福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)

月報記事

講演会報告「民事紛争処理のIT化について」

民事手続委員会 委員 近藤 義浩(60期)

講演会の概要

1 演題
民事紛争処理のIT化について
(募集時の仮称:ODR・民事裁判手続きのIT化に関する講演会)

2 講師
九州大学大学院法学研究院 上田竹志教授

3 日時
令和2年9月3日(木)17:30~19:30

4 場所
福岡県弁護士会館2階ホール(北九州部会とテレビ会議で接続)

1 はじめに

令和2年9月3日、福岡県弁護士会館において、九州大学大学院法学研究院の上田竹志教授をお招きして、「民事紛争処理のIT化について」というテーマで講演をしていただきました(講演会告知時の仮称「ODR・民事裁判手続きのIT化に関する講演会」)。

上田教授は、政府のODR活性化検討会の委員を務められたとともに、法制審議会の民事訴訟法(IT化関係)部会の法務省民事局調査委員を務められており、政府関係機関において、今後の司法の在り方を左右する最先端の議論に関与されています。

講演会では、その議論の状況を詳しく紹介していただきました。

2 民事紛争処理全体のIT化

近時のIT化の動きとして、「裁判手続等のIT化検討会」(内閣官房。平成30年3月にいわゆる「3つのe」を提言)、「民事裁判手続等IT化研究会」(商事法務研究会)、「民事訴訟法(IT化関係)部会」(法制審議会)、「ODR活性化検討会」(内閣官房)など、様々な検討組織が設けられて活発な議論が行われていることが紹介されました。

そして、IT化の射程は、民事訴訟手続に限ったものではなく、民事執行手続・倒産手続・家事事件手続にまで及び得、さらに、裁判外紛争処理手続のIT化を含めた司法アクセス全体のIT化が志向されているとのことでした。

3 民事訴訟手続のIT化
(1) オンライン申立て

オンライン申立ての義務化については、原則義務化する考え方・士業者に限り義務化する考え方・任意とする考え方のいずれによるか、裁判所の事件管理システムを利用するためのユーザーアカウントの付与等をどのように行うか、義務化した場合の例外をどのように設けるかなどについて議論が行われていることが紹介されました。

(2) 訴訟記録の電子化

全面的に訴訟記録を電子化する方向で検討が行われているが、その場合には訴訟記録概念の再定義が必要になるであろうことが紹介されました。

(3) 公開原則

口頭弁論の公開については、現実の法廷のみで行うこととし、ウェブ中継などを認めたり禁止したりする規律は設けない方向で検討が行われていることが紹介されました。

(4) 土地管轄

土地管轄については、現行法の規律を維持する方向で検討が行われていることが紹介されました。

(5) 手数料の電子納付

手数料の納付方法を電子納付の方法に一本化するとともに、郵便費用についても申立ての手数料に組み込んで一本化する(郵便費用の予納の制度を廃止する)案が提出されていることが紹介されました。

(6) オンラインによる訴え提起

電子データによる訴状提出による訴えの提起を認める方向で検討が行われていることが紹介されました。

(7) システム送達

当事者が事件管理システムに登録をし、通知アドレスを届け出た場合には、送達すべき電子書類を事件管理システムに記録し、その旨を送達を受けるべき者の通知アドレスに宛てて通知することにより送達を行うこととし、送達を受けるべき者が当該電子書類を閲覧した時又は当該通知発信から一定期間経過した時に送達の効力を生ずることとする方向で検討が行われていることが紹介されました。

(8) 口頭弁論

口頭弁論についても、当事者の意見を聴いて、テレビ会議の方法を用いることができることとし、その場合には双方不出頭でも期日が成立することとする方向で検討が行われていることが紹介されました。

(9) 準備書面

事件管理システムを用いて準備書面を提出することができることとし、通知アドレスの登録又は届出をした者に対しては、準備書面が提出された旨を事件管理システムを通じて通知することとして、直送することを要しないこととする方向で検討が行われていることが紹介されました。

(10) 争点整理手続

争点整理手続については、現行法の手続を維持しつつ、ウェブ会議等の利用・電子データによる準備書面等の提出を認めるための規定を設ける案と、争点整理手続を一本化し、公開・非公開いずれでも行えるようにする案が並行して検討されていることが紹介されました。

(11) 証拠調べ手続(1)人証

証人尋問・当事者尋問については、遠隔地要件を外し、証人・当事者の所在場所を裁判所内に限らないこととした上で、所在場所の秩序や不当な影響の排除等について規律を設ける方向で検討が行われていることが紹介されました。

(12) 証拠調べ手続(2)書証

原本の存在又は成立に争いがある場合・相手方に異議がある場合を除き、事件管理システムにアップロードされた書証の電子データをもって原本等に代えることができる方向で検討が行われていることが紹介されました。

(13) 証拠調べ手続(3)電子データ

電子データの証拠調べについては、書証に関する規定に準じた規定を設ける方向で検討が行われていることが紹介されました。

(14) 手続の終了

判決は、電子データにより判決書を作成して裁判官が電子署名を行い、システム送達により送達を行う方向で検討が行われていることが紹介されました。

和解については、ウェブ会議等の利用を含む規律を設けるとともに、和解に代わる決定と同様の制度を和解一般に導入する方向で検討が行われていることが紹介されました。

(15) 上訴等

上訴・再審・手形小切手訴訟についても、第一審と同様のオンライン化を行う方向で検討が行われていることが紹介されました。

(16) 簡易な訴訟手続

簡易裁判所における手続についても、地方裁判所の第一審の手続と同様にIT化する方向で検討が行われていることが紹介されました。

(17) 特別な訴訟手続

ITツールを十分に活用して計画的かつ適正迅速に紛争を解決するため、一定の要件の下に、原則として6か月以内に審理を行う訴訟手続の特則を設けることについて、引き続き検討する方向で検討が行われていることが紹介されました。

4 ODRの活性化

ODR(Online Dispute Resolution、オンライン紛争解決手続)の具体例としては、オンライン調停・仲裁だけではなく、当事者に提供すべき情報をAI等で選別したり、相談の際にテレビ会議・チャットボット等を利用したりするなど、従来のADR・仲裁の領域にとどまらず、それ以前の相談や当事者交渉、司法アクセスや紛争予防にまで及ぶものであるとのことでした。

