福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画

会長日記

2008年10月22日

福岡県弁護士会会長日記

                          会 長 田邉宜克 (31期)


【スタッフ弁護士と刑事弁護態勢】

7月29日に「スタッフ弁護士の配置」の件で、全員協議会を開催した。執行部8人以外の出席会員は11名と少数に止まった(積極的反対意見なし)。参加者が少数なのは、会員総体も積極的に反対しない意向であると捉えるべきか。
スタッフ弁護士についての議論は、当会の被疑者被告人国選対応態勢確立の重要性を再確認させる場でもあった。札幌弁護士会は、本年3月末に「被疑者国選対象事件の拡大及び裁判員裁判が一部の会員で担うべきものでないことを共通認識とし、会員の総力で09年態勢を確立する。現時点ではスタッフ弁護士を招聘しない。」との常議員会決議を挙げた。当会においても「被疑者国選対象事件の拡大及び裁判員裁判が一部の会員で担うべきものでないこと」は、当然に「共通認識」であるはずであり、「会員の総力で対応態勢を確立すべき」ことも同様である。筑豊地区や壱岐対馬等の被疑者国選選任の「万が一の場合」に備えた安全装置としてスタッフ弁護士が配置されても、弁護士としての上記基本姿勢に毫も影響はないはずであり、この機会に今一度、国選弁護の原点に帰って、我々弁護士の責務を自覚すべきであると思う。
筑豊地区のバックアップ体制を確実にするために少なくとも40名余の福岡部会員が必要であるとすれば、執筆日現在で福岡本庁事件に専念できる被疑者国選登録福岡部会員数は、240名を割り込む。当会は、「国選弁護拡大ニュース」を連続して発行し、未登録会員に個別に登録要請の手紙を差し上げ、更には、担当者が対象会員に電話や個別訪問をして登録をお願いするなど、被疑者・被告人国選弁護登録拡大運動に全力で取り組んでいるが、未だ充分ではない。一人でも多くの会員の登録を切にお願いする次第である。


【あさかぜ基金法律事務所】

9月からいよいよ、過疎地対応弁護士養成事務所である「あさかぜ基金法律事務所」が活動を開始する。九弁連の事業ではあるが、その運営は、実質的に当会の責務である。正副の指導担当弁護士が、被養成弁護士の指導にあたるが、当会会員全員で育て上げる気概を持つ必要がある。指導担当弁護士以外の会員からもお声かけいただき、被養成弁護士と共同して各種の事件を受任し、できるだけ多く事件処理を共にする中で「養成」することが一番である。
同様に、9月から新スキームで養成されるスタッフ弁護士が、当会に配属される。司法修習終了後、すぐに当会に登録し、あおぞら法律事務所で弁護士活動をスタートする。当地での1年余の養成期間を経て、過疎地に赴任することになるが、当会の一員として、会員が協力して育て上げることが求められている。
更に、法テラス福岡地方事務所や北九州支所のスタッフ弁護士も登録後1年余しか経ていない弁護士であることに変わりない。委員会活動を通じて、あるいは、国選事件や扶助の処理について多くの会員がアドバイスするなどして、合計3名のスタッフ弁護士を当会の仲間として、力を合わせて育て上げる意識が必要である。
多くの会員の理解とご協力をお願いしたい。

福岡県弁護士会会長日記

                         会 長 田邉宜克 (31期)


【徳永賢一先生ご逝去】

6月19日の日弁連理事会中に、元会長徳永賢一先生ご逝去の報に接した。先生は、木曜会の創立メンバーとして会務運営民主化の先頭に立ち、上田国賠訴訟の弁護団の中心を担い、当番弁護士制度創設時の刑事弁護委員長として、当番弁護士出動第1号も務められた大先達であった。日弁連理事の重責は認識しつつも会長職を優先することとし、理事会を途中退席して福岡に戻り、翌20日の告別式に参列して弔辞を献じた。まさに巨星墜つの感あり。
心から徳永賢一先生のご冥福をお祈り申し上げます。


【東北弁連ブロック大会(7月4日)】

九弁連理事として、東北弁連ブロック大会に出席した。
この大会では、司法試験合格者数を年間3000人程度とする政策の変更を求める決議が提案された。審議会意見書が想定した法曹需要の増加の見通しがないこと、裁判官・検察官の増加を含む司法の基盤整備が十分に講じられないまま弁護士人口のみが急増するのは需要との間のアンバランスを生じさせていること、OJTの不足や過当競争により質の低下を招来すること、合格者数を2100人で凍結しても10年後には弁護士数は約4万人に達すること、過疎偏在問題は相当程度改善されていること等の理由から、合格者数を2100人で凍結し、法曹需要の増加・法曹の質の確保の視点から法曹人口のあり方を具体的に検証したうえで、適正な年間合格者数を決めるよう求めるものであった。他方、会場からは「本当に法曹需要はないのか、一般市民が弁護士に頼みたくても頼めない、弁護士が事件依頼を忙しい等で断っている実状にあるのではないか。」「中小企業の法的需要は調査でも相当程度存在しているではないか。」「法曹の質の低下は、未だ検証されていない。」「弁護士過疎問題が現に存在するのに、合格者数減少を打ち出すのでは市民の理解は得られない。既得権保護との非難を免れない。」「ロースクールの学生のことも考えるべきである。」等々の反対意見が出た。裁決は2:1で賛成多数であったが、もう少し、議論の時間が必要だったと思えた。本月報発行時には、既に、合格者数についての日弁連理事会の提言が発表されているはずである。当会でも、本格的に法曹人口についての議論を始めなければならない。
なお、東北弁連では、大会終了後懇親会までの間の約90分に日弁連執行部と会員との意見交換会が実施されている。日弁会長・副会長が全員揃って、国選弁護・裁判員裁判・法テラスとスタッフ弁護士・法曹人口問題について説明し、会員と直接質疑応答するというもので、会員と日弁連の距離を近づける機会として有意義であった。

2008年7月24日

福岡県弁護士会会長日記

                      会 長  田邉 宜克(31期)


【定期総会・就任披露宴】
5月22日に福岡県弁護士会の定期総会と役員就任披露宴が開かれた。総会では、予算決算等の審議事項と「より良い刑事裁判の実現を目指して」「あさかぜ基金法律事務所を成功させよう」との二つの宣言(当会HPに掲示)がいずれも承認可決され、就任披露宴も多数の招待者・会員のご参加を得て、盛会裡に終えることができた。
会員の皆さん及び就任披露宴にご出席いただいた方々に心から御礼申し上げます。
また、総会終了後の法テラス埼玉の本所スタッフ弁護士谷口太規氏の講演は、スタッフ弁護士の活動内容とその矜持を知ることができ、大変参考になった。同弁護士に講演内容を敷衍した文章を本号に寄稿していただいたので、是非ともご一読いただきたい。


