福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)

月報記事

2017年5月 1日

ITコラム

会員 柏 真人(63期)

今年の4月1日、

「将棋電王戦 佐藤名人が人工知能に敗れる」
というニュースをネット記事で見かけました。これまでも、プロ棋士がコンピューター将棋ソフトに敗れたことはありましたが、現役のタイトルホルダーでありしかも「名人」位にあるプロ棋士が将棋ソフトに敗れたことは、私にとって衝撃的な出来事でした。人工知能恐るべしです。

恐るべしなのは、なにもプロ棋士に勝利したからだけではありません、将来、人工知能いわゆるAIは、われわれ弁護士にとって代わる可能性を秘めているのです。今回は、弁護士業務は人工知能にとって代わられるのか、について考えてみたいと思います。

ネットの記事などを見ると、アメリカの大手法律事務所などでは、すでに人工知能の導入が始まっており、破産のアドバイスなどを弁護士が人工知能から受けていたりするらしいです。この波はやがて日本にもやってくるでしょう。

弁護士の思考過程を具体化すると、いろいろなご意見があると思いますが、概ね(1)事実の把握、(2)法律構成を考える、(3)あてはめ、(4)実際の解決の合理性の判断、といったところに集約されるのではないでしょうか。人工知能の得意分野は、(1)や(3)といった思考過程の分野でしょうか。事実を整理したりするのは得意そうですね。複雑な時系列を瞬く間に整理してくれそうです。また、判例検索なども得意そうです。そうなってくると、ある程度の定型的処理の可能な、過払い案件などの債務整理や知財分野では、人工知能は強力なライバルになりかねません。

ですが、上述の思考過程で、多くの弁護士が一番苦労しているところは、依頼者にとって一見不利に見える事実や不自然に見える事実を何とか依頼者に有利な(もしくはそれほど不利でない)事実に見せていくのか、といったところではないかと思います(少なくとも私はそうですが・・)。人間には、合理的に説明できない何かがあり、なにかをきっかけに不合理な行動をとってしまう時がある。それを弁護士になっていやというほど経験しました。そのような人間の「人間臭さ」を人工知能が理解し弁護していくのはまだまだ至難の業なはずです。そうなってくると、合理的な行動が求められる企業間取引・契約などの分野においては人工知能が優位な気がしないでもありません。他方、あくの強い依頼者をなだめすかし、辛抱強く打ち合わせを重ねる作業が必要な、いわゆる「町弁」は人工知能がライバルとなる日はまだまだ先の話のはずです。

と、電王戦第2局で佐藤名人が将棋ソフトを鮮やかに打ち破ることを期待しつつ、しがない「町弁」にすぎない私の先入観と希望が多分に入った今回のコラムを終了したいと思います。

「転ばぬ先の杖」(第30回) 子どもの加害行為と親の民事責任

会員 小坂 昌司(52期)

このコーナーは、弁護士会の月報を読まれる一般の方に向けて、役に立つ法律知識をお伝えするものです。今回は、子どもの権利委員会が担当します。

子どもは失敗しながら成長します。子どもが興味を持つことには、積極的に取り組ませてあげたいものです。その中で子どもが失敗をしたときには、それを成長の糧とできるように親が見守っていくことが必要です。

もっとも、子どもの失敗が、ときに、他人に損害を与えてしまうことがあります。もし、そのような事態になったときには、親は、まずは子どもと一緒に被害者に対して真摯に謝罪をするべきです。そして、同じようなことを繰り返さないように子どもを指導して自覚させることが必要でしょう。

被害者との関係では、謝罪をすることで許される場合も多いのですが、ときに法律上の責任問題に発展することがあります。

子どもの加害行為が犯罪に該当するような場合には、刑事上の責任として、子どもの年齢によって、家庭裁判所の手続きの対象となります。年少の子どもの場合には、児童相談所の指導の対象になります。

また、他人に財産的な損害を与えた場合には、民事上の責任として賠償の問題が発生します。そして、このような場合、加害行為をした子どもだけでなく、親が賠償の責任を負うことがあります。

以下では、どのような場合に、親が賠償責任を負うか考えていきます。

まず、民法は、故意または過失によって他人に損害を与えた者は、その損害を賠償する義務があると定めています。従って、未成年者も含めて、わざと、あるいは不注意で行った行為(これを「不法行為」といいます。)で第三者に損害を与えた場合には、その損害を賠償する義務を課されます。

もっとも、民法は「未成年者が、自分の行為の責任を理解する能力を備えていなかったときには賠償の責任を負わない」としています。この「能力」(これを「責任能力」といいます。)を備えているかどうかの明確な基準はありませんが、おおよそ12歳くらい(小学校を終える頃)から、この能力があると判断される場合が多いようです。

さらに民法は「子どもが(責任能力がなくて)責任を負わない場合には、子どもを監督する法律上の義務を負う者が賠償義務を負う。」と定めています。つまり、子どもの年齢が低く、責任能力がない場合には、子ども自身には賠償責任はなく、法律上の監督義務者である親が子どもに代わって賠償責任を負うことになります。なお、「法律上の監督責任を負う者」としては、親以外にも、例えば、児童養護施設の施設長や未成年後見人など、親に代わって子どもの監督をする立場にある人も含まれます。この親の責任は、親が監督義務を怠らなかったこと、あるいは、監督義務を果たしていても子どもの加害行為を防止できなかったであろうことを証明すれば免除されますが、これまでの裁判では、親が責任を免れることは稀でした。

なお、最高裁判所まで争われた事件で、当時11歳の子どもが小学校の校庭で友人とサッカーをして遊んでいたところ、蹴ったサッカーボールが校庭から路上に転がり出て、このボールを避けようとしたバイクを運転中の高齢者が転倒して最終的に亡くなったというものがあります。

この事件について地方裁判所と高等裁判所は親の責任を認めました。しかし、最高裁判所は、本件で子どもがしていたのはゴールに向かってサッカーボールを蹴るという通常の行為であり、一般的には他人に危害が及ぶとは考えられない行為であることや、親が危険な行為をしないように日ごろからしつけをしていたことなどを考慮して、親は責任を負わないと判断しました。平成27年に出されたこの最高裁判所の判決が裁判実務に影響を与える可能性があります。

次に、子どもの年齢が一定以上で、子どもに責任能力があるとされ、子ども自身に賠償責任が認められる場合でも、同時に親にも賠償責任が認められる場合があります。先に述べた「子どもに代わって責任を負う」という場合とは違って、親自身に課されている監督義務に違反したこと自体を不法行為と考えるのです。

子どもには賠償するための資力がない場合が多いので、被害者にとっては、親に賠償責任が課されるほうが、実際には損害の補填がされやすいという事情があります。従って、大きな被害を受けた場合には、子どもとともに、親に対しても賠償責任を追及する場合が多くなります。

実際に裁判となった例としては、高校2年生の子どもが友人から借りた原動機付自転車を、夜間に前照灯を付けずに走行させ、道路を歩いていた被害者をはねて死亡させたという事案があります。この子どもは、この当時生活が乱れ、夜間に外出して仲間と徘徊することが多く、バイクに無免許で乗ったり、シンナーを吸うなどの問題行動を繰り返していました。親はそれに気づいて何度も注意していましたが、子どもは親の指導を無視して従いませんでした。

この事案について裁判所は、親の教育、指導、監督が十分であったとは言い難く、常態化していた夜遊びと本件事故との間には密接な関係があるとして、親の賠償責任を認めました。この事案では、親は子どもに対して注意はしていました。他の有効な手立てを思いつかなかった可能性があり、親の責任を認めることは親にとって厳しいものとも考えられます。

なお、子どもの問題行動が収まらない場合には、親だけで悩むのではなく、児童相談所や少年サポートセンターなど、非行にかかわる専門機関に相談する方法もあります。そのようなことをしているかどうかによって、親の責任についての判断が異なる可能性もあると思われます。

以上のように、子どもが第三者に加害行為をした場合に親が責任を負うかどうかは、子どもの年齢、子どもがした行為の内容、普段の子どもの行動や親の指導状況などに応じて、かなり微妙な判断になります。

