福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画

会長談話

2012年10月11日

当会元会員の実刑判決についての会長談話

会長談話

当会元会員高橋浩文が、本日、被害額約4億6000万円に上る詐欺、業務上横領罪にて懲役14年の実刑判決を受けたことは、誠に遺憾というほかありません。市民の権利擁護と社会正義の実現を使命とする弁護士が、こともあろうに、依頼者を欺き、多額の被害を与えたことは、慚愧に堪えません。
当会は、市民の弁護士、弁護士会に寄せる信頼を回復すべく、改めて全ての会員に対して弁護士に課せられた使命の自覚を促すとともに、不祥事防止策を早急に講じる所存です。

                      
                        2012年(平成24年)10月11日
                     福岡県弁護士会会長 古 賀 和 孝

2012年9月25日

発達障がいのある被告人による実姉刺殺事件の大阪地裁判決に関する会長談話


発達障がいのある被告人による実姉刺殺事件の
大阪地裁判決に関する会長談話


 本年7月30日、大阪地方裁判所は、発達障がいがある男性が実姉を刺殺した殺人被告事件において、被告人に対し、検察官の求刑(懲役16年)を上回る懲役20年の判決を言い渡した。
 同判決は、犯行に至る経緯や動機について、被告人に、発達障がいの一種であるアスペルガー症候群の影響があったとし、被告人が十分に反省する態度をしめすことができないことには同症候群の影響があり、通常人と同様の倫理的非難を加えることはできないとしながら、他方、十分な反省のないまま被告人が社会復帰すれば、そのころ被告人と接点を持つ者の中で、被告人の意に沿わない者に対して、被告人が同様の犯行に及ぶことが心配されるとし、社会内で被告人の同症候群に対応できる受け皿が何ら用意されていないし、その見込みもないという現状の下では再犯のおそれが更に強く心配され、被告人に対しては、許される限り長期間刑務所に収容することで内省を深めさせる必要があり、そうすることが社会秩序の維持にも資するとして、有期懲役刑の上限にあたる刑を言い渡したものである。
 しかし、同判決には看過できない以下の問題点がある。
 第1は、同判決は、刑法の理念である責任主義に反している点である。人が同症候群を有することは、その人の責任ではない。同判決が、通常人と同様の倫理的非難を加えることはできないと認めるとおり、同症候群の影響は、刑を減じる方向に働くべき事情である。にもかかわらず同判決は、同症候群の影響をもって再犯のおそれを強調し、逆に刑を加重しており、責任主義に反していている。被告人に対し、許される限り長期間刑務所に収容することで内省を深めさせる必要があり、そうすることが社会秩序の維持に資するという発想は、保安処分につながるものであり、到底許されるものではない。
 第2は、同判決が、同症候群の障がい特性に対する無理解に基づいている点である。同症候群を有する人は、社会的なコミュニケーション力や、相手の気持ち・場の雰囲気を読み取る力が弱く、限定した興味に対するこだわりが強い、といった特性を有しているが、同症候群が危険であるとか、直接犯罪に結び付くといったことは決してない。むしろ同症候群を有する人は、これらの特性を周囲に理解してもらえず、ストレスに苦しみながら真面目に生活している人が多く、十分な支援があれば、逸脱行動を取ることは稀である。
 本件において被告人の再犯防止に必要なことは、障がい特性に応じた十分な支援を受けさせることである。わが国の刑務所では、同症候群を含む発達障がいに対する支援体制は乏しく、長期間刑務所に収容しても、その効果を期待することはできない。
 同判決は、障がい特性に対する無理解により、被告人に対する再犯防止への道筋を誤っており、同判決が、同症候群に対する社会の偏見や差別を助長することを深く懸念するものである。
 第3は、同判決が、同症候群を含む発達障がいに対する法的・社会的状況について明らかに誤った認識を有している点である。発達障がいを有する人に対しては、2005年(平成17年)に発達障害者支援法が施行され、発達障がいを有する人の自立及び社会参加に資するようその生活全般にわたる支援を図ることが社会全体の責務とされ、都道府県及び政令指定都市において発達障害者支援センターが設置されている。また厚生労働省においても、障がいにより福祉的な支援を必要とする矯正施設退所者について、退所後直ちに福祉サービス等につなげるために「地域生活定着支援センター」が各都道府県に開設されるなど、目下、諸施策が立案・実施されているところである。
 同判決が、社会内で被告人の同症候群に対応できる受け皿が何ら用意されていないし、その見込みもない、という認識は明らかに誤っており、その誤った認識から、被告人を許される限り長期間刑務所に収容すべきとすることもまた、明らかに誤っている。
 司法を担う裁判所が判決において、このような誤った認識を示すことは、同症候群をはじめとする発達障がいを有する人に対する社会的偏見や差別を助長するものであって到底看過できない。
 当会は、同判決が有する重大な問題点を指摘するとともに、広く社会に対し、障がい特性や、障がい者を取り巻く法的・社会的状況等を正しく理解することを求める。


