福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画

2019年5月31日

消費者行政の一層の充実・強化を求める決議

決議

【決議の趣旨】

1 当会は,消費者庁及び内閣府消費者委員会の創設10年の節目に当たって,いまだ多く発生している消費者被害の予防と救済を図るべく,以下の措置をはじめとする,消費者行政の一層の充実・強化を求める。
(1) 地方消費者行政を,国の消費者行政の一端を担うものとして明確に位置づけ,国からの予算支出による積極的な財政措置を講じること。
(2) 高齢者の消費者被害の予防と救済を図るべく,各地方公共団体における消費者安全確保地域協議会の設置を推進し,さらに,不意打ち的な電話勧誘・訪問販売を規制し,いわゆる「つけ込み型」の不当勧誘につき,包括的に消費者に契約取消権を認めるなどの立法措置を講じること。
(3) 若年者に対する消費者教育を幅広く展開すべく,国や地方公共団体による財政支援を充実させ,消費者庁として積極的なリーダーシップをとること。
(4) 適格消費者団体および特定適格消費者団体に対して,直接的な財政支援をなすこと。
2 消費者庁が,消費者政策の司令塔としての機能を強化し,緊急事態等に迅速に対応し,法制度の企画・立案・実施を効率的に行うためには,各省庁及び国会と同一地域に存在することが必要不可欠であるから,これに反する消費者庁の全面的な地方移転に反対する。

2019年(令和元年)5月29日
福岡県弁護士会

【決議の理由】

1 はじめに
日本弁護士連合会は,1989年9月16日の第32回人権擁護大会において,「消費者被害の予防と救済に対する国の施策を求める決議」を採択し,国に対し,従来の縦割り行政,後追い行政の弊害を除去し,消費者の立場に立った総合的統一的な消費者行政を推進する消費者省(庁)の設置等を求めた。 当会も,日本弁護士連合会と連携して,消費者被害の予防と救済に取り組んできたが,個別の事件解決に取り組むとともに,消費者行政の抜本的改正の必要性も訴えてきた。 そして,2008年6月27日付の閣議決定「消費者行政推進基本計画」において,「我が国は各府省庁縦割りの仕組みの下それぞれの領域で事業者の保護育成を通して国民経済の発展を図ってきたが」,「消費者・生活者の視点に立つ行政への転換」を図るべきとして,消費者行政を一元化する新組織を創設することが宣言された。 その直後の2008年7月19日,当会は,シンポジウム「消費者庁構想を考える〜真に消費者の頼りになる消費者庁実現へ向けて〜」を開催して,消費者被害の予防や救済のために行政が積極的に対応する必要性を訴えて,消費者庁の創設を求めた。 そして,いよいよ,2009年5月に,消費者庁及び消費者委員会設置法(以下「設置法」という。)が制定され,同年9月1日に消費者庁及び内閣府消費者委員会(以下「消費者委員会」という。)が創設された。 今年で10年の節目を迎える消費者庁は,創設以来,さまざまな消費者政策を立案・実施しており,同時に創設された消費者委員会もまた,独立した機関として,積極的な政策提言などを行ってきた。 しかし,その一方において,消費者被害は多様化し,より巧妙な手口による被害が多発している。 このような消費者を取り巻く社会環境の変化に応じ,消費者の目線に立脚した行政機関としての消費者庁及び消費者委員会には,さらに積極的な役割を果たすことが期待されるところ,創設10年の節目を迎えるにあたって,当会として本決議を採択する。
2 消費者庁・消費者委員会の役割
設置法によれば,消費者庁は,「消費者基本法第2条の消費者の権利の尊重及びその自立の支援その他の基本理念にのっとり,消費者が安心して安全で豊かな消費生活を営むことができる社会の実現に向けて,消費者の利益の擁護及び増進,商品及び役務の消費者による自主的かつ合理的な選択の確保並びに消費生活に密接に関連する物資の品質に関する表示に関する事務を行う」(同法3条1項)ことをその任務とするものとされている。 また,消費者委員会は,設置法6条に基づいて内閣府に設置された独立機関であり,同条2項1号に定められた6つの重要事項について,自ら調査審議し,必要と認められる事項を内閣総理大臣,関係各大臣または消費者庁長官に建議することができる権限を有している。
3 消費者庁及び消費者委員会設置後の10年
(1) 設置法の附則とこれを受けた法改正

