福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画

2023年5月12日

マイナンバーの利用範囲及び情報連携範囲の拡大に反対する会長声明

声明

 政府は、2023年3月7日、行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律(平成25年法律第27号。以下「番号法」という。)の改正案について閣議決定した。現在は国会において審議中である。
 改正案は、マイナンバーカードと健康保険証の一体化や、マイナンバーカードの普及・利用促進など、これまで、当会が反対してきた内容を含んでいる(2021年5月6日マイナンバーカードの義務化とデジタル関連法案に反対する会長声明、2022年12月26日現行の健康保険証を廃止してマイナンバーカードの取得を義務化することに反対する会長声明。)。
 そこで、本声明では特に、①マイナンバーの利用分野の拡大と、②マイナンバーの利用及び情報連携に係る規定の見直しについては、いずれも反対である旨の意見を述べる。

 改正案は、社会保障制度、税制及び災害対策以外の行政事務においてもマイナンバーを利用できることとし、マイナンバーの利用分野の拡大を図ることを内容としている。
 マイナンバーは他者と重複しない原則生涯不変の個人識別番号であるから、利用分野を拡大することは、マイナンバーを鍵として紐づけされた個人情報が名寄せされデータマッチング(プロファイリング)される危険性があるため、それを防止すべく、プライバシーを保護するための主要な手段として、マイナンバーの利用分野は3分野に限定されているところである(番号法9条)。
 ところが、上記3分野への限定なしに利用範囲が拡大すれば、マイナンバーに紐づけられる情報に歯止めがなくなり、その量・種類が増加し、プロファイリングによるプライバシー侵害も拡大する。
 利用範囲が拡大すれば、当然ながらマイナンバーを利用する機会が増加することとなり、情報の漏洩、不正利用等が発生するリスクも高まる。

 また、改正案は番号法上マイナンバーの利用が認められている事務に「準ずる事務」についてもマイナンバーの利用を可能とし、法でマイナンバーの利用が認められている事務について、主務省令で規定することで情報連携を可能とする内容である。
 改正案によれば、「準ずる事務」とは、既に利用が認められている事務(番号法別表第1に記載されている事務)と同一であること、その他政令で定める基準に適合する事務に限るものであること、とされているが、これがいかなる範囲を指すのか不明である。
 そもそも、マイナンバーの利用が認められている事務については、社会保障制度、税制及び災害対策の3分野に限定するとともに、原則として法律によってしか利用範囲を拡大できないとして、その手段を限定することにより、プライバシーの侵害を招かないようにしていた。「準ずる事務」についてマイナンバーの利用が可能であるとすると、番号法に規定のない事務について具体的な限定のないまま、行政機関限りの判断で省令を作成し、マイナンバーの取扱事務を拡大できるようになり、プライバシーを侵害するおそれが飛躍的に高まることになる。
 河野太郎デジタル大臣は、上記閣議決定と同日に開かれた記者会見において、法改正により、法令を超えて政府の裁量が大きくなることはない旨述べているが、「準ずる事務」の範囲が明確でないうえ、国会による歯止めが欠ける以上、プライバシー権を侵害するものであることは論を俟たない。

 改正案が、社会保障制度、税制及び災害対策分野の3分野に限定されない内容となっていることから、個人番号の秘匿性について疑義が生じうるところであるが、政府は、番号法制定時とは全く異なる説明を行うようになっている。
 すなわち、番号法第19条は、本人に対してすら例外的な場合を除き第三者への特定個人情報の提供を制限しており、第三者による権限外取得には罰則が設けられている。これはマイナンバー自体を他者に知られてはならないセンシティブ情報として保護する趣旨といえる。
 しかしながら、デジタル庁は、そのウェブサイトにおいて、「Q5 マイナンバーを人に見られても大丈夫なのですか。」、「A5大丈夫です。マイナンバーだけ、あるいは名前とマイナンバーだけでは情報を引き出したり、悪用したりすることはできません。」と記載している。
 これは上記のマイナンバー自体をセンシティブ情報と取り扱うことによりプライバシーを守るという番号法の本質に反するものであって到底許されない。

 よって、この改正案は、マイナンバーの利用範囲・情報連携範囲を拡大することで、プライバシーを侵害するとともに、情報漏洩や不正利用のリスクを高めるものであり、許されない。
 当会は、現在国会で審議中の改正案について、断固として反対するものである。

以上

2023年(令和5年)5月12日

福岡県弁護士会 会長 大神 昌憲

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