福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)
月報記事
2023年11月30日
ローエイシアの報告
会員 杦本 信也(61期)
1 9月2日から4日まで、福岡県弁護士会館で、ローエイシア福岡人権大会が開催されました。シンポジウム「アジア地域の死刑廃止に向けた弁護士および弁護士会の役割」に参加しましたので報告します。発言は全て英語でしたので、私は同時通訳で聞きました。
2 シンポジウムでは、マレーシア、オーストラリア、日本及びインドの弁護士がパネリストを務めました。最初に、各国の死刑制度の現状や、死刑廃止を求める活動の状況について話がありました。
⑴ マレーシアでは、かつて総選挙で政党が変わった際、政府が死刑廃止の政策を打ち出し、死刑の執行を停止しました。でも、国内で死刑存置を求める人が多く、宗教団体、被害者団体が死刑存置を求めたため、死刑廃止には至っていません。ただ、今年4月に、重大犯罪で有罪が確定した場合に裁判所が裁量の余地なく死刑判決を行う「強制死刑」制度を廃止する法案と、同法が適用され確定した判決について連邦裁判所に見直す権限を付与する法案が可決されました。今後1300人を超える死刑囚が、再判決を受ける予定とのことです。
マレーシア弁護士会は、1985年以降、5回にわたり死刑廃止を求める決議を行い、政府の死刑廃止検討会議にも参加しています。その他、重度の精神病の人の死刑執行を停止させ終身刑に減刑させる活動を行ったり、シンガポール政府に対してマレーシア国民に死刑を執行しないように求める活動を行ったということです。
⑵ オーストラリアは、死刑が廃止されています。パネリストは、死刑制度の歴史について次のように説明しました。80年くらい前は、世界のほとんどの国で死刑が執行されていた。現在、死刑存置国は20~30か国しかない。死刑廃止は実現可能であり、実際に多くの国が廃止してきた。文化、政治制度、宗教の違いを超えて、人々が国による殺人を拒否している。歴史は死刑廃止に向かっている。
他の話としては、ほとんどの死刑執行国では死刑が秘密にされている、死刑の正当性の根拠は犯罪抑止とされているのに、秘密があるのは矛盾している、という話が印象に残りました。
⑶ インドでは、死刑事件に対する弁護の質が低く、弁護士の能力も低いことが問題という話でした。刑事裁判を受ける人は、ほとんどが必要な教育を受けておらず、経済的に脆弱であり、実質的に裁判に参加できていない。捜査機関の取調べの弁護士の立会いも認められていない。無罪推定原則が実現されていない。裁判所が、捜査機関の証拠ねつ造を指摘して死刑囚に対して無罪判決を出した事件もあったということです。
⑷ 日本のパネリストは、刑場のイラストを用いて、死刑執行の現状について説明し、医師が死亡確認のために待機するようなシステムは残虐であるという話をしていました。日弁連の活動については、日本では国民の80%が死刑存置もやむを得ないと考えているため、代替刑を提案する必要がある。仮釈放のない終身刑、ただし裁判所により無期懲役への変更が可能な制度を提案している。国会議員100名に会い、この提案を説明した。日弁連は、仏教団体やキリスト教の団体に働きかけており、EU、イギリスやオーストラリアと連携して死刑廃止を求めているという話をしていました。
3 質疑応答では、まず、戦略として死刑廃止を求めるのか執行停止を求めるのか、また、死刑を廃止するための活動に弁護士がどのように関与するのかという質問が出ました。
マレーシアのパネリストは、死刑廃止を働きかけるとき、なぜ死刑が廃止されるべきか理解させることが必要である。一般的に、死刑には犯罪抑止効果があるといわれているが、死刑執行が続いても薬物犯罪は減っていない。国会議員や大臣にデータを提供し、死刑がふさわしくないことを説得する必要があると話していました。インドでは、絞首刑は死刑囚を苦しめるので、死刑囚の苦しみを緩和するべきと主張している、もっと広い観点から議論する必要があると話していました。日本からも、絞首刑の残虐さを争う民事訴訟が提起され、各県の弁護士会が国会議員に働きかけているいることが報告されていました。
弁護士の関与については、オーストラリアのパネリストが、弁護士としての援助は裁判所の中に限定されない、弁護士が事実を語る役割を果たすことが必要であると話していました。
4 最後に、現代では100人以上が亡くなるテロ事件が起きるなど、犯罪の性質が変わってきているが、死刑は廃止できるのかという質問が出されました。ここは印象に残った話を箇条書きします。
・ 国際的にも重罪と考えられるもの、戦争犯罪やジェノサイドがある。司法制度が対応できていない。社会が前進するためには、どうすればよいか。罪を犯した人に対して復讐するのか、更生を図るのか。原則に立ち返ると人権がある。
・ 殺人のない世界に住みたい、だからといって死刑が必要というわけではない。世界を見ても、死刑があるから犯罪がなくなったというケースはない。死刑は社会を安全にするものではない。特定の人に責任を負わせても、それだけでは終わらない。死刑は短絡的な制度である。
・ 第二次世界大戦後の大きな流れとしては、国際社会は、個人の尊厳、人権を守る方向にある。圧政やひどい戦争を経験した国は、死刑を廃止している。暴力からの脱却、残虐性を用いない方法で解決する必要がある。社会復帰や回復は簡単ではない。国により状況が異なる。どう変わっていくか考えていく必要がある。
・ 残虐な事件が起これば被害者について報道される。一般の人は死刑があってもよいと強く感じる。でも、日本では、最近は話し合いの機会を作ることが行われている。被害者側の遺族にも対話を求める人がおり、報道されるようになっている。そういう活動を重ねていくうちに、時間がかかるとしても、社会は変わっていくはずである。
5 シンポジウムの報告は以上です。国際会議というと敷居が高い感じがして、最初は参加することに不安がありました。でも、異なる文化圏でも人権尊重という共通の基盤があります。言葉の壁も、同時通訳さんと、英語を話せる人に助けていただき、乗り切れました。運営スタッフも当会会員で知っている人でしたので安心しました。勇気を出して参加してよかったです。
刑事法廷内の手錠腰縄問題に関するシンポジウムが開催されました
会員 木上 貴裕(73期)
1 はじめに
令和5年8月5日(土)13時より、2023年ローエイシア福岡プレシンポジウム第3弾として、刑事法廷内の手錠腰縄に関するシンポジウムが開催されました。
手錠腰縄問題とは、勾留中の被告人について、裁判官の法廷警察権に基づく指揮の下、手錠・腰縄をされたままの状態で法廷内に連れて来られ、手錠・腰縄が外されるまで、被告人は訴訟関係人だけでなく傍聴人からも、手錠・腰縄が施された状態を見られることになり、被告人における手錠・腰縄姿をみだりに人に見られないという人格的利益が侵害されている、という問題です。
手錠・腰縄姿をみだりに人に見られない利益が、被告人の人格的利益であることは、これまでの判例・裁判例で指摘されていますが(例えば、東京地判平成5年10月4日・判時1491号121ページ、大阪地判平成7年1月30日・判時1535号113ページ、最一小判平成17年11月10日・民衆59巻9号2428ページ)、実際には、被告人の意思に関係なく、手錠・腰縄がされている状態を、訴訟関係人や傍聴人に見られる運用がされています。
そこで、日弁連や全国の弁護士会においてPTが設置され、被疑者・被告人の手錠・腰縄姿が訴訟関係人や傍聴人に見られない状態の実現に向けた取り組みが行われており、その活動の一環として、今回のシンポジウムが開催されました。
2 第1部 基調講演
⑴ 講演の概要について
第1部は、基調講演として、近畿大学法学部教授の辻本典央先生と大阪弁護士会所属の田中俊先生より、ご講演をいただきました。