ADR基本法(裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律)施行後の利用実績としては、一部の専門領域におけるADR(交通事故紛争処理センター、原発ADR、金融ADR、事業再生ADRなど)では利用実績が伸びているものの、より一般的・汎用的なADRでは、相談は一定数あるものの、あっせん・調停等の件数は少ないが、インターネットの発展・Eコマースの発展とともに、ODRの必要性が急速に意識されてきているとのことでした。

PDRの導入においては、手続の開始から終了までにとどまらず、当事者の紛争認知(情報収集、検討)から、第三者へのアクセス(相談)、第三者の介入しない私的交渉、訴訟等への情報引継ぎまで含めて、情報のフロー、プロセスのフローを総合的に検討すべきであるとのことでした。

まず、紛争に巻き込まれた当事者が検討する段階の問題としては、適切な情報にアクセスできないために解決を諦めたり、不適切な相談にアクセスしてしまったりすることを回避するため、オンライン上での信頼できる情報提供ツール等のニーズが高まっているとのことでした。

次に、当事者から法律相談を受ける段階としては、ウェブの入力フォーム等を活用した相談受付、相談を受けた者によるAIを活用した類似事例や一般的法情報の迅速な検索、AIを用いたチャットボット等による相談の自動化、相談内容のデジタルデータでの蓄積(ビッグデータ化)などのITの利活用が考えられるとのことでした。

さらに、相手方との交渉段階としては、ITを利活用した交渉プラットフォームを提供することが考えられるとのことでした。

そして、ADRの段階としては、民事訴訟と同様、「3つのe」を行うことが考えられるとのことでした。

最後に、ADRでの解決が図れず、民事訴訟などの他の紛争処理機関での手続に移行した場合に、交渉段階やADR段階での情報を他の紛争処理機関に引き継いでよいかなども問題になるとのことでした。

5 おわりに

以上に加え、IT化を実現する上での情報の保存・管理としては、標準化されたデジタルデータが保存されること、社会的に妥当な水準のセキュリティ対策が施されること、裁判所内外での情報流通の規約が定められていることが重要であるとのご見解が示されていました。

また、IT化が進んだとしても、裁判は社会の行く末を決める作業(法形成)を含むものであり、AIには予定された正解に近似する解を示す能力はあるが正解を宣言する機能は与えられていないので、AIが広く裁判官に取って代わる可能性は低いとのご見解も示されていました。

以上のとおり、今後の司法の在り方を左右する最先端の議論の状況について、幅広く、かつ、詳細にご説明していただき、大変充実した講演会となりました。

2020年10月 1日

紛争解決センターだより

紛争解決センター運営委員会 委員・あっせん人 松本 佳郎(49期)

1 事案の概要

本件は、申立人が抜歯を目的に相手方歯科医院を受診し抜歯後に疼痛が残ったことから、相手方が緩和療法として患部に生理的食塩水を注射したところ、同食塩水の使用期限が僅かに徒過しており、これを見つけた申立人が相手方に相応の補償をもとめたというものです。

なお、申立人は妊娠中であったところ、このことが胎児に及ぼす影響、その際の補償も念頭に進めてくれとのことでした。

2 本件の和解への経緯

本件は、医療ADRとして申し立てられたものの何らの悪しき結果が発生したというものでもなく、従って結果と過失行為との因果関係が問題となるわけではなく、ただ不適切な歯科医療の提供があったというものであり、申立人の請求が控えめな金額であったことから和解自体はそれほどの困難はありませんでした。胎児への影響についても事前に医師から心配はないとの意見を貰っていましたが、なかなか納得されなかったことから「現時点における損害賠償として」という文言を入れること、その代わり後遺障害についての賠償請求は申立人側に立証責任があることを説明した上で納得して貰いました。

しかしながら、手続的には以下の問題を残しました。

  1. 一つは、申立人の紹介人弁護士から、本件は医療ADRとして申し立てたところ、本来医療ADRでは、斡旋者として患者側委員1名、医療側委員1名、中立医員1名の3名体制で行われると聞いているが今回の申立については何故当職1名なのかという疑問が呈されたことです。
    確かに医療ADRには何が該当するのかについては明確な定義がなく困るところですが、以上の3名体制で行われるという点も規則上明定はされておらず委員会の裁量によるところ、事案の重大性、専門性等に鑑み総合的に判断したと回答し、手続きを進めました。ただ、申立人にとっては本件の事案は重大ではない軽い案件かという疑念はあり得るところです。
  2. もう一つは、申立人が身重でしかもご主人も労災事故で足が不自由な状況であり会館まで出向くことに障害があること、他方相手方代理人である先生も福岡から出席されることに加えて当時筑後地方は連日の大雨であり申立人に期日に出向いて貰うことに躊躇を覚えるほどであったことから、双方から事前に和解案に対する承諾の書面を貰い、双方の出席を要しない形でこれをもって民事調停法17条の和解に代わる決定という形式が採れないかを模索しました。
    しかしながら、当委員会で協議の上、やはり規則に明示されない方法であり、できないのではという結論に至りました。
    この点は、将来の規則の改正も含め、残された課題であると感じました。

※ 紛争解決センター運営委員会より補足
現在、規則改正の要否を含め、紛争解決センター運営委員会内で検討・協議を行っております。正式決定後、改めて会員の皆さまにはアナウンスをさせていただきますので、宜しくお願い致します。

「公認会計士によるM&Aセミナー」のご報告

中小企業法律支援センター 委員 鈴木 可南子(72期)

第1 はじめに

令和2年8月6日、福岡県弁護士会館にて、デロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリー合同会社から、永野浩公認会計士と妹尾一宏公認会計士をお招きし、「公認会計士によるM&Aセミナー」と題してご講演いただきました。日程の延期があった上、なお新型コロナウィルス感染症の影響があったにもかかわらず、総勢110名(会場:37名、Zoom:73名)のご参加をいただき、大変盛況なセミナーとなりました。以下、セミナーのご報告をさせていただきます。

第2 M&Aの基礎知識
1 そもそもM&Aとは?

