福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画

声明

2013年11月22日

改めて生活保護法改正法案の廃案を求める会長声明

2013年(平成25年)11月13日、「生活保護法の一部を改正する法律案」(以下「新改正案」という。)が参議院本会議で可決された。

当会は、2013年(平成25年)6月7日、5月17日に閣議決定された「生活保護法の一部を改正する法律案」(以下「旧改正案」という。)について、「生活保護法改正法案の廃案を求める会長声明」を公表し、厳格な要式行為の追及による生活保護申請の事実上の拒否(いわゆる「水際作戦」)を合法化し、単なる優先関係に過ぎない扶養義務の履行を迫ることによる保護申請への萎縮化を招来するという看過しがたい重大な問題があることから、その廃案を求め、旧改正案については、批判の高まりの中2013年(平成25年)6月26日の第183回通常国会の閉会に伴い廃案となったが、今国会において、再度審議されているところである。

審議の過程において政府は、申請の際に申請書及び添付書類の提出を求める改正法24条については、(1)従前の運用を変更するものではなく、申請書及び添付書類の提出は従来どおり申請の要件ではない、(2)福祉事務所等が申請書を交付しない場合もただし書の「特別の事情」に該当する、(3)給与明細等の添付書類は可能な範囲で提出すればよく、紛失等で添付できない場合もただし書の「特別の事情」に該当する旨答弁した。また、扶養義務者に対する通知義務の創設や調査権限の拡充を定めた改正法24条8項、28条及び29条については、明らかに扶養が可能な極めて限定的な場合に限る趣旨である旨答弁し、以上両趣旨を厚生労働省令等に明記し、保護行政の現場に周知する旨繰り返し答弁してきた。

しかし、改正法の法文が一人歩きし、違法な「水際作戦」がこれまで以上に、助長、誘発される危険性が払拭されたとは到底言い難い。当会では、2006年(平成18年)、北九州市で孤独死していた56歳の独居男性が、生前二度にわたって申請意思を明確に表示していたにもかかわらず、福祉事務所から、子どもに援助してもらうようにと言われて申請を違法に拒まれていた事件も起きている。このような改正法の施行によって、生活保護の利用が抑制され、餓死・孤立死・自殺等の悲劇が増加する事態が強く懸念される。

当会は、憲法上保障された生存権が現実に市民に保障される社会となることをめざし、平成21年度から生存権の擁護と支援のための緊急対策本部を設け、多数の会員が登録する「生活保護支援システム」によって生活保護申請同行など生活保護法の適法な運用を求める活動を行ってきた。当会の立場からは、保護申請権ひいては生存権を侵害するおそれの大きい改正法案は到底容認することができない。

よって、当会は、改正法案について即時の廃案を改めて求めるものである。

2013年(平成25年)11月22日

福岡県弁護士会
会長 橋本 千尋

福岡拘置所小倉拘置支所の建て替えに関する要望書

平成25年11月21日

内閣総理大臣 安倍 晋三 殿
法務大臣 谷垣 禎一 殿
法務省矯正局長 西田  博 殿
法務省福岡矯正管区長 横尾 邦彦 殿

福岡県弁護士会
会 長 橋 本 千 尋
福岡県弁護士会北九州部会
部会長 荒 牧 啓 一

福岡拘置所小倉拘置支所の建て替えに関する要望書

第1 はじめに

1 現在の福岡拘置所小倉拘置支所(以下,「小倉拘置支所」という。)は,監獄法(施行日,明治41年10月1日)に基づいて昭和35年に建築された施設であり,既に築後50年以上を経過しているため,建物や施設の老朽化は著しく,未設拘禁者の無罪推定の原則や基本的人権を保障するにふさわしい施設とは言えず,未決拘禁者の防御権や弁護人の弁護権にも支障をきたすという事態が生じている。

2 小倉拘置支所建て替え後の新拘置所をどのような施設にするかは,未決拘禁者の基本的人権や防御権の保障,弁護人の弁護権の保障と密接に関連する。

すなわち,未決拘禁者は,無罪推定を受ける者であり,刑事手続のために身体拘束される他は,一般市民と同様の立場にあることから,未決拘禁者には,拘置所内においても,できる限り一般市民と同様の生活が保障されなければならない。そのためには,新拘置所においては,未決拘禁者の人格を尊重した待遇を行い,その心情の安定を図る必要があり,十分な人的・物的設備を整える必要がある。

また,新拘置所においては,未決拘禁者の防御権や弁護人の弁護権が侵害されることがあってはならず,未決拘禁者の防御権や弁護人の弁護権に十分配慮された施設にする必要がある。

3 そして,新拘置所は,憲法及び刑事訴訟法の精神にふさわしい,現在の人権基準を十分に満たすような施設とする必要があることは言うまでもないが,新拘置所は少なくとも半世紀は利用されることから,単に現在の人権水準を満たす施設とするだけでは不十分であり,50年先の人権水準をも見据えた最先端の施設を築く必要がある。

そのためには,現在軽視されている未決拘禁者の基本的人権の保障に配慮することは当然であるが,それにとどまらず,面会に来る一般市民の利便性や,新拘置所の周辺環境との調和,環境問題への配慮等も盛り込んだ施設とすることが必要である。

4 そこで,当会は,新拘置所を建築するにあたって,無罪の推定を受ける未決拘禁者の基本的人権や防御権,弁護人の弁護権に最大限配慮した施設にするともに,一般市民の利便性,地域との調和,環境問題等にも十分配慮された新拘置所を建築することを強く要望する次第であり,そのために必要と考える具体的な要望事項を以下において述べる。

第2 要望事項

1 未決拘禁者の基本的人権保障・生活環境の改善について

(1)未決拘禁者と既決囚の居住スペースの区別

未決拘禁者と既決囚の居住スペースを別の階にする等,未決と既決を明確に区別する措置を講じることを要望する。

未決拘禁者には無罪推定の原則が及ぶことから,既に有罪判決を受けた既決囚とは明確に区別する必要があるため,未決拘禁者と既決囚の居住スペースを別の階にする等,居住スペースを明確に区別する措置を講じることを求める。