【あさかぜ基金法律事務所】
5月16日に、あさかぜ基金法律事務所運営委員会に引き続き入所予定の3名の修習生の方との懇談会を行った。現行61期1名、新61期2名、合計3名の予定者に弁護士偏在地区での活動を志した動機や意欲を語っていただいたが、いずれも、あさかぜ基金法律事務所の第1期を委ねるにふさわしい方々で大変心強い思いであった。運営委員会や指導担当弁護士にだけ、その養成を担わせるのではなく、当会の責務として、会員全員に積極的なご協力ご支援をお願いしたい。


【奄美ひまわり事務所引継式】
5月24日に奄美ひまわり基金法律事務所の引継式が開催され、九弁連副理事長として出席した。後任として奄美に赴任した大窪弁護士は、東京の養成事務所を経て、紋別ひまわり事務所で3年間活躍された後、2,100kmの距離をものともせず奄美行きを決断した。彼は、弁護士がより求められている地域で働くことをモットーとし、多重債務ほかの需要に応えるほか、離島である奄美地区(周辺の奄美群島も)の被疑者国選弁護への対応が自らの責務であると語った。その披露宴には、北海道から沖縄まで、全国各地から、多くのひまわり事務所の仲間達が集まったが、意識が高く、熱意溢れる若者ばかりで、弁護士偏在地域を支えている人たちの心意気に感動した。
また、奄美ひまわり事務所は、鹿児島県弁護士会の支援委員会の大変なご苦労があって支えられていることも実感した。あさかぜ事務所から派遣される先の単位会との連携は、極めて重要である。


【柳川地区の零地区解消】
5月27日に同月初め柳川市で開業された三島正寛弁護士の事務所開設披露が行われた。所謂、零地区として、全国で最後に残ったのが、柳川と長浜であったが、三島弁護士の決断に引き続き、6月初めに長浜でも法律事務所が開設され、ついに零地域解消という日弁連の悲願が達成されたのである。日弁連の取組みのシンボリックな意味だけではなく、その地域に弁護士が常駐しているのと、いないのとでは、地域とのつながり、法的需要の掘り起こし、ひいては、その地域での権利の救済の面で、大きな違いがあることは明らかであって、三島弁護士は、何よりも柳川地域の住民に歓迎され、期待されている。今後、柳川地区の司法サービスの中核として活躍されることを願うや切である。


【当番弁護士負担金】
来年5月で当番弁護士負担金の期限が満了する。被疑者国選弁護が開始され、現在の被疑者援助事件の多くが国選となっても、当番弁護士や国選対象外の被疑者援助事件、なにより、少年事件全件付添の全国拡大を目指す付添人援助事業実施のために、同趣旨の負担金継続は必要不可欠であろう。そのために必要な負担金額を含め、会内で広く議論して行きたい。

2008年6月30日

福岡県弁護士会会長日記

                         会 長 田 邉 宜 克(31期)

【スタッフ弁護士】
 北九州部会が「法テラス」北九州支所にスタッフ弁護士の配置を希望することは、昨年度常議員会で、承認されています。被疑者国選弁護人制度の本格実施後の一人当たりの担当件数が、14件+αに上る実情からすれば、強い異論はないところでしょう。
 他方、福岡部会では、昨年度中、福岡地方事務所本所のスタッフ弁護士配属については、特段の議論をしていませんでしたが、本年度早々に法テラス福岡から「本年度中に、北九州支所に一人、福岡本所に一人のスタッフ弁護士を配置することについて、法テラス本部から意向打診を受けているので、この点について県弁と協議したい。」との申し入れを受けました。
 法テラスとしては、受入会が、スタッフ弁護士は、不要であって受け容れる意思はないと表明すれば、強制的に赴任させることはないものと思われます。
 それでは、法テラス福岡は、何故スタッフ弁護士の配属を希望したのでしょうか。県弁執行部として、法テラス福岡との協議を開始していますが、その必要性について、概略以下のとおり説明を受けました。

(1)速やかに被疑者国選弁護人を選任する責務を負う法テラスは、被疑者国選弁護拡大後も、万が一にも穴を開けることは許されない。弁護士会、特に福岡部会の被疑者国選弁護人態勢では未だ十分であるとは考えていない。
(2)これまでの実践例からしても、筑豊地区の休日、特に共犯事案の配点については、現状でも正に綱渡りの感がある。また、被疑者弁護人として登録されている会員でも諸般の事情で受任を回避されたりすることが少なくなく、この1年半で数件担当した会員から20件近く担当した会員まで受任件数に幅があり、一定の会員の過大な負担で凌いでいる実情にある。単純に事件数を登録者数で割り出して「回る」「回らない」の議論をするのは実際的ではない。被疑者国選弁護拡大後に、万が一の事態を惹起しないためには、法テラス福岡本所へのスタッフ弁護士の配置は必須であると考えている。
(3)壱岐・対馬での国選対応についても、本所スタッフ弁護士に遊軍的に活動していただくことを予定している。
(4)所謂「国選扶助対応」のスタッフ弁護士であり、扶助事件以外の一般民事事件を受任することは予定していない(薬害・消費者等の集団訴訟受任の例外はあり得る)。従って、民業圧迫との懸念は杞憂である。

 今後、法テラス福岡と協議を重ね、より詳細な内容を適宜会員にご報告し、意見集約の場を設けて、当会の意見を早急に明らかにしたいと思います。
 なお、仮にスタッフ弁護士が配置されたとしても、担当しうる国選件数には当然ながら限界があり、より多くの会員の皆さんに被疑者国選名簿登録をしていただく必要性には、何ら変わりがありません。


