2010年01月19日
会長日記
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福岡県弁護士会会長日記
平成22年度会 長 池 永 満(29期)
No455 その8<九弁連大会やイベントの狭間、手探りで匍匐前進> 10月15日~11月12日
九弁連大会へのご奮闘とご協力に感謝!! 福岡市では18年ぶりの開催となった九弁連大会(10月23日)。 羽田野節夫九弁連大会実行委員長をはじめとする実行委員会の皆さんの長期にわたる用意周到な準備と「九弁連はひとつ」の合い言葉にふさわしい九弁連関係者の一致協力した取り組みのおかげで、シンポ、大会、懇親会、スポーツ交流や公式観光等、全てのイベントが充実した内容で大成功に終わりました。日弁連宮_誠会長を始め多くの参加者から開催県としての当会の底力をみせつけるものであったと大きな賞賛もいただきました。 関係各位のご努力に、感謝、感謝です。 今回の日記期間は、九弁連大会のみならず、各種のイベントが目白押しで、あさかぜ基金法律事務所の1期生井口夏貴弁護士を所長として送り出す「対馬ひまわり基金法律事務所」の引き継ぎ式(対馬、10月28日)、法曹三者協議としては10月7日の一審強民事部会に続く「一審強刑事部会」の開催(10月30日)、日弁連における最大のイベントである「第52回人権大会」も和歌山で開催されました(11月5~6日)。 私的には「患者の権利宣言25周年記念集会」(名古屋、10月31日)、憲法フェスタ(11月3日)、中学卒業48周年記念同窓会(11月7日)等にも顔を出し、日頃のご無沙汰を詫びつつ旧交を温める機会をもつことができました。 来年2月、大連市律師協会との交流協定調印へ 前回月報の会長日記で予測していたとおり、大連市律師協会との交流が新たな局面を迎えることとなりました。大連市律師協会から10月17日付けで当会が送付したモデル案(釜山地方弁護士会との合意書)とほとんど同一内容が記述された中国文の合意書案を添えた回答が寄せられたことを受け、10月29日の常議員会において全会一致で同会との相互交流に関する合意書を調印することが承認されました。 合意書調印のため来年の2月26日から28日までの間、大連市律師協会の張耀東会長をはじめとする代表団が福岡を訪問される予定です。詳細日程や合意書調印後の具体的な交流の進め方等については、これから国際委員会を中心として実務的協議を行うことになりますが、当会としては代表団の歓迎実行委員会(委員長・清原雅彦会員)を組織し、20年前に実施した釜山地方弁護士会との調印式の事績も参考にしながら、会をあげて歓迎に向けた準備を進めていきたいと思います。 臨時総会で補正予算を承認~福岡、北九州で相談センター拡充へ 各部会集会の議をへて10月15日の常議員会で議決した天神弁護士センター会計と北九州法律相談センター会計の補正予算案は、10月29日に開催された臨時総会において、ほぼ満場一致の賛成で承認されました。これにより、本年4月以降、野田部副会長と法律相談センター運営委員会を中心に取り組まれてきた天神弁護士センターのリニューアル大作戦は実行段階に入り、今後レイアウトの最終的な詰めを行った上で、遅くとも来年1月中には移転場所における業務開始を目指して作業が開始されます。私は来年2月に訪問される大連市律師協会代表団にも市民に対するリーガルサービスの拠点である新天神センターを是非視察してもらいたいと考えています。 北九州部会が立ち上げる豊前相談センターは、従前は月に1回の土曜日しか行っていなかった法律相談を、月曜から金曜日まで毎日実施する常設相談所として新規に開設するものであり、弁護士過疎地域である豊前地区において当面の赤字は覚悟しても市民に対する継続的なリーガルサービスを展開する拠点を創出するという画期的な試みです。 私は会長就任時に県下20カ所の相談センターを訪問させてもらいました。その際の印象から、サテライト相談所を市民がいつでも駆け込める頼りがいのあるものにするためには連日相談にのれる対応体制を作ることが不可欠ではないかと考えており、豊前相談センターの今後の推移と成果を注目したいと思います。 新人研修制度の検討開始~新人研修PTの答申を受けて 本年度執行部が重点課題としている新しい「新人研修制度」の構築を検討するため研修委員会内に設置された新人研修PT(座長・石渡一史会員)による答申が2回にわたり提出されました。(答申は執行部に対するもので、これから執行部案を作る際のたたき台としての性格を持つものですが、執行部としては早期に多角的な検討をすすめるためにも、そのまま関連委員会や常議員会に情報提供する取り扱いにしており、第1回答申は9月30日の、第2回答申は11月12日の常議員会でそれぞれ報告しています)。 新人研修PTの最初の答申は、新規登録弁護士に対して現に実施している倫理研修、会務研修、各種相談担当登録研修等に加えて、長期的視野に立って登録から1年間にわたり弁護士業務の基礎や基本を修得できるような新人研修プログラムのメニューのたたき台を網羅的に示したものです。 第2回目の答申は、新人研修制度を実施していく仕組みを構築するための研修規則や細則の改正案を内容とするものですが、登録から1年間にわたり一人一人の新人弁護士に対して会長が「主任指導弁護士」を選任して新人研修を促進することや、主任指導弁護士の選任手続きなどの会長事務を新人が所属する部会の部会長に委託することができる規定を設けることにより、新人研修を各部会中心に行う体制を作ること等が付加された主な点になっています。なお主任指導弁護士は新人が所属する事務所の先輩を選任することを原則としています。 執行部としては、2つの答申に加えて、新人研修制度を実施するために必要となる講師等に対する謝礼や経費をまかなうための財源をどう確保するか(そのために必要な規則改正等があればその改正案を含む)に関しての提案をまとめた上で、プログラム、仕組み、財源という3点セットを含む新人研修制度に関する総合的な執行部としての提案(たたき台)を取りまとめた上で、早ければ11月下旬の常議員会に提出して会内合意を形成するための本格的な議論を始める予定です。 リーガルサービス活動等の実情調査と有償化の検討を開始 現在、県弁の各委員会が関与して実施されている市民や団体に対するリーガルサービス活動(法律相談や講師活動等)は極めて多面的になっており、多くの会員が熱心に取り組んでおります。日弁連からの依頼等により臨時的に実施する相談活動等も急増しています。 ただ法律相談の場合でも、面談相談の場合には担当する会員に対する日当が支払われているものが大半ですが、逆に電話相談(ホットライン等)においては支払われていないものが大半です。出張しての講師活動等においても相手方から支払われるものもありますが、無償で実施されているものも見受けられます。 執行部としては、市民や団体等に対するリーガルサービス活動をいっそう活性化させるとともに、会務負担の公平性の観点や若手会員の参加を促進するためにも、リーガルサービス活動に従事する会員に対しては原則として日当を支払うシステムを確立することが必要ではないかと考え、そうしたシステムを実施する場合の予算規模や支払い基準、留意すべき事項等を検討するために、各委員会の委員長に対し実情照会を行いました。 あわせて、第3者に対するリーガルサービス活動のカテゴリーには該当しないけれども、仮にリーガルサービス活動に対して原則的に日当支払いが行われることとなった場合には、それに準じて有償化を検討すべき会務活動等の存否についても照会をしています。執行部としては現段階において会務活動一般について有償化する方針は持っておりませんが、既に大阪弁護士会等においては人権調査活動等に対する日当支払いが実施されていることなど他会の動向を考慮すれば、この際、会務負担の公平性等の観点もふまえて総合的な検討を進めるために、委員会活動の実情を正確に把握したいと考えています。 この照会結果については、第3回委員長会議(12月1日)における意見交換や常議員会等における検討を行った上で、可能な限り早期に、この問題に対応するシステムを確立したいと考えています。 あれやこれや、執行部としては来年3月の任期までに残された時間をにらみつつ、手探りで着地点を求めながら匍匐前進(?)を続けていますので、皆様のご協力をよろしくお願いいたします。 (11月12日記)
