福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画
2025年8月 7日
骨太の方針2025を踏まえ、いわゆる谷間世代の経済的負担や不公平感を軽減するための基金制度の創設を求める会長声明
声明
2025年(令和7年)6月、政府の「経済財政運営と改革の基本方針2025」(いわゆる骨太の方針2025)において「法曹人材の確保等の人的・物的基盤の整備を進める」「国際法務人材の育成」との記載及びその注記で「法教育の推進、公益的活動を担う若手・中堅法曹の活動領域の拡大に向けた必要な支援の検討を含む」ことが明記された。
これは、2017年(平成29年)4月、裁判所法の改正によって、同年11月1日以降に採用された司法修習生(第71期以降)に対しては基本給付金などの修習給付金が支給されることとなった一方、2011年(平成23年)11月から2017年(平成29年)10月までの間に採用された司法修習生(新65期~70期、いわゆる「谷間世代」)には新たな給付金制度の遡及適用がなかったために生じた、谷間世代が無給での修習により重い経済的負担を負ったままに取り残されるという不公平な問題の解決策として、日本弁護士連合会(日弁連)、当会ほか全国の弁護士会、各弁護士会連合会、そして新たな給付金制度の実現に向けて活発に活動してきたビギナーズネットを挙げて取り組んできた谷間世代に対する修習給付金と同額の一律給付による解決、また、実質的に谷間世代への一律給付と異ならないような基金制度の創設を目指してきたことが反映された結果である。これまで谷間世代問題の解決に向けて寄せられた国会議員の応援メッセージは2025年(令和7年)5月23日時点で391通に達している。
日弁連が目指す基金構想は、一律給付に実質的に代わりうる措置として、国からの交付金により日弁連又は日弁連が協力して設立する財団法人等に基金を設置し、その基金からの給付金をもって谷間世代の様々な活動、研修、技能向上などを、5年間の時限で集中的に支援することによって谷間世代問題の解決を図らんとするものである。
近年、大規模自然災害や多くの社会問題が発生し、またわが国を支える中小企業も創業、事業承継、国際取引等の重要な局面に置かれている等々の状況の中で、弁護士に対するニーズはさらに高まりを見せており、この状況下で国民のための司法を維持強化するためには、全法曹の約4分の1に相当する約1万1000人を占め、今や司法の中核を担っている谷間世代の法曹が、かかるニーズに応じて諸課題により積極的に取り組むことができるようにすることが不可欠である。
すなわち、かかる基金制度によって、谷間世代が、高齢者・障がい者支援、子ども対策・支援、災害支援、消費者問題等々の幅広い公益的活動や、行政機関や公私の教育機関の第三者委員会等の業務、中小企業のスタートアップ、事業承継、国際業務の支援、弁護士業務に資する日弁連等が企画する研修、資格取得や語学の講座受講等々に取り組むことを給付により支援して、谷間世代の多くが抱いている経済的負担や不公平感を軽減することにより谷間世代がさらに広く深くこれら諸課題等に積極的に取り組むことができることとなるのであり、これによって実現される国民の権利利益の保護、救済は決して小さくない。
本来、法曹は三権の一翼である司法を担う重要な人的基盤であり、公費により養成されなければならない。一時的に公費による養成が途絶えた状態は修復されるべきであり、世代を問わず全ての法曹が公費により養成され、その公的役割を自覚し、十分に力を発揮することは、この国の司法制度を利用しもしくは司法の影響を受ける全ての人の利益となるのである。
当会は、日弁連、全国の弁護士会、各弁護士会連合会とも力をあわせ、引き続き、谷間世代問題の解決に向けて一層の尽力を重ねる決意であるが、政府、国会、最高裁判所など関係機関におかれては、骨太の方針2025及び日弁連が提唱する基金制度の理念に即して、その早期実現に向けて必要な措置を講じて頂くよう強く求める。
2025年(令和7年)8月6日
福岡県弁護士会
会長 上 田 英 友
今秋の臨時国会での再審法改正の実現を求める会長声明
声明
いわゆる福井女子中学生殺害事件において、2025年(令和7年)7月18日、名古屋高裁金沢支部は、検察官の控訴を棄却する判決を言い渡し、1990年(平成2年)の一審無罪判決を支持した。2025年(令和7年)8月1日、名古屋高検が上訴権を放棄したことで、一審無罪判決が確定した。当会はいわゆる袴田事件の再審無罪判決に際して発した会長声明において、逮捕から無罪判決までに58年もの年月を要したことを指摘したが、本件についても逮捕から今般の控訴棄却判決の言い渡しまでに38年もの年月が費やされている。人生の多くを自己のえん罪を晴らすための闘いに費やさざるを得なかったその余りの残酷さは、袴田事件と同様、筆舌に尽くしがたいものがあるといわざるを得ない。
