福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画

声明

2019年3月12日

改めて少年法適用対象年齢引下げに反対する会長声明

1 はじめに

現在,法制審議会少年法・刑事法(少年年齢・犯罪者処遇関係)部会においては,少年法の適用対象年齢を18歳未満とすることの是非等についての議論がなされており,第14回まで進んでいる。

この会議における議論には様々な問題があるが,当会は,特に下記の理由により,改めて少年法の適用対象年齢の引き下げに断固として反対する。

2 少年法適用対象年齢引き下げ論の理由

上記法制審議会の会議においては,少年法の適用対象年齢を18歳未満に引き下げるべき理由として,下記の3点が指摘されている。

① 選挙権年齢や民法上の成人年齢が18歳となることから,少年法の適用対象年齢も18歳未満に統一することが国民にわかりやすいこと

② 民法上の成人に対して,国家が後見的に介入し少年法上の保護処分の対象とするのは過剰な介入であること

③ 年齢を引き下げたとしても,少年法の対象から外れる18歳・19歳の者が起訴猶予となった場合には,家庭裁判所に送致して少年法と同様の処分を実施するという「若年者に対する新たな処分」で対応すれば問題ないこと

しかしながら,上記の理由は,いずれも少年法の適用対象年齢を引き下げる理由にはなりえない。

3 少年法適用対象年齢引き下げに断固として反対する理由

(1) 現行少年法制度が有効に機能していること

現行少年法は,成長途中の未熟な少年に対して教育によって非行からの立ち直りを目指す健全育成を法の目的・理念として掲げている。非行のある少年に対して,刑罰を科すのではなく,少年の資質や家庭環境に対する家庭裁判所調査官の調査や少年鑑別所での心身鑑別を通じて少年の問題点を明らかにし,個別の少年の抱える問題点に対応するための保護処分によって立ち直りを図っている。

このような趣旨に基づく現行少年法は有効に機能しており,少年の検挙人員は,2003年(平成15年)以降,絶対数だけでなく,人口比でも減少を続けている。

したがって,現状,18歳・19歳の少年をあえて現行少年法の適用対象から外す必要性は全くない。

(2) 民法上の成人年齢と少年法の適用対象年齢を一致させる必要はないこと

法律の適用対象年齢は,個別の法律の趣旨ごとに決められるべきである。実際,飲酒・喫煙・公営競技(ギャンブル)等については,健康被害の防止や青少年保護の観点から適用対象年齢が定められており,民法上の成人年齢の変更に合わせることなく,20歳が維持されている。少年法についても,上記の健全育成の理念によって適用対象年齢が定められているのであるから,選挙権年齢や民法上の成人年齢と一致させなければならない理由はない。

(3) 民法上の成人に対して少年法を適用することに問題はないこと

民法は,私法上の行為を規律する法律であり,成人が親の監護に服さないことは,私法上の取引を自由に行うことができる点で重要な意味をもつ。これに対し,少年法は,民法と全く異なる健全育成という目的・理念を掲げているのであり,民法上親の監護権に服さなくなることが,少年法の適用対象から外すべきであるという理由にはならない。

(4) 現在検討されている新たな処分は現行少年法制度の代替制度とはなり得ないこと

加えて,法制審議会では,少年法適用対象年齢引下げによって少年法上の処遇が受けられなくなる18歳・19歳の若年者に対しては,代替手段として,起訴猶予となった者を家庭裁判所へ送致し,家庭裁判所調査官の調査や,少年鑑別所での鑑別を経て,保護観察処分等の新たな処分の要否を判断することが検討されている。

しかし,かかる新たな処分は,現行少年法と類似の処分といえども,少年法と同様に健全育成という理念に基づいて,少年の資質面・環境面の問題点を明らかにするものではない。すなわち,新たな処分を前提とする調査や鑑別は,上記のように重くとも保護観察処分にとどまる事案に対する調査・鑑別に過ぎないのであるから,現行少年法の健全育成理念に基づく調査・鑑別のように実効性のあるものになるはずもない。そうすると,犯罪に対する非難と再犯防止のための調査・鑑別に過ぎず,教育として個別の処遇をしている現行少年法制度の代替制度には到底なりえない。

そもそも,若年者に対する新たな処分という現行少年法の代替手段が検討されていることは,民法上の成人となった若年者に対して現行少年法で行われている国家の後見的な教育的処分を実施する必要性を認めているに等しく,少年法の対象年齢を引き下げる必要のないことの表れである。