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平成22年度会 長 池 永 満(29期)
No454 その7
<新しい息吹き、天高く想い膨れ、語り合う我ら> 9月16日~10月14日
新しい息吹きを感じる季節 9月16日、新政権の誕生とともに、法テラス・スタッフ弁護士として養成する弁護士(旧62期)が私の事務所に着任しました。会務のためほとんど仕事をしていない私だけでは鍛えることができませんので、事務所の若手弁護士を指導担当弁護士として共同で事件処理をし、12月には新たに入所予定の三名の新人弁護士(新62期)をライバルとして切磋琢磨しながら、期間は1年と短いですが可能な限り色んな経験を積んでもらい、勇躍して過疎地に赴任できるよう支援したいと思います。 9月18日は福岡修習新62期生の合同送別会。2日目の日弁連理事会を午前中だけで早退して帰福し参加しました。みんな無事2回試験を終え、笑顔で福岡に帰ってきて下さいとエールを送る。昨年は1年間で70名を超える登録がありましたが、今年は何名が福岡県弁護士会に登録し、私たち法曹の仲間として新たな1歩を切り開くことになるのか。 10月2日、NPO法人九州アドボカシーセンター(理事長/馬奈木昭雄弁護士)の合格祝賀会が開催されました。アドボカシーセンターは地域で人権のために活動する弁護士をめざすロースクール生に生きた事件から学ぶための「人権セミナー」や「自主ゼミ」の機会を無償で提供するため、法科大学院発足とともにスタートしたNPO法人です。県下四大学のロースクール学生が研究生として登録していますが、新60期1名、新61期2名、新62期4名、そして今年9月に合格発表があった新63期は8名と、倍々ゲームで合格者を出しています。所属大学も違いますのでセンターとしては特段の受験指導等はしていませんが、人権セミナー等に参加することにより、どのような法律家をめざすのかという自分自身のモチベーションを形成し維持することが勉強への励みを生み出す力になっているのではないかと思われます。 弁護士会としては、こうした法曹をめざす新しい力を積極的に受入れて、彼らが地域社会の隅々で「社会生活上の医師」として活動していけるような仕組みを編み出し、多様な受け皿作りに努力する必要があるでしょう。 あれもこれものシルバーウイーク 9月の大型連休が、5月の「ゴールデンウイーク」とともに「シルバーウイーク」とよばれて、私を誘い出そうと微笑みかけていることに気付いたのは直前のことです。実は私の手帳では9月19日から27日までは早くも4月から斜線が引かれており一切の日程を入れず封印されていました。弁護士会としての「人権救済システム等の海外調査」を予定したものです。 しかし、そのもくろみが頓挫したため、突然ぽっかりと大型連休が私の眼前に開かれたのです。そのために雑然と、あれもこれも風に、しかし楽しい日々となりました。 最初の2日は2~3の原稿書きと墓参りをしたあと、前期執行部からの引継書をチェックして今期執行部として後半戦における取りこぼしがないように検討するための執行部合宿の準備。 真ん中の連休(2泊3日)は山登り。長男夫婦とそれぞれの両親、あわせて三組6名の一行で久しぶりに久住山に遊んだ後、私たち夫婦だけで熊本県菊池の八方ヶ岳へ。もっとも狙いは山よりも付近の温泉三昧でした。 そして最後の数日は、中華人民共和国成立60周年祝賀会(9月25日)、適格消費者団体設立総会(9月26日)、そして、会務のため面会の間隔が開きがちになっている成年被後見人やその家族のお見舞いの病院巡り(9月27日)、執行部合宿と台北福岡事務所との懇親会(9月28日)と、いささかバテ気味で締めたのです。 「核兵器廃絶」を後押しするノーベル平和賞 オバマ大統領にノーベル平和賞が授与されました。まだ実績があるわけではないけれど、「核爆弾を投下した唯一の国としての道義的責任」を明言した上で「核兵器のない世界」をめざすことを誓い、国連等においても行動を開始しているオバマ氏に対する大きなエールであり、オスロの授賞式への参加も良い意味で強いプレッシャーとなるでしょう。ノーベル賞の中で唯一スウエーデンではなくノルウエー国会が授賞主体になっている平和賞については、たまに首を傾げたくなるものもありましたが、今回は実にすばらしい政治判断をしたノルウエー・ノーベル委員会に拍手を送りたいところです。 その後、日本では東京落選決定を待っていたかのように、2020年に平和の祭典オリンピックを広島・長崎に招致する呼びかけが発せられ、「核兵器廃絶」にむけた想いも大きく膨らみつつあります。オバマ氏には近日中の広島・長崎訪問も期待したいところです。「自分の生きている時代には実現しないかもしれない」というような弱気を捨てて、速やかに「核兵器廃絶」を直接の議題とする国際交渉を始める力仕事の先頭に立つ決意を固めてもらうためにも。 和気あいあいに学び合う3会交流 大阪弁護士会、広島弁護士会、当会による定例の3会交流会が10月11日当会の会館ホールで開催されました。この組み合わせの3会交流は10年前後の歴史がありますが、個別の交流はそれより前から続いています。私は今から15年前、国武格先生(故人)が会長のときの副会長でしたが、当時急速に拡大しつつあった当番弁護士等の活動を支えるためにリーガルサービス基金を確立する必要があり、国武会長は破産管財人報酬からの負担金徴収の導入を決断され自ら多額の負担金を拠出されましたが、その方法は大阪弁護士会から学んだものでした。またマスコミ担当副会長であった私は、当時有料で宣伝していた当番弁護士の広告に代えて無料でかつより効果的な広報はないものかと考えていた時、広島弁護士会が当番弁護士名簿を断続的に地元新聞の記事として掲載させていることを知り、早速現物を取り寄せ福岡の司法記者クラブ加盟各紙に働きかけ、「今週の当番弁護士」欄を設けて広報してもらえるようになりました。このように、大阪会や広島会から多くのことを学んできた感謝の思いは、相手方においても共通であり、執行部が代わっても引き継がれています。今回も裁判員裁判の検証や市民窓口の運営、委員会活動活性化の方途等、全ての協議題で互いに学び合い、共鳴し合うことが多くあり、稚加榮で開催した懇親会、更に2次会まで和気あいあいの議論に花を咲かせました。 民主党議員との懇談会 既に参議院では2回可決されている取調べ過程の全面可視化法案。新政権で法務大臣に就任した弁護士の千葉景子さんは、最初の記者会見でも、日弁連への就任挨拶でも、第一に「捜査の可視化」を進めると明言しています。そうした情勢を受けて、日弁連は、臨時国会開会前に与野党を問わず全ての国会議員に対する緊急の要請活動を展開することとしました。 福岡県弁護士会も執行部が手分けして、全ての議員に要請活動を行うとともに(私は10月10日自民党の武田議員と山本議員を訪問しました)、民主党については日本弁護士政治連盟(弁政連)九州支部を通じて懇談会を申し入れることにし10月12日開催されました。懇談会には松本龍衆議院議員(民主党福岡県総支部連合代表)をはじめ県内選出の8名の議員本人と4名の議員代理(秘書)の方々に出席いただき、弁護士会からも県弁護士会、九弁連、弁政連九州支部の執行部からそれぞれ数名、合計14名が参加しました。予定の2時間びっしり使って、可視化法案の展望にとどまらず、法曹養成問題や司法改革の現状認識、新政権における政策決定のあり方など幅広く率直な意見交換をすることができました。 今回は初顔合わせで互いに集団山見せのようなものですので、今後具体的な課題毎に必要な協議の機会を設定することになりますが、松本議員も強調していましたが、国会での立法作業などを念頭に置けば政権党である民主党とだけの協議で事態が打開できるものでもありません。政治に対する働きかけは、先月号で予測したとおり、なかなかの力仕事になるように思われます。ということで、弁政連九州支部では今後自民党や公明党等との懇談会も検討されています。 (10月14日記)