このように、えん罪被害者の救済が遅れる理由が現行の再審法の不備にあることは衆目の一致するところである。2025年(令和7年)6月18日、野党により衆議院に「刑事訴訟法の一部を改正する法律案」(以下、「本法案」という。)が提出され、その後、衆議院法務委員会に付託されて、閉会中審査となっている。本法案は、「再審制度によって冤(えん)罪の被害者を適正かつ迅速に救済し、その基本的人権の保障を全うする」という観点から、①再審請求審における検察官保管証拠等の開示命令、②再審開始決定に対する検察官の不服申立ての禁止、③再審請求審等における裁判官の除斥及び忌避、④再審請求審における手続規定を定めることを内容とするものである。これは、当会が2023年(令和5年)9月の総会決議及びこれに続く累次の会長声明で繰り返し求めてきた再審法改正の内容と軌を一にするものであって、高く評価できる。
一方で、再審法改正に関しては、2025年(令和7年)4月21日以降、法制審議会刑事法(再審関係)部会(以下、「法制審部会」という。)において審議が行われており、本法案の定める4項目も審議対象となっている。
しかし、上記4項目の改正に関して、まず、検察官と密接な関係を有する法務省が事務局を務める法制審議会が主導的な役割を担うことについて、えん罪被害者の適正かつ迅速な救済を目指すという観点において強い懸念を表明せざるを得ない。
つぎに、再審法改正は、何よりもえん罪被害者の速やかな救済に資するものでなければならない。そして、上記4項目は、数多くある論点の中でも、えん罪被害者の速やかな救済を実現する上で根幹をなすものであるから、これらの点については、早急に法改正がなされるべきである。それにもかかわらず、法制審部会では、再審手続における証拠開示の範囲を新証拠及びそれに基づく主張に関連する限度にとどめようとする意見や、再審開始決定に対する検察官の不服申立てを禁止することに消極的な意見が見受けられた。これらを受けて、事務局を務める法務省が原案をとりまとめる形で、上記4項目の改正に関する是非を含む全14項目にも及ぶ論点が提示された。法制審部会での早期のとりまとめを目指すとしても、その法案化までにはなおも相当な期間を要することは明らかで、再審法改正が速やかに進む目処は立っていないと言わざるを得ない。
このような状況に照らせば、えん罪被害者の早期救済のためには「国の唯一の立法機関」である国会こそ、速やかにあるべき再審法改正の方向性を示すことが重要である。多くの地方議会や首長、民間団体などからも広く支持が表明されていることは、その証左である。
よって、当会は、国会に対し、速やかに本法案の審議を進め、今秋に予定されている臨時国会において本法案を可決・成立させることを求めるものである。
2025年(令和7年)8月6日
福岡県弁護士会
会長 上 田 英 友
2025年7月18日
生活扶助基準引下げを違法とした最高裁判所判決を高く評価し、直ちに判決を踏まえた是正措置を実施するとともに生活保護基準を適正に見直すよう求める会長声明
声明
2025年(令和7年)6月27日、最高裁判所は、大阪府内、愛知県内の生活保護利用者らが、2013年8月から3回に分けて行われた生活扶助基準引下げ(以下「本件引下げ」という。)に係る保護費減額処分の取消等を求めた訴訟の上告審において、厚生労働大臣による本引下げの違法性を認め、保護費の減額処分を取り消す判決(以下「本判決」という。)を言い渡した。
本判決は、本件引下げの主な理由とされた「ゆがみ調整」(指数の適正化)及び「デフレ調整」(物価変動率=下落率の反映)のうち、「デフレ調整」について次のように指摘し、生活保護法3条、8条2項に違反して違法と判断した。
すなわち、本判決は、まず、厚生労働大臣の裁量判断の適否の審理においては、本件引下げに至る判断の過程及び手続に過誤、欠落があるか否か等の観点から、統計等の客観的数値等との合理的関連性や専門的知見との整合性の有無等について審査されるべきであるという判断枠組を示し、その上で、「デフレ調整」に関し、生活保護法8条2項が最低限度の消費水準を保障するものであること、他方で、物価変動が直ちに同程度の消費水準の変動をもたらすものとはいえないことを指摘し、本件引下げにおいて国が物価変動率のみを直接の資料として基準生活費の改定率を定めたことについては、十分な説明もなされておらず、その合理性を基礎付けるに足りる専門的知見があるとは認められないことから、厚生労働大臣の判断の過程及び手続には過誤、欠落があったとした。
全国29の地方裁判所に提起されていた本件と同種の訴訟では、最高裁判決前までの時点で、20地裁、7高裁において生活保護利用者側勝訴の判決が出されていた。本判決は、憲法25条が定める生存権保障の分野において、法の支配、法による正義を実現するという司法の役割が果たされたものとして高く評価することができる。