M&Aとは、『Mergers(合併)and Acquisitions(買収)』の略で、企業の合併買収の意味を持ちます。広義の意味として、合併買収に加え提携までを含める場合もあります。

2 M&Aの目的

譲渡側としては、後継者問題の解決や不採算部門等の一部の事業の切り離し、譲受側としては、新規事業の立ち上げ(既存企業の譲り受けにより短期間での立ち上げがかなう)、既存事業の強化等が代表的な目的として挙げられます。

第3 セミナー概要
1 M&Aの最近の動向、M&Aプロセス及び留意点(永野公認会計士ご担当)

(1) Mamp;&Aの最近の動向

2019年の日本企業によるM&A件数は、2000年以降最多の4088件となりました。2020年度上半期は、コロナウィルスの影響で減少傾向がみられたものの、下半期からは、やはりコロナウィルスの影響で、債権カット、私的整理等の再生系のM&Aが増加することが予想されています。

(2) M&Aプロセス

譲渡側

① 初期的検討(意向確認、初期的株式価値算定)
② 秘密保持契約の締結
③ アドバイザリー契約の締結
④ 譲渡企業の情報収集
⑤ 企業評価(株価算定等)
⑥ ・ノンネームシートの作成
(=譲渡企業が特定されない程度に事業内容・地域・規模などの譲渡企業に関する情報をA4用紙1枚程度にまとめたもの)
・企業概要書の作成
(=譲渡企業の事業内容、財務状況、資産、M&Aの条件等を記載した数十ページ程度の書面。ノンネームシートとは異なり、譲渡企業の企業名も記載され、より詳しい内容となる。)
⑦ 譲渡先候補の選定
⑧ 譲渡先候補へのノンネームシートによる譲受けの打診

譲受側

⑨ 譲渡企業のノンネームシートの検討
⑩ 秘密保持契約の締結
⑪ 譲渡企業の企業概要書の開示・検討
⑫ アドバイザリー契約の締結

譲渡企業・譲受企業共通

⑬ トップ面談・企業訪問→経営理念等の確認
⑭ 買手候補から売手へ、意向表明書の提出
(=譲受額等の基本条件をまとめたもの)
⑮ 譲渡企業による意向表明書の検討
→譲渡先の選定
⑯ 譲渡価格等の条件交渉
⑰ 基本合意書の締結
(=買収の基本条件をまとめたもの)
→独占交渉権の付与
⑱ デューデリジェンス(=企業調査、以下DDと省略)
⑲ 最終条件の交渉
⑳ 最終契約書の締結
㉑ クロージング(決済)
㉒ ディスクローズ(公表)

「公認会計士によるM&Aセミナー」のご報告

(3) M&Aの留意点

①について、譲渡企業の意向の詳細な把握、特に打診NGの会社、雇用の維持、取締役の留任等の希望などに注意が必要となります。また、⑤⑥⑧について、譲渡企業の強み、例えばすでに知名度のある商品がある場合はビジネスモデルを把握してしっかりアピールすること等が重要となります。

2 関与前に知っておきたいM&Aの基礎知識(妹尾公認会計士ご担当)

(1) 株式価値評価

  • 株式価値評価のタイミング
    株式価値調査は、2段階で行われるのが一般的です。1回目は、①⑤等の初期の時点で行う簡易価値評価です。2回目は、プロセス⑱のDDで発見された財務上・法律上のリスク等も反映させ簡易価値評価を更新していく本格的な株式価値評価です。
  • 株式価値評価の方法 株式価値評価の際、比較的多く用いられる方法としてDCF法(評価対象会社が将来創出すると期待されるキャッシュ・フローを現在価値に割り引いて株式価値を算出する)と、株価倍率法(上場類似会社の時価総額ないしは事業価値と財務数値との倍率を基に、評価対象会社・事業の株式価値を算定する)があります。 両方法に共通の株式価値の計算式を示すと、事業価値+非事業用財産(例:本業以外の賃貸不動産等の資産)-ネットデット(=有利子負債等)=株式価値となります。

(2) DDの留意点

  • 重要契約のチェック
    営業上の契約について、チェンジオブコントロール条項(=M&A等を理由として契約の一方当事者に経営権の移動が生じた場合、契約内容に制限が生じたり、他方当事者によって契約を解除すること等ができる条項)が付されたりしている場合があります。営業上の核となる契約について解除の可能性があれば、そもそも会社を譲り受ける意味があるのかという問題になりえます。このような条項の有無、相手方からの承諾の取得の可否等、慎重なチェックが必要となります。
  • 許認可等のチェック
    譲渡会社が保持する許認可や、その法令上の届出の有無、譲受会社への引き継ぎの可否等に注意を要します。
  • コンプライアンス上のチェック
    具体例として、個人情報をマーケティングに活用している会社を譲り受けたいというような場合、そもそも個人情報をマーケティングに活用するという事業は法律上、問題がないのかというような調査です。
    いずれも重要事項となるので、会社から受け取った資料等のみで消極的に行うのではなく、不足や不自然な部分がないか等、細心の注意をはらい積極的な姿勢で調査を行う必要があります。
「公認会計士によるM&Aセミナー」のご報告

(3) 株式譲渡契約書の留意点

  • 株式譲渡契約書(SPA)は、上記プロセス⑳の最終契約書の内容となるものです。要素としては、(a)取引条件、(b)クロージングの手続、(c)譲渡実行の前提条件、(d)表明保証、(e)誓約事項、(f)補償(損害賠償)等が一般的です。
  • 株式譲渡契約書の(重要要素の)留意点
    (d)表明保証
    各当事者が相手方当事者に対し、一定の時点において、一定の事項が真実かつ正確であることを表明し、保証するもので、この表明保証に明示的に定めていない限り、相手方に補償を求めることが難しいため最重要ポイントとなります。
    具体例としては、倒産事由の不存在、譲渡対象株式について、有効な所有、担保等の不存在等の事項があります、保証違反の効果としては、取引自体を取りやめるという場合もあります。
    (e)誓約事項
    株式譲渡取引にあたり各当事者の作為・不作為の義務を課す。具体例として、取引までに、株主への配当をしないこと、従業員の雇用の維持義務、競業避止義務等があります。
第4 おわりに

本セミナーの司会のお話をいただき、倒産業務にかかわっていきたいと思っていた私は、M&Aも必要なスキルと考え、ありがたく参加させていただきました。

ご実績もお人柄も素晴らしい公認会計士の先生方とのご縁をいただいた上、M&Aの勉強を始めるきっかけを得ることができ、感謝しています。本講演で得た知識を前提にいつか現実にM&A案件を担当できたらと思っています。