【刑事贖罪寄付金のお願い】
 従来、扶助協会の行っていた自主事業(刑事被疑者・少年付添・精神障害者等・外国人・難民・犯罪被害者等)は、日弁連及び単位会が承継し、法律援助事業として行っていますが(司法支援センターに運営を委託)、弁護士会の事業である以上その資金は、弁護士会が自前で用意しなければなりません。扶助協会時の自主事業資金と同様にその原資は、主として刑事贖罪寄付金です。
 当会宛の贖罪寄付は、その半額を日弁連に納付して日弁連の法律援助事業資金に充てられ、残額は、法律援助事業の日弁連負担額に加算して支払う当会の所謂「上積」分(刑事被疑者・1万円、少年・原則2万円等)等の支払いに充てられます。
 当会は、昨年度の全国の被疑者事件の11.2%、少年付添人事件の19.4%、これらに難民その他を含めた全事件数の13.7%の法律援助事件を行っています。これは、本当に全国に誇るべき実績です。
 他方、この事業を支える贖罪寄付実績を見ると、昨年度全国で4億6,647万円の贖罪寄付がありましたが、当会の贖罪寄付額は253万円に止まり、なんと全国比0.53%に過ぎません。仮に事件数比の分担があるとすれば、当会の贖罪寄付案分額は、2,981万円になります。会の規模の大小があり、この案分額を当会が当然に分担すべきとは言えないでしょうが、扶助協会福岡支部には、平成17年度1,700万円、同18年度1,191万円の贖罪寄付があったことと比較すれば、余りにも少なすぎると言わざるを得ません。
 また、現状では刑事被疑者(1万円×1000件)及び少年付添(2万円×800件+α)等の「上積」「横出し」分が、当会会計から支出されています。1年後に被疑者国選の本格実施が始まるとしても、このままでは少年付添の上積み分の負担は依然として残り、贖寄付金額が現状のままでは、その支出に対応する額の収入は確保できないことになります。
 会員の皆さんは、扶助協会が解散した後の贖罪寄付は、扶助協会を承継した司法支援センターにと考えられたのかもしれません。
 しかし、扶助協会の各種自主事業を引き継いだのは弁護士会であり、弁護士会がその事業遂行につき責任を全うする義務を負っているのは明らかです。
 日弁連から最高裁・最高検に自主事業等弁護士会への贖罪寄付の目的・制度設計について説明し、情状面での考慮を依頼しており、当地の裁判所・検察庁もこのような公益的な目的に支出される弁護士会への贖罪寄付を量刑上斟酌すべきことは十分理解されているはずです。
 ついては、会員の皆さんに、上述の事情をご理解いただき、贖罪寄付は、是非とも当会宛に納付していただくようお願いいたします。
 なお、寄付手続きの詳細については、各部会事務局にお尋ね下さい。

2008年5月29日

福岡県弁護士会会長日記

                      会 長 田 邉 宜 克(31期)


はじめに
当会の抱えている課題や活動内容を会員の皆さんにお知らせするため、本年度も会長日記を毎月執筆掲載することにしました。
本年度1年間、宜しくお願いいたします。


就任挨拶回り−どこを
正副会長及び事務局長4、5名で、3月24日から4月11日まで、3週間にわたって福岡県内160か所を「弁護士会役員就任挨拶」で回りました。訪問先は、県内の裁判所・検察庁・法務省連施設、関連専門職団体、県や福岡市・北九州市はもとより、西は二丈町、東は豊前市、南は大牟田市まで当会と関連のある自治体、マスコミ各社、九州電力その他の地域企業や商工会議所、連合等々の労働組合、福祉関連団体、各政党、大学・ロースクール、各地域の医師会等々です。また、折角訪問するのですから、自治体の首長・社長・総長等のトップの方とお話しすることを原則としました。


就任挨拶回り−何を
挨拶回りの目的は、各界の方々に弁護士会が多様な公益活動を行っていることを知っていただくことです。特に、弁護士会の市民サービス部門(法律相談センター・多重債務・交通事故・高齢者「あいゆう」等々)の活動をお知らせし、チケット制等制度の利用と、内外への広報方をお願いしました。
併せて、裁判員制度への理解を求め、かつ、取調の全過程可視化実現要求署名への協力をお願いしました。ほとんど全ての訪問先で可視化の署名協力を要請し、県警4課出身の方々が陣取っておられる暴追センターでも、びびりつつも趣旨をお話し、チラシと署名用紙を受けとっていただきましたし、自民党県本部でも賛意を表していただき、現在、訪問先からの署名が当会に届けられています。
また、高齢者虐待対応チーム制度についてもお話ししましたが、積極的な反応を得られた自治体もいくつかありました。
毎日続けて多くの方々と面談することは、大いに疲れることは事実ですが、各界のトップに直接お会いすること自体が弁護士会にとって一つの財産になるのだと思いました。


来年5月21日裁判員法施行決定
1年後に裁判員法が施行され、被疑者国選対象事件の範囲が10倍に拡大します。当会は、これまでの刑事弁護等委員会、裁判員制度実施本部の活動をより充実させていくとともに、拡大する被疑者国選の制度を担うに十分な国選弁護人を確保するため、新に国選弁護対応体制確立推進本部を設置し、一人でも多くの会員に被疑者国選名簿への登録をお願いする具体的取り組みを進めて行きます。
また、この制度実施を踏まえて、司法支援センターとの連携も更に深めて行く必要があり、北九州支部のみならず、法テラス福岡事務所本体へのスタッフ弁護士配点についても、会内での議論を深めていく時期に来ています。
更に、取調の全過程の可視化(録画の義務付)を求める署名を5月までに目標の1万名を超えて集める必要があります。無論、執行部や刑事弁護等委員会を中心に活動しますが、会員の皆さんが一人10名ずつ集めていただければ、それだけで7,500名になるのです。是非とも積極的にご協力下さるようお願いいたします。


拠点事務所の説明会&面接実施
4月12日に弁護士法人あさかぜ基金法律事務所の入所希望者に対する説明会を行い、同月19日に面接を行いました。いよいよ今年の秋の開設に向けて第一歩を踏み出したことになります。説明会では、八代ひまわりの長先生と法テラス壱岐の浦崎先生に仕事の実状・過疎地の弁護士のやり甲斐・問題点等を具体的にお話しいただき、地域に弁護士が常駐することの重要性を再認識しました。また、「法テラスのスタッフ弁護士の重要な役割は利用者の為に法テラス本部と戦うことである。」、「都市公設スタッフの役割は、国選や扶助事件の処理に止まらず、収益性を考えずに事件に取り組めることや公の組織であるが故の行政との連携の取りやすさ等、その特性を活かして自ら考え、模索し、作り出して行くことができる。」との浦崎先生のご発言は、とても重要だと思いました。

2008年4月30日

福岡県弁護士会会長日記

                     前会長 福 島 康 夫(30期)


1 北九州引野口事件無罪判決確定
ひどい話である。話してもいない代用監獄の同房者が殺人、非現住建造物放火の犯行状況を告白するのを聞いたと供述したばかりに起訴され、求刑は18年だったとの事である。結局、小倉支部で無罪判決が下され確定した。冤罪がまた明らかになった。被告人本人は取調で一貫して否認をしていたが、本人から犯行告白を聞いたという同房者の供述が重視されて起訴されてしまったのである。代用監獄は違法捜査の温床だという言葉が生きている。違法捜査を起こしやすい制度は制度自体を廃止しなければならない。それにしても、1審で無罪が確定した際、元被告人の片岸さんが、うれしいというよりも腹が立つといわれていたことが心に残る。取調べの全過程の録画、代用監獄の廃止、いずれも私たち弁護士が世間に訴えていかなければならないことを再確認した。
田邊弁護団長をはじめとする北九州部会の弁護団のご苦労と重圧はいかばかりであったろう。最大限の敬意を表したい。