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平成22年度会 長 池 永 満(29期)
No453 その6
<多事争論、そして実りの秋へ> 8月17日~9月15日
<裁判員裁判の公判始まる> 遂に裁判員裁判の公判が始まりました。第1号事件(9月9日~11日)第2号事件(15日~18日)にむけた検証体制を議論する中で市民モニターに加えて弁護士モニターも配置することを決定したことに伴い2席以上の傍聴席を確実に確保するために、裁判員本部のみならず福岡市内の会員弁護士と事務職員の皆さん、市民モニターに登録されている皆さんにも傍聴整理券確保のために協力をいただきました。おかげで連日の法廷の全てを、2名のモニターはもとより執行部や裁判員本部の弁護士等も傍聴でき、やはり模擬裁判とは異なる緊張感あふれた裁判員裁判の公判をリアルに体感することができました。感謝、感謝です。 とりわけ市民モニターの視点は裁判員裁判の検証を進めるにあたり有効性が高いということでマスコミをはじめ各方面から注目されており、他の弁護士会においても設置する動きが始まっています。
<動き出した地域司法計画> 7月号月報で報告しました「福岡地域司法計画(第2次案)」(2008年2月作成)の取り扱いについては、第2回委員長会議(7月29日)における意見交換を踏まえた上で、8月27日の常議員会において、弁護士数や相談センターの活動状況等に関する最新データを補充するとともに第2次案作成後に進展した制度改革や弁護士会の取組みを紹介する内容の「前文」を付した上で第2次案本文はそのままの形で確定し公表することが承認され、9月1日付で会員各位や関係機関等に送付されました。 常議員会は同時に「福岡地域司法計画推進室」の設置規則を制定しました。推進室(室長・牟田哲朗会員)の眼目は、第2次地域司法計画の内容について、関連委員会に対し担当分野の課題を計画的に推進するための「年次計画案(計画の補正や新規追加を含む)」の提出を求めるとともに、担当委員会がない分野(例えば弁護士過疎対策等)に関しては自ら年次計画を作成し、これらを集約して執行部に提案し、「福岡地域司法計画」の進行状況を検証しつつ着実に推進していくための活動を行うところにあります。 現在日弁連のもとで全国の単位会や地方弁連における第2次地域司法計画の集約作業が進められていますが、これを検証・推進する体制を確立したのは当会が全国で初めてのようです。 地域司法計画の推進に関連して既に具体的な取組みも始まっています。一つは相談センターの充実です。天神相談センターについては、相談時におけるプライバシーの保護やゆとりのある相談室や事務室、或いはADR室や待合室の配置等を実現するための移転拡充計画が準備されています。また北九州部会においては、従前会議室を都度借用して相談活動を行っていた豊前市において、通常日は毎日相談担当弁護士を配置する「豊前相談センター」を新設します。これらは各部会集会における議決を経て10月末の県弁臨時総会に必要な補正予算案が提出される予定です。 また地域司法計画を推進する上では、民事法律扶助のアクセスポイントの拡大(契約弁護士事務所における直接受任を推進するための広報活動)をはじめ弁護士会と法テラスとの連携強化も重要な課題になっています。とりわけ法テラス・スタッフ弁護士との関係では、従前の国選対応に関する補完協力に止まらず、弁護士会が推進している生存権支援活動、或いは労働、社会福祉分野等における多面的な人権救済活動において連携した活動を強化する必要があります。 この点で、法テラスの今年度におけるスタッフ配置計画案(福岡事務所にプラス1名、北九州事務所にプラス2名)を検討するため全員協議会を開催しました(8月26日)。北九州では既に部会集会で承認されていましたが、福岡においては従前全員協議会で協議して回答していたため、これを踏襲したものですが、スタッフ増員についての反対意見はなく、今後はいちいち全員協議会を開催することなく、基本的には県弁執行部と法テラスとの間の協議により対応すべきであるとの意見が大勢でした。 執行部としては前述したように法テラスとの総合的な連携強化という観点に立って、既に飯塚部会の要請として法テラスに提出されている平成22年度における筑豊地区(特に田川)へのスタッフ弁護士の配置等について協議を始めています。
<大連市律師協会との安定した友好交流へ> 大連市律師協会との交流のため9月1日から4日まで中華人民共和国の大連市を訪問しました。当会と大連市律師協会との交流は10数年の歴史がありますが、釜山地方弁護士会とのように正式な姉妹提携がなされていないため、その時々の執行部の判断で断続的なものになっており、今回は3年ぶりの訪問でした。 実は以前、大連市律師協会から両会の交流を促進するために『合作交流意向協議書』の締結が提案されたことがあります。それは、両会の相互交流に加えて、双方が1年程度滞在する数名の留学生を受入れ、その滞在費を受入側が負担するというような重厚な内容を含むものでした。当会としては、そのような財政負担力もありませんでしたし、緩やかではあっても息の長い友好交流関係を樹立することが適切であると判断して、当時、既に姉妹提携を結んでいた釜山方式を提案しました。これに対して「貴会が提案された意見は、両会の交流を進めるために有益であり、ふさわしいものだと当会も考えます。貴会と釜山弁護士会が署名した『交流に関する合意書』のモデルを参考にして当会と貴会の提携合意書に署名することに同意します。具体的な事柄については、当会が派遣する代表団が訪日した際に改めて協議させていただきたいと思います」との返事が寄せられました。1999年4月29日付のものです。 つまり当会が提案した釜山方式による姉妹提携につき相手方も同意され、大連側の訪日団との間で協定調印の実務作業に入ることが予定されていました。ところがその後に行われた大連市律師協会の役員人事異動のために代表団の訪日が延期され、双方の執行部も交替する中で、協定書調印にむけた実務作業が進められないまま今日に至ったというわけです。 今回、大連市律師協会との協議会において、「日本における外国研修生の法的位置」や「日本企業が中国に投資するに際しての中国法上の留意事項」などあらかじめ設定されていたテーマに関する意見交換を終えた後、今後の交流の進め方に関する協議が行われました。その際、当方からは前述の経過を確認的に紹介したうえで、これからの10年にむけて、より安定した交流関係を促進するために、10年前に両会で合意されている協定書の調印にむけた実務作業を進めることについて双方で検討してはどうかと提案しました。もちろん私としては相手方のお国柄を考え、「ご返事は、今日ではなく後日連絡いただければ結構です」と付加えることを忘れませんでした。 これに対して大連市律師協会の張燿東会長は即座に応えました。「当方の事情で調印作業が進まなかったことをお詫びする。私としては今直ぐにでも調印したい気持ちである。9月末に開催する役員会で検討するので協定書のモデル案を送って欲しい」。その日の夜、当方が主催したお礼の宴席で、張会長は更に「私は戦時中でも日記を習慣にするような方がいる几帳面な日本民族を尊敬しています」「できれば来年の2月頃にでも福岡を訪問して協定書の調印をしたい」と申し出られました。 幼少時を大連で過ごされたことのある清原雅彦先生(今回の視察団長)は、大連側の迅速かつ心温まる対応に大きく感動され、何度も杯をかわしながら得意のハーモニカを披露されました。この10数年、一貫して大連側とのパイプ役をされてこられた大塚芳典先生も感慨無量の様でした。 今回の訪問に出かける前の執行部会議では、今後の交流の進め方について議題になる場合には前述のような提案を行うことについての話はしていたものの、相手方から即答されることを想定していなかった私は、帰国の道すがら伊達健太郎国際委員長や服部弘昭北九州部会長始め視察団の面々と対応方針を協議し、帰国直後の執行部会議(7日)と常議員会(9日)において経過を説明して、とりあえず9月末の大連会の役員会に間に合うよう協定書のモデル案として釜山との合意書の中文訳を送付することについて了承をいただいたのです。突然の上程であり手続上問題があることは承知しつつ、対外関係を重視して了承をいただいた常議員会の皆さんに感謝、感謝です。 この月報が発行される10月中には大連側からの回答があり、両会の安定した友好交流にむけて新しい局面が展開していくかもしれません。