子どもが起こした事件・事故で他人に損害を与えてしまうと、親としては、被害者への対応に頭を悩ませることになるでしょう。もし、こうした問題が生じたときには、賠償責任などの難しいことは専門家に相談し、親としては、子どもの指導や加害者への謝罪に力を注ぐことが、子どもの成長のためにも重要です。法律的なことは迷わず弁護士に相談されることをお勧めします。

また、子どもの加害によって生じる賠償責任について、一定の場合は保険で賄える場合もありますので、保険への加入も検討する必要があります。

連載/高齢者障がい者の権利擁護と弁護士~権利擁護法務の実務解説 最終回/福岡県弁護士会の高齢者・障がい者分野における取り組み

高齢者・障害者等委員会委員 大町 佳子(62期)

今回をもちまして、高齢者障がい者の権利擁護と弁護士~権利擁護法務の実務解説~の連載を終了いたします。そこで、最後に、福岡県弁護士会の高齢者・障がい者の権利擁護に向けた取り組みを紹介したいと思います。

1 高齢者・障害者法律相談

福岡部会では、あいゆう相談として、無料電話相談を実施しています。無料電話相談には、電話をかけると天神センターで待機している弁護士が直接に対応するもの(毎週火曜・金曜の午後1時~4時)、天神センターの職員が受付をして担当弁護士から折り返すもの(平日の午前10時~4時)があります。相談は、高齢者・障がい者からの相談のみならず、その家族や支援者(施設等)からの相談も受け付けています。

無料電話相談では、相談担当弁護士が面談相談の必要性について判断し、面談相談が必要で、かつ、相談者が希望する場合は、面談担当弁護士へと相談を引き継ぎます。

その場合、面談相談が実施されることになりますが、面談相談には担当弁護士の事務所への来所相談と出張相談(高齢等の事情で担当弁護士の事務所への来所が困難な方のみ)があります。なお、出張相談は、法テラスの民事法律扶助制度の無料法律相談の資力要件を満たすか否かを問わず初回は無料となっています。これらの相談については、登録研修(登録継続研修を含む)を実施したうえで、登録要件を満たした弁護士に相談を担当してもらっています。

筑後部会では、毎週木曜日の午後1時から午後4時まで、「高齢者障害者無料電話相談」を実施しています。高齢者、障がい者ご本人のみならず、御家族、福祉関係の支援者等も対象にして、高齢者、障害者に関わることであれば相談内容を問わずに電話相談を行っています。

北九州部会では、弁護士会(あいゆう)の無料電話相談等は行っていません。ただし、北九州市と連携しており、北九州市各区役所で、1か月に1回、「高齢者・障害者あんしん法律相談」を実施しています。これにより高齢者・障がい者関係の法的問題を抱えている市民の方は、無料で弁護士による法律相談を受けることができるようになっています。

2 高齢者障がい者虐待対応チーム

福岡県弁護士会は、公益社団法人福岡県社会福祉士会と協力して、高齢者や障がい者の虐待事案について、市町村の活動・施策をサポートするために、各市町村との契約に基づいて、各市町村からの要請に対して、ケース会議へ弁護士と社会福祉士をペアで派遣しています。なお、各市町村へ派遣する弁護士と社会福祉士については、登録研修を受講してもらったうえで、高齢者障がい者虐待対応チームに登録してもらっています。

3 あいゆう研修

毎年、福祉職などの、弁護士以外の方も参加可能な形で、高齢者障がい者の福祉業務の専門家や弁護士による講義形式の研修を開催しています。昨年は、障がいを理由とする差別の解消の推進に関する法律や、成年後見制度における本人の意思決定支援について研修をしました。

4 高齢者・障がい者の消費者被害研修への講師派遣

福岡部会では、消費者委員会と協力して、高齢者・障がい者の消費者被害を防止すべく、研修会に講師派遣をしています。この研修会は、福岡市の地域包括支援センターの管轄区域を対象にしており、その区域の民生委員やケアマネージャーが研修を受けられています。研修会の内容は、消費者被害の実態や防止方法、成年後見制度の説明などです。

5 成年後見人等候補者推薦制度

福岡部会では、福岡家庭裁判所本庁と協力し、家庭裁判所が弁護士を後見人等として選任する際の候補者名簿を作成し、候補者を推薦しています。

6 その他

その他、福岡県弁護士会では、福岡市医師会とのパートナーシップに基づく勉強会などを実施しており、高齢者・障がい者の特性の理解や、社会的制度の在り方について相互に理解を深めたうえでの連携を目指しています。

また、福岡部会では、法テラス福岡の弁護士ナビゲーションに対して相談担当弁護士の名簿を提供しています。さらに、福岡部会では、地域包括支援センターとの連携を目指して、地域包括支援センターでの法律相談を実施すべく、福岡市との調整を図っているところです。

北九州部会では、北九州市や行橋市で、包括支援センター等の職員に対する法律相談を実施しています。

筑後部会では、筑後地区の各自治体の高齢者、障害者関係部署、社会福祉協議会等と「筑後地区高齢者・障害者支援連絡協議会」を組織し、3か月に1回の頻度で各自治体の担当職員等との事例検討会に高齢者・障害者委員会所属の弁護士が参加して、実際の事例に基づいて対応方法等を検討しています。

7 最後に

これまで、この連載をお読みいただきありがとうございました。これからも、高齢者・障がい者の権利擁護に対するご理解とご支援・ご協力をいただきますよう、何卒、よろしくお願い申し上げます。

「実務に役立つLGBT連続講座」番外編/マンガで知ろうLGBT

両性の平等委員会・LGBT小委員会委員 石田 光史(53期)

■ これまで6回にわたり、実務に役立つLGBT基礎知識をお送りしてきました。ただもしかしたら会員のみなさんの中には、「そうは言っても、自分の周りには(自分はそうであるとカミングアウトしている)LGBTの方がいなくて、実感として何だかよく分からん。」という方もおられるかも知れません。

そういう自分の経験の不足を補ってくれるのは、今も昔も、小説であり、映画であり、マンガです。今回はLGBT講座の番外編として、筆者の好きなマンガという分野から、LGBTを知るためにうってつけのマンガをセレクトしてみました。もっとも、このジャンルは最近非常に流行りのようで、とても多くのマンガが出ています。今回は字数の関係上、厳選5つのご紹介ですが、もし興味を持たれたら、ご自身でも探してみてください。

■ 志村貴子『放浪息子』全15巻(エンターブレイン)

「女の子になりたい男の子と、男の子になりたい女の子のおはなし」。そう紹介すると、これまでこの連載を読んでくださった方は、ああ、トランスジェンダーの話ね、と思うかも知れませんが、このマンガは、そう一筋縄ではいきません。マンガの中で、トランスジェンダーとか性同一性障害という単語は、ただの1回も出てきませんし、様々な性自認・性的指向を持った人が登場します。女の子になりたいという願望を持ち、男の子が好きな男の子。男の子になりたいと思っているわけではないけど自分が着たいからと学生服を着る女の子。女の子になりたいと思う主人公を好きになる女の子。はっきりと描かれてはいないけどおそらく性別適合手術を受けているのではとうかがわれるMtoFの人。

私は、研修などで、「LGBTというのは分かりやすくひとくくりにした言葉だけど、本当はそんなに4種類にきっちり分けられるものではなくて、みなそれぞれ、性自認・性的指向でいろいろな傾向を持っているんだ。」と聞くたび、理屈としては分かるけど今ひとつ実感としてピンとこないところがありました。が、このマンガを読んで、その意味がよく分かったような気がします。

このマンガは、主人公2人の小学生時代から高校卒業までの成長を描いたものであるだけでなく、彼・彼女らを取り巻く友人や家族など非常に多くの人物が登場する一大群像劇です。LGBTの知識といった観点を離れても、マンガとしてとても読み応えのある、イチオシの作品です。

※ちなみに、ジュンク堂福岡店の4階マンガコーナーに、この『放浪息子』の原画が展示されています。お好きな向きはぜひチェックを!