設置法は,その附則において,実施後の一定期間内に各種の見直しを行い,必要な措置を講じることを規定しており,その国会審議においても,衆議院において23,参議院において34の附帯決議が付されていた。そして,これらの見直し規定等を背景として,消費者庁および消費者委員会の創設から10年の間にさまざまな法改正が行われ,新たな消費者施策が展開されてきた。
2014年6月の消費者安全法改正においては,消費生活相談員の資格が整備され(同法13条の3),地方公共団体が消費生活センターを設置する根拠が明確にされるとともに(同法10条),消費者安全確保地域協議会の設置等が規定され(同法11条の3),人口5万人以上の地方公共団体において同協議会を設置する旨の目標が掲げられた。2019年3月末時点において,全国で209の地方公共団体において同協議会が設置されているが,福岡県においては36の地方公共団体において同協議会が設置されており,県別にみるならば,兵庫県の42に次ぐ設置状況となっている。
適格消費者団体をめぐっては,2008年4月の消費者契約法,不当景品類及び不当表示防止法(以下「景品表示法」という。),特定商取引に関する法律(以下「特定商取引法」という。)の改正により,その差止請求訴訟を提起することのできる範囲が拡大され,2013年6月に制定された食品表示法によって食品表示についても差止請求が可能となった。そして,2013年12月に成立した消費者裁判手続特例法は,適格消費者団体のうち特定認定を受けた特定適格消費者団体に対して,財産的消費者被害の集団的回復を図るための訴権を付与した。また,2017年6月の独立行政法人国民生活センター法の改正では,特定適格消費者団体が行う仮差押の立担保に関し,国民生活センターが資金を提供することができることとなった。
さらに,2014年11月の景品表示法改正においては,不当表示を行った事業者に対する課徴金制度が設けられ,独占禁止法についても,2009年6月の改正によって,課徴金の対象となる行為類型の拡大および課徴金額の増額がなされている。

(2) 消費者庁による消費者事故情報の集約と法執行・行政処分等

また,消費者安全法12条は,消費者事故情報の一元的集約と迅速な公表を実施するため,消費者事故等が発生した場合には,行政機関や地方公共団体が,内閣総理大臣(消費者庁)に通知をなすべきことを規定している。
この規定に基づいて,消費者庁に通知された消費者事故等は,年間1万件を超えており,2017年度の通知件数は10,952件であった。
そして,2017年度に,消費者庁が行った法執行や行政処分等の件数は,消費者安全法に基づく注意喚起,勧告等が10件,景品表示法に基づく措置命令が50件,同法に基づく課徴金納付命令が19件,同法に基づく返金計画の認定が1件,特定商取引法に基づく業務停止命令及び指示が32件,特定商品等の預託等取引契約に関する法律に基づく業務停止命令及び指示が2件,特定電子メールの送信の適正化等に関する法律に基づく措置命令が2件,家庭用品品質表示法の規定に基づく指示が1件であった。

(3)消費者委員会の組織と権限

消費者問題への取り組みは,あくまでも消費者の目線で実施する必要があるところ,各省庁の出向社員を中心とする消費者庁による業務運営だけでは不十分であるから,消費者庁から独立して消費者行政全体の監視・提言役として職務を行う機関として,消費者委員会が設置されている。
この消費者委員会は,民間人の委員10名による合議体組織であり,必要に応じて部会や専門調査会を設けて,調査・審議・提言を行ってきている。具体的には,2018年12月までの間に,20件の建議,15件の提言,78件の意見を公表している。
そのほか,政府の消費者政策を総合的・計画的に推進するために策定される消費者基本計画について,消費者庁が毎年その工程表の見直しをなしているが,消費者委員会は,この見直しについて,関係省庁のヒヤリングを行い,意見を発出するなどの役割も果たしている。
これまで消費者委員会が公表してきた意見の中には,消費者契約法の改正などの形で結実されたものもある。そして,現下の最重要課題は公益通報者保護法の改正であり,2018年12月27日に,公益通報者保護専門調査会から報告書が公表されている。

