福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画

2007年8月20日

割賦販売法改正についての会長声明

声明

産業構造審議会割賦販売分科会基本問題小委員会が本年6月19日に中間整理案を発表した。
この整理案では,従来からの加盟店管理を求める行政指導や業界の自主的取組にもかかわらず,悪質販売業者による高齢者等を狙った強引又は詐欺的な勧誘による被害が多発し,それにクレジット会社が安易に与信をして救済が十分なされないケースが相変わらず発生しているという現状が指摘され,このようなクレジットトラブルの背景にはクレジットシステムの構造的危険性があり,クレジットシステム提供者として一定の責務があるという認識を示している点は十分評価できる。
この整理案で議論されている論点のうち,このようなクレジット被害救済や防止に不可欠な不適正与信の防止,過剰与信防止の2つの論点では複数の意見が併記された形になっており,今後の議論次第ではどのような結論になるのか予断を許さない状況になっている。
当会は,本年6月9日に九州弁護士会連合会との共催でクレジットシンポジウムを開催し,アピールを採択したところであるが,改めてクレジットトラブルを真に救済し防止できるような制度改正が是非とも必要であると考え,この中間整理案の2つの論点について以下のような意見を述べる。


1,不適正与信の防止について
中間整理案で,不適正与信を行ったクレジット事業者に対して経済的不利益をもたらすような何らかの民事ルールが必要であると指摘している点はその通りである。しかしながら,その方策として信義則を拠り所にした過失「損害賠償責任」説と,日弁連が提唱する無過失「共同責任」説が両方紹介されている点については,前者は妥当でなく,あくまで後者こそが妥当であると考える。
  まず,同整理案がクレジットシステムの構造的危険性を指摘し,システム提供者の責務を議論しているところからすると,それで利益を得ているクレジット事業者には被害防止の責任を負わせるべきことが当然導かれるものと考える。
  そして,悪質商法と結びついたクレジット被害の予防・救済の見地からは,現行の抗弁対抗規定(割賦販売法30条の4)だけでは,クレジット事業者が加盟店への与信を適正に行う動機付けとしては不十分であり,既払金の返還という法的効果を定めるべきである。
  その際,消費者側がクレジット会社と加盟店との間の内部事情を知ることは極めて困難であることから,既払金返還に伴ってクレジット会社の故意・過失の証明 を要求すると現実の救済には繋がらないことは明らかであり,過失損害賠償責任説は妥当とは思われない。
  よって,実効的な被害の予防・救済のため,クレジット会社の無過失の共同責任を定めることが不可欠である。


2,過剰与信の禁止について
中間整理案が次々販売等による過剰与信を防止する責務があると指摘している点,信用情報調査による支払能力の調査及びその結果による信用情報機関への登録を義務づけるべきとの指摘はその通りである。
 しかし,現在多発している次々販売等の過剰与信被害を予防するためには,ク レジット会社の明確な過剰与信基準を法律で定めた上で,これに違反したクレジ ット会社に対しては厳しいペナルティを課す必要があると考える。過剰与信基準については,顧客の債務額が一定の基準を超える場合はそれ以上クレジットの利用ができないよう厳しい審査を求めるとともに,販売信用の特性に見合った基準を設けることでバランスをとるべきである。
  また,個々の販売行為が詐欺や特商法違反などに当たらなくとも,高齢者等を狙った著しい過剰与信被害が発生している現状からして,このようなケースを救済するためには,クレジット会社の請求権制限等の民事的効果を明文で定めるべきものと考える。
  当会は,このような割賦販売法の改正が実現されて初めてクレジット被害が根絶され,消費者が真に保護される安全なクレジット社会を構築できるものと考える。その結果として,消費者とクレジット業界双方に利益がもたらされることになり,健全なクレジット社会の発展が実現できると確信する。


3,結論
  以上をふまえ,当会は,割賦販売法の改正においては,下記の制度を設けることを要望する。

 ? 不適正与信による被害の予防・救済のため,クレジット会社の無過失の共同責任を定めること。
 ? 過剰与信による被害を防止するため,クレジット会社の明確な過剰与信基準を定め,かつ,これに違反した場合には,請求権制限等の民事的効果を定めること。


  
                2007年(平成19年)8月8日
                      福岡県弁護士会
                       会 長  福 島  康 夫

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