■ 熊鹿るり『とある結婚』全1巻(太田出版)

ロサンゼルスに住む日本人の早紀とドイツ系アメリカ人のアンナ。2人はレズビアンのカップル。同性婚を禁止したカリフォルニア州の「提案8号」を無効とする連邦最高裁判決(ちなみにこの訴訟については3月29日に原田執行部の提案で上映会を行った映画「ジェンダー・マリアージュ」に描かれています。)を機に、アンナは早紀にプロポーズします。しかし早紀は、これまでレズビアンであることを家族に打ち明けておらず、また上司に自分がレズビアンであることを知られて憎悪の念を向けられたことなどから、このままアンナと結婚できるんだろうか、アンナと結婚するということはずっと周囲からそういう目で見られるかも知れないということなんだ、と不安を感じ、結婚に前向きになれず・・・。

2人の隣には、ゲイで、一緒に暮らしていたパートナーを亡くしたショーンと、ショーン(と亡くなったパートナー)の養子・コニーが住んでいます。舞台であるロサンゼルスはLGBTが多くフレンドリーな地域と言われていて、その雰囲気が伝わってくるマンガです。

■ 田亀源五郎『弟の夫』1~3巻(双葉社)

主人公の弥一は、妻との離婚後、娘の夏菜と2人暮らし。そこに突然、弥一の亡くなった弟・涼二と結婚していたというカナダ人男性・マイクが訪れます。弥一は、突然の訪問者に戸惑い、時に迷惑に思いますが、涼二を偲んで日本を訪れたマイクを突き放せず、3人での同居生活が始まります。他方、夏菜は、叔父の同性の結婚相手というマイクに強い興味を抱き、偏見のない目でマイクと交流を始めます・・・。

弥一は、弟がゲイであることを本人から知らされていました。そのときに弥一は、あからさまな嫌悪の感情を見せたり否定したりはしなかったけれど、それから自分は弟に対してよそよそしく接してきていたのではないか、それで良かったのか、と思います。「自分はLGBTに偏見はない。」と言い、そう思っていても、いざ身近な人にカミングアウトされた場合、あなただったら、どう接していきますか?

■ 鎌谷悠希『しまなみ誰そ彼』1~2巻(小学館)

高校生のたすくは、夏休みに入る2日前、同級生に「お前、ホモ動画観てたん?」と言われます。「お前、そうなん?」同級生の続けての問いに対し、必死にごまかすたすく。もう終わりだと思い、崖から飛び降りようかと思っていたたすくは、「誰かさん」と呼ばれる不思議な人物に導かれるように、「談話室」を訪ねます。そこは、ゲイ、レズビアンなど様々な人々が集う場所でした。

印象的なシーンを2つ。1つは、冒頭の、友人に同性愛の動画を見ていたことがばれたときのたすくの反応です。「兄貴が送ってきた釣り動画だよ。」と何気ないふりをして否定しますが、顔は引きつり、それでも必死で作り笑いを浮かべます。お前はホモっぽいと思っていたとさらに続ける同級生に対し、「バカじゃねーのホモなんて。きもいわ、そんなの。」・・・たすくは、自らを守るために、自分を否定する言葉を口にせざるを得なかったのです。

もう1つは、女装をする小学校6年生の男の子、美空。美空は、男性が好きというわけではないようです。女装について、「僕が着たいから(女性の服を)着るんです。」と堂々と述べる美空。しかし、女の子になりたいのか、と問われた美空は、「さあ。」としか答えられません。さらに問われた美空は、「僕のことなんか、僕にも分からん。誰にも。何にも分からん。」と、体を震わせてただ泣くだけでした・・・。

まだ2巻までしか出ていないので、今後どのように話が展開していくか分かりませんが、とても楽しみなマンガです。

■ 平沢ゆうな『僕が私になるために』全1巻(講談社)

このマンガの作者は、性同一性障害の診断を受け、タイで男性から女性の体になるための性別適合手術を受けました。これは、その過程を自らマンガ化したものです。

当然ながら、トランスジェンダー、性同一性障害の方には、その方ならではの辛さや苦悩、受けてきた差別的言動などがあるわけですが、このマンガでは、多少はそういった記載もあるものの、そのあたりよりも、性同一性障害の診断が出てから性別適合性手術を受け、戸籍の性別変更に至るまでの出来事を具体的に描写することに重点が置かれています(あとがきには、このマンガではあえてそのような方針をとったことが書かれています。)。したがって、「話には聞くけれど、実際にはどんな感じなんだろう?」と思っていた点が克明に描かれていて、とても興味深いマンガでした。

特にタイでの性別適合手術について頁を割いて紹介されており、「ええ!そんなことするの!?」とか、「うわ~、痛い~、やめてくれ~!」とか、それはもう、実際に体験した人でなければ描けない、冷や汗もののリアル描写が絶品です。どういうことが描かれているかは、ぜひどうぞ、実際に本を手に取ってみてください。

シンポジウム「子どものいのちを守るために~学校現場における自殺予防を考える~」のご報告

自死問題対策委員会 松井 仁(44期)

2017年3月12日(日)午後2時から、天神ビルで、福岡県弁護士会主催「子どものいのちを守るために~学校現場における自殺予防を考える~」が開催されましたので、その内容をご報告します。

我が国では、年間自殺者数が3万人を下回ったものの、なお交通事故死者数の約5倍という高い数値にあるうえ、15歳~24歳の層においては自殺率はむしろ増えています。メディアでは、いじめ等を苦にした子どもの自殺事例が繰り返し報道され、社会問題となっています。そこで、本年のシンポジウムは、小学生から高校生までの子どもの自殺予防をテーマに開催いたしました(因みに昨年は大学生を中心とした若者の自殺予防のシンポを行いました)。

会場には、日曜日の午後にもかかわらず、学校関係者、行政職員、医療専門職、法曹関係者、一般市民の方など、60名以上の多数の参加があり、熱心に聞いておられました。

基調講演では、兵庫教育大学大学院教授・精神科医の岩井圭司氏に、子どもたちの自殺のリスクにはどのようなものがあるか、子どもたちのSOSに対して、大人がどのように対応すればよいのか、自殺予防のためにどのような教育をすべきか等についてお話しいただきました。

岩井氏によれば、学校において「死」「自殺」というテーマを扱うことを現場の先生方が避ける傾向にあり、文科省発行の副読本「心のノート」でも、命の大切さばかりに頁が割かれ、死についてはほとんど触れられていない問題を指摘されました。他方で、兵庫県では、家族を亡くした犯罪被害者がその思いを語る授業が展開されており、それを聞いた生徒から「実は死にたいと思っていたけど、生きようという気持ちが湧いてきた」といった感想が出ているとのことでした。つまり、「死」を正面から見つめることが必要であること、また、命を大切にしましょうという道徳を語るよりも、エビデンス(証拠)を示すことが重要だということです。

また、岩井氏は、子どもから例えば「死にたい」と言われたときの対応の原則として、(1)誠実、(2)話をそらさない、(3)傾聴、(4)感情を受け止める(説教や激励はしない)、を挙げられました。また、子どもに気持ちを聞き出すのに、「あなたは今死にたいですか」と聞いても答えにくいので、「ひょっとして最近、死にたくなるほどつらいことがありましたか」と聞いてみる、といった言葉の工夫も紹介していただきました。

基調講演のあと、当会自死問題対策委員会の阿比留真由美弁護士から、当会が運営している自死遺族法律相談制度、自死問題支援者法律相談制度の概要とこれまでの実績、いくつかの相談事例の紹介を行いました。

休憩をはさみ、パネルディスカッションを行いました。当会自死問題対策委員会の佐川民弁護士の進行のもとで、パネリストとして、岩井氏に加え、2人の有識者の参加を得て、子どもの自殺予防について議論しました。

まず、パネリストのシャルマ直美氏(北九州市スクールカウンセラー、臨床心理士として同市の自殺予防教育をリードしてこられた方)から、北九州市での実践についてプレゼンをしていただきました。同市では、「だれにでもこころが苦しいときがある」のだから「誰かに相談できる力を持とう」というテーマの子ども向けパンフレットを作成し、現場の授業で利用しており、教師からも生徒からも好評であるとのことでした(実物も配布されました)。また、新たな取り組みとして「4本の木」という題材を使って、ストレスに対処するための複数の方法を示し、生徒に好きなものを選ばせて話し合う、といった授業も紹介されました。

