本年3月8日及び同6月6日の二度にわたって、この創設に反対する会長声明を発した。
 にもかかわらず、同法が成立したことは誠に遺憾であり、強く抗議の意を表明する。
 同法に定められた犯罪被害者参加制度には、
 (1)真実の発見に支障をきたす
 (2)法廷を報復の場にしてしまうのみならず無罪推定の大原則を根本的にゆるがし近代刑事司法の基本構造を根底からくつがえす
 (3)被告人の防御権の行使を困難にする
 (4)少年の刑事事件ではさらに深刻な萎縮効果を及ぼし適正手続きに反する事態を生じる
 (5)事実認定に悪影響を及ぼし裁判員制度が円滑に機能しなくなるおそれもある
などの重大な問題があり、この制度は、我国の刑事裁判に対し、看過し得ない重大な悪影響を及ぼすものである。
 当会は、今後、政府及び国会におかれて、以上のような同法の重大な問題点を徹底的に究明され、裁判員裁判が実施される前に同法の抜本的な改正がなされることを強く求めるものである。

2007年6月 7日

被害者の参加制度関連法案衆議院可決にあたっての声明

2007年(平成19年)6月6日
                 
福岡県弁護士会 会長 福島康夫

 衆議院は、2007年(平成19年)6月1日、「犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事訴訟法等の一部を改正する法律案」(以下「法案」という)を可決し、参議院に送付した。
 この法案は、裁判員裁判対象事件や業務上過失致死傷等の事件について、裁判所に参加を申し出た被害者やその遺族に対し、公判への出席、情状に関する事項についての証人に対する尋問、被告人質問、証拠調べ終了後の求刑を含む弁論としての意見陳述を認めるものであるが、当会は、この法案の定める犯罪被害者等の刑事手続参加制度(以下「被害者参加制度」という)には、次のような問題があり、その創設に反対するものである。
(1)法廷を報復の場にしてしまい近代刑事司法の基本構造を根底からくつがえすことになる。
  わが国では、検察官が訴訟遂行を独占する仕組みをとっている。これは、犯罪被害者やその遺族(以下「被害者等」という)による私的報復を禁止し国家が加害者を処罰することによって、被害者等と加害者との報復の連鎖を防いで社会秩序の安定を図ろうとするものである。それによって、被害者等は加害者の再報復から守られることにもなる。
  したがって、現行法上、被害者等の意見や処罰感情等は、公益的立場である検察官を通じて理性的に訴訟手続に反映させることが予定されている。
  ところが、今回衆議院で可決された法案は、刑事訴訟手続の場に私的復讐を持ち込み、報復の連鎖を招く危険性が高い。
  このことは、無罪推定原則に基づき裁判官の予断と偏見を可能な限り排除しようとする近代刑事司法の原則にも反することになる。
(2)被告人の防御権の行使を困難にし真実の発見に支障をきたす。
  近代刑事司法は、被告人に十分な防御の機会を保障することによって、真実を発見し適正な量刑を行なおうとするものである。
  ところが、被害者等が被告人と法廷で対峙し被告人が被害者側からの感情も交えた厳しい追及にさらされることになれば、被告人は萎縮してしまい自らの正当な反論もできなくなる可能性がある。
  さらに、被害者等が不意打ち的な訴訟遂行を行うことも予想され、被告人側は、これら全てに対して防御することを余儀なくされ、防御すべき対象、争点の拡大がもたらされる可能性もある。
  このような事態は、被告人の防御活動を著しく困難にし真実の発見と適正な量刑にも支障をきたすことになる。
(3)少年の刑事事件ではさらに深刻な萎縮効果を及ぼし適正手続きに反する事態を生じる。
  上記のような事態は、被告人が、心身ともに成長過程にあって精神的・心理的に未発達な少年の場合には、さらに深刻である。
(4)裁判員制度に悪影響を及ぼすおそれもある。
  以上のような事態は、2009年(平成21年)から実施が予定されている裁判員裁判にも重大な悪影響を及ぼす可能性がある。
  すなわち、被害者等を訴訟に参加させ感情的な訴訟活動を法廷に持ち込めば、市民たる裁判員は目の前の被害者等の感情的な訴訟活動に混乱し、過度に影響を受けて冷静かつ理性的な事実認定が困難になり、かつ、量刑においても過度に重罰化に傾くことは容易に予想される。

