少年付添人日誌弁護士会月報「付添人日誌」より転載したものです。

付添人日誌(3・4月号)

1 はじめに

72期の阿部航太と申します。以下の事案は私にとって初めて担当した少年事件で(厳密には、被疑者段階のみで終了したものは複数ありました。)、多くの反省点がありますが、ご報告させていただきます。

2 事案の概要

本件は、少年が、友人と使用するために車内で大麻を所持していたところを、警察官から職務質問され、大麻所持の罪で逮捕されたという事案でした。ただし、3か月前にも同じ非行で保護観察処分を受けており、いわゆる保護観察中の同種非行に該当するものでした。

3 被疑者段階

(1) 初回接見等

筑豊地区の被疑者国選担当日に、法テラスより連絡があり、初回接見に行きました。

少年自身、やはり、保護観察中の非行であることから、少年院送致を覚悟しているようでした。

たしかに、少年院送致が濃厚であることは否定できず、他方で、少年が諦めモードになることは好ましくないと思ったので、見通しは厳しいことを伝えた上で、再度の社会内処遇を獲得できるよう、できる限りのことをしていく方向で話をしました。

また、少年自身、大麻への依存性を若干ながら自覚していた部分があったので、吉野泉先生が投稿された子どもの権利委員会のML(件名:ティーン向け薬物(大麻含む)の書籍)を参考にさせていただき、同MLに紹介された書籍のうち1冊を差し入れました。

(2) 勾留延長決定に対する準抗告

勾留期間満期の2日前かつ検察官取調べが終わった後に、担当検察官に確認したところ、勾留延長はしない予定であると回答されていましたが、更に10日間の勾留延長請求及び同決定がされてしまいました。明示的な理由としては、車内の灰皿等のDNA鑑定結果が出ていないことが挙げられていました。しかし、鑑定結果が未了であるという理由だけで(鑑定結果を待って少年を取り調べる必要もないと考えました。)、身体拘束が継続されることは到底納得できるものではなかったので(実際には、共犯者が捜査手続きの違法を主張するに至ったことも理由の1つのようでした。)、勾留延長決定に対して準抗告を申し立てましたが、結果は、勾留延長期間が2日間短くなったのみでした。

4 審判に向けて

(1) 審判日の予測

横手陽平先生の刑事弁護委員会のMLにおける投稿に端を発する一連のやりとり(件名:被疑者国選⇒付添人移行時の期日調整について)を拝見していたおかげで、管轄の支部においては木曜日の午後しか審判が開かれないことを前提に予想される日程を空けておくことができました(結果的には、裁判所の都合で、月曜日になりました。恥ずかしながら、その後、当番弁護士・当番付添人・被疑者国選弁護人日程表の下部に家裁審判予想日の記載があるのを知りました)。

(2) 少年との面会

少年とは被疑者段階からいろいろな話をしました。例えば、(1)大麻を吸うようになったきっかけ及び原因、(2)大麻をやめるためにできること、(3)大麻による影響や変化、(4)今回の逮捕等により周囲や自分に生じた不利益、(5)今後やってみたいこと、等についてノートに書きだしてもらい、話をするといった感じです。

(3) 母親との面談

少年は母親や姉夫婦と同居しており、関係も良好でした。前件の後、環境を変える趣旨で母親は引越しまで実行しており、少年に対する愛情も深いように感じました。

他方で、調査官等からは、母親の少年に対する甘さが指摘されており、監督の実効性にも疑問を呈されていました。

これを受けて、母親は、(1)少年が外出する〔した〕際は行先等を逐一確認すること、(2)門限を課すこと、(3)少年に携帯を持たせない、あるいは、キッズ携帯にすることなどの具体的な監督方法をおっしゃいました。

しかし、個人的には、現在の情報社会において大麻の入手経路や友人関係を完全に断つことは不可能ですし、携帯がなければ仕事面で支障が出たり、新たな友人関係を作ることも困難になったりする可能性が高く、少年の年齢(成年間近)からしてもがんじがらめの監督(過干渉)は却って逆効果であると思いました。

ではどうすればいいかと問われると、なかなか答えが出るものではありませんが、少なくとも、短絡的に、少年をルールで縛ればよいと考えるべきでないということは、母親も自覚しており、悩み考えている様子でしたので、その熟慮の思考過程も含めて、陳述書を作成しました。

(4) 雇用主との面談

被疑者段階から、少年の雇用主とは連絡をとっており、少年も雇用主を慕っており、また、雇用主の方も非常に協力的だったので、1度話を聴きに伺いました。

その雇用主は、過去に、少年院に入所したことや反社会的勢力に一時身を置いていたことがあるようで、そこからの更生の経緯等も語っていただきました。その陳述書は、一応意見書にも添付しましたが、主としては、少年に見てもらい、少年の更生に向けた1つの財産になればという思いで作成しました。

(5) 不良交友関係

調査官からは、前件大麻関係者との交遊も再開していることが特に問題視されていました。

しかし、不良交友関係を問題視された場合、どのような活動をすべきか悩ましいと改めて感じました。仮に、少年自身が、主観的に交友関係を変えようと思ってくれたとしても、SNSが普及している現在において、客観的に交友関係を解消すること(それを裁判官に分かってもらうこと)はなかなか難しいからです。

本件では、事件記録の開示を受けた際、その中に携帯電話の連絡先及びLINEのトーク履歴の写真撮影報告書があったので、そこに挙がっている連絡先すべてについて、少年に確認し、(1)その人の名前や属性、(2)LINEの登録名と連絡先の登録名との対応関係、(3)最近の連絡状況等をすべて確認し、交友関係を明らかにすることで、交友関係を隠す意図がないことや悪い交友関係を断つことを約束する方法をとりましたが、どこまで意味があったかは正直わかりません。

他方で、交友関係に責任を転嫁するような思考に至ることも好ましくないので、少年に対しては、薬物と何ら関係を持ってこなかった人と比べると、今後も悪い人が寄ってくる可能性は高いことを自覚してもらった上で、本件の第一次責任は少年自身にあり、最終的には、いかなる場面にあっても薬物その他の犯罪に関わらない強い意志が必要不可欠であることは強調しました。

5 審判当日

やはり、担当裁判官は、少年の前件を担当した裁判官と同じで、終始、「次はないと言ったよね」というスタンスでした。たしかに、約束を破ったことは非難されるべきことですが、そうなってしまった事情に耳を傾ける雰囲気はぜひとも大切だと思います。そのような雰囲気が不十分だった気がします。抗告意思を確認するために審判後に少年と面会した際も、「始まって間もない段階で何を言っても意味ないなと思った」と漏らしていました。私自身、そのような事態を避けるためにできることはなかったかと反省する次第です。

6 おわりに

表面的ではない環境調整を試みることが大切である一方で、環境調整の成果を裁判所等に示すことも大切であることに鑑みると、付添人活動は大変な仕事であると感じるとともに、担当する弁護士の価値観や考え方によっても、付添人の活動にはいろいろなバリエーションがあるのだろうと思いました。

阿部 航太

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