本件引下げが実施された2013年8月当時、生活保護利用者は215万人を超えていたが、本判決によって補償措置を図られるべき対象はそのすべてに及ぶ。生活保護利用者に対する補償措置は、国及び各地方自治体の喫緊の責務である。
また、当会は、これまでも繰り返し、生活保護基準の見直しを求める会長声明(直近では2025年2月19日付)を発出してきたが、本判決を受けて国が生活保護基準を見直すべきことは明確になったといえる。その見直しにあたっては、判断過程の適正の確保を求める本判決の趣旨を踏まえ、生活保護法3条及び8条2項の趣旨を十分に反映しつつ、生活保護利用者の実態を考慮できる適切な検討方法がとられなければならないといえよう。
よって、当会は、国及び各自治体に対し、本判決を重く受け止め、直ちに、訴訟の全面解決を図り、かつ、本件引下げによって減額された保護費の差額を支給するなど必要な補償措置の実施を求めるとともに、国の責任として判断過程の適正を確保しながら速やかに生活保護基準を適正な内容に見直すよう強く求める。
2025年(令和7年)7月16日
福岡県弁護士会
会 長 上田 英友
2025年7月 1日
地方消費者行政の維持・強化を求める会長声明
声明
1 令和6年版消費者白書によると、2023(令和5)年の消費生活相談件数は約90.9万件であり、前年の約87.6万件から約3.3万件、前々年の約85.9万件から約5万件増加している。また、被害額としても、2023(令和5)年の消費者被害額(既支払額(信用供与を含む。)は、過去最高の約8.8兆円であると報告されている。
福岡県消費生活センターの統計によると、福岡県内における消費生活相談件数は、2019(令和元)年以降、約5万件を維持しており、直近5年間において減少傾向はない。そのうち、相談の傾向としては、SNSに関連する相談が2019(令和元)年の約3倍となっていること、高齢者からの相談が全体の7割以上を占める点検商法の相談が2022(令和4)年の2倍以上となっていることなど、従前の商法に加えて、若年者や高齢者を被害者とする消費者被害の増加やインターネットを利用した悪質な手口が広く波及していることがうかがわれる。そのため、地域住民の安全を守るためには、このような被害実態をいち早く把握し、専門的知見をもって対応できる身近な消費生活相談員という窓口の体制確保をはじめとする地方消費者行政の継続、強化が重要となる。
福岡県の2023(令和5)年における住民10万人当たりの消費生活相談員数は、2.3人であり、全国平均(2.7人)を下回っている一方、2023(令和5)年における相談員一人当たりの相談対応件数は、411.2件と全国平均(300.3件)を大きく上回っており、消費生活相談員の負担は大きい。
2 このような状況の下、国は、地方公共団体の消費者行政、特に消費生活センター等で行われている消費生活相談の充実強化に向けて、現行の地方消費者行政強化交付金(以下「強化交付金」という。)等の財政支援策を継続してきたが、強化交付金には地方公共団体ごとに交付金の活用期限が定められており、活用期限を迎えると強化交付金は終了となる。
この強化交付金を消費者生活相談員の人件費としている地方公共団体のうち、既に2024(令和6)年で約100の自治体が活用期限を迎えており、令和7年度末にはさらに約220の自治体が活用期限を迎えることになる。
福岡県においても、2025(令和7)年度末に38の自治体、2027(令和9)年度末に7の自治体が活用期限を迎えることになる。
今後、財源不足により相談窓口が縮小せざるを得なくなった場合、消費生活相談員の負担はさらに顕著なものとなる。
3 強化交付金の活用期限は、地方公共団体の消費者行政予算の自主財源比率を増加させるための呼び水として設けられたものであるが、地方公共団体の消費者行政予算は自主財源だけでまかなえる状況にはない。
そのため、国が活用期限を迎えた強化交付金の終了という事態への速やかな対応を行わない場合、地方公共団体において消費生活相談員の任用継続、維持をすることが困難になるという問題にとどまらず、地方消費者行政全体の衰退につながるおそれがある。
したがって、地方公共団体が、消費生活相談員の安定的な確保と処遇改善をするなどして、地方消費者行政を安定して推進するためには、強化交付金の活用期限の延長、あるいは、強化交付金に代わる恒久的な財源を確保することが必要である。
4 また、現在、国が進めるデジタル技術を活用した電話と対面相談によらない消費生活相談体制のデジタル化(以下「DX化」という。)について、国の責任において予算措置を講じない場合、全部又は一部の地方公共団体において、DX化の費用を負担せざるを得なくなるため、地方消費者行政に悪影響が生じるおそれは否定できない。