辻本先生は、日弁連手錠腰縄問題PTや参議院院内学習会などに参画されており、本講演では、「法廷での手錠腰縄姿は当たり前のこと...なのか?法廷への入退出時における手錠腰縄措置の法的検討と制度改善に向けて」と題し、被告人が、手錠腰縄をされた上で刑務官に脇を固められて法廷に入廷する姿が当たり前のことなのかということに関し、被告人としての立場から見つめ直す、すなわち基本的人権の観点から被告人の法的利益に対する侵害の有無及び救済方法についてご講演をいただきました。
田中先生は、日弁連手錠腰縄PTの座長であり手錠腰縄措置により人格権等を侵害されたことを理由とする国家賠償訴訟を複数担当されており、本講演では、「これまで問題となった手錠・腰縄使用事例と弁護士会の活動について」と題し、過去に手錠腰縄の使用が問題となったケースや実際に田中弁護士が実際に担当された国家賠償訴訟、日弁連手錠腰縄問題PTの活動内容等についてご講演をいただきました。
⑵ 大阪地裁判決及び大阪高裁判決について
辻本先生及び田中先生からは、主に大阪地裁令和元年5月27日判決(以下「大阪地裁判決」といいます。)及び大阪高裁令和元年6月14日判決(以下「大阪高裁判決」といいます。)を中心に講演を頂きました。
大阪高裁判決は、「明らかに逃走等のおそれがない場合など手錠等を使用する具体的な必要性を欠く場合にはその使用が許されないというにとどまる。」として、手錠・腰縄等の使用について裁判所の広範な裁量を認めています。
他方、大阪地裁判決は、「個人の尊厳と人格価値の尊重を宣言し、個人の容貌等に関する人格的利益を保障している憲法13条の趣旨に照らし、身柄拘束を受けている被告人は、上記のとおりみだりに容ぼうや姿態を撮影されない権利を有しているというにとどまらず、手錠等を施された姿をみだりに公衆にさらされないとの正当な利益ないし期待を有しており、かかる利益ないし期待についても人格的利益として法的な保護に値する」との見解を示したうえで、「裁判長は、勾留中の被告人を公判期日に出廷させる際には、法廷において傍聴人に手錠等を施された姿を見られたくないとの被告人の利益ないし期待を尊重した法廷警察権の行使をすることが要請され、被告人の身柄確保の責任を負う刑事施設の意向も踏まえつつ、可能な限り傍聴人に被告人の手錠等の施された姿がさらされないような方法をとることが求められているというべきである。」と判示しました。そのうえで、入退廷に際して、手錠等を施された被告人の姿を傍聴人の目に触れさせないようにするため、
①法廷の被告人出入口の扉のすぐ外で手錠等の着脱を行うこととし、手錠等を施さない状態で被告人を入退廷させる方法
②法廷内において被告人出入口の扉付近に衝立等による遮へい措置を行い、その中で手錠等の着脱を行う方法
③法廷内で手錠等を解いた後に傍聴人を入廷させ、傍聴人を退廷させた後に手錠等を施す方法
の3点の具体例を挙げるなど、裁判所に可能な限りの是正措置を要求しました。
⑶ 大阪地裁判決後の状況について
大阪地裁判決後は、画期的な裁判例が出たことに伴い、日弁連から関係省庁に対し、刑事法廷内における入退廷時に被疑者又は被告人に手錠・腰縄を使用しないことを求める意見書の提出が行われるなど、弁護士会における活動も活発化しました。また、手錠腰縄申し入れ活動に関する新聞記事が出されるなど、弁護士会外における活動も行われるようになりました。
しかしながら、大阪地裁判決が出されたばかりの頃は、裁判所の対応にも変化があったようですが、現在では、弁護士からの申し入れに対して、裁判所が何らかの措置を講じることに難色を示すこともあるようです。
⑷ まとめ
以上の状況を踏まえ、辻本先生及び田中先生から、何よりも刑事事件に携わる弁護士が、裁判所への申し入れを活発化させ、裁判所に働きかけてほしいとの要望がありました。
被告人への手錠及び腰縄の使用に関する申入書については、福岡県弁護士会の会員専用ページの「書式・資料」→「刑事事件」→「手錠・腰縄問題に関するPT」内に書式が用意されておりますので、被疑者・被告人事件を担当される際にぜひご活用ください。
3 第2部 ゲストスピーチ
⑴ 第2部では、ゲストスピーチとして、法廷内の身体拘束についての海外報告及や国会報告がされました。
⑵ 海外報告 海外報告では、韓国、マレーシア、バングラデシュ、オーストラリアの弁護士ないし裁判官から、各国における手錠腰縄の運用状況について報告がされました。特に韓国では、法律で公判廷での被告人の身体拘束が原則として禁止されているとの報告がされました。
⑶ 国会報告 国会報告では、福島みずほ議員から、手錠・腰縄問題を立法的に解決するための活動を国会から行うとの報告がされました。
4 第3部 パネルディスカッション・質疑応答
第3部では、パネルディスカッション及び質疑応答として、基調講演をいただいた辻本先生及び田中先生に加え、元福岡高裁総括で弁護士の陶山博生先生及び福岡県弁護士会手錠腰縄PT座長の黒木聖士先生をパネリストに迎えた上、パネルディスカッションのコーディネーターとして福岡県弁護士会手錠腰縄PT副座長の市場輝先生にご担当をいただきました。
ディスカッションでは、福岡における手錠・腰縄措についての現状として、手錠・腰縄の使用に関する申し入れに対して措置を講じる例が1割程度しかないことや、大阪地裁判決が出された当時に比べ裁判所の動きも下火になってきている状態にあるとの問題点が示されました。
そのうえで、根本的な解決として立法的な解決を図ることも必要ではあるが、個々の弁護士が裁判所に申し入れ活動を積極的に行い、成功事例を積み重ねていくことで、立法的解決にも資すると考えるとの意見が示されました。
5 最後に
刑事法廷において、被告人が手錠・腰縄を施された状態で入廷し、裁判関係者及び傍聴人が見ることができる状態で手錠・腰縄を外すという光景が当たり前だと思っている弁護士も一定数いるのではないかと思います。かくいう私も、手錠・腰縄PTに加入させていただくまでは、当たり前の光景だと思っていました。
裁判官が、手錠・腰縄使用に関する申し入れに対し措置を講じる例が少ないのも、措置を講じることが特別なことだと考えているからではないでしょうか。現在は、手錠・腰縄使用に関する申し入れを行う件数が少なく、裁判官も特異な例だと考えているのだと思います。そのため、刑事事件に携わる弁護士が積極的に申し入れを行うことで、裁判官にも手錠・腰縄を使用することが当たり前ではないと認識させていくことが、手錠・腰縄問題を解決する近道だと考えます。
皆様も、刑事事件に携わる際には、是非、手錠・腰縄の使用に関する申し入れを実践してみてください。
あさかぜ基金だより
弁護士法人あさかぜ基金法律事務所 石井 智裕(72期)
九州外の公設事務所に見学に行きました
日弁連は公設事務所の見学のための交通費と宿泊費を援助しています。この制度を使って、紀中ひまわり基金法律事務所と中村ひまわり基金法律事務所に見学にいきました。
紀中ひまわり基金法律事務所
まず、今年の2月に紀中ひまわり基金法律事務所へ見学に行きました。
紀中ひまわり基金法律事務所は和歌山県の御坊市にあります。御坊という名前は、もともと日高御坊と呼ばれたお寺があり、そこから付けられた地名だそうです。御坊駅のそばには田園地帯となっていて、市街地は駅からすこし離れた場所にありました。
御坊市には他のひまわり基金法律事務所の所在地にはない映画館があり、栄えている様子でした。
紀中ひまわり基金法律事務所には、毎週のように新規に相談が舞い込んでくるそうで、事件処理が停滞しないようにするのが難しいとのことでした。事件の種類についても、偏りがなく、市民からさまざまな事件の相談がくるそうです。
紀中ひまわり基金法律事務所はとても地域に根づいて信頼されている事務所だと感じました。
中村ひまわり基金法律事務所
次に、8月には中村ひまわり基金法律事務所へ見学に行きました。
