福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画

2009年6月26日

海賊対処法に反対する会長声明

声明

海賊対処法に反対する会長声明

1 今国会に上程されていた「海賊行為の処罰及び海賊行為への対処に関する法律」案は,6月19日,参議院で否決されたにもかかわらず,同日,衆議院の特別多数決で再可決するという形で成立した。しかし,同法は,以下に述べるとおり,日本国憲法に違反するおそれが極めて強いものである。したがって,当会はこの法律の制定に強い遺憾の意を表明するものである。
                       記
① 自衛隊の海外活動に関する憲法上の制約への違反
同法は,海上保安庁が海賊行為へ対処することに加えて,自衛隊が海賊対処行動を行うことや一定の場合に自衛官が武器を使用することができる旨を規定する一方,その活動地域や保護対象となる船舶について何らの限定も加えていない。しかも,同法は緊急な事態に対処する特別措置法ではなく,恒久的な対応法として位置づけられている。しがたって,同法によれば,自衛隊が,領海の公共秩序を維持する目的の範囲(自衛隊法3条1項)を大きく超えた全世界の公海上で,全ての国籍の船舶に対する海賊行為に対処し,一定の場合には武器使用まで行うことを可能にすることになる。
しかしながら,日本国憲法は,恒久平和主義の精神に立ち,その第9条は武力による威嚇又は武力の行使を放棄し一切の戦力不保持,戦争放棄を宣言しているのであるから,本来,自衛隊の海外活動については,憲法上大きな制約が課されていると解されるところであり,同法はこの憲法上の重大な制約に違反するおそれが極めて大きい。
② 恣意的な武器使用につながる危険が大きいこと
しかも,同法では,自衛官が船体射撃(海賊船の機関部をめがけての射撃)や危害射撃(人に危害を与える射撃)を行う要件が,「他に手段がないと信ずるに足りる相当な理由」(同法6条)など,きわめて曖昧な規定内容となっているため,恣意的な判断の下に安易な武器使用がなされる危険性を否定できない。このような権限を自衛官に与えることは,一切の武力行使を禁止した憲法9条に違反するおそれが極めて大きい。
③ 民主的統制の観点からも重大な問題が存すること
さらに,同法は,自衛隊の海賊対処行動の判断は,内閣総理大臣の承認のもと防衛大臣が行うものとし,内閣総理大臣は国会に事後的な報告をすれば足りると規定しており,国会は承認機関ですらない。そして,海賊対処行動が急を要する場合には,内閣総理大臣の承認すら不要としている。このように同法は,海賊対処行動の権限を防衛大臣に集中させた内容となっており,民主的統制の観点からも重大な問題を有すると言わざるを得ない。
2 結論
現に海賊行為が行われているソマリア沖の問題を解決するために我国を含めた国際協力が必要であることは言うまでもない。しかしながら,武力を放棄し恒久平和主義を宣言した日本国憲法を有する我が国がとるべき国際協力の方法は,自衛隊の海外派遣という手段ではなく,無政府状態を原因とする貧困状態の解消に向けた支援活動など非軍事的国際協力によるべきである。したがって,海賊対処法は執行することなく,速やかにその廃止の手続きが執られるべきである。
以上

2009年6月25日
福岡県弁護士会 会長 池 永  満

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