もう一人のパネリストである石崎杏理氏(性的マイノリティの子どもや若者をサポートする団体「FRENS」代表。居場所づくりや相談事業、教育機関での講演活動も活発に行っておられる方)からは、最近よく耳にするようになったLGBTという言葉の意味についてに分かりやすい説明がありました。その中でも特にトランスジェンダーの子どもたちが、学校現場において様々な困難に直面しており(例えば、性自認と異なる制服の強制、トイレ問題、いじめや揶揄、カミングアウトの方法等々)、自殺のハイリスク群になっていることについて、プレゼンが行われました。

その後の議論では、岩井氏に若者の自殺が減らない社会的背景について分析してもらったり、シャルマ氏に、北九州市において上記の授業を受け入れてもらうための苦労話をしていただいたり、石崎氏に、トランスジェンダーであることを子どもがカミングアウトしようとするときの学校との連携の具体例について教えてもらったりしました。また、子どもに関わっている教師や親の側のメンタルの問題(苦しいのに弱いところを見せられない等)も同時に対応していかねばならないという視点も提示されました。

議論は尽きず、会場からはたくさんの質問用紙が提出されていたのですが、全部聞ききれないうちに時間切れとなりました。

以上のとおり、大変充実した内容で、聴衆の皆さんは、本シンポジウムから、子どもの自殺予防に関わる様々なヒントや勇気を得られたのではないかと思います。出口で回収したアンケートでも、参加して良かったとの声が多数寄せられていました。

(なお、岩井氏の講演や各パネリストのプレゼンの内容を詳しく知りたい方は、当日の配布資料や上映資料を提供しますので、当職までご連絡ください。)

2017年4月 1日

IT委員会だより 「OK Google!」

会員 本山 悠宇吉(65期)

1年程前に事務所で車を購入し、最近は近場の移動であれば専ら車を使用するようになりました。電車やバスの移動に比べて車が便利だと感じることの1つは、移動中に電話ができることです。スマートフォンと車のナビをBluetoothで接続すれば、ハンズフリーで通話ができますし、事務所にいる弁護士との簡単な打合せや事務員に対する指示などは運転中に済ませることができます。

先日、外出先から車で事務所へ帰っていると、突然、充電器に繋いでいたスマートフォンの音声検索機能が起動しました。一時CMでもやっていましたが、Androidのスマートフォンは、待受状態で「OK Google」と話しかけると、手で何も入力しなくても音声検索を始められる機能があるのですが(iPhoneの場合、「Hey Siri !」です)、私自身は何も話しかけていないのに、この機能が独りでに起動したのです。一体何事かと思って少し考えたのですが、おそらく、そのとき車内で流していた音楽(何の曲だったかは忘れましたが)の一部をスマートフォンが拾い、「OK Google」と聞き間違えたのだろうと思います。

私はスマートフォンの機種変更をしたときに設定して以来、この機能を使用したことがなかったのですが、折角なので何か検索してみようと思い、試しに「ここから○○まで車で」と、近くの餃子屋さんまでの道を訊いてみました。すると、「○○は現在地から車で8分です。こちらがルートです」と音声が流れ、「開始」という表示をタップすると、ナビが開始されました。勘違いで勝手に起動したりする割には、聞き取り精度はなかなか高いようで、運転中などは意外と便利なのではないかと今更ながら気づきました。

そこで、特に運転中に使えそうなGoogleの音声検索の機能を調べてみましたので、いくつか挙げてみようと思います。

  1. 「近くの○○まで」
    運転中、急にトイレに行きたくなったら「近くのトイレまで」、「近くのコンビニまで」などと音声入力すれば案内してくれます。ガソリンスタンドや駐車場を探すときにも便利かもしれません。
  2. 「○○に電話をして」
    運転しながら手で操作をしなくても電話をかけることができます。電話帳に登録しているところだけでなく、Googleで検索できるところであれば自動的に発信してくれます。
  3. 「メモをとって」
    運転中に電話をしても、同時にメモをとることはできません。しかし、通話終了後、スマートフォンに「メモをとって。明日11時に事務所で打合せ。」などと言えばすぐにメモを取ってくれます。
  4. 「リマインドして」
    「自宅に帰ったら○○に電話するようにリマインドして」などと言って登録すれば、指定した場所に来たときや指定した時間などにポップアップで通知してくれます。
  5. 「○○の交通状況は」
    どこの道が混んでいるかなども、Googleに聞けばすぐに教えてくれます。

いかがでしょうか。個人的には(3)のメモや(4)のリマインド機能などは運転中でなくとも使えそうですし、慣れればすごく便利ではないかと思います。ただ、私の場合外で携帯に向かって話しかけるのはまだ恥ずかしいので、その意味でもまずは車の中で利用したいと思います。

上記の他にもスマートフォンの音声検索でできることは色々あるようなので、利用したことがない人は是非試してください。

「実務に役立つLGBT連続講座」第5回/刑事弁護とLGBT

両性の平等委員会・LGBT小委員会委員 石井 謙一(59期)

1 はじめに

さて、5回に亘って連載してきたLGBT連続講座ですが、今回で一応最終回ということになります(もしかしたら番外編等あるかもしれませんが。)。

これまではLGBTに関する基本的知識をベースに、LGBTをめぐる社会情勢や日常業務において弁護士が注意すべきことなどをご紹介してきました。

今回は、少し場面を限定して、刑事弁護活動において配慮すべき点を取り上げつつ、これまでの連載の内容をおさらいしてみたいと思います。

2 刑事弁護とLGBT

これまでこの連載で繰り返し紹介してきましたが、LGBTは13人に1人はいるといわれている、ありふれた個性です。

ということは、当然、担当することとなった被疑者・被告人がLGBTである可能性も十分にあるということです。

事案の内容によっては、例えば、同性カップル間でのDV事案等、性的なアイデンティティが事件の内容に直接かかわる場合もあります。また、LGBTが抱える生きづらさが事件の背景になるなど、間接的に関わってくる場合もあります。事案とは関係がなくても、保釈請求など、身柄解放を目指す場合、家族関係を始めとして、被疑者・被告人の人間関係に踏み込んだ検討を行う必要もあります。

したがって、刑事弁護においても、性に多様性があることを前提に活動を行う必要があることは言うまでもありません。

3 被疑者・被告人とどのように接するか

では、具体的にどのような配慮を行うべきでしょうか。

まず、被疑者・被告人と接する場面で、性の多様性に配慮した対応をする必要があります。

例えば、男性の被疑者・被告人にパートナーがいる場合、それが「妻」や「彼女」であることを当然の前提とすべきではありません。同性パートナーである可能性もあることを前提とし、「交際相手」や「パートナー」という言い方をすることが適切です。

いわゆる「ホモネタ」「オカマネタ」を話題にすることなど、言語道断です。

もし、被疑者・被告人が、あなたに性の多様性に関する理解がないと感じれば、接見で自分の性的アイデンティティについて口にすることはないでしょう。

後述するように、LGBTであったとしても、そのことを必ずしも弁護活動に反映させる必要はありません。しかし、知っているかどうかでその後の手続において配慮できるかどうかが変わってきます。また、弁護活動に反映させる必要がある場合には、被疑者・被告人の更生にとって必要な情報に触れることができないまま活動することになります。

知ってから配慮するのではなく、まったく白紙の状態で接する場面から配慮する必要があるということです。

4 主張における配慮

被疑者・被告人がLGBTである場合、弁護人の主張においてどのような配慮が必要でしょうか。

弁護人としては、大前提として、LGBTという特性が生まれ持ったものであり、変えられないもの、変える必要がないものであること、そして、ありふれた個性であることを十分に理解しておく必要があります。

「LGBTであることが事件の原因である。」したがって「更生のためには原因となったLGBTという特性を治療すればよい。」などという主張は完全に間違いです。それだけでなく、被疑者・被告人に回復し難い傷を負わせることになりますので、絶対にすべきではありません。

むしろ、裁判官や検察官に上記の点について偏見がある場合、これを取り除く努力をしてください。

LGBTであることによる生きづらさが事案の背景にある場合は、これをどのように主張に盛り込むかは悩ましいと言えます。この生きづらさは解決が困難なだけに、これを不利な情状として受け取られる可能性があるからです。どのような主張や結論と結びつけてLGBTであることを明らかにするのか、慎重に判断する必要があります。背景となっている生きづらさについて被疑者・被告人が前向きに取り組むことができそうなら(例えば、もともと家族にはカミングアウトしようと考えていたので、これを機会にカミングアウトし、悩みを共有するなど)、弁護人としては、被疑者・被告人の決意が偏見によって誤解されないよう、最善を尽くす必要があります。