4 これからの消費者行政に求められるもの
(1) いまだ消費者被害が多発していること

消費者庁及び消費者委員会が設置されてから,法改正も続いており,消費者被害の予防と救済に一定の成果を上げているという評価もできる。
しかしながら,前述のとおり,消費者庁に通知された消費者事故等は,年間1万件を超えており,2017年度の通知件数は10,952件であった。また,全国の消費生活センター等に寄せられた消費生活相談の件数を見ると,2017年度は約911,000件に上っており,前年と比較しても約19,000件増加している。
消費生活相談件数が,依然として高水準である要因には,インターネットの生活への一層の浸透が挙げられると指摘されている(平成30年版消費者白書25頁)。特に,スマートフォンの普及により,SNSを通じたコミュニケーション,インターネット通販での商品購入やサービスの予約が,若年者から高齢者まで幅広い年齢層で,身近で日常的なものとなっていることを背景に,被害が広く発生しており,また,手口も巧妙化している。
このような状況に鑑みると,消費者庁や消費者委員会をはじめとする消費者行政のより一層の積極的な取り組みが求められる。

(2) 地方消費者行政の推進

消費者庁が創設された2009年度において新たに予算化された「地方消費者行政活性化交付金」は,消費者行政に使途を限定された特定財源であったが,当初3年を限度とするものとされ,その間に地方公共団体が独自予算を組み地方消費者行政が自立することが想定されていた。
この地方消費者行政活性化交付金は,交付開始から3年を経過した2012年度から,地方公共団体の自主的な事業への活用を重視した「地方消費者行政推進交付金」として継続されたものの,2018年度からは新規事業への交付が打ち切られ,原則として終了することになった。「地方消費者行政推進交付金」に代わって2018年度から交付されることになった「地方消費者行政強化交付金」は,国の重点課題に呼応した事業を支援するというものであるが,その使途は「地方消費者行政推進交付金」よりも大きく限定されている。そして,その予算額も大幅に減額され,2017年度に42億円であったものが,2018年度には36億円とされ,2019年度においては33.5億円まで減額された。
2018年1月に公表された一般社団法人全国消費者団体連絡会地方消費者行政プロジェクトチームの調査によれば,消費者行政に関する「基準財政需要額」(地方公共団体が合理的かつ妥当な水準で地方消費者行政を行う場合に要する経費として総務省が示す額)における地方公共団体の自主財源比率は,都道府県別にみた全国平均が52.1%であり,決して高いとは言えない状況である。とりわけ福岡県は26.0%とさらに全国平均を大きく下回っている。
このように,地方公共団体の財政状態は消費者行政について十分な独自予算を組むまでの状況になく,むしろ消費者関連予算は,地方公共団体の予算縮小・削減の格好の対象となってきた。
このような状況に鑑みると,地方消費者行政を,国の消費者行政の一端を担うものとして明確に位置づけ,国からの予算支出による積極的な財政措置を講じるとともに,その財政支援が適正かつ的確に消費者関連施策に充てられるよう立法措置を含む対応が求められる。
福岡市議会は,2018年12月19日,「地方消費者行政に対する財政支援の拡充等を求める意見書」を全会一致で採択し,地方消費者行政に係る交付金制度の予算額を確保すること及び地方公共団体が行う消費生活相談,行政処分等の地方消費者行政に係る事務費用に対する恒久的な財政措置について検討することなどを国に求めている。同様の請願や意見書は,全国各地の地方公共団体で相次いで採択されており,地方消費者行政に対する国の財政措置が必要であるとの声が高まっている。