(1)未決拘禁者の居住スペース内の環境について

未決拘禁者の居住スペース内の日当たりと風通しを十分確保するよう配慮し,また,居住スペース内から自然環境等,外の景色が見えるように配慮することを要望する。

未決拘禁者の基本的人権を保障し,その心情の安定を図るためには,居住スペース内の日当たりや風通し等の環境に十分に配慮する必要がある。未決拘禁者は,刑事裁判を控えながら,一日の大半の時間を狭い居住スペース内で過ごすのであり,その環境が未決拘禁者の心情に与える影響は大きい。窓の外に,木々草花等の自然や周囲の風景を見ることができるだけでも,未決拘禁者の社会からの隔絶感・疎外感を和らげることができ,その心情の安定をもたらすことができるのである。

(3)未決拘禁者の居住スペースの広さ等について

決拘禁者は原則として独居房に収容すべきであり,そのために独居房を増設することを要望する。

現在の未決拘禁者の居住スペースは狭すぎるため,現状よりも広くすることを要望する。

未決拘禁者は無罪推定の原則の適用を受ける者であり,できる限り一般市民と同様の生活ができるように配慮されなければならない。未決拘禁者が,他者と同室で生活をする場合には,著しいストレスを強いることとなるため,原則として独居房に収容すべきであり,そのためには,独居房の増設が必要である。

また,現在の居住スペースは,未決拘禁者の生活環境として十分な広さが確保されているとは言えないため,無罪推定を受ける未決拘禁者の地位にふさわしい一定の広さを確保することを求める。

(4)未決拘禁者の居住スペース内の設備(冷暖房設備・トイレ)について

冷暖房設備を設置し,個々の居住スペース内において温度管理  ができるようにすることを要望する。

居住スペース内のトイレについて,看守から見えない位置に個室のトイレを設置するとともに,洋式(ウォシュレット付)にすることを要望する。

未決拘禁者は無罪推定を受ける者であり,できる限り一般市民と同様の生活ができるように配慮すべきであるから,冷暖房設備を設置し,個々の居住スペース内において温度管理ができるようにすべきである。

また,現在の居住スペース内のトイレは,看守から見える位置に壁等で仕切られることなく設置されているため,未決拘禁者のプライバシーや羞恥心が著しく侵害されており,居住スペース内に個室のトイレを設置することを要望する。個室であっても,壁上部を透明にするなどして,看守から上半身が確認できるようにすれば,未決拘禁者の監視においても特に問題が生じることはないはずである

さらに,衛生上の観点からは,トイレは,和式でなく洋式(ウォシュレット付)の方が望ましい。

(5)未決拘禁者の心情の安定を図るための各種施設について

未決拘禁者が一定の範囲内を自由に行動して,他者とのコミュニケーションを図ることができるよう,テレビ等の設備を設けた談話室を設置することを要望する。

未決拘禁者が自由に読書ができるための図書館を設置するとともに,未決拘禁者が他者と一緒に食事するための食堂を設置することを要望する。

未決拘禁者は無罪推定を受ける者であり,できる限り一般市民と同様の生活ができるように配慮すべきである。

我々一般市民は,昼夜とも一人で生活をするのではなく,昼間は外で活動して他者とのコミュニケーションを図り,夜には帰宅して就寝するという生活を送っているところ,未決拘禁者は,ほぼ終日居住スペース内に収容され,誰ともコミュニケーションをとれない状態にあるというのは,未決拘禁者に大きな精神的ストレスを与える。

そこで,新拘置所においては,未決拘禁者が他者とのコミュニケーションを図ることを可能にするためのテレビ等がある談話室を設置することを求める。また,未決拘禁者が本を自由に探せる図書館を設置して,一般市民と同様の権利を保障する必要がある。

さらに,現在,未決拘禁者は狭い居室内で食事をとらざるを得ない状況であるが,広い場所で他者と会話しながら食事をとる方が未決拘禁者の心情の安定に資することから,食堂を設置し,そこで食事をとることを可能にすべきである。

(6)運動スペースについて

現在の運動スペースは狭すぎるため,現状よりも広くすることを要望する。雨天時でも運動を可能とすべく,屋上運動スペースには手動の開閉式の屋根を設置するとともに,複数の未決拘禁者が同時に運動できる十分な広さを持った体育館のような屋内運動スペースを設置することを要望する。

未決拘禁者は無罪推定を受ける者であり,できる限り一般市民と同様の生活ができるように配慮すべきである。

現在の小倉拘置支所の運動スペースはあまりに狭く,可能な運動も限られている状況であり,未決拘禁者にとって十分な運動環境が整っているとは言えない。

また,現在は屋上に設置された運動スペースしかないため,雨天時には運動することができず,雨天が続けば,事実上運動が不可能となるため,未決拘禁者の運動する機会が十分に確保されていない。

そこで,現在の運動スペースをより広くするとともに,運動スペースに手動で開閉可能な屋根を設置することで,多少の風雨であっても運動をすることが可能にすべきである。

また,雨天でも運動をすることが可能な十分な広さのある体育館のような多目的な屋内スペースを設置するよう求める。そうすることで雨天でも運動を行うことが可能となるとともに,レクリエーション等を行うことにより,未決拘禁者の心情の安定を図ることが可能となる。

(7)浴室について

現在の共同浴槽では,複数の者が同じ浴槽に入ることとなり不衛生なため,浴槽に自動濾過装置を設けることを要望する。

個別の浴室・浴槽を設けるとともに,シャワー室を現状より増設し,未決拘禁者の入浴の機会を増やすことを要望する。

未決拘禁者は無罪推定を受ける者であり,できる限り一般市民と同様の生活ができるように配慮すべきである。

現在の共同浴槽は,複数の者が同じ浴槽に入ることとなり,入浴の順番が後になるにつれ,浴槽内のお湯が汚れ,未決拘禁者は不衛生な入浴環境を強いられている。そのため,共同浴室については,浴槽に自動濾過装置を設け,浴槽内のお湯を常に衛生的に保つ必要がある。

また,個別浴室・浴槽を設け,未決拘禁者は個別の浴室・浴槽を原則とするとともに,シャワー室を現状よりも増設することにより,未決拘禁者の入浴の機会を増やす必要がある。

(8)施設内の設備・備品について

拘置所内にエレベーターを設置することを要望する。

高齢の未決拘禁者や身体に障害のある未決拘禁者の拘置所内における移動にも十分に配慮する必要があり,そのためには拘置所内にエレベーターを設置することが必要不可欠である。

(9)拘置所内の医療設備の充実について

診察室,検査設備,手術室等の拘置所における内部医療設備を整えるとともに,常勤の医師又は非常勤の派遣医師を配置することによって,内部診療の充実を図ることを要望する。

