福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画

2021年4月28日

札幌地裁判決を受けて、改めてすべての人にとって平等な婚姻制度の実現を求める会長声明

声明

1 2021(令和3)年3月17日、札幌地方裁判所で、同性間の婚姻ができない現在の婚姻に関する民法及び戸籍法の諸規定(以下「本件諸規定」という。)は憲法14条1項に反し、違憲である旨の判決が言い渡された。
2 同判決において、札幌地裁は、まず、同性愛者であっても異性とは婚姻できるから区別取り扱いにはあたらないとする国の主張を退けて、同性愛者のカップルは自分の性的指向に沿った相手と婚姻することができず、婚姻によって生じる法的効果を享受することができない点で、異性愛者との区別取扱いがあるということを認めた。
 そして、性的指向は、性別や人種と同様に自らの意思に関わらず決定される個人の性質であり、このような人の意思によって選択・変更できない事柄に基づく区別取扱いが合理的根拠を有するかの検討については、真にやむを得ない区別取扱いであるかの観点から慎重になされなければならないとした。
 その上で、婚姻によって生じる法的効果を享受することは重要な法的利益であるところ、異性愛者と同性愛者との差異は性的指向が異なるのみであり、かつ、性的指向は人の意思で選択・変更できるものでないことから、そのような法的利益は同性愛者も異性愛者も等しく享受し得るものと解するのが相当であり、本件諸規定は、同性愛者と異性愛者について区別取扱いをするものであると認定した。そして、立法府は同性婚について否定的な意見や価値観を持つ国民が少なからずいることを斟酌することはできるとしたが、同性愛者が圧倒的多数の異性愛者の理解又は許容がなければ重要な法的利益である婚姻によって生じる法的効果を享受できないとするのは自らの意思で同性愛を選択したのではない同性愛者の保護にあまりにも欠けるところ、性的指向による区別取り扱いを解消することを要請する国民意識が高まっており、今後も高まり続けるであろうことや、外国においても同様の状況にあることからすれば、立法府の裁量権を行使するにあたっては限定的に斟酌されるべきとし、結論として、本件諸規定が、同性愛者に対しては、婚姻によって生じる法的効果の一部ですらもこれを享受する法的手段を提供しないとしていることは、立法府の裁量権の範囲を超えたものであり、合理的根拠を欠く差別取扱いに当たり、憲法14条1項に違反すると認めた。
3 本件諸規定が同性間の婚姻を認めないことにより、結婚を望む同性カップルはきわめて広範な分野に及ぶ法律上、事実上の不利益を被ってきた。本判決は、憲法第13条及び第24条1項違反を認めなかった点では不十分であるが、これまで長きにわたり同性カップルが被ってきた不利益を、憲法14条1項に違反する差別であると断じた点で画期的なものである。
さらに、マイノリティであるがゆえに立法の過程で実現することが困難な権利が問題となる本件につき、違憲判断を行い、人権の最後の砦としての司法の役割を正しく果たした点で、高く評価すべきものである。
4 当会は、2019(平成31)年5月29日の定期総会において、本件諸規定が同性間の婚姻を認めないことは人権侵害であり、かつ、差別であるから、政府及び国会に対して同性間の婚姻制度を整備するよう求める「すべての人にとって平等な婚姻制度の実現を求める決議」を採択した。
本判決は同決議とその方向性を一にするものであり、当会が求める同性間の婚姻制度の実現に向けて重要な意味を持つものとして歓迎する。
5 当会が「すべての人にとって平等な婚姻制度の実現を求める決議」を採択してから既に2年近くが経過し、その間、パートナーシップ制度の拡大など、社会の理解は大きく進んだと言えるが、未だに同性間の婚姻制度は整備されておらず、政府・国会において、少なくとも公式には同性間の婚姻制度の整備に向けた議論の着手すらなされていない。
  その間、同性カップルに対する差別は継続し、放置されてきた。
  そこで、当会は、本判決により本件諸規定が憲法違反であると認定されたことを受けて、政府及び国会に対し、本判決を真摯に受け止め、同性間の婚姻制度を直ちに整備することを改めて求める。


2021年(令和3年)4月28日  
福岡県弁護士会 会長 伊 藤 巧 示

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