2012年(平成24年)9月25日
福岡県弁護士会会長 古 賀 和 孝

2012年5月10日

会長談話

                会長談話


 本日、当会会員が詐欺の容疑で逮捕されましたことは誠に遺憾です。
 当会は、同会員について預かり金の返還遅滞を理由として、平成24年3月22日、会立件の形で懲戒手続に付し、翌23日、これを公表しました。上記懲戒手続につきましては、4月19日、綱紀委員会の議決を経て、懲戒委員会による審査手続に入っております。
 同会員の行為が返還遅滞に止まらず今回の逮捕容疑事実に及んでいたとすれば、その行為は弁護士に対する信頼を根底から覆すものであることが明白です。
 昨年、当会の別の元会員が業務上横領で有罪判決を受けております。このような問題の続発により、当会のみならず弁護士全体に対する国民の信頼を失いかねない状況に至っていることを深く自覚し、重く受け止めております。
 当会は、国民の皆さまからの信頼を回復するため、不正を行った弁護士に対しては、常に除名を含む厳しい態度で臨む決意です。
 こうした制度上の措置に加え、会員の倫理意識を一層高め、会員一人一人に更なる自覚を求めるとともに、こうした事件の再発防止策についての検討を急ぐ所存です。


                        2012(平成24)年5月10日
                              福岡県弁護士会
                                会長 古賀 和孝

2011年3月10日

当会会員の逮捕に関する会長談話

                会長談話


 このたび、当会の渡邊和也会員(北九州市)が業務上横領罪の容疑で、3月3日、福岡地方検察庁に逮捕されました。
 基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とし、市民の権利の護り手として最も公正を旨とすべき弁護士が、このような事件を起こしたことは、全く申し開きの余地のないことです。監督者の立場にある福岡県弁護士会を代表して、県民・国民の皆さまに対して、深くお詫びを申し上げます。
 本件の行為は、弁護士の業務に対する社会的信用を失墜させる重大な非違行為であり、当会では、同会員について当会綱紀委員会に調査請求をすること(懲戒請求)を決定し、3月4日、その手続きを了しました。
 当会は、本件を契機に、より一層会員の職業倫理の向上に努め、弁護士および弁護士会に対する県民・国民の皆さまからの信頼の確保に努力致す所存です。

                         2011年(平成23年)3月10日
                             福岡県弁護士会
                             会長 市 丸 信 敏

2010年5月21日

裁判員裁判施行後1年を振り返って

裁判員裁判施行後1年を振り返って

          裁判員裁判施行後1年を振り返って


 昨年5月21日に裁判員裁判が施行されて1年が経過しました。  市民の皆様が刑事裁判に直接参加することによって、無罪推定などの刑事裁判の原則に忠実な「よりよい刑事裁判」が実現するとの観点から、当会は、司法への市民参加の意義を訴え続けてきました。  実際に、市民感覚が裁判に活かされていることは、判決の「量刑の理由」に現れています。従来は当然のように情状として斟酌されていた被害弁償の事実や被告人の年齢も、裁判員裁判では、なぜそれが量刑に影響するのかということが評議の場で議論され、裁判員の納得を得てはじめて量刑の理由として記載されているようです。このことによって、法律専門家にとって当たり前だった事実の評価、すなわち法律専門家の常識が、本当に常識といえるのかが、問い直されつつあります。  また、裁判員にとっては、裁判員裁判はおそらく一生に一度の体験です。実際の事件で、裁判員は、長い審理時間、集中し、真摯に裁判に参加していたと報告されています。裁判員のその集中力や、審理に対する意識の高さは、審理に緊張感を与えます。このことが、法律専門家の、ひとつひとつの裁判に対する意識を高め、内容の充実をもたらすことが期待されます。
一方、裁判員の負担軽減の要請の許に、審理時間の短縮、法廷に顕出する証拠の制限が強調されすぎているのではないか、という懸念が、実際に裁判員裁判を担当した弁護人から示されています。確かに、長時間の審理は、裁判員の負担となるでしょう。しかし、それを避けるために被告人の防御権を侵害するようなことになっては本末転倒です。また、判断に必要な証拠が不足している状態で、被告人の有罪、無罪や量刑について評議することは、むしろ裁判員にとって心理的な負担となり、かつ、評議に要する時間の負担も増す可能性があります。内容の充実した審理こそ、刑事裁判の本来あるべき姿であり、裁判員裁判の目指すところでもあります。当会としては、裁判員裁判において本当に充実した審理がなされているかを検証し、改善に努めていきたいと思います。