未決拘禁者は無罪推定を受ける者であり,できる限り一般市民と同様の医療サービスを受けることができるように配慮すべきである。

未決拘禁者が拘置所に収容されているために,必要な治療を受けることができず,病状の悪化を招く等の事態は絶対にあってはならない。

健康の保持は,未決拘禁者の基本的人権の保障において最も基本となる事柄であるため,早急に,拘置所内の医療設備の充実及び医師等の医療スタッフの十分な人員配置を行う必要がある。

2 弁護人の弁護権の保障について
(1)接見室の数について

接見室を現状の3室から5室に増設することを要望する。

弁護人4~5名程度が着席できる広さの接見室を2室設置することを要望する。

現在,弁護士数の増加に伴い,接見室が全て使用中となっていることも少なくなく,待ち時間が長時間に及ぶことがある。

弁護士は時間に制約のある中で接見に赴いており,待ち時間が長くなると,その後の予定のために接見時間を短縮せざるを得なかったり,接見自体を断念せざるを得ないという事態も生じている。

このような状況は,弁護人の弁護権の保障に著しい支障をきたすものであり,早急に改善する必要がある。

また,今後も弁護士数の増加が見込まれることからすると,現状の接見室数では,数十年後には接見室不足の問題はさらに深刻化し,円滑かつ迅速な接見を実現することが困難となることが予想される。

そのため,弁護人接見室の数を,現状の3室から5室へと増設することを要望する。

また,弁護人が3名以上の事件の場合には,現在の接見室では同時に接見することが困難であるため,4~5名程度が着席できる広さの接見室を2室設置することを要望する。

(2)接見室の遮音性確保及びアクリル板の通音性改善のための措置

接見室における会話の内容が他に漏れることのないよう遮蔽のための措置を講じることを要望する。

現在の接見室では,被疑者・被告人と弁護人との間にアクリル板の壁が設置されているが,通音性に問題があるため,通音性に配慮した措置を講じることを要望する。

被疑者・被告人と弁護人との間のアクリル板の壁がない接見室を1室設置することを要望する。

弁護人の秘密交通権が十分に保障されるためには,接見内容が外部に漏れることのない接見環境は必要不可欠であるところ,現在の接見室は遮音構造となっていないため,接見室内での会話内容が外部に漏れ,外部から容易に聞き取ることができる状況になっている。そのため,接見室内の会話が外部に漏れることのないように遮音のための措置を講じる必要がある。

また,現在の接見室に設置されているアクリル板の壁は通音性に問題があるため,被疑者・被告人や弁護人の会話内容が相互に聞き取りにくいという問題が生じている。そこで,アクリル板に穴を開ける方法ではなく,通音性のよい無数の細かい穴をあけた金属板をアクリル板の下に取り付ける等,通音性に配慮した措置を講じる必要がある。

さらに,現在の接見室には,全ての接見室にアクリル板の壁が設置されているため,被疑者・被告人に直接裁判資料を示して打ち合わせをすることが非常に難しい状況にある。そこで,未決拘禁者の防御権及び弁護人の弁護権の保障の観点から,アクリル板の壁のない接見室を設置することを要望する。

(3)パソコン等使用のための電源設備の設置

接見室内にパソコン等使用のための電源設備を設けることを要望する。

現在の接見室内には,パソコン等使用のための電源設備はない。

被疑者・被告人と接見する際にパソコン等のIT機器を使用する必要性もあることから,接見室内にパソコン等使用のための電源設備を設ける必要がある。

(4)拘置所外での連絡設備について

弁護人から未決拘禁者に対して拘置所外からの連絡を可能とするために,電話,テレビ電話,ファックス,メール等の通信設備の設置を要望する。

現在,未決拘禁者との連絡方法については,弁護人が直接拘置所に出向く他は,手紙・電報に頼る以外に方法がない。しかし,未決拘禁者の防御権や弁護人の弁護権の保障という見地からは,弁護人と未決拘禁者との間の密なる連絡・打合せが非常に重要である。電話,テレビ電話,ファックス,メール等の簡易迅速な連絡方法があることから,新拘置所ではこれらの通信手段を可能とするための通信設備を設置すべきである。

(5)弁護人待合室・接見室内の設備について

弁護人待合室及び接見室に冷暖房設備を設置することを要望する。

また,接見室の机を,裁判資料等を広げるのに適した奥行きのあるものにするとともに,接見室内の椅子を長時間座っても疲れないものにすることを要望する。

弁護人待合室にトイレを設置することを要望する。

現在の弁護人待合室及び接見室には,冷暖房設備がないため,冷暖房設備を整えて,弁護人接見の際の環境を改善する必要がある。

また,弁護人接見室の机には奥行きがなく,裁判資料を広げることもままならないため,十分な奥行きのある机を設置する必要がある。

さらに,現在の接見室内の椅子は簡素なパイプ椅子であり,かつ,接見室の机との高さのバランスが悪いため,腰や背中に負担がかかり,長時間の接見に支障が生じる状況となっている。そこで,接見が長時間となった場合にも疲れにくい椅子を設置する必要がある。

現在の弁護人待合室にはトイレがなく,一般面会者用のトイレまで行くしかないため,極めて不便であり,弁護人待合室にトイレを設置することを要望する。

3 拘置所に面会に来る一般市民の利便性の向上について
(1)一般面会室の広さについて

現在の一般面会室は狭いため,現状よりも広くすることを要望する。

また,4~5名程度の面会者が着席できる広さの面会室を設置することを要望する。

現在の一般面会室は十分な広さが確保されていないため,面会者は,非常に窮屈な状態での面会を強いられており,新拘置所では,一般面会室を現状よりも広くする必要がある。

また,家族等の複数の者が同時に面会する場合に備えて4~5名程度の面会者が着席できる広さの面会室を1室設置する必要がある。

(2)面会室のアクリル板の通音性について

現在の一般面会室では,被疑者・被告人と面会者との間にアクリル板の壁が設置されているが,通音性に問題があるため,通音性に配慮した措置を講じることを要望する。

現在の一般面会室に設置されているアクリル板の壁は,通音性に問題があり,未決拘禁者と面会者との会話内容が相互に聞き取りにくいという問題が生じている。

そこで,アクリル板に穴を開ける方法ではなく,より音を伝えやすいよう無数の細かい穴をあけた金属板をアクリル板の下に取り付ける等,通音性に配慮した措置を講じることを求める。

