福岡県弁護士会 主張・提言

2016年7月22日

生活保護受給者が受け取る震災義援金に対して収入認定についての適正な取扱いを求める会長声明

声明

 2016年(平成28年)4月に発生した熊本大分地震に関し,熊本県に集まった義援金について,すでに第1次配分,第2次配分が行われている。
一方,被災した生活保護受給者(以下,たんに「受給者」という。)の中には,義援金を受け取った場合にそれが「収入」とみなされ,生活保護費の減額,停止または廃止がなされるのではないかという懸念を抱くケースが出てくることが想定される。実際、東日本大震災の際には、そのような取扱が見られ問題とされたことがあった。
 しかしながら,義援金は,必ずしも生活保護法上の「収入」として当然に収入認定されるものではない。すなわち,厚生労働省は,地方自治体の保護担当係長に対し,平成28年4月27日付事務連絡において,「被災者の事情を考慮し,適切な保護の実施に当たるよう,特段の配慮」を求めるべく通達している。ここでいう「適切な保護の実施」とは,「東日本大震災による被災者の生活保護の取扱いについて(その3)」(平成23年5月2日付社援保発0502第2号)でも明記されているとおり,「当該被保護世帯の自立更生のために当てられる額」については収入認定しないこととし,当該自立更生計画の策定については,「被災者の被災状況や意向を十分に配慮し,一律・機械的な取扱いとならないようする」して,費目・金額を積み上げずに包括的に一定額を自立更生に充てられるものとして計上するなど,柔軟な取扱いを行うこととされている。そして,厚生労働省も本年5月の国会答弁において,収入認定除外のために生活保護利用者が提出する「自立更生計画」について,「義援金については詳細な記述を求めていない」と回答している。
 こうした国の方針に鑑みれば,今後,熊本県や各自治体においても,自立更生計画の策定や報告の時期,さらには疎明資料について,柔軟な運用を行うことが求められるというべきであり,厚生労働省も,国会において,「被災自治体が義援金の取り扱いを適切に運用するよう丁寧に周知したい」と答弁したとおり,当該周知を徹底すべきである。当会は,熊本県の隣県の弁護士会として,福岡県内に避難してきている方々の無料面談相談を実施し,熊本県弁護士会のバックアップとして無料電話相談を実施している。その相談内容は、住宅、労働、借金と多岐にわたり、被災者の方々の生活再建が容易でないことを示している。被災した受給者が安心して義援金を受け取り,生活の再建に活かすことができるよう,国に対して事務連絡の内容を改めて周知徹底するよう求めるとともに,関係各自治体に対し,職員への周知はもちろん,被災した受給者に対して義援金を硬直的に収入認定の対象にすることがないよう,柔軟な運用を行うことを求めるものである。
                                    以上


