少年付添人日誌弁護士会月報「付添人日誌」より転載したものです。

少年院送致処分が、抗告審で差戻後、保護観察処分に(14・3月号)

少年審判と少年の納得 -抗告事件を通じて-(当番弁護士・当番付添人のあゆみより)

平成13年10月初めのある日、私は、何かの用件で(覚えていないのだから大した話ではなかったのだと思う。)、大谷辰雄弁護士に電話をかけた。用件が終わって、「それでは」と電話を切ろうとしたとき、大谷弁護士から、「あのさあ、抗告事件があるんやけど、できる?」と問いかけられた。正直なところ、この言葉を聞いたとき、この日に電話をかけたことを後悔した。しかし、日頃自分の担当する少年事件で分からないことがあると大谷弁護士にSOSを出しているということもあり、とりあえず一度保護者から話を聞いてみようということになった。

約束の日に大谷弁護士の事務所に行くと、少年の両親が揃ってやってきた。話を聞いてみると、少年は、4月に酒気帯び運転を起こした件と、9月に交番の入口にはめてあるガラスを蹴り割った件とで、少年院送致になったのだという。両親は、家裁の段階では付添人を必要と考えていなかったが、思いがけず少年院送致という結果になったため、弁護士に依頼して抗告したいと考え、大谷弁護士に相談が持ち込まれたということであった。

交番のガラスを割ったときには、別件で保護観察中だったという事情はあったものの、非行事実の内容からすれば直ちに少年院送致が想定されるケースではない。(少年は交番で宿直中だった警察官に声をかけられて、初めて自分が交番を蹴ったことに気付いたくらいであり、警察への反抗心から交番を襲撃するなどというつまりは全くなかった。)どうして少年院送致となったのか、その理由について、両親は審判の時に納得できる理由の説明を受けていなかった。少年もまた、なぜ少年院送致という結果になったのか、納得できないと訴えているのだという。

少年の両親には、抗告したからといっても、家裁の決定が覆される可能性は高くはないことを説明した。少年審判における保護処分の決定にあたっては、家庭裁判所に大きな裁量があるため、特に「処分の著しい不当」を理由とする抗告申立が認められ、家庭裁判所の決定が取り消されることは、めったにないのである。しかし、両親は親としてできるだけのことはしてやりたいと言うので、「あまり期待はしないで下さいね」と言って引き受けることにした。

しかし、両親の話を聞いても、ぼんやりとしか事件の様子はつかめないし、少年本人は、すでに少年院に送られてしまっている。抗告申立は、審判の翌日から2週間以内に行わなければならないので、ひとまず裁判所にある記録を読んで抗告を申し立て、少年本人には、その後少年院まで会いに行くことにした。

両親との面談の数日後、家庭裁判所某支部に出かけて、記録を読んだ。調査記録を読むと、調査官も少年鑑別所も、少年の問題点をいくつも指摘していた。その指摘の中には、なるほどと思える部分もあったが、私たちが両親から聴き取った少年像からはおよそイメージできない部分もあった。また、記録上は、いろいろな問題点の指摘はなされていたが、両親は調査や審判において、具体的な問題点の指摘を受けてはいなかったという。

私は、抗告申立書において、「少年は、少年院に収容して教育しなければ改善できないような深刻な非行に陥ってはいない」という点はもちろん指摘したが、「少年本人に納得の行く理由を説明しようとしないまま、少年院に送致して矯正教育を受けさせても、少年の更生にとって良い効果は期待できない。にもかかわらず、原審は、具体的な理由を示すことなく安易に少年送致としており、不合理だ。」ということを強調した。

なんとか抗告申立書を提出した後、私たちは、少年院まで少年本人に面会に行った。背の高い少年は、不安そうな表情を浮かべて面会室に現れた。私たちは、両親から依頼を受けた経過を説明し、必ずしも家裁の決定が覆るとは限らないけれども、できることはしたいと伝えた。面会を終えて、この少年が少年院にいかなければ再非行を犯す危険が高いとは、どうしても考えられなかった。

高裁の裁判官にも面会して、少年や両親の様子を伝え、少年院送致の必要はないと説得した。

平成13年12月、高裁は、処分の著しい不当を理由として、原決定を取消し・差戻すとの決定を行った。原決定が取り消されたことにより、少年は、ようやく少年院を出て、自宅に帰ることができた。年も押し迫ったころ、家庭裁判所で差戻の審判が開かれ、その結果、少年は改めて保護観察に付されることになった。

私は、少年審判ではできるだけ少年が審判結果を納得して受け入れられるようにすべきだと考えている。その方が、少年自身が更生への意欲を強くもてると思うからだ。また、少年の納得のためには、「自分の気持ちや言い分を十分に裁判官に伝え、裁判官はそれを理解した上で、理由をきちんと説明して、処分を決定してくれた。」と感じられることが必要なのだと思っている。よくある決定書に書かれているような、「この際だから少年院に行ってしっかり勉強してもらう必要がある」という説明で、自分が少年院に送られる理由を理解できる少年は、ほとんどいないと思う。その上、少年が、自分の言い分を裁判官がきちんと聞いてくれなかったと感じていたら、なおさら審判結果に納得はできないのではなかろうか。そして、少年の側に立って、少年と一緒に事件のことや将来のことを考え、少年の気持ちを裁判所に伝えて、審判を本人である少年の納得できる手続にしていくために、付添人が必要なのだと考えている。

今回の高裁決定には、「事案そのものは重大とはいえず・・・・少年の前歴、生活状況、性格、資質上の問題、保護環境等の諸要素を総合考慮した上、直ちに収容保護を施さねばならないほどの強い要保護性が認められないことには、少年や保護者の納得も得られないし、矯正教育の効果も上げられないのではないかと危惧される。」との記載があった。単に抗告が認められたというだけでなく、「少年や保護者の納得」という点について高裁がはっきりと問題意識を示してくれたことにより、今回の事件は、今後の私の付添人活動にとっても大きな意味をもつこととなった。

最後になるが、今回の事件を通じて、「当番付添人制度は少年審判を少年の納得できる手続にしていくために必要な制度だ」という思いも一層強くなった。この制度が始まってようやく1年が経過したばかりではあるが、今後、できるだけ早く、全国的な制度として広がって欲しいと思う。

弁護士 宇加治恭子

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