「公認会計士によるM&Aセミナー」のご報告

2020年9月 1日

あさかぜ基金だより ~あさかぜ基金法律事務所のご紹介~

弁護士法人あさかぜ基金法律事務所
社員弁護士 田中 秀憲(69期)

私が所属する弁護士法人あさかぜ基金法律事務所について、あさかぜが都市型公設事務所であり、所属弁護士は養成を受けた後、弁護士過疎地に赴任することは知られていると思いますが、あさかぜがどのように運営されているのか現況を紹介させていただきます。

あさかぜについて

あさかぜは現在、弁護士5人と事務局2人の7人体制です。入所後は、およそ2年間の養成を受けたあと、九弁連管内の弁護士過疎地に赴任しています。弁護士は司法修習を終えて間もない者のみで構成されていて、いわゆるボス弁はいません。あさかぜの弁護士はみな、弁護士が少ない地域で困っている人の手助けをしたいとの志を持って入所しました。同じ志を持った弁護士同士、切磋琢磨しながら良い刺激を受けつつ弁護士活動に励んでいます。

事件の受任経緯の主なものとして、法律相談、当会の執行部経験者を中心に構成されているあさかぜ応援団の弁護士や指導担当弁護士との共同受任、これらの弁護士からの事件紹介が挙げられます。法律相談経由での受任は、当会での法律相談からの受任もありますが、法テラスの法律相談からの受任が多いように思います。

あさかぜでの養成について

あさかぜの弁護士は、当会所属の弁護士複数に指導担当としてついてもらい、事件を共同受任させてもらうなどして、指導を受けています。また、指導担当以外の弁護士と共同受任させてもらう機会もあります。事件の共同受任により指導してくださる弁護士は経験豊富であり、委任契約の仕方や事件の進め方まで、幅広く学ばせてもらえます。仕事のやり方は共同受任させてもらう弁護士ごとに千差万別であり、いろいろな方法を学べるという点でとても勉強になります。私が共同受任しているある事件では、所与の事実から法律構成を検討する際に、私が全く考えが及んでいなかった法律構成を指摘され、目が開かれる思いをしたことが強く印象に残っています。

また、さまざまな法律事務所の弁護士と共同受任させてもらうおかげで、あさかぜで取り扱う事件の種類も多種多様です。弁護士過疎地では、弁護士の数が少ないため、赴任した弁護士はあらゆる種類の事件の解決を担うことになることから、養成期間中に多種多様な事件を受任することは貴重な経験となります。

あさかぜの弁護士は事務所運営にも取り組んでいます。とはいえ、司法修習を終えたばかりの若手弁護士だけで構成されている事務所ですので、あさかぜの弁護士のみで事務所運営をすることは困難です。そこで、あさかぜでは、当会のあさかぜ基金法律事務所運営委員会と九弁連のあさかぜ基金管理委員会から指導を受けながら運営に取り組んでいます。

事務所運営と一口で言っても、検討しなければならないことはたくさんあります。毎月のキャッシュフローデータにもとづいて事務所の資金繰りやどのような営業をすれば売り上げが増やせるのかなどを考えたり、広報活動、新人弁護士・事務員の採用活動、事務員の労務管理など、いろんなことについて両委員会の指導を受けています。あさかぜでの養成期間中に、このような指導を受けられることは、将来的には弁護士過疎地に赴任し、経営者として事務所を運営していかなければならない私たちにとって、今後の弁護士人生の中でも得難い経験です。

これからもよろしくお願いします

当会会員、九弁連管内の会員の皆様をはじめとするたくさんの方々が、あさかぜで養成を受けた弁護士が弁護士過疎地に赴任して、あまねくリーガルサービスを提供することで法の支配に貢献し、ひいては国民の権利擁護を図ることを期待してくださっているものと考えます。このような期待に応えられるよう、あさかぜで引き続きしっかりと研鑽に励みます。

2020年8月 1日

紛争解決センターだより コロナ対応(災害)ADRのご案内

紛争解決センター運営委員会
委員 松村 達紀(65期)

1 コロナ対応(災害)ADRを立ち上げました

本原稿執筆時点(7月14日)においては、東京での新型コロナウイルス感染者が連日200名を超える旨の報道がなされており、いわゆる第2波が懸念されるところです。

そのような中、当センターは、令和2年6月8日、新型コロナウイルス感染拡大に関連する法的紛争解決のために「コロナ対応(災害)ADR」を立ち上げました。

災害ADRは、東日本大震災や熊本地震の際にも立ち上げられ、紛争当事者の方々の法律問題の解決に大きく貢献している制度です。

なお、コロナ対応(災害)ADRについては、既に申立てを受け付けた事案もございます。

2 コロナ対応(災害)ADRの内容
(1) 対象事件

新型コロナウイルス感染拡大に関連する民事紛争であれば、何でも申し立ていただいて構いません。

事業者の方であれば、

  • 休業に伴い従業員の給与の取扱いに関してトラブルになっている
  • 売上の減少や休業期間の長期化に伴いテナント家賃の減免を求めたい
  • イベントが中止になったため主催者に損失補償を求めたい

消費者・労働者等の方であれば、

  • 会社の休業や業績不振に伴い雇止めをされたり給与をカットされた
  • 旅行や結婚式の取りやめに伴い多額のキャンセル料の支払いを求められている

といった紛争があり得ると想定しております。

特にこれらの紛争に関しては、裁判所における訴訟をするにはコストが合わない、時間がかかるといった面が見られると思いますので、積極的に弁護士会のADRの活用をご検討ください。

(2) 申立て方法

一般のADRでは、法律相談を受けた民事事件について、申立書や証拠の書類等を添えて申立てをしてもらっていますが、コロナ対応(災害)ADRでは、法律相談を受けていない事件も受け付けます。

また、申立てが簡単にできるよう、広報チラシの裏面にある申込書に必要事項を記入して頂いて、天神弁護士センターに郵送またはファックスしていただくか、申込書の郵送やファックスが出来ない方は、電話やメールによって申込みをしていただければ、後日担当弁護士が申立てをサポートするという制度もあります。

(3) 費用

申立て費用は、無料です。

紛争が解決した場合には、原則として、チラシ記載の基準に従い、成立手数料を当事者で折半にて負担いただきますが、事案によっては、成立手数料を減免することもあります。

3 最後に

現在、政府主導の政策により、事業者に対する積極的な融資、資金援助等が図られていますが、想定以上に新型コロナウイルスの影響は長期化しそうであり、今後、ますます法律問題が顕在化してくるのではないかと懸念されます。