(3) 高齢者の消費者被害の予防と救済

高齢化社会への移行が急速に進む中,高齢者を狙った悪質商法が後を絶たず,2017年に,全国の消費生活センター等に寄せられた消費生活相談の約911,000件のうち,65歳以上の相談者が約29.2%と大きな割合を占めている。そこで,今後とも,引き続き,高齢者の消費者被害の予防及び救済をより確実にするための施策を強化することが求められている。
この点,2014年6月の消費者安全法改正により,2016年4月から,地方公共団体が高齢者等の判断力の不十分な消費者の消費者被害の予防と早期救済のために消費者安全確保地域協議会を設置することが可能となった。しかしながら,2019年3月末時点において,人口5万人以上の地方公共団体545のうち,設置している地方公共団体は98と全体の18.0%に過ぎず,全国的な普及に向けた働きかけをより強化しなければならない状況にある。
また,高齢者,特に認知症等の高齢者にトラブルが多い不意打ち的な電話勧誘・訪問販売について,これを消費者があらかじめ拒否できるDo-Not-Call制度(電話勧誘拒否登録制度),Do-not-Knock制度(訪問販売拒否登録制度)の導入も実現していない。
当会は,2015年9月18日に,「特定商取引法に事前拒否者への勧誘禁止制度の導入を求める意見書」を発出するなど,これらの制度の導入を訴えてきたが,高齢者の消費者被害の予防と救済の観点から,引き続き,法改正を求めるものである。
さらに,2014年8月,内閣総理大臣から消費者委員会に対し,消費者契約法につき「高齢化の進展を始めとした社会経済状況の変化への対応等の観点」から見直しの検討を行うよう諮問がなされ,消費者委員会消費者契約法専門調査会において検討がなされた。その結果,2015年12月と2017年8月の2度にわたる同専門調査会の報告書において,過量販売等の特定の被害類型についての契約取消権が提言され,これらの報告に基づく2016年5月および2018年6月の消費者契約法改正において,過量販売等に加え,判断力の著しい低下につけ込んだ勧誘や霊感を利用した勧誘等の被害類型についての契約取消権が導入されることとなった。
しかし,高齢化社会が進む中において,高齢者が安心して暮らして行ける社会にするためには,合理的な判断ができない状況にある消費者を狙った消費者被害を放置しておくべきではなく,消費者に合理的判断ができない事情があることを利用して不必要な契約を締結させる,いわゆる「つけ込み型」の不当勧誘につき,包括的に消費者に契約取消権を認めることが必要と考えられるところ(消費者委員会平成29年8月8日付け答申書付言),これについてはなお実現しておらず,消費者契約法のさらなる改正に向けた努力が必要である。

(4) 若年者の消費者被害の防止と消費者教育

当会は,2018年2月23日付けをもって,「民法の成年年齢引下げに反対する会長声明」を発出し,成年年齢の引き下げに反対する旨の意見を表明した。しかし,2018年6月,成年年齢の引き下げ等を内容とする民法の改正法が成立し,2022年4月から成年年齢が18歳に引き下げられることになった。
これによって,18歳と19歳の若年者(いわゆる「若年成人」)については,民法に基づく未成年者取消権を行使することができなくなるが,これら若年成人は,社会経験も少なく,必ずしもその判断能力が十分なものであるとは言い難く,消費者被害の格好のターゲットとなることが懸念される。
とりわけ若年者に関しては,いわゆるデジタルコンテンツなどネットやSNS関連の消費者被害への対策が重点課題として挙げられる。実際の学校現場での消費者教育においては,これら刻々と変化する消費者被害の実態を踏まえる必要がある。さらに,消費者教育は,知識を一方的に与えるだけではなく,日常生活の中での実践的な能力を育み,社会の消費者力の向上を目指して行われるべきである。そのため,消費者教育の担い手については、「国・地方,行政・民間,消費者,事業者などの幅広い主体を担い手として,担い手を支援し,育成し,連携を図って,効果的・実践的に消費者教育に係る施策を進めて」いかなければならない(2013年6月28日閣議決定・2018年3月20日一部変更「消費者教育の推進に関する基本的な方針」)。
しかしながら,消費者教育の推進に関する法律(以下「消費者教育推進法」という。)が制定された後も,我々弁護士会など外部専門家との連携も含めて,消費者教育の担い手の支援,育成,連携は,必ずしも実効的に機能しているとは言い難い状況である。
また,消費者教育推進法では,地方公共団体に対して,消費者教育推進地域協議会を設置し(同法20条),消費者教育推進計画を策定することが求められているが(同法10条),いずれも努力義務にとどまっているため,全ての地方公共団体で設置,策定されているわけではない。
この点,「消費者教育の推進に関する基本的な方針」では,地方公共団体に対して,改めて,消費者教育推進地域協議会を活用し,消費者教育推進計画を策定することを求めており,国に対しても,情報交換の場を設けるなど,地方公共団体に対して積極的に働きかけることを求めている。
その他,「消費者教育の推進に関する基本的な方針」では,消費者教育の各地域における実質的な主体として,消費者教育コーディネーターの配置・育成に取り組むことが求められているが,福岡県等いまだ設置もされていない地方公共団体も散見される。
外部講師を活用される場合に必要なはずの予算措置も十分なものとは言い難く,今後,消費者庁が各地方公共団体から報告を求め,分析及び改善を図るべき点も多い。
成年年齢の引き下げが施行されるまでにはおよそ3年の猶予が設けられているが,この間に,若年者に対する消費者教育を幅広く展開することが必要であり,学校など教育機関との密接かつ実効的な連携を図る必要がある。
そして,消費者教育を展開するためには,国や地方公共団体による財政支援も不可欠であり,消費者庁には積極的なリーダーシップをとることが求められている。