一般社団法人全国消費者連絡会の2023年度「都道府県の消費者行政調査報告書」においては、「相談業務デジタル化するとなると、多くの費用負担が見込まれる。それにより小規模自治体の相談窓口が縮小する恐れがある」などという地方公共団体からの不安の声が、現実のものとして指摘されている。
特に、地方の消費生活相談業務に必要不可欠な「全国消費生活情報ネットワークシステム」(以下「PIO-NET」という。)刷新における地方公共団体の費用負担の問題は顕著である。PIO-NETに登録される情報は、相談現場における助言・あっせんのための情報としての役割以外に、法執行の端緒や立法政策の根拠となるという重要な意義を有するため、地方公共団体における入力事務に支障がでないように、国がその費用の全額を負担すべきである。
5 以上のとおり、消費者被害を防止・救済し、地域住民の生活の安定を担保するため、当会は、国に対し、
⑴ 地方公共団体が、地方消費者行政を安定して推進するための恒久的な財源の確保のための措置を講ずること(少なくとも、強化交付金の交付期限を延長するなど、消費生活相談員の安定的な確保と処遇改善に必要な予算措置を講ずること)
⑵ 国が進める消費生活相談業務のDX化に関連し、地方公共団体が、地方の消費生活相談業務に必要不可欠な「全国消費生活情報ネットワークシステム」(PIO-NET)の刷新・運用及び消費生活相談業務のデジタル化の構築・運営を行うための費用の全額を、国が負担する措置を講ずべきことを強く求める次第である。
2025年(令和7年) 6月27日
福岡県弁護士会 会長 上田 英友
2025年6月30日
死刑執行に抗議する会長声明
声明
本日、国内において1名の死刑確定者に対して死刑が執行された。前回の死刑執行は、令和4年7月26日であり、2年11か月が経過しての執行となった。国際社会から死刑廃止の要請もあり日本でも死刑が執行されない状態が続くと思われたが、突然の執行であった。
たしかに、突然に不条理な犯罪の被害に遭い、大切な人を奪われた状況において、被害者の遺族が厳罰を望むことはごく自然な心情である。しかも、日本においては、犯罪被害者及び被害者遺族に対する精神的・経済的・社会的支援がまだまだ不十分であり、十分な支援を行うことは社会全体の責務である。
しかし、そもそも、死刑は、生命を剥奪するという重大かつ深刻な人権侵害行為であること、誤判・えん罪により死刑を執行した場合には取り返しがつかないことなど様々な問題を内包している。
人権意識の国際的高まりとともに、世界で死刑を廃止または停止する国はこの数十年の間に飛躍的に増加し、2024年の統計では、法律上及び事実上の死刑廃止国は145か国(死刑存置国は54か国)となっている。経済協力開発機構(OECD)加盟38か国のうち、死刑制度を存置しているのは3か国(韓国、米国、日本)のみであり、韓国では1997年以降、死刑が執行されておらず、米国では50州中23州で死刑が廃止、2021年7月には、連邦レベルでも死刑執行が停止されている。OECD加盟国のうち、日本のみが国家として死刑を執行している。
このような世界の情勢もあり、日弁連が中心となり「日本の死刑制度について考える懇話会」が設置され、複数の国会議員や学識経験者、警察・検察出身者、弁護士、経済界、労働界、被害者団体、報道関係者、宗教家及び文化人など各層の有識者によって議論があり、同会は、2024年11月13日、報告書を公表し、「現行の日本の死刑制度とその現在の運用の在り方は、放置することの許されない数多くの問題を伴っており、現状のまま存続させてはならない」という基本的な認識を示した。
当会においても、2025年1月29日に、死刑制度の廃止に向けて、本報告書の提言に沿って、早急に、国会及び内閣の下に死刑制度に関する根本的な検討を任務とする公的な会議体を設置すること、その結論が明らかにされるまでは死刑の執行を停止することを強く求める会長声明を発しており、これまでも1996年以降、死刑執行に対し、都度これに抗議する会長声明を発出してきたほか、2020年9月18日に「死刑制度の廃止を求める決議」を採択し、2021年8月25日には「米国における連邦レベルでの死刑の執行停止を受け、日本における死刑制度の廃止に向けて、死刑執行の停止を求める会長声明」を発出してきた。
そこで、当会は、国に対し、今回の死刑執行について強く抗議の意思を表明するとともに、日本が、基本的人権の尊重、特に生命権の不可侵性の価値観を共有できる社会を目指そうとしている国際社会と協調し、国連加盟国の責務を果たせるよう、あらためて死刑制度の廃止に向けて死刑の執行を停止することを強く要請するものである。
2025年(令和7年) 6月27日
福岡県弁護士会会長 上田 英友