また、現状、裁判所の期日も入りにくい状況が続いていますので、紛争の迅速な解決という観点からは、弁護士会のADRが果たすことのできる役割も大きいと考えております。

先生方におかれましては、法律相談に来られた当事者の方に、ぜひ、紛争解決のための選択肢の一つとして、コロナ対応(災害)ADRをご案内いただければと思います。

「女性の権利110番」ご報告

両性の平等に関する委員会北九州部会
委員 松田 麻友美(68期)

1 はじめに

毎年6月23日~29日は、「男女共同参画週間」です。
全国の弁護士会では、この期間に合わせて、「女性の権利110番」と題して、無料電話相談を実施しています。当会でも、県内各所の男女共同参画センターの相談員と共同で、暴力や離婚、職場における差別などの諸問題の相談を受け付けました。

2 当会における実施状況

(1) 福岡県弁護士会でも、福岡県弁護士会館、筑後弁護士会館、久留米市男女平等推進センター(えーるピア)、筑後市男女共同参画推進室、大野城まどかぴあ男女平等推進センター(アスカーラ)、ハートピアぶぜん、大牟田市男女共同参画センター、田川市男女共同参画センター(ゆめっせ)、北九州市立男女共同参画センター(ムーブ)、福岡県男女共同参画センター(あすばる)、福岡市男女共同参画推進センター アミカス、飯塚法律相談センター及び直方市男女共同参画センター(えみくる)にて、それぞれ相談が実施されました。

(2) 福岡県全体としての相談件数は、合計79件でした。そのうち、夫婦関係(離婚)に関する相談が46件と、半数以上を占めていました。

3 北九州部会における実施状況

北九州部会においては、6月24日に、北九州市立男女共同参画センター(ムーブ)及びハートピアぶぜん(豊前市)にて電話相談を実施しました。ムーブでの相談は、電話がかかってくるとまず相談員の方が応答し、内容が法律相談といえる場合に、待機している2名のいずれかの弁護士につないでいただく、という方式でした。

件数としては、ムーブでは合計20件、ハートピアぶぜんでは2件の相談がありました。ムーブでの電話相談は、昨年11月に行なった「女性の権利110番」の相談件数が6件だったことと比較すると、大幅に増加しました。

私もムーブでの相談を2時間程度担当しましたが、既に弁護士2名が電話に対応してしまっており、相談員の方が、時間を改めて電話してもらうように依頼したり、別の機会の法律相談をご案内したりしていることが何度かありました。

相談内容としては、離婚・財産分与等、家事関係の相談が最も多かったようですが、土地や財産に関する相談も一定程度ありました。

4 雑感

上記のとおり、ムーブでの電話相談の件数は、昨年11月と比較してかなり増加しました。

新型コロナウイルス感染症拡大との関係では、在宅時間が増えると家庭での問題が深刻化する、などと聞きます。しかし、ムーブにおける相談内容が必ずしも家事に限られていないことに鑑みると、経済状況の悪化等を通じて、広く人権侵害が生じやすくなっており、法律相談の必要性が高まっているのでは、とも感じました。

また、対人接触を控えることが推奨される現在の状況に鑑みれば、直接対面をしない電話相談は、相談者側のニーズにも合致していたように思います。

今後、相談が多く寄せられることが想定される場合には、より多くの方の相談に対応できるようにするため、相談時間の目安(30分程度)を示すといった対応もあり得るのでは、と思いました(私自身、電話を切るタイミングが上手くつかめなかったという反省もあります。)。

「ウィズコロナ」においては、電話相談の重要性は高まり、「女性の権利110番」等に限らず、弁護士会や法テラス等の相談でも取り入れられる機会が広がりそうです。通話のみという限られた方法でも、相談者から必要な情報を引き出し、適切なアドバイスができるよう、日々スキルを身につけていきたいです。

中小企業法律支援センターだより 中小企業診断士による講演会(「コロナウイルス支援制度概要と経営回復への道筋」)のご報告

中小企業法律支援センター
委員 長谷 修太郎(65期)

令和2年7月10日、福岡県弁護士会館2階大ホールにて、福岡県中小企業診断士協会の仲光和之中小企業診断士(以下「仲光中小企業診断士」といいます。)をお招きし、「コロナウイルス支援制度概要と経営回復への道筋」と題してご講演(以下「本講演」といいます。)をいただきましたので、ご報告いたします。

1 本講演のきっかけ

当会は、新型コロナウイルス感染症(以下「コロナウイルス」といいます。)の感染拡大の影響により経営に関する問題や不安を抱える事業者の支援のため、令和2年3月24日から7月30日までの間、電話無料相談を実施しています。この電話無料相談において、コロナウイルスの影響に対する各種支援制度(以下「コロナウイルス支援制度」といいます。)に関連した相談が数多く寄せられ、弁護士として同制度の全体像や概要を把握しておくことが有益と思われたため、同制度の実務に精通している仲光中小企業診断士に依頼し、本講演が実現いたしました。

本講演は、コロナウイルスの感染拡大を防止するため、現地会場ではアルコール消毒やマスクの着用、ソーシャルディスタンスの確保等の感染防止策を徹底するとともに、Zoomを利用したオンラインでの参加も可能としました。これは外部講師を招いた当委員会主催のイベントとしては当会として初の試みでしたが、コロナウイルスの感染防止が図られただけでなく、通常よりも多くの会員の皆様のご参加を頂くことができ(合計103名。うちZoomでの参加77名)、イベントのアクセス向上や活性化という点でも有効であったように思います。

中小企業診断士による講演会 現地会場の模様(1)

現地会場の模様(1)

2 コロナウイルス支援制度の概要

本講演の前半では、コロナウイルス支援制度の全体像として、(1)融資、(2)給付金、(3)補助金に大別し、各制度の概要をご説明いただきました。

(1) 融資

コロナウイルス支援制度としての融資は、更に、(ⅰ)日本政策金融公庫や商工中金等の政府系金融機関による融資と、(ⅱ)信用保証制度を用いた民間金融機関による融資に分類されます。各融資の条件等の詳細については省略いたしますが、それぞれ特に以下の点につき留意すべきとのことでした。