上述の通り,健全育成理念に基づく現行少年法は有効に機能しており,その理念から離れたいかなる制度も代替制度とはなり得ない。

4 最後に

以上のとおり,少年法適用対象年齢を18歳未満に引き下げる理由は全くない。

当会は,2015年(平成27年)6月25日に少年法適用対象年齢を18歳未満に引き下げることに反対する会長声明を出し,2017年(平成29年)5月24日の定期総会においては,少年法の適用対象年齢引下げに反対する決議をしたが,改めて,少年法適用対象年齢引下げに断固として反対するものである。

以上

2019年(平成31年)3月11日
福岡県弁護士会会長 上田英友

2019年2月 7日

「性暴力を抑止し,性被害から県民を守るための条例(案)」 に関する会長声明

 議員有志からなる福岡県議会議員提案政策条例検討会議は,福岡県2月定例議会に標記条例案を上程し,成立させることを目指している。
本条例案は,性犯罪その他の性暴力を抑止し,性暴力による被害から県民を守ることを目的としており,その目的は理解できるものの,以下の点を含む多数の問題があるので,当会は,本条例案には反対である。
 特に問題があるのは第17条である。同条は,一定の性犯罪を犯して刑期を満了した者に対し,再犯防止及び社会復帰の支援を目的として,その者の氏名,住所,性別,生年月日,連絡先,罪名,刑期満了日の届出義務を課しており,第18条では,その者が申し出たときに,知事が再犯防止指導に準じた指導プログラムを受けることや治療を受けるように支援すると規定している。
 しかし,個人の特定をともなう前科情報は,高度にプライバシー性の高い情報であり,前科となる判決を受けた者が社会復帰に務め,新たな生活環境を形成していた場合に,前科情報を公表されない権利は,憲法第13条によって保障されることが最高裁判決によっても認められている。また,本条例案第18条で,指導プログラムまたは治療を県が提供すると規定しているが,前科を有する者が申し出たときに提供するのであれば,事前に住所や前科の届出を強制する必要はない。したがって,本条例案の目的のためにこのような届出義務を課す必要はない。
 本条例案が,真に加害者の更生への支援を考えるのであれば,前科の届出義務はかえって更生を妨げるものであるから規定するべきではなく,加害者が抵抗なく自らすすんで社会復帰への支援を求めることができるような制度を調査研究したうえで,その制度を具体的に本条例案に規定するべきである。本条例案には,その目的を阻害するような制度が規定されており,適当ではないと思料する。
 また,本条例案第8条には,県民の責務として,性被害の発生の危険がある状況に直面したときには,これを傍観することなく,その発生及び継続を防止するために可能な範囲で積極的に行動するものとすると規定している。
 しかし,被害の発生及び継続を防止するためには,加害者を制止しなければならず,大きな危険がともなう。加害者から被害者を逃がすための援助をする場合にも,加害者から攻撃を受ける可能性がある。このような危険をともなう行為を条例によって法的に義務づけることは相当ではない。しかも,本条例案は,これまで県民に知らされておらず,突然,県民にこのような義務を負わせることは,県民に戸惑いと混乱を招くことになる。
 さらに,本条例案第14条及び第15条は,当会と連携を行うことを定めているが,どのような連携を行うかについて,これまで当会に申し入れは行われておらず,今回の県議会で本条例案を制定するのは性急に過ぎる。
 以上の理由から,当会は,本条例案に反対するものである。

2019年(平成31年)2月7日

                福岡県弁護士会 会長  上 田 英 友

2019年1月 7日

死刑執行に関する会長声明

2018年(平成30年)12月27日,大阪拘置所で2人の死刑が執行された。うち1人は再審請求中であった。
 本年において死刑が執行された人は計15人となり,法務省が執行の事実や人数の公表を始めた1998年11月以降では,2008年と並んで最多となった。2012年12月の第2次安倍政権発足後,死刑執行は15回目で,計36人が執行されたことになる。

 当会は,本年7月6日及び同月26日の死刑執行に対し,それぞれに抗議する声明を発表し,すべての死刑の執行を停止することを強く要請した。それにもかかわらず,今回の死刑が執行されたことは,まことに遺憾であり,当会は,今回の死刑執行に対し,強く抗議するものである。

