福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画

2004年4月 5日

知的財産権訴訟の専属管轄制度に反対する会長声明

声明

福岡県弁護士会 会長  松? 隆

 平成16年(2004年)4月5日

 平成16年4月1日、改正民事訴訟法が施行された。この改正法には、特許権、実用新案権、回路配置利用権又はプログラムの著作物についての著作者の権利に関する訴えにつき、東日本の事件については東京地方裁判所を、西日本の事件については大阪地方裁判所を、それぞれ第一審の「専属」管轄とする旨の規定が盛り込まれている。この改正は、特許権等に関する訴えについて、原則として、東京および大阪以外の地方裁判所では裁判を受けられなくなることを意味するものである。
 したがって、改正法の下においては、東京あるいは大阪以外の地域に在住し所在する市民や企業は、これらの訴えについては、自らが在住し所在する地域から離れた東京又は大阪の地方裁判所においてその対応を強いられる結果となる。その結果、これらの地域に在住し所在する市民や企業が法的救済を受けようとする場合には、東京や大阪に居住し所在する者に比して、より多くの費用と時間を要する事態となることは避けられず、これらの負担を慮って法的手段を選択することを躊躇ないし回避したりする事態や、さらには、さほど高額とは言えない事件が地方企業と首都圏企業との間で発生した場合には、地方企業が泣き寝入りしてしまうといった事態の発生すら懸念される。
 また、特許権等に関する訴えが東京及び大阪以外の地方裁判所には係属しないことに伴い、これ以外の地域においては特許権等に精通した弁護士等の専門家が減少することが予想され、ひいては、東京および大阪以外の地域に在住し所在する市民や企業が、特許権等について気軽に相談できる体制が崩壊する事態ともなりかねない。\n このように、今回の上記改正は、東京・大阪以外の地域に在住し所在する市民や企業の権利を侵害するものであり、また、東京・大阪以外の地域における知的財産権の発展を阻害する恐れを含むものである。このことは、司法過疎を解消し、
全国どこでも法的救済が受けられるようにしようとする構想(司法ネット構\想等)や近年の司法改革の理念に反し、これらの流れに逆行するものであると言わざるを得ない。
 もとより、特許権等に関する裁判の専門性や国際的戦略の観点から、これら裁判を東京あるいは大阪の裁判所で取り扱うことが相当である場合も存する。しかし、改正前の民事訴訟法の下においても、東京及び大阪の地方裁判所に全国の事件に関する選択的管轄権を認めており、東京あるいは大阪の裁判所で取り扱うことが相当であると思料される事件については,いずれの地域で発生した事件であってもこの両地裁で審理することが可能であったのである。したがって,改正前の制度を変更して,上記両地裁に「専属」管轄を認めるべき合理的理由は見当たらない。\n また、専属管轄の対象となる事件が,今後,商標・意匠・不正競争・コンピュータープログラム以外の著作権関係訴訟,さらにはその他の専門的訴訟にまで拡大していくことも危惧される。
 よって,当福岡県弁護士会は,今回の民事訴訟法改正によって導入された専属管轄制度を廃止する法改正を,できる限り早期に実施することを求めるものである。

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