(ⅰ) 政府系金融機関による融資

  • 融資の申込みから実行まで2、3か月を要するイメージ
  • 業歴は3ヶ月以上であれば(一定の追加要件を充足する必要はあるが)融資対象になり得る
  • 既存債務の借換えも可能
  • 利子補給制度の対象になるが、その申請方法や具体的な手続きは未定(一旦は利子を支払う必要があり、追って補給される)

(ⅱ) 信用保証制度を用いた民間金融機関による融資

  • 市町村からセーフティネット保証の認定を受けたとしても、保証協会や民間金融機関の審査に必ず通るわけではない
  • 民間金融機関によっては、融資審査に加え、セーフティネット保証の認定申請及び保証審査の依頼をワンストップで行ってくれるところもある
  • 保証料及び利子の減免制度あり
(2) 給付金

コロナウイルス支援制度における給付金としては、主に、(ⅰ)持続化給付金と、(ⅱ)家賃支援給付金が挙げられます。各給付金の支給条件等の詳細については省略いたしますが、それぞれ特に以下の点につき留意すべきとのことでした。

(ⅰ) 持続化給付金

  • 給付額の上限は、法人200万円、個人事業者100万円
  • インターネット経由の電子申請が基本だが、申請サポート会場あり(事前予約、必要書類の事前準備が必要)
  • 不正受給には罰則あり(給付金全額+αの返還、法人名等の公表、刑事告発)

(ⅱ) 家賃支援給付金

  • 2020年5月~12月の売上高が減少した法人・個人事業者が支給対象
  • 給付額の上限は、法人600万円、個人事業者300万円
  • 2020年7月14日から受付開始
(3) 補助金

コロナウイルス支援制度における補助金としては、主に、(ⅰ)ものづくり・商業・サービス補助金(ものづくり補助金)、小規模事業者持続化補助金(持続化補助金)及びIT導入補助金における「コロナ特別枠」、(ⅱ)ものづくり補助金及び持続化補助金における「事業再開枠」が挙げられます。

「コロナ特別枠」は、Aサプライチェーンの毀損への対応、B非対面型ビジネスモデルへの転換、Cテレワーク環境の整備というコロナウイルスへの対応にかかる費用の一部を支援する補助金です。「事業再開枠」は、消毒、飛沫防止、換気、その他衛生管理等のコロナウイルスの感染防止のための取組みにかかる費用の一部を支援する補助金です。いずれもコロナウイルスへの対応として新たに制度が設けられたものであり、ぜひ活用されたいとのことでした。

3 経営回復への道筋

本講演の後半では、「融資返済と業績回復への道筋」として、(1)業績回復に向けたアクションプランの考え方と、(2)経営の「やり方」と「あり方」の両面を整えることについてご講演いただきました。

(1)については、コロナウイルスの影響による生活様式・行動パターン・価値観の変化を踏まえ、「誰に」(=ターゲット)、「何を」(=商品・サービスの内容)、「どのように」(=価格・場所・方法、差別化要素)との観点からの事業の見直しが重要になるとのことでした。

また、会社のお金の流れを把握(ビジュアル化)し、返済額・将来への投資・万一への備えのための必要額から逆算した数値目標を定めることにより、根拠のある経営判断や従業員への意識付け・動機付けが可能になるとのことでした。

(2)については、会社の経営において、その方法論(=「やり方」)だけではなく、ミッション(仕事をする理由・使命)、バリュー(行動指針・価値観)、ビジョン(将来の方向性・目標)といった経営の「芯」(=「あり方」)を定めて整えることが重要であるとのことでした。

4 まとめ

最後に、コロナウイルス対応の現状について、以下の通り分析いただきました。

  • 現在は、支援策を行き届かせる第1ステージから次のステージに移行している時期
  • 多くの経営者は月商×3か月との目安で資金調達していたため、2度目の借入れが予想される
  • 運転資金の確保に成功した又は成功しそうな経営者と、どうにもならない経営者とで二極化している
  • 経営の方法としては、万一の備えのための必要額(キャッシュ)を意識した計画的な経営に移行していくのではないか
  • コロナウイルス対応は、特定領域の専門家だけでは限界があり、士業の連携が重要である
中小企業診断士による講演会 現地会場の模様(2)

現地会場の模様(2)

本講演を拝聴し、コロナウイルスの感染拡大という未曾有の状況下では、法的な知識だけでなく、各種支援制度の活用や事業計画の検討・策定、経営のあり方などにつき、多少なりとも経営者に寄り添うための知識や言葉を持っていることが、弁護士の価値を高めることにつながると感じました。我々弁護士も、本講演でありましたように、その「あり方」と「やり方」を追求し、整えていくことで、今後更なる事業者支援の拡充・充実を図っていくことが出来ればと思います。

2020年7月 1日

あさかぜ基金だより

あさかぜ基金法律事務所 所員 西原 宗佑(71期)

早いものであさかぜに入所して1年半余りが経過しました。今年5月にはあさかぜの先輩である小林洋介弁護士(70期)が長崎県平戸市へ赴任します。私も先日、壱岐ひまわり基金法律事務所の所長に応募し、目下、その面接を受けるべく、準備をすすめている真っ最中です。

緊急事態宣言が出たあと、事務所からの外出もほぼなくなりました。そこで、あさかぜの日常の雰囲気とこれまでのあさかぜでの経験と感想をご紹介します。

あさかぜの日常

あさかぜは他の事務所と異なり、毎年司法過疎地域へ赴任する弁護士、新たにあさかぜに入所してくる弁護士がいて、常に人員の入れ替わりがありますから、1年ごとに事務所内での雰囲気がまったく違うことを実感します。

昨年は、私と田中秀憲弁護士(69期)と小林弁護士の3名と事務局2名という構成でしたので、比較的落ち着いた雰囲気で執務していました。また、それぞれの弁護士が担当している案件も異なっていたため、弁護士同士でコミュニケーションを取る機会も少ないものでした。

ところが、今年は72期の元気な新人弁護士が3人も入所したため、雰囲気が一変しました。現在は、小林弁護士があさかぜから抜け、弁護士5名と事務局2名で執務しています。そのため、打合室がすべて埋まるときもあり、私も72期の弁護士と共同で担当している案件も多いので、必然的に業務上でのコミュニケーションの機会が増え、事務所内がにぎやかになりました。それに加え、所員同士で外食したり(できる限り自粛はしています。)、所員全員で業務に関する勉強会をもったりして、所員同士の親交も深めています。

