福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画

2020年5月15日

刑事収容施設における一般面会の制限に関する会長声明

声明

 令和2年4月7日,日本政府により,新型コロナウイルス感染症を対象とする新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づき,福岡県を含む7都府県を対象とする緊急事態宣言が発令された。
 これに先立つ同月6日,法務省は,矯正施設の長等に対して「新型インフルエンザ等緊急事態宣言が発出された場合における矯正施設の運営について(通知)」を発出し,緊急事態宣言の対象区域に所在する刑事施設において,弁護人等及び領事以外の者については面会を原則として実施しないこととした。
 政府は,その後同月16日に,緊急事態宣言の対象区域を全国に拡大するとともに,従前からの対象区域に6道府県を加えた13都道府県を特定警戒都道府県と位置づけた。
 これを受けて法務省は,同月17日,矯正施設の長等に対して,新たに「新型インフルエンザ等の緊急事態宣言下における矯正施設等の運営について(通知)」を発出し,同月6日付の通知の効力を停止したうえで,特定警戒都道府県に所在する刑事施設では,引き続き弁護人等及び領事以外の者については面会を原則として実施しないこととした。
 これらの通知を受けて,福岡拘置所を初めとする対象となる刑事施設では,同月8日以降,一般面会の受付業務自体を行っていなかった。その後,同年5月14日の緊急事態宣言の対象区域変更により同宣言が解除された福岡拘置所等の一般面会は再開されたものの,解除されなかった都道府県の刑事施設における上記通達に基づく運用は依然として継続されるものと思われる。また,再び感染状況が悪化して緊急事態宣言の対象区域が拡がれば,福岡拘置所等でも上記運用が再開される可能性が高い。
 刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律(以下「刑事収容施設法」という。)は,被収容者の権利義務の範囲並びにこれを制限することのできる根拠及び限界を定めることを眼目の一つとして,監獄法を改めて制定された法律であり,未決拘禁者の面会権を保障したうえで,規律秩序を維持するための措置等について詳細な規定を設けている。そして,刑事収容施設法では,感染症の拡大防止を目的として未決拘禁者の面会権を制限することを許容する規定を設けていないのであり,一般面会を原則として実施しないとの上記通達及びこれに基づく運用は刑事収容施設法に違反している。
 これに対して法務省は,国有財産法に基づく庁舎管理権としての運用であり,違法ではないとするようである。
 しかし,そもそも国有財産法は,「他の法律に特別の定めのある場合を除」いて国有財産の管理等に関して定めた法律であって(同法1条),刑事収容施設法に面会制限に関する特別の定めがある以上,これに反する形で庁舎管理権を行使することは法律上許されない。
 実質的に考えても,未決拘禁者の面会権は,未決拘禁者が外部との交通を維持するうえで必要不可欠なものであり,憲法上の表現の自由とも関わる重要な権利であること(林眞琴ほか『逐条解説刑事収容施設法(第3版)』〔有斐閣,2017年〕540頁)や,既にみた刑事収容施設法の立法趣旨に鑑みると,未決拘禁者の面会権を制限する措置については刑事収容施設法に根拠規定が必要であり,国有財産法のような一般的,抽象的な法令の規定がこれに代わり得るものとは考え難い。
 したがって,国有財産法の規定は,上記通達及びこれに基づく運用の法律上の根拠とならないから,上記通達及びこれに基づく運用は,現行法の下では違法と言わざるを得ない。感染症の拡大防止を目的として未決拘禁者の面会権を制限しようとするのであれば,立法措置が必要である。
 国は,刑事収容施設における感染症の拡大を防止して被収容者の生命,身体を保護する責務を有するだけでなく,未決拘禁者の面会権の重要性に鑑み,これを保障する責務をも有する。したがって,立法に当たっては,一般面会を制限する措置を発動するための要件や執り得る措置の内容について専門科学的な見地から吟味されるべきことはもちろん,直接の面会を制限せざるを得ない場合に備え,電話やインターネットを利用した面会等の代替措置を整備することが検討されなければならない(なお,一般面会は,未決拘禁者以外の被収容者にとっても重要なものであるから,拘禁の本質に反しない限り,できる限り尊重されるべきであり,併せて検討されるべきである。)。
 そこで,当会は,国に対し,新型コロナウイルス感染症の拡大を防止するとともに刑事収容施設における被収容者の面会権を保障するための措置として,早急に次のことを行うよう求める。
1 刑事収容施設における一般面会を制限する措置を発動するための要件や執り得る措置の内容について専門科学的な見地から吟味して立法すること
2 刑事収容施設における電話やインターネットを利用した面会等の代替措置を含む法制度及び体制を整備すること

2020年(令和2年)5月14日
福岡県弁護士会
会長 多川一成

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