(3)面会スペースの設備について

一般面会室内に冷暖房設備を設置するよう要望します。

現在の一般面会室内には冷暖房設備が設置されていないため,特に夏場や冬場の面会において十分な面会環境が整備されておらず,面会にも支障が生じている。

そこで,一般面会室内に冷暖房設備を設置し,面会に支障が生じることがないよう配慮することを求める。

4 その他の要望事項
(1)新拘置所の外観を周囲と調和したものとすること

新拘置所には,外塀を設けず,周囲の環境と調和した外観とすることを要望する。

現在の小倉拘置支所は,高い塀に囲まれた物々しい雰囲気の建物となっており,住宅地である周囲の環境からかけ離れた異様な外観となっているため,新拘置所では,外壁をなくすとともに,周囲の環境と調和した外観にする必要がある。

(2)新拘置所の職員数の増員

未決拘禁者の待遇改善のために,拘置所の職員数を増員することを要望する。

未決拘禁者の待遇改善のためには,現状よりも拘置所の職員数の増員が必要である。

(3)太陽光パネル設置等の再生可能エネルギーの積極的導入

新拘置所の屋上に太陽光パネルを設置する,太陽光及び風力をエネルギー源とする街灯を設置する等,再生可能エネルギーを積極的に導入することを要望する。

現在,日本全体において,持続可能な社会の構築を目指すべく,再生可能エネルギーの積極的導入が求められており,新拘置所においても例外ではなく,再生可能エネルギーを積極的に導入するための措置を講じることを求める。

なお,平成21年3月に完成した立川拘置所では,屋上に太陽光パネルが設置され,太陽光と風力を利用した街灯も設置されていたことからすれば,新拘置所においてもこれらの設備を設置することは十分可能なはずである。

(4)建替期間中の問題について

建替期間中においても,未決拘禁者の基本的人権・防御権の保障,弁護人の弁護権の保障に支障がないように配慮することを要望する。

拘置所の建て替えにあたっては,代替収容施設の確保等の様々な問題が予想され,新拘置所の建築期間も長期にわたることが予想される。

そこで,建替期間中の代替収容施設において,未決拘禁者の基本的人権・防御権の保障,弁護人の弁護権の保障に支障が生じることがないよう配慮することを要望する。

以上

2013年11月21日

商品先物取引について不招請勧誘禁止を撤廃することに反対する会長声明

 2011年(平成23年)1月1日から施行された現行商品先物取引法は、商品先物取引については、国内公設取引所取引であっても不招請勧誘を禁止する規定を設けた(214条9号)。  これは、商品先物取引業者が、先物取引のような投機に適合せず、希望もしない者に対して、突然の電話や訪問により、大きな利益が得られることのみを強調し、投資金以上の損失が生じる危険性をほとんど認識させないような不公正な勧誘を行って取引に引きずり込み、深刻かつ悲惨な被害を多数生じさせていた実情に鑑み、消費者・被害者関係団体等の長年にわたる強い要望によって、2009年(平成21年)の商品取引所法改正により、ようやく導入されたものであった。  ところが、本年6月19日、衆議院経済産業委員会において、証券・金融・商品を一括的に取り扱う総合取引所での円滑な運営のための法整備に関する議論の中で、内閣府副大臣は、委員の質問に対し「商品先物取引についても、金融と同様に、不招請勧誘の禁止を解除する方向で推進していきたい」旨の答弁をした。  この答弁は、総合取引所において商品先物取引業者に対しても監督権限を有する金融庁が、総合取引所に関する法規制について、不招請勧誘禁止を撤廃することを検討していることを示すものであるが、これは商品先物取引についての不招請勧誘規制が導入された経緯を軽視し、2012年(平成24年)8月に産業構造審議会商品先物取引分科会が取りまとめた報告書の内容にも反するものであり、到底看過できない。  その後、2012年(平成24年)2月から6月にかけて開催された産業構造審議会商品先物取引分科会における議論に際しては、不招請勧誘規制を見直すべきとの意見が出されたが、日本弁護士連合会が2012年(平成24年)4月11日付け「商品先物取引についての不招請勧誘規制の維持を求める意見書」を公表して同規制の維持を主張し、分科会報告書においても、「不招請勧誘の禁止の規定は施行後1年半しか経っておらず、これまでの相談・被害件数の減少と不招請勧誘の禁止措置との関係を十分に見極めることは難しいため、引き続き相談・被害の実情を見守りつつできる限りの効果分析を試みていくべきである」、「将来において、不招請勧誘の禁止対象の見直しを検討する前提として、実態として消費者・委託者保護の徹底が定着したと見られ、不招請勧誘の禁止以外の規制措置により再び被害が拡大する可能性が少ないと考えられるなどの状況を見極めることが適当である」とされ、商品先物取引についての不招請勧誘規制を維持することが確認されたのである。  このように、商品先物取引についての不招請勧誘規制は、深刻かつ悲惨な被害の多発を受けて導入されたもので、前記分科会においても、有識者らが様々な角度で議論した結果、規制維持の必要性が確認されたにもかかわらず、それから間もない現時点において、何らの検証もなく、規制を撤廃する方向で検討することは到底容認できない。  事実、商品先物取引についての不招請勧誘規制の導入以降、商品先物取引に関する苦情件数が減少する一方で、不招請勧誘規制を潜脱する業者の勧誘により消費者が被害を受ける事例がなお相当数報告されており、不招請勧誘禁止を撤廃すれば、商品先物取引被害が再び増加するおそれが極めて高いものである。 前記内閣府副大臣の答弁は、商品取引と証券・金融取引を同じ規制下におくべきとの横並び論から出たものと考えられるが、それぞれの取引が過去どういう営業を行い、どのような紛議を生じていたのかの実情を無視したものであって、それぞれの取引の過去の実情が異なれば、個別の規制の必要性を検討するのが当然である。  当会は、消費者保護の観点から、商品先物取引についての不招請勧誘禁止を撤廃することに強く反対する。