2 九弁連のあさかぜ基金法律事務所設置
3月21日の臨時総会で九弁連が設置主体となる「あさかぜ基金法律事務所」を福岡市に設置すること、および当会が技術的支援をすることが決定された。執行部として最後の大きな審議案件となったが、臨時総会でこの「あさかぜ基金法律事務所」が暖かい目で迎えられたことにホッとしている。これで九弁連の過疎偏在問題は解決に向けて大きく動きだした。まさに九弁連は一つになったと思う。何としてでも成功させなければならない。次年度の執行部の大きな課題である。今後暖かい目でこの「あさかぜ基金法律事務所」が成功するよう絶大な支援をお願いしたい。


3 裁判員裁判に向けて
裁判員裁判の実施まで1年と迫ってきた。最近毎日のように無罪判決の新聞報道に接するが、たまたまとは思われない。その理由として最近、裁判官が緊張感をもって審理に臨んでいるということではないだろうか。私たちはこれまで一般の市民にわかってもらうために無罪推定の原則をどう説明したらよいか突き詰めて考えたことがあっただろうか。裁判員裁判は模擬裁判をしている中で裁判官、検察官、弁護士それぞれに刑事裁判の原点に立ち返らせる効果を与えていると思う。


4 研修の充実に向けて
重要な法律の改正が毎年毎年行われている。めまぐるしい速さで世の中が変わっている。改正されるたびに法律書を買うと事務所の本棚は大変である。かといって、古い法律書に頼って執務をして懲戒になればもっと大変である。法曹の質の問題は新人ばかりではない。経験者に対する研修も含んでいる。
ところで、昨年1月から新61期修習生83名が当会で修習中である。今度の修習生の特徴は修習期間が1年。全員法科大学院出身で即実務修習に入り前期修習がない。そのため、研修所の教官の方が巡回して起案講評等を行っている。各実務庁の修習期間は2ヶ月しかなく、これでは刑事弁護を最初から最後まで修習できないことになる。これで1年後に弁護士として刑事弁護を1人でさせることには不安があるのは私だけではないであろう。
2月の理事会で新人弁護士の研修の意味でベテラン弁護士が一緒に刑事弁護ができるようにするため複数選任の制度を作るべきではないかということが問題になった。現在の制度設計では研修のための複数選任制度は認められていないが、早急に検討すべき課題である。修習期間の短縮をカバーするためには修習内容の工夫は勿論新人弁護士時代のOn the job trainingしかない。修習委員会と研修委員会の一層の工夫をお願いしたい。


5 皆さんに感謝 
この日記もいよいよ今回が最後である。前年度から引き継いで、毎月その時々の弁護士会の動きをお知らせしてきたが、最後まで続けて来れてホッとしている。原稿の締め切り日を過ぎてもまだ出せない私を、懲りずに督促していただいた広報委員会の委員各位にお詫びと共に感謝したい。
それにしても、この1年間は本当に目まぐるしかった。多重債務相談の無料化実施、これに伴うテレビ・ラジオの広報から始まり、会員の熱意と団結で様々な活動を行った。司法シンポ、民暴拡大協議会といった全国規模のシンポジウムが2つ、それ以外に7つのシンポを行った(憲法、消費者、人権、可視化、子ども、民暴 中小企業)。常議員会で決議した会長声明、意見書は50近くに達しようとしている。会員1人1人の皆さんの大いなる活動の成果である。当会の活動は衰えるところを知らないようである。
1年間、何とか任務を全うできたのも、会員の皆さんのご支援ご協力のお陰である。本当に感謝したい。
この福岡県弁護士会会長日記も次号から田邊次期会長にバトンタッチをすることになる。次年度もよろしくお願いしたい。
最後にあたって、私の最近の好きな言葉でこの日記を締めくくりたい。
「夢なくして計画なし。
計画なくして実行なし。
実行なくして成果なし。」

2008年2月27日

福岡県弁護士会会長日記

                        会 長  福 島 康 夫(30期)


1 福岡県弁護士会の女性会員が今年ちょうど100人に達した。
私たちの大先輩の湯川久子会員が5月の日弁連定期総会で50年表彰を受けられ、12月の福岡部会の忘年会でお祝いをした。そして、ちょうど節目の50年の年に当会の女性会員がちょうど100人に達した。まずは新年早々おめでたい。湯川先生は九州の女性弁護士第1号であり、まさに日本の女性弁護士の先駆者である。登録されてからこれまでの50年の間には女性弁護士の先駆けとして多くのご苦労がおありになったと思うが、そんな気配は微塵も見せられない。私自身駆け出しの頃、法律扶助協会の審査委員会で長らく御指導頂いた。湯川先生はいつも素晴らしい姿勢である。これも「能」をされているためと思うが、いつまでも若々しく元気で頑張っていただきたい。
日弁連は昨年、男女共同推進参画本部を設置し、男女共同参画社会をめざす活動を始めた。福岡では759名中の100名であるので13%以上となった。現在、常議員30名の中で女性会員は内田常議員と安部常議員の2人だが、男女比から考えても、もっと女性会員が常議員になる必要がある。男女共同参画施策基本大綱では政府目標と同様に2020年までに弁護士会の役員にも30%以上を目指すことになっている。そして、日弁連理事会では私と河辺副会長と同じ机に並んでいる滋賀の元永会長が頑張ってよく発言している。40期の女性会員である。
ところで、現在新設予定の総務委員会に弁護士会の職員関係のセクハラ窓口を設けるべく、常議員会で審議中である。この問題の中心は主には執行部と職員間の関係でということになるが、今後設置しただけで開店休業になるはずである。そうでなければ大問題である。なお、両性の平等委員会では弁護士と事務所の事務員さん、弁護士と弁護士のセクハラ窓口設置を検討中とのことである。


2 互いに顔のわかる弁護士会であるために、茶話会幹事に感謝。
12月20日付けで新60期の17名の新入会員が当会に登録し、当会の会員は現在759名となった。今年4月時点から56名増加したことになる。互いに顔のわかる弁護士会であるための一層の工夫が必要である。会員限定の写真付き会員名簿は今年度以降も毎年発刊する必要がある。
そして、今年度特に茶話会幹事の活躍はめざましいものがあった。
福岡では4月の花見に始まり、納涼船、3庁のボーリング大会、秋のバーベキュー大会、新人弁護士歓迎会、忘年会、新年会と2ヶ月に1回以上の割合での催しである。知名代表幹事をはじめとする茶話会幹事の献身的な活動に大いに感謝したい。
互いの顔のわかる弁護士会であるために、また茶話会幹事の労苦に報いるためにも会員各位の参加を是非ともお願いしたい。特に、若手会員は先輩会員と知り合う絶好の機会である。大いに参加をして盛り上げていただきたい。


