福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)
月報記事
中小企業法律支援センターだより 中小企業診断士による講演会(「コロナウイルス支援制度概要と経営回復への道筋」)のご報告
中小企業法律支援センター
委員 長谷 修太郎(65期)
令和2年7月10日、福岡県弁護士会館2階大ホールにて、福岡県中小企業診断士協会の仲光和之中小企業診断士(以下「仲光中小企業診断士」といいます。)をお招きし、「コロナウイルス支援制度概要と経営回復への道筋」と題してご講演(以下「本講演」といいます。)をいただきましたので、ご報告いたします。
1 本講演のきっかけ
当会は、新型コロナウイルス感染症(以下「コロナウイルス」といいます。)の感染拡大の影響により経営に関する問題や不安を抱える事業者の支援のため、令和2年3月24日から7月30日までの間、電話無料相談を実施しています。この電話無料相談において、コロナウイルスの影響に対する各種支援制度(以下「コロナウイルス支援制度」といいます。)に関連した相談が数多く寄せられ、弁護士として同制度の全体像や概要を把握しておくことが有益と思われたため、同制度の実務に精通している仲光中小企業診断士に依頼し、本講演が実現いたしました。
本講演は、コロナウイルスの感染拡大を防止するため、現地会場ではアルコール消毒やマスクの着用、ソーシャルディスタンスの確保等の感染防止策を徹底するとともに、Zoomを利用したオンラインでの参加も可能としました。これは外部講師を招いた当委員会主催のイベントとしては当会として初の試みでしたが、コロナウイルスの感染防止が図られただけでなく、通常よりも多くの会員の皆様のご参加を頂くことができ(合計103名。うちZoomでの参加77名)、イベントのアクセス向上や活性化という点でも有効であったように思います。

現地会場の模様(1)
2 コロナウイルス支援制度の概要
本講演の前半では、コロナウイルス支援制度の全体像として、(1)融資、(2)給付金、(3)補助金に大別し、各制度の概要をご説明いただきました。
(1) 融資
コロナウイルス支援制度としての融資は、更に、(ⅰ)日本政策金融公庫や商工中金等の政府系金融機関による融資と、(ⅱ)信用保証制度を用いた民間金融機関による融資に分類されます。各融資の条件等の詳細については省略いたしますが、それぞれ特に以下の点につき留意すべきとのことでした。
(ⅰ) 政府系金融機関による融資
- 融資の申込みから実行まで2、3か月を要するイメージ
- 業歴は3ヶ月以上であれば(一定の追加要件を充足する必要はあるが)融資対象になり得る
- 既存債務の借換えも可能
- 利子補給制度の対象になるが、その申請方法や具体的な手続きは未定(一旦は利子を支払う必要があり、追って補給される)
(ⅱ) 信用保証制度を用いた民間金融機関による融資
- 市町村からセーフティネット保証の認定を受けたとしても、保証協会や民間金融機関の審査に必ず通るわけではない
- 民間金融機関によっては、融資審査に加え、セーフティネット保証の認定申請及び保証審査の依頼をワンストップで行ってくれるところもある
- 保証料及び利子の減免制度あり
(2) 給付金
コロナウイルス支援制度における給付金としては、主に、(ⅰ)持続化給付金と、(ⅱ)家賃支援給付金が挙げられます。各給付金の支給条件等の詳細については省略いたしますが、それぞれ特に以下の点につき留意すべきとのことでした。
(ⅰ) 持続化給付金
- 給付額の上限は、法人200万円、個人事業者100万円
- インターネット経由の電子申請が基本だが、申請サポート会場あり(事前予約、必要書類の事前準備が必要)
- 不正受給には罰則あり(給付金全額+αの返還、法人名等の公表、刑事告発)
(ⅱ) 家賃支援給付金
- 2020年5月~12月の売上高が減少した法人・個人事業者が支給対象
- 給付額の上限は、法人600万円、個人事業者300万円
- 2020年7月14日から受付開始
(3) 補助金
コロナウイルス支援制度における補助金としては、主に、(ⅰ)ものづくり・商業・サービス補助金(ものづくり補助金)、小規模事業者持続化補助金(持続化補助金)及びIT導入補助金における「コロナ特別枠」、(ⅱ)ものづくり補助金及び持続化補助金における「事業再開枠」が挙げられます。
「コロナ特別枠」は、Aサプライチェーンの毀損への対応、B非対面型ビジネスモデルへの転換、Cテレワーク環境の整備というコロナウイルスへの対応にかかる費用の一部を支援する補助金です。「事業再開枠」は、消毒、飛沫防止、換気、その他衛生管理等のコロナウイルスの感染防止のための取組みにかかる費用の一部を支援する補助金です。いずれもコロナウイルスへの対応として新たに制度が設けられたものであり、ぜひ活用されたいとのことでした。
3 経営回復への道筋
本講演の後半では、「融資返済と業績回復への道筋」として、(1)業績回復に向けたアクションプランの考え方と、(2)経営の「やり方」と「あり方」の両面を整えることについてご講演いただきました。
(1)については、コロナウイルスの影響による生活様式・行動パターン・価値観の変化を踏まえ、「誰に」(=ターゲット)、「何を」(=商品・サービスの内容)、「どのように」(=価格・場所・方法、差別化要素)との観点からの事業の見直しが重要になるとのことでした。
また、会社のお金の流れを把握(ビジュアル化)し、返済額・将来への投資・万一への備えのための必要額から逆算した数値目標を定めることにより、根拠のある経営判断や従業員への意識付け・動機付けが可能になるとのことでした。