2013年(平成25年)11月20日
福岡弁護士会 会長 橋 本  千 尋

2013年10月16日

婚外子の法定相続分についての最高裁判所違憲決定を受け、民法(家族法)改正の早期実現を求める会長声明

婚外子の法定相続分についての最高裁判所違憲決定を受け、民法(家族法)改正の早期実現を求める会長声明

本年9月4日、最高裁大法廷は、婚外子の相続分を婚内子の相続分の2分の1とする民法第900条4号但書前段について、遅くとも相続が開始した平成13年7月(もう1件は11月)当時において、法の下の平等を定めた憲法14条1項に違反していたとする2件の決定を行った。
これまでも、婚外子の法定相続分を平等なものにするべきとの問題は早くから指摘されていた。また、国連の関連委員会は、本件規定を含む家族法における差別的規定について懸念を表明し、法改正の勧告等を繰り返してきた。しかし、最高裁は、1995年(平成7年)7月5日の決定やその後の小法廷での判決、決定の多数意見において、同規定を合憲としつつ、立法的な解決に委ねてきた。
当会は、2010年(平成22年)4月22日の会長声明において、非嫡出子の相続分差別は、非嫡出子自身の意思や努力によってはいかんともしがたい事由により不利益な取り扱いを行うものであり、憲法13条、14条および24条2項に反するものであるとして、早急に改正することを求めた。しかし、国会では、数次に亘り、両者の法定相続分を平等化する法改正の準備が進められてきたものの、未だ改正には至っていない。
 今回の大法廷の決定は、本件規定の合憲性判断につき、「個人の尊厳と法の下の平等を定める憲法に照らし、嫡出でない子の権利が不当に侵害されているか否かという観点から判断されるべき法的問題であ」るとした上で、法律婚という「制度の下で父母が婚姻関係になかったという、子にとっては自ら選択ないし修正の余地のない事柄を理由としてその子に不利益を及ぼすことは許されず、子を個人として尊重し、その権利を保障すべきであるという考えが確立されてきている」とし、立法府の裁量権を考慮しても、両者の法定相続分を区別する合理的な根拠は失われているとして、1995年(平成7年)7月5日の大法廷の決定を変更した。かかる判断は、個人の尊厳と法の下の平等を定めた憲法に照らし、人権保障の砦としての最高裁の役割からすれば、当然の帰結である。
 我が国は、自由権規約、女性差別撤廃条約、子どもの権利条約及び社会権規約の批准国である。これまでも国連自由権規約委員会の本件婚外子に対する差別規定の削除勧告、女性差別撤廃委員会の家族法における差別的規定の改正に対する懸念表明、および子どもの権利委員会による「嫡出でない子(非嫡出子)」という用語が差別的であるとして廃止を勧告されてきた。そのうえで、今回、我が国の最高裁判所大法廷で憲法違反との結論が出されたことは、もはや決定的な判断が下ったと理解すべきである。
 また、これにとどまらず、我が国の家族法については、女性差別撤廃委員会から婚外子の相続分差別の撤廃、選択的夫婦別姓制度導入、再婚禁止期間の禁止ないし短縮、婚姻年齢の男女差についても懸念が表明されていることを厳粛かつ真摯に受け止めるべきである。
当会は、政府に対し、あらためて、憲法13条、14条および24条2項の規定に照らし、民法第900条4号但書前段を直ちに改正することを求めると共に、上述の条約批准国として可及的速やかに他の諸問題についての民法(家族法)の改正を行うことを強く求める。
                2013年(平成25年)10月16日
                    福岡県弁護士会 会長 橋 本 千 尋

2013年10月11日

特定秘密保護法案に関する会長声明

特定秘密保護法案に関する会長声明


1 特定秘密保護法案を巡る動き
 政府は、2013年(平成25年)9月3日に「特定秘密の保護に関する法律案の概要」を、同月26日には特定秘密保護法案(以下「本法案」という。)の原案を公表し、同年10月に開会予定の臨時国会に本法案を提出する意向を示している。
2 本法案の根本的な問題点
  本法案は、その個々的な内容でも重大な問題を含んでいるが、そもそも、行政情報は可能な限り主権者である国民に開示されることが原則であり、現状ではよりいっそう情報公開が進められるべきである。しかるに、これを隠蔽し、その情報に国民の側からアクセスしようとする様々な活動を処罰し、またそれによってそのような活動を萎縮させる法制度をつくることは、憲法の保障する国民の「知る権利」の重大な侵害であり、ひいては「知る権利」の行使に基づく主権者たる国民自身による統治という国民主権原理に反するというべきである。
3 法案提出にあたっての政府の対応の問題点と国民の反応
 このように根本的な問題を含む本法案であるが、政府は、これに対するパブリックコメントの提出期限を本法案の概要を発表したわずか2週間後に締め切った。
 通常は1ヶ月程度はおかれる期間を、本法案のように国民の重要な権利の侵害となる虞れのある法案についてわずか2週間としたことは極めて不当な対応というほかない。
 これに対し、国民は、このわずかな期間に約9万件もの意見を寄せ、そのうちの約8割が反対の意見であったことなど、本法案に対し高い関心と危機意識をもっていることを明らかにしている。
4 本法案の内容の問題点
 本法案は、行政機関の長が「特定秘密」を指定し、その漏えいやこれを探ろうとした行為を厳罰をもって禁ずるとともに、「特定秘密」を取り扱う者自体の人的管理を行うというものである。
(1)特定秘密の対象の範囲の拡大と不明確さ
 本法案は、対象となる「特定秘密」について、①防衛、②外交、③特定有害活動の防止、④テロリズムの防止の4分野を別表で示しているが、特定秘密の範囲については、1985年(昭和60年)に国会に上程されたものの国民世論の反対によって廃案とされた「国家秘密に係るスパイ行為等の防止に関する法律案」よりも拡大されている。
 そして、その内容を特定するためとして各分野の該当項目を列挙した「別表」によってもその記載が包括的であるため対象とされる事項の範囲が不明確である。
(2)特定秘密の指定権者と恣意的運用のおそれ
 本法案は、「特定秘密」の指定権限は行政機関の長としているため、行政機関自身が自己に都合の悪い情報を秘匿する手段に利用する虞れがあるにもかかわらず、本法案にはその恣意的運用を防止する制度が何ら定められていない。
(3)重罰化と処罰対象行及び対象者の拡大
 本法案では、国家公務員法の法定刑よりも重い刑罰を科すことはもとより、その処罰範囲も故意の漏えい行為だけでなく、過失の漏えい行為、漏えい行為の未遂や共謀、教唆、扇動並びに特定秘密の取得行為とその共謀、教唆、扇動についてまでも処罰対象行為としているうえ、共謀、教唆、扇動は実行行為の着手がなくとも処罰するとしている(いわゆる「独立教唆」等)。
 処罰対象者としても、取材活動をおこなうマズメデイア関係者はもとより、国政調査権を担う国会議員をも対象者としているなど、その対象者は広範囲に及ぶ。
(4)適性評価制度
 本法案は、特定秘密の取扱者の人的管理のために「適性評価制度」を導入し、過去の懲戒処分歴、非違経歴や信用情報などを対象者の同意を得たうえで調査し評価するとしている。
 しかしながら、調査に際しては対象者の知人らに対する聞き込みや公私の団体に照会をすることも可能であり、また調査対象には対象者の家族や同居人まで含まれており、このような極めてセンシティブな情報を行政機関・警察によって収集されること自体が重大なプライバシー侵害に該当する。
5 当会の意見
 このように国民主権原理に反し重大な憲法上の権利を侵害する特定秘密保護法の立法化に対し、当会は断固として反対し、政府に対しては本法案の国会上程を速やかに断念することを強く求める。
                                                   