(5) 適格消費者団体および特定適格消費者団体への支援

設置法は,同法等の施行後3年以内に,適格消費者団体による差止請求関係業務の遂行に必要な資金の確保その他の適格消費者団体に対する支援の在り方について見直しを行い,必要な措置を講ずることを求めている(同法附則5項)。
これは,適格消費者団体が事業者に対する差止請求権の行使等を通じて消費者利益を擁護する役割を有することから,適格消費者団体の充実した活動基盤を確保することこそが,消費者の利益擁護のために必要不可欠であると考えられたからである。このことは,その後に認められた特定適格消費者団体についても同様である。
消費者庁は,2015年10月に「消費者団体訴訟制度の実効的な運用に資する支援の在り方に関する検討会」を設置し,同検討会は2016年6月に報告書を取りまとめている。同報告書においては,適格消費者団体および特定適格消費者団体(以下「適格消費者団体等」という。)がPIO-NET(全国消費生活情報ネットワーク・システム)の情報を活用しやすくするなどといった情報収集面の支援,適格消費者団体等が寄附を受けやすくするなどといった財政面の支援,行政による適格消費者団体等の認定・監督にかかる事務手続の一部簡素化といった手続面の支援等が提言されている。
しかし,大多数の適格消費者団体等においては,学者や消費生活相談員,弁護士や司法書士などのボランティア活動によって支えられており,その活動基盤,とりわけ経済的基盤はきわめて脆弱であるのが実情であるところ,適格消費者団体等に対する直接の財政的支援は,まったくと言ってよいほど検討されていない。「地方消費者行政強化交付金」など,消費者庁による地方公共団体を通じた適格消費者団体等への支援は,地方公共団体による適格消費者団体等に対する理解などの温度差が顕著であり,その支援額において不十分であることは別にしても,すべての適格消費者団体等に公平な支援が行き届いているものとはいい難いのが現状である。
適格消費者団体等が,本来,行政が行うべき業務の一部を担っているという側面は否定することができず,行政による直接的な財政支援の導入が求められる。

5 消費者庁の全面的な地方移転について
(1)「まち・ひと・しごと創生法」に基づく移転の動き

以上のように,消費者行政の一層の充実・強化が求められるべきところ,これに反するような消費者庁の全面的な地方移転の動きがある。すなわち,2014年11月に施行された,「まち・ひと・しごと創生法」に基づき,内閣に「まち・ひと・しごと創生本部」が設置され,政府関係機関の地方移転についての検討がなされているところ,徳島県は,「消費者庁・消費者委員会・国民生活センターの移転の実現に向けた取組みを県を挙げて強力に推進する」として,「消費者庁等移転推進協議会」を設置するなど,消費者庁の全面的な徳島県への移転につき積極的な働きかけをなしている。
当会も,東京一極集中の是正や,地方創生に取り組む必要があること自体は,否定するものではない。
しかしながら,以下の理由から,消費者庁の地方への全面移転には反対せざるを得ない。