(2)については、会社の経営において、その方法論(=「やり方」)だけではなく、ミッション(仕事をする理由・使命)、バリュー(行動指針・価値観)、ビジョン(将来の方向性・目標)といった経営の「芯」(=「あり方」)を定めて整えることが重要であるとのことでした。
4 まとめ
最後に、コロナウイルス対応の現状について、以下の通り分析いただきました。
- 現在は、支援策を行き届かせる第1ステージから次のステージに移行している時期
- 多くの経営者は月商×3か月との目安で資金調達していたため、2度目の借入れが予想される
- 運転資金の確保に成功した又は成功しそうな経営者と、どうにもならない経営者とで二極化している
- 経営の方法としては、万一の備えのための必要額(キャッシュ)を意識した計画的な経営に移行していくのではないか
- コロナウイルス対応は、特定領域の専門家だけでは限界があり、士業の連携が重要である

現地会場の模様(2)
本講演を拝聴し、コロナウイルスの感染拡大という未曾有の状況下では、法的な知識だけでなく、各種支援制度の活用や事業計画の検討・策定、経営のあり方などにつき、多少なりとも経営者に寄り添うための知識や言葉を持っていることが、弁護士の価値を高めることにつながると感じました。我々弁護士も、本講演でありましたように、その「あり方」と「やり方」を追求し、整えていくことで、今後更なる事業者支援の拡充・充実を図っていくことが出来ればと思います。
2020年7月 1日
あさかぜ基金だより
あさかぜ基金法律事務所 所員 西原 宗佑(71期)
早いものであさかぜに入所して1年半余りが経過しました。今年5月にはあさかぜの先輩である小林洋介弁護士(70期)が長崎県平戸市へ赴任します。私も先日、壱岐ひまわり基金法律事務所の所長に応募し、目下、その面接を受けるべく、準備をすすめている真っ最中です。
緊急事態宣言が出たあと、事務所からの外出もほぼなくなりました。そこで、あさかぜの日常の雰囲気とこれまでのあさかぜでの経験と感想をご紹介します。
あさかぜの日常
あさかぜは他の事務所と異なり、毎年司法過疎地域へ赴任する弁護士、新たにあさかぜに入所してくる弁護士がいて、常に人員の入れ替わりがありますから、1年ごとに事務所内での雰囲気がまったく違うことを実感します。
昨年は、私と田中秀憲弁護士(69期)と小林弁護士の3名と事務局2名という構成でしたので、比較的落ち着いた雰囲気で執務していました。また、それぞれの弁護士が担当している案件も異なっていたため、弁護士同士でコミュニケーションを取る機会も少ないものでした。
ところが、今年は72期の元気な新人弁護士が3人も入所したため、雰囲気が一変しました。現在は、小林弁護士があさかぜから抜け、弁護士5名と事務局2名で執務しています。そのため、打合室がすべて埋まるときもあり、私も72期の弁護士と共同で担当している案件も多いので、必然的に業務上でのコミュニケーションの機会が増え、事務所内がにぎやかになりました。それに加え、所員同士で外食したり(できる限り自粛はしています。)、所員全員で業務に関する勉強会をもったりして、所員同士の親交も深めています。
現場の意見としては、所員の人数は多い方が、事務所に活気があふれて、また、所員同士で議論も活発にできるので良いように思います。
私が退所し、73期の弁護士が入所した場合には、事務所の雰囲気がまたどのように変わるのか気になるところです。
あさかぜでの経験
私は壱岐ひまわり基金法律事務所の所長に応募しましたので、スムーズに進めば、今年11月末には、あさかぜを退所し、12月には壱岐で仕事をはじめることになります。
本当は、4月に壱岐ひまわり基金法律事務所へ見学に行き、現在その所長で、あさかぜのOBでもある古賀祥多弁護士(69期)に、相談や事件受任の様子と苦労話、経営状況などを教えてもらったりして、準備をすすめる予定でした。しかし、コロナ禍のために、その見学も延期となってしまいました。
これまでのあさかぜ生活を振り返ってみると、あさかぜに入所して以来、司法過疎地域各所で活躍しているあさかぜOBの事務所を多く訪問することができました。たとえば、壱岐や対馬をはじめ、豊前や人吉にも行くことができました。あさかぜに入所したからこそ、行くことのできた場所もあり、知らない地域を訪れることが好きな私からすると、非常に楽しく実りあるあさかぜ生活でした。
福岡県弁護士会の一会員として
私はこれまでに、刑事弁護等委員会、業務委員会、県弁護士会主任に主に参加し、当会の委員会活動に携わっておりました。また、昨年度は刑事弁護研究会の幹事も務めさせていただきました。さらに、あさかぜ関係の委員会にも毎回参加しました。これらの活動を通じて、当会の様々な弁護士と関わりを持つ機会も増え、ようやく委員会での仕事を与えられ、自分の立場ができたと思う矢先に当会を離れ、司法過疎地域へ赴任するということは少々名残惜しい気持ちがあります。
その反面、これからは全く知らない場所で、弁護士活動を行うということも冒険的で楽しみである気持ちもあります。
私が司法過疎地域へ赴任した後のキャリアプランについては現時点では全く未定ですが、いつかまた出身地でもある福岡に戻ってきて、弁護士業務、委員会活動に参加できる日が来たらいいなと思っております。
2020年5月 1日
2019年度高度専門研修「ファッションに関する法律問題」ファッション・ローってどんなもの?