                     2016年(平成28年)7月22日
                      福岡県弁護士会 会長 原田 直子

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2016年5月13日

朝鮮学校に対する補助金停止に反対する会長声明

声明

1 自由民主党は、2016年2月7日、「北朝鮮による弾道ミサイル発射に対する緊急党声明」を出し、「朝鮮学校へ補助金を支出している地方公共団体に対し、公益性の有無を厳しく指摘し、全面停止を強く指導・助言すること。」を求めた。
  同年3月29日、文部科学大臣は、「北朝鮮と密接な関係を有する団体である朝鮮総聯が」朝鮮学校の「教育内容、人事及び財政に影響を及ぼしている」と指摘し、朝鮮学校68校に対し補助金を支出している28都道府県に対し、朝鮮学校のみを対象として、補助金の適正かつ透明性のある執行の確保を求める通知を発出した。
  文部科学大臣の本件通知は、形式的には、朝鮮学校に通う子どもたちに配慮する姿勢を示しながら、実質的には、外交問題と補助金交付を関連づけることにより、各地方自治体における補助金の停止を促すものであり、朝鮮学校に通う子どもたちの教育を受ける権利を侵害するものであると言わざるを得ない。
  2014年8月29日に公表された国連人種差別撤廃委員会の最終見解においても、日本国内で地方自治体による朝鮮学校に対する補助金の割当の継続的縮小あるいは停止が行われている現況について、日本政府が地方自治体に対し、朝鮮学校に対する補助金提供の再開あるいは維持を要請することを奨励しているところであり、本件通知は、これにも背馳するものである。
2 言うまでもなく、朝鮮学校に通う子どもたちにも、人として、自己の人格を完成、実現するために必要な学習をする固有の権利である学習権(憲法第13条、第26条1項)は勿論、児童の権利に関する条約第30条、国際人権規約A規約(「経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約(A規約)」)第13条、人種差別撤廃条約(「あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する条約」)などにより日本社会において民族教育を受ける権利が保障されている。
  地方自治体による補助金は、公立私立を問わず、学校に通う全ての子どもにかかる経済的負担の軽減を図ると同時に、子どもたちの学習権及び民族教育を受ける権利を実現するために重要な役割を果たしている。とりわけ、朝鮮学校は、第2次世界大戦後、日本での定住を余儀なくされた在日朝鮮人が、朝鮮民族の言葉や文化を後世に承継させるために設立され運営された私立学校であり、かかる歴史的経緯を踏まえ、長年にわたって補助金が交付されてきた事実を軽視してはならない。
  しかるに、朝鮮民主主義人民共和国に対する日本政府の外交政策と、朝鮮学校で学ぶ子どもの教育を受ける権利を結びつけ、補助金を削減・停止すれば、朝鮮学校に通う子どもたちだけが他の学校に通う子どもたちに比べて不利益な取扱いを受けることとなり、教育を受ける権利にかかわる法の下の平等(憲法第14条)に反するおそれが高いだけでなく、朝鮮学校に通う子どもたちの学習権を侵害することになることは明らかである。
3 福岡県には、学校法人福岡朝鮮学園が運営する4つの朝鮮学校が存在するが、小川洋福岡県知事は、本年4月12日の記者会見において、朝鮮学校に対する補助金支出につき、「補助金交付要綱に基づき、適正な執行に努めていきます。」と述べ、従前どおり支出を継続することを明らかにした。茨城県や名古屋市などが、朝鮮学校に対する補助金の減額や停止を検討するなか、福岡県知事の表明は、朝鮮学校に通う子どもたちの教育を受ける権利を擁護するものとして高く評価されるものである。
4 当会は、朝鮮学校に通う子どもたちが、日本社会における全ての子どもたちと同様に等しく教育を受ける権利を享受することができるよう、文部科学省に対して、本件通知の撤回を求めるとともに、福岡県以外の地方自治体に対しては、朝鮮学校に対する補助金の支出について、補助金交付の目的を踏まえ、上記憲法及び人権条約の趣旨に合致した運用を行うよう強く求めるものである。