被告人の権利を擁護し、充実した審理を実現するために、弁護人の役割が重要であることは言うまでもありません。検察庁が裁判員裁判に組織的に対応し、その公判に複数の検察官が立会っていることに鑑みても、複数弁護人体制が必要不可欠です。この間、当会では、被告人国選事件ではほぼ全件で複数弁護人体制を実現して来たところであり、今後もこの方針を継続し、そのためのサポート体制も拡充強化する予定です。
 ただし、充実した審理を実現するためには、起訴される前の被疑者段階から弁護人が複数選任されることが必要不可欠です。しかし、刑事訴訟法上の障害等もあって、被疑者国選段階での複数弁護人は例外に止まっています。当会は、これまでも裁判所に被疑者段階での複数選任を要請して来ましたが、今後も積極的に求めていきます。  なお、当会は部会制をとっており福岡地裁久留米支部管轄地域には筑後部会、同飯塚支部管轄地域には飯塚部会があります。現在は、これらの支部管轄地区内で発生した裁判員裁判対象事件は、全て福岡地裁本庁に起訴されることになります。当会は、そのような事件については、やむを得ず、上記各部会と福岡部会が協力して弁護人を選任していますが、弁護人相互間や被告人との打ち合わせなどでの支障があることは否めません。また、筑後、筑豊地域の方が、裁判員候補者として福岡地裁本庁に呼出を受けている現状があります。これらの支部においても裁判員裁判が実施されるよう、裁判所の支部体制の整備を含めて、裁判所に要請していきたいと考えます。  さらに、未だに実現していない重大な課題として、自白偏重主義の撤廃、取調べの可視化(取調べの全過程の録音・録画)があります。志布志事件や足利事件などの冤罪事件では、捜査機関が虚偽の自白調書を作成していたことが明らかになっています。虚偽の自白調書により、市民が誤った判断をしないためにも、取調べの可視化が是非とも必要です。
当会は、被疑者・被告人の権利が十分保障された適正な刑事手続の実現を目指し、これらの課題の実現に引き続き全力を尽くします。
   本年度は、いよいよ否認事件や極刑求刑事件などの重大・困難事件が次々と審理にかかることが想定され、裁判員裁判の定着をはかる上での正念場を迎えます。  当会では、さらなるノウハウの蓄積、経験交流を通じて会員の弁護技術を研鑽するとともに、弁護人アンケート、市民モニター、弁護士モニター等の情報の分析、裁判員裁判検証運営協議会での議論等々を通じてその運用改善に努め、また、施行3年後の見直しに向けての取り組みを持続していく所存です。

                  2010年5月21日
                  福岡県弁護士会
                  会  長  市  丸  信  敏

2006年10月25日

筑前町の中学生いじめ自殺事件の実名報道に対する会長談話

2006年10月25日

福岡県弁護士会 会長 羽田野 節夫


 株式会社新潮社は,10月19日発売の「週刊新潮」において,福岡県筑前町の中学生いじめ自殺事件について,自殺した子どもの実名を挙げて報道した。

 しかし,自殺した子どもについての実名報道は,遺族の明示した意思に反して行われ,かつ,その報道内容からすると実名報道する必要性は全く認められず,さらには,興味本位で子どもの名誉に対する配慮を欠くものであって,子どもや遺族の名誉・プライバシーを著しく侵害するおそれがあると言わざるを得ない。

 そもそも自殺した子どもの実名は,その遺族を含め,極めて私的な生活に関わる事項であり,プライバシーとして十分に保護されるべき性質のものであって,それが報道されたときには,報道された者の私生活の平穏が害されることは甚だしいと言わざるを得ず,遺族の承諾なく報道することは原則として許されないものである。
 もとより報道の自由は尊重されなければならないが,それは公共性・公益性のある事項について,市民の知る権利に奉仕することから認められるものである。本件において,自殺した子どもを実名報道することに公共性・公益性があるとは到底言えず,報道の自由の名のもとに実名報道をすることが正当化されるものではない。

 我が国が1994年に批准した国連子どもの権利条約16条には,いかなる児童も,その私生活等に対して,不法に干渉されない権利を有すると規定されており,こうした国際社会の普遍的な原則にも抵触する重大な問題である。

 ところで,新潮社は,過去における犯罪少年の報道に関しても実名報道をくり返し行い,その都度,日弁連や法務省人権擁護局から人権侵害のおそれ等を指摘されていた。加えて,今回いわば被害者としての立場にある自殺した子どもの実名まで,その遺族の意思に反して報道するにいたっては,報道される者に対する配慮を著しく欠くものであって,その報道姿勢については強く批判せざるを得ない。

 以上の観点から,当会は,新潮社に対し,速やかに被害回復のための是正措置を求めるとともに,マスメディア全体に対し,人権に対する配慮を欠いた報道を行わないことを強く要望するものである。

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