研修委員会
1 はじめに
研修委員会では、毎年、各分野において活躍される方による研修を企画しています。2019年度は、2020年2月7日に、第二東京弁護士会所属の弁護士海老澤美幸先生をお招きし、「ファッション・ロー」についての研修を開催しましたので、ご報告します。
2 ファッション・ローとは
講師の海老澤先生は、自治省(現 総務省)を経て、出版会社に入社し、その後ロンドンにてスタイリストアシスタントとなり、日本においてもフリーランスファッションエディターとして活躍された後、法科大学院を経て弁護士登録されたという、まさにファッションの実務も法務もすべて網羅しておられるご経歴となります。
海老澤先生からは、イントロダクションとして、ファッションブランドをめぐっては、生地屋・縫製工場、ショールーム・小売店、PR会社、モデルエージェンシー・ファッションモデル、デザイナー、経営者、投資家などなど様々な立場の人・会社が関係していることや、ファッションブランドの立ち上げから商品の販売までには、ブランド名やロゴが決定すれば商標、商品デザインの検討にあたっては意匠・ライセンス・著作権・不正競争防止法、商品製造となれば業務委託・OEM・製造物責任・下請法、宣伝段階になれば業務委託・著作権・広告表示規制、販売段階になれば、代理店とのライセンス・業務委託・景品表示法・個人情報保護法・GDPRなどなど様々な権利関係、法律が関係することをご説明いただきました。
3 コピー商品
(1) コピー商品といえるか
ファッションをめぐる権利関係において大きく問題になるのが、コピー商品です。コピー商品を規制する法律としては、まず意匠法が挙げられますが、意匠法は、登録に時間とお金がかかる等の理由から、ファッション業界では、靴・バッグアクセサリー・スポーツ用品等の中でも、長く販売を予定している商品を除き、あまり使われていないとのことでした。
次に、商標については、「フランク三浦」は登録商標「FRANCK MULLER」と類似していないと判断された訴訟(知財高裁平成27年(行ケ)第10219号平成28年4月12日判決)など、ニュースにもなった有名事件を題材にご説明いただきました。
さらに、不正競争防止法があります。特に、同法において規制されている「模倣」(同法2条5項 この法律において「模倣する」とは、他人の商品の形態に依拠して、これと実質的に同一の形態の商品を作り出すことをいう。)について、実際の裁判例で問題となった商品の写真を引用しながら、詳細にご説明いただきました。
そのひとつが、(14)ザ・リラクスが(14)ザラ・ジャパンを相手取り、「ザラ(ZARA)」が「ザ・リラクス」のコートの形態を模倣し販売したことが同法上の不正競争行為に当たるとして、損害賠償を請求した訴訟(東京地方裁判所平成30年8月30日判決)について、裁判所は、まず全体を見た印象を判断し、その次にディテールを見ることで、全体として同一といえるかどうかを判断しているという判断過程のご説明と共に、ディテールの見方を具体的に教示いただきました。
また、(14)アイランドが(14)オフィスカワノを相手取り、(14)オフィスカワノの販売するワンピース等7点が、(14)アイランドの商品を模倣し同法上の不正競争行為に当たるとして損害賠償を請求した訴訟(知財高裁平成30年(ネ)第10058号平成31年2月14日判決)を参考に、色違いが実質的同一性の判断に影響を与えるかのご説明がありました。
(2) コピー商品を販売しないためには
海老澤先生によれば、コピー商品を販売してしまう事態を予防するためには、以下のような方策が効果的であるとのことでした。
- 商品化される商品のデザインが作成されたときには、チャットツールなどを利用して、できるだけ社内でより多くの人の目に触れるようにして、誰かが「あの商品に似てるな」と思うようならばやめておく。
- Googleの画像検索機能を活用して、意図せず似ている商品が既に販売されていないかなどを検索する。
4 契約について
(1) OEM契約
OEM契約について、発注者としては、特に以下の点を注意すべきとのことでした。
- 発注者が製造者に支給する支給品についても、第三者への譲渡禁止や、契約終了後の回収もしくは廃棄を義務付けておくほうがよい。
- (服飾業界に限りませんが)長年契約書なしに取引をしている当事者間において改めて契約書を作成する際には、「本契約締結以前に何らの合意・慣習等が存在しないことを確認する。」といった文言を入れることや、契約書において「書面にて通知する」とされている場合の書面には、「メール、LINE、メッセンジャー等の文面も含む」としたほうがより明確となる。
(2) インフルエンサー業務委託契約
インフルエンサーが企業から商品の宣伝依頼を受ける際に締結している業務委託契約については、基本的に企業側に有利に作成されているが、インフルエンサーとしては、特に以下の点に注意すべきとのことでした。
- 知的財産権はすべて企業側に譲渡する必要があるのか(企業側に使用を許諾することで目的は達せられるのではないか。)
- 契約期間終了後も競業避止義務を設ける必要性があるのか、許容できるのか(契約期間内に限ることで足りるのではないか。)
- 成果物が第三者の知的財産権その他の権利を侵害していない旨を保証する条項がある場合、保証義務の内容が無制限になっていないか(日本国内にしぼる必要はないか、「知る限り」と入れる必要がないか等。)。
- ショールームに対して独占的に販売委託する内容となっていないか。
- 契約期間中に解約した場合、残りの期間の委託料を全額支払う内容となっていないか。
- ショールームへのロイヤリティとして、「ブランドが販売した製品の売り上げの10%をショールームの取り分とする」などと、当該ショールームが関与していない売上もロイヤリティの計算対象とされていないか。
(3) 海外ショール―ムとの独占販売委託契約
ショールームとは、様々な形態がありますが、一般的には期間限定で商品のPR、販売(小売店も含め関係者向け)等を行う会社を指します。
服飾会社が海外のショールームとの契約を締結する際に注意することは種々ありますが、例えば、以下の点に注意すべきとのことでした。
5 そのほか
そのほか、ファッション業界をめぐる投資契約や、労働関係、SNS炎上対策、ECサイト関連、セレブ写真のリポスト、ステルスマーケティング、モデルのWell-Beingについても、盛沢山なレジュメをご準備いただきました。