中村ひまわり基金法律事務所は、高知県の四万十市にあります。四万十市は高知県の西の端にあるので、九州から近いと思っていましたが、調べてみると高知市を経由し、高知市から特急列車(電車はありません)で2時間かかると知り、かなり交通の便が悪い場所にあるのだなと感じました。
しかし、中村ひまわり基金法律事務所の周辺は生活や業務に必要な施設はすべてそろって居ました。裁判所・市役所・郵便局・法務局・銀行・警察署はすべて徒歩圏内にありますし、事務所の目の前にはスーパーとドラッグストアが並んでいます。四万十までいくのは大変だけれども、生活するには住みやすい場所のようです。
受任事件については、刑事事件と債務整理の事件がそれぞれ4分の1だというのが特徴的とのことでした。地域特有の事件としては、うなぎの稚魚の窃盗事件を受任したことがあるそうで驚きました。
壱岐や対馬の公設事務所に赴任した先輩弁護士から、島では利益相反が多発するから注意が必要であるとの話を聴いていましたので、中村ひまわり基金法律事務所の弁護士にも、利益相反の点について訊いてみました。すると、四万十でも利益相反はよく発生するとのことでした。島ではなく陸続きの場所でも利益相反が多いと聴いてビックリでした。
交通の便が悪いと、陸続きでも離島のような問題が発生してしまうことに思い至りました。
地域に根ざした事務所
紀中ひまわり基金法律事務所と中村ひまわり基金法律事務所のいづれも地域に根ざした事務所として市民から大いに頼りにされた存在なのだと実感できじました。 私も、過疎地に赴任するにあたっては、地域の人たちから頼りにされるよう、しっかり努力したいと決意を固めたのでした。
社外役員に関する連続講演会(杉原知佳先生)
弁護士業務委員会 委員 德永 淳(71期)
1 本講演会について
去る令和5年7月26日、福岡県弁護士会館(ZOOM併用)にて、杉原知佳先生(51期)をお招きし、「社外役員に関する連続講演会~コーポレートガバナンス・コードと社外役員~」と題して、講演会を開催しました。
講師の杉原知佳先生は、東証プライム上場企業を含めた複数の企業の社外取締役に就任されております。
本講演会は、弁護士業務委員会におけるPTの一つである「WODIC」勉強会の一環として行われました。
「WODIC」とは「Whistleblower Protection Act(公益通報者保護法)」、「Outside Director(社外取締役)」、「Independent Committee(第三者委員会)」の頭文字をとった造語であり、これらの企業法務分野において法の支配を貫徹させるため、各分野の理解を深めるべく、令和4年1月25日に発足したPTです。
WODICでは、これまでに企業の法務担当者や社労士の先生等の外部の方もご参加いただき、改正公益通報者保護法(W)に関する勉強会を継続して行ってきました。また、令和5年10月2日には、第三者委員会(IC)をテーマとした研修会も開催しました(同研修会については、来月以降の月報でご報告予定です。)
本講演会は、社外取締役(OD)をテーマにした連続講演会の第4回目であり、会場参加・オンラインで多数の先生にご参加いただきました。
2 本講演会の内容
⑴ コーポレートガバナンス・コード(CGコード)
CGコードとは、上場企業の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を目的とし、実効的なコーポレートガバナンス(会社が、株主をはじめ顧客・従業員・地域社会等の立場を踏まえた上で、透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行うための仕組み)の実現に資する主要な原則を取りまとめたものです。
CGコードは、強い法的拘束力を有さないいわゆるソフト・ローの一種であり、上場会社は、CGコードの各原則を実施するか、実施しない場合には、その理由を説明することが求められています(東証有価証券上場規定436条の3)。
⑵ 社外取締役に求められること
社外取締役は、CGコードにおいて、会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を図る観点からの助言を行い、経営の監督や会社と経営陣・支配株主等との間の利益相反を監督するとともに、経営陣・支配株主等から独立した立場で、少数株主をはじめとするステークホルダーの意見を取締役会に適切に反映させることが求められています。
近年、このような社外取締役の機能がより必要とされており、令和3年のCGコード改訂の際には、プライム市場上場会社においては、社外取締役を少なくとも3分の1以上(その他の市場の上場会社においては2名以上)選任することが求められるようになりました。
⑶ CGコードにおける多様性の要求
CGコードにおいて、取締役会は、ジェンダーや国際性、職歴、年齢の面を含む多様性と適正規模を両立させる人員で構成されることが求められ、監査役には、財務・会計・法務に関する知識を有する者が選任されることが求められています。
ジェンダーの観点については、令和3年のCGコード改訂の際、上場企業に、管理職における多様性の確保(女性・外国人・中途採用者の登用)についての考え方と測定可能な自主目標を設定し、多様性の確保に向けた人材育成方針・社内環境整備方針をその実施状況とあわせて公表することが求められています。
⑷ 杉原先生が社外取締役として心掛けていること
・守秘義務
社外取締役は、企業の外部公表前の重要情報に触れる以上、守秘義務の遵守は最も大事です。
・枝葉を見ずに森を見る
社外取締役は、弁護士業務における契約書のリーガルチェックのような細かい作業を求められているわけではありません。
鳥の目(広く視野を持ち、俯瞰して大局を見る能力)、虫の目(細部にわたって色々な角度から情報を処理し、分析する能力)、魚の目(時代の変化を的確に捉える能力)、コウモリの目(物事を反対側から見て、発想を広げる能力)を持ち、上手く活かす必要があります。
・会社のことを知りたい姿勢を示す
前回の講演会で講師を務められた平田えり先生には、自身が会社への愛を持っていることを熱く語って頂きました。
杉原先生としても、平田えり先生のように、会社を愛し、会社のことを知りたいという姿勢を示すことが大事とお考えでした。
・法令違反の有無・リスクの検討
弁護士として社外取締役に選任されている以上、経営陣からは法的観点の指摘が求められており、これが社外取締役としての業務の重要部分となります。
・会社で当たり前になっていることを外部の目で指摘する
社外取締役は、通りすがりの旅人であり、旅の途中で村に寄った際、村人たちの同質性による過度な弊害に気付くことができます。
会社の常識は世間の非常識と言われるように、会社で当たり前になっている悪い部分を指摘することも、重要な業務の一つです。
・他社の例や新聞・ニュース等の情報の紹介
顧問先から聞いた話では、などとして、他社の例を紹介したり、日頃から日経新聞等を読み情報に接することで、その分野の様々な情報を紹介したりすることができます。
・男女共同参画の視点
自身が女性であるからこそ、このような目線は常に持って、業務に取り組んでいるとのことです。
・分からない言葉はその場で調べる
弁護士の業界では出てこない言葉が多数出てきます。最低限の共通理解は求められる以上、資料を読み込む段階で、その都度意味を調べる必要があります。
⑸ 社外取締役に関する研鑚の積み方
・日弁連eラーニング
「コーポレートガバナンスに関わる弁護士のための連続講座」等、日弁連eラーニングでは無料でかなり質の高い研修を受けることができます。
・コード、ガイドライン、指針
紹介したCGコードに加え、「社外取締役ガイドライン」(日弁連)、「社外取締役の在り方に関する実務指針」(経産省)、「社外取締役向け研修・トレーニング活用の8つのポイント」(経産省)、「社外取締役向けケーススタディ集」(経産省)等、様々なガイドラインや指針が作成され続けています。
3 むすび
