福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)

2022年8月号 月報

ツイッター投稿削除請求を認めた最高裁判決を受けて

月報記事

情報問題対策委員会 委員 古賀 健矢(70期)

1 はじめに

令和4年6月24日、最高裁第二小法廷において、Twitter(ツイッター)上の犯罪記事の投稿の削除請求を認める判決(以下「本判決」)が出されました。

本記事では、本判決の概要や、今後の実務への影響として考えられることについて、僭越ながら、ご紹介させていただきます。

2 本判決の概要

本判決の事案は、平成24年に建造物(旅館の女湯脱衣場)侵入により逮捕された上告人が、逮捕当日にツイッター上で報道機関のウェブサイトに掲載された上告人の逮捕報道記事を転載する各投稿がなされたことについて、当該各投稿により上告人のプライバシーに属する事実をみだりに公表されない利益等が侵害されているとして、平成30年に、ツイッター運営会社に対し、人格権ないし人格的利益に基づき、投稿の削除を求めたというものです。

判決においては、上告人の本件事実を公表されない法的利益と本件各ツイートを一般の閲覧に供し続ける理由に関する諸事情を比較衡量して、前者の利益が優越するものと認め、投稿の削除が認められました。

本判決は、脱衣場侵入という社会的に非難の対象となりやすい類型の事案に関する逮捕歴について削除を認めた点で、名誉権やプライバシーの保護の側面から正当な判断をしたものとして、画期的な判決であると評価できます。

もともと、本判決においては、ウェブ検索結果に表示された犯罪事実に関する記事の削除基準を示した最高裁平成29年1月31日決定(民集 71巻1号63頁)(以下「平成29年決定」)と同じ基準を用いられるのか否かが注目されていました。

3 平成29年決定の要旨等

平成29年決定の事案は、ネット上の逮捕報道記事やネット掲示板に書き込まれた逮捕事実が、Google検索結果に表示されたことについて、検索結果の削除が求められたというものです。

決定においては、検索事業者による検索結果の提供が、現代社会においてインターネット上の情報流通の基盤として大きな役割を果たしていることを指摘した上で、「当該事実を公表されない法的利益と当該URL等情報を検索結果として提供する理由に関する諸事情を比較衡量して判断すべきもので、その結果、当該事実を公表されない法的利益が優越することが明らかな場合には」検索結果の削除が認められるとされ、結論として同事案における削除請求は否定されました。

平成29年決定は、事実を公表されない法的利益が優越することが"明らか"な場合という偏った比較衡量の基準を定立し、ウェブ検索結果を削除されない利益を保護する立場をとりました。

平成29年決定の基準を用いると、犯罪事実といった一定程度の公益性を有する事実については、事実を公表されない法的利益が優越することが"明らか"と評価できる場合は極めて限定され、実質的に犯罪事実の削除請求は不可能となるといった批判がなされていました。

また、裁判実務上も、ウェブ検索結果以外のネット上のメディアの削除が求められた事案についても、平成29年決定と同様の基準を用いて削除請求を否定するという傾向があり、あらゆるネット上のメディアに関する削除請求一般について平成29年決定の厳格な基準により削除の可否を判断しなければならない状況が続いていました。

4 本判決の判示内容

実際に、本判決の原審である東京高判令和2年6月29日(判タ1477号44頁)においても、平成29年決定の基準が用いられ、ツイッターの投稿記事を一般の閲覧に供する諸事情よりも本件逮捕の事実を公表されない法的利益が優越することが明らかであるとはいえないとして、削除請求が否定されました。

上告審である本判決においては、まず「本件事実の性質及び内容、本件各ツイートによって本件事実が伝達される範囲と上告人が被る具体的被害の程度、上告人の社会的地位や影響力、本件各ツイートの目的や意義、本件各ツイートがされた時の社会的状況とその後の変化など、上告人の本件事実を公表されない法的利益と本件各ツイートを一般の閲覧に供し続ける理由に関する諸事情を比較衡量して判断すべきもので、その結果、上告人の本件事実を公表されない法的利益が本件各ツイートを一般の閲覧に供し続ける理由に優越する場合には、本件各ツイートの削除を求めることができるものと解するのが相当である」との基準を定立しました。

原審が平成29年決定の基準を用いたことについては、「原審は、上告人が被上告人に対して本件各ツイートの削除を求めることができるのは、上告人の本件事実を公表されない法的利益が優越することが明らかな場合に限られるとするが、被上告人がツイッターの利用者に提供しているサービスの内容やツイッターの利用の実態等を考慮しても、そのように解することはできない」として、ツイッターのサービス内容、利用実態等から、本件には平成29年決定の射程が及ばないことを指摘しています。

このように、本判決は、ツイッターの投稿については、平成29年決定の偏った比較衡量ではなく、事実を公表されない利益と、投稿を一般閲覧に供し続ける理由との純粋な比較衡量によって削除の可否を判断すべきとしました。

本判決のあてはめにおいては、投稿の対象となった逮捕事実が、投稿がされた時点においては、公共の利害に関する事実であったと指摘した上で、他方で既に逮捕から約8年が経過し、刑の言渡しはその効力を失っていること、ツイートに転載された報道記事も既に削除されていることなどからすれば、公共の利害との関わりの程度は小さくなってきていると評価されています。

その上で、各投稿は逮捕当日にされたもので、140文字という字数制限の下で、報道記事の一部を転載して逮捕事実を指摘したもので、ツイッター利用者への速報が目的となっており、長期間にわたって閲覧されつづけることを想定してされたものでないこと、上告人の氏名を条件としてツイートを検索すると逮捕事実を知らない上告人と面識のある者には逮捕事実が伝達される可能性が小さいとはいえないこと、上告人が公的立場にあるものではないことを指摘し、「上告人の本件事実を公表されない法的利益が本件各ツイートを一般の閲覧に供し続ける理由に優越するものと認めるのが相当」と判断して、各投稿の削除を認めました。

5 本判決の意義

以上のように、本判決は、ツイッターの特性等を考慮して、ツイッターの投稿については、平成29年決定の射程が及ばないとし、純粋な比較衡量により削除の可否を判断すべきとしたもので、よりプライバシーを保護する立場を示したものと評価できます。本判決が平成29年決定と異なる基準を示したのは、ツイッターの投稿が、ウェブ検索結果と異なり、長期間にわたる閲覧の継続を想定されていないこと等に注目したものと考えられます。

本判決により、少なくともツイッターの投稿については、削除請求が従来よりも容易に認められることとなると考えられます。

また、本判決により、最高裁は、平成29年決定の基準がネット上のあらゆるコンテンツに対する削除請求について適用されるものではないことを示したこととなります。これを受けて、他のSNS、掲示板といったメディア、ウェブサイトにおける記事等のコンテンツの削除請求事例に関し、本判決の基準が適用される可能性もあると考えられます。これにより、これまで裁判実務上削除が否定される傾向にあったネット上のコンテンツの削除請求が認められやすくなり、従来よりも削除請求のハードルが下がることも予想されます。

6 おわりに

当情報問題対策委員会は、令和4年9月10日(土)に、シンポジウム「デジタル社会と人権を考える―デジタル化、AIの活用で社会はどう変わる?―」の開催を予定しております。

本判決ではSNSの利用におけるプライバシー保護が問題となりましたが、デジタル化の進展に伴うプライバシー保護をテーマにしており、この問題の第一人者である慶応大学の山本龍彦教授や、読売新聞編集委員若江雅子氏などを講師としてお招きしておりますので、ご興味をもたれましたら皆様是非ご参加ください。

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