(2) 新未来創造オフィスの徳島県への設置

2016年9月1日に,「まち・ひと・しごと創生本部」が決定した「政府関係機関の地方移転にかかる今後の取組について」により,徳島県に「消費者行政の新たな未来の創造を担うオフィス」(新未来創造オフィス)が置かれ,実証に基づいた政策の分析・研究機能をベースとした消費者行政の発展・創造の拠点とすることとされた。その際,「現時点では,政府内の各府省共通のテレビ会議システムが整備されておらず,徳島県から東京や全国へのアクセス面の課題もあるなかで,消費者庁が行ってきた国会対応,危機管理,法執行,消費者行政の司令塔機能,制度整備等の業務については,迅速性,効率性,関係者との日常的な関係の構築等の点で課題がみられた。テレビ会議システム等を活用したやり取りにおいては,1対1や一方向のやり取りは問題ないが,多人数での意見調整には課題がみられた」と指摘されたことから,これまで消費者庁が行ってきた迅速な対応を要する業務,対外調整プロセスが重要な業務(国会対応,危機管理,法執行,司令塔機能,制度整備等)は東京で行うこととされた。
このような経緯で2016年7月24日に開設された徳島県の新未来創造オフィスでは,現在,全国展開を行うことを目的とした10のプロジェクトと,3つの基礎的研究が行われている。具体的には,若者の消費者被害の心理的要因からの分析に係る検討や,障がい者の消費行動と消費者トラブルに関する調査,子どもの事故防止調査,食品ロスに関する実証事業等が行われている。そして,新未来創造オフィス開設から3年後までに,その検証・見直しが行われることとされている。

(3) 現在の状況

消費者委員会の消費者行政新未来創造プロジェクト検証専門調査会では,「地方創生の観点からは,職員の滞在,出張者の増加等,人の流れの創出に一定の成果」があったとされ,「消費者行政新未来創造オフィスによる地方創生への直接の貢献」について,2017年度が約1億1300万円,2018年度が約1億900万円と報告されている。また,2019年9月5日,6日の両日,G20大阪サミットのサイドイベントとして,徳島市において「G20消費者政策国際会合」が開催される予定であり,その経済効果等が広く広報されて、消費者庁の全面移転の流れが加速するおそれもある。
前記のとおり,徳島県等は,同県への消費者庁の本体機能を含む全面的な移転の働きかけを強めており,新未来創造オフィスの検証・見直しを機として消費者庁の移転問題について結論が出される可能性を否定することができない状況にある。

(4)消費者庁の全面的な地方移転による弊害

消費者庁が,消費者政策の司令塔としての機能を強化し,緊急事態等に迅速に対応し,法制度の企画・立案・実施を効率的に行うためには,各省庁及び国会との迅速な意思疎通が必要不可欠である。
しかしながら,消費者委員会の消費者行政新未来創造プロジェクト検証専門調査会では,「テレビ会議の活用で一定の意思疎通はできるが,接続先が限られる上,対面の場合に比べ,様子や状況が分かりにくい,真意を伝えにくいといった課題も存在」したとか,「交通アクセスについては,県内の公共交通機関,県外への移動等,引き続き制約」があるとの指摘がなされている(一部移転した国民生活センターが,2017年度に,徳島県で開いた研修事業の参加者数は計509人であり,神奈川県相模原市で開いた同様の講座の1割強の人数に留まっている。)。
このように,他省庁との折衝が必要となる立法や予算の獲得といった本体機能を,徳島県において機能させることは困難であるうえ,迅速な対応を要する業務,対外調整プロセスが重要な業務(国会対応,危機管理,法執行,司令塔機能,制度整備等)に対応できないことは,これまでの新未来創造オフィスの試行によって明らかになっており,およそ消費者庁の全体的な移転を認めることができる状況にはない。
そもそも,消費者庁が発足したのは,2008年6月27日付の閣議決定「消費者行政推進基本計画」において,「我が国は各府省庁縦割りの仕組みの下それぞれの領域で事業者の保護育成を通して国民経済の発展を図ってきたが」,「消費者・生活者の視点に立つ行政への転換」を図るべきとされたからである。仮に,消費者庁が,全面的に地方移転した場合には,縦割り行政の弊害を是正して,消費者行政の一元化を図るという役割を十分に果たせなくなることが危惧される。
そこで,当会は,2015年12月15日付けにおいて「消費者庁・国民生活センターの地方移転に反対する意見書」を発出し,消費者庁等の地方移転に反対する意見を表明したところであるが,ここに改めて反対の意見を明らかにするものである。

6 結論

よって,当会は,消費者庁および消費者委員会をはじめ消費者行政の更なる充実・強化を求めるとともに,消費者庁の機能低下につながる全面的な地方移転について,強く反対するものである。
以上のとおり,決議する。

以上


決議の理由中におきまして,一般社団法人全国消費者団体連絡会の団体名の表記に誤記がございました。一般社団法人全国消費者団体連絡会をはじめ関係機関の皆様に深くお詫び申し上げます。
改めて,訂正後の決議をアップいたしましたので,お知らせいたします。

2019年6月13日


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