 たしかに,突然に不条理な犯罪の被害にあい,大切な人を奪われた状況において,被害者の遺族が厳罰を望むことはごく自然な心情である。しかも,わが国においては,犯罪被害者及び被害者遺族に対する精神的・経済的・社会的支援がまだまだ不十分であり,十分な支援を行うことは社会全体の責務である。

 しかし,そもそも,死刑は,生命を剥奪するという重大かつ深刻な人権侵害行為であること,誤判・えん罪により死刑を執行した場合には取り返しがつかないことなど様々な問題を内包している。
我が国では,死刑事件について,すでに4件もの再審無罪判決が確定しており(免田・財田川・松山・島田各事件),えん罪によって死刑が執行される可能性が現実のものであることが明らかにされた。また,死刑判決を受けた袴田巌氏の再審開始決定は,本年6月11日,東京高等裁判所によって取り消されたが,袴田巌氏は最高裁判所に特別抗告しており,現在でもなお死刑えん罪が存在する可能性は否定できない。死刑事件ではないものの,本年10月に再審開始が最高裁で確定した松橋事件において,本年12月20日の熊本地裁での再審手続に関する協議で,検察が新たな有罪主張をせず,求刑もしない方針を明らかにしたことからも,えん罪の生じ得る危険性は明らかである。

 世界的な視野で見ると,欧州連合(EU)加盟国を中心とする世界の約3分の2の国々が死刑を廃止又は停止している。経済協力開発機構(OECD)加盟国35か国のうち死刑を存置しているのは,日本・米国・韓国であるが,米国は50州のうち19州が死刑を廃止し,4州で知事が執行停止を宣言し,昨年執行した州は8州である。韓国では,20年以上,死刑の執行が停止されている。したがって,OECD加盟国のうち,国家として統一的に死刑を執行しているのは日本だけである。
 国連総会は過去6度に亘り「死刑廃止を視野に入れた死刑執行の停止」を求める決議を採択し,国連人権理事会で実施された過去3回のUPR(普遍的定期的審査)では,日本に対し,死刑廃止に向けた行動の勧告を出している。

 当会は,本件死刑執行について強く抗議の意思を表明するとともに,死刑制度についての全社会的議論を求め,この議論が尽くされるまでの間,すべての死刑の執行を停止することを強く要請するものである。


         2018年(平成30年)12月28日

                福岡県弁護士会 会長  上 田 英 友

2018年9月18日

東京医科大学医学部一般入学試験に関する女性差別についての会長声明

東京医科大学医学部一般入学試験に関する女性差別についての会長声明
 2018(平成30)年8月7日、学校法人東京医科大学内部調査委員会が公表した調査報告書により、同大学医学部医学科の一般入学試験の二次試験(小論文)の採点において、女性受験者に不利益な得点調整が行われていたことが明らかにされた。同調査報告書は、「女子よりも男子を優先すること及びその手法として全員の得点に係数をかけたうえで属性に応じた一定の点数を加算することは、少なくとも平成18年度入試から行われていたようである」等と指摘している。
 憲法第14条が保障する性差別の禁止、男女平等原則は、私人間においても尊重されるべき基本的な社会秩序(民法第90条)を構成しているところ、受験者が女性であることを理由として一律に不利益な点数操作を行うことは、女性に対する重大な差別であり断じて許されない。加えて、公の性質をもつ教育機関である大学が、公正であるべき入学試験においてこのような差別を行うことは、性別によって教育上差別されないとする教育基本法4条1項はもちろんのこと、女性受験者の学問の自由(憲法23条)、能力に応じて等しく教育を受ける権利(憲法26条1項)、ひいては医師という職業選択の自由(憲法22条)等を保障する憲法の趣旨にも反している。
 また、同調査報告書は、同大学がこのような差別を長年にわたり行ってきた理由について、「女性は年齢を重ねると医師としてのアクティビティが下がる、というのがかかる得点調整を行っていた理由のようである」と指摘している。これは女性医師の出産・育児等によるキャリアの中断を指すものと推測される。しかし、仮に女性医師の休職・離職等が多いとしても、その原因としては、いわゆる性別役割分業の考え方に基づく男性医師の過重な長時間労働及び女性医師の家事・育児労働の過重負担など、様々な背景事情があることが考えられる。これらの背景事情を分析・解決することなしに、安易に、労働力という観点で女性は非効率的であるから入学をさせなければよいとすることは、到底許されない。
 公の性質を持つ大学において、入学者選抜という極めて高い公正さを求められる場面で、受験者が女性であることを理由として一律の不利益な点数操作を行うことは、いかなる意味においても正当化できない。