 以上のように、被害者参加制度は、刑事裁判に対し、その本質に照らし看過し得ない悪影響を及ぼすものである。そのため、犯罪被害者等の中にも「被告人から落ち度を指摘されたり、その場限りの謝罪を受けたりして被害者が傷つく」「声を上げられない被害者が見落とされる」「法廷が復讐の場になれば憎悪の気持ち、苦しみも増すだけ」などという意見が出されている。
 このように刑事裁判の根幹に関わる重要な制度改革をわずか2週間程度の審議で決定するのはあまりに拙速過ぎ、慎重さを欠いている。
 なお、この法案には3年後に見直すとの条項が盛り込まれはしたが、法案に含まれる根本的な問題は単なる見直しでは解消できるものではない。
 当会は、犯罪被害者等の支援が重要であることを十分に認識し、これまでもそのような活動に取り組んできたし今後も取り組む所存である。しかし、以上のような問題をもった被害者参加制度の創設についてはこれを認めることはできない。
 当会は、本年3月8日に被害者参加制度の創設に反対する会長声明を発したところであるが、今回、衆議院において慎重さを欠いた法案の可決がなされたことは誠に遺憾であり強く抗議する。参議院におかれては、法案の問題性を十分に認識したうえで慎重に審議されるよう求めるものである。

2007年5月16日

少年法等「改正」法案に反対する会長声明

 本年4月19日,衆議院において,少年法「改正」法案(与党修正案)が可決され,現在,参議院において,審議が進められている。与党修正前の少年法「改正」法案に対して,当会は,平成17年以来,2度にわたって会長声明を発表し,少年法「改正」法案に反対したところであるが,以下の1から3までに記載のとおり重大な問題があり,あらためて,この「改正」法案(与党修正案)に対して反対するものである。


1 おおむね12歳以上という下限を示しながらも,14歳未満の低年齢非行少年の少年院送致を可能にするという厳罰化を定めていること
  そもそも,少年院は,一定の人格形成がなされていることを前提とし,主として集団的で,かつ,「厳しい規律」を前提とした矯正教育を行う施設である。ところが,14歳未満の低年齢の少年が非行を起こす場合の多くは,心身の発達状況や家庭における生育歴などに問題を抱えている場合が多く,とりわけ,重大な事件を犯すに至った低年齢の少年ほど,被虐待体験を含む複雑な生育歴を有し,このため,人格形成が未熟で,規範を理解し受け容れる土壌が育っていないことが多い。このような低年齢の触法少年に対しては,それぞれの少年が抱える問題に応じた個別の福祉的,教育的対応が可能な児童自立支援施設における処遇が適切である。
  少年院送致の年齢の引き下げよりも,児童自立支援施設の一層の専門性強化とこれに要する人的物的資源の充実が求められるところである。


2 触法少年に対する警察官の調査権限を付与していること
  そもそも現行法上,触法少年の行為は犯罪ではなく,警察官による調査になじむものではない。
  触法少年の特徴は先に指摘したとおりであり,そうした少年に対する調査は,福祉的,教育的な観点から,児童福祉の専門機関である児童相談所のソーシャルワーカーや心理相談員を中心として進め,その実態に迫っていくとともに,適切なケアを図っていくべきである。


3 保護観察中の遵守事項を守らない少年に対する少年院収容処分を導入していること  現行法においても,保護観察中の遵守事項違反に対しては「ぐ犯通告」制度が存在し,現行の保護観察制度は相応に機能している。
  ところが,本法案は,「少年院送致」を威嚇の手段として遵守事項を守るよう少年に求めるものであり,そうした環境では,真実の信頼関係は育たず,かつ,保護観察制度の実質的な変容を迫るものである。
  むしろ,保護観察官の増員や適切な保護司の確保といった現行の保護観察制度の充実をはかるべきである。


4 なお,本法案は,ごく限定的ではあるが,従前の検察官関与とは切り離して国選付添人制度を導入し,少年が釈放されたときにも国選付添人選任の効力が失われなくなったとの修正が入ったことは評価できる。  これは,当会が全国の弁護士会に先駆けて実践してきた身柄事件全件付添人活動が,ここ数年,全国に波及していく中で,これらの実績に基づいて有用性が証明され,国としてもその成果に配慮したことによるものであると確信する。その意味で,国選付添人制度の導入は,我々のこれまでの活動が実を結び,将来の全面的な国費による付添人制度への橋渡しになりうるものとして一定の評価をする。
  我々は,さらに,全面的な国選付添人制度の実現を強く求めるとともに,今後とも,少年付添人活動の一層の充実に努めていく決意である。