3 福岡地裁別館の新築
福岡地裁本庁に新館が建設されることになった。空き地は1カ所しかない。裁判所の西側の駐車場とテニスコートだった場所である。今年3月に着工し9月には完成予定とのことである。新館は2階建てで裁判員裁判用の合議法廷が2つ、単独の法廷が2つ増設されるということである。接見室も2つ設置の予定とのことである。接見室については昨年11月の1審協刑事部会で討議している。なお小倉支部は1つ法廷を増設するとのことである。この新館建築で裁判所の並々ならぬ決意を感じた。いよいよ、裁判員制度の開始まで秒読みとなった。


4 裁判員制度研修
1月12日から14日まで、早稲田大学法科大学院の模擬法廷を使用して、法廷弁護指導者養成プログラムの研修が開催された。当会から徳永響業務事務局長と甲木会員が参加した。裁判員裁判用の尋問技術、弁論技術をアメリカの全米法廷弁護協会所属の弁護士4名からまる3日間研修を受けるというものである。研修の模様はテレビでライブ放送がされたが、私も2日間県弁会館でテレビで見た。非常に参考になると思う。徳永業務事務局長と甲木会員が今後当会に新しい風を巻き起こすことを大いに期待したい。
弁護士会はこれまで裁判員裁判対策が遅れているのではないかといわれていたようであるが、これを契機に一挙に進んでいきたいものである。残すところ1年。待ったなしである。今回の研修は早稲田大学法科大学院の裁判員法廷を利用してなされたが、日弁連には模擬法廷がない。ところで、1月の日弁連理事会では大阪弁護士会館の中に日弁連の資金で裁判員用模擬法廷を設置することが承認された。この模擬法廷は西日本の拠点になる見込みである。


5 弁護士会の贖罪寄付が大幅減の危機
弁護士会の贖罪寄付が危機的な状況である。当会には例年1,000万円以上の贖罪寄付が寄せられていたが、今年度は全国で3億7,000万円以上の贖罪寄付が集められているにもかかわらず当会の贖罪寄付は全額で130万円程度でしかない。例年の10%程度の落ち込みの原因は全国で寄付を集めるようになったために、モティべーションが下がったのであろうか。弁護士会の贖罪寄付は被疑者弁護人援助制度、少年付添人援助制度の重要な財源であり、当会の財政にも直接関係している。なお、他に、法テラスの贖罪寄付の制度はあるが、弁護士会の財政、自主事業の財政に関係しているのは弁護士会の贖罪寄付である。法テラスの贖罪寄付制度は、自主事業の財源になっていないことを留意していただき、あえて付言する次第である。昨年までの当会の被疑者弁護人援助制度の事件はざっと年間1000件、少年付添人援助制度の事件はざっと年間800件。今年度はどちらもさらに増えそうである。このままでは自主事業の財源である弁護士会の贖罪寄付は逼迫し、財政は破綻してしまう。弁護士会の贖罪寄付の制度については裁判所、検察庁にも説明をし、理解を求めている。今年度は残り少ない、弁護士会の贖罪寄付が増加するよう会員各位のご理解をお願いしたい。

2008年1月18日

福岡県弁護士会会長日記

                       会長 福島 康夫(30期)


1 年の初めにあたって
以前ならば執行部の実質の仕事は忘年会で終わりという感があったが,年々忙しくなっていき,今年は最後まで忙しそうである。自ら忙しくしているのではないかという声も聞こえそうであるが,断じてそうではないことをお断りしたい。
全国から公募した2007年の世相を表す漢字は「偽」ということである。昨年はミートホープの偽挽き肉,白い恋人,不二家,赤福,船場吉兆等大手や老舗の度重なる食品偽装問題,年金記録,政治資金を巡る偽装,橋梁の強度偽装等,ありとあらゆる偽装が発覚した。あまりに多いので鈍感になった感があるが,1年間の世相を表す漢字であることは認めざるを得ない。しかし,今年はマイナスイメージの漢字はもうたくさんである。
いよいよ裁判員制度のスタートまで1年となった。が国民の司法参加という観点から大きく司法制度が転換する要素を含んだ重要な制度であるが,取調の可視化が裁判員制度実施の上で必要不可欠である。裁判員になった市民が冤罪を生み出すことがないよう,制度を作っておかなければ市民の方に申し訳ない。また来年は被疑者国選制度が対象事件を10倍に拡大する。重大な制度開始まで残すところは1年。もし失敗でもすれば司法に対する市民の信頼は完全に失墜してしまう。失敗は許されない。今年は弁護士会にとって正念場である。


2 弁護士会館問題―大阪,広島との3会交流での感想
11月17日昨年オープンした大阪弁護士会館で大阪弁護士会,広島弁護士会との3会交流を行った。噂には聞いていたが,大阪弁護士会の執行部の先生方から会館の1階から最上階の14階まで案内していただいた。会館は敷地面積1500坪,建物は地上14階,地下2階建,延べ床面積5000坪。土地の取得費を含めた総費用78億円。2階には800人収容の大ホールを備え,規模の大きさに圧倒された。今や日弁連会館よりも豪華な会館であり,5月の日弁連定期総会はこの大阪弁護士会館で開催されることになっている。 1階の一部と地下(ただし採光が行き届いた半地下である)に法テラスが業務を行っており,親密な関係を保っている。また,市民に開かれた会館を象徴するように,オープン時には大阪フィルハーモニーが大ホールでコンサートを開き,2ヶ月に1回はロビーでクラシックコンサートが開催されている。会館のコンセプトは「市民に開かれた会館」「リーガルサービスの拠点」。建物は大阪の弁護士の夢が実現した,そういう感じの弁護士会館だった。大阪弁護士会は現在会員数が3000人を超えているが,将来,会員登録が5000人になっても大丈夫なようにレターケースを準備しているとのことである。一方,私たちの会館はおそらく弁護士会館の中で最も老朽化しているのではないか。今のところ平成25年には福岡県弁護士会は九大六本松跡地に移転し,新会館がオープンする予定となっている。当会の会員数は現在752名だから,大阪と比べること自体笑われそうであるが,大阪のように会館でコンサートができれば素晴らしいことである。各人が会館の夢を持ちあって,夢を実現したいものである。
ところで,昨年の会館問題は福岡市が設置した九大跡地利用計画策定委員会が利用計画をデザインして以降,表だった動きはなかった。移転時期は平成25年までになっており,今年は大きな動きがありそうである。
夢と言えば,当会が全国で初めて(待機制)当番弁護士制度を創設したのが1990年12月であった。被疑者国(公)選弁護士制度の夢を実現すべく当会は先頭を切って立ち上がった。資金はなかったが夢があった。今それが実現する一歩手前にきている。私も是非とも夢の実現のためにもう一頑張りをしたい。皆さんにももう一頑張りをお願いしたい。