<日弁連60周年に「日本の立ち位置」を考える> 日弁連60周年記念式典が東京で開催されました。偶然ではありますが、この日は「9・11」の8周年記念日でした。「日弁連は、こんな日に記念式典をやるなんてすごいですね」と言いながら記念講演をされた寺島実朗さん(財団法人日本総合研究所会長)のテーマは「世界の構造転換と日本の立ち位置」。豊富なデータを示しながらの講演で、極めて示唆に富むものでした。 まず驚いたのは、9・11以来、アメリカが引き起こしたイラク戦争等による米軍戦死者は丁度8年後の本年9月10日までに5、161名(アフガンでの死者822名を含む)に達し、累積戦費の額は実に7,119億ドル(現在でも月60億ドル以上の消耗)。昨年来のアメリカ経済崩壊の原因には良く語られるサブプライム問題のみではなく「巨大な浪費として経済の根幹を消耗させているイラク戦争」があるということです。 日本の貿易構造も大きな変化を。米国との貿易総額の比重は27.4%(90年)、18.6%(04年)、17.5%(06年)、16.1%(07年)、13.9%(08年)、13.6%(09年上半期)と年々逓減。これに対して、対中貿易比重は3.5%(90年)から20.5%(09年上半期)へと大きな伸びを示しており、今やアメリカを抜いています。その背景には、もちろん中国自身の経済成長があります。中国のGDP世界ランキングは1990年10位から2007年3位、2010年には日本を抜いて2位になる見込み。「陸の中国」(中国本土)に「海の中国」(香港・台湾・シンガポール)を加えた「大中華圏」では、2008年GDP(5.1兆ドル)で日本(4.9兆ドル)を凌駕しているそうです。 そうした中で国際的物流にも大きな変化が。2008年世界港湾ランキング(コンテナ取扱量)は、1位シンガポール、2位上海、3位香港、4位深_、5位釜山と並んでおり、福岡とも関係の深い釜山のハブ化が注目されています。私は知りませんでしたが、最近のアメリカから中国へのコンテナの大半は、九州の南方からではなく津軽海峡を通過して日本海を経由し釜山や中国の港湾に入っているそうです。そのため、日本では太平洋側港湾が空洞化し、日本海側が港湾への物流シフトが始まっており、「日本海物流時代」とも言うべき変化が起こっているとのこと。 こうした「構造転換」を前にして、寺島氏は最後に、「太平洋の先のアメリカを通してしか世界を考えられない風潮を改める必要がある」「戦後60数年が経過してもなお外国の軍事基地があることは普通ではない」「偏狭なナショナリズムではなく普通の状態の国家にするための努力をしなければ、日本は世界の人々から尊敬されない」(ドイツではベルリンの壁が崩壊後、米軍基地の撤去に関する話し合いが進められたそうです)と結びました。
<新政権の発足と弁護士会> 明日(9月16日)、日本に新しい政権が誕生します。私たちも、ようやく選挙で与党政権を退陣させるという貴重な政治体験をしました。連立政権合意文書には、「生活保護母子加算の復活」や「労働者派遣法の抜本改正」など当会の総会や常議員会で採択された会長声明等の内容が取り入れられているにとどまらず、最終節の「憲法」は「唯一の被爆国として、日本国憲法の『平和主義』をはじめ『国民主権』『基本的人権の尊重』の三原則の遵守を確認するとともに、憲法の保障する諸権利の実現を第一とし、国民の生活再建に全力を挙げる」と結ばれています。 弁護士会としても、司法制度の改善や基本的人権を擁護し社会正義を実現するという責務に照らして一層活発に社会的提言を行うとともに、それらをストレートに実現させるための政治への働きかけを行うことにやりがいを感じる時代が到来したのかも知れません。もちろん相当な力仕事であることは覚悟の上で。 (9月15日記)
2009年12月11日
意見
福岡拘置所小倉拘置支所現地建替えを求める要望書
2009年(平成21年)12月10日
内閣総理大臣 鳩山由紀夫 殿
法務大臣 千葉景子 殿
法務省矯正局長 尾﨑道明 殿
福岡県弁護士会
会 長 池 永 満
福岡県弁護士会北九州部会
部会長 服 部 弘 昭
福岡拘置所小倉拘置支所現地建替えを求める要望書
第1 要望の趣旨
福岡拘置所小倉拘置支所(以下,「小倉拘置支所」という。)を現地にて建替えすべく,早急に予算措置を講じることを要望します。
第2 要望の理由
1 福岡拘置所小倉支所は1960年(昭和35年)に築造された建物で,既に築後50年近く経過して老朽化が著しく,建物の各所に塀の倒壊や外壁の落下の危険がある状況です。
また,耐震基準を満たしているのか否か懸念されるところでもあります。
そのため収容者や拘置所職員,および面会に来る市民の生命・身体の安全を守るためには,この建替えは緊急の課題です。
2 また平成21年6月に,北九州矯正センター構想(以下,「矯正センター構想」という。)に基づく小倉拘置支所の移転が中止となったことを受け,小倉拘置支所の現地での建替えの必要性は,益々高まっております。
さらに,平成21年5月より始まった裁判員裁判においては,短期間の集中審理方式による迅速な刑事裁判が求められ,これまで以上に弁護人が被疑者・被告人と頻繁に接見を重ね,充分な打合せをする必要があり,裁判所の隣の現地にて建替えることは,被告人の防御権保障の観点からも,非常に重要であります。
3 当会は,かねてより矯正センター構想に反対し,小倉拘置支所を現地にて立替えるよう2008年(平成20年)7月にも要望書を提出していますが,矯正センター構想に基づく小倉拘置支所の移転が中止になった今,再度,小倉拘置支所の現地建替えと,建替えのための早期の具体的な予算措置をとられることを要望申し上げる次第です。
4 なお,貴省は福岡県内において,既に福岡拘置所久留米拘置支所を,検察庁との合同庁舎として現地建替えを完了しておられますが,小倉拘置支所においても,同様な方法で現地建替えを実現することは充分可能であると思料します。
そして,「えん罪の温床」等と,海外からの批判も強い代用監獄を廃止する必要性は,益々高まっておりますが,代用監獄を廃止しても,被拘禁者を収容するに十分な規模の拘置所を現地にて建替えることを希望します。
5 以上,当会としては改めて福岡拘置所小倉支所を早急に現地で建替えするよう,早急に予算措置を講じることを要望する次第です。
2009年10月29日
会長日記
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福岡県弁護士会会長日記 その5 <スポーツと色んな交流、そしてお盆> 7月14日~8月16日
平成21年度 会 長 池 永 満(29期)