                   2013年(平成25年)10月11日

                          福岡県弁護士会
                          会長  橋 本 千 尋

2013年9月20日

東京電力福島第一原子力発電所事故による損害賠償請求権の時効期間を延長する特別措置法の制定を求める会長声明


1.原子力発電所事故とその被害者及び被害の状況
 2011年(平成23年)3月11日に発生した東日本大震災に伴う東京電力福島第一原子力発電所の事故(以下「本件事故」という。)から2年6ヶ月が経過した。
 本件事故は、その原因究明はもとより汚染水の流出など事故そのものの収束にも見通しが立っていない状況である。被害者についても、その人数やそれぞれの被害についてその全容は明らかでなく、その深刻化や長期化の虞れが濃厚な事態となっている。


2.損害賠償請求権と消滅時効
 このような状況にあるにもかかわらず、本件事故に関する損害賠償請求権は、民法第724条前段の定める「被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間」の消滅時効の主張により、その実効性を喪失する虞れが大である。
 信義則の観点から消滅時効の主張は許されないとの法的見解も見受けられるが、現状では現行民法の適用を排除できる明確な根拠は見出しがたく、仮に、信義則上、時効の利益を享受する援用権の行使が制限されるとしても、訴訟の場での争点となるものであり、立証責任も被害者に負担させられる可能性が高く、法的紛争解決の手法上は、信義則を中心とした法理論は実際の被害者救済の実効性に乏しい。


3.特例法の内容と被害者救済の実効性の欠如
 この点に関し、本年6月、「東日本大震災に係る原子力損害賠償紛争についての原子力紛争審査会による和解仲介手続の利用に係る時効の中断に関する法律」(以下「特例法」という。)が成立した。
 この特例法の趣旨は、紛争解決センターへの和解仲介手続が打切りとなった場合に手続打切りの通知を受けた日から1ヵ月以内に裁判所に訴訟を提起すれば、和解仲介申立時に訴えを提起したものとみなすことで時効中断を認めるものに過ぎない。
 そして、文部科学省によると、和解仲介手続申立は、本年8月16日現在、約7400件(成立件数約4900件)だけで、想定される被害者の数に比してごく一部にとどまっている。しかも、時効中断は、和解仲介申立をした損害項目に限られているため、申立てていなかった損害項目には時効中断の効力は及ばない。また、手続きの打切りの通知を受けた日から1ヵ月以内に訴えを提起しなければならないという点も、被害者に対して被害回復に困難を強いることになる。
 したがって、特例法は被害者救済の観点からは極めて不十分なものと言わざるを得ない。


4.日本弁護士連合会の意見書
 以上の点を踏まえ、日本弁護士連合会(以下「日弁連」という。)は、本年7月18日、「東京電力福島第一原子力発電所事故による損害賠償請求権の時効期間を延長する特別措置法の制定を求める意見書」を公表した。
 本件事故による損害賠償請求権への現行民法の消滅時効の適用は不当として、特別措置法の制定を求めるものであり、具体的には「権利行使が可能となったときから10年間」の時効期間とすることを基本とし、5年以内の時効期間の更なる延長を含めた見直しをおこなうことや、事故から一定期間が経過した後に顕在化する損害についてはその損害が明らかになった時を時効期間の起算点とするという点を付加するものである。


5.当会の意見
 当会としても、本件事故に関する損害賠償請求権が3年間の消滅時効に服するとされることは、被害者の救済を放擲するものであって正義に反し絶対に容認できない。
 被害者の現状を考えると、日弁連の意見書のように時効期間を率先して定める意見を述べることにも躊躇を覚えるが、単に時効制度の適用を排除することのみを求めたり、内容を示さずに救済立法の制定を求める主張をすることは、法律家団体としての責任を全うしているとは思われない。
 日弁連の意見書もこのような苦渋の選択として具体的な法制度を示しているものと考えられるので、当会としては、現時点では、日弁連の意見書に添った特別立法を求めることに賛同し、その旨、声明するものである。
  