時間の都合上、すべてを詳細にご説明いただくことまでは難しかったのですが、レジュメは永久保存し、今後の業務において実際に事案に接したときにまずは読みたいと思う記載ばかりでした。
6 最後に
今回の研修は、会員以外にも、ファッションを学ぶ大学・専門学校に参加を呼びかけ、多くの方にご参加いただきました(会員以外の方もご参加いただくことから、会務上の企画の種別としては、研修ではなく、講演会・シンポジウムとなっております。)。
研修委員会においては、はじめて会員と会員以外に向けた専門研修を行ったのですが、今回の研修を終えて、研修の内容によっては、会員以外にも受講の需要があることが分かりました。
もちろん、会の研修ですから、会員が求める研修を行うことが前提ではありますが、内容によっては、会員以外にも参加を呼び掛けることを検討してもいいのではないかと思う今日この頃です。
2020年4月 1日
あさかぜ基金だより(2)
あさかぜ基金法律事務所 石井 智裕(72期)
○ごあいさつ
令和2年1月にあさかぜ基金法律事務所に入所した石井智裕と申します。
福岡には、初めて参りましたが、街並みが整備されていて、住みやすい街であると感じております。このような場所で、弁護士の仕事を始められ、うれしく思っております。
○出身地
私は、千葉県いすみ市の出身です。『日本書紀』に、朝廷からの真珠を献上せよとの命令に背いたため、攻められたという記載のある所です。
いすみ市は、九十九里浜の南端にあります。海に面していますので、伊勢エビやタコなどの海産物がよく捕れます。それだけではなく、山の方では、梨の栽培が盛んに行われています。また、田んぼも多く、市内の田んぼで捕れたお米は「夷隅米」といい、千葉の三大銘柄に数えられています。
また、いすみ市は、東西に「いすみ鉄道」という黄色い列車が通っております。春に菜の花が一面に咲いた場所を走る姿がとても美しいです。
気候は、温暖で、千葉県の他の地域では雪が降っていても、いすみ市だけは雪が降らないということが多くあります。
○趣味
私の趣味は、漢詩と短歌です。
杜甫の詩に、自分の詩は曹植と大差ないと思っていたとあるとすごいなあと思ったり、李白の詩に、栄枯盛衰が激しいのに苦労して何を求めているの?とあれば、うるさいなあと思ったり、楽しみながら読んでおります。
漢詩の創作は、二四不同・二六対・弧平の禁止・下三連の禁止・押韻・冒韻の禁止などの様々な規則を守り、いろいろ悩みながら矛盾なく28文字で詠むのが楽しいです。
短歌は、齋藤茂吉先生・佐藤佐太郎先生の歌集をよく読んでいます。羽蟻が飛んでいない姿を詠むなど自分では気づかない視点で詠んでいたり、日常の場面を的確な表現でよんでいたりと感動する部分がたくさんあります。
短歌の創作は、漢詩のように規則が厳しくなく、およそ三十一文字であることと仮名遣いを正仮名遣い・現仮名遣いのいずれかで統一することというくらいしか規則がありません。ですので、いろいろな題材を詠めるのが楽しいです。
○あさかぜ基金法律事務所への入所経緯
私は、法科大学院に通つていた頃に、司法過疎地域で働いている方からお話を聴く機会がありました。このとき、弁護士の数が少ない地域では、弁護士に依頼することが困難な人たちがいることを知り、それは法律を適用する場面では、大変不平等ではないかと疑問を感じました。
また、以前に私の親族が訴訟をした際には、遠方の弁護士に依頼する必要があったという話を聴き、弁護士に依頼することが困難であることは、身近な問題でもあると感じました。
そこで、私は、司法過疎地域で弁護士をしたいと考えるようになり、司法研修所の教官に相談したところ、あさかぜ基金法律事務所が司法修習生を募集しているというメールをもらいました。
そのメールと添付されていた資料を読むと、「あさかぜ」の所員であった人が、「あさかぜ」においてどのように活動し、そのことが過疎地でどのように役立っているかについて詳しく書かれていました。ですから、私は「あさかぜ」に入りたいと思いましたので、「あさかぜ」に応募いたしました。
○抱負
これから、九州の司法過疎地域において、人々の期待にこたえて弁護士業務を行っていけるよう、一つ一つの仕事に真剣に取り組みたいと思っております。
あさかぜ基金だより(1)
あさかぜ基金法律事務所 所員 佐古井 啓太(72期)
1 ごあいさつ
このたび、あさかぜ基金法律事務所に入所しました、所員弁護士の佐古井啓太と申します。
出身は中国山地の山村でありまして、高校は岡山、大学は東京、修習は松山と各地を転々としてきました。福岡は、縁もゆかりもないのですが、名古屋や札幌と並ぶ勢いのある地方都市ということで以前から関心があり、この地で弁護士としての第一歩を踏み出せることを大変嬉しく思っています。
2 趣味
私の趣味は旅行であり、週末は、電車や車、バイクなどで、行ったことのない土地によく出かけています。名勝・旧跡だけでなく、商店街やロードサイドのようなその地の生活が垣間見える場所だったり、川沿いの道や峠道など地形の変化に富むような場所だったり、更には"酷"道・"険"道と呼ばれるような通行がなかなかに困難な道路だったりと、いろいろな所を見て回るのが好きです。
松山修習の際は、少ない修習給付金からローンを組んで、125ccのバイクを買い、暇さえあれば愛媛県内を走っておりました。愛媛県は、面積だけ見れば福岡県より少し広いくらい(ちょうど対馬1つ分ほど)なのですが、東西・南北ともに150キロメートルほどある細長い県です。したがいまして、長距離を走ることも多く、原付二種だと高速道路が使えないので、行って帰るだけで一日かかることもあり、なかなかに疲れる趣味でもありました。愛媛県は、多島海である瀬戸内海や宇和海を擁し、海が非常に身近である一方で、西日本最高峰の石鎚山をはじめ峻険な峰々の連なる四国山地が東西を貫き、海のすぐ側まで山が迫るなど、非常にバラエティに富んだ地形をしています。そのため、走っていて楽しい道が多く、とりわけ、標高1,500メートルの高所に広がる四国カルストや、洋上から遥か広島県まで島々を見渡せるしまなみ海道の来島海峡大橋、トンネルの合間から突如として視界に宇和海のあらわれる国道56号の法華津峠、製紙工場の煙突が立ちならぶ三島・川之江の町を一望できる具定展望台など、記憶に残る風景がいくつもありました。
3 あさかぜに入所した理由