 以上を踏まえ、当会は、国に対し、下記2点を強く求める。
1 学校法人東京医科大学をはじめとした全ての大学の医学部入学者選抜における性別に基づく差別的取扱いの有無及び実態について早急に調査を進め、その結果を公表するとともに、性別に基づく差別的取扱いが認められた場合には、かかる差別的取扱いが行われた原因について究明をし、今後、全ての大学の医学部入学者選抜において、二度と性別に基づく差別的取扱が行われることのないよう、再発防止策を講じること。
2 女性医師が年齢を重ねても働き続けられるよう、過重労働の改善や性別役割分担意識解消のための政策を推進するなど、男性・女性を問わず全ての医師の労働環境の改善を速やかに図ること。

2018年(平成30年)9月18日
     福岡県弁護士会      
      会長 上田 英友

2018年8月 1日

死刑執行に関する会長声明

2018年(平成30年)7月26日,東京拘置所で3名,名古屋拘置所で2名,仙台拘置所で1名,合計6名の死刑が執行された。この6名は,オウム真理教による一連の事件で死刑が確定していた13名のうち,7月6日に執行された7名を除く6名である。これにより,オウム真理教関連事件の死刑確定者13名全員がわずか21日間のうちに死刑執行されたことになる。

 当会は,本年7月6日の死刑執行に対し,これに抗議する声明を発表し,すべての死刑の執行を停止することを強く要請した。それにもかかわらず,今回の死刑が執行されたことは,まことに遺憾であり,当会は,今回の死刑執行に対し,強く抗議するものである。

 1995年(平成7年)3月20日に発生した地下鉄サリン事件では29人の死者と6500人以上の負傷者が出ており,今なお多数の人々が後遺症等に苦しんでいる。これらのご遺族や被害者の方々の苦しみを決して忘れることなく,被害者救済のための努力をあらゆる方面で続けていかなければならない。
 しかし,死刑制度そのものの是非については,別の問題として慎重に考えるべきである。また,今回行われた合計13名という多数の死刑執行が今後の死刑執行を容易にする契機となってはならない。
 
我が国では,死刑事件について,すでに4件もの再審無罪判決が確定しており(免田・財田川・松山・島田各事件),えん罪によって死刑が執行される可能性が現実のものであることが明らかにされた。また,2014年(平成26年)3月27日には,静岡地方裁判所によって,死刑判決を受けた袴田巖氏の再審開始が決定され,同時に死刑および拘置の執行停止も決定された。この再審決定は,2018年(平成30年)6月11日,東京高等裁判所によって取り消されたが,袴田巖氏は最高裁判所に特別抗告しており,現在でもなお死刑えん罪が存在する可能性は否定できない。

そもそも,死刑は,生命を剥奪するという重大かつ深刻な人権侵害行為であること,誤判・えん罪により死刑を執行した場合には取り返しがつかないことなど様々な問題を内包している。
そのため,欧州連合(EU)加盟国を中心とする世界の約3分の2の国々が死刑を廃止又は停止し,死刑存置国とされているアメリカ合衆国においても2017年(平成29年)6月の時点で19州が死刑廃止を宣言するなど,死刑廃止は国際的な潮流となっている。
国連総会は過去6度に亘り「死刑廃止を視野に入れた死刑執行の停止を求める。」決議案を採択し,国連人権理事会で実施された過去3回のUPR(普遍的定期的審査)においては,日本に対し,死刑廃止に向けた行動の勧告を出している。
今回のような短期間における多数の死刑執行は,国際社会において強い非難を受けることは避けられない。実際にも,駐日EU代表部及びEU加盟国の駐日大使らは,本年7月6日の死刑執行に対して,オウム真理教による事件が,日本そして日本国民にとってとりわけ辛く特殊な事件でありテロ行為を断じて非難するとしながらも,いかなる状況下でも極刑を使用することに強く明白に反対し,日本に対して死刑を廃止することを視野に入れた執行停止を呼びかける共同声明を出したが,今回の死刑執行に対しても,同様の共同声明が出されている。日本は,2018年(平成30年)7月17日にEUとの間で戦略的パートナーシップ協定(SPA)の合意に至ったが,協定では,民主主義,法の支配,人権及び基本的自由についての価値を共有していることが求められている。EUは,人権について生命権を絶対として死刑廃止をその加盟条件としており,今回の死刑執行は,SPAの当事者国が共有すべき人権や基本的自由という価値の共有に懸念を抱かせることになる。