一口にLGBTと言っても、そのあり方はとても多様であり、それぞれが抱える生きづらさも千差万別です。個々の被疑者・被告人の個性に応じた対応をしなければならないのが難しいところではありますが、当事者がLGBTではない事案においても、事件の背景となる事情が千差万別であり、決まった答えがないことは同じです。違うのは、担当する弁護人にLGBTに関する知識や経験が欠けていることが多いことだけだと思います。

当事者がLGBTであるということだけで尻込みせず、被疑者・被告人あるいは関係者とよく話し合って、必要があれば刑弁ネット等で情報収集をするなどしてみてはいかがでしょうか。会員間でも知識や経験を共有することが必要であり、そのための企画は現在LGBT小委員会でも検討中です。

ただ、本人がLGBTであることをオープンにしていない場合、これを主張に盛り込むべきかどうかは慎重に検討する必要があります。

残念ながらLGBTに対する偏見は現在も根深く存在し、これをオープンにするかどうかは被疑者・被告人のその後の人生に大きくかかわる問題です。同性愛の少年が同性愛者向けの雑誌を万引きして見つかり、迎えにきた家族にセクシャリティを知られることを恐れて投身自殺してしまったという事案もあるとのことであり、本人にとっては生死を左右するほどの問題であることを念頭に置くべきです。

まずは被疑者・被告人の意思を確認し、本人が望まない場合は絶対にオープンにしないでください。

本人の承諾がある場合でも、本当にそれに触れる必要があるかどうかを慎重に吟味する必要があると言えます。

5 公判廷における配慮

被疑者・被告人がLGBTであることをオープンにしていない場合、公判廷でこれが公開されないように配慮する必要があります。

情状証人として家族が法廷に出頭している場合はもちろん、そうでなくても、公開の法廷ですから、知人等が傍聴に来る可能性も否定できません。一度オープンになってしまえば取り返しがつきませんので、「大丈夫だろう」と安易に考えないようにしてください。

この点については、弁護人が配慮するだけでは足りず、裁判所や検察官に配慮を求める必要があります。

事案によっては、パートナーの性別に言及しないなど、性的アイデンティティに触れずに公判運営を行うことも可能です。事前に裁判所・検察官と協議して理解・協力を求めましょう。

事案の内容にもよりますが、この連続講座でもご紹介したように、国においてもLGBTへの取り組みが広がりつつあり、理解・協力してくれることも十分期待できます。

6 刑事収容施設での問題

刑事弁護活動特有の問題として、収容施設での処遇の問題があります。

被疑者・被告人がトランスジェンダーの方で、ホルモン剤の定期的な投与が必要な場合、施設収容によって、これが止められてしまうことがあります。ホルモン剤も、中止によって脳梗塞や心筋梗塞などの発生率が上昇するなど、重大な疾患の原因となることがあります。

これは、まさに生死に直結する問題であり、万が一このようなことがあれば、刑事収容施設に投薬再開を求める活動を行うことが不可欠です。

法務省が「性同一性障害等を有する被収容者の処遇指針」を出していますが、ホルモン剤の投与については「医療上の措置の範囲外」にあるとして原則認めないとされています。しかし、2016年1月の国会において安倍晋三首相が「医師がホルモン療法の必要性を認めれば実施する」旨答弁しているので、これを前提に交渉を行う必要があると思われます。

7 さいごに

以上つらつらと述べて来ましたが、刑事弁護とLGBTについてより詳しいことを知りたい方は、現代人文社が出している「季刊刑事弁護」という雑誌の89号で「セクシャルマイノリティの刑事弁護」が特集されておりますので、ぜひご参照ください。

刑事弁護においても、それ以外の事件と基本的に配慮すべき点は共通していることがご理解いただけたのではないでしょうか。

LGBTへの配慮は相対する人間の個性への配慮です。普段は忘れていても、事件処理のときだけ「スイッチを入れる」ことなどできるような性質のものではありません。

適切な弁護活動ができるように、という観点からも、例えば飲み会の席などでいわゆる「ホモネタ」「オカマネタ」を口にしないなど、普段の生活から自分の行動を見直してみましょう。

交通事故専門研修 共同不法行為について

交通事故委員会 委員 黒野 賢大(64期)

1 平成29年1月23日に行われました共同不法行為を題材とした交通事故専門研修についてご報告いたします。交通事故事案では、複数当事者が関与する事案に遭遇することは少なくなく、その事案の処理にあたり、共同不法行為や寄与度減責における論点の理解が必要となりますが、その議論状況は混迷を極めています。そこで、共同不法行為についての理解を深める機会を設けるべく、今回の専門研修の題材とされました。

なお、本研修会は、法科大学院の教員が地元の法曹のスキルアップに助力いただいている九州大学法科大学院主催「継続学修セミナー」プログラムのひとつとしても位置付けられており、今回は、九州大学大学院法学研究院・九州大学法学部の五十川直行教授にご協力いただき、交通事故委員会と綿密な打ち合わせを重ね、当日の開催に至りました。

2 今回の研修は二部構成になっており、第一部は五十川教授による共同不法行為の制度についての講演でした。

五十川教授からは、共同不法行為論の議論状況について、古代ローマ法に遡ったり、また、比較法的な視点に立ったり、と様々な視点から解説があり、そのうえで、共同不法行為論の現況についての解説がなされました。今回の研修のメインである複数行為(原因)が関与して損害が発生するいわゆる競合的不法行為については、特に詳細な説明がありました。

また、共同不法行為論の今後の展望について、不法行為法の改正案や外国の法状況の説明があり、そのうえで、共同不法行為という概念がなくても、結局は因果関係論のなかで解決できるのではないかという考え方なども出てきているとのお話がありました。

五十川教授の講演は、共同不法行為論の第一人者としての視点からの緻密なものが多く、基本的なことを再確認できる、あるいは新たな発見のある大変貴重なものでした。

普段、不法行為法の起源や比較法的視点といった点からの思考や検討を怠っており、理論的思考や検討の重要性を再確認する点でも大変有意義なものでした。

3 第二部は、第一部の講演を踏まえて、五十川教授、小野裕樹先生、高藤基嗣先生をパネリストとして参加いただき、赤木孝旨先生がコーディネーターとしてパネルディスカッションが行われました。

パネルディスカッションでは、(1)交際中の女性(甲)が運転する車両の助手席にシートベルトを着用せずに同乗していたXが、信号機により交通整理の行われていない交差点において、甲が一時停止の規制に違反し交差点に進入したところ、右方から交差点に進入してきた乙が運転する車両と衝突する事故により受傷した、(2)本件事故当時、乙車の走行道路では、警備会社丙1が交通誘導、警備を行っていたが、その従業員丙2が、本件交差点の具体的状況を確認せずに、乙に対して、本件交差点の進入を誘導していた事情があった、(3)甲は、受傷後丁1病院に緊急搬送され、勤務医丁2の診察を受けたが、甲には、本件事故前から存在していた椎間板ヘルニアがあったため、本件事故で頚椎捻挫を負い、それと相俟って上肢の痺れが発現したものとの診断を受けた。その後も甲は丁1病院に通院を続け、半年後に頚椎椎間板ヘルニアの除去手術を受けたところ、丁2は、同手術に失敗し、その結果、甲は、頸髄を損傷し、第5級の後遺障害が残存するに至った、という事例をもとに議論が進められていきました。甲から相談を受けた弁護士として、誰を相手として訴訟提起するのか、その場合のメリット、デメリット、といった実務的な議論から、関連共同性や寄与度減責という概念をどう考えるのかという五十川教授がパネリストとして参加しているからこその議論等様々なテーマに基づいて議論が繰り広げられました。本件事案では、医療過誤と交通事故が競合している、さらに、交通事故においては、警備員の過失が競合している、被害者であるXにシートベルト不着用という過失がある、そういったなかで、相手方が寄与度減責を主張してくる可能性が高い、といった様々な問題が複雑に絡み合った事案であり、本件事案を適切に処理するためにどうしたらいいのかを深く考えさせられました。事案を頭の中で整理し、分析と自分なりの回答が追い付かなくなり傍観者となったところもありましたが、ディスカッションの内容が充実しており、時間を感じさせない程白熱した議論が交わされました。