本講演会においては、杉原先生にCGコードの概要についてご解説頂いた上で、社外取締役として普段から心掛けていることや、社外取締役に関する研鑚の積み方等をご講演頂きました。
社外取締役をはじめとした社外役員について、令和3年のCGコードの改訂等をきっかけに、今後も弁護士に対する需要の高まりが予測されます。
本講演会は連続講演会となっており、第6回は、令和5年12月5日(火)18時より、桝本美穂先生にご講演頂く予定です(第5回講演会は本稿執筆時点で開催済みです。)。
次回以降も、たくさんの皆様のご参加をお待ちしております。
2023年10月31日
「ウクライナ戦争と国際刑事法」フィリップ・オステン氏講演会
会員 芦塚 増美(44期)
ローエイシア・プレシンポとして、慶應義塾大学フィリップ・オステン教授をお招きして、講演会を開催しました。講演の概要です。
1 昨年の4月、ウクライナのブチャにおいて、ロシア軍が撤退した直後に、数百人の市民の遺体が発見されたとの報道がありました。残虐行為を、「戦争犯罪」や「人道に対する犯罪」という表現を用いていますが、国際刑事裁判所(ICC)の対象犯罪(中核犯罪)となります。主任検察官は、昨年2月28日に、捜査に向けた手続を開始すると発表し、多くの締約国からICCへ付託されました。今年3月17日に、ICCは、ロシアによる子どもの不法な追放と、ロシアへの不法な移送について、戦争犯罪に該当し得るとして、プーチン大統領らに対する逮捕状を発付しました。
2 対象犯罪の訴追は、ICCよりも、国家が主役となって、第一義的に訴追を担うことが原則となっています。国際法の刑事法的側面として、国際条約に基づいて、一定の行為を犯罪化して、訴追と処罰を締約国に委ねるといった法規則が、従来から見られます。
3 日本が国際刑事法と初めて向き合うこととなったのは、東京裁判でした。A級戦犯として起訴された、福岡の出身の広田弘毅は、文官として唯一死刑判決を受けましたけれども、その量刑判断に対して疑念が残りますが、東京裁判は、国際刑法体系の出発点となった裁判でもありました。
4 ジェノサイド、日本語でいう「集団殺害犯罪」です。ジェノサイドとは、特定の集団(国民的、民族的、人種的、または宗教的集団)の、全部または一部に対して、その集団自体を破壊する意図を持って行う殺害などをいいます。
人道に対する犯罪ですが、文民たる住民に対する攻撃であって広範又は組織的なものの一部として、攻撃であると認識しつつ行う殺人等です。「攻撃」とは、ICC規定の定義によれば、「国もしくは組織の政策に従って行われるもの」で、背後に政府や軍の方針が存在しなければなりません。
戦争犯罪とは、例えば捕虜の虐待といった、武力紛争で、ルールを定めた国際法、武力紛争法の重大な違反を犯罪とするものです。
侵略犯罪とは、国の指導者による国連憲章の明白な違反を構成する国家による侵略行為の計画、準備開始又は実行することです。
5 ICCは、国々が条約に基づいて設立した国際機関で、管轄権は、締約国の主権が及ぶ領域における中核犯罪、締約国の国民がそうした対象犯罪を行った場合にしか行使ができません。
中核犯罪の訴追・処罰は、第一次的には各締約国の国内刑事司法に委ねられ、ICCは、国家が訴追意思や能力を欠くときにのみ、これを補完する役割を負います。補完性の原則に基づいて、国内裁判所は、いわば国際社会における一つの司法機関として、刑事裁判権を行使するのです。
ICC規定は、締約国に対して、ICCに手続上の協力ができるよう、法整備を行う義務を課しています。ICCは、独自の法の執行機関などを持たないため、逮捕状の執行や、被疑者の引渡しについて、加盟国による協力に依存しています。「手足のない巨人」とも呼ばれています。実体法の面では、中核犯罪の処罰規定については、国内法化する義務を課していません。日本も2007年にICCに加盟した際に、中核犯罪の大部分が現行刑法で処罰可能であるとして、立法手当て、その国内法化を見送りました。
6 展望と課題-ウクライナ戦争が問うているもの
人権侵害に関与した外国当局者らに経済制裁を課すとともに、当該行為に加担した個人を、中核犯罪に基づいて刑事訴追するという方策があります。国際的な包囲網の構築に向けて、各国と足並みを揃えることが、日本でも重要な政策課題として、最近、議論されています。
刑事司法による対応の重要性をさらに浮き彫りにしたのは、今般のウクライナ侵攻とそれに伴う一連の重大な非人道的行為でした。しかし、中核犯罪に特化した処罰規定を欠いた日本の国内法の現状では、ICCや他国に対してなし得る協力は、間接的な「後方支援」が限界です。現行刑法では対処できない類いの犯罪もありますし、仮に対処できるとしても、実際には捜査や訴追が難しいと考えられます。日本が国際刑事司法においてより積極的な役割を担うためには、中核犯罪の国内法化が喫緊の課題といえます。国外犯処罰規定の不備という問題もあります。現状では、中核犯罪を海外で行った外国人が日本に入り込んできたとしても、ほとんど処罰ができないので、日本が「セーフヘイブン」(隠れ場所)になり、国際包囲網の「ループホール」(抜け穴)になるリスクがあります。
今後の中核犯罪の国内法化にあたっては、立法形式に関しては、特別法の制定のほか、刑法の改正というオプションも考えられます。刑法総則的規定に関しては、上官責任、上官命令の抗弁や公訴時効の不適用など、国際刑法固有の原理の適用を、中核犯罪に限定することで、従前の刑法体系への波及を回避することが特に重要です。
ウクライナ戦争は、中核犯罪に関する国内法整備を見送った日本に、再考を促しているといえます。国際刑事法の国内法化に当たっては、外国の立法例を参照しつつも、日本独自の規範化を通じて、ICC締約国が非常に少ないアジア諸国に対しても、新たな立法モデルを提示することが大切です。
7 会場参加者28名、オンライン参加者25名となり、会員、大学生、高校生などが参加しました。講義のレポートを作成して宿題として高校に提出すると話す高校生もいました。
今後とも、市民に最新の国際情勢を伝える講演会を開催します。
中小企業の日一斉シンポジウム 「老舗を救った学生の熱意 大廃業時代における事業承継の新たな形」聴講レポート
会員 松下 拓也(69期)
1 はじめに
7月20日、「中小企業の日」の記念イベントとして、福岡市天神のエルガーラホールにて無料セミナーおよび無料相談会が開催されました。
セミナーの今年のテーマは、「老舗を救った学生の熱意 大廃業時代における事業承継の新たな形」です。
今回、セミナーの講師を務めてくださった林田茉優さんは、福岡大学経済学部に在学中「ベンチャー企業論」というゼミで後継者問題に興味を持ち、休業状態であった創業130年超の老舗「吉開のかまぼこ」の再建活動に携わった方です。そして、卒業後、24歳にして、同社代表取締役に就任し、見事再建を成し遂げた、凄腕の経営者です。
テーマに「学生」とあるとおり、今回は現職の経営者にとどまらず、スタートアップを検討している大学生など若い芽もターゲットに見据え、地元の大学にも広報を広げさせていただきました。広報活動の成果か、当日は会場参加者50名、Zoom参加者31名と大盛況でした。
2 セミナー
林田さんがゼミで後継者問題に興味を持ったのは岡野工業の岡野社長との出会いからでした。同社は「痛くない注射針」を開発した高い技術力を持った企業でしたが、後継者不在を理由に、廃業せざるを得ませんでした。岡野社長に何度も手紙を送り、面談を実現し、粘り強く再建の道を提案したのですが、残念ながら再建には至らなかったそうです。
この悔しい経験を経て、林田さんは、本格的に後継者不足による廃業問題に取り組むこととし、日本M&A推進財団を通じて「吉開のかまぼこ」の紹介を受けます。
