福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)

2022年7月号 月報

子どもの権利について考えるシンポジウム「地方から広げよう!子どもにやさしいまちづくり」のご報告

月報記事

子どもの権利委員会(人権小委員会)委員 鶴崎 陽三(69期)

1 はじめに

去る令和4年5月14日(土)、福岡県弁護士会館及びzoomにて、福岡県弁護士会主催・日弁連及び九弁連共催で、子どもの権利委員会企画のシンポジウム「地方から広げよう!子どもにやさしいまちづくり」が開催されました。

私も子どもの権利委員会の委員として研修に参加いたしましたので、代表してご報告いたします。

2 シンポジウム開催の背景

日本が子どもの権利条約(以下、単に「条約」といいます。)に批准してからはや27年が経ちますが、依然として子どもの権利条約が国内に浸透しているとは言い難く、子どもの権利に関する基本法も制定されないままの状況が続いていました(なお、本シンポジウム後の6月15日にこども家庭庁設置法とこども基本法が成立しています。)。

昨年9月に日弁連が「子どもの権利基本法の制定を求める提言」を公表し、その中で基本法の制定、子ども施策の総合調整機関の設置、子どもの権利を保障する独立した監視機関(以下、「権利救済機関」といいます。)の設置を求めましたが、それを受けて作成された法案は、権利救済機関の設置を定めていないなど提言内容と比較すると十分なものとは言えませんでした(6月に実際に成立した基本法にも権利救済機関の設置は定められていません。)。

他方で、地方自治体の中には、子どもの権利に関する条例を制定し、日弁連が提言の中で求めているような監視機関を設置している自治体もあり、福岡では、志免町が平成19年に県内で初めて子どもの権利条例を制定しており、権利救済機関の活動実績も積み重ねられています。

子どもの権利を守るためのこのような地方の活動を、国全体の施策レベルまで広めていかなければならないとの思いから、本シンポジウム「地方から広げよう!子どもにやさしいまちづくり」を開催する運びとなりました。

3 シンポジウムの内容
(1) 基調講演

本シンポジウムの基調講演として、子どもの権利条約総合研究所運営委員の平野裕二氏から、子ども基本法や子どもの権利救済機関をめぐる国際的な動向を中心にご講演いただきました。

条約では、子どもの「生きる権利」「育つ権利」「守られる権利」「参加する権利」を4つの柱として、「保護の客体」という子ども観から「権利行使の主体」という子ども観へと転換されており、一般原則として、差別の禁止、子どもの最善の利益、生命・生存・発達に対する権利、子どもの意見の尊重が定められています。

すでに子どもの権利に関する基本法が制定されているウェールズ、スコットランドなどの立法例や、それらの国の子どもの権利救済機関の取り組みなどが平野氏から紹介されましたが、その一方で、日本は2004年、2010年、2019年の3回にわたり国連から条約の遵守を確保すべく国内法の整備等をすることが勧告されています。

ようやく基本法が成立したばかりの日本を子どもの権利が十分に保障された社会にするためには、今後の積み重ねが不可欠であると痛感します。

(2) 弁護士会からの報告

弁護士会からの報告として、日弁連子どもの権利委員会人権救済小委員会委員長の栁優香弁護士より、日弁連が求める子どもの権利基本法と子どもの権利救済機関についてご報告いただきました。

子どもの権利条約や子どもの権利保障が社会に浸透しているとは言い難い現状を変えるためには、基本法を制定して子どもの権利を国民に広く浸透させる必要があります。

また、条約や憲法が裁判規範として直接適用されることがほとんどない実情を踏まえると、より身近な「法律」という形にすることが重要です。

そして、原則や理念等を規定した基本法が制定されることで、個別法の指針となります。

この点、6月にこども基本法が成立したこと自体は素晴らしいことですが、日弁連が提言で求めていた内容とはまだまだ乖離があります。

今後、よりよい法律にしていくためには、私たち弁護士の率先した取り組みが重要になるであろうと感じました。

(3) 子どもたちからの報告

今回のシンポジウムに先立ち、小学生から高校生までの子どもたち向けに、子どもの権利について学習してもらう機会を設けました。

そして、本シンポジウムでは、その参加者の中から、現在高校に通っている女子生徒2名に子どもの権利について発表してもらいました。

子どもたちにとって、成長の過程で子どもの権利を教わる機会はあまりないようで、今回の学習は、自分たちを取り巻くルールなどについて改めて考えるいいきっかけになったようです。