当会は,本件死刑執行について強く抗議の意思を表明するとともに,死刑制度についての全社会的議論を求め,この議論が尽くされるまでの間,すべての死刑の執行を停止することを強く要請するものである。

2018年(平成30年)7月31日
福岡県弁護士会 会長  上 田 英 友


2018年7月11日

死刑執行に関する会長声明

 2018年(平成30年)7月6日,東京拘置所で3名,大阪拘置所で2名,広島拘置所で1名,福岡拘置所で1名,合計7名の死刑が執行された。この7名は,オウム真理教による一連の事件で殺人等の罪に問われ,死刑が確定していた13名のうちの7名である。  
 1995年(平成7年)3月20日に発生した地下鉄サリン事件では29人の死者と6500人以上の負傷者が出ており,今なお多数の人々が後遺症等に苦しんでいる。これらのご遺族や被害者の方々の苦しみを決して忘れることなく,被害者救済のための努力をあらゆる方面で続けていかなければならない。  
 しかし,死刑制度そのものの是非については,別の問題として慎重に考えるべきである。また,今回行われた7名という多数の死刑執行が今後の死刑執行を容易にする契機となってはならない。  
 我が国では,死刑事件について,すでに4件もの再審無罪判決が確定しており(免田・財田川・松山・島田各事件),えん罪によって死刑が執行される可能性が現実のものであることが明らかにされた。また,2014年(平成26年)3月27日には,静岡地方裁判所によって,死刑判決を受けた袴田巖氏の再審開始が決定され,同時に「拘置をこれ以上継続することは,耐え難いほど正義に反する」として,死刑および拘置の執行停止も決定された。この再審決定は,2018年(平成30年)6月11日,東京高等裁判所によって取り消されたが,拘置の執行停止は維持されたままであり,えん罪が疑われる状況は残されたままである。袴田巖氏は最高裁判所に特別抗告しており,現在でもなお死刑えん罪が存在する可能性は否定できない。


 そもそも,死刑は人間の尊厳を侵害する非人道的行為であること,誤判・えん罪により死刑を執行した場合には取り返しがつかないことなどの様々な問題 を内包している。

 そのため,EU(欧州連合)加盟国を中心とする世界の約3分の2の国々が死刑を廃止又は停止し,死刑存置国とされているアメリカ合衆国においても2017年(平成29年)6月の時点で19州が死刑廃止を宣言するなど,死刑廃止は国際的な潮流となっている。


 国連総会は過去6度に亘り「死刑廃止を視野に入れた死刑執行の停止を求める。」決議案を採択し,国連人権理事会で実施された過去3回のUPR(普遍的定期的審査)においては,日本に対し,死刑廃止に向けた行動の勧告を出している。これに対し,日本政府は,国民世論を理由に死刑の存知と執行を正当化しているが,2014年(平成26年)の内閣府世論調査からは,仮釈放を認めにくい代替刑の創設により死刑廃止を容認する国民的世論が形成されうる可能性が窺われる。


 このような中,日本弁護士連合会は,再審無罪となった事件や袴田事件再審決定に代表される誤判・えん罪の現実的危険性を踏まえ,また,いかなる者であろうとも人として変わり得ることを前提に社会内に包摂すべきことを主な理由として,2016年(平成28年)10月7日の第59回人権擁護大会において「死刑制度の廃止を含む刑罰制度全体の改革を求める宣言」を採択した。この宣言は,日本において国連犯罪防止刑事司法会議が開催される2020年までに死刑制度の廃止を目指すべきこと,また,代替刑として,刑の言渡し時に「仮釈放の可能性がない終身刑制度」,あるいは,現行の無期刑が仮釈放の開始時期を10年としている要件を加重して仮釈放の開始期間を20年,25年等に延ばす「重無期刑制度」の導入の検討等を政府に求めたものである。
 

 当会は,本件死刑執行について強く抗議の意思を表明するとともに,死刑制度についての全社会的議論を求め,この議論が尽くされるまでの間,すべての死刑の執行を停止することを強く要請するものである。

