福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)

2023年3月号 月報

社外役員に関する連続講演会(第1回)

月報記事

会員 阿部 雄大(74期)

1 はじめに(WODICについて)

去る令和5年1月16日、弁護士業務委員会におけるPTの一つである「WODIC」勉強会において、「社外役員に関する連続講演会」の第1回目が行われました。本稿では、ご講演の内容のご報告の前に、簡単に「WODIC」についてご紹介させていただければと思います。

「WODIC」とは、「公益通報者保護法(=Whistleblower Protection Act)」「社外役員(=Outside Director)」「第三者委員会(=Independent Committee)」の頭文字から名づけられた造語であり、これらの企業法務分野において法の支配を貫徹させるための制度の理解を深めるべく、令和4年1月25日に発足した新しいPTです。WODICでは、これまでに企業の法務担当者や社労士の先生等の外部の方もご参加いただき、改正公益通報者保護法(W)に関する勉強会を継続して行ってきました。

今回、新たに「社外役員」(OD)をテーマとする連続講演会を開始することになり、その記念すべき第1回の講師として、古賀・花島・桑野法律事務所の古賀和孝弁護士(38期)をお招きし、ご講演をいただきました。講演会は弁護士会館だけでなく、ZOOM配信も併用する形で開催し、会場参加が15名、オンラインでの参加が52名の合計67名と多数の先生にご参加いただきました。

私もWODICメンバーの一人として現地にて参加し、拝聴して参りましたので、以下ご報告させていただきます。

2 社外役員就任のご経歴

古賀先生の最初の社外役員就任は12年ほど前で、そのときは顧問先企業から打診されたそうです。そこから、現在では、東証プライム上場企業から地場の中小企業に至るまで、合計4社の社外役員のご経験があるそうです。古賀先生は、多くの企業において社外役員に就任されていますが、その端緒としては、紹介や顧問先からの打診が多いとのことでした。

日頃、弁護士として企業の役員や担当者、他士業の方と関わる中で、法律知識、経験や人柄といったところを知ってもらい、信頼を得られからこそ、社外役員という役職が回ってくるということが多いのだろうと思いました。

3 社外役員の業務内容・業務時間・役割

古賀先生が社外役員を務めておられる会社では、その企業の規模等によって多少の差異はあるものの、基本的には、月に1度(中小企業であれば2か月に1度)の役員会に出席することであり、平均的に1,2時間程度の役員会議が行われるそうです。もっとも、全体の役員会の前にさらに監査役会や取締役会といった個別の会議での議論も含め、最も長いところでは1日合計で約10時間も会議を行う企業もあるそうです。

弁護士である社外役員の役割・業務としては、事前に議題を頭に入れて会議に臨み、法律のプロとしての視点から意見を述べるということが求められているとのことです。従来は、会社内部の意見や決定に対して外部の視点からブレーキをかけるという面が強かったそうですが、近年は、会社の意向を把握した上で、単なるリスク説明やストッパー的な役割を果たすのみならず、会社の一メンバーとして、法律上のリスクを説明した上で、各企業の意向を実現するためにどのようなことができるかという解決策や改善策といった具体的な提案をすることが求められることが多くなったと仰っていました。一方、中小企業等、経営者の個性や発言力の強い企業においては、社内役員では日頃の関係性上、意見しづらい部分についても強く意見をいうことで会社の軌道修正を行うことも求められるとのことでした。企業の規模や体質、事業内容、経営者の個性などによって求められる社外役員の役割が異なってくるというのは、さまざまな企業で社外役員を務めてこられた古賀先生ならではのご実感であり、一言で社外役員と言っても各企業の個性や性質を理解し、求められる役割を果たすところに難しさがあると同時にやりがいや面白みがあるように感じました。

