福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画

2013年6月25日

憲法改正発議要件の緩和に反対する会長声明

声明


1 日本国憲法第96条は、「この憲法の改正は、各議院の総議員の三分の二以上の賛成で、国会が、これを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない。この承認には、特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行はれる投票において、その過半数の賛成を必要とする。」と定める。
  ところが、さきの衆議院総選挙で政権を得た自由民主党は、憲法改正の発議要件を衆参各議院の総議員の3分の2以上の賛成から過半数の賛成に緩和し、これによって憲法改正を容易にしようとしている。日本国憲法改正の発議要件が厳格にすぎることから、主権者たる国民が憲法の改正を行うことを困難にしているというのである。
2 日本国憲法は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果と第2次世界大戦の未曾有の犠牲という厳粛な歴史的経過を踏まえて制定された。基本的人権の尊重、国民主権および恒久平和主義を規定して、国家権力に縛りをかけることにより、その権力の横暴や濫用から国民の基本的人権を擁護する極めて重要な役割を果たしている(立憲主義)。
ところが、その時々の政治的多数派の意向により容易に憲法改正がなされると、国の基本的な在り方が著しく不安定となり、立憲主義が大きく後退して、基本的人権の保障が形骸化しかねない。憲法改正に際しては、国会においてはもちろんのこと、国民相互間においても、充実した慎重な議論を尽くすことが求められる。
そこで、日本国憲法は、憲法改正についての国会の発議要件について、法律の制定や改正とは異なり、時々の政治情勢によって容易に変動し得る総議員の過半数では足りないものとし、充実した慎重な議論を尽くして形成される国民の安定的な多数意見を反映すべく、総議員の3分の2以上としたものである。
3 そして、このような日本国憲法の規定は、諸外国の憲法改正規定と比較してみても、特段厳格なものとはいえない。
例えば、欧米諸国の代表的な例をあげると、米国では連邦議会の3分の2以上の決議と4分の3以上の州議会の承認、ドイツでは連邦議会の3分の2以上の決議と連邦参議院の3分の2以上の決議が憲法改正に必要とされている。アジア諸国をみても、韓国は我が国と同様の要件、フィリピンでは議会の4分の3以上の議決の上で国民投票が必要となっている。
このように、現代の世界の趨勢を見ても、日本国憲法第96条の改正を正当化する合理的理由はない。
4 以上のことから、当会は、我が国の最高法規であり、国民の基本的人権を保障する日本国憲法の改正発議要件の緩和には強く反対する。

2013年(平成25年)6月25日
福岡県弁護士会会長 橋 本 千 尋

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