3 拠点事務所問題
12月6日日弁連臨時総会において弁護士偏在解消のための経済的支援策が承認された。
偏在問題の解消は「法の支配を社会の隅々に」という目的を実現するものであり,被疑者国選弁護対応体制の確立と密接に関係している。経済的支援策では各ブロックに拠点事務所が設置されブロックの偏在問題の解消を図ることが期待されている。そこで,九弁連は離島を抱え実質ゼロワン地域が16もあり,北海道,東北と同様に過疎偏在の地域である。
当会は11月7日の常議員会で拠点事務所問題検討プロジェクトチームを設置し,この問題を検討している。現在検討中の内容は次のとおりである。
(1) 指導弁護士の人材確保等の問題から福岡市内に拠点事務所を設置する。
(2) 拠点事務所の主体は九弁連とする。
(3) 福岡県弁護士会は技術的支援をする。
一番問題になる費用についてシュミレーションを策定すべく準備中である。この点を早急に詰める必要がある。プロジェクトチームの結論は2月には出る予定である。当会として,拠点事務所設置に向けて,早急に,かつ前向きな結論を出したい。
いずれにしても,北海道弁連は「すずらん基金法律事務所」を,東北弁連は「やまびこ基金法律事務所」を既に拠点事務所として設置している。日弁連の経済的支援策を契機として,九弁連において,過疎偏在問題解消のための拠点事務所設置が今後の緊急かつ重要課題である。


4 法律相談事業及び弁護士過疎対策に関する九州ブロック協議会イン石垣島(12月1日・2日)
石垣島は台湾の東にあり緯度は変わらない。気温は25度。さすがに暑い。
リゾート気分のルンルンの観光客を横目にしながら4時間の会議はもったいないが,仕方がない。会議では九州各地の偏在過疎問題が議題となった。福岡では柳川支部に弁護士がいないことが問題になった。柳川は全国に3カ所しかないゼロ地域ということで早急に解消するように迫られた。筑後部会からはゼロ地域の解消に向けて鋭意努力中とのことである。今年早々には朗報がくることを期待したい。
2日間の会議の後のわずかな時間を利用して星の砂で有名な竹富島を観光した。竹富島は石垣島からわずかに船で10分のところにあるが,海は青々と澄んでおり,ゆったりとした時間を感じさせる島だった。暑かったが,いっぺんに気に入ってしまった。島の人口は356人。猫51匹,犬29匹,水牛20頭,山羊24頭,牛400頭,ニワトリ10羽と正確に調査がなされていたのにはおかしかった。まさに顔の見える平和な島である。しばしの休息を楽しんだ。


5 日本弁護士政治連盟(弁政連)九州支部設立の件
近時,弁護士会の問題は政治家との折衝が多いということである。確かに以前は法曹三者での協議に任せるという慣習があったが,規制緩和の動き等の中で司法制度改革審議会が設立された前後頃から政府や国会で決めていくことばかりである。法曹人口問題しかりである。それだけに弁護士会の運動を支える超党派の弁護士政治連盟の必要性が高い。特に,司法書士会,行政書士会の総会,懇親会に出席すると,運動に支援をされている多くの政治家が出席されていた。司法書士会,行政書士会の政治力の強さ,それに比べて弁護士会の政治力のなさを実感することが度々であった。日本弁護士政治連盟本部は東京であり,今般九州支部が設立されることになった。弁護士会の運動を強化する意味で喜ばしい限りである。
ところで,2009年から被疑者国選弁護制度は現在の10倍に対象事件が拡大するが,現在のような低額報酬では私たち弁護士の犠牲も限界である。2009年には報酬改善をして適正な報酬でなければ国選弁護のモチベーションはあがらない。来年の予算審議の中で報酬の大幅増額を獲得しなければならないし,この機を逃せば国選弁護報酬を適正化することはできないのではないかと思える。さらには,また,現在,取調べの可視化問題は民主党が参議院に可視化法案を提出し,次年度の通常国会で本格的な審議がなされる可能性が高いとのことである。私たちの弁護士会の理想を追い求め,運動を結実させるためには,超党派の弁政連の活動は必須不可欠である。弁政連九州支部設立総会は1月19日午後5時からである。多くの会員の結集をお願いしたい。


6 私たち執行部の任期は残すところ3ヶ月を切ってしまったが,新年を迎え心機一転全力で会務の舵取りをしたい。これまでの会員の皆さんのご理解とご支援に心から感謝すると共に,残った任期中のご支援をお願いしたい。

福岡県弁護士会会長日記

                  会長  福島康夫(30期)
     
1 九弁連大会 
10月26日宮崎で九弁連大会が開催された。今回のシンポでは相変わらず弁護士の敷居が高いことが明らかになった。しかし,今回は宮崎の若手会員が中心となって宮崎県内の市民の方にアンケートを採るなどして,実証的な調査であった。特に今回衝撃的だったのが,えびの・小林西諸地区では自殺率が全国平均の2倍以上という異常な高さであり,その原因として医療と司法の過疎が大きいことが報告されていた。多重債務に一人苦しんで誰にも相談できずに自殺する人も多いということである。多重債務問題での自殺者は全国で年間8000人。まだまだ法の支配を社会の隅々にという理念は道半ばであるという感を強くした。過疎偏在解消が急務であることが小林の自殺率の高さが明らかにしている。
九弁連大会では世話係の宮崎の若手弁護士の姿が目立った。若手弁護士が急増しているとのことであり,宮崎県弁護士会は活気が出ていることが実感できた。いまブロックの活動範囲は格段に広くなっている。次回九弁連大会は10月24日に大分別府で開催されることが決まっている。多数の参加をお願いしたい。


2 テレビ会議システム
11月10日,担当の大石副会長からの光ファイバーが開通し,テレビ電話会議システムが設置できるめどが立ったとのメールが入った。これまで文化財保護の関係で,県弁の会館ではテレビ電話はできないということが定説だった。そのため天神センターにテレビ会議システムを設置しやむなく悪条件で日弁連の委員会をテレビ会議で行っていたが,ようやくこれでちゃんとしたテレビで会議ができることになった。日弁連の全国テレビ会議網設置をきっかけに念のため福岡高裁に問い合わせをしたところ,平田高裁事務局長をはじめとして高裁事務局から快くご協力をいただくことができた。感謝。 
今回のテレビ会議システムで日弁連は勿論全国52単位会を結ぶことができ,委員会は勿論研修もテレビ会議でできるようになった。九弁連も多額の交通費が節約することができ,財政も楽になった。また部会もつなぐことができ,県弁の委員会活動が活発になるシステムが完成した。問題は最も重要な会員の熱い熱意である。せっかく設備がそろったのであるから,これまで以上に活発な会議ができるよう委員会活動の活性化を期待したい。