私があさかぜを志望したのは、将来は中国山地の故郷に戻って開業することを考えているからです。出身が過疎の村ということもあり、どんどん寂れていく様子を見て、郷里の振興のために何かしたいと思っており、弁護士になるなら、いずれは故郷に帰って地元の人々になんとか少しでも役に立ちたいと考えています。
そこで、司法過疎地で活躍する弁護士を何人も送り出してきた実績のあるあさかぜを志望いたしました。同じような養成事務所はあさかぜ以外にもいくつかありますし、法テラスという道もあります。しかしながら、九州という土地にこれまで縁がなく、一度住んでみたいと思っていたことや、あさかぜを応援してくださっている先輩弁護士から手厚い指導を受けられるという点に魅力を感じたため、そのような事務所の中からあさかぜを選びました。
4 抱負
私があさかぜに入所してから、はや2か月が経ちました。あさかぜの委員会関連の仕事があったり、本稿のようなあさかぜ所員が持ち回りで書いている原稿を執筆したりと、入所前は思ってもいなかった仕事があったりして、なかなか忙しくはありますが、多くの先輩弁護士から事件を紹介していただき、事件処理に追われる充実した日々を過ごしています。この恵まれた環境を無駄にすることのないよう、司法過疎地域でいずれ独り立ちする日に向けて、日々、精進していきたいと思っていますので、ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願い申し上げます。
2020年3月 1日
公害環境委員会 荒尾の干潟は世界の宝
公害環境委員会委員 後藤 富和(55期)
2019年10月30日、公害環境委員会は熊本県の荒尾干潟の現地調査を行った。
荒尾干潟は、単一の干潟として国内有数の広さを持つ砂質干潟であり、甲殻類、貝類、ゴカイ類などの底生生物や、それらをエサにする水鳥、浅瀬を利用する魚類など多様な生物が生息している。特に、シギ・チドリなど渡鳥のオアシスとなっている。そのため、国際的に重要な湿地として、2012年にラムサール条約に登録された。有明海では初めての登録となり、その後、佐賀県の東よか干潟と肥前鹿島干潟の登録が続いた。福岡県内では未だラムサール登録はない。
ラムサール登録に際しては、湿地を保護することで鳥類が増え漁業や農業に影響が出るといった懸念から地元の漁業者や農業者の理解を得ることが鍵となる。荒尾干潟の登録にあたっては、地元漁協の組合長が荒尾干潟の保全・賢明利用推進協議会の会長に推進するなど準備段階から地元利害関係者の理解が得られており、スムーズに登録が実現した。
2019年8月には、環境省が設置し荒尾市が運営する荒尾干潟水鳥・湿地センターがオープン。年間2万人の来場者を予定しているところ、オープン2か月余りで約7000人が来場している。
荒尾干潟では、環境保護NGOによる子ども干潟観察会や、地元漁協主催のマジャク(アナジャコ)釣り体験、地元高校生による干潟体験など、干潟の価値や保全の必要性などを学習する場が地元市民を中心に行なわれており、この活動はラムサール条約が定める「懸命な利用(Wise use)」として高く評価されている。
今後は、干潟の活用、保全、情報発信を担う人材の育成が課題となるが、荒尾干潟では、地元漁協が積極的に関与していることから、この課題は克服できていると言える。有明海の漁師が長年の経験から得た豊富な知識を市民に伝えることで、市民に対して生きた知識を伝えることができ、漁師にとっても、市民と触れ合うことが喜びとなっている。
荒尾干潟の砂質干潟は、人が歩いても沈み込むことがない。この特徴を活かして、漁師たちはトラクター(テーラー)を使って干潟上を移動して漁をしている。現在、センターでは、テーラーで干潟上の海床路を移動する体験が来場者に人気である。
荒尾市においては万田坑の世界遺産登録と合わせて観光資源として活用しようとの動きも出ており経済的な側面からもラムサール条約登録の効果が現れつつある。
今後は、ラムサール条約に登録された有明海の3つの干潟が連携を取り、行政の枠を超えて生物多様性基本計画の策定も検討するなど画期的な取り組みも期待されている。
福岡県内にも豊かな湿地が多数存在している。福岡県弁護士会は、和白干潟と今津干潟を含む博多湾のラムサール条約登録を求める意見書、曽根干潟のラムサール条約登録も求める意見書を採択している。現在、平尾台・広谷湿原のラムサール条約登録の機運も盛り上がっており、2021年に中国の武漢で開催されるラムサール条約締約国会議において福岡県内の湿地の登録が期待されている。

2020年2月 1日
第2回求人広告トラブル110番 ~いつの間にか有料に~
中小企業法律支援センター 副委員長 碇 啓太(62期)
1 実施概要
令和元年12月10日(火)13:00~17:00に、「求人広告トラブル110番」として、中小企業法律支援センターの有志が相談担当をして、電話相談会を実施しました。2018年末ころから相談が急増していますが、現状でも未だトラブルが発生している状況です。そのため、第2回目の相談会を実施いたしました。
2 求人広告トラブル事案
事業者(主として中小零細企業)が無料だと考えて求人広告の掲載をしたところ、有料期間に入ったとして数十万円の請求を受けるというものです。
多くの事案では、主に3週間無料で求人広告をWEBに掲載しませんかとの営業の電話があり、その営業を受けた事業者が無料ならと考えて申し込んだところ、いつの間にか有料になっていて数十万円の請求が来て困ってしまうというものでした。
3 実施結果
電話相談の結果としては、9件の相談があり、相談者の所在は、福岡県内が2件、県外が7件で、栃木県、群馬県、千葉県、神奈川県、山口県からの相談がありました。すべての事案で、ハローワークに求人広告を掲載しており、広告事業者はハローワークの求人広告を架電の契機としているものと思われます。
4 法的問題点や対応方針
私たちは、事案の違いがあることを前提に、基本的に以下のような対応をする方針で、相談対応をしました。
(1) 相談時
相談を受けた際には、リスクを説明した上で、安易に支払いを促すようなアドバイスをせずに、支払をしない方向で検討をするなど慎重な対応をすべきだと考えています。
(2) 交渉段階
まずは、内容証明などで、(1)支払をしない旨の意思表示と(2)掲載されている広告の削除の要求をすべきです。訴訟提起まで至る事業者は限られていること等もあり、支払をする前提での和解をすることには慎重であるべきだと思います。