4 今回の研修に際し、五十川教授、パネリスト及びコーディネーターの先生方は、何度も打ち合わせを重ねていただき、その中で、参考とした文献及び判例を挙げていただきましたので、末尾にご紹介させていただきます。

平成20年版赤い本講演録齊藤顕裁判官執筆の『交通事故訴訟における共同不法行為』は、交通事故における共同不法行為(異時事故)についての裁判例の検討並びに要証事実及び立証責任についての整理・検討が簡潔に行われております他、能見善久教授の法学協会雑誌での連載『共同不法行為責任の基礎的考察』は、古い論文ではありますが、学術的・理論的な視点から共同不法行為についての深い考察がなされており、共同不法行為を理解するためのパイブルとも言えるのではないでしょうか。その他にも、共同不法行為を理解するために非常に参考となる文献等は数多くありますが、紙面の関係上、文献及び判例につきましては、論文名(文献名)及び裁判年月日の適示のみとさせていただきます。

5 最後となりましたが、本研修に際し数多くの文献判例のご検討や打合せ、レジュメの作成、そして当日の大変有意義なご講演及びパネルディスカッションをいただきまして、五十川教授をはじめ、小野先生、高藤先生、赤木先生にこの場を借りて御礼申し上げます。

参考文献 (敬称略)
  • 北河隆之 「交通事故損害賠償法(第2版)」
  • 田山輝明 「事務管理・不当利得・不法行為(第3版)」
  • 森冨義明・村主隆行(裁判官)編著「交通関係訴訟の実務」
  • 中西 茂ら(裁判官) 「交通事故損害賠償実務の未来」
  • 神田孝夫 「共同不法行為」(「民法講座第6巻 事務管理・不当利得・不法行為」)
  • 平井宜雄 「不法行為法理論の諸相」(「共同不法行為に関する一考察」)
  • 北河隆之 「共同不法行為」(「判タ1088」)
  • 現代不法行為法研究会 「不法行為の立法的課題」(「別冊NBL No.155」)
  • 内田 貴 「近時の共同不法行為論に関する覚書」(「NBL No.1081、1082、1086、1087」)
  • 能見善久 「共同不法行為」(「民法の争点」)
  • 能見善久論文 「共同不法行為責任の基礎的考察」(法学協会雑誌)
  • 能見善久 「寄与度減責―被害者の素因の場合を中心として」(加藤一郎ら編「民法・信託法理論の展開」)
  • 能見善久 「複数不法行為者の責任」(「司法研修所論集82号26頁」)
  • 原田和徳 「自動車事故と共同不法行為」(「現代損害賠償法講座3」)
  • 冨上智子 「複数加害者関与事故の損害賠償における諸問題」(佐々木茂美編「民事実務研究Ⅰ」)
  • 大塚 直 「共同不法行為・競合的不法行為に関する検討」(「NBL1056」)
  • 淡路剛久 「共同不法行為 因果関係と関連共同性を中心に 変動する日本社会と法(加藤一郎先生追悼)」
  • 中村哲也 「共同不法行為論の現状と課題」(「法政理論第40巻3−4号(新潟大学)」)
  • 齊藤 顕裁判官 「交通事故訴訟における共同不法行為」(「平成20年赤い本講演録63頁」)
  • 神谷善英裁判官 「時間的、場所的に近接しない複数の事故により同一部位を受傷した場合における民法719条1項後段の適用の可否等」(「平成28年赤い本講演録5頁」)
  • 南 敏文 「不法行為責任と医療過誤」(「新・裁判実務体系5交通損害訴訟法」)
  • 塩崎 勤 「自賠法三条の運行供用者責任と製造物責任」同上
  • 北河隆之 「自賠法三条と道路管理者責任」同上
  • 藤村和夫 「事故の競合」同上
  • 宮川博史 「医療過誤との競合」(「現代裁判法体系(6)」))
  • 手嶋 豊 「医療過誤と交通事故の競合」(ジュリスト1403)
  • 窪田充見 「交通事故と医療事故が順次競合した事案における共同不法行為の成否と損害賠償」(ジュリスト1224)
  • 橋本佳幸 「交通事故と医療過誤の競合における賠償額の限定の可否」民商法雑誌125巻4・5号579頁
  • 本田純一 「交通事故と医療過誤との競合」(ジュリスト861号131頁)
  • 塩崎 勤 「複数医療関係の医療過誤と複数原因の競合」(「現代損害賠償法の諸問題」144頁)
  • 山口斉昭 「交通事故と医療事故の競合」(「交通賠償論の新次元」)
  • 山本 豊 「加害者複数の不法行為と過失相殺-交通事故と医療過誤の競合事例と加害者複数の交通事故の事例を中心に」(紛セ40周年)
  • 大塚 直 「原因競合における割合的責任論に関する基礎的考察―競合的不法行為を中心として―」(中川良延ら編 「日本民法学の形成と課題・下」 879頁)
  • 奥田隆文 「原因競合による減額―共同不法行為者の一部連帯」(「裁判実務体系第15巻」)
  • 曽根威彦 「不法行為法における相当因果関係論の帰趨」(「早法84巻3号」)
  • 野村好弘 「因果関係の割合的認定」(「賠償医学NO.10」)
  • 若杉長英ら「死亡・後遺障害に関する因果関係の割合的認定のための新基準」(「賠償医学NO.18」)
  • 池田清治「割合的責任論の現在−共同不法行為事例を素材として−」(「紛セ40年周年記念」)
  • 石橋秀起 「不法行為法における割合的責任の法理」
  • 谷口 聡 「寄与度減責理論の展開と本質的課題 法学研究論集第5号」
  • 馬場純夫裁判官 「交通事故と医療過誤の競合と寄与度減責の可否」(「平成12年赤い本講演録287頁」)
  • 丸山一朗 「交通事故における共同不法行為の過失相殺の方法」(「交通賠償論の新次元」233頁)
  • 武田昌之「動車交通事故民事損害賠償における複数加害者と被害者の関係」(「専修大学社会科学年報第40号」)
  • 前田陽一 「交通事故における共同不法行為と過失相殺」(「ジュリスト1403」)
  • 藤村和夫 「共同不法行為における「連帯」の意義」(「交通事故損害賠償の新潮流(紛セ30年記念)」)
  • 奥田昌道 「紛争解決と規範創造―最高裁判所で学んだこと、感じたこと」
  • 潮見佳男 「民事過失の帰責構造」
  • 石橋秀起 「不法行為法における割合責任の法理」
  • 前田達明・原田 剛 「共同不法行為法論」
参考判例
(大審院・最高裁判例)
  • 大正2年4月26日判決民録19輯281頁
  • 大正3年10月29日民録20輯834頁
  • 昭和12年6月30日民集16巻1285号
  • 昭和31年10月23日判決民集10巻10号1275頁
  • 昭和32年3月26日民集11巻3号543頁
  • 昭和35年4月7日判決民集14巻5号751頁
  • 昭和41年11月18日民集20巻9号1886頁
  • 昭和43年4月23日判決民集22巻4号964頁
  • 昭和45年4月21日判決判タ248号125頁
  • 昭和48年1月30日判決判時695号64頁
  • 昭和48年2月16日民集27巻1号99頁
  • 昭和57年3月4日判決判タ470号121頁
  • 平成3年10月25日判決民集45巻7号1173頁
  • 平成6年11月24日判決判時1514号82頁
  • 平成8年4月25日判決民集50巻5号1221頁
  • 平成8年5月31日判決民集50巻6号1323頁
  • 平成10年9月10日民集52巻6号1494頁
  • 平成13年3月13日判決民集55巻2号328頁・最高裁判所判例解説民事篇平成13年(上)228頁
  • 平成15年7月11日判決民集57巻7号815頁
  • 平成20年6月10日裁判集民事228号181頁
(下級審判例)
  • 東京地判昭和42年6月7日判時485号21頁
    (控訴審:東京高判昭和45年5月26日判タ253号273頁)
  • 神戸地尼崎支判昭和45年2月26日交民集3巻1号304頁
  • 千葉地判昭和45年9月7日判時619号80頁
  • 東京高判昭和47年4月18日判時669号69頁
  • 津地四日市支判昭和47年7月24日判タ280号100頁
  • 京都地判昭和48年1月26日判時711号120頁
  • 静岡地沼津支判昭和52年3月31日交民集10巻2号511頁
    (控訴審:東京高判昭和57年2月17日判時1038号295頁)