2018年(平成30年)7月11日
福岡県弁護士会 会長  上 田 英 友

2018年6月 8日

最低賃金の大幅な引き上げを求める会長声明

福岡地方最低賃金審議会は,本年8月頃,福岡労働局長に対し,本年度の地域別最低賃金額の改定に関する答申を行う見込みである。

昨年,同審議会は,福岡県最低賃金の改正決定について,前年度比24円増額の789円とする答申を行った。しかし,時給789円という水準は,未だあまりに低すぎるものと言わざるを得ない。すなわち,時給789円で,1日8時間,月22日間働いた場合の収入は,月収13万8864円,年収約167万円に止まる。この金額では,労働者がその賃金だけで自らの生活を維持していくことは容易ではなく,ましてや家族内において家計の主たる担い手となるのは困難である。労働者の生活を安定させ,労働力の質的向上を図るためにも,最低賃金の大幅な引き上げが不可欠である。

また,福岡県が,2016年(平成28年)3月に公表した「福岡県子どもの貧困対策推進計画」において,子どもの貧困の原因として,「現在の貧困の根底には、家庭(親)の収入が少ないことがあります。」との指摘をしているとおり,子どもの貧困対策の視点からも,労働者全体の賃金の底上げにもつながる最低賃金の引き上げは喫緊の重要課題である。

ここ数年,最低賃金の大幅な引き上げは,格差と貧困の解消の視点から諸外国において実現されてきており,時給1000円以上の国ないし地域も広がってきている。例えば、フランスの最低賃金は9.76ユーロ(約1259円)、イギリスの最低賃金は7.5ポンド(25歳以上。約1110円)、ドイツの最低賃金は8.84ユーロ(約1140円)であり、アメリカでも、15ドル(約1635円)への引上げを決めたニューヨーク州やカリフォルニア州をはじめ最低賃金を大幅に引き上げる動きが各地に広がっている(円換算は2018年5月上旬の為替レートで計算。)。この動きは,我が国においても参照されるべきである。

 ただし,最低賃金の引き上げに際して,地域の中小企業の経営に特別の不利益を与えないよう配慮することは必要である。最低賃金の大幅な引き上げを実施するに際しては,中小企業を対象とした補助金制度や減税措置等も併せ検討されるべきである。

 なお,最低賃金の審議に関し,福岡地方最低賃金審議会は,審議会の議事の傍聴を認め,傍聴者にも資料を配布するとともに,議事要旨の公表を行っており,この点は評価できる。ただし,議事のさらなる透明性と公正の確保の観点から,議事要旨にとどまらずより詳細な議事録の作成及び公表を求めたい。

 以上,当会は,福岡地方最低賃金審議会に対し,今年度の答申に当たっては,中央最低賃金審議会の答申に捉われることなく,労働者の健康で文化的な生活を確保するとともに,これにより地域経済の健全な発展を促すためにも,最低賃金を大幅に引き上げる答申を行うよう求める。

2018年(平成30年)6月8日
福岡県弁護士会会長  上田 英友

2018年6月 7日

「特定複合観光施設区域整備法案」(いわゆる「カジノ解禁実施法案」)に反対し,廃案を求める会長声明

2018年(平成30年)4月27日に,「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律」(平成28年法律第115号)を実施するための法案(「特定複合観光施設区域整備法案」,いわゆる「カジノ解禁実施法案」)が閣議決定され,国会に上程されている。


当会は,2014年(平成26年)10月15日及び2016年(平成28年)12月13日の会長声明において,暴力団員その他カジノ施設に対する関与が不適当な者の関与,犯罪の発生,風俗環境の悪化,青少年の健全育成への悪影響,ギャンブル依存症の拡大,多重債務問題再燃の危険性等,様々な問題があることを理由に,カジノ解禁に強く反対してきた。


カジノ解禁には,地域経済の振興への寄与などが目的として掲げられているが,例えば,唯一内国人が入場可能なカジノが誘致された韓国の広原(カンウォン)ランドでは,地元への経済効果が見込めないばかりか,ギャンブル依存症患者が増えて,カジノ導入時点で25,000人だった人口が,その後12,000人まで減少するなど,かえって悪影響を及ぼしている(九弁連第69回定期大会シンポジウム「ギャンブル依存症のない社会をめざして」報告書(増補版)184頁)。


