福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)

2023年1月号 月報

人権大会第2分会プレシンポジウム 『デジタル社会と人権』を考える-デジタル化、AIの活用で社会はどう変わる?-

月報記事

情報問題対策委員会 委員 古賀 健矢(70期)

1 はじめに

令和4年9月10日に福岡県弁護士会館及びZOOMウェビナー配信にて、「『デジタル社会と人権』を考える-デジタル化、AIの活用で社会はどう変わる?-」と題するシンポジウムを開催しましたので、ご報告いたします。

2 シンポジウム開催の背景

本シンポジウムは、本年度の日弁連人権擁護大会の第2分科会シンポジウム「デジタル社会の光と陰~便利さに隠されたプライバシー・民主主義の危機~」のプレシンポジウムとして企画されたもので、九弁連及び日弁連との共催にて福岡県弁護士会の主催で実施されました。

日本におけるデジタル庁の発足に伴うマイナンバーカードの事実上の義務化等によるデジタル化の強制や、民間事業者のAIの導入による市民のグループ分けといった問題が生じているという現状において、1人1人の市民が何を考えるべきか問題提起を行うことを目的とし日本におけるデジタル化の進展に伴う法的整備の重要性についても、日本国民であり法律家である我々がよく認識していかなければならないと感じました。て、本シンポジウムは開催されました

3 シンポジウムのプログラム
(1)活動報告

まず、情報問題対策委員会委員の赤﨑裕一弁護士が同委員会の活動報告を行いました。

活動報告においては、同委員会の主導により出された2つの当会会長声明(「福岡市が監視カメラを設置しないよう求める声明」、「マイナンバーカードの義務化とデジタル関連法案に反対する会長声明」)について紹介がなされました。これらの声明は、いずれも行政のデジタル化の危険性について指摘するものです。

(2) 基調報告

次に、憲法学者の山本龍彦教授(慶應義塾大学法科大学院)より、「AIと人権」と題する基調報告をいただきました。

山本教授は、AIの発展による憲法価値へのリスクとして、高度なプロファイリングによりプライバシー侵害が懸念されること、AIにより人々がどのようなことに関心を向けるかといった思考のメカニズムまでもが操作下に置かれ自己決定権が奪われるおそれがあること等を挙げられました。

中でも印象に残ったのは、総務省傘下の情報通信研究機構がSNSの情報から個人のIQや生活、精神状態、人生の満足度などを見抜く実験に成功したという例を取り上げて、AIを用いた心理プロファイリングにより、細かい精神状態やまで分析が可能になっているというお話でした。AIを用いることにより、これまでは想像もできなかった領域でプライバシーや内心の自由に対するリスクが生じ得るのだということを強く意識させられました。

山本教授は、AI導入のリスクを防止する方法としては、AIから得られたデータの使用方法について情報の主体となる各個人が自ら決定できるよう、データ保護施策の整備を行うことが重要であると指摘されていました。

(3) パネルディスカッション

次のプログラムでは、山本教授に加え、読売新聞編集委員の若江雅子氏、長崎県保険医協会会長の本田孝也医師にパネリストとしてご登壇いただき、情報問題対策委員会委員長の武藤糾明弁護士をコーディネーターとしてパネルディスカッションが行われました。

昨年発足したデジタル庁の懸念点というテーマにおいては、若江さんは担い手の透明化の必要性を訴えられていました。また、山本教授は、個人の情報コントロールの権利が無視されていると指摘し、政府は当該権利をデジタル化の障害になると考えているのではないかとの意見を表明されました。

デジタル化はどのように進めるのが良いかというテーマにおいては、若江さんは、国民個人の同意を得ることの重要性を指摘されました。山本教授は、国民の側も過度なプロファイリングが行われることについて、単に「気持ち悪い」という感情を抱くだけでなく、それが権利侵害であることをしっかり認識しなければならないことを指摘されました。本田医師は、押しつけのデジタル化ではなく、国民が有益に利用できるデジタル化が望ましいとの意見を述べられました。

4 おわりに

本シンポジウムは、AIの導入やデジタル化の利便性や革新性を知ると同時に、その裏側にあるリスクについて認識する良い機会になったのではないかと思います。

日本におけるデジタル化の進展に伴う法的整備の重要性についても、日本国民であり法律家である我々がよく認識していかなければならないと感じました。

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