発表者の1人は、校則に定められた厳しい髪型のルールにとくに疑問を抱いたようで、校則の作成にも生徒たち自身の考えを反映させるようにしていくべきだとの思いを発表してくれました。

その生徒のその日の髪型は誰が見ても至って健全と思えるような髪形で、学校生活になんらかの支障が生じるようにはとても思えませんでしたが、その髪型には、結び目が高い、前髪が眉にかかっている、サイドが長くなっているという3つの校則違反があるそうです。

このような子どもたちの現状を踏まえた発表は参加者の心にも響いたようで、シンポジウム後のアンケート結果を見ると、子どもたちの発表に対する参加者の満足度の高さが窺えました。

私にとっても、子どもを取り巻く現状と子どもたちの率直な考えを知るいい機会になりました。

(4) パネルディスカッション
  • 臨床心理士で志免町子どもの権利救済委員を務められている調優子氏、特別支援学校の講師をされている吉川貴子氏、福岡子どもにやさしいまち・子どもの権利研究会の小坂昌司弁護士(福岡県弁護士会)によるリレートークのあと、平野氏を加えてパネルディスカッションを行いました。
  • 先ほどご紹介したとおり、調氏が救済委員を務められている志免町は福岡県で最初に子どもの権利条例を制定した自治体です。
    志免町の権利救済機関では、知らない人には相談したくないであろう子どもの心理を踏まえ、相談とは関係なく普段から子どもと話をすることで信頼関係を構築しているそうです。
    また、学校との関係でも、問題が起こったときに初めて学校と対峙すると敵対視されることから、普段から関係性を持つようにしているとのことでした。
    そして、自治体内の機関と異なり権利救済機関は第三者機関として自治体からの権利侵害に対する救済活動もできることなど、子どもたちの権利を守る機関としての役割を具体的な経験を交えながらご説明いただき、権利救済機関の設置が重要であることをより明確に認識することができました。
  • 吉川氏は、昨年12月に糸島市議会に子どもの権利条例をつくるように請願する取り組みに携われており、その後、請願が通って糸島市では子どもの権利条例の制定に向けた動きが進んでいます。
    吉川氏が請願を行うに至ったのは、制服を着たくないという中学生を応援する取り組みに関わっていたことがきっかけとのことでしたが、吉川氏の経験談を聞くことで、市民からの働きかけによっても条例が制定され得るということを具体的にイメージすることができました。
  • 小坂弁護士からは、ユニセフ(国連児童基金)が提唱する「子どもにやさしいまちづくり」活動を福岡で広めるために設立された「福岡子どもにやさしいまち・子どもの権利研究会」の活動などをご紹介いただきました。
    また、小坂弁護士は宗像市で8年間権利救済機関の委員をされた経験があることから、子どもがいつでも相談できる独立の機関があることの意義や、権利救済機関が子どもの権利を守るための方策を実現していくためには国にも意見を言える独立の機関であることが必要であることなどをお話しいただきました。
    弁護士として働きながら弁護士業務以外でも様々な場で子どもの権利救済に携わられている小坂弁護士のお話は、今後より深く子どもの権利に関わる仕事をしていきたいと考えている私にとっては非常に興味深く、参考になる内容でした。
  • パネルディカッションでは、各パネリストから子どもの権利を取り巻く国の現状や、具体的な経験をもとにしたご意見を伺うことができ、今後、国レベルで子どもにやさしいまちを創っていくための道筋を示していただけたと感じますし、今後の課題を検討していくための材料にもなりました。
4 最後に

私が中学生だった頃、男子生徒は坊主頭でなければならないという校則が廃止されたり、教師から生徒への体罰に対して世間の目が明らかに厳しくなったり、子どもへの制約が少しずつ緩和されていくのを感じていました。

それから30年足らずが経過する中で自分自身も弁護士になり、子どもも大人と同様に権利行使の主体であるという子ども観は自分の中では当たり前になっています。

しかし、今回のシンポジウムを通じて、実際には子どもの権利が社会にはまだまだ浸透していないことを痛感し、そのことに私は少なからず驚きを感じました。

今後、子どもの権利を守るための条例や個別法が制定されたり、それに基づく施策が講じられたりする中で、社会の子ども観が変わり、子どもにやさしいまちが日本中に広がっていくことを祈念しつつ、私からの報告を終了いたします。

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