林田さんは、同社の事業承継実現のため、多数の会社への地道な電話がけ、メディアを使った発信、遠方のみやま市まで足を運んでの先代との打合せ、学生達自身でかまぼこを作り試食してその魅力を発信するなど尽力しました。しかし、承継会社が見つからない、漸く見つかっても双方のうまく条件が折り合わない、先代が事業承継を前にマリッジブルーに陥る、工場の移転先が見つからない、工場の騒音について周辺住民から反対の声が上がるなど様々な壁に何度もぶちあたります。その度、林田さんのゼミの学生達はその壁を乗り越えていきました。
こうして、林田さんは3年に渡り、吉開のかまぼこを支援し、その中で先代の熱意、吉開のかまぼこにしかない魅力、そして復活を願うたくさんの地元の人々の存在に触れてきました。そして、先代からの熱い信頼を受け、林田さんは自らが後継者となる道を選んだのです。
承継後、林田さんは、素人(消費者)目線でのリブランディングが自己の使命だと考え、原材料へのこだわりはもちろんのこと、ロゴやECサイトの再構築のほか、クラウドファンディングやオンラインショップ、メルマガやSNSの利用など様々なツールを用いて積極的な販売・広報活動を繰り広げました。そうした結果、事業の存続を果たすことが出来たのです。
林田さんが実際に様々な社長にお会いした感覚としては、後継者に引き継ぐことを考える方よりも、生涯現役という思いを持った方が多いようです。
私自身、会社の経営に関する相談を何度か受けたことはありますが、現社長が高齢であっても後継者のことや事業承継のことをあまり考えていないというケースは多々見受けられました。
確かに、いつまでも現役でありたいと思うことは大変すばらしいことなのですが、万が一の備えを全くしなかった場合、遺されたものに混乱が生じ、最悪の場合、黒字にもかかわらず、そして世に求められている事業であるにもかかわらず、会社を畳まざるをえないということになりかねません。そういった方に事業承継の重要性をどのように説いていくかという点が課題であると感じました。
3 パネルディスカッション
後半は、若狭先生、鬼塚先生、両角先生を交えたパネルディスカッションが行われました。負債を抱えた企業における事業承継のありかた、経営者保証ガイドラインの活用、NDAなど、事業承継のいかなる場面において弁護士が手助けできるかという点について活発な議論が交わされておりました。
4 終わりに
私自身、直接的な相談ではないにせよ、紛争の根底には事業の後継者問題も絡んでいると思われる事案に何度か遭遇したことがあります。今回のセミナーは、適切な事業承継を考える良い機会となりました。
また、事業承継の一つのパターンとして、大学生など若手起業家による創業支援と上手くマッチングさせることで相乗効果を産むことが出来るのではないか、今回のセミナーは事業承継の新たな可能性を示唆する非常に興味深い内容でした。
第3回 社外役員研修
会員 宮脇 知伸(73期)
第1 はじめに
1 本講演会について
去る令和5年5月29日、福岡県弁護士会館(ZOOM併用)にて、平田えり弁護士(福岡県弁護士会所属)を講師としてお招きし「社外役員に関する連続講演会」の第3回講演会を開催しましたので、ご報告いたします。当講演会は、弁護士業務委員会におけるPTの一つである「WODIC」勉強会の一環として行われました。
「WODIC」とは「Whistleblower Protection Act(公益通報者保護法)」、「Outside Director(社外取締役)」、「Independent Committee(第三者委員会)」の頭文字をとった造語であり、これらの企業法務分野において法の支配を貫徹させるため、各分野の理解を深めるべく、令和4年1月25日に発足したPTです。
WODICでは、これまでに企業の法務担当者や社労士の先生等の外部の方もご参加いただき、改正公益通報者保護法(W)に関する勉強会を継続して行ってきました。
今年から、新たに「社外役員」(OD)をテーマとする連続講演会を開始することになり、これまで2回の講演会が開催され、今回が3回目の講演となります。
講演会には弁護士会館だけでなく、ZOOM配信も併用する形で開催し、会場参加・オンラインで多数の先生にご参加いただきました。
私もWODICメンバーの一人として現地にて参加し、拝聴して参りましたので、以下ご報告させていただきます。
2 講師の紹介
講師の平田えり弁護士は、65期であり、西村あさひ法律事務所福岡事務所に所属されております。現事務所では東京オフィスで執務したのちに、令和元年からは福岡にて執務されております。そして令和3年9月から福岡の上場企業の社外取締役に就任されました。
第2 研修の内容
1 社外役員就任のきっかけ
弁護士登録後まもなく顧問先として担当しており、約10年にわたり、社長やCFOと公私ともに親しくしていたことがきっかけとなった。
そのような信頼関係の上で、平田弁護士が東京勤務時代に、M&A案件を中心に経験を積んでいたこともあり、今後、専門的な経験知見も活かして成長戦略に力を貸してほしいという打診を受けた。
2 社外役員の職務内容
社外取締の役割は、マネジメントモデルと、モニタリングモデルの2種類がある。
マネジメントモデルとは、いわゆる経営のご意見番として事業に対して助言をすることをいい、これに対してモニタリングモデルとは、経営の監督機能を果たすことをいう。
日本における社外取締役の役割としては、マネジメントモデル型の経営のご意見番としての役割を果たす先輩経営者等を社外取締役に採用するというケースが多い。これに対して、アメリカを始めとしたグローバルスタンダードにおける社外取締役の役割は、モニタリングモデルであるとされている。
平田弁護士自身も当初、社外取締役を打診された際、社外取締役の役割として、マネジメントモデルの役割を考えており、必ずしも事業開発や経営に関する専門的な知見経験があるわけではないため、自分では力不足ではないかと考えていた。ただ、前述のとおりグローバルスタンダードにおける社外取締役の役割はモニタリングモデルであるところ、実際に社外取締役を経験してみると、モニタリングモデルを社外取締役の基本的な役割と捉えることで良く、弁護士に備わっている能力(リーガルマインド)が企業の役に立てるものと実感するに至っている。
3 社外役員候補者として準備できること
弁護士が社外取締役として指名された場面において、モニタリングモデル型の監督機能を発揮することが求められており、そのために必要な知見は、基本的に日常の弁護士業務の中で培われているものであり、特別な準備を要するものではない。
敢えて準備するとすれば、経営陣の判断が著しく不合理でないか否かを判断する際に、法令違反だけでなく社会常識等一般株主の目線から見て、著しく不合理でないか否かを判断できるように、自分の感覚を時代の感覚に合わせてアップデートしておくこと、その会社を良くしたいとか、その会社を通じて何か世の中に貢献したいという熱量をもって、会社の事業内容に興味関心を抱くことが必要になる。
4 社外取締役としての重要性、期待されるもの
月1回の経営会議とその後の取締役会に必ず参加している。社外取締役として経営会議に出席することは必須ではないが、各部の部長クラスが毎月の実績や課題・対応方針を報告し、全員でフラットに知恵を出し合い、協議しており、事業内容やリスクを把握する上で非常に有用である。
そして、社外取締役として経営会議にも参加して発言した内容について、各部長が朝礼等で従業員に伝えてくれており、従業員ともコミュニケーションを図ることで、従業員も、社外取締役が事業を支えてくれているという安心感を抱いている。
そうした活動により、自身も一緒に事業に参画しているというやりがいに繋がっている。
5 まとめ
社外取締役は、完全に中でもなく、アドバイザーというような外でもない中間地点で少し俯瞰した立場で意見を述べることができ、それと同時に、会社の経営陣と一緒に走って、事業価値を生み出すことができるやりがいのある業務だと感じている。
6 質疑応答
Q 法律家の視点から意見を述べることで壁は厚いなと思わされたりすることはあるか?