(3) 訴訟対応
広告事業者によっては弁護士が代理人となって訴訟提起してくることもあります。
基本的には、相手方は証拠書類が形式的には揃っている事案が多いものの、しっかりと事情を聴きとれば、契約の不成立、詐欺、錯誤、公序良俗違反による無効などの主張をすべき事案が多いと思います。
なお、公序良俗違反の主張については、厚生労働省のWEB上の「民間企業が行うインターネットによる求人情報・求職者情報提供と職業紹介との区分に関する基準について」という記事と、東京地裁平成28年3月28日判決が参考になります。
(4) 最終的な解決
現時点では、本記事で想定している求人広告トラブル事案で判決まで至っている事案はないようです。その理由は、多くの事案で、和解しているほか、広告事業者が請求の放棄、訴えの取下げをしているからだと思われます。私自身が裁判対応した事案でも、判決になる前に相手が請求の放棄をしてきました。
5 最後に
弁護士として悩ましいのは、依頼者の経済的利益のとの兼ね合いで、依頼を受けるときの弁護士費用です。ただ、被害者である中小企業救済・社会貢献という観点から、弁護士全体として、依頼しやすい金額で提案をして、積極的に助言・対応をしていければ望ましいと思っています。中小企業法律支援センターとしては、今後も中小企業の法的支援のために有益な情報提供に努めて参ります。

全県で利用可能な触法障がい者刑事弁護支援スキーム(福岡県立ち直りサポートセンター)モデル事業が始まりました
触法障がい者支援ワーキンググループ委員 石井 謙一(59期)
1 はじめに
2019年(令和元年)9月から、福岡県が「福岡県立ち直りサポートセンター」(以下「サポートセンター」といいます。)事業を開始しました。
これまでは、被疑者・被告人に障がいがある場合の刑事弁護活動において福祉的支援を受けるための制度は、当該被疑者・被告人が希望する帰住先が福岡市か北九州市の場合にしか利用できませんでした。
しかし、サポートセンターの事業開始により、希望帰住先が福岡県内であれば、市町村による制限を受けることなく福祉的支援を利用できるようになりました。
2 被疑者・被告人に障がい等がある場合の刑事弁護活動とは
刑事弁護事件の中には、被疑者・被告人に障がい等があるために社会内での生きづらさを抱え、犯罪に及んでしまったと考えられる事案もあります。このような被疑者・被告人については、福祉的支援につなげることで生活環境や生きづらさが改善されることが期待できる場合もあります。
そこで、そのような場合には、福祉職の方と連携することで、被疑者との接見に同行してもらい、障がいの特性や必要な支援の内容についてアドバイスを受けたり、場合によっては受入先施設の選定に協力してもらうことができます。また、検察官や裁判所に働きかけを行う際の資料とするために、上記活動の成果を「更生支援計画」としてまとめて頂き、今後の支援について法廷で証言してもらうことができる場合もあります。
3 これまでのスキーム
そこで当会では、北九州市及び福岡市の基幹相談支援センターと連携し、当該地域への帰住を希望している被疑者については、福祉職と弁護人をつなぐためのスキームを運用しています。
このスキームの利用方法については同じく会員専用ページの「書式・資料」からダウンロードすることができる当番弁護士・当番付添人 被疑者・被告人国選 Q&Aをご参照下さい。
4 全県下で、障がいに限らず、福祉的支援を得られます!
上記のように、これまでのスキームでは、被疑者・被告人の希望帰住先が北九州市または福岡市でなければ利用することができませんでした。また、福祉的支援の対象は、障がいを持つ方に限られ、しかも福岡市の場合には、療育手帳等が必要でした。
しかし、サポートセンターの運用が開始したことにより、福岡県内であれば帰住先が北九州市または福岡市でなくとも福祉的支援を受けることができるようになりました。
また、県の事業は、障がいに関する手帳を取得していることが要件とはされていません。さらに、障がい者だけでなく、高齢者、住居不定の方、依存症の方も対象となります。
5 サポートセンター利用のための手続
サポートセンター利用の流れは、後掲「福岡県立ち直りサポートセンターの利用の流れ」をご参照下さい。
会員専用ページの書式及び資料→刑事事件・精神保健関連→触法障がい者等支援」から申込書をダウンロードして必要事項を記入し、各所属部会事務局宛てファクスして頂ければ利用することができます。
6 注意点等
サポートセンターご利用にあたっては、上記申込書と同じところにアップされている案内とフローチャートをよく読み、利用の際の条件や注意点をご理解の上お申し込み下さい。
なお、特にご注意頂きたい点は以下のとおりです。
(1) サポートセンターは令和3年3月までのモデル事業です。
そのため、令和3年3月を過ぎると、正式な事業として開始するか、モデル事業として継続されない限り利用ができなくなります。
また、予算も非常に限られているため、場合によってはお申込み頂いてもサポートセンターが支援を断る場合もあり得ます。
(2) 申し込み後に被疑者・被告人の同意書の提出が求められます。
(3) 上記のように、サポートセンターの予算が限られているため、既存の北九州市または福岡市のスキームが利用できる場合には、そちらを優先してお申し込み下さい(後掲フローチャート参照)。
7 おわりに
各会員におかれては、サポートセンターの事業をご活用頂き、今後も障がいのある被疑者・被告人の刑事弁護活動をより一層充実して頂きますようお願い致します。


「来たれ、リーガル女子!」 ~女性の弁護士・裁判官・検察官に会ってみよう!~
会員 馬場 安紀子(71期)
1 はじめに
令和元年11月3日、福岡県弁護士会において、内閣府・男女共同参画推進連携会議・日弁連などが主催の、学生・保護者・教員向けシンポジウム「来たれ、リーガル女子!」~女性の弁護士・裁判官・検察官に会ってみよう!~が開催されましたのでご報告いたします。このシンポジウムは、内閣府の男女共同参画推進事業の一環として位置づけられ、主に女子中高生を対象に、将来の選択肢として、弁護士、裁判官、検察官といった法曹の魅力や普段の生活について知ってもらうイベントです。今回は東京、大阪、福岡に次いで名古屋を主会場とした4回目の開催になります。
2 当日の状況
