少年付添人日誌弁護士会月報「付添人日誌」より転載したものです。

女の子からのラブコール(14・5月号)

たった今まで、私は、カリスマ美容師を目指すA君のことを書くはずだった。そう、今、花ちゃん(仮名)から携帯に電話があるまでは。

「・・・・・・花です。ウフフフ・・・。あのぉ、フチガミさん元気?」

こんな可愛い電話に狂喜乱舞しない人はいないだろう。ということで、A君ゴメン。

鑑別所で花(当時16歳)と最初に会ったのは、去年の今頃。すでに審判が10日余り後に迫っていた。

事件名は覚せい剤取締法違反。その日初めて会った男たちに無理矢理覚せい剤を注射された。花は、初めての覚せい剤に気持ちが悪くなり、すぐに警察に駆け込み、逮捕された。

花は、当時、就職活動中(つまり無職)。虞犯で児童自立支援施設に送致された前歴があるが、今も外泊は日常茶飯事。シンナーもたまに吸う。寝たきりの祖母と仕事で忙しい母親は、監督者としてイマイチ?恋人は特別少年院におり、昔援助交際していたオジサンから時々お小遣いをもらう。ああ、これでは、調査官が最初から「少年院長期」との意見を固めても、無理ないかな。

でも、花にはアッケラカンとしたまでの素直さがあった。援助交際も、児童自立支援施設を出てからは一切していない。そして、私が「これは、やめようネ」と言うと、「えっ、ダメなんだ」と目を丸くする。花は知らない事が多かったが、素直だから大丈夫かも!?と俄然張り切った。花とは、親友のように語り合い、気が付くと、ほとんど毎日鑑別所に通っていた。手紙も頻繁に遣り取りした。

花の手紙:「今までウソばっかりだったから信用してくれないかもしれないけれど、信じてもらいたいです。もう1回チャンスがほしい。私も『やれる』ってところ、見てもらいたいし、ちゃんとできるって確信があるから・・・

1:自分自身を大切にします(薬物には手を出しません)、2:無断外泊or外泊しません(家でちゃんと寝ます)、3:他人からお金はもらいません、4:仕事をしても、やめたりしません、5:お母さんに悲しい顔させません、6:悪い人とは関わりません。たしかに、むずかしいことだけれど、私がんばります。本当にお母さんのこと大好きだから離れたくありません。」

花のお母さんは(度を超すほど)厳しかったが、花は母親を恋しがり、何度も手紙を書いていた。「花の教育のため、断固として会わない」と揺るがなかった母親も、ようやく面会に来てくれた。

ある日、花は、「今朝、調査官さんから『少年院長期しかありえない』と言われた。私、調査官に『クソ○○○』って言っちゃったよ。」と泣いていた。

その後の手紙:「2回しか会っていないのに、私の何が分かったのかな→って思いよったら、はがいくて文句を言ってしまいました。それは私が悪かったです。ゴメンなさい。でも、私には1つも良い所がないって遠回しに言っていた。こんな私でも、すっごく傷つきました・・・人に信じてもらえないってことは、やっぱり辛い事ですね。ふちがみさんもそんなことありましたか?原因を作ったのは自分自身だけど・・・」

調査官と2回、裁判官とも1回面会したが、調査官の意見は変わらなかった。しかし、花の「信じてほしい」という気持ちは裁判官にも伝わり、何とか試験観察となった。

試験観察中に会いに行くたび、笑いながら日焼けした手足の筋肉を触らせてくれ、時計を見る私に「まだ帰らないで!」と叫んでいた花は、4か月後の審判で保護観察となり、今は、自分で見付けた人里離れた工場に住み込みで働いている。私には、30分歩いたところにある公衆電話から電話してくる。

「今は就職も厳しいご時世だから、働けるだけ有難いよ。そうそう、6月には休みが取れそうなんだ。あの・・・会ってくれるよね?」

花の付添人をして、よかった。

弁護士 渕上陽子

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