福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)

2022年9月号 月報

期待高まる「弁護士と学校教育の連携・協働」(法教育・いじめ予防授業研修報告)

月報記事

法教育委員会 委員 田村 和希(74期)

1 はじめに

去る7月21日、法教育・いじめ予防授業研修が開催された。本研修は法教育センター講師の登録研修を兼ねており、私は、同講師名簿登録のため参加させていただいた。本稿では、当該研修の概要をお伝えするとともに、私自身が学んだことなどについて述べたい。

2 研修の内容
(1) 委員長挨拶

まず、法教育委員会委員長の日浅裕介先生がご挨拶され、法教育センターの設立経緯と趣旨について説明があった。

そもそも法教育とは、法律専門家ではない一般の人々が、法や司法制度、これらの基礎になっている価値を理解し、法的なものの見方・考え方を身につけるための教育を特に意味する。平成28年6月の選挙権年齢の引下げや今年4月の成年年齢の18歳への引下げ等に伴い、法教育の必要性は近年ますます高まっている。

当会では、学校等の教育機関から要請を受け、名簿に登録された弁護士がゲストティーチャー(以下「GT」)として教育機関を訪問し、主権者教育、ルール作り、いじめ予防などの法教育をはじめ、弁護士の仕事といったキャリア教育にいたるまで、さまざまなテーマについての出前授業を行っている。

研修開催日時点において、当会会員のGT登録者数は4部会合計で199名(福岡133、北九州25、筑後31、筑豊10)であるが、学校からの出前授業実施の申込数は年々増加傾向にあり、さらに多くの会員に登録いただきたいとのことであった。

(2) DVDの視聴と授業内容の説明

続いて、鍋島典子先生が中学校で実施された出前授業の様子がDVD上映された。「救急車を有料化すべきか」というテーマで、今後この国で救急車を利用するためのルールを自分たちが決める、という設定のもと、中学生たちが真剣に議論を戦わせていた。

この授業において、生徒たちは、いわゆる"正解"がない課題に向き合い、自分たちの意見をその根拠とともにまとめ上げることを試みていた。他方で、反対の意見にも配慮しつつ議論を尽くすことを通して、最後は多数決で決めるとしても「なぜそのルールになったのか」を皆が納得できるにはどうすべきか、という民主主義の過程の大切さを学んでいた。

(3) 授業実施の留意点

さらに、日弁連・市民のための法教育委員会委員でもある春田久美子先生が、授業実施の留意点等について説明された。

先生の数多くの出前授業のご経験を踏まえられ、授業づくりのポイントとして、(1)伝えたいメッセージをシンプルかつ明確にしつつ、生徒にとって身近でリアルな素材を選ぶこと、(2)ワークシートや模造紙等を使って言語活動を盛り込むこと、(3)いわゆるアクティブ・ラーニング型の授業(一方的な講義だけではなく、参加型・体験型・双方向型の授業)を目指すこと、を示された。

説明を通じて、何より春田先生ご自身が、学校での出前授業を非常に楽しんでおられる様子が伝わってきたのが印象的であった。

(4) いじめ予防授業の説明

また、森俊輔先生から、いじめ予防授業についての紹介があった。

当会におけるいじめ予防授業のこれまでの歴史的経緯をご教示いただくとともに、授業実施の目的は、「いじめがダメなことは分かっている子どもたちに、『ダメな理由』を腹落ちしてもらうこと」「被害者が嫌な思いをしたらいじめに当たると知ってもらうこと」「誰もがいじめを止めることができると知ってもらうこと」である点を示していただいた。

(5) 手続の流れ

最後に、田上雅之先生から、GT選任後の出前授業実施の流れについてご説明いただいた。

依頼を受けてGTに選任された場合、授業の実施については法教育センターの担当運営委員である弁護士からアドバイスをいただけること、使用教材についても既存の教材(法教育センター管理のドロップボックスに、テーマごとにストック)を活用できることなど、バックアップ体制が整っていることをご教示いただいた。名簿登録してすぐにGTに選任されても、不安なく対応できることが分かった。

3 研修を通じての学び

私自身、2人の子どもを育てる中で、未来を担う子どもたちが、複雑・多様化していくこの社会をいかに生きていくのか、そのために必要な能力をどうやって身につけるべきか、日々考えさせられるところである。そうした中、他者の意見・考えを尊重しつつ適切に合意を形成したり、ルールにのっとり公平・公正で妥当な結論を導いたりする力を、学校教育の場で養っていくことは、1人の人間として成長し生きる上で、また、これからの社会を支える一員となっていく上で、とても意義のあることだと感じた。

こうした法教育に、法律の専門家である弁護士として参画し、子どもたちの学びの一助となれるなら、「弁護士としての活動を通じて、世の中を少しでも良くしたい」という、自分がこの道を志した信念に沿うものだと思い、さっそくGT登録の申込みをさせていただいた。

4 おわりに

令和2年度から順次実施されている新学習指導要領においては、「主体的・対話的で深い学び」の視点に立った能動的な学習とともに、「社会に開かれた教育課程」がポイントとされている。このうち、今年度から始まった高等学校の新たな必履修科目「公共」では、積極的に専門家との連携・協働を図ることで学習活動を充実させることが明記されるなど、法律専門家たる弁護士の関与が期待されているところである。

ますます教育の現場と我々弁護士との連携・協働の重要性が高まる中、私も微力ながら法教育センターの一員として、子どもたちの「社会を生きる力」の養成に貢献したいと考えている。

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