福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画

2007年3月20日

佐賀県北方町連続女性殺人被告事件控訴審判決についての会長声明

声明

2007年(平成19年)3月20日
             
福岡県弁護士会 会長 羽田野 節夫


 昨日平成19年3月19日、福岡高等裁判所は、1989年(平成元年)1月に佐賀県北方町において発覚した女性3名に対する殺人被告事件について、一審の佐賀地方裁判所の無罪判決を支持し、検察官の控訴を棄却する判決を言渡した。
 本件は、平成元年11月に、別件起訴勾留中の任意取調べに際し、被告人に被害者3名の殺害を認める上申書を作成させ、その後、被告人は否認に転じたため、その当時、逮捕、立件が見送られたにもかかわらず、その13年後の公訴時効完成直前に起訴された事件である。
 本件は、当初から起訴の13年前に作成された被告人の上申書以外には証拠がなかった事件であるが、一審の佐賀地方裁判所は、その上申書は違法収集証拠でありかつ任意性に疑いがあるとしてその証拠能力を否定し、平成17年5月10日、無罪判決を言渡し、今回の福岡高等裁判所も、佐賀地方裁判所の判断に誤りはないと判示したものである。
 本件は、任意取調べ中に犯行を認める被告人の上申書が作成されたが、佐賀地方裁判所は、この上申書の証拠請求を却下した決定(平成16年9月16日)の中で、平均12時間35分の長時間の取調べが連日17日間にわたって行われ、昼食も夕食も取っていない被告人を午前0時過ぎまで取り調べるなど、任意取調べの限界を超え、令状主義を甚だしく逸脱する重大な違法性があると指弾するなど、任意取調べの名を借りた違法な強制捜査がなされた事案である。さらに、同決定は、上申書のほとんどは、取調官から被告人に具体的な指示があって書かされたことは合理的に考えられると指摘しており、取調官の誘導と強制によって虚偽の上申書が作成されたと考えられる。
 このような令状主義を甚だしく逸脱し、違法性の高い取調べによって獲得された虚偽の自白上申書に基づいて本件被告人は起訴されたものであり、福岡高等裁判所が検察官の控訴を棄却する判決を言い渡したことは至極当然の結果と言える。
 しかしながら、違法な事実上の強制捜査によってその作成を強要され、かつ、当時の捜査機関でさえも立件を断念せざるを得なかった13年前の虚偽の自白上申書によって、被告人は、逮捕、起訴され、4年9ヶ月もの長期間、被疑者、被告人として筆舌に尽くしがたい身体的、精神的苦痛を余儀なくされたことは極めて不当であり、許し難いことである。
 本年2月23日に無罪判決が言渡された鹿児島選挙違反無罪事件や本年2月9日に富山地方検察庁が服役した被告人が無実であったとして再審請求をした富山強姦冤罪事件においてもみられるように、任意取調べに名を借りた強制的かつ違法な取調べがなされることがあるという実態に鑑みれば、本件や鹿児島選挙違反事件や富山強姦冤罪事件の被告人らのような犠牲者を二度と出さないためには、たとえ、任意取調べであっても、被疑者、被告人に対しては、取調べの全過程を録画・録音するという取調べの全過程の可視化こそが、必要不可欠であり、かつ、約2年後に施行される裁判員裁判が有効に機能するための前提条件であることが明らかになった。
 近時、検察庁において、検察官の取調べに関して検察官の判断によって必要な限度で取調べの録画の試行が開始されているが、違法捜査と自白の任意性をめぐる争いを防止するためには、警察、検察に限らず、取調べの全過程の録画・録音制度こそが必要不可欠である。
よって、当会は検察庁および警察庁に対し、取調べの全過程の録画・録音制度を速やかに実現することを強く求める次第である。

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