3 BBCニュースの可視化報道
10月29日,吉野正会員(法テラス福岡事務所長)から鹿児島の志布志事件がBBCニュースで紹介されているということで英文の記事をFAXしていただいた。99パーセントの有罪率,自白強要,代用監獄という問題点について鹿児島志布志事件を紹介しながら報道されていた。そして,鹿児島志布志事件の元被告人の方が今取調の可視化の運動をしているという報道がなされていた。BBCニュースで日本が報道されるのはせいぜい自然災害程度ということであり,極めて珍しい報道とのことである。当番弁護士発祥の地で,かなり以前から取調の可視化を実施しているイギリスにとって驚きであろう。この報道を日本政府は恥ずかしくないのであろうか。取調の可視化を裁判員制度実施前の来年,必ず実現しなければならない。決意を新たにした貴重な報道であった。


4 家裁の接見室の設置(11月13日)
福岡家庭裁判所には接見室がなく,付添人として当日の家裁追送致に対応できないという問題点があった。接見室の設置は接見交通権の重要性から当然のことであるが,これまで設置がなされないままとなっていた。接見室の設置問題を6月27日に開催された福岡家裁との協議会で提案していたが,このときははかばかしい回答が得られなかった。ところが,10月に入り,福岡家裁の裁判所の建物内に接見室を新設するという連絡を受けた。家裁内部ではあれこれ検討していただいていたことがわかった。そして,11月13日斉藤副会長,橋山子どもの権利委員会委員長並びに委員と一緒に新設予定の場所を視察した。当日は浜崎家裁所長自ら新設に案内していただいた。場所は審判廷の隣の合議室を改造して新設するとのことであり,絶好の場所である。これで更に充実した付添人活動が可能となった。家裁のご尽力に感謝した次第である。


5 対外広報PT設置
11月8日の常議員会で対外広報PTの設置の承認をしていただいた。現在,電話帳広告に約800万円,年1回発行している広報誌ウオークに90万円の予算支出をし,これまで対外広報はこれが慣例という様相を呈していた。しかし,今年度の多重債務者救済広報でテレビ,ラジオの宣伝を行い,これまでと同様に紙ベースの広報に頼っただけでいいのかじっくり検討する必要があると考えられた。多額の広報予算を使っているにもかかわらず広報効果が少ないというのでは広報の意味はない。来年の広報予算編成のためにもここで広報を抜本的に見直す必要があると考え設置した次第である。対外広報の問題は全国どこの会でも共通である。時代に乗り遅れない最先端の広報戦略ができたらすばらしい成果である。


6 ひまわりサーチ(弁護士情報提供制度)(11月1日)
11月1日から日弁連単位でホームページ上での情報提供制度が発足した。
市民の弁護士に関する情報を知りたいという要望に対応して発足した制度であるが,まだ始まったばかりである。市民のかたの中には最もその分野に精通した弁護士に依頼したいという欲求があるが,なかなか難しい問題である。弁護士会が精通弁護士の認定,専門職の認定をすることは困難であり,古くて新しい問題である。特に,当会は法律相談センターでの登録,登録弁護士の研修という点を重視しており一部の弁護士を専門弁護士として紹介するという制度は採っていない。その意味でこれまでの基本線に乗っ取った新たな制度をいうことになろう。当会では重点取り扱い項目を5項目設けることにする制度設計をした。使い勝手は今後考えながら改善するべきは改善することで考えることにしている。いずれにしても市民の期待に応えるためには会員各位の掲載の協力が必要である。


7 民暴拡大全国会議(11月16日)
11月16日ホテル日航福岡で民暴対策全国拡大協議会が開催された。当日,平山日弁連会長は6時の飛行機で来福された。先週は徳島での四国弁連大会で御一緒だったが1週間後に福岡の会議とは。70歳を過ぎておられるのにタフさにびっくりである。当日の参加が心配されたが全国各地から400人近くが参加をし,会場一杯な参加者があふれ盛況であった。田中九弁連理事長から6月の司法シンポに引き続いて今回の拡大協議会と年に2回も大きな会議をやって福岡はすごいですねとほめられた。最近の若手を中心にした活動が福岡の実力を上げていることを実感した。今回は企業対象暴力がテーマであり,実務的に非常に有益な会議であった。当会の今年度の全国規模の大会は無事に終了した。関係各位に感謝。

2007年12月21日

福岡県弁護士会会長日記

                     会 長  福 島 康 夫(30期)


臨時総会(10月2日)
10月2日の臨時総会の主たる議題は被疑者弁護人援助制度、少年保護事件付添人制度等9つの自主事業を法テラスに委託するにあたっての規程の整備であった。9つの自主事業を活発に行っており、当会がトップの利用件数である。少年保護付添人援助事件や精神保健当番弁護士等今後とも活発に活用し、国の制度にする必要がある。


新入会員歓迎会(10月2日)
臨時総会終了後、9月に当会に登録した39名の新入会員(現60期)に対する歓迎会を開催した。さすがに39名という人数は学校の1クラス分であり壮観である。これで現在の当会の会員数は741名となった。福岡部会549名(内女性会員77名)、北九州部会116名(内女性会員12名)、筑後部会59名(内女性会員8名)、飯塚部会17名(内女性会員0)。ちなみに九弁連は総数は1525名となり、佐賀57名、長崎94名、熊本158名、大分92名、宮崎74名、鹿児島97名、沖縄212名となっている。九弁連の他の会も新入会員の増加は著しいようである。この他にも委員会の主催で当番弁護士・当番付添人研修会、精神保健当番弁護士等研修会を催し、その後で懇親会をすることにしている。会の予算は全く使わず先輩が後輩におごるという伝統が受け継がれてきた。新入会員は急激に増加しているため新入会員に対して一部費用負担をお願いする話しもあったようであるが、これまでどおりとなったとのことである。互いに顔のわかる弁護士会であるためにもこの良き伝統だけは続けていければと思う。12月20日には新60期が当会に登録する。現段階で18名程度のようである。新入会員の皆さんは懇親会には特に全員参加して頂きたい。互いの顔のわかる弁護士会であるためにはやはり懇親会に出席することが一番である。紙面を借りてお願いする次第である。
当会の会員数が1000名に届くのは時間の問題である。大単位会には派閥があるが、福岡には派閥がない。それは素晴らしいことであるが、それだけに、今、互いの顔のわかる弁護士会であるための工夫がこれまで以上に必要となる。これまで以上に全部会の茶話会幹事の皆さんにも大いに奮闘をお願いしたい。


