福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)

2023年3月号 月報

あさかぜ基金だより

月報記事

壱岐ひまわり基金法律事務所前所長 西原 宗佑(71期)

1 はじめに

私は、2019年1月よりあさかぜ基金法律事務所で約2年間執務し、2020年12月より長崎県壱岐市の壱岐ひまわり基金法律事務所へ赴任しました。この度、本年1月末で2年間の任期を満了し、3月より福岡県弁護士会へ再登録することになりました。そこで、一足早いですが、私から壱岐のこと、そして壱岐ひまわりで行った業務について簡単ですがご報告させていただきます。

2 壱岐とは?

まず、壱岐はご存じの方も多いかと思いますが、福岡市から約80km北北西に離れた離島で、福岡市内(博多ふ頭)からは、高速船でわずか約1時間、フェリーでも約2時間30分で向かうことのできる島です。人口は約2万5000人、面積は133.82k㎡でありまして、これは島内を一周するのに自動車で1時間程度走らせれば足りる程度の面積です。これだけ面積の小さな島に2万5000人の島民が暮らしている島になります。壱岐の主な特産物は、ウニ、壱岐牛や麦焼酎です。壱岐と言えばウニというくらいウニは多くの方に知られている特産品だと思います。ただ、壱岐で採れたウニの多くは福岡や東京などの都市部へ出荷しますので、島内でのウニの流通量が少なく、意外と島内での価格は割高です。そのため、島民の方でも頻繁に食べることはできないということでした。壱岐牛は、島外の方にはあまり知られていないかもしれませんが、後に神戸牛や松坂牛など高級和牛になる前の子牛として日本各地の畜産家の方が購入して飼育しているほど立派なもののようです。肝心の味ですが、壱岐牛は食べると肉の中にも柔らかく甘みがあるのが特徴で非常に美味しいです。

また、壱岐では麦焼酎も有名です。壱岐が麦焼酎の発祥地だそうです。実際、島内には麦焼酎の酒蔵が現在7か所あります。古代から稲作が盛んな地域ですので、麦焼酎が飲まれるようになったのではと思います。

このように壱岐は多数の方が第1次産業に従事されて生活されている状況です。

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3 壱岐ひまわりでの業務

次に私の壱岐ひまわりでの業務をご紹介します。私の2年間の任期中、事務所での総相談件数は255件、毎月1回の社会福祉協議会での出張相談を含めればさらに多くのご相談を担当しました。また、2年間の間に実際に新規で依頼を受けた件数も合計で121件に上ります。そのため、任期中の手持ち事件も平均して50~60件を同時進行しており、相談予約が1週間待ちとなることもありました。少なくとも任期中新件の仕事が来ないという期間は全くと言ってよいほどありませんでした。

事件類型としましては、離婚事件をはじめとした男女間トラブルの相談・依頼が圧倒的に多く、次に債務整理や相続が続きます。他方で交通事故や刑事事件は比較的少ない印象です。壱岐での一般民事の訴訟事件は、例年裁判所のワ号事件の事件番号が20までいくかいかないか程度の事件数です。さらに、壱岐ひまわりへの相談者は属性が偏っているかと思いきや、農家・漁師をはじめ、公務員、法人事業者、専門職などあらゆる属性の方からの相談を頂き、壱岐でもこれだけひまわりが認知され頼りにされているということが分かりました。このように弁護士過疎地域での弁護士の存在意義は都市部と比べて非常に大きいことが壱岐での弁護士業務のやりがいの一つになっていたと感じます。

他方で、壱岐のような弁護士過疎地域では利益相反が頻発します。壱岐ではひまわりと法テラスとの対立構造となることが多く、仮に3人以上の利害関係者が出現した場合には、利益相反の観点から3人目以降は島外の弁護士に相談依頼することになります。私の任期中でも過去に利害関係者からの相談を断らざるを得なかったケースも複数件ありました。また、利益相反とまでは言えないけれども、島内のコミュニティが狭いがゆえに依頼を受けている別事件同士の関係者が繋がってしまうこともありました。たとえば、私がある事件を受任中に、相手方から提出された資料から現れた利害関係者が他の事件の依頼者だったというケースもありました。このように、依頼者やその他の関係者間の人間関係が非常に近いということが壱岐の特徴だということも分かりました。

