福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画

2010年5月28日

国選付添人選任の対象を観護措置決定を受けた少年すべてに拡大することを求める決議

決議

国選付添人選任の対象を観護措置決定を受けた少年すべてに拡大することを求める決議

2007年の少年法改正により,一定の重大事件(故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪及び死刑又は無期若しくは短期2年以上の懲役若しくは禁錮に当たる罪)については,家庭裁判所が弁護士である付添人の関与が必要であると認めるときという条件があるものの,国選付添人が選任されることになった。
こうして,国選付添人制度が発足したことは,大きな前進とはいえるものの,その他の事件により観護措置決定を受けている多くの少年は,付添人が選任されないまま少年院送致などの重大な審判を受けるという事態が続いている。
とりわけ,被疑者国選対象事件が拡大され,いわゆる必要的弁護事件については,すべて被疑者の段階で国選弁護人を選任することができるようになった。そのため,少年についても,被疑者段階では国選弁護人が選任されていたにもかかわらず,家庭裁判所に送致されると同時に当該少年には弁護士が選任されなくなるという事態を生じさせている。これは,法の不備といわざるを得ない。
少年事件に弁護士付添人を選任することは,冤罪を防ぐという観点から不可欠であるだけでなく,適正な手続きの下で,適正な保護処分に付するという観点からも,そして,何よりも少年の更生を図るという少年法の理念を実現するうえでも不可欠である。
これまで,日弁連は,弁護士自らが費用を出し合い,法律援助という方法で多くの少年が弁護士付添人を選任できるように努力してきた。しかしながら,冤罪を防止し,適正な手続きの中で適正な保護処分に付すること,そして,少年の更生を期すことは,すべて国の責務である。
そこで,福岡県弁護士会は,少年が家庭裁判所に送致され,観護措置決定を受けて身体拘束されている事案については,すべて国選付添人が選任される制度,すなわち全面的国選付添人制度を早急に実現することを求めるものである。
以上のとおり決議する。

2010(平成22)年5月25日           
福岡県弁護士会定期総会

提 案 理 由

1 福岡県弁護士会は,2001年2月,全国に先駆け「全件付添人制度」を発足させた。この制度は,観護措置を受けた少年については,その少年が弁護士付添人の選任を希望する限り,すべて弁護士会の責任において,弁護士付添人を選任するという制度である。
  少年事件においても,検察官送致(少年法20条)や少年院送致,児童自立支援施設等への送致など長期間に渡る身体拘束を伴う重大な処分がなされる可能性がある。特に,観護措置決定を受けた少年については,その期間中身体拘束を受けるだけでなく,上記の重大な処分を受ける可能性が高くなる。
しかしながら,それまで多くの少年が,弁護士の関与のないまま,少年院送致等の重大な処分を受けていた。
そのため,福岡県弁護士会は,少年を冤罪から守り,適正手続きと適正な処分を保障し,少年の更生の援助をするため,上記全件付添人制度を発足させたのである。

2 我々弁護士は,家庭裁判所の理解と協力を得て,多くの観護措置を受けた少年の付添人に選任されてきた。
そして,少年の人権を守り,少年の更生を期すための付添人活動を実践してきた。その活動の中で,多くの少年が自立・更生する姿を見ることができた。そうした付添人活動によって,少なくとも観護措置決定を受け,身体拘束されている少年については,重大事件だけではなく,窃盗事件や傷害事件,さらには少年法特有のぐ犯事件などすべての事件について弁護士付添人が不可欠であることを実感している。

3 確かに,少年法は,「少年の健全な育成を期す」という保護処分を課すものである。しかし,「保護処分」といっても,相当期間少年院に収容するなどして,少年の自由を大きく制限する処分も含まれており,その処分は適正な手続きの下での,適正なものでなければならない。
また,家庭裁判所には調査官がいて,調査官が少年の資質,生育歴,家庭環境などを調査し,適正な処分を図るシステムがある。しかしながら,弁護士付添人は,少年の立場に立って,真相を解明するとともに,時には被害者と直接接触し,被害回復のための措置を講じたり,その被害実態を少年や保護者に説明して少年やその保護者に反省を促し,さらに,社会環境の調整を試みるなどして少年の早期更生を図る活動を実践している。こうした活動は,弁護士付添人にしかできないものであり,かつ,少年の更生にも極めて有益である。

