福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画

2012年3月21日

会長日記

会長日記

平成23年度 福岡県弁護士会 会長 吉 村 敏 幸(27期)


1.冠雪の富士山と人口政策会議の議論の応酬
福岡では、2月中旬からずっと雨天続きでした。2月15日の夜から上京したところ、東京でも曇天が続いたのですが、やっと18日の土曜日から快晴になりました。
いよいよ、土曜日は法曹人口政策会議の第8回全体会議(今年度最終日)が四谷の主婦会館で開催されました。日弁連の正副会長、各地単位会会長や委員ら、110名ほどの人員の会議です。
冒頭、議長代行が「窓の外には富士山が見えますので、カーテンを開けました。議論疲れの折は富士山をご覧ください」と発言されました。昼食の後、冠雪の富士山をくっきりとみることができました。なぜかしら、心が浮き立ちます。
ところが、その後の会議は激しい議論のやりとりが続きます。当会は司法試験合格者数について「段階的1500人説」を採択していましたので、日弁連案の「まず1500人説」に大筋賛成であり、34会は日弁連案に賛成でした。しかし、12ないし16会は「1000人説」の意見を提言していましたので、これをどのように日弁連案に取り入れてまとめるのかが議論になりました。しかし、現状2000人合格者に対して1500人へと減員することすら困難が予想されるのに、一挙に1000人へと減員を提言することは到底現実的な対応とは考えられず、私は「1000人説は単なる量的減員ではなく、質が異なる。よって1000人説は提言の趣旨の中に入れるべきではない。せめて、入れるならば理由中である」と述べました。この見解は、静岡、和歌山、京都、沖縄、一弁等の会長も同旨であり、激しい議論の応酬があり、結局最終的には多数決をとって、日弁連の原案賛成多数(賛成76・反対28・棄権5)により採択されました。これが、人口政策会議の最終とりまとめとして3月の日弁理事会に正式提案されることになりました。

2.未成年後見人の責任軽減の提言
2月16日の日弁理事会において、子どもの権利委員会から「未成年後見人の業務は身上監護と財産管理があるが、身上監護については被後見人の不法行為に基づく損害賠償責任が過大であるために、受け皿となる弁護士人員が準備できないでいる。よって、未成年後見制度を改正して、この責任の軽減を求める」という趣旨の意見書の提案が出され、採択されました。
昨年の東日本大震災により、両親のうちどちらか一方の親を亡くした子ども(ただし18歳未満)は、岩手、宮城、福島の被災三県で1,295人(2011年7月29日現在)、両親を亡くした子ども、あるいは一人親を亡くした子ども(いわゆる震災孤児)は229人(同日現在)といわれているところ、弁護士も未成年後見人になっているとのことでした。
岩手県弁護士会の会長は「自分も未成年後見人になっている。子どもは施設に入っているが、ときどき会って身上監護をしている」との発言をされました。

3.「養育費・婚姻費用の簡易算定方式・簡易算定表」に対する意見書(案)について
2003年3月、東京・大阪養育費等研究会が、判例タイムズ1111号で発表した「簡易迅速な養育費の算定をめざして―養育費・婚姻費用の算定方式と算定表の提案」(以下「研究会提案」といいます)は、弁護士ならば皆様ご存知のことでしょう。
この算定表は、その目標どおりに迅速な算定という結果をもたらし、実務に定着しました。しかし、その表の根拠となった計算方法は多々問題点が指摘されていました。つまり、算定される養育費額が、最低生活水準にすら満たない事案を多数生み出し、母子家庭の貧困を固定又は押し進め、特に子どもの教育環境を両親家庭に比して著しく低い水準に固定化し、事案によっては離婚を契機に就学を断念するなど教育の機会を失わせる酷な結果をもたらす一因となっていたのです。この意見書(案)が提案され、3月理事会で審議されることになりました。以下、意見書(案)を抜粋します。
「1年間の間に両親の離婚を経験する未成年子は、252,617人(2010年人口動態統計)であり、この10年、この数字は横ばいの状況にある。2011年の年間出産数は、約106万人であり減少の一途をたどっているから、すべての子の4分の1近くが両親の離婚にさらされる傾向にあるといっても過言ではない。成人化に20年を要することから、単純に20年を乗ずると、両親が離婚している未成年子が約500万人存在することとなる。
一方、その約8割は母が親権者となっており、この点もここ10年変化がない(同人口動態統計)。しかし、その母子家庭の平均就労収入は、171万円であり、全世帯の平均年収564万円の3割にすぎない(2006年度全国母子世帯調査)。未成年子を監護する母子世帯の2010年の貧困率は48%にも及んでおり(国立社会保障・人口問題研究所)、養育費額の公正な算定は、多くの子の成長発達の保障、子の福祉の増進に不可欠であるだけでなく、教育力は国の力の基本となるものであることを考慮すると日本の将来を決するほど重要なものといえる。そこで、当連合会は、次のとおり提言する。
1 当連合会を含め、裁判所及び厚生労働省等の養育費実務関係機関は、子どもの成長発達を保障する視点を盛り込んだ、研究会提案に変わる新たな算定方式・算定表を作成すること。
2 養育費等に関わる実務関係者は、研究会提案の簡易算定方式・簡易算定表の仕組みと問題点を認識し、新たな算定方式・算定表が作成されるまでの間、研究会提案の簡易算定表を慎重に使用するものとし、同簡易算定方式の考え方(双方の総収入について、標準化した公租公課・職業費・特別経費を控除して、各基礎収入を算出しその合計額について、指数化した生活費指数を用いて按分する考え方)を流用する場合には、子どもの福祉の視点を踏まえ、少なくとも公租公課を可能な限り実額認定し、特別経費を控除しないなどの修正を加えて算定すること。
3 新たな算定方式・算定表が作成されるまでの間、研究会提案の簡易算定方式・簡易算定表の問題点について、裁判所及び養育費相談支援センター等厚生労働省の事業等での周知を図ること。」
私も上記提言の趣旨は実感として抱いていたために、早急に当会の両性の平等委員会において算定表の修正点についての検討をお願いし、会員に使い勝手のよい提案をしていただきたいと願っています。

4.帰途の日本アルプス
2月19日日曜日の午後から、県弁会館で新旧執行部の引継会があるため、早朝、帰福しました。飛行機から見る富士山は頭を雲の上に出し、あたりを睥睨しています。
意外にも中央アルプスの峻険な稜線にはわずかな雪しか残っておらず、太陽の光に照らされて美しいです。ところが、中国地方、九州は厚い雲に覆われていました。前日まで大雪が降ったとのことでした。
あと1か月余で会長職も終わりとなります。

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