そのため、弁護士過疎地域の弁護士としては、利益相反、守秘義務に留意することが特に重要だと感じました。

近年九弁連管内ではひまわり事務所の定着化が進んでいますが、壱岐での定着はほとんど不可能ではないかと思います。先に述べたとおり、壱岐は離島かつその面積が狭いため、利益相反が頻発することに加え、事件関係者が繋がってしまう状況が頻繁に生じるため、定期的に所長弁護士が交代することでこうした事態を一旦リセットする必要があるからです。実際、壱岐ひまわりでは2代以上以前の所長が受けた事件記録を含む関係者情報は全て遮断して、後任所長のもとで新件として受任できるような体制を作っています。このように、壱岐ではむしろ定期的に所長が交代する必要があるとさえいえます。

4 壱岐での生活

次に私の壱岐での生活についてご紹介します。赴任当初は、コロナ禍まっただ中であったため、島外への移動も制限される状況でした。当初は壱岐でコロナの感染者が出れば、たちまち島内で犯人(感染者)探しが始まり、見つかれば島民から迫害をされてしまう状況になるといっても過言ではありませんでした。毎日夕方の島内一斉放送で壱岐市内でのコロナの感染者数が発表されていましたのでそのことも犯人探しに拍車をかけていました。そのため、私も島外に出て万が一コロナに感染したということが島内に広まればたちまち壱岐ひまわりの信用は地に落ちると思いまして、赴任当初は壱岐島外に出ることはなくひっそりと島内で生活していました。しかし、休日を壱岐で生活した場合、ショッピングモールや島内の飲食店などに出かけることになるのですが、休日のショッピングモールは依頼者の子どもたちの面会交流の場となっており、島内の飲食店の経営者が相手方だったり、仕事と関係のない飲食店に行っても事件関係者を見かけたりするため、休日も仕事の感覚から解放されることはなく若干の息苦しさを感じていました。壱岐は対馬や五島などと比べて面積が狭い島ですので、他の離島と比べても比較的このような事態が生じる頻度が高いのではないかと思います。

赴任1年目の終盤になって、ようやくコロナ禍も落ち着いてきて、島外に出るハードルが下がってきたので、私も島外への移動が多くなりました。私は単身赴任で壱岐へ行っておりましたので、気分転換のために福岡の妻のもとに帰る頻度も自然と増えていきました。

4 今後ともよろしくお願いいたします

赴任当初は不安だらけでしたが、ひまわり基金法律事務所を支えて下さる先生方を始め、あさかぜの時にお世話になった先生方からのサポートのもとで何とか2年間の任期を果たすことができました。壱岐ひまわりでは、私の後任の宇佐美竜介弁護士が昨年12月に着任しまして、本年2月6日に壱岐市内のホテルにて私から宇佐美弁護士へ所長を引き継ぐ引継式・記者会見を実施しました。引継式には日弁連の壱岐ひまわり支援委員会委員長や九弁連理事長、事務局長と長崎県弁護士会長が参加され、島内からは地元の新聞社等が出席されていました。また、同日に壱岐市長や商工会、検察庁や裁判所へ所長交代の挨拶にも行きました。このように、壱岐ひまわり所長の交代は島内では一大イベントとなっています。

今後は宇佐美所長の下で、壱岐ひまわりを存続させ、壱岐の島民のために頑張ってくれると思います。あさかぜ、ひまわりといった公設事務所は、会員の皆様のサポートをもって成り立っている部分も大きいですので、皆様におかれましても、どうか引き続きあさかぜをはじめとした弁護士過疎地域にかかるサポートをよろしくお願いいたします。今回の私の報告が皆様の弁護士過疎地域への支援における判断の一助になっていただければ幸いです。

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