今回提出されたカジノ解禁実施法案では,ギャンブル依存症の対策のための措置がとられてはいるものの,極めて不十分である。例えば,ギャンブル依存症対策として,入場回数制限を「7日間で3回,28日間で10回まで」とし,入場料を「6,000円」と定めている。しかし,7日間で3回も入場していれば,既にカジノに依存しているともいえるし,入場料を支払えばカジノに入場できるのであるから,これらの制限によりカジノ依存が抑止されるとは言えない。


さらに,カジノ解禁実施法案では,「特定資金貸付業務」として,顧客に金銭を貸し付ける業務が認められているところ,そこでは,一定の金額を預け入れた顧客に対しては,カジノ事業者が直接カジノ資金を貸し付けることが予定されている。しかも,年収の3分の1を超える貸付を禁止する貸金業法の総量規制が適用されることもないのであって,顧客をギャンブル依存に陥らせる危険性は極めて高いと言わざるを得ない。


さらに,2018年(平成30年)5月25日には,ギャンブル等依存症対策基本法案が衆議院で可決されたところ,同法案の提案理由として,「ギャンブル等依存症がこれを有する者等及びその家族の日常生活及び社会生活に様々な問題を生じさせるおそれのある疾患」であるために,「ギャンブル等依存症対策を総合的かつ計画的に推進する必要がある」ことが掲げられている。このように,ギャンブル依存症の予防及びギャンブル依存症を有する者の回復を,社会的な取組みとして図ろうとしている時期に,カジノを解禁して,依存症発生のリスクを高めることは妥当ではない。


そして,昨年8月に実施された意見募集(パブリックコメント)でも,提出された1,234件のうち,829件がカジノに反対するという意見であって,カジノ解禁に対して国民の理解が得られたという状況にはない。


よって,当会は,カジノ解禁実施法案に反対し,その廃案を求めるものである。


2018年(平成30年)6月7日
福岡県弁護士会
会長 上 田 英 友


2018年3月23日

「消費者契約法の一部を改正する法律案」にかかる会長声明

2018年(平成30年)3月2日,「消費者契約法の一部を改正する法律案」が閣議決定され,消費者契約法改正案(以下,「本改正案」という。)が国会に提出された。本改正案は,内閣府消費者委員会答申(以下,「委員会答申」という。)を受けたものであり,多発する消費者被害の防止及び救済を図るため,国会における速やかな審議及び可決に向けた取り組みがされることを望むものであるが,必ずしも委員会答申の趣旨を十分に踏まえたものではない。

当会は,2017年(平成29年)9月13日,「消費者契約法の改正に係る意見」(以下,「当会意見書」という)を公表しているところ,今後の本改正案の審議にあたって,以下のとおり,委員会答申及び当会の意見の趣旨を十分に踏まえた所要の修正がなされることを求める。

1 困惑類型の追加

本改正案においては,いわゆる「つけ込み型」勧誘行為における消費者の取消権が設けられていない。

委員会答申は,「合理的な判断をすることができない事情を利用して契約を締結させるいわゆる『つけ込み型』勧誘の類型につき,特に,高齢者・若年成人・障害者等の知識・経験・判断力の不足を不当に利用し過大な不利益をもたらす契約の勧誘が行われた場合における消費者の取消権」について,早急に検討し明らかにすべき喫緊の課題としていた。当会意見書も,「合理的な判断をすることができない事情の利用にかかる困惑類型(法第4条第3項)につき,年齢又は障害などによる消費者の判断力の不足に乗じた勧誘行為を追加すべきである。」ことを提言していた。

したがって,「つけ込み型」勧誘行為に対する消費者の取消権を追加するべきである。

2 「社会生活上の経験が乏しいこと」という要件の修正

本改正案は,契約締結過程に関する規律における困惑類型として,消費者が抱いている不安(本改正案第4条第3項第3号)又は勧誘者に対する恋愛感情等(同項第4号)につけ込んだ勧誘を理由とする取消権を設けたが,その取消しの要件として,「社会生活上の経験が乏しいこと」という要件を加えている。

この要件が付け加えられた結果,霊感商法など高齢者に対する勧誘がこの取消権の対象から除外されるおそれがある。

今回の消費者契約法改正は,若年者だけではなく高齢者など社会的経験・知識・判断力の不十分な者にかかる消費者被害の防止及び救済を図ることにその目的の一つがあるのであって,かかる困惑類型の対象から高齢者など判断力の不十分な者を除外すべきではない。

