福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画

2009年7月10日

生活保護「母子加算」制度の復活を求める会長声明

声明

      生活保護「母子加算」制度の復活を求める会長声明

 生活保護における「母子加算」(削減前の月額は都市部で2万3,260円、支給要件は15歳以下の児童を養育していること)は、厚生労働省告示により、段階的削減を経て本年4月1日に完全に廃止され、約10万世帯のひとり親世帯、約18万人の子どもが影響を受けることとなった。母子加算の廃止による収入減のために、十分な医療を受けることができなかったり、高等学校の入学に際しての費用や学費が支払えず、進学や通学を断念したり、また、修学旅行や部活動への参加が不可能となったりする子どもたちが続出することが懸念される。かかる事態は子どもの生存権・成長発達権・教育を受ける権利の保障の観点から看過することができない。
 母子加算廃止の論拠として、「一般母子世帯の消費生活水準との均衡」、すなわち、母子加算を受給している世帯の消費生活水準が生活保護を受けていない一般母子世帯の消費生活水準を上回ることが挙げられている。
しかしながら、一般母子世帯の8割以上は働いているにもかかわらず、その年間の就労収入は、平均171万円に過ぎず、本来、生活保護の受給が可能でありながら受給できていないのがその実態である。生活保護基準以下の生活を強いられている一般母子世帯が多数存在することは、母子加算を廃止する根拠とはなりえず、母子加算は廃止すべきではなかったと言わざるを得ない。
 当会会員が多数訴訟代理人を務めたいわゆる生活保護学資保険裁判の最高裁判決は、2004年3月16日、高校修学が生活保護制度で保障されていない当時の状況下で、「近時においては、ほとんどの者が高等学校に進学する状況であり、高等学校に進学することが自立のために有用であるとも考えられるところであって、生活保護の実務においても、前記のとおり、世帯内修学を認める運用がされるようになってきているというのであるから、被保護世帯において、最低限度の生活を維持しつつ、子弟の高等学校修学のための費用を蓄える努力をすることは、同法の趣旨目的に反するものではないというべきである」と判示し、高校修学の有用性を宣言した。これを受け、2005年度から、生活保護制度において生業扶助として高校修学費用の一部が支給されることともなった。ただ、この支給の基本額は月額5,300円程度であり、修学旅行積立金・課外活動費等を含む毎月の修学費を賄える金額ではない。そのために、これまで、ほとんどの母子世帯は、支給される加算の一部をきりつめ子どもの高校修学費用に充てたり、そのために蓄えたりしてきた。母子加算が無くなると、それが著しく困難になる。母子加算の廃止は、保護世帯の高校修学の有用性を宣言した先の最高裁判決の趣旨を踏みにじるものである。
 当会は、わが国の社会において、貧困と失業が拡大し続け、国民の生存権が重大な危機に瀕している現状の中で、本年度、「生存権の擁護と支援のための緊急対策本部」を設置し、2009年5月25日の定期総会において、「すべての人が尊厳をもって生きる権利の実現をめざす宣言」を行った。弁護士会として、生活保護受給を求める申請代理人の活動等による法的緊急支援サービスに取組み、社会的セーフティ・ネットを再構築するために、できうる限りの活動を推進することを宣言するとともに、国及び地方自治体に対し、社会保障費の抑制方針を改め、また、ホームレスの人も含め社会的弱者が社会保険や生活保護の利用から排除されないように、社会保障制度の抜本的改善を図り、セーフティネットを強化すべきという呼びかけを行った。
 また、以前から、当会は、2007年10月29日には「生活保護基準の引き下げについて慎重な検討を求める声明」、同年12月5日には「生活保護基準の引き下げに反対する声明」を発出し、生活保護基準に関する議論は、公開の場で広く市民に意見を求めた上、生活保護利用者の声を十分に聴取して十分に時間をかけて慎重になされるべきである旨の意見をその都度表明してきたところである。
 当会は、母子家庭の子どもたちが尊厳をもって成長し、貧困が次世代へ再生産されることのないよう、国会において、母子加算を従前の保護基準に戻し、かつこれを法律で定めるよう強く要請するものである。

  2009年(平成21)7月9日
  

                      福岡県弁護士会
                      会 長  池  永   満

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