2007(平成19)年5月16日

福岡県弁護士会 会長  福島 康夫

2007年5月14日

憲法改正手続法の成立についての声明

2007年5月14日

福岡県弁護士会 会長 福島康夫


本日、参議院において、「日本国憲法の改正手続に関する法律案」が可決され、成立した。本年4月13日の衆議院可決からわずか1か月という早期の成立であり、参議院において慎重な審議がなされたとは言えない。
 国民投票法案に対し、当会は、2006年12月には意見書を、2007年3月と同年4月には声明を発表し、同法案には下記のような多くの問題点が含まれていることを指摘して慎重な審議を求めてきた。
 他方で、5月7日にはここ福岡において地方公聴会が実施されたが、一般の国民が公述人に応募したり自由に傍聴できるものではなく、当該公聴会が広く主権者たる国民の意見を反映する機会となったとは言い難い。また、当該公聴会における公述人の発言から、未だ、同法の内容について国民の理解が進んでいるとは言えないことも明らかになったところである。
 本日成立した国民投票法は、?罰則は削除したものの、主権者である公務員や教育者の地位利用による国民投票運動を禁止しており、制約しなくてもよい主権者としての意見表明の自由を広範に制約していること、?憲法改正案の広報を行う国民投票広報協議会の構成が、所属議員の比率によって選任されるため、国民に対して反対意見が公正かつ十分に広報されないおそれが強いこと、?国会の発議から国民投票までの期間がわずか60日ないし180日とされているため、重要な争点について国民がじっくり考えて意見を持つ時間が保障されていないこと、?過半数の賛成の対象が全有権者となっておらず、また最低投票率の定めすらないことなど、主権者である国民の「承認」を得るという点では重大な問題を残している。このことは、参議院の日本国憲法に関する調査特別委員会において、18項にも上る附帯決議がなされ、今後も検討することとされたことからも明らかである。
 当会としては、同法が、内容に多くの問題を残し、国民の理解も進まないまま、慎重な審議を欠いて成立したことにつき、遺憾の意を表明するものであり、併せて、国会に対し、この3年の間に、付帯決議がなされた事項にとどまらず、国民投票に国民の意思を反映することができるように、同法を抜本的に見直すことを強く要望するものである。
   以上

2007年4月27日

死刑執行に関する会長声明

2007(平成19年)年4月27日

福岡県弁護士会 会長 福島康夫


1 本年4月27日、福岡拘置所の死刑囚を含む3名に対する死刑が執行された。
 日本弁護士連合会は、2002年(平成14年)11月の「死刑制度問題に関する提言」及び2004年(平成16年)10月の人権擁護大会決議に基づき、法務大臣あてに死刑執行停止に関する要請をしている。
 当会でも、九州弁護士会連合会と共に、2004年(平成16年)9月4日、「アジアにおける死刑―死刑廃止の胎動」と題して日弁連人権擁護大会に向けたプレシンポジウムを開催し、隣国の韓国及び台湾(中華民国)が死刑廃止立法に向けた確かな歩みをしている事例を紹介し、日本においても死刑廃止を含めた死刑制度の国民的議論の必要性を喚起してきた。
2 わが国での死刑執行は、1989年(平成元年)11月から1993年(平成5年)3月まで3年以上にわたって控えられていた。
 ところが、その後死刑執行が再開され、今回の執行を含め13年9ヶ月の間に、その被執行者数の累計は54名にも及ぶ。
 しかし、わが国では、4つの死刑確定事件(免田・財田川・松山・島田各事件)について再審無罪判決が確定し、死刑判決にも誤判が存在したことが明らかとなっている。
 そもそも、国際的には、1989年(平成元年)に国連総会において採択された死刑廃止条約が、1991年(平成3年)7月に発効して以来、死刑廃止が国際的な潮流となっている。その中で、1993年(平成5年)11月4日及び1998年(平成10年)11月5日の2回にわたり、国連規約人権委員会は、日本政府に対し、死刑廃止に向けた措置をとるよう勧告している。
 国内的にも、1993年(平成5年)9月21日の最高裁判決中の大野正男裁判官の補足意見では、死刑の廃止に向かいつつある国際的動向とその存続を支持するわが国民の意識の整合を図るための立法施策が考えられるべきであるとの指摘がなされている。それにもかかわらず、その後十分な議論が尽くされないまま死刑執行が繰り返されてきた。
3 このような国際的な潮流と国内的な状況を踏まえて、当会は、これまで、死刑確定者からの処遇改善や再審援助要請といった人権救済申立事件処理を通じて、死刑制度の存廃を含めた問題に積極的に取組んできた。
 そこで、当会は、これまで、しばしば、当会会長声明において、死刑執行に対して極めて遺憾であるとの意を表明し、法務大臣に対し、死刑の執行を差し控えるべきであることの要望を重ねてきた。
4 にもかかわらず、死刑制度存廃につき国民的議論が尽くされないまま、死刑の執行が繰り返されてきたのはまことに遺憾である。
 当会は、今回の死刑執行に関して、法務大臣に対し、極めて遺憾であるとの抗議の意を表明するとともに、更なる死刑の執行を停止するよう強く要請する。

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