福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画

2003年9月11日

労働関係事件への総合的な対応強化に係る意見

意見

2003年9月11日   福岡県弁護士会 会長 前田 豊

 当会は,労働関係事件についての総合的な対応を強化する必要があると認め,次のとおり,意見を述べる。

 意見の趣旨 
1 利用しやすい労働審判制度を
 労働関係事件が多発していることから,労働紛争に関して,多様な紛争解決制度が設けられる必要がある。労働検討会で提起された個別労働紛争に関する労働審判制度については,適性・迅速な解決が図られるよう,労使の参与員が裁判官と対等に合議に加わることを認め,定型の申立書を備えるなどして口頭での申\立を可能にし,利用しやすい制度とすべきである。\n 2 相談におけるワンストップサービスを裁判外の行政相談等にあっては,個別労働紛争に係る各行政機関の連携を強化し,官民も含めた関係団体の協力も得て,利用者の便宜に資するワンストップサービスを充実させるべきである。
 3 仮処分・本案訴訟の迅速化を
 仮処分手続と本案訴訟の審理の迅速化を図るため,仮処分手続については,解雇事件等緊急を要するもことに鑑み,原則として申立後2か月以内に裁判所の判断を出すこととし,本案訴訟についても審理期間を短縮するための諸方策を併せて講じるべきである。
 4 労働委員会の機能強化を\n 労働委員会の事務局の専門性を強化するなど,労働委員会の判定機関としての機能を強化するとともに,訴訟段階で初めて出された証拠方法については,時期に遅れた攻撃防御方法として証拠から排除するなど,労働委員会の解決機能\を充実し,実効性を高めるべきである。
 5 整理解雇の4要件の法制化を
 整理解雇の4要件についてはすみやかに法制化し,行政指導などにより周知徹底を図るべきである。

 意見の理由
 1 これまでの労働検討会の議論状況に対する評価
 議論の前提として,個別労働紛争の増加が共通認識となっているが,それがいかなる背景に基づくのかの議論がなお不足しているように思われる。すなわち,人件費削減に関わる解雇や労働条件の不利益変更等の紛争が増え,働くルールそのものの空洞化が生じている。こうした中で,検討会全体の議論は,労働者の地位・権利に配慮した考察がなお不十分であるように感じられる。\n 2 喫緊の課題
 そうした中において,当会は,実現すべき喫緊の課題に絞って意見の趣旨を述べることとしたものであり,早急に実現可能な内容として提案する。\n 3 意見の趣旨に至った理由
 (1) 中間報告で導入が提唱されている労働審判制度にあっては,簡易・迅速・安価な紛争解決という趣旨に照らし,調停に類似する制度として導入することが望ましい。その場合,専門的知識を有する労使のスタッフを確保し,裁判官とともに,参与として,労使委員が実質的に関与するなどして労働審判制度を利用しやすいものにする必要がある。
 (2) 行政段階における,いわゆるたらい回しを防止し,利用者の便宜に徹することが喫緊の課題である。現在でも関係行政機関の連絡協議がなされているようであるが,今後は弁護士会も含めた官民の連携と協力体制の構築を図るべきである。\n (3) ヨーロッパの労働裁判制度においては,従来から早期解決が重視されている。一方,我が国では,仮処分が本案訴訟化し,本案訴訟も長期化している。そこで,仮処分制度本来の趣旨・目的に立ち返り,とくに解雇事件における緊急の救済の必要性にも鑑み,仮処分手続の審理期間を短縮すべきである。本案においても,本案移行後の計画審理,集中証拠調べを実施することで,審理期間の短縮を図るべきである。
 (4) 労働委員会の機能強化については,これまでも数多くの議論がなされ,提言もなされてきたが,現状に鑑みれば,一つの方策として,労働委員会事務局の専門性を強化することも有力な一方策として考えられる。\n (4) リストラ・整理解雇については,すでに確立された判例法理があるので,これを法制化し,アナウンス効果を高めることで,解雇に対する認識を高め,併せて行政指導によって趣旨の徹底を図ることが重要と考える。

  • URL

カテゴリー

Backnumber

最近のエントリー