少年付添人日誌弁護士会月報「付添人日誌」より転載したものです。

付添人日誌(4・10月号)特定少年に関する付添人活動の報告

1 はじめに

2021年5月21日、少年法等の一部を改正する法律が成立し、本年(2022年)4月1日から施行されました(以下、改正後の少年法を「法」といいます。)。

今回の改正では、新たに「特定少年」という概念が設けられました。これにより、18歳及び19歳の少年は、18歳未満の少年と異なる扱いがなされることとなりました。

この度は、私が、「特定少年」にあたる少年の付添人として活動する機会がありましたので、その付添人活動について報告させていただきます。なお、本報告では、改正少年法と関連する部分を中心に報告させていただきます。

2 「特定少年」に対する保護処分の規律

「特定少年」に対する保護処分の特例については、法64条に規定されています。本件で関連する部分の概要は以下の通りです。

(1) 保護処分の内容

改正前は、審判時に保護観察期間を明示するよう求めていませんでしたが、法は同期間について6か月か2年かを明示するように求めています。また、2.の場合には、遵守事項違反等がある場合に、少年院に収容することが可能となります(法66条1項)。

(2) 保護処分を選択する際の考慮要素

法64条1項本文は以下のとおり定めています(下線は筆者)。

第24条1項の規定にかかわらず、家庭裁判所は、第23条の場合を除いて、審判を開始した事件につき、少年が特定少年である場合には、犯情の軽重を考慮して相当な限度を超えない範囲内において、決定をもって、次の各号に掲げる保護処分のいずれかをしなければならない。

保護処分を選択については、要保護性ではなく、犯情によって処分の種類の上限を決めて、その範囲で要保護性を考慮して具体的な処分を選択するという2段階の判断をすることになると思われます。

3 事案の概要

本件は、非行当時18歳の少年が、自宅において、母親との喧嘩の際に、包丁を持ち出し、手に所持した包丁で、母親の左手指に切り傷(加療約10日)を負わせたという傷害事案です。

少年は、母親と二人暮らしで、生活保護を受給して生活していました。

少年には軽度の知的障害があり、対人コミュニケーションが特に苦手という特性がありました。本件も、母親とのコミュニケーションがうまくいかなかったために発生したものと考えられました。

なお、少年に非行歴、前科前歴いずれもありませんでした。

4 付添人活動(改正少年法と絡む部分を中心に)

(1) 被疑者段階

上記少年の特性もありましたので、少年との信頼関係の形成を重視して接見を重ねました。また、少年の母親(兼被害者)に連絡をとり、少年を許す旨の意思の確認を行いました。

(2) 家庭裁判所送致後
  • 少年との面会及び人的資源の確保
    少年と面会を重ね、本件の振り返り及び再発防止について一緒に考える機会を持つとともに、少年及び母親のサポートをしてくれる協力者(少年の家族と長年の付き合いがある)との打合せを重ねました。
  • 調査官面談
    担当調査官とは2回面談を行いました(うち、1回は裁判官も同席)。前述のとおり、犯情の軽重によって処遇の範囲が定まることから、本件の行為態様や結果、母親(被害者)の心情、非行に至る経緯等を丁寧に説明し、犯情が軽い部類であることを強調しました。その上で、要保護性についても解消しつつあることを説明し、6か月で足ると意見を述べました。
    従来の調査官面談に比して、犯情に関する事情について意見交換をする時間が長かったように思います。
  • 意見書
    大まかには、(1)犯情の評価→(2)要保護性の評価→(3)相当な処遇選択という流れで作成しました。事案の内容や事前の調査官面談の感触からして、少年院送致の可能性は低いと考えられましたので、犯情が軽いことを強調し、保護観察処分の中でも軽い類型を選択すべきと意見を述べました。
    犯情による上限の設定について、調査官や裁判官の反応をみても、少年院送致と保護観察処分を画するにとどまるのか、それとも2年と6か月の保護観察処分を画するところまでいくのかはっきり分かりませんでしたが、今回は、犯情及び要保護性を踏まえ、6か月の保護観察とするのが相当と意見を述べました。

5 本件で選択された処分

本件では、以下の処分となりました。

  1. 少年を2年の福岡保護観察所の保護観察に付する。
  2. 少年法66条1項の決定により少年院に収容することができる期間を1年間とする。

6 終わりに

今回、初めて「特定少年」の付添人として活動しました。原則逆送が問題となるような事案ではありませんでしたが、犯情による処分の範囲についてどの程度指摘すべきなのか(成人と同じ考え方で良いのか)、意見書において犯情をどのように指摘するか等これまでとは違うところで悩む場面がありました。

今回の報告が、今後、「特定少年」の付添人を担当される方の参考になれば幸いです。
最後に、先日、少年事件マニュアルの改定版が出版されており、改正法についても解説されておりますので、併せてご参照ください。

惠﨑 優成

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