福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)

2022年11月号 月報

中小企業支援センターだより 事業承継ガイドラインについて

月報記事

中小企業支援法律支援センター 鬼塚 達也(71期)

1 4つのガイドライン

令和4年3月に、中小企業の事業再生・事業承継に関する4つのガイドライン(中小企業の事業再生等に関するガイドライン、廃業時における「経営者保証に関するガイドライン」の基本的考え方、事業承継ガイドライン(改訂版)、中小PMIガイドライン」)が公表されました。そのうち、今回は事業承継ガイドライン(改訂版)についてご説明いたします。

2 事業承継ガイドライン
(1) 事業承継ガイドラインとは

事業承継ガイドライン(以下「ガイドライン」といいます。)は、中小企業庁において、中小企業経営者の高齢化の進展等を踏まえ、円滑な事業承継の促進を通じた中小企業の事業活性化を図るため、事業承継に向けた早期・計画的な準備の重要性や課題への対応策、事業承継支援体制の強化の方向性等について取りまとめたものです。ガイドラインは、事業承継を検討するに際して有用なものです。

昨今の新型コロナウイルス感染症の影響もあり、事業承継を後回しにする事業者も少なくありません。当該状況を踏まえて事業承継をより一層推進するため、令和4年3月にガイドラインの改訂版(改訂内容・・・掲載データや施策等の更新、従業員承継や第三者承継(M&A)の説明の充実、後継者目線での説明の充実)が出されました。

ガイドラインによると、九州では後継者不在率が従前に比べて悪化しているとのことですので、会員の皆様の関与がより期待されます。

(2) ガイドラインの主な内容

ガイドラインの主な内容は、事業承継に向けた早期・計画的な取組の重要性(事業承継診断の導入)、事業承継に向けた5ステップ1の提示、地域における事業承継を支援する体制の強化の3点です。

3 ガイドラインにおける弁護士の関わり方
(1) ガイドラインでは、弁護士の関わり方として以下のものが想定されております。
  • 経営者と共に金融機関や株主、従業員等の利害関係者への説明・説得
  • 法律面全般の検討と課題の洗い出し(とりわけ、株主関係が複雑な場合や、会社債務・経営者保証等に関する金融機関との調整・交渉が必要な場合、M&Aを活用する場合)
  • 法律面全般の検討と課題の洗い出しを踏まえたスキーム全体の設計
  • 契約書をはじめとする各種書面の作成
(2) スキーム全体の設計の具体例

ガイドラインでは、スキーム全体の設計に関して、株式・事業用資産の分散防止という観点又は事業承継の円滑化という観点から、以下の方法を活用することが提案されています。

  • 株式・事業用資産の分散防止
    (ア)事前
    生前贈与、安定株主の導入、遺言の活用、遺留分に関する民法特例
    (イ)事後
    買取資金等の調達、自社株買いに関するみなし配当の特例、会社法上の制度(相続人等に対する株式売渡請求、特別支配株主による株式等売渡請求、株式併合及び端数処理、名義株の整理、所在不明株主の整理)
  • 事業承継の円滑化
    種類株式、信託、生命保険、持株会社
4 当センター勉強会での意見

当センターの有志は、ガイドラインが改訂されたことに合わせて、勉強会を行いました。勉強会においては、ガイドラインには記載がないものの有意義な意見が多数出されました。以下ではその一例を記載いたします。

  • 現在において、第三者承継が増えてきてはいるが、第三者承継より親族内承継の方が多い。しかしながら、親族内承継ではM&A仲介業者が関与することがほとんどないことから、親族内承継の支援が手薄である。そこで、弁護士として親族内承継を積極的に支援すべきであろう。
  • 株式・事業用資産の分散防止に関して、株式が分散している場合には弁護士が早期に関与して株式集約を行うべきであろう。
  • 事業承継の円滑化に関して、種類株式の導入には先代経営者及び後継者の理解が必須であるところ、議決権制限種類株式及び配当優先種類株式であれば理解が比較的得やすいのではないかと思われる。
  • 事業承継の円滑化に関して、信託という方法があるが、信託であっても遺留分に配慮することが必要である等から、信託という方法を積極的に採用する理由がどこまであるかは疑問である。
  • 経営者が事業承継において取り組みやすい方法は、経営者の意向にもよるが、基本的には遺言又は生前贈与であると思われる。
5 結び

ガイドラインは事業承継を考えるに際して有益なものかと思いますので、ガイドラインをご一読いただけますと幸いです。

1 (1)事業承継に向けた準備の必要性の認識→(2)経営状況・経営課題等の把握(見える化)→(3)事業承継に向けた経営改善(磨き上げ)→(4)事業承継計画策定/マッチング実施→(5)事業承継の実行/M&A等を指します。

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