4 そして,こうした地道な活動が一つの契機となって,2007年には,ようやく国選付添人制度が発足した。
 しかしながら,この国選付添人制度は,その対象が① 故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪,② 死刑又は無期若しくは短期2年以上の懲役若しくは禁錮に当たる罪,という重大事件に限定されており,しかも,「家庭裁判所が弁護士である付添人の関与が必要であると認めるとき」という条件が付されている。
弁護士付添人が少年事件において不可欠であることは,先に述べたとおりである。つまり,少年の人権を守り,少年の早期更生を図る必要は,重大事件に限られるものではないし,少年法特有のぐ犯事件においても,とりわけ観護措置が必要なほどぐ犯性が進んでいる少年については弁護士付添人の存在が不可欠である。

5 また,2009年5月21日から,いわゆる必要的弁護事件については,被疑者段階から国選弁護人を選任できる制度に改められた。そのため,少年も,窃盗,傷害などの必要的弁護事件について,被疑者段階においては,国選弁護人を選任することができるようになった。
成人であれば,起訴されると同時に,被告人国選弁護人が選任されることになる。しかし,少年の場合は,上記のとおり国選付添人制度の対象が極めて重大な事件に限定されているため,多くの少年については,家庭裁判所に送致されると同時に弁護士の関与がなくなるという結果になる。
  日弁連は,こうした状況を回避するため,被疑者段階で国選弁護人が選任されていたケースについては,少年が家庭裁判所に送致されてからも,法律援助を利用して,できる限り弁護士が付添人に選任されるように努力している。
もっとも,この法律援助は,我々弁護士の拠出した資金によって運用されている。したがって,国選付添人制度が拡大されない限り,我々弁護士の拠出は永遠に継続されることになる。しかし,上記のとおり,観護措置決定を受けた少年には,弁護士付添人は不可欠であり,弁護士付添人を選任することは国の責務である。

6 被疑者国選弁護制度を拡大した趣旨からしても,国選付添人制度の拡大は必然である。
被疑者国選弁護制度も,当初はその対象が短期1年以上の重大な事件に限定されていた。
しかし,冤罪を防止するために被疑者国選弁護人が不可欠であることは,こうした重大事件に限られるものではなく,窃盗事件や傷害事件など他の多くのいわゆる必要的弁護事件においても同じである。弁護士の対応能力などの問題から,当初は重大事件に限定されていたが,最終的には必要的弁護事件すべてを被疑者国選弁護制度の対象に拡大した。同様に,少年事件についても,国選付添人制度の対象を拡大しなければならないことは当然である。
そもそも,被疑者段階での弁護活動は,起訴されるべきでない被疑者を起訴させないための活動は当然のこととして,起訴されたのちを想定して活動する。すなわち,無実の被疑者が将来有罪判決を受けることがないように,被疑者に虚偽の自白をさせないように,また,被疑者に有利な証拠を収集する活動を行なう。被疑者が当該犯罪を実行している場合であっても,必要以上に重い刑が言渡されることがないように,適正な判決がなされるように活動する。特に,少年事件の場合は,家庭裁判所に送致されてから原則4週間以内に審判が行なわれるため,被疑者段階から,少年や保護者と信頼関係を築き,反省を深めたり,被害弁償をしたり,環境調整に取り組む。
つまり,被疑者弁護は,それ自体が目的ではなく,将来の裁判(審判)を見据えて,最終的に当該被疑者の権利が侵されることがないように活動をするのであって,起訴(家庭裁判所送致)後の活動と不可分一体のものである。ましてや,少年事件の場合には,家庭裁判所送致後時間的猶予がないため,被疑者段階から,少年の更生を目指した活動を実践しているのである。
そうであるにもかかわらず,被疑者段階にのみ国選弁護人が選任され,家庭裁判所に送致されると同時に弁護士の関与がなくなるという現在の法制度はあまりにも不合理で,早急に是正されなければならない。

7 以上のとおり,非行を犯していない少年を冤罪から守り,非行を犯した少年であっても,適正な処分が課せられるべきであり,かつ,その更生のために可能な限りの援助がなされるべきである。そのためには,国選付添人選任の対象を,少なくとも観護措置決定を受けたすべての少年とすべきである。
福岡県弁護士会は,この間,全国に先駆けて全件付添人制度を立ち上げ、この制度を全国に広げるために先頭に立って努力してきたが、国選付添人制度の対象が拡大されたのちは,マンパワーを一層充実させて,その対象となるすべての少年の権利を守り,その更生を期すために最大限の努力を惜しまないことをここに誓うものである。
よって,政府,国会,最高裁判所及び法務省に対し,すみやかに全面的国選付添人制度の実現のための法改正を行なうことを求めるものである。
以上

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