可愛い優勝杯をこの手に 8月の月報で浅野秀樹会員が意気高く報告済のことですが、7月14日に開催された三庁対抗ボーリング大会では3度目の正直で当会チームが初の優勝杯を手にすることができました。練習ボールで2度もストライクをきめて出鼻をくじこうとする安倍高裁長官の戦術とプレッシャーに押しつぶされそうになりながら、多少の年の差に光明を見いだしての持久戦の結果、なんとか鼻の差での逆転を果たすという私闘(?)の後で飲み干したビールの味は格別で、その後に授与された団体優勝を飾る可愛い優勝杯(アルミ製?)もそれなりに重く感じられたから不思議なものです。 画期的優勝をもたらした当会の参加者の御奮闘に感謝! 今大会を準備いただいた検察庁の皆さんと、来年こそは(御自身はいないが)必ず雪辱を果たすと宣言された浜崎家裁所長の無権代理的宣誓が肩の荷に重くのしかかっているでしょう裁判所の皆さん、ご苦労様でした。 全国的課題になっている新人弁護士研修制度の新たな構築 7月31日、恒例の九弁連夏季司法合宿が福岡市で開催されましたが、テーマは、新人弁護士研修のあり方と裁判員裁判の検証でした。新人弁護士研修のテーマでは高裁の森野裁判官が講師として裁判官から見た弁護士像について忌憚のないご意見を披露されました。続いて私が新人研修制度の構築を県弁護士会として検討している問題意識と背景、10名前後の単位で部会毎に展開する新人研修システムのイメージ、既に指導担当弁護士制度を含む新人研修制度を発足させている京都弁護士会の会則等について紹介しました。 8月9日、札幌で開かれた三会(第二東京弁護士会、札幌弁護士会、当会)交流会でも、同様のテーマが取り上げられました。 とりわけ、この三年、毎年3~400名が登録したため、現在の会員数約3,600名の3分の1が3年以内の登録者となったという二弁における苦労は大変なものです。二弁では既に「新人サポートセンター」を設立して登録3年未満の会員を対象に事件処理や業務上の悩みをサポートするためのメーリングリストを運営していますが(現在の登録数は約210名程度)、これに加えてサポートメンバーにのみ公開される「個別相談用メールアドレス」も設定して、約10名の50期台のサポート弁護士グループによる個別相談も実施するとのことです。新規登録後直ちに若しくは短期間で独立開業する弁護士に対し「OJTにより基本的かつ最低限必要な弁護士業務の処理の仕方及び弁護士倫理のあり方等を習得させる方法」についての具体的な提言を各委員会に意見照会し、10月中に集約して新制度をたちあげることも予定しています。 その理由として、従来であれば経験を積んだ経営者弁護士又は先輩弁護士等から実務上必要な最低限度の知識やルールまた弁護士倫理を習得してきたが、近時これが困難になっており、これらを習得する機会のないままに弁護士業務に従事するものが増加する場合には、「依頼者とのつきあい方、事情聴取・情報収集の方法、事実関係の整理・分析の仕方、問題点の所在の見極め方、問題解決の手法、弁護士報酬の決定方法等につき、未熟さから間違った判断を行ってしまう者が出てしまうことが危惧され、依頼者へ迷惑をかけ新規登録弁護士本人が窮地に立たされるだけでなく、ひいては弁護士全体に対する社会からの信頼も保持できなくなる恐れもなしとしない」と述べられています。 昨年1年間で50名を超える新人が登録して500名を超える会員数になったという札幌弁護士会では、司法修習生就職問題対応プロジェクトチームの基本方針の中に「即時又は早期独立弁護士に対し、弁護士としての最低限の力量を身につけるための、法曹倫理を含めた研修、業務スキルの指導及び人的スタッフ・物的設備の提供等々についてのあり方を検討する」ことが位置づけられています。具体的な研修内容としては、従前のオリエンテーション的な新規登録弁護士研修の後で、一定の実務経験を経た者に対するフォローアップ研修を制度化しています。フォローアップ研修としては法律相談と刑事弁護があり、講師用のマニュアルも作成されており、その内容は極めて実践的で興味深いものです。 当会においては、研修委員会の中に設置された新人研修問題PT(座長・石渡一史会員)において、あるべき新人研修の内容やシステムについて火急の検討作業をしていただいており、9月には答申を得て全会的な議論を進め、可能であれば新62期登録者から実施していきたいと考えています。 解散~交流~納涼船~政治連盟~お盆 ボーリング優勝で始まったこの一か月は台風の前の静けさとも言うべき社会的・政治的状況の中で、弁護士会的には多様な行事が目白押しでした。7月21日、ようやく衆議院が解散された翌22日は台北駐福岡経済文化弁事所との交流会、29日は新62期司法修習生との交流会、30日は恒例の納涼船(私は、小学生の頃に同道したことがある娘と、その二人の子ども、つまり孫達を連れて久しぶりに楽しみました。茶話会の皆さんに感謝!)、31日は前述の九弁連合宿、8月1日は人権大会消費者問題プレシンポ(約150名の参加で大成功、消費者委員会等関係者の皆様ご苦労様でした!)、5日は福岡のマスコミ報道責任者卓話会、9~10日は前述の三会交流会、10日夜は司法記者との月例交流会、そして11日と12日は、日本弁護士政治連盟が推薦している衆議院選挙立候補予定者のうちアポイントが取れた5名の事務所回りをしました。(私は「弁政連九州支部理事」を拝命しております。) 弁護士会としては、総選挙の公示を目前に控えたこの機会を生かして、司法制度や市民の基本的人権と社会生活に関連して4月以降に出した総会の決議や宣言、会長声明等を整理して全政党とその候補者に対して政策化と実現方を要請する文書を作成し郵送を含めて配布することにしました。 そこで5月定期総会の宣言・決議と4月から8月6日の常議員会までに採択された会長声明で対外的にアピールすることに意味のあるものを並べてみたらなんと9本にもなっていました。 1、司法制度に関連するもの ・ 司法修習生の修習資金貸与制実施の延期に関する決議 ・ (裁判員制度開始・被疑者国選対象事件拡充に際しての)会長声明 ・ 死刑執行に関する会長声明 2、国民の基本的人権や社会生活に関係するもの ・ すべての人が尊厳をもって生きる権利の実現をめざす宣言 ・ 海賊対処法に反対する会長声明 ・ 消費者庁関連法成立に関する会長声明 ・ 生活保護「母子加算」制度の復活を求める会長声明 ・ 法令なしに警察の監視カメラを設置することに反対する声明 ・ 消費者庁長官及び消費者委員会委員人事に関する会長声明 会長声明等の多さは、委員会活動を基礎として弁護士会の活動が社会の各分野に広がっていることの反映でもありますが、それだけに弁護士会が行う社会的発言に伴う責任もまた重大さを増していることについて自覚せざるを得ません。そんなことを考えつつ、帰省してきた孫達とともに充実した(つまり休みのない)お盆をすごしたのでした。(8月16日記)
2009年09月25日
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その4 <凛として鎮座する「天賦人権」> 6月12日〜7月13日
平成21年度 会 長 池 永 満(29期)
友、遠方より来たり
6月12日、九州大学で開催された家族法学会に参加した機会にということで、韓国の李点任弁護士が私の事務所に立ち寄りました。李さんと知りあったのは今から15年前に遡ります。
私が副会長だった1994年度の定期交流として福岡を訪問していた釜山地方弁護士会一同の歓迎会が稚加榮で開催されました。そのとき私と妻が対席に座って言葉を交わしたのが若き李弁護士と奥さんでした。以来、定期交流の機会を利用して相互に自宅を訪問するなど、家族ぐるみの交流と文通が始まったのです。その仲を取り持ってくれているのが弁護士会の定期交流における専任通訳とも言うべき本村さんで、今回の李さんの来訪も本村さんを通じて連絡をいただきました。
その後の経過は本年度の釜山地方弁護士会との定期交流のところで述べることにいたします。
熱烈歓迎の中で市民モニター制度が発足
ところで5月21日に裁判員制度がスタートして今日までに1ヶ月半が経過し、既に福岡本庁では10件の裁判員裁判対象事件が起訴されていますが、何故か小倉支部には1件も起訴されていません。福岡本庁では7月中旬以降次々に公判前整理手続の期日が入っていますので、9月上旬頃には第1号事件の公判審理が開催されることになりそうです。
当会としては、そうした日程をにらみながら、裁判所や検察庁との協議も含め、裁判員裁判の検証を如何に進めるかという検討と準備作業を5月に新しく発足させた「裁判員本部」を中心に進めてきました。
一言で裁判員裁判を「検証する」と言っても、そう簡単ではありません。そもそも法曹三者のすべてにとって未知の制度であるために想定外の事態が発生することも不可避であり、問題が発生する都度、現場での運用改善努力が求められることは言うまでもありません。しかし全て出たとこ勝負というわけにもいきません。事件を担当した弁護人から得られる情報とつきあわせることにより、裁判員裁判における弁護人の活動改善にも役立ち、かつ、新しい制度の問題状況を把握しつつ運用改善や制度改革を促進する契機になるような検証の方策はないのだろうか? そうした熱い議論の中で「市民モニター制度」が考案されました。