A 経営陣の人柄や、今までの信頼関係もあり、客観的な意見として聞いていただけている。特に壁を感じたことはない。
Q 月1回の経営会議・取締役会以外には、どれぐらいの頻度で、経営者の方たちとコミュニケーションをとっているのか?普段は弁護士業務との兼ね合いはどうしているか?
A 社外取締役としての報酬を考えたとき、月1回の経営会議や取締役会で何かちょっと意見を述べるぐらいでは、会社側の負担に見合わないというふうに思っているため、自身が役に立てそうなところがあれば、積極的に提案して、関わらせてもらうようにしている。
Q 経営陣との信頼関係について、平田弁護士の場合は、就任するまでの期間が長く約10年ほどあったということで、就任した段階である程度経営陣との間で信頼関係が築けていたと考えられるが、社外取締役として活動するにあたってどの程度やりやすさに繋がっているか?。
A 頭にふと浮かんだことをお互い電話1本でやり取りできて、これってこうした方がいいんじゃないとすぐにやり取りできる関係にあった。月1回の取締役会の外でも柔軟に意思疎通を図ることができたという意味で、すでに信頼関係があったことのアドバンテージを感じた。
Q 社外取締役として善管注意義務違反を犯さないようにどのような点に注意しているか?
A 経営判断の基礎となる情報収集を怠らないよう留意している。経営会議や取締役会でも、役員陣や従業員にとっては所与の前提のような事実であっても、用語を含め、積極的に質問し、情報収集している。また、外部のアドバイザー(弁護士を含む。)の見解を聞く。経営判断の原則も適切な情報収集を行ったか、著しく不合理な判断ではなかったかという2段階になっている。一段階目の情報収集をきめ細やかにしていれば、自ずから著しく不合理な判断にはならない。そのため、密に経営陣とコミュニケーションをとって、適時に情報を共有してもらうことが重要であると思う。
Q 社外監査役と社外取締役での役割分担があるか?
A いずれも取締役の職務執行を監視する役割であり重なる部分は多く、また、社外監査役や社外取締役のバックグラウンド(専門性)やパーソナリティによる部分も大きいと思われるが、一般的には、監査役は適法性監査で、社外取締役は妥当性監査も含むので、監視の視点が異なる。
Q 経営者と色々話をしたり、壁打ち相手になったりするのに、リアルタイムに情報を得る必要があるが、話し合いのツールとして、メールや電話以外に取り入れていたツールがあったか?
A 結局、タイムリーな情報共有や協議のために、携帯電話での電話を一番利用していた。
第3 おわりに
第1回の古賀弁護士、第2回の中村弁護士、そして、第3回の平田弁護士の講演会を拝聴し、社外役員としてお声がけいただくための重要な点としては、日頃の顧問先との信頼関係の構築、及び丁寧な対応、企業における活動の意味合いを理解した上でのニーズに沿ったアドバイスが共通していたように思われます。
もっとも、丁寧な対応や企業のニーズに沿った回答を意識している弁護士は多数いるはずであり、社外役員としてお声がけいただくためには、それに加えて他の要素が必要になると考えられるため、今後の講演会を通して、それが何かを模索しなければならないと感じました。
「社外役員に関する連続講演会」は、今後も継続的に実施する予定ですので、今回参加された方も参加が難しかった方も、ぜひ次回以降のご参加をお待ちしております。
2023年9月30日
あさかぜ基金だより
弁護士法人あさかぜ基金法律事務所 社員弁護士 藤田 大輝(74期)
もうすぐ折り返し!!
令和4年4月にあさかぜに入所(弁護士登録)して、約1年5か月がたちました。私が入所したときは5人いた弁護士も、過疎地へ赴任していって、今や2人きりで、寂しいものです。あさかぜの養成期間は、上限が一応3年と決まっていますので、折り返し地点が迫ってきていることに、我ながら驚いてしまいます。過疎地への赴任には、赴任先の過疎地を見学したうえで、応募するかどうかを決め、書類を提出すると、現地選定委員会による面接のうえでの選考と手続がすすんでいきますので、私もそろそろ赴任先を具体的に検討しないといけない頃合いです。 いい機会ですので、あさかぜでの1年5ヶ月を振り返ってみます。
この事件も初めてだな......