現場の意見としては、所員の人数は多い方が、事務所に活気があふれて、また、所員同士で議論も活発にできるので良いように思います。

私が退所し、73期の弁護士が入所した場合には、事務所の雰囲気がまたどのように変わるのか気になるところです。

あさかぜでの経験

私は壱岐ひまわり基金法律事務所の所長に応募しましたので、スムーズに進めば、今年11月末には、あさかぜを退所し、12月には壱岐で仕事をはじめることになります。

本当は、4月に壱岐ひまわり基金法律事務所へ見学に行き、現在その所長で、あさかぜのOBでもある古賀祥多弁護士(69期)に、相談や事件受任の様子と苦労話、経営状況などを教えてもらったりして、準備をすすめる予定でした。しかし、コロナ禍のために、その見学も延期となってしまいました。

これまでのあさかぜ生活を振り返ってみると、あさかぜに入所して以来、司法過疎地域各所で活躍しているあさかぜOBの事務所を多く訪問することができました。たとえば、壱岐や対馬をはじめ、豊前や人吉にも行くことができました。あさかぜに入所したからこそ、行くことのできた場所もあり、知らない地域を訪れることが好きな私からすると、非常に楽しく実りあるあさかぜ生活でした。

福岡県弁護士会の一会員として

私はこれまでに、刑事弁護等委員会、業務委員会、県弁護士会主任に主に参加し、当会の委員会活動に携わっておりました。また、昨年度は刑事弁護研究会の幹事も務めさせていただきました。さらに、あさかぜ関係の委員会にも毎回参加しました。これらの活動を通じて、当会の様々な弁護士と関わりを持つ機会も増え、ようやく委員会での仕事を与えられ、自分の立場ができたと思う矢先に当会を離れ、司法過疎地域へ赴任するということは少々名残惜しい気持ちがあります。

その反面、これからは全く知らない場所で、弁護士活動を行うということも冒険的で楽しみである気持ちもあります。

私が司法過疎地域へ赴任した後のキャリアプランについては現時点では全く未定ですが、いつかまた出身地でもある福岡に戻ってきて、弁護士業務、委員会活動に参加できる日が来たらいいなと思っております。

2020年5月 1日

2019年度高度専門研修「ファッションに関する法律問題」ファッション・ローってどんなもの?

研修委員会

1 はじめに

研修委員会では、毎年、各分野において活躍される方による研修を企画しています。2019年度は、2020年2月7日に、第二東京弁護士会所属の弁護士海老澤美幸先生をお招きし、「ファッション・ロー」についての研修を開催しましたので、ご報告します。

2 ファッション・ローとは

講師の海老澤先生は、自治省(現 総務省)を経て、出版会社に入社し、その後ロンドンにてスタイリストアシスタントとなり、日本においてもフリーランスファッションエディターとして活躍された後、法科大学院を経て弁護士登録されたという、まさにファッションの実務も法務もすべて網羅しておられるご経歴となります。

海老澤先生からは、イントロダクションとして、ファッションブランドをめぐっては、生地屋・縫製工場、ショールーム・小売店、PR会社、モデルエージェンシー・ファッションモデル、デザイナー、経営者、投資家などなど様々な立場の人・会社が関係していることや、ファッションブランドの立ち上げから商品の販売までには、ブランド名やロゴが決定すれば商標、商品デザインの検討にあたっては意匠・ライセンス・著作権・不正競争防止法、商品製造となれば業務委託・OEM・製造物責任・下請法、宣伝段階になれば業務委託・著作権・広告表示規制、販売段階になれば、代理店とのライセンス・業務委託・景品表示法・個人情報保護法・GDPRなどなど様々な権利関係、法律が関係することをご説明いただきました。

3 コピー商品
(1) コピー商品といえるか

ファッションをめぐる権利関係において大きく問題になるのが、コピー商品です。コピー商品を規制する法律としては、まず意匠法が挙げられますが、意匠法は、登録に時間とお金がかかる等の理由から、ファッション業界では、靴・バッグアクセサリー・スポーツ用品等の中でも、長く販売を予定している商品を除き、あまり使われていないとのことでした。

次に、商標については、「フランク三浦」は登録商標「FRANCK MULLER」と類似していないと判断された訴訟(知財高裁平成27年(行ケ)第10219号平成28年4月12日判決)など、ニュースにもなった有名事件を題材にご説明いただきました。

さらに、不正競争防止法があります。特に、同法において規制されている「模倣」(同法2条5項 この法律において「模倣する」とは、他人の商品の形態に依拠して、これと実質的に同一の形態の商品を作り出すことをいう。)について、実際の裁判例で問題となった商品の写真を引用しながら、詳細にご説明いただきました。

そのひとつが、(14)ザ・リラクスが(14)ザラ・ジャパンを相手取り、「ザラ(ZARA)」が「ザ・リラクス」のコートの形態を模倣し販売したことが同法上の不正競争行為に当たるとして、損害賠償を請求した訴訟(東京地方裁判所平成30年8月30日判決)について、裁判所は、まず全体を見た印象を判断し、その次にディテールを見ることで、全体として同一といえるかどうかを判断しているという判断過程のご説明と共に、ディテールの見方を具体的に教示いただきました。

また、(14)アイランドが(14)オフィスカワノを相手取り、(14)オフィスカワノの販売するワンピース等7点が、(14)アイランドの商品を模倣し同法上の不正競争行為に当たるとして損害賠償を請求した訴訟(知財高裁平成30年(ネ)第10058号平成31年2月14日判決)を参考に、色違いが実質的同一性の判断に影響を与えるかのご説明がありました。

(2) コピー商品を販売しないためには

海老澤先生によれば、コピー商品を販売してしまう事態を予防するためには、以下のような方策が効果的であるとのことでした。

  • 商品化される商品のデザインが作成されたときには、チャットツールなどを利用して、できるだけ社内でより多くの人の目に触れるようにして、誰かが「あの商品に似てるな」と思うようならばやめておく。
  • Googleの画像検索機能を活用して、意図せず似ている商品が既に販売されていないかなどを検索する。
4 契約について
(1) OEM契約