                   2016年(平成28年)5月13日
                   福岡県弁護士会 会長 原 田 直 子

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2016年5月12日

ハンセン病「特別法廷」最高裁判所調査報告に関する会長声明

声明

ハンセン病患者が当事者の裁判がハンセン病療養所等の「特別法廷」で行われてきた問題について、全国ハンセン病療養所入所者協議会等が最高裁に検証を求めていたところ、最高裁事務総局は、本年4月25日、有識者委員会意見とともに、検証結果(以下「調査報告書」という。)を公表した。
 調査報告書によれば、ハンセン病を理由とした裁判所外の開廷場所の指定を求める上申が昭和23年から同47年まで96件あり、その内95件を認可し(1件は撤回)、不指定事例はないこと、遅くとも昭和35年以降は、他の疾患と区別すべき状況でなかったのに、定形的にハンセン病療養所等を開廷場所に指定していた運用は、不合理な差別的取扱いと強く疑われ、裁判所法69条2項に違反するもので、ハンセン病患者に対する偏見、差別の助長につながり、ハンセン病患者の人格と尊厳を傷つけたとして、深く反省し、お詫びの意を表明した。
 最高裁が自ら差別的な違法行為を行ったことを認めて謝罪の意を表明し、今後、人権に対する鋭敏な意識を持って、二度と同じ過ちを繰り返さないことを表明したことは、評価できる。
 他方、有識者委員会意見では、「特別法廷」は、ハンセン病患者への合理性を欠く差別として憲法14条に違反し、「激しい隔離・差別の場」であって、最高裁が指摘する掲示等をもってしても、一般の人々に実質的に公開されたというには無理があることから、憲法37条、82条の公開原則に違反する疑いが拭いきれないとし、1960年(昭和35年)以前についてもハンセン病患者への反省と謝罪があってしかるべきと指摘した。
 有識者委員会がハンセン病患者に対する差別・偏見の問題をより深く考察し、「特別法廷」の違憲性を認め、最高裁の責任を追及したことは、まさに正鵠を射ている。
また、有識者委員会は、最後に、弁護士を含む法曹界・法学界の人権感覚と責任を厳しく問うた。
1952年に熊本県で起きた殺人事件で無実を訴えていたハンセン病療養所入所者の被告人が「特別法廷」で差別と偏見に基づく裁判を受け、死刑判決が下され、死刑執行された「菊池事件」について、当会は、2013年5月8日、「『菊池事件』について検察官による再審請求を求める会長声明」を公表し、最高裁の上記調査中、2016年2月13日、シンポジウム「ハンセン病『特別法廷』と司法の責任」を開催した。
しかし、それまでの間、当会は「特別法廷」問題について何らの取組みもしてこなかったのは事実であり、有識者委員会意見は重く受け止めなければならない。
当会は、基本的人権の擁護を使命とする弁護士会として、「特別法廷」の違憲性・差別の問題について、長きにわたり調査・検証を怠ってきた責任を深く自覚して痛切に反省し、ハンセン病患者・元患者、その家族の方々などに、心より謝罪の意を表する。
 今後とも、当会は、真摯な自己検証とともに、ハンセン病患者・元患者、その家族の方々などの被害回復に努力し、ハンセン病問題の全面解決に向けた活動に全力を尽くす所存である。


2016(平成28)年5月12日
福岡県弁護士会会長 原 田 直 子

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2016年3月25日

死刑執行に関する会長声明

声明

1 本日、大阪拘置所と福岡拘置所でそれぞれ各1名の死刑確定者に対して死刑が執行された。
死刑が執行されたのは、2015年(平成27年)6月、12月、そして、本日と1年に満たない間に3回目であって、合わせて5人になる。
2 死刑は、かけがえのない生命を奪う非人道的な刑罰であることに加え、罪を犯した人が更生し社会復帰する可能性を完全に奪うという問題点を含んでいる。のみならず、死刑判決が誤判であった場合にこれが執行されてしまうと取り返しがつかない。これまで死刑事件において、4件もの再審無罪判決が確定しており(免田・財田川・松山・島田各事件)、えん罪によって死刑が執行される可能性が現実のものであることが明らかにされ、また、2014年(平成26年)3月には、死刑判決を受けた袴田巖氏の再審開始と死刑および拘置の執行停止が決定され、いまもなお死刑えん罪が存在することが改めて明らかとされたばかりである。
  国際的にも死刑の廃止は大きな潮流である。世界で死刑を廃止又は停止している国は140か国に上っており、今や死刑を国家として統一的に執行している国は日本のみである。このような状況の下、国際人権(自由権)規約委員会は、2014年、日本政府に対し、死刑の廃止について十分に考慮すること等を勧告している。
このような事態であるにもかかわらず、次々と死刑を執行する姿勢には大きな疑義を挟まざるを得ない。
3 日本弁護士連合会は、2014年(平成26年)11月に、「死刑制度の廃止について全社会的議論を開始し、死刑の執行を停止するとともに、死刑えん罪事件を未然に防ぐ措置を緊急に講じることを求める要請書」を提出して、有識者会議の設置や死刑に関連する情報の公開などを具体的に求め、全国民的議論が尽くされるまでの間、全ての死刑の執行を停止することに加え、死刑えん罪事件を未然に防ぐため、全面的証拠開示制度の整備や再鑑定を受ける権利の確立などを要請した。
  しかし、2010年(平成22年)8月に東京拘置所の刑場が一部マスメディアに公開された後、議論の前提となるべき死刑に関連する情報の公開すら進んでいない。
4 当会は、政府に対して、今回の死刑執行について強く抗議の意志を表明するとともに、今後、死刑制度の存廃を含む抜本的な検討がなされ、それに基づいた施策が実施されるまで、一切の死刑執行を停止することを強く要請するものである。