あさかぜは、司法過疎地域で弁護士業務を行う弁護士の養成を目的とした養成事務所ですから、養成期間に幅広い事件を経験できるような体制が用意されています。具体的には、有志であさかぜに協力している弁護士から事件の紹介を受けて共同受任をしたり、県外あるいはあさかぜ出身の先輩弁護士から事件の紹介を受けたりしています。 私も、これまでに、一般民事だけでなく、民事介入暴力への対応、交通事故、労働、遺産分割、離婚、成年後見申立、法人破産を含む各種の債務整理など、バラエティに富んだ事件を受任することができました。初めて取り扱う類型の事件も多いです。取り扱った経験のない類型の相談を受けるときは、相談者から「こういう事件の取扱い経験は何件ですか?」と訊かれないことを祈っています(もちろん、訊かれたら正直に答えるようにしています。でも、ときには話をはぐらかしたほうが良かったかと思うこともあります)。 このようにして、わたしたち所員は、養成期間中に数多くの類型の事件を受任し、きたるべき司法過疎地域で十分に要請にこたえられるよう研鑽を積んでいます。
事務所経営の勉強という名の庶務
あさかぜでは、事務所経営に必要な庶務もいろいろ経験します。まずあたったのは、弁護士法人の変更登記手続です。弁護士法人は、弁護士法上、社員の変更があったときには必ず変更登記をしなければいけません。あさかぜは弁護士法人なので、所員の交代があると変更登記手続が必要となります。そのため、私は、私が入所したとき、そして先輩所員が退所したときに、過去の申請書類を参照したり、法務局へ問い合わせたりしながら、登記申請しました。 また、事務所ホームページの更新も業者を利用せず、所員が担当します。今は、私が担当者ですから、インターネットで方法を模索しながら四苦八苦してホームページを更新しています。 さらに、必要に応じて事務員の採用もおこないます。私も、パート事務員を採用するため、ハローワークに求人申し込みをしました。また、他の所員弁護士に協力してもらいながら、応募書類を選考し、そのうえで採用面接しました。良き人材を得るというのは大変なことだと実感させられました。さらに、必要に応じて、就業規則の改訂等の労務管理もおこなっています。健康診断を受けるよう促すのは、私自身にしても、ついつい忘れてしまうので注意が必要ですよね。 事務所の税務関係でお世話になっている公認会計士・税理士とも連絡を取りあっています。決算時期には直接面談して、作成された決算資料について質疑応答して勉強になりました。 このほか、所員弁護士の採用に関する庶務、保存期間を経過した先輩弁護士の事件記録の処分、社員総会の実施・議事録の作成、書籍の購入・管理、業務関連システムの管理・導入検討、リース備品の管理など、庶務は多岐にわたります。 こうした事務所の庶務も、きたるべき司法過疎地域の赴任先における事務所運営に関わる事務を学ぶ重要な業務の1つです。なかなか大変ですが、新人弁護士には通常だったら経験できないことではないかなと思いますので、大変ありがたく感じています。
娘と親バカが生まれました
弁護士登録日に婚姻届を提出した私ですが、今年2月に娘が生まれました。子どもって可愛いんですね。この月報の依頼を受けたとき、娘のことだけで原稿を書こうかな、と本気で考えました。 子どもは成長が早く、とても驚かされます。ちょっと前まで首が座らず、台所のシンクで沐浴させていたのが、あっという間に一緒に湯船につかるようになり、首が座り、離乳食がはじまりました。この原稿が掲載されるころには「ずりばい」ができるようになっているのかな、と考えるとつい頬がゆるんでニヤニヤしてしまいます。私のデスクには、某スタジオで撮影・作成した娘の写真マグネットが貼り付けてあり、ちょっと疲れた気分のときに眺めて、気分をとり直したりしています。 子どもが生まれてから初めて知ったこと、経験したことは多く、毎日が勉強です。出生届の提出から、児童手当受給申請といった行政手続はもちろん、「お宮参り」や「お食い初め」といった行事にも無知でした。哺乳瓶の消毒、離乳食の作り方や進め方も、妻と一緒に福岡市主催の育児教室に参加して勉強しました。 娘の存在が業務にいい影響を与えていると感じることもあります。たとえば、子どもの話が依頼者と打ち解けるきっかけになるのです。小さなお子さんを抱える相談者の話は、具体的なイメージを持ちやすくなりました。 私が業務に集中できるように支えてくれる妻と妻の両親には、いつも感謝しています。また、娘の誕生に際して、複数の先輩弁護士からお祝いをいただきました。この場を借りて、お礼を申し上げるのをお許しください。
これからも頑張ります
あさかぜには、現在、72期の石井智裕弁護士と私の2名の弁護士が在籍しています。石井弁護士は、過疎地赴任に向けて各地の事務所見学等をしていますので、赴任が決まれば、私があさかぜの最年長弁護士になります。とはいえ、あまり気負い過ぎず、先輩を頼って頑張っていくつもりです。 あさかぜから過疎地に赴任している先輩弁護士を見ていると、いかにも頼もしく、私はまだまだだなと心配してしまいます。過疎地赴任までに一人前の弁護士になれるのかどうか、不安に駆られるところではありますが、あさかぜでの日々の業務を通じ、事務所経営・事件処理を学び、経験を積み重ねていきたいと思います。 未熟な点も多い私ですが、これからも引き続き、より一層のご指導・ご鞭撻のほど、よろしくお願いいたします。
2023年8月31日
弁護士会と調停協会の懇談会 ~アフターコロナの調停実務と面会交流
会員 辻 陽加里(64期)
1 はじめに~3年半ぶりの開催!~
令和5年6月29日、弁護士会と調停協会の懇談会が約3年半ぶりに開催されました。本懇談会は、調停委員と弁護士が、家事調停の実情について認識を共有し、それぞれの立場での思いや悩みについて語り合い、相互に信頼関係を深めるための機会として開催されました。
議題は、①新型コロナウィルス流行後に急速に普及したウェブ調停と②面会交流の調整を行う調停事件の運営の2点です。
本懇談会に先だって、調停委員と弁護士双方に議題に関するアンケート調査が実施されました。
2 ウェブ調停について
⑴ ウェブ調停の普及
ウェブ会議方式による調停は今や一般的となりました。福岡家庭裁判所でも、これまで850件以上のウェブ調停が実施されたとのことです。アンケート結果によれば、回答した調停委員41名中38名がウェブ調停の経験があると回答しました。
⑵ 利用の感想
ウェブ調停を利用した感想として、登壇した調停委員と弁護士双方から、電話調停に比してコミュニケーションが格段に取りやすく、利用者(調停の当事者)と信頼関係を築きやすいという共通の意見が出されました。
調停委員からは、「画面で利用者の表情が見えるように画面の設定を工夫している。」、「身振り・手振りや相槌を大切にしている。」との発言があり、利用者が納得して調停を進められるよう試行錯誤しているとのことでした。
⑶ ウェブ調停のメリット
調停委員と弁護士の双方から、事件の種類を問わずウェブ調停を利用するメリットがあるとの認識が示され、具体的なメリットについては、感染症の感染が防止できること、利用者の利便性が高く、特に遠隔地の方や育児介護中の方は大幅な負担軽減となること、仕事がある方は半休の取得で済むことが挙げられました。また、登壇した調停委員から、DV事案については、出頭の場合が完全に防ぐことが難しい利用者同士の接触を防止できるとの大きなメリットが指摘されました。登壇した弁護士からは、当事者の意向を尊重すること、事案をより正確に伝えたい場合などに出頭するとの発言がされました。
アンケート結果によれば、弁護士の立場から出頭に積極的な意見もあり、これについて登壇した調停委員からは、「出頭してもらえば、より当事者を身近に感じ、当事者の置かれた状況や熱意が伝わる。」、「来ていただけるとありがたいという気持ちになる。」との発言がありました。
⑷ ウェブ調停の課題
ウェブ調停の課題については、調停委員から、裁判所にウェブ会議の体制が3台分しかなく、期日の間隔が空いてしまうことが、弁護士からは、事務所のレイアウト等の問題で、調停の秘匿性の確保の問題が生じうることが指摘されました。