          2013年(平成25年)9月19日
                福岡県弁護士会 会長 橋 本 千 尋

2013年9月17日

新たな検討体制の発足に際して給費制の復活を求める会長声明


1 本日、政府は内閣府に法曹養成制度の関係閣僚で構成する「法曹養成制度改革推進会議」を設置し、その下に置いた「法曹養成制度改革顧問会議」および「法曹養成制度改革推進室」ともども、先に公表した「法曹養成制度改革の推進について」(2013年(平成25年)7月16日付、法曹養成制度関係閣僚会議決定。以下「本決定」という。)による改革方針、改革課題についての検討を始めることとした。
2 これら課題のうち、本決定が、司法修習生に対する経済的支援策の在り方について、第67期の司法修習生(本年11月修習開始)から旅費法に準じて実務修習地への移転料の支給をすべきこと、集合修習期間中に司法研修所内の寮への入寮を保障すべきことを最高裁判所に求めたことは、法改正を必要としない範囲でさしあたり可能な一定の経済的配慮を示したものとして、その限りでは評価できる。しかし、これらの経済的支援は、あくまで現行法下での運用改善による応急措置的な、極めて限定的な方策に過ぎず、根本的には法改正による給費制の復活が不可欠である。
3 その理由として、現在の司法修習における貸与制は、実質的には司法修習生を何らの生活保障もないままに、1年間の実務修習に拘束するものとなっている。この多額の経済的負担は、法科大学院制度下での多大な時間的・経済的負担や、法曹人口の急激な増加による就職難がもたらす問題等と併せて、法曹志願者の激減をもたらす大きな要因となっている。そして、法曹志願者の激減は、プロセスとしての法曹養成を企図した新しい法曹養成制度の危機的状況を招いている。そのため、給費制の復活を含め、司法修習生に対する十分な経済的支援策を講じることは、質・量ともに豊かな法曹を養成するための絶対条件である。この点、本決定は兼業許可基準の緩和も述べるが、これは経済的支援策とは無関係であり、これを経済的支援策として位置づけるのは本末転倒である。また、この考え方は、フルタイムで修習に従事する司法修習生に対して安息の時間に労働を強いるものとなりかねず、極めて不合理である。さらに、司法修習の充実を目指すこの度の法曹養成制度改革の方向性にも逆行するものである。
4 そもそも、司法修習制度は、わが国の三権分立を支える司法を担い、基本的人権の擁護を使命とする法曹を育成するために不可欠、枢要なものであり、法曹の養成は国の責務であることを忘れてはならない。
法曹養成制度検討会議(以下「検討会議」という。)は、本決定のもととなった検討会議の取りまとめ(以下「取りまとめ」という。)に先立ち、本年4月から5月にかけて「中間的取りまとめ」に対するパブリック・コメントを募集した。その結果、全3119通の意見のうち、法曹養成課程における経済的支援に関する意見が2421通にものぼり、そのほとんどが給費制を復活させるべきという内容であった。これにより、この問題が法曹志願者を含む国民にとって重要な関心事であり、給費制が広く支持されていることが改めて明らかとなった。
 そこで、検討会議では、この点に加え、かねて委員からも給費制を支持する意見や貸与制がもたらしている問題状況を懸念する意見が少なくなかったこと等を踏まえ、取りまとめでの経済的支援策はとりあえずの最低限のものにとどまり、法改正を伴う更なる経済的支援策は今後の検討体制において引き続き検討されるべきとの共通認識に到達していたものである。
5 よって、当会は、政府の新たな「法曹養成制度改革推進会議」では、以上の点を十分に踏まえ、司法修習の充実方策の一環として、給費制の復活を含む司法修習生に対する更なる経済的支援策を充実させるべく、所要の措置を早急に講ずるよう強く要望する。


                 2013年(平成25年) 9月 17日
                 福岡県弁護士会 会長 橋 本 千 尋

2013年9月12日

死刑執行に関する会長声明


死刑執行に関する会長声明


1 本日,東京拘置所において,1名の死刑確定者に対して死刑が執行された。
2 我が国では,過去において,4つの死刑確定事件(いわゆる免田事件,財田川事件,松山事件,島田事件)について再審無罪が確定している。また,2010年(平成22年)3月には足利事件について,2011年(平成23年)5月には布川事件について,いずれも無期懲役刑が確定した受刑者に対する再審無罪判決が言い渡されている。これらの過去の実例が示すとおり,死刑判決を含む重大事件において誤判の可能性が存在することは客観的な事実である。
3 しかも,我が国の死刑確定者は,国際人権(自由権)規約,国連決議に違反した状態におかれているというべきであり,特に,過酷な面会・通信の制限は,死刑確定者の再審請求,恩赦出願などの権利行使にとって大きな妨げとなっている。この間,2007年(平成19年),刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律が施行されたが,未だに死刑確定者と再審弁護人との接見に施設職員の立ち会いが付されるなど,死刑確定者の権利行使が十分に保障されているとは言い難く,このような状況の下で死刑が執行されることには大きな問題があるといわなければならない。
4 日本弁護士連合会は,本年(平成25年)2月12日,谷垣法務大臣に対し,「死刑制度の廃止について全社会的議論を開始し,死刑の執行を停止するとともに,死刑えん罪事件を未然に防ぐ措置を直ちに講じることを求める要望書」を提出して,死刑制度に関する当面の検討課題について国民的議論を行うための有識者会議を設置し,死刑制度とその運用に関する情報を広く公開し,死刑制度に関する世界の情勢について調査のうえ,調査結果と議論に基づき,今後の死刑制度の在り方について結論を出すこと,そのような議論が尽くされるまでの間,死刑の執行を停止することを改めて求めたところであった。
  さらに、当会は、本年4月26日にも、死刑確定者に対する死刑執行について抗議し、死刑執行の停止を要請する会長声明を提出したのであり、この要請を無視した今回の執行は容認できない。
5 当会としては改めて政府に対し強く抗議の意思を表明するとともに,今後,死刑制度の存廃を含む抜本的な検討がなされ,それに基づいた施策が実施されるまで,一切の死刑執行を停止することを強く要請するものである。

                     2013年(平成25年)9月12日
                     福岡県弁護士会会長 橋 本 千 尋

2013年6月25日

憲法改正発議要件の緩和に反対する会長声明


1 日本国憲法第96条は、「この憲法の改正は、各議院の総議員の三分の二以上の賛成で、国会が、これを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない。この承認には、特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行はれる投票において、その過半数の賛成を必要とする。」と定める。
  ところが、さきの衆議院総選挙で政権を得た自由民主党は、憲法改正の発議要件を衆参各議院の総議員の3分の2以上の賛成から過半数の賛成に緩和し、これによって憲法改正を容易にしようとしている。日本国憲法改正の発議要件が厳格にすぎることから、主権者たる国民が憲法の改正を行うことを困難にしているというのである。
2 日本国憲法は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果と第2次世界大戦の未曾有の犠牲という厳粛な歴史的経過を踏まえて制定された。基本的人権の尊重、国民主権および恒久平和主義を規定して、国家権力に縛りをかけることにより、その権力の横暴や濫用から国民の基本的人権を擁護する極めて重要な役割を果たしている(立憲主義)。
ところが、その時々の政治的多数派の意向により容易に憲法改正がなされると、国の基本的な在り方が著しく不安定となり、立憲主義が大きく後退して、基本的人権の保障が形骸化しかねない。憲法改正に際しては、国会においてはもちろんのこと、国民相互間においても、充実した慎重な議論を尽くすことが求められる。
そこで、日本国憲法は、憲法改正についての国会の発議要件について、法律の制定や改正とは異なり、時々の政治情勢によって容易に変動し得る総議員の過半数では足りないものとし、充実した慎重な議論を尽くして形成される国民の安定的な多数意見を反映すべく、総議員の3分の2以上としたものである。
3 そして、このような日本国憲法の規定は、諸外国の憲法改正規定と比較してみても、特段厳格なものとはいえない。
例えば、欧米諸国の代表的な例をあげると、米国では連邦議会の3分の2以上の決議と4分の3以上の州議会の承認、ドイツでは連邦議会の3分の2以上の決議と連邦参議院の3分の2以上の決議が憲法改正に必要とされている。アジア諸国をみても、韓国は我が国と同様の要件、フィリピンでは議会の4分の3以上の議決の上で国民投票が必要となっている。
このように、現代の世界の趨勢を見ても、日本国憲法第96条の改正を正当化する合理的理由はない。
4 以上のことから、当会は、我が国の最高法規であり、国民の基本的人権を保障する日本国憲法の改正発議要件の緩和には強く反対する。