  • 札幌地判昭和52年4月27日判タ362号310頁
  • 新潟地長岡支判昭和53年10月30日交民集11巻5号1525号
  • 東京地判昭和54年7月3日判時947号63頁
  • 岡山地津山支判昭和55年4月1日交民集13巻2号453頁
  • 山形地判昭和56年6月1日交民集14巻689号
  • 横浜地判昭和56年9月22日交民集14巻5号1096頁
  • 岡山地判昭和57年10月4日判タ487号140頁
  • 横浜地判昭和57年11月2日判時1077号111頁
    (控訴審:東京高判昭和60年5月14日判時1166号62頁)
  • 浦和地判昭和57年11月26日判タ491号126頁
  • 大阪高判昭和58年6月22日判タ506号176頁
  • 東京地判昭和58年7月20日判時1132号128頁
  • 横浜地判昭和59年3月23日判タ527号121頁
  • 浦和地川越支判昭和60年1月17日判時1147号125頁
  • 高知地判昭和60年5月9日判時1162号151頁
  • 東京地判昭和60年5月31日判時1174号90頁
  • 横浜地判平成2年3月15日判タ739号172頁
  • 名古屋高判平成2年7月25日判時1376号69頁
    (原審:岐阜地多治見支判昭和63年12月23日判タ686号147頁)
  • 横浜地判平成3年3月19日判タ761号231頁
  • 大阪地判平成3年3月29日訟務月報37巻9号1507頁
  • 名古屋地判平成4年9月7日交民集25巻5号1108頁
  • 広島高判平成4年9月30日交民集25巻5号1064頁
  • 浦和地判平成4年10月27日交民集25巻5号1272頁
  • 名古屋地判平成4年12月21日判タ834号181頁
  • 神戸地判平成5年10月29日交民集26巻5号1345頁
  • 岡山地判平成6年2月28日交民集27巻1巻276頁
  • 岡山地判平成6年3月23日判タ845号46頁
  • 神戸地尼崎支判平成6年5月27日交民集27巻3号719頁
  • 大阪地判平成6年9月20日交民集27巻5号1284頁
  • 仙台地判平成6年10月25日判タ881号218頁
  • 東京地判平成6年11月17日判タ第879号164頁
  • 神戸地判平成7年3月17日交民集28巻2号419頁
  • 大阪地判平成7年6月22日交民集28巻3号926頁
  • 大阪地判平成7年7月5日訟務月報43巻10号249頁
  • 神戸地判平成8年2月29日交民集29巻1号282頁
  • 神戸地判平成8年3月8日交民集29巻2号363頁
  • 大阪地判平成9年5月16日交民集30巻3号714頁
  • 仙台地判平成9年11月25日自保ジャーナル1249号
  • 大阪地判平成10年6月29日交民集31巻3号954頁
  • 名古屋地判平成10年12月25日自保ジャーナル1316号3頁
  • 浦和地判平成12年2月21日交民集33巻1号271頁
  • 大阪地判平成12年2月29日交民集33巻1号407頁
  • 東京地判平成12年3月29日交民集33巻2号619頁
  • 名古屋地判平成12年8月30日交民集33巻4号1407頁
  • 京都地判平成12年9月18日自保ジャーナル1368号
  • 大阪地判平成13年3月22日交民集34巻2号411頁
  • 横浜地判平成13年8月10日自保ジャーナル1410号
  • 京都地判平成13年10月2日自保ジャーナル1434号17頁
  • 大阪地堺支判平成14年4月17日交民集35巻6号1738頁
  • 岡山地判平成15年6月13日交民集36巻3号846頁
  • 東京地判平成16年1月19日
  • 水戸地土浦支判平成16年2月20日自保ジャーナル1537号9頁
  • 神戸地判平成16年3月12日交民集37巻2号336頁
  • 大阪地判平成16年5月17日交民集37巻3号635号
  • 鹿児島地判平成16年9月13日判時1894号96頁 (控訴審:福岡高宮﨑支判平成18年3月29日判タ1216号206頁)
  • 横浜地判平成16年9月16日自保ジャーナル1590号
  • 東京高判平成16年9月30日交民集37巻5号1183頁
  • 大阪高判平成17年1月25日交民集38巻1号1頁
  • 東京地判平成17年3月24日交民集38巻2号400頁
  • 高松高判平成17年5月17日
  • 山口地下関支判平成17年11月29日
  • 名古屋地判平成18年7月28日自保ジャーナル1667号2頁
  • 名古屋地判平成18年11月7日交民集39巻6号1547頁
  • 東京地判平成18年11月15日交民集39巻6号1565頁
  • 東京地判平成19年11月22日
  • 横浜地判平成19年1月23日自保ジャーナル1690号
  • 名古屋地判平成19年3月16日自保ジャーナル1706号8頁
  • 東京地判平成19年9月27日交民集40巻5号1271頁
  • 東京地判平成19年11月22日交民集40巻6号1508頁
  • 名古屋地判平成20年8月22日交民集41巻4号1003頁
  • 東京地判平成21年2月5日交民集42巻1号110頁
  • 福岡高判平成21年4月10日自保ジャーナル1787号
  • 千葉地判平成21年6月18日自保ジャーナル第1817号
  • 横浜地判平成21年12月17日自保ジャーナル1820号93頁
  • 大阪地判平成22年3月15日自保ジャーナル第1837号
  • 京都地判平成22年3月30日自保ジャーナル1832号76頁
  • 東京地判平成23年2月14日自保ジャーナル1854号79頁
  • 大阪地判平成23年2月23日自保ジャーナル1855号28頁
  • 東京地判平成23年3月15日自保ジャーナル1852号
  • 名古屋地判平成23年5月27日判決自保ジャーナル第1855号
  • 福岡高判平成23年10月19日判決自保ジャーナル第1862号
  • 大阪地判平成24年3月27日自保ジャーナル1877号
  • 横浜地判平成24年4月26日自保ジャーナル第1878号
  • 東京地判平成25年2月27日自保ジャーナル第1896号
  • 横浜地判平成25年3月14日交民集46巻2号397頁
  • 東京地判平成25年3月27日自保ジャーナル1900号28頁
  • 名古屋地判平成25年3月27日自保ジャーナル第1899号
  • 神戸地判平成25年5月23日交民集46巻3号637頁
  • 東京地判平成25年5月29日交民集46巻3号693頁
  • 名古屋地判平成25年7月3日交民集46巻4号865頁
  • 東京地判平成25年7月23日交民集46巻4号968頁
  • 名古屋地判平成25年11月14日交民集46巻6号1466頁
  • 名古屋地判平成26年1月28日交民集47巻1号140頁
  • 名古屋地判平成26年1月31日交民集47巻1号205頁
  • 東京地判平成26年3月12日交民集47巻2号308頁
  • 東京地判平成26年3月28日交民集47巻2号468頁
  • 名古屋地判平成26年4月25日交民集47巻2号551頁
  • 大阪地判平成26年5月13日自保ジャーナル1928号62頁
  • 名古屋地判平成26年6月27日自保ジャーナル1931号85頁
  • 大阪地判平成26年9月12日交民集47巻5号1161頁
  • 東京地判平成26年10月28日交民集47巻5号1313頁
  • 大阪地判平成27年1月16日交民集48巻1号87頁
  • 東京地判平成27年1月26日交民集48巻1号159頁
  • 東京地判平成27年3月6日自保ジャーナル第1949号
  • 東京地判平成27年3月13日自保ジャーナル第1949号
  • 名古屋地判平成27年4月27日交民集48巻2号527頁
  • 横浜地判平成27年5月15日自保ジャーナル1953号
  • 大阪地判平成27年7月2日交民集48巻4号821頁
  • 横浜地裁平成27年7月15日交民集48巻4号862頁
  • 名古屋地判平成27年8月24日交民集48巻4号982頁
  • 東京地判平成28年2月19日自保ジャーナル1973号142頁