市民が参加する裁判員裁判の審理では、いわゆる「調書裁判」を排して公判中心の直接証拠主義に基づく運営がなされる必要があることには異論がないところでしょう。検察側の主張が公判廷に提出された直接証拠等により合理的な疑いを残さない程度に立証されているか否かが裁判員に判断できなければなりません。とすれば傍聴席に座った市民により裁判員裁判の審理の実情をモニターしてもらい、現実の検察の主張立証や弁護人の主張反証が市民に理解できるものになっているか否か等をつぶさにチェックしてもらう意義は決して小さくありません。
この構想は西日本新聞により1面トップで報道され(5月20日)、6月15日には説明会開催の記者レクが行われました。その翌日から市民の問い合わせが殺到し、6月29日の説明会には140名を超える市民が詰めかけました。説明会の様子は、<「第7の裁判員」制度点検/福岡で全国初「市民モニター」/弁護士会公募 120人登録/立証や量刑 傍聴し意見>という大見出しが躍る7段記事でも紹介されました。(日経新聞7月4日夕刊)
長期にわたり裁判員裁判を巡る国民的な議論が継続してきたなかで、裁判員候補者に選ばれなかった人を含め、自分の目で裁判の実情を見つめてみたいという多くの市民から熱烈に歓迎されて市民モニター制度が発足することは、弁護士会における検証作業に一つの基軸を据えることになったと思います。
熱烈歓迎をいただいた釜山地方弁護士会の皆さんありがとう
1990年3月に当会と釜山地方弁護士会との姉妹提携協定がなされて以来、今日まで20年に及ぶ国際交流が継続しています。今年度執行部においては、これからの20年を見据え成熟した交流方式に発展させるために事前に釜山側との協議を行いました。その結果、釜山会の役員任期は2年なので不都合はないけれども当会の役員が1年任期であることが考慮されて毎年の相互訪問をしてきた方式を改め、今後は隔年の相互訪問として企画の充実化を図ること、但し韓国の習慣により20周年となる来年については双方で記念行事を行うこと等、新しい交流方式について合意しました。
新たな方式の第1回目となる今年度の定期交流として7月10〜12日の3日間19名の訪問団で釜山を訪ねましたが、釜山地方弁護士会の慎鏞道会長、金泰佑国際委員長を始め釜山会の皆さんからいただいた心のこもった熱烈歓迎にはただただ感動するだけでした。こうした歓迎をいただく背景には、これも姉妹提携以来20年という長期にわたる国際交流を継続するなかで、大塚先生や安武先生を始めとする当会国際委員会の諸先生方が中心となり地道な努力を続けてこられ、釜山会との間で人間的にも厚い信頼関係が構築されてきた賜物であり、この場を借りて感謝の意を表したいと思います。
定期交流の模様は別途報告がありますので、私は李さんとの再会について書いておきます。李弁護士は、私がエセックスに遊学したのと入れ替わりにアメリカに留学され、帰国後は釜山にある東亜大学で民事法の教授に就任していますが、兼業禁止のため弁護士は休業しており、釜山地方弁護士会との交流会にも出られないとのことでした。そこで、自由行動日の7月11日、私たち夫婦がそろって本村さんとともに李弁護士の新居(2〜3年前に豪華マンションに移転)を訪問することにし、奥さんや外交官をめざすという娘さんにも10数年ぶりに再会し旧交を温めることができました。これもまた感謝です。
大韓民国「国家人権委員会」の活動に触れて
ところで、5月の定期総会が採択した『福岡県弁護士会における人権救済機能の抜本的拡充に向けた決議』にもとづく調査活動の一環として、釜山地方弁護士会のお世話により、韓国の「国家人権委員会/釜山地域人権事務所」を訪問することができました。訪問日の7月12日は日曜日であったにもかかわらず、李所長を含む3名の所員が予定の時間を超えて対応してくれました。プレゼンテーションに使われた日本語のパワーポイントとそこに盛り込まれたデータも、私たちのために独自に準備されたものでした。
その内容も極めて興味深いことばかりでした。国家人権委員会についてはホームページ(www.humanrights.go.kr)で組織と活動の概要を知ることもできますし、釜山地域人権事務所への訪問記録の詳細は、別途当会国際委員会から調査報告として出されると思いますので、ここでは簡単に触れておきます。
国家人権委員会は、国連総会が1993年に確認した「パリ原則」に基づいて、いわゆる政府から独立した人権機構として2001年法律により制定されたもので、独立機構(立法・行政・司法のどこにも属しない)、人権に関する総合的機構(人権の保護・向上に関するすべての分野を担当する)、準司法機構(人権侵害・差別行為に対する調査および救済)、準国際機構(国内における国際人権規範の実行)という4つの性格を有しています。
委員会は、大統領推薦4名、大法院長推薦4名(全員弁護士)、立法院(与野党)推薦3名の計11名から構成されており、そのもとに常任委員会、侵害救済委員会や差別是正委員会等の委員会と事務所が設けられ、事務所には政策教育局や調査局等があり、総員164名で構成されています(昨年までは210名いたが新政権の構造改革のために減員させられたそうです)。
国家人権委員会の活動概況は、2001年11月26日から2009年6月30日までの7年7ヶ月分で、陳情、相談、案内、民願を含む総計で246,552件(1年平均約32,000件)の多数に及んでおり、そのうち調査を行った案件(陳情)は15.5%の38,306件です。調査案件は90日で結論を出すことが原則であり、その内訳は、「人権侵害」の訴えが30,275件(79%)、「差別」の訴えが6,229件(16%)、その他が1,798件(4.7%)となっています。
人権侵害の訴えの対象は、拘禁施設42.8%、警察・検察26.8%、多数人保護施設7.7%、地方自治体4.9%であり、刑事拘禁施設や捜査機関で約7割を占めています。これに対して「差別」の訴えについては、株式会社17.8%、教育機関13.5%、地方自治体12.4%、公共機関7.1%の順であり、民間における差別事象(セクハラを含む)が上位を占めており、陳情の中でも差別の訴えが増加傾向にあるとのことです。
調査事件中、人権委員会が勧告を行うに至った事件の割合は7〜9%ですが、勧告の前に事実上解決する事案もあり、また勧告したケースの95%は相手方から受入れられているとのことです。人権委員会の勧告には強制力はありませんし、調査においても強制調査はできませんが、陳情等がなくても拘禁施設等にも自由に立ち入って調査を行ったり、関係者を事務所に呼び出して調査する権限があり(地域事務所内にも取調室がありました)、調査に応じなかった者には過料の制裁があります。
李所長は、政権との関係での困難な局面に関する私の質問に対して明快に答えました。「国家人権委員会が三権に属さず、国家権力による人権侵害を監視・是正させる役割を持っていることからしても、政権との緊張関係は必然であり、仲良く済ませるわけにはいかないこと。人員の削減がなされても、自分たちは同じ課題を同じ方法で活動することができていること。政権との緊張関係が報道されることにより、逆に国民の国家人権委員会に対する理解が深まっているという側面もあり、人権委員会に対する相談や陳情の内容も多様な人権分野に広がりつつある」と。
ミーティングが終わった後、広い事務所の中を案内してもらいましたが、人権を啓発するユニークなポスターが多数展示されているなかで、部屋中央の壁沿いに、ひときわ大きな額縁の中で「天賦人権」の文字が凛として鎮座しているのが目にとまりました。
会長日記
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その3 <峠越えから稜線歩きへ> 5月10日〜6月11日
平成21年度 会 長 池 永 満(29期)
はじめに
5月13日常議員会で定期総会議案が承認され、5月21日裁判員裁判と被疑者国選拡大のスタートと25日定期総会における宣言・決議を含む全議案の採択と役員就任披露宴の開催という、本年度執行部にとって最初の峠をなんとか無事に通過しました。
お力添えをいただいた全ての会員の皆様に深く感謝いたします!