弁護士大量増員問題
本年度弁護士登録は2200人に達するとのことである。全国では現60期は1200名、12月に新60期が1000名近くが登録することになるようである。当初、就職できない修習生が現60期で100名程度になるのではないかと心配されたが、最終的には10名程度になるのではないかといわれている。しかし、それでも就職浪人が出るという事態は深刻なものになっている。
ところで、急激な弁護士増員は偏在問題の解消にはつながらないし、現につながっていない。偏在問題を解消することが急務となっている。1年半後の2009年被疑者国選弁護事件の対象事件が10倍に拡大するが、そのためにも偏在問題の解消が急務である。偏在問題解消のための弁護士を養成し、弁護士が帰っていける拠点事務所が必要となる。東北弁連は拠点事務所を設置することが正式に決定されている。聞くところによるとやまびこ基金法律事務所という名称だそうである。九弁連でも拠点事務所を設置すること、特に福岡で拠点事務所を作ることを早急に検討しなければならない。
魅力的なネーミングも必要である。北海道は「すずらん」、東北は「やまびこ」、九州は…?。
昨年、政府の規制改革・民間開放推進会議では合格者を1万2000人程度にすべしという意見が出たそうである。単に弁護士を安上がりに使おうという論に他ならないが、際限のない法曹人口増員論に歯止めをかけるためにも偏在問題の解消は急務である。
2010年には3000名体制になるとのことであるが、今後、本当に就職先があるのか、法曹の質が急激に低下しないか心配である。司法制度改革審議会は2020年に法曹人口を5万人にする計画を立てたが、改革審議会の意見書当時とは状況が一変した。現在の弁護士数は2万4000人を超えており、そればかりか140万円までの訴額の簡裁事件ができる認定司法書士は1万人を超えたということである。合計すれば現在既に3万4000人以上に達している。今後、弁護士と認定司法書士の数だけでも加速度的に増加していくことは確実であり、認定司法書士を加えると5万人に達するのも予想外に早いであろう。法曹の数の急激な増加によって質の急激な低下が心配である。もしそうなれば、利用者である市民が被害を被ることになる。
この問題はあくまでも市民のための司法の実現という観点からの検証であることを忘れてはならないと思う。偏在問題に一定程度のメドをつけて、本当に3000人体制がどうなのか、検証しなければならない。
鳩山法務大臣は週刊誌のインタビューで、合格者が3000人というのは多すぎる、1500人で十分だと話したということである。法曹の質の観点からの発言が出てきたということであろう。歓迎すべき重要な発言である。司法界にとって重大な問題である。


釜山地方弁護士会との交流会(10月19日)
当会は6月22日から24日まで釜山弁護士会を訪問して大歓迎を受けたが今度は釜山地方弁護士会からの訪問である。釜山地方弁護士会から金泰佑会長をはじめとして総勢36名の訪問団をお迎えした。金会長は私よりも若く(確か53歳だったと思う)、物腰が柔らかく紳士である。前回の訪問の際にいっぺんに親しくなった。訪問団は法テラスを見学した後、会館の3階で意見交換をした。今回のテーマはロースクール問題である。韓国では2009年3月からロースクールが開設されることになっており、既に47校の申請があり、その内の15乃至20校が認可される予定であり、初年度は1500名が法曹になることを予定しているとのことである。しかし、韓国の人口は4500万人程度で、日本の3分の1であり、1500人の合格というのは急激な増加という感がある。釜山地方弁護士会からは張俊棟副会長が説明をし、当会の牟田会員が日本のロースクールの現状と課題を説明した。釜山地方弁護士会の先生方は日本の制度にも詳しく、意見交換は予定時間がなければいつまでも続くかのように真剣味を帯びていた。時間が不足したのが残念である。韓国も日本と軌を一にして司法制度改革が進んでいる。相互に情報を交換し意見を交換することの重要性はますます高まっている。実務的な面でも今後の密接な交流の必要性を痛感した。
会議終了後は場所を「稚加栄」に移して懇親会を開催した。今年は当会が6月に訪問したが、その際の懇親会では韓国の伝統芸能である「パンソリ」で歓迎を受けた。当会としては今度は福岡に縁の深い日本の伝統芸能ということで日本舞踊の「黒田武士」に決め、日本舞踊の名手の山田敦生会員にお願いした。当日は乾杯の前に山田会員には花柳流の舞踊をご披露頂き大成功であった。山田会員には会を代表して大いに感謝申し上げたい。その後、当会の木梨吉茂会員と釜山弁護士会の黄会員の楽しい乾杯の挨拶の後、時間を忘れて親しく歓談をした。
来年は釜山弁護士会創立60周年ということである。来年はお祝いのために大挙して訪問する必要があろう。


国会議員要請行動(10月24日)
8月の理事会で国選弁護報酬の大幅アップを要求する件が承認された。ところが、法務省は来年度の国選弁護報酬を昨年100億円だったのを5億円減額して概算要求をしたことが判明した。最近わかったことは国選弁護報酬の法テラスの半年分の予算が30億円だったのが現実に支出した金員が20億円であったため、10億円予算が余ったということである。予算が余った原因は何なのか徹底的に調査をする必要がある。
ところで、国選弁護報酬は法テラスの事業になったことを契機に報酬基準が改定され、その結果基礎的な簡単な事件の報酬が大幅に値下げになってしまった。最大18%値下げになったということである。私も昨年簡裁の国選弁護事件で結構熱心に活動した結果手取り6万円程度でしかなく、余りの安さに腹立たしかった。全国の弁護士が不満を持っている。このままでは国選弁護のモチベーションが下がるばかりである。
10月24日には日弁連の執行部と理事の全員が手分けして各県選出の国会議員に対して国選弁護報酬の大幅増額の要請行動をした。国選弁護はボランテイアではやっていけないこと等現状を説明し、理解を求めた。反応は良かったと思う。何としてでも2009年の被疑者国選実施までに国選弁護報酬の大幅増額が必要である。
この国選弁護報酬問題を始めとして政治家に対して理解を求め、賛同を求めることが年々多くなっている。昨年はゲートキーパー問題や、貸金業者の上限金利引き下げ問題であった、現段階では国選弁護報酬問題、取調べの全過程の可視化問題が代表的であろう。司法書士会、行政書士会等他の会は政治連盟が活発に活動している。日本弁護士政治連盟(弁政連)は超党派で弁護士会の活動を支える組織である。国選弁護報酬問題、取調べの可視化問題その他多くの司法改革問題で特に政治連盟の活動が必要になっている。全国単位では弁政連があるが、これまで九州には支部がなかった。そこで、1月に弁政連の九州支部の創立総会をすることが計画中である。追って会員の皆さんに入会の勧誘がなされる予定ということだが、多数の参加をお願いしたい。

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