福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画

2020年9月17日

「送還忌避・長期収容問題の解決に向けた提言」の内容を踏まえた法改正に反対する会長声明

声明

1 2020(令和2)年7月14日、法務大臣の私的懇談会である第7次出入国管理政策懇談会は、収容・送還に関する専門部会が同年6月19日に取りまとめた報告書をもって「送還忌避・長期収容問題の解決に向けた提言」(以下「本提言」という。)を行った。現在、出入国在留管理庁において、本提言を踏まえた出入国管理及び難民認定法(以下「入管法」という。)の改正が検討されており、今秋の臨時国会で法案が提出される予定という。
しかし当会は、本提言においてなされた
① 難民申請者の送還停止効に対する例外の創設
② 退去強制令書が発付されたものの本邦から退去しない行為に対する罰則の創設
③ 仮放免された者等による逃亡等の行為に対する罰則等の創設
を踏まえた法改正に対しては、以下の理由により、強く反対するとの立場をここに表明する。

2 かねてから指摘されているとおり、日本では、迫害を受けるおそれから祖国を逃れ、庇護を求めてくる人々のうち、これを難民として受け入れる数が極めて少なく、トルコのクルド人をはじめ、諸外国であれば難民と認められている人々であっても、日本ではその地位が認められていない。
本来難民として保護されるべき人々を多数とりこぼしている現状において、本提言が行った①「難民申請者の送還停止効に対する例外の創設」を認めることは、迫害を受ける人々を、時に命の危険すらある本国に送り返す危険すら内包する。さらに、本提言が行う②「退去強制令書が発付されたものの本邦から退去しない行為に対する罰則の創設」は、このような本来難民として保護すべき人々に対し、罰則を科して、迫害を受ける恐れのある祖国への帰国を迫るものでもある。これらの提言を法改正に反映させることは、日本が1981(昭和56)年10月3日に加入し翌年1月1日から発効した難民条約第33条第1項「ノン・ルフールマンの原則」(締約国は、難民を、いかなる方法によっても、人種、宗教、国籍もしくは特定の社会的集団の構成員であることまたは政治的意見のためにその生命または自由が脅威にさらされるおそれのある領域の国境へ追放しまたは送還してはならない)に照らし、許容することはできない。
また、低い認定率の中にあってもなお日本において難民と認められた人々の中には、退去強制令書の発付後、複数回申請を繰り返し、裁判を経てようやく難民としての地位を認められた者、または人道的配慮から在留特別許可を認められた者も存在する。本提言が行う①「難民申請者の送還停止効に対する例外の創設」や②「退去強制令書が発付されたものの本邦から退去しない行為に対する罰則の創設」は、司法の判断を仰ごうとする人々の裁判を受ける権利を侵害するおそれもあり、許容することはできない。
 
3 また、退去強制令書が発付され、入管施設に長期収容されている人々の中には、配偶者や実子等の家族がいるために日本を離れられない者、日本で生まれ育ったため現実的に日本以外に行き場がない者、日本での生活が長く母国との繋がりを完全に失ってしまった者など、帰るに帰れない事情を抱える人々が多く存在する。その中には、強制退去令書の取消訴訟などの司法手続き等を経て在留資格を付与された人々も少なからず存在する。本提言が行った②「退去強制令書が発付されたものの本邦から退去しない行為に対する罰則の創設」は、やはりこうした人々からも、裁判を受ける権利を奪うおそれがあり、許容できない。

4 本提言③「仮放免された者等による逃亡等の行為に対する罰則等の創設」は、罰則により仮放免中の逃亡を予防しようと試みるものであるが、現行法においても、逃亡すれば直ちに実質無期限収容をとる入管施設に再収容されるのだから、身体拘束の場所が一定期間刑事施設に移るだけであって、予防効果としての意味はないに等しい。
むしろこのような罰則の創設は、脆弱な地位にある外国人を支援する人たちや、彼/彼女たちから相談や依頼を受ける行政書士や弁護士などの活動を共犯として処罰する潜在的な危険があり、人道的活動を萎縮させるおそれがあり、許容することはできない。同様の問題は、②「退去強制令書が発付されたものの本邦から退去しない行為に対する罰則の創設」においても指摘できる。

5 本提言を行った収容・送還に関する専門部会は、2019(令和元)年10月、送還忌避者の増加や収容の長期化を防止するための方策を検討することを目的として設置されたが、その背景には、出入国管理庁(当時は出入国管理局)が2017(平成29)年頃より仮放免をほぼ認めないような運用を取り始め被収容者の収容が長期化したこと、2019(平成31・令和元)年頃からこうした運用に抗議するため多くの被収容者たちがハンガーストライキを始めたこと、その結果同年6月大村入国管理センターにおいてナイジェリア人の被収容者が餓死するという事件が発生したこと、これにより社会の耳目が一気に入管の長期収容問題に向けられたという経緯があった。長期収容の問題は、これまで各所から指摘されているとおり、収容は送還に必要な最小限でしか用いないこと、司法審査を導入すること、収容期間の上限を設けること、仮放免の運用基準を設置し公表すること等によってこそ解決される。本提言は、一人の収容者を餓死に追いやった長期収容の原因について、主に被収容者に帰せるのみであって、全件収容主義や実質無期限収容主義を採る日本の収容制度の問題から目を背けるものである。
よって、このような本提言の内容を踏まえた法改正に、当会は強く反対する。

2020年(令和2年)9月16日

福岡県弁護士会

会長 多川 一成

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