全会一致の会長声明
この数年、当会はもとより日弁連を始めとする全国の弁護士会執行部と裁判員実施本部や被疑者国選対応本部、刑事弁護等委員会など関連委員会と多くの会員が、「裁判革命?その歴史的大改革を乗り切るために〜」(『月刊大阪弁護士会』の表紙見出し)という意気込みで「その日のために」準備がすすめられてきました。
巡り合わせとはいえ、そうした作業に何の寄与もしてこなかった私が、歴史的な刑事司法改革が全面実施される日に弁護士会の代表者として立ち会うことになりました。
裁判員制度については、消極的賛成論から粉砕論まで含め、会の内外で多様な意見が闘わされてきたことは百も承知ですが、弁護士会としては、法制度として実施される以上は、多くの会員が全力でこれに取り組むことを支援しながら、裁判員裁判における審理の長所を発展させるとともに、問題点の改善や制度改革を求めていく以外にありません。
できれば様々な意見の相違を乗り越えて共通認識をつくり、弁護士会として主体的なスタートを切りたい。そんな希望を胸に秘め、4月当初から数度の関連委員会での検討をお願いした後、2回の常議員会における激しい議論をへて会長声明案が練り上げられ(と言うより切りきざまれというべきか)、遂に出席常議員全員一致の賛成により採択された会長声明を、5月21日の裁判所長・検事正・弁護士会長の三者による共同記者会見において発表することができました。今期執行部としても第1号となる会長声明において弁護士会としての裁判員裁判に臨む統一した姿勢を明確にアピールすることが出来たことは本当にうれしいことでした。
なお2番目の会長声明は、消費者庁関連法の成立を歓迎するもので、こちらの方は日弁連としても20年来の悲願を実現したものであるために、6月4日の常議員会で何らの異論もなく満場一致採択されました。
動き出した2つの重点課題
今年度の重点課題に関連して、5月25日の定期総会において『すべての人が尊厳をもって生きる権利の実現を目指す宣言』が採択され、弁護士会における推進部隊として「生存権の擁護と支援のための緊急対策本部」が立ち上がり活動を開始しました。これは、日弁連定期総会(5月29日)が採択した『人間らしい労働と生活を保障するセーフティネットの構築をめざす宣言』と連動するもので、野田部副会長は、役員就任披露パーティでプレゼンテーションを行ったのにひきつづき日弁連定期総会でも当会の取り組みを紹介しつつ積極的に宣言案に賛成する発言をされました。
また総会は『福岡県弁護士会における人権救済機能の抜本的拡充に向けた決議』を採択しました。これを受けて人権擁護委員会は、未処理案件に対する特別調査体制を確立するとともに、国際委員会の協力も得て、多様な分野における人権侵害申立に的確に対応しうる機能を持った「人権救済センター」(仮称)の創設を視野に入れた調査検討作業に着手しています。
日弁連は今秋の人権大会で採択予定の『新しい人権のための行動宣言2009』のとりまとめ作業に入っていますが、当会の動きは「行動宣言」を担うにふさわしい実践的なシステムを創造していく上でも貢献になると思います。
前執行部からの宿題にも着手します
前執行部からの引き継ぎ事項の中に「福岡地域司法計画(第2次)」の取り扱いがあります。当会は2002年11月に第1次計画を公表していますが、第2次計画案は2008年2月に提出されたもので(当会ホームページの会員ページにアップされていますので、是非ダウンロードしてお読みください)、第1次計画から5年間の取り組みを総括するとともに、司法改革の現状と課題を点検しつつ、これからの取り組み方を提起したものです。
「地域司法計画」は言うまでもなく、地域の隅々まで公正かつ透明な法的ルールに基づく紛争解決の仕組みを整備していくうえでの、当会としての社会に対する提案であり、かつ、その一端を担おうとする弁護士・弁護士会としての決意の表明でもあります。
しかしプランを提示するだけでは画餅に終わりますし、かえって弁護士会の社会的評価を損ねる結果にもなりかねません。第2次案自体も「第1次の反省にたち、計画倒れに終わらせることのないよう、これから毎年の当会の活動における羅針盤にしながら、より具体的な年次計画を立て、実行に移すものと位置づけられなければならない」「(そのためには)執行部直属の恒常的な組織を設け、計画の進捗状況を確認し、当会内外の意見を集めてこれを整理し、新たな実行課題を発信し続けていく必要がある」と記しています。
第2次案が示している課題は全面的であり、すべてに着手するのは今期執行部の力に余りますが、その中には既に今年度の重点課題として取り組んでいる事項も少なくありません。
また、今期の執行部は発足直後から、県下20カ所に展開している法律相談所の拡充強化策の検討を進めていますし、さらに被疑者国選対応体制の整備に止まらず民事法律扶助のアクセスポイントの拡充や生存権支援活動における共同など、新たな視点からの日本司法センター(法テラス)との連携強化やスタッフ弁護士の位置づけの見直し等に関して、法テラス福岡事務所との協議を継続していますが、これらの問題も地域司法計画の重要な柱を構成しています。
こうした問題への取り組みを強化することを含めて、この機会に1年以上前に提起されている第2次計画案をたなざらしにすることなく推進していく体制づくりに関して、執行部としての提案を行い、会内における検討を開始したいと思います。
力まずに中盤戦に入ります
5月25日の定期総会を終えた週末の5月30日、31日の両日、NPO法人患者の権利オンブズマンの10周年記念事業<ボランティア全国交流集会、国際シンポ、記念レセプション等>が開催されました。患者の権利オンブズマン理事長として自らが主導的に企画し、1年半くらい前から取り組みを始め、海外から三名のゲストを招くという超ビックな企画に、まるでお客さんのような気分で臨むことになるとは夢にも思いませんでした。
大成功のうちに終わったことについても、うれしいというよりも複雑な気持ちなのです。これだけは自分がいなければと考えてきていたのに、いなければいないで、ちゃんと他のボランティアの方達が力を出してくれるということです。弁護士会だって同じことかも知れません。
いずれにしても総会を終えて、ほっと一息つき気分的にゆとりがでてきた感じです。会館での毎日の文書決済も苦になりません。単に慣れてきただけなのかも知れませんが。また、執行部の面々はもとよりですが、着々と作業を進めておられる職員の横顔や会館に出入りする弁護士の活動ぶりを身近にすると、今更ながら頼もしい限りです。6月に入ってから事務所でも時々事件の打合せに同席して、お客さんと言葉を交わす時間的余裕がでてきました。平常心で中盤戦に歩を進めたいと思うこのごろです。
2009年09月09日
意見
労働者派遣法の抜本改正を求める意見書
労働者派遣法の抜本改正を求める意見書
2009年9月9日
福岡県弁護士会
会長 池永 満
厚生労働省の本年8月28日付「非正規労働者の雇止め等の状況について」によれば,昨年10月から本年9月までの間に,全国で23万2448名の非正規労働者に対して雇止め等が実施され,または実施される予定であり,うち,派遣労働者は14万0086名(60.3%)に上っている。しかも,派遣労働者の場合,うち約44%の6万1435名が契約期間満了による雇止め等ではなく,派遣契約の中途解除に基づく解雇である。さらに,派遣労働者の場合,判明しただけでも1983名が雇止め等と同時に住居を喪失している。ちなみに,わが福岡県の場合,上記期間中に雇止め等された労働者は4082名,うち派遣労働者は,2460名(60.3%)である。以上のとおり,昨年から今年にかけて,派遣労働者が大量に失職しており,しかも,その一部は職を失うと同時に住居まで失うという状況にある。
上記の事態の直接的要因は,昨秋からの世界同時不況によって,多くの派遣労働者等が雇用調整のために,契約を中途解約されるなどしたことであるが,より根本的な原因は,労働者派遣法が実効的な労働者保護規定を欠いていることである。そのため,派遣労働者を安価な雇用の調整弁として位置づけることが可能とされ,常用雇用の代替が促進されている。加えて,期間制限の潜脱や,二重派遣など,違法派遣が横行している。さらに,正社員と同様の仕事に従事しながら,派遣労働者に対しては差別的低賃金が押しつけられるなどの事態は,年収200万円以下のワーキングプアを大量に生み出す原因ともなっている。かかる事態はすでに,日本国憲法が保障する生存権を侵害していると言うべきであり,到底看過できない。
そこで,当会は,労働者保護の見地から労働者派遣法を改正すべきことについて意見を述べる。
第1 意見の趣旨
国会は,労働者保護の観点に立って,労働者派遣法を抜本改正すべきである。とりわけ,以下に掲げる点については,緊急に改正すべきである。
① 法律の目的に派遣労働者保護を明記すること。
② 派遣対象業種を専門的なものに限定すべきこと(なお,専門性の判断について,現行26業種を全面的に見直し,さらに限定すべきである。)。
③ 派遣利用要件として,臨時的・一時的事由を加えるべきこと。
④ 登録型派遣は禁止すべきこと。
⑤ 日雇い形態の派遣は全面禁止すべきこと。
⑥ 賃金・福利厚生に関して,派遣労働者と派遣先労働者の均等待遇を義務づけること。
⑦ 派遣可能期間経過後や,違法派遣,偽装請負について,直接雇用のみなし規定を設けるべきこと。その際の労働条件は,派遣先労働者と同等の内容とすること。
