少年付添人日誌弁護士会月報「付添人日誌」より転載したものです。

付添人日誌(18・8月号)

付添人日誌を読むたびに、若い人は頑張ってるなと感心します。今回はちょっとおもむきを変えて、少年事件は難しいという私の反省話です。

虞犯(ぐはん)事件

先日虞犯の17歳少女の付添人をしました。「虞犯(ぐはん)」は、家出や不道徳な交際を通じて将来罪を犯す虞のある少年で、要保護性がきわめて高い場合に保護処分が下されるというもので、少年に特有の事件形態です。それだけに、少年と保護者との関係や、保護者に監護能力や監護意欲があるかなどがとても重要なことになってしまいます。今回、その調整の難しさを思い知らされたのでした。

少女の様子

少女に面会すると、本人はシンナーで鑑別所に入れられたとの認識でした。彼女は家に帰りたいと言いつつも、口が重い子であまり話してくれません。見かけは派手でなく、しかし何かけだるそうな雰囲気を醸し出している子でした。

親の言い分

両親が離婚しており保護者の母親に電話すると、家にあまり帰ってこないし、交友関係や生活態度を注意しても全然親の言うことは聞かないし、シンナー吸ってご飯を食べずに数ヶ月程でみるみる痩せ細ったのに本人は逆に痩せて良かったと言ってて問題意識がないし、心配でたまらないとのことでした。

母親は、弁護士が付くことに拒否感情はなかったので少し安心。弁護士なんかいらない、少年院にいれてほしいと最初から言い張る親もたまに出会うからです。

でもその後、家を訪問して母親と話すと、少女はやくざとの交際でこれまで大変だったことがわかり、母が何度注意しても聞いてくれなかったので、親として打つ手なしの様子がありあり。母親は育児・家事・仕事とこなしてきた人で、能弁な明るい人でした。仕事もしたこともなく、家事手伝いもできない娘の将来を心配する気持ちもわかります。結局、これまでどんなに大変だったのか話を延々と聞いた面談でした。

素直になれない子ども

かたや少女は母親に対して素直になれず、「お母さんに悪かったと思うならそれを謝ったら?」とすすめても、「今さら恥ずかしい」と言うばかり。何回か母の面会はあったものの虚勢をはってしまったようで、母親に本人の気持ちはあまり伝わらないままに、審判日が迫りました。

審判のとき

そして審判当日。少女はやっと母親に対して「ごめんなさい。これから頑張るから家に戻りたい」という言葉を発することができました。審判廷は、母親が自分も頑張るので家に戻してほしいと言ってくれれば・・・という淡い期待に包まれました。しかし前向きな言葉は聞けないまま。

審判は少年院送致という結果でした。

付添人は何をしてたのか

母親の苦労に共感するだけでなく、対立してもいいから議論ふっかけて、もっと時間話し込んでいれば母親も違っていたのかもしれません。後悔が残りました。最初の時に、弁護士拒否の態度がなかったことに安心してしまったなと。そのうち本人の態度が変われば親もわかってくれるだろうと安易に考えた事は否定できません。

家庭裁判所の調査官は、親に対していろんな思いがあっても、親に意見することはあまりしないと思われます。言いにくいことだからこそ、少年の付添人として、親と多少対立してでも話し込むという姿勢に欠けていたのかもしれません。

気が付けば、少年の保護者たちも自分と同じか自分より年下の人が増えました。ついつい親の言葉の方が、耳ざわり良く聞こえてしまいます。でももっと少年の身になって考えなければ、そして、自分が年を重ねたことを武器に、もっと親に切り込んでいくことも視野に入れていかねばと改めて思った事件でした。

井上 滋子

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