また、弁護士という立場ではあるものの、経営陣に参画することについて、古賀先生ご自身は、あくまで専門的な経営判断については、経営のプロとして社外役員を務めている他の役員に任せてあまり深入りしすぎず、法律のプロという視点で意見をするということを仰っていました。また、社外役員として活躍するためには、ある程度の経営の知識は身に着けるべきではあるものの、財務に関する知識は相当奥の深いものであるため、全て自分で身に着けなければならないというものではなく、わからないことは周囲の役員に聞くことも重要であるとのことでした。法律のプロとしての誇りを持ちつつ、他の役員に対してリスペクトをもって、謙虚に接される姿勢にも学ばされました。私自身今後経験や年次を重ねても古賀先生のような謙虚さを忘れずにいたいと思った次第です。

4 社外役員になることのメリット

弁護士が社外役員をすることのメリットの一つとしましては、争点を素早くつかみ、企業の抱える問題の解決の糸口を考えるという視点やその解決策についてのエビデンスについても考えるという思考方法そのものも弁護士業務に活きるとのことでした。また、実際に企業の内部に入ることで、日々の紛争案件の背後の知識がわかるということもあるとのことでした。

弁護士の業務分野の拡大という意味において、社外役員という活躍の場があるということに加え、そのような分野に取り組むことによって従来の弁護士業務にとってもプラスになる経験を得られるというのは、(もちろん役員としての重責は負いますが)社外役員になることの魅力の一つであると思います。

5 弁護士が社外役員として活躍するために意識すべきこと・準備すべきこと

この点については、企業が営利活動を行うことに対しての理解があるかということが重要であるとのことでした。確かに、私自身、日頃の法律相談等では、無意識的に法的な検討やリスクの説明に傾倒してしまいがちですが、上記でも触れた通り、単なるリスク説明にならず、営利活動によって利益を生み出すということの意味を理解し、一定のリスクを背負ってでも利益を生み出すためにどんな手段を取りうるのかという一歩進んだ提案をできるよう意識を持って日々の業務に取り組もうと感じた次第です。

また、社外役員として活躍する機会を生み出すためにも、弁護士自身が法律的な専門知識だけでなく、最新のトレンド(最近だと、「環境問題」や「ダイバーシティ」等がアツいそうです)を踏まえ、自身の見解を積極的に発信するということも重要であるということでした。

また、弁護士は研修や会合等で積極的に外にでて、外部の人々と交流することが重要であるというお話は特に印象的でした。自分自身の強みやセールスポイントを作るために、積極的に法律以外についても知識を身につけ、それを外部に発信することや、外部の人々と交流をする中で、見聞を広め、人間関係を構築していくことも業務と同じぐらい重要なことなのだと改めて感じさせられ、色々と考えるきっかけをいただきました。

6 おわりに

「社外役員」については、講学上、当然知ってはおりましたが、どうやって社外役員になるのか、なったとしてどのようなことをすればよいのか、社外役員になるためにどのような準備や心づもりが必要なのかといった個別具体的な部分についてのイメージは持てずにおり、それ故に社外役員としてご活躍されている古賀先生の実体験に基づくお話を伺えたことは大変貴重な機会となりました。

私自身は、まだ弁護士1年目の見習いですので、万が一、将来的に社外役員というお役をいただけるとしてもまだまだ現実味のないことのようにも思っておりました。しかし、日頃の顧問先への対応一つ、企業における営利活動の意味合いを理解できるよう努め、法的なアドバイスに終始せずに企業のニーズにあったご提案をするなど、自分の業務に対して付加価値を付けられるよう日々意識することは、弁護士として非常に有益な視点であり、今からでも意識すべきことのように思いました。今回の講演会での学びを日々の業務に活かせるよう精進したいと思った次第です。


この「社外役員講演会」は連続講演会でありますので、今後も素晴らしい講師の先生方からご講演をいただけるものと確信しております。今回参加された皆様も、参加されなかった皆様も、ぜひ次回以降のご参加をお待ちしております。
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