当日は、中高生53人、保護者教員21人の参加がありました。開始時刻の随分前から会場に入場し、資料を見て待っている学生が多数おり、学生の意識の高さ、当イベントへの関心の高さがうかがわれました。
第1部では、主会場である名古屋大学アジア法交流館とZoom中継を受け、愛知県弁護士会会長をご経験された池田桂子弁護士より、「女性弁護士の歩みと魅力」について女性法曹の社会的意義や女性弁護士の仕事の魅力等についてご講演いただきました。
第2部では、同じく名古屋大学からZoom中継を受け、弁護士、裁判官、検察官それぞれ1名ずつをパネリストにもうけ、職業選択の動機や、やりがい等をパネルディスカッション形式でお話いただきました。いずれの方からも、法曹として幅広い業務(司法研修所教官、社外取締役、公職等)が経験できること、子育てと仕事の両立を取りやすい職業であること、裁判官と検察官は引っ越しのプロになれること等(笑)についてお話いただき、学生の方々にとっては初めて聞く内容で興味深かったのではないかと思います。
第3部のグループセッションでは、「刑事裁判」、「子どもの権利」、「民事(女性の権利)」、「国際関係」、「企業内・自治体」をテーマに、各グループを設け、学生と講師としての弁護士、裁判官、検察官がテーブルを囲んで質疑応答をするというグループセッションが行われました。
私は、「国際関係」のグループで書記係を務めさせていただきました。初めは学生の方も緊張していたようで質問がなかなか出ませんでしたが、講師や司会の方が話を振ると、「日本人として他の国の弁護士になることもありますか?」や、「現地の人との交渉はどうやって乗り越えるんですか?」等具体的な質問や、「弁護士としてどのような能力が必要ですか?」や「学歴は大事ですか?」といった質問まで積極的に質問してくれました。
法曹として国際関係の仕事に携わりたいと考えている学生の皆さんの意識の高さや熱意は非常に学ばされるところも多く、とても刺激になりました。また、講師をしてくださった先生方のご経験や姿勢をお伺いする機会はとても貴重で、私にとっても大変勉強になりました。
なお、中学生・高校生がグループセッションを行っている間は、保護者・教員向けに宇加治先生より進路説明会が行われ、福岡市の法科大学院の教授もご参加いただき、各法科大学院の特色の説明や、新たな法曹コースについての説明がありました。将来の選択肢として法曹を目指す場合、保護者や教員の理解も必要ですので、このような説明会もとても意義あるものだと思います。
3 その他
本イベントでは、イベントに参加する方やスタッフのお子さんについて託児サービスを設けたり、手話通訳を手配する等福岡県弁護士会としては初めての企画も実施しました。手話通訳は事前の申込がなかったため、準備にとどまりましたが、託児サービスについては、スタッフ及びイベント参加者の保護者からの依頼があり、計7名のお子さんの託児サービスが実施されました。保育士に預けられたお子さんは皆泣くこともなく、保育士の用意した遊びに興じるなどして、イベント終了時まで無事に託児がなされました。他の委員会のイベント時にもこのような託児サービスの実施もご検討いただければ、より皆が参加しやすいイベントになるのではないかと思います。
イベント終了後では、会館4階談話室及びテラス席を利用して懇親会が開かれました。キャンドルやフラワー付きのとてもお洒落なコーディネートケータリングで、お食事もおいしく、生ビールのサーバーもあり、和やかな雰囲気で当日の感想を交わすことができました。テラス席も利用した懇親会は初めてのこととのことで、清々しい空気を感じながら飲むお酒は格別でした。
4 最後に
グループセッションの講師としてお越し頂いたそれぞれ2名の裁判官、検察官、13名の弁護士の先生方には、学生の方々に貴重な生の声を届けていただきました。改めて感謝申し上げます。
また、当日は、帰省中の日弁連副会長の原田直子先生にも、イベント内でのご挨拶や学生の方との記念写真撮影に応じていただく等、多大なご協力をいただき、とても価値のあるイベントになったと思います。
今後もこのような機会に参加して、未来のある学生らに対して少しでも法曹に興味を持っていただけたらと思います。



市民とともに考える憲法講座「守ってくれるのは軍隊?それもとも憲法?」のご報告~内外から見た沖縄基地問題
会員 米倉 大樹(65期)
1 憲法市民講座の開催、中村哲医師への追悼
2019年12月21日14時から、福岡県弁護士会館大ホールにおいて、「憲法改正問題に取り組む 全国アクションプログラム 憲法市民講座」として、沖縄基地問題から平和憲法を考えるとのテーマの下、琉球新報・編集局長の松元剛さん、弁護士であり、新外交イニシアティブ(ND/New Diplomacy Initiative)代表も務める猿田佐世さんにご講演いただきました。講演会の様子は、北九州弁護士会館でも中継放送されました。
また、講演会に先立ち、長年にわたりアフガニスタンやパキスタンで人道支援活動に従事された中村哲医師が、12月4日、現地で護衛者らとともに銃撃を受け、逝去されたことを受け、改めて追悼の意が表されました。北九州でも2015年8月2日にウェルとばた大ホールで「9条あっての国際貢献~アフガニスタンでの医療協力31年~」のご講演をいただき、会場一杯に市民の方々が足を運ばれ、中村医師の活動への関心の高さを目の当たりにしたことを覚えています。
2 松元剛さんの講演~沖縄から見た「沖縄基地問題」~命の格差、二重基準
まず、松元さんから、沖縄の内側から見た「沖縄基地問題」について語られました。そもそも基地担当の記者がいることが沖縄の特殊性を表しており、沖縄基地問題の核心は、ウチナーンチュと、本土やアメリカ本国に住む人々との命の重さをめぐる度を超えた「二重基準」にあります。沖縄の人々の命は、本土やアメリカ本国に住む人々との命と比べて、明らかに軽んじられているということです。
基地の現状として、普天間基地から嘉手納基地までの距離は僅か9.5~10キロメートルであり、海兵隊と空軍の拠点がこれほど近い所は他にないそうです。普天間基地の直ぐ近くには普天間第二小学校があり、教室内でも騒音は119デシベルに達するとのことです。このレベルの騒音になると会話は不可能とされます。また。2008年5月2日付の琉球新報「〔嘉手納基地から〕F15が未明に10基離陸」、「爆音 砂浜で112デシベル」という見出しの記事を示され、この出来事の背景には、日本を午前5時頃に離陸することでアメリカへの到着時刻を日中にし、過酷な訓練に臨むパイロットへの負担を軽減する配慮があることに触れられました。