⑧ マージン率の上限規制を設けること。労働者に対するマージン率の開示を義務づけること。
⑨ 労働者保護規定は原則として強行的効力をもつものとし,とくに派遣先に対する罰則規定を強化すべきこと。
第2 意見の理由
1 当会や民間ボランティア等の取り組み
この間,昨年末からの“年越し派遣村”をはじめ,全国各地で民間ボランティア,有志弁護士らにより同様の活動が取り組まれ,炊き出し,生活相談,一斉生活保護申請等々が取り組まれてきた。
当会も,本年3月から生活保護申請同行の当番弁護士制度を開始し,本年9月2日現在,129件の要請を受けた。また,本年3月9日には,日本弁護士連合会の全国一斉「派遣切り・雇い止めホットライン」相談活動の一環として,電話相談を実施し,67件の相談を受けた。
また,ここ福岡県では,当会会員弁護士を含む県内の民間ボランティアによって,本年3月1日には福岡市内で,本年6月28日には北九州市内で,“1日派遣村”の活動が取り組まれた。
こうした活動の結果,本文に述べたような悲惨な現状及びその背景事情が明らかになってきた。
2 厚生労働省の対策等
こうした状況を受けて,厚生労働省は,本年2月6日,離職者住居支援給付金制度を創設し,いわゆる“派遣切り”にあった派遣労働者の住居支援の制度を打ち出した。しかしながら,同制度は,解雇や雇止めを行った雇用主が,当該派遣労働者に引き続き住居を提供するなどした場合に,その事業主を支援する制度であり,住居を失った派遣労働者を直接支援する制度ではない。その結果,同制度がスタートしてから本年4月までの間で,同制度の計画対象に挙げられた派遣労働者の数が全国で1万3212人であるにも関わらず,実際に計画認定された派遣労働者数はわずか755人に留まっている。福岡県の場合,計画対象労働者数は累計で227名,うち計画が認定された労働者数はわずか13名に過ぎない。このような実績から明らかなとおり,同制度は,住居を失った派遣労働者に対する救済措置として,ほとんど機能していないと言わざるを得ない。
また,同省は,本年1月28日,緊急違法派遣一掃プランの実施を打ち出したが,それは違法派遣の温床とされている日雇い派遣に限定されており,また,各都道府県の労働局の担当者等組織人員体制に何らの手当もなされていないと見られることからすれば,その救済範囲および実効性に多くを期待することはできない状況にあると言わざるを得ない。
3 改正へ向けた基本的な考え方
そもそも,労働者は使用者に対して交渉力が劣り,労働契約を労使の自由な交渉に委ねると,労働条件が際限なく切り下げられ,労働者の生存すら脅かされかねない。このような意味において,国際労働機関の目的に関する宣言(ILOフィラデルフィア宣言,1944年)が「労働は商品ではない」と宣言したとおり,労働を他の商品と同様に扱うことは許されない。だからこそ,労働者を保護する労働法制が必要とされる。このような労働者保護の必要に鑑みれば,労働契約は雇用主と労働者との直接契約,すなわち直接雇用が原則とされねばならない。
1947年に施行された職業安定法は労働者供給事業を罰則をもって禁止している(同法44条,64条)。
同法が労働者供給事業を罰則をもってまで禁止したのは,戦前の日本において,労働者供給事業が横行しており,過酷なまでの中間搾取が行われ,労働者が無権利状態にあったことから,労働法制の民主化,すなわち近代的労使関係の確立こそが戦後日本の民主化のテーマの一つとされたからである。富山の女工哀史や“ああ野麦峠”などからも知られるとおり,戦前は労働ボスが貧困層を束ね,各雇用主に労働力として供給し,酷い中間搾取を行いながら,一方,供給先である雇用主は,廉価な労働力の供給元および雇用調整の手段として,労働者供給事業を利用していたのである。
こうした封建的労使関係にメスを入れ,近代的労使関係はあくまでも直接雇用が原則であること,すなわち,労働力の提供を受ける者は直接労働者を雇用すべしとすることで,賃金その他の労働条件を明確にするとともに,責任の所在等を曖昧にさせないという原則が罰則をもって導入されたのである。
労働者派遣法は以上のような原則に対し,あくまで特殊例外的立法として導入されたものであった。ところが,1986年に労働者派遣法制がわが国に導入され,さらに数次にわたり規制緩和・適用拡大がなされた結果,大量のワーキングプアを生み出し,しかも職と同時に住居を失うという悲惨な事態を招くに至り,そのことがひいては社会不安さえ招来している事態ともなっている。
かかる経緯に鑑みるならば,あくまでも根本原則である労働者供給事業の禁止に沿う方向で労働者派遣法は改正されなければならない。
4 具体的な改正項目
以上を踏まえれば,労働者派遣法を労働者保護の観点に立って抜本改正することが必要である。とりわけ,以下の点については緊急に改正する必要がある。
① 法律の目的に派遣労働者保護を明記すること。
上記のとおり,この点を欠くことが現行法の最大の欠陥である。
② 派遣対象業種を専門的なものに限定すべきこと(なお,専門性の判断について,現行26業種を全面的に見直し,さらなる限定を加えるべきである。)。
本来,労働者派遣法は,臨時的・一時的な業務の必要のため,専門的知識・技能を有する労働者を確保するという要請から,労働者供給事業の例外として導入されたのであるから,派遣対象業務は,このような本来の趣旨及び要請に沿って限定されるべきである。
また,現行の対象業種中,例えば5号(OA機器操作)などは,単にOA機器を操作するだけで何らの専門性もない業務に,期間制限を潜脱する目的で,名目だけ利用されている例もある。こうした実態からすれば,専門業種の見直しにあたっては,さらなる限定を加えるべきである。
③ 派遣利用要件として臨時的・一時的事由を加えること。
直接雇用が原則であること,労働者派遣はあくまでも,専門業種についての臨時的・一時的雇用形態であるべきことからすれば,臨時的・一時的事由を要件とすることが法本来の趣旨に添うものである。
④ 登録型派遣は禁止すべきこと。
登録型派遣は,派遣先と派遣元との間の派遣契約が存続している間だけ,当該派遣元と派遣労働者の間の雇用契約を認めるものであるが,派遣先の自由な派遣契約の解除によって派遣労働者の解雇が事実上合法化されてしまう。その結果,派遣労働者には労働基準法上の保護が及び難くなってしまっている。
こうした細切れ雇用とも言うべき登録型派遣は,派遣労働者の雇用を極めて不安定にすることから,禁止すべきである。
⑤ 日雇い形態の派遣は全面禁止すべきこと。
派遣労働者の身分を究極にまで不安定にし,労働条件を劣悪化するおそれのある日雇い派遣は明文をもって全面禁止すべきである。
⑥ 賃金・福利厚生に関して,派遣労働者と派遣先労働者の均等待遇を義務づけること。
派遣労働者の賃金は派遣先従業員のそれと比較して,格段に低いのが一般的であり,酷いところでは,同じ作業に従事しながら,派遣労働者の賃金は派遣先従業員の賃金の2分の1という場合もある。
この点,ドイツ,フランス,イタリア,韓国の派遣法は,いずれも派遣先従業員との同一待遇保障あるいは差別待遇の禁止を明記している。我が国労働者派遣法にも均等待遇を明記することが求められる。
⑦ 派遣可能期間経過後や,違法派遣,偽装請負について,直接雇用のみなし規定を設けるべきこと。その際の労働条件は,派遣先労働者と同等の内容とすること。
この点について,現行法の直接雇用規定は,派遣先企業の努力義務や,制限期間経過後の直接雇用申込義務にとどまり,現実には,直接雇用されるケースは極めて稀である。
この点,派遣法をもつヨーロッパの国々では,一定期間経過後には直接雇用のみなし規定を設けている国も多く,わが国も派遣可能期間経過後は直接雇用のみなし規定を設けることが必要である。違法派遣,偽装請負についても,直接雇用のみなし規定を設けることにより是正を図るべきである。
⑧ マージン率の上限規制を設けること。労働者に対するマージン率の開示を義務づけること。
労働者派遣法は,中間搾取を禁じる労働基準法6条の例外規定であり,原則としての中間搾取禁止が重視されるべきである。
派遣労働者が低賃金に苦しむ状況を改善するため,派遣元のマージン率を労働者に開示させるとともに,マージン率に上限規制を設けるべきである。
⑨ 労働者保護規定は原則として強行的効力をもつものとし,とくに派遣先に対する罰則規定を強化すべきこと。
現行労働者派遣法のうち,労働者保護に関する規定については,それを担保すべき罰則がほとんどなく,そのため,現実には多くの派遣労働者が無権利状態におかれている。これら派遣労働者にも労働基準法・労働者派遣法等の保護規定が実効的に及ぶように,保護規定に強行的効力を持たせ,法違反に対しては罰則をもって臨むなど,その実効性を格段に強めることが必要である。
とくに,現行労働者派遣法では派遣元に対する規制が中心で,派遣先に対する規制が乏しい。しかし,現実の商取引上の力関係では派遣先が格段に上位にあることからすれば,実効性確保の観点からは,派遣先に対し,法違反について罰則をもって規制することが必要である。
5 生存権の擁護と支援のために
当会は,本年5月25日の総会で「すべての人が尊厳をもって生きる権利の実現をめざす宣言」をなし,今般,生存権の支援と擁護のための緊急対策本部を設置した。
当会は,格差と貧困の大きな原因ともなっている労働者派遣法の抜本改正を行うことなしには,「すべての人が尊厳をもって生きる権利」は実現されないと考え,本意見書を発する。
以上