2013年(平成25年)6月25日
福岡県弁護士会会長 橋 本 千 尋

2013年6月 7日

生活保護法改正法案の廃案を求める会長声明


1 2013年(平成25年)5月17日、政府は、生活保護法改正法案(以下「改正法案」という。)を閣議決定した。改正法案は、書面による申請と資料の添付を義務づける(改正法案24条1項、2項)、親族による扶養を事実上の要件とする(改正法案24条8項、28条2項、29条)などの点で、以下に述べるように保護申請を萎縮させ、申請権を侵害し、ひいては憲法上保障された生存権を侵害する可能性が極めて大きい。
2 現行の生活保護法(以下「現行法」という。)は、7条で申請保護の原則をとっている。これは恤救規則以来、旧生活保護法に至るまでとられてきた職権保護の建前を転換し、国民に保護請求権があることを明らかにしたもので、申請が保護請求権を行使するための法律的手段にまで高められるに至ったものである。そして、現行法は、保護の申請において書面の提出を義務づけず、保護の要否の判定に必要な書類の提出も申請時には義務づけていない。申請は非要式行為と解され、裁判例も口頭による申請を有効と認めている。これは、保護の開始を第一次的には困窮した人の意思に基づく申請行為に委ねつつ、その申請行為を簡素なものとすることによって、生存権をできる限り漏れなくかつ速やかに保障する趣旨に出たものである。しかし、実際には、福祉事務所の窓口で申請意思を表示しても、申請書を交付しなかったり、要否判定に必要な書類を申請書と共に提出するよう求めるなどの違法な運用が行われてきた(いわゆる「水際作戦」)。当会の生活保護支援システムにおいても、福祉事務所の窓口を訪れたにもかかわらず申請が違法に受け付けられなかったとの市民からの相談が多数寄せられている。
 ところが、改正法案では、24条1項で申請書の提出を義務づけるとともに、同条2項で保護の要否の判定に必要な書類の添付を義務づけるなど、申請を要式行為に転換し、手続を煩雑なものとしている。これでは、添付書類の不備等を理由として申請行為自体があったと認めない取扱いが合法化されることとなり、いわゆる「水際作戦」を助長することになりかねない。そしてその結果、申請ができないことにより保護を受けるべき人が保護を受けられない、あるいは申請できたとしてもその時期が遅れ困窮した状態に長くとどめ置かれたりするなど、生存権を侵害するような事態が発生するおそれが極めて大きい。
 このような懸念への批判を考慮してか、改正法案ではただし書きにより、申請書作成および書類の添付につき、「特別の事情があるとき」を除外事由とすることが盛り込まれた(改正法案24条1項、2項修正案)。しかしながら、条文上、申請行為を原則として要式行為とすることは変わっておらず、また「特別の事情」の解釈は第一次的には行政機関の裁量に委ねられるのであるから「水際作戦」が横行する危険性、ひいては申請者の生存権を侵害する可能性は十分にある。
3 また、現行法では、扶養義務者の扶養は保護の要件とはせず、単に優先関係にあるものとして(現行法4条2項)、現に仕送り等がなされた場合には収入認定し、その分保護費を減額することとしている。しかし、実際の運用では、あたかも親族の扶養が保護の要件であるかのごとき説明が窓口でなされ保護申請を違法に受け付けないという運用が横行し、是正のための通知が厚生労働省から出されるといった経緯もあった(保護の実施要領・課長通知問第9の2)。2006年(平成18年)、北九州市で孤独死していた56歳の独居男性が、生前二度にわたって申請意思を明確に表示していたにもかかわらず、福祉事務所から、子どもに援助してもらうようにと言われて申請を違法に拒まれていた出来事は記憶に新しい。
  ところが、改正法案では、扶養が要件ではなく優先関係にすぎないとの条項はそのままに、28条2項において、保護の実施機関が、要保護者の扶養義務者その他の同居の親族等に対して報告を求めることができること、及び、29条1項2号において、保護の実施機関が要保護者又は被保護者であった者の扶養義務者について金融機関や雇主等に対し書類の閲覧や資料の提供・報告を求めることができることを規定した上、24項8号において、保護開始決定をしようとするときは、あらかじめ扶養義務者に対し書面をもって厚生労働省令で定める事項を通知することを義務づけている。このような扶養義務者への通知の義務付けや各種照会を行えば、扶養義務者への通知による親族間のあつれきを怖れる困窮者に対し、保護申請を萎縮させる効果を今以上に与えることは明らかであり、申請権ひいては憲法上保障された生存権の侵害につながる可能性が極めて大きい。
4 このように、改正法案が成立した場合には、保護申請者の申請権の侵害が生じる可能性が極めて大きく、その結果、要保護者の生存権が侵害され、市民生活に深刻な影響をもたらすことは明らかである。
 当会は、憲法上保障された生存権が現実に市民に保障される社会となることをめざし、平成21年度から生存権の擁護と支援のための緊急対策本部を設け、多数の会員が登録する「生活保護支援システム」によって生活保護申請同行など生活保護法の適法な運用を求める活動を行ってきた。当会の立場からは、保護申請権ひいては生存権を侵害するおそれの大きい改正法案は到底容認することができない。
  よって、当会は、改正法案について即時の廃案を求めるものである。


                         2013年(平成25年)6月7日
                                 福岡県弁護士会   
                                会 長 橋本 千尋

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