3 面会交流の調整を要する事案について
⑴ 「新たな運営モデル」の導入
まず調停委員から、福岡家庭裁判所における面会交流の調整を要する調停は、東京家庭裁判所で策定された運用モデル(「東京家庭裁判所における面会交流調停事件の運営方針の確認及び新たな運営モデルについて」家庭の法と裁判2020年6月号)を基本に運営されていること、この「新たな運営モデル」が弁護士に浸透していないこと(アンケート結果によれば回答した弁護士の45名/66名が「知らない」と回答)。が述べられました。
この「新たな運用モデル」は、従来の原則実施論的な調停運営から転換を図るもので、①当事者の主張・背景事情の把握、②課題の把握と当事者との共有、③課題解決のための働きかけ、調整、④働きかけ・調整の結果の分析評価などのサイクルを繰り返し検討し、種々の利益を調整しながら子の福祉を実現するモデルであることが説明されました。従来の進行では、面会交流が監護親に与える負担やストレスについての理解が乏しかったとの反省が率直に述べられました。
このモデルの導入に当たっても、調停委員からは、「モデルを理解しても、実際にその理念を実現することは簡単でない。」「面会交流の実施を禁止し制限する事情が無ければ、面会交流の実施が子の福祉に適うとの前提で、面会交流を実施する方向で話し合いを進めることになり、利用者からすれば原則実施論で進行しているように受け止められることがある。」などの苦労が語られました。
⑵ 高葛藤な事案への対応
特に未成年者が幼い場合、調整事項が多くなりますが、両親間の葛藤が高い場合、話し合いで円滑に進めるのは至難の業です。
調停委員からは、話し合いの視点を夫婦間の紛争から「子の福祉」に向けさせ、子の視点から建設的な話し合いができるように促しているとのことでした。
弁護士からは、監護親の視点から、面会交流の実施が困難になっている事情を詳しく聞取り、実施条件を工夫していること、また、非監護親の視点からは、面会交流を実施することを前提に、面会交流の実施によって子どもにメリットがある方法を提案して監護親に受け入れやすくするという工夫が紹介されました。
⑶ オンラインによる面会交流
新型コロナウィルスの流行後に、オンラインでの面会交流を実施する例が増えているようです。
弁護士からは、非監護親の視点から、非監護親が希望するのは対面での面会交流であって、対面の面会交流へのステップとして利用するイメージを持っていること、特に子どもが小さい場合には、オンラインであっても子の著しい成長を確認できるというメリットがあるとの発言がされました。また、非監護親が離島に住んでいた事案での利用例が紹介されました。その他に、子が非監護親と連絡先を交換することで、非監護親から居場所を把握されたり、頻繁に連絡が来たりするのではないかと不安に思うなどオンライン特有の悩みが生じた事案が紹介され、子の意向を丁寧に組む必要性も指摘されました。
調停委員からは、オンライン面会を条項化するに当たっては、子どもの年齢や、子と別居親の生活リズムなどを考慮しているとの発言がありました。
⑷ その他
パネルディスカッションでのその他の発言を簡単に紹介します。
・調査官調査の活用について
(調停委員から)「非監護親から、子の成長の様子や現在の監護状況、子の心情を確認して欲しいという要望があり、監護親に尋ねても、非監護親に対する誹謗中傷に終始し実態が分かりにくい場合は、早期に調査官調査を行っている。代理人からも調査官調査を希望する意見を貰うことはありがたい。」
・主張書面の活用について
(調停委員から)「弁護士がついている場合、主張を明確するに目的で、主張書面や資料の提出をお願いしている。弁護士の場合は求めた意図を汲んだ書面が提出されるため、調停の効率化に繋がっている。夫婦喧嘩の内容など細かい事実を書面化し、それに反論するなど、葛藤を助長するような議論を書面で行うことは求めていない。利用者のみで調停を行う場合は、必ずしも求めた内容の書面が提出されないことが多く、主張書面の提出は求めていない。」
・将来的な子どもへの影響
(調停委員から)「子どもに関する追跡調査などはないのか。」
(弁護士から)「経験談ではあるが、非監護親の代理人として活動した事案で、当時未成年者だった男性と彼が成人した後に話す機会があった。男性は、『両親が言い争うのを見るのがすごく辛かった。一時は自分が父に会わない方が良いとすら思っていた。しかし、両親がお互いに男性の為に頑張って面会交流に協力してくれたことがとても嬉しかった。今ではとても感謝している。』と話してくれた。反対のケースもあると思う。」
4 最後に
本懇談会を通じて、調停委員の方々が、利用者双方の話を公平に聞こうしていること、利用者の納得を一番に考えていることが伝わり、調停委員への信頼感が増しました。
また、「新たな運用モデル」は調停委員と監護親、非監護親、それぞれの代理人弁護士が協働して初めてその理念が実現できるモデルであると私は理解しました。ただ、対立する当事者が協働することは経験上簡単ではありません。その難題を弁護士と調停委員でどうにか紐解いていくためにも、本懇談会は今後も継続されて欲しいと思います。
中小企業法律支援センターだより 九州北部税理士会との事業承継研究会
中小企業法律支援センター 鬼塚 達也(71期)
1 研究会開催までの経緯
当会は、九州北部税理士会との間で、令和3年3月16日付で事業承継支援の連携に関する協定を締結いたしました。会員相互の交流と研鑽の場を提供することを目的として、事業承継に関する研究会を継続的に開催することを計画していたところ、新型コロナウイルス感染症のため開催延期を数度経て、ようやく令和5年6月1日に第1回事業承継研究会(以下「第1回研究会」といいます。)を開催することができました。
2 第1回研究会の内容
第1回研究会は、テーマを「事業承継(M&A)はこう考える!~弁護士の視点・税理士の視点~」として、弁護士池田耕一郎先生(当センター)及び税理士山田陽介先生(九州北部税理士会 中小企業対策部部長)から、事業承継(M&A)の心構え、他方士業に求めるものや他方士業が介入すべきタイミング等をご報告いただきました。
池田先生からご報告いただいた内容の一部を以下記載いたします。
・事業承継は特殊な分野ではない。話をとことん聞くことが重要である。
・弁護士が事業承継支援に携わる意義として、①事業承継のあらゆる場面に法律が関係すること、②対策をしなかったことによるリスクを知っているからこそアドバイスができること、③他方当事者との交渉を行うことが常に生じるところ、法律上交渉に関する代理業務ができるのは弁護士のみであることが挙げられる。
・事業承継に資する法的手段として、分散している株式等の集約方法(相続人等に対する売渡請求など)、先代経営者の保証債務の処理方法(経営者保証ガイドラインの適用)、遺留分の民法特例(除外合意・固定合意)などがある。
・事業承継支援は信頼できる士業との連携が必要不可欠である。
山田先生からご報告いただいた内容の一部を以下記載いたします。
・事業承継においては税務だけでなく財務支援を行う必要があり、税理士がかかわる意義がある。
・税理士は税額を抑えることを第一に考えがちであるが、無理な節税をしたことにより、株式の分散、過大な借入金、利益の圧縮がされ、事業承継のハードルが上がってしまうこともある。
・決算書を見て、(税引後利益+減価償却)と(長期借入金÷5年)を比較して後者が大きければ、その会社の資金繰りは苦しいはずである。
・事業承継は自力で解決できなとも周りの力を借りて解決できる協力体制が必要である。
3 第1回研究会後の懇親会
第1回研究会の後に懇親会を行いました。当センターから15名、九州北部税理士会から13名が参加し、大変賑やかな会になりました。私事ですが、偶然にも、懇親会に参加された税理士の方で、私の出身中学校の先輩が複数おり、地元の話で盛り上がりました。
4 今後の予定
第1回研究会及び懇親会が盛況であり、第2回研究会を開催予定です。ご興味のある方がいらっしゃいましたら、当センターの会員までお知らせください。