ハワイでは、地域住民からのカメハメハ大王の生誕遺跡が荒れるとの反対意見などに配慮し、オスプレイの離着陸訓練が中止されたり、アメリカとの地位協定があるイタリアでは、アメリカ軍が事前にイタリア側に訓練を報告し、事故があった時はイタリアの国内法に基づいてイタリアが主導して、アメリカ軍がそれに協力をすることになっており、シエスタ(昼寝)の習慣にも配慮がなされ、その時間帯は訓練させないことになっているとのことです。
指摘されたいくつかの記事、事例を見ても、日本、沖縄への配慮とは雲泥の差があり、沖縄の人々の命が軽んじられている現状が伝わりました。普天間基地の名護市辺野古への移設についても、沖縄県民投票で反対が70%を越えたことに加え、軟弱地盤の問題やそれに伴う工費の莫大な膨張を指摘され、2014年1月1日付で琉球新報が特報した日米地位協定の秘密解釈文書「日米地位協定の考え方」にも触れられました。日米地位協定の不自然さを浮き彫りにし、見直しの必要性を考えさせる内容の講演でした。
最後に、2004年8月13日に普天間飛行場に派遣されていた米海兵隊所属ヘリコプターが、沖縄国際大学の本館ビルに墜落、激突後に、爆発炎上した事故について、当時の動画を流されました。アメリカ兵によって現場への立ち入りや撮影が厳格に規制されている様子を捉えており、事故直後の現場の物々しい雰囲気が伝わりました。イタリアにおける地位協定の在り方も踏まえ、改めて主権とは何か考えさせられました。
3 猿田佐世さんの講演~沖縄の外から見た「沖縄基地問題」~ワシントン拡声器、「アメリカの声」の主
引き続き、猿田さんから、沖縄の外側(国外)から見た「沖縄基地問題」について語られました。猿田さんが代表を務める「新外交イニシアティブ」は、政策提言・情報発信を通じ、日米及び東アジア地域において、外交・政治の現場に新たに多様な声を吹き込むシンクタンクです。現在の取り組みの8割は沖縄問題であり、猿田さん自身、月に1回ほど沖縄を訪問されていた時期もあるとのことです。沖縄問題は、実は本土の問題であり、根本的な原因は東京の永田町にあります。
日本の政策に影響を与える「アメリカの声」の発信元は、多くても30人ほどの非常に限られた知日派アメリカ人であり、日本の政府や大企業から情報や研究資金の提供を受けています。日本では、こうした「声」を通じて伝えられる「アメリカの意向」が大きな圧力として働きます。この仕組みを「ワシントン拡声器」と表現されています。
具体的な仕組みは、ワシントンは世界中の問題についてアジェンダ(議題)設定能力を有し、評価・権威付けを行うところ、(1)一部の日本人がアメリカの知日派やシンクタンクなどに資金や情報を与える。(2)与えられた情報に基づき彼らが発言したり、報告書を発表したりする。(3)日本の政府やメディアが、アメリカ側から出てくる情報の中から自分達の推進したい政策の追い風となる情報を選択し、選択した情報を「ワシントン発」の声として日本に向けて「拡声」しながら伝える。(4)アメリカの影響力を追い風に、日本国内で自分達の望む政策を実現するというものです(猿田佐世『自発的対米従属-知られざる「ワシントン拡声器」』68頁~135頁(角川新書、2017))。
知日派で知られるアーミテージ元国務副長官が普天間基地の返還を巡り「沖縄であれだけ反対しているのだから、辺野古以外のプランB(代替案)があった方がいい。」と語ったことや、アメリカでは原発が斜陽産業と認識されており、日本の使用済み核燃料再処理に反対していることなどが日本国内のメディアでは伝えられておらず、アメリカの声の「アメリカ」とはいったい誰なのかと疑問を投げかけられました。
日本ではアメリカの出来事が連日のように報道される一方、アメリカ人で日本のことを考えている人はほぼ皆無とのことです。2015年9月21日、翁長知事が国連人権理事会(ジュネーブ)で声明を発表し、沖縄の人々の人権や自己決定権がないがしろにされている辺野古の状況を世界中から関心を持って欲しいと訴えたことに触れ、今後も、アメリカの中枢に「沖縄の声」を届けるとともに、辺野古が唯一の選択肢ではないことを働きかけていきたいと語られました。
4 質疑応答~沖縄基地問題の今後の展望
質疑応答において、猿田さんによると、トランプ政権の下でも強固なパイプは健在であり、「ワシントン拡声器」を利用した既存外交に変わりはないとのことです。松元さんは、今後も基地の周辺で、小さな事故が重なりやがて重大事故につながる恐れや統計的に見てまた沖縄の人々が事件に巻き込まれる可能性を危惧し、時間的にも、費用的にも終わりの見えない辺野古への移設問題にも触れ、なぜここまでしてアメリカに、日米地位協定にすがらなければならないのか、考える分岐点にあるとの認識を示されました。
基地の引取運動について、松元さんは、一部の地域の人々に過剰な負担をかけず、国民全体の問題と捉えようとする動きとして正当性があると評価されましたが、猿田さんは、アメリカに提言すると実際にそのように動く可能性があり、議論が成熟するのを待ちたい。まずは日本の外交を変えなければならないと述べられました。
5 最後に~本講座の持つ意義、まず関心を持つことの重要性
松元さんが講演の冒頭で今年10月31日に首里城が炎上したことに触れ、今この時期に、国民の目が沖縄に向くことは、基地問題や憲法改正を結びつける何かのメッセージではないかと語られたことが印象に残りました。また、猿田先生の著書、講演に接し、伝達される情報がどのような過程を経て届けられているのかを知ることの大切さ、重要性を感じました。今年3月9日に開催された憲法市民講座「広告で憲法が変えられる?」において、著述家の本間龍さんが講演されたメディアによる情報操作の危険性にも通じるものがあると思います。
今回の講演会を通じ、沖縄基地問題、憲法改正のいずれも、国民一人一人がまず関心を持つこと、関心を持った上で理解・知識を深めていくことが大切であり、このような機会を弁護士だけでなく、一般市民の方々にも提供する場として、本講座の持つ意義を改めて感じました。
多数の情報が氾濫する中、実際に現場で活動される方々の生の声を、直接、より多くの方に届けることが、問題の所在と本質への理解、議論を深め、より良い方策の発見、解決への一助となるのではないかと思います。