2017年3月 1日

共謀罪シンポジウムに参加して

情報問題対策委員会 松本 敬介(68期)

1 シンポジウムの開催

ここ最近いわゆる共謀罪法案が世間を賑わせております。

というのも、政府は共謀罪の名称を「テロ等組織犯罪準備罪」に変え、組織犯罪処罰法改正案として国会に提出しようとしているからです。

共謀罪法案は、平成15年に小泉政権下のもとで最初の法案が提出されてから現在に至るまで合計3回にわたって提出されてきましたが、野党等の反対によりいずれも廃案に追い込まれてきました。その共謀罪法案が、テロ対策目的というお題目を携えて、しかも名前を変えて復活したというわけです。

当会においてもこれまで共謀罪法案の問題点を指摘し、法案の成立に強く反対してきたところですが、共謀罪法案の再提出が差し迫っているタイミングで、今一度市民の皆様と問題意識を共有する必要があると思い至りました。

そこで、平成29年1月14日、当委員会主導のもと「政府批判はいけないことか?~共謀罪で表現の自由が奪われる!~」と題して、共謀罪シンポジウムを開催いたしました。

今回のシンポジウムの開催にあたっては、九州大学法学部の学生さん4名にご協力いただきました。また、ゲストとして、元北海道警察の警察官でジャーナリストの原田宏二氏、元共同通信の記者で同じくジャーナリストの青木理氏、九州大学で刑事訴訟法を研究していらっしゃる豊崎七絵教授をお招きしました。

当日は140名にものぼる多数の来場者により、追加でイスを出すもイスを設置するスペースが足らなくなるほどで、この問題に対する市民の皆様の関心がいかに高いかが分かります。

シンポジウムは、まず学生の皆さんからの基調報告からスタートしました。共謀罪法案の必要性、構成要件の明確性、処罰対象としての犯罪の範囲の妥当性、主体となる人的範囲の妥当性など、多角的に共謀罪法案を検討していただきました。

続いて、「共謀罪・盗聴法・デジタル捜査は、市民監視の3点セット」と題して、原田氏から基調講演を行っていただきました。原田氏は、Nシステム・インターネット監視・GPS捜査などデジタル捜査が高度化したことで捜査機関は個人監視の手段を着実に手に入れている、昨今の刑訴法改正に伴い通信傍受の対象犯罪が拡大するとともに要件が緩和し法的な意味でも監視しやすくなっている、さらに共謀罪が成立することでその構成要件の曖昧さが捜査機関側の恣意的運用を可能にし、共謀罪の捜査という名目で個人監視が堂々と行われることを訴えました。まさに元警察官という独特のキャリアを持つ原田氏ならではの講演内容だったと思います。

最後に、当委員会より武藤糾明委員長をコーディーネーターとして、青木氏、原田氏、豊崎教授のほか、学生の方から1名に登壇いただき、パネルディスカッションを行いました。青木氏からは、共謀罪法案について捜査機関の目線にたった考察が重要であることや、路上の防犯カメラの設置など、本当に防犯対策になりうるか分からないにも関わらず、極めて表層的な安心や安全のために個人のプライバシーを譲り渡していいのか問題提起がされました。

また、豊崎教授は、共謀罪が成立した場合、従来の判例の傾向を踏まえると黙示の共謀が認められることになるのではと見解を示し、黙示の共謀を認定するために、個人の行動や場所の出入りから思想を推定することになるなど、懸念を明らかにしました。

2 雑感

国連越境組織犯罪防止条約の批准にむけた国内法整備の是非を皮切りに、長きにわたって共謀罪法案をめぐって議論されてきましたが、ここに来て条約の目的に含まれていないテロ対策を大々的に打ち出し、名前を変えてまで法案の再提出を図る政府の態度に、市民の方々も違和感があったかと思います。今回のシンポジウムは、政府の真の目的に迫るとともに、共謀罪法案だけでなく、特定秘密保護法や刑事訴訟法の改正を含めた全体的な考察が必要であることを、市民の皆様と共有できる機会になったと思います。

今後も、弁護士会として共謀罪法案の提出および成立に断固として反対する活動に取り組んで参ります。

給費制維持緊急対策本部だより 「修習給付金」制度、閣議決定される

司法修習費用給費制復活緊急対策本部 本部長代行 市丸 信敏(35期)

■ ご高承のとおり、さる2月3日、司法修習生に国が「修習給付金」を支給する新制度を設ける内容の裁判所法改正案が閣議決定されました。

同法案によれば、修習給付金は、司法修習生の全員に支給する「基本給付金」、自ら住宅を借り受けている修習生に対する「住居給付金」、修習に伴い引っ越しを必要とする修習生に対する「移転給付金」の三種類とされています。具体的な金額は、それぞれ最高裁判所規則で定めることとされていますが、これまでの折衝等で合意されている金額は、基本給付金13.5万円、住居給付金3.5万円の合計17万円です。

また、本改正案では同時に、現行の貸与制が変更され、「修習専念資金」として、修習給付金では足りない者に対して一定額を無利息で貸し付ける制度も設けられることになりました。

因みに、同改正案では、司法修習生の非行について、現行の「罷免」に加えて、新たに「修習停止」、「戒告」の制度も新設されることとされました。

改正法の施行日は本年11月1日とされ(附則)、第71期司法修習生から適用される予定です。

法案は、本年2月中旬頃には国会に提出され、同3月中には、成立が見込まれています。

■ 給付金の金額については、もう少し上を目指してきていたので率直に言って若干の残念感も否定できませんが、国家財政の危機的状況の下、日弁連会長自らも精力的に各方面に働きかける等したうえでのギリギリの到達点であること、日弁連が実施した修習生の生活実態調査(アンケート)から浮かび上がっていた必要生活費額ともほぼ符合する金額水準でもあること等から、さしあたりはやむを得ないものと受け止めています。

■ 平成22年4月、日弁連及び当会を含む全国の弁護士会が立ち上がって給費制の維持を求めて精力的な運動に取り組み始めてから7年、ついに悲願であった給費制の事実上の復活まであと一歩のところまでこぎ着けることができました。「一度廃止された制度が数年で復活するというのは、あり得ない」(某国会議員)ことが実現しつつあるのは、この間の、当会会員の皆さまの深いご理解、熱いご支援のおかげに他ならないものと篤く感謝致しております。そもそも市民にとって全く縁遠いこの課題が、市民ほか各界各層に広くご理解とご支援を仰ぐことができて、その結果としてここに至ることができたのは、当会会員の皆さまの長年に及ぶ日ごろからの地道で幅広い各種公益活動をはじめ、弁護士・弁護士会に対する信頼と理解があったからこそであると、運動を通じて強く実感しているところです。ただ、一方で、新しい法曹養成制度のもと、残念ながら法曹志願者が毎年減少し続けるという窮状が顕著となり、その大きな要因の一つと考えられる経済的負担を軽減する必要への理解が進んだこともあります。そして、この間の歴代執行部のご理解、何よりも、自ら無給制(貸与制)のもとで体験した苦労や不条理を踏まえ、後輩たちに同じ思いをさせてはならないとして、運動の絶望的状況の中でも決してあきらめずに、足を棒にして数え切れないほどの各種団体や国会議員回り、街頭行動や幾度もの市民集会開催等々の地道でねばり強い活動に身を投じ続けてくれた若手会員の皆さんの力に負うところが大です。この場を借りて、篤く御礼申し上げます。

■ 司法修習生に対して、いわば特別待遇をすることに対する異論はいまだ根強く残っていることも事実です。私たちは、戦後一貫して国民の負担で修習中の生活を保障してもらって法曹としての養成を受けてきたこと、また、今般、再びその在り方に戻すこととされたことの意義に思いを致し、改めて、深く胸に刻み込む必要があることは言うまでもありません。

無事に法改正が叶った暁には、この間、無給制(貸与制)で耐えてきてくれた65期生から70期生の皆さん、この運動の原動力でもあった彼らを、如何にして救済するかが、残された大きな課題です。引き続き、会員の皆さまのご理解とご支援をお願い申し上げます。(平成29年2月14日記)

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