2016年(平成28年)3月25日
               福岡県弁護士会会長  斉 藤 芳 朗

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2016年1月20日

司法修習生に対する給費の実現を求める会長声明

声明

 司法修習生は、1年間の修習を終えた後には、三権の一翼である司法の担い手として国民の権利を擁護し、司法制度を支えるという公共的な役割を担うべく、職務としての司法修習に専念する者である。このような公共的役割を持つ存在であることに鑑み、司法修習生に対しては、戦後約65年間にわたり、国家公務員に準じた取扱いがなされ、給与が支給されていた(給費制)。しかし,2011(平成23年)年11月から,この給費制が廃止され,代わって修習期間中に費用が必要な修習生に対しては,修習資金を貸与する制度(貸与制)に変更された。
 当会は、貸与制による経済的負担の増加が、有為な人材が法曹を目指さなくなり、ひいては日本の司法制度の弱体化につながるおそれがあるとして、貸与制の導入以前から、給費制の存続ないし復活も含めた司法修習生に対する経済的支援の必要性を訴えてきた。
 司法修習生に対する経済的支援の具体案である司法修習生への給費の実現(修習手当の創設)については,この間,日本弁護士連合会・各弁護士会に対して,多くの国会議員から賛同のメッセージが寄せられており,先日,同賛同メッセージの総数が,衆参両院の合計議員数717名の過半数である359名を超えた。
 当会としては,まずはメッセージをお寄せいただいた国会議員の皆様に対し感謝の意と敬意を表するものである。
 メッセージを寄せられた国会議員は,与野党を問わず広がりを見せており,司法修習生への経済的支援の必要性についての理解が得られつつあるものと考えられる。このような状況は,これまで司法修習生に対する給費の実現に向けて、市民集会の開催、街頭署名など種々の活動を実施してきた当会としても喜ばしい限りである。
 そもそも,司法制度は,社会に法の支配を行き渡らせ,市民の権利を実現するための根幹的な社会的インフラであり,国はかかる公共的価値を実現する司法制度を担う法曹になる司法修習生を,公費をもって養成するべきである。このような理念のもとに,我が国では,終戦直後から司法修習生に対し給与が支払われてきた。しかしながら、貸与制の導入により修習資金の負担が生じることに加え,大学や法科大学院における奨学金の債務を負っている司法修習生も多く,その合計額が極めて多額に上る者も少なくない。法曹を目指す者は,年々減少の一途をたどっているが,こうした重い経済的負担が法曹志望者の激減の一因となっていることが改めて指摘されているところである。
 こうした事態を重く受け止め,法曹に広く有為の人材を募り,法曹志望者が経済的理由によって法曹への道を断念する事態が生ずることのないよう,また,司法修習生が安心して修習に専念できる環境を整えるため,司法修習生に対する給費の実現(修習手当の創設)が早急に実施されるべきである。
 昨年6月30日,政府の法曹養成制度改革推進会議が決定した「法曹養成制度改革の更なる推進について」において,「法務省は,最高裁判所等との連携・協力の下,司法修習の実態,司法修習終了後相当期間を経た法曹の収入等の経済状況,司法制度全体に対する合理的な財政負担の在り方等を踏まえ,司法修習生に対する経済的支援の在り方を検討するものとする。」との一節が盛り込まれた。
 これは,司法修習生に対する経済的支援に向けた大きな一歩と評価することができる。法務省,最高裁判所等の関係各機関は,有為の人材が安心して法曹を目指せるような希望の持てる制度とするという観点から,司法修習生に対する経済的支援について,直ちに前向きかつ具体的な検討を開始すべきである。
 当会は,司法修習生への給費の実現(修習手当の創設)に対し,国会議員の過半数が賛同のメッセージを寄せていること,及び,政府においても上記のような決定がなされたことを踏まえて,国会に対して,給費の実現(修習手当の創設)を内容とする裁判所法の早急なる改正を求めるものである。


                    2016年(平成28年)1月20日
                      福岡県弁護士会        
                           会長 斎 藤 芳 朗   

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