本改正案については,「社会生活上の経験が乏しいこと」との文言は削除すべきであり,あるいは少なくとも「社会生活上の経験又は判断力が乏しいこと」との文言に修正されるべきである。

3 「平均的な損害の額」の立証について

本改正案は,消費者契約法第9条第1号の「平均的な損害の額」に関して,消費者の立証責任軽減のための推定規定を導入していない。

判例(最判平成18年11月27日民集60巻9号3437頁)の立場によれば,「平均的な損害の額」の主張立証責任は消費者にあるとされているところ,この算定に必要な資料が事業者の元にあることから,消費者にとって,その主張立証はきわめて困難なものである。

そこで,委員会答申は,消費者の立証困難性を緩和し,消費者が「事業の内容が類似する同種の事業者に生ずべき平均的な損害の額」を立証した場合において,その額が「当該事業者に生ずべき平均的な損害の額」と推定される旨の規定を設けるべきことを提言していた。当会意見書では,かかる推定規定にとどまらず,さらに進んで,「平均的な損害の額」にかかる立証責任を事業者に転換する旨を法律上規定すべきことを提言した。法9条の1号の規定を実効化するためには必要不可欠なものであるから,かかる推定規定を設けないのは,委員会答申の趣旨を大きく損なうものである。

本改正案においては,推定規定を導入すべきである。

2018年(平成30年)3月23日
福岡県弁護士会 会長 作間 功

2018年3月 9日

生活保護基準のさらなる引下げを行わないよう求める会長声明

政府は,2017年12月22日,生活保護基準を引き下げ,年間160億円を削減することを含む次年度予算案を閣議決定した。今回の基準改定では,毎日の生活費に相当する生活扶助基準が最大5%,母子加算が約20%削減される予定となっている。基準改定によって基準額が上がる世帯も存在するものの,全体では約70%の世帯が基準引き下げの対象となり,特に都市部の子どものいる世帯や高齢世帯において大幅な引き下げになることが見込まれている。
生活保護基準については,すでに2013年から3年間かけて生活扶助基準の引下げ(平均6.5%,最大10%)が実施されており,2015年からは住宅扶助基準や冬季加算の削減も行われてきたところである。これらに続くさらなる生活保護基準の引下げは,我が国全体の貧困化を促すことになりかねないと危惧される。
今回の引下げは,生活保護基準を第1・十分位層(所得階層を10に分けた最も下位10%の階層)の消費水準に合わせるという考え方の基づくものである。しかし,そもそも我が国における生活保護の捕捉率(生活保護基準未満の世帯のうち実際に生活保護を利用している世帯が占める割合)は,厚生労働省が公表した資料(2010年4月9日付厚生労働省「生活保護基準未満の低所得世帯数の推計について」)によっても15%から32%程度と推測されているところであり,第1・十分位層の中には生活保護の利用が可能であるもののこれを利用することなく,生活保護基準未満の所得のみでの苦しい生活を余儀なくされている人たちが多数含まれている。この層の消費水準を比較対象とすれば,必然的に生活保護基準を最も貧困な水準に至るまで引下げ続けることにならざるを得ず,合理性がないことは明らかである。
生活保護基準は,憲法25条が保障する「健康で文化的な最低限度の生活」の基準であるのみならず,住民税の非課税基準,国民健康保険料の減免基準,介護保険の保険料・利用料や障害者総合支援法による利用料の減免基準,就学援助の給付対象基準,最低賃金等の多様な施策にも直接,間接の影響を及ぼすものである。すなわち,生活保護基準の引下げは,生活保護利用世帯の生存権を直接脅かすとともに,生活保護を利用していない市民生活全般にも多大な影響を及ぼすのである。
今回の生活保護基準のさらなる引下げは,すでに度重なる引下げを実施されている生活保護利用者をさらに追い詰めるだけでなく,市民生活全般の地盤沈下をもたらすものであり,容認できないものである。
よって,当会は,政府に対し,生活保護基準のさらなる引下げを行わないよう強く求めるものである。

                    2018年(平成30年)3月9日
                           福岡県弁護士会  
                             会長 作間 功

1  2  3  4  5  6  7  8  9  10  11

カテゴリー

Backnumber

最近のエントリー