OEM契約について、発注者としては、特に以下の点を注意すべきとのことでした。

  • 発注者が製造者に支給する支給品についても、第三者への譲渡禁止や、契約終了後の回収もしくは廃棄を義務付けておくほうがよい。
  • (服飾業界に限りませんが)長年契約書なしに取引をしている当事者間において改めて契約書を作成する際には、「本契約締結以前に何らの合意・慣習等が存在しないことを確認する。」といった文言を入れることや、契約書において「書面にて通知する」とされている場合の書面には、「メール、LINE、メッセンジャー等の文面も含む」としたほうがより明確となる。
(2) インフルエンサー業務委託契約

インフルエンサーが企業から商品の宣伝依頼を受ける際に締結している業務委託契約については、基本的に企業側に有利に作成されているが、インフルエンサーとしては、特に以下の点に注意すべきとのことでした。

  • 知的財産権はすべて企業側に譲渡する必要があるのか(企業側に使用を許諾することで目的は達せられるのではないか。)
  • 契約期間終了後も競業避止義務を設ける必要性があるのか、許容できるのか(契約期間内に限ることで足りるのではないか。)
  • 成果物が第三者の知的財産権その他の権利を侵害していない旨を保証する条項がある場合、保証義務の内容が無制限になっていないか(日本国内にしぼる必要はないか、「知る限り」と入れる必要がないか等。)。
  • (3) 海外ショール―ムとの独占販売委託契約

    ショールームとは、様々な形態がありますが、一般的には期間限定で商品のPR、販売(小売店も含め関係者向け)等を行う会社を指します。

    服飾会社が海外のショールームとの契約を締結する際に注意することは種々ありますが、例えば、以下の点に注意すべきとのことでした。

    • ショールームに対して独占的に販売委託する内容となっていないか。
    • 契約期間中に解約した場合、残りの期間の委託料を全額支払う内容となっていないか。
    • ショールームへのロイヤリティとして、「ブランドが販売した製品の売り上げの10%をショールームの取り分とする」などと、当該ショールームが関与していない売上もロイヤリティの計算対象とされていないか。
    5 そのほか

    そのほか、ファッション業界をめぐる投資契約や、労働関係、SNS炎上対策、ECサイト関連、セレブ写真のリポスト、ステルスマーケティング、モデルのWell-Beingについても、盛沢山なレジュメをご準備いただきました。

    時間の都合上、すべてを詳細にご説明いただくことまでは難しかったのですが、レジュメは永久保存し、今後の業務において実際に事案に接したときにまずは読みたいと思う記載ばかりでした。

    6 最後に

    今回の研修は、会員以外にも、ファッションを学ぶ大学・専門学校に参加を呼びかけ、多くの方にご参加いただきました(会員以外の方もご参加いただくことから、会務上の企画の種別としては、研修ではなく、講演会・シンポジウムとなっております。)。

    研修委員会においては、はじめて会員と会員以外に向けた専門研修を行ったのですが、今回の研修を終えて、研修の内容によっては、会員以外にも受講の需要があることが分かりました。

    もちろん、会の研修ですから、会員が求める研修を行うことが前提ではありますが、内容によっては、会員以外にも参加を呼び掛けることを検討してもいいのではないかと思う今日この頃です。

2020年4月 1日

あさかぜ基金だより(2)

あさかぜ基金法律事務所 石井 智裕(72期)

○ごあいさつ

令和2年1月にあさかぜ基金法律事務所に入所した石井智裕と申します。

福岡には、初めて参りましたが、街並みが整備されていて、住みやすい街であると感じております。このような場所で、弁護士の仕事を始められ、うれしく思っております。

○出身地

私は、千葉県いすみ市の出身です。『日本書紀』に、朝廷からの真珠を献上せよとの命令に背いたため、攻められたという記載のある所です。

いすみ市は、九十九里浜の南端にあります。海に面していますので、伊勢エビやタコなどの海産物がよく捕れます。それだけではなく、山の方では、梨の栽培が盛んに行われています。また、田んぼも多く、市内の田んぼで捕れたお米は「夷隅米」といい、千葉の三大銘柄に数えられています。

また、いすみ市は、東西に「いすみ鉄道」という黄色い列車が通っております。春に菜の花が一面に咲いた場所を走る姿がとても美しいです。

気候は、温暖で、千葉県の他の地域では雪が降っていても、いすみ市だけは雪が降らないということが多くあります。

○趣味

私の趣味は、漢詩と短歌です。

杜甫の詩に、自分の詩は曹植と大差ないと思っていたとあるとすごいなあと思ったり、李白の詩に、栄枯盛衰が激しいのに苦労して何を求めているの?とあれば、うるさいなあと思ったり、楽しみながら読んでおります。

漢詩の創作は、二四不同・二六対・弧平の禁止・下三連の禁止・押韻・冒韻の禁止などの様々な規則を守り、いろいろ悩みながら矛盾なく28文字で詠むのが楽しいです。

短歌は、齋藤茂吉先生・佐藤佐太郎先生の歌集をよく読んでいます。羽蟻が飛んでいない姿を詠むなど自分では気づかない視点で詠んでいたり、日常の場面を的確な表現でよんでいたりと感動する部分がたくさんあります。

短歌の創作は、漢詩のように規則が厳しくなく、およそ三十一文字であることと仮名遣いを正仮名遣い・現仮名遣いのいずれかで統一することというくらいしか規則がありません。ですので、いろいろな題材を詠めるのが楽しいです。

○あさかぜ基金法律事務所への入所経緯

私は、法科大学院に通つていた頃に、司法過疎地域で働いている方からお話を聴く機会がありました。このとき、弁護士の数が少ない地域では、弁護士に依頼することが困難な人たちがいることを知り、それは法律を適用する場面では、大変不平等ではないかと疑問を感じました。

また、以前に私の親族が訴訟をした際には、遠方の弁護士に依頼する必要があったという話を聴き、弁護士に依頼することが困難であることは、身近な問題でもあると感じました。

そこで、私は、司法過疎地域で弁護士をしたいと考えるようになり、司法研修所の教官に相談したところ、あさかぜ基金法律事務所が司法修習生を募集しているというメールをもらいました。

そのメールと添付されていた資料を読むと、「あさかぜ」の所員であった人が、「あさかぜ」においてどのように活動し、そのことが過疎地でどのように役立っているかについて詳しく書かれていました。ですから、私は「あさかぜ」に入りたいと思いましたので、「あさかぜ」に応募いたしました。

○抱負

これから、九州の司法過疎地域において、人々の期待にこたえて弁護士業務を行っていけるよう、一つ一つの仕事に真剣に取り組みたいと思っております。

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