少年付添人日誌弁護士会月報「付添人日誌」より転載したものです。

付添人日誌 初めての少年付添人事件を担当して(28・1月号)

1 はじめに

以前に児童相談所で一時保護され、かつ、少年院に行ったことのある少年だが、家裁のぎりぎりの判断で在宅の試験観察となり、その試験観察の結果も良好で、最終的に保護観察所の観察処分となった少年事件を担当しましたので、ご報告いたします。県弁護士会の少年付添人研修の一環として、経験豊富な橋山吉統先生に、最初から最後までご指導いただきました。橋山先生には、この場をお借りして御礼申し上げます。

2 事案の概要

(1) 少年について

家族環境:事件当時16歳●か月の太田黒誠二君(仮名)は、中学校卒業後高校進学はせず、一時建築現場で働いていたものの、事件当時は無職でした。誠二君は、父母、兄、弟の5人家族で、公営住宅に住んでいます。NHKアニメ「団地ともお」の世界です。親子関係は良好ですが、父母は友達親子的で、あまり叱らないようです(誠二君の言葉では、「あまりガミらない」)。

既往の非行:誠二君は、中1のときに、父の自動車を勝手に運転するという大胆不敵な非行を起こし、また、中2のはじめには、バイクを盗む、中学校のガラスを割る、ゲームセンターの警備員を殴るという非行を起こして、これらにより2度にわたって児童相談所に一時保護されたことがあります。そして、中2の終わりに、学校の先生を殴ったことで初等少年院に1年弱入院しました。

交友関係:中学時代の仲間や地元の友達とつるんで、JRの駅やコンビニ等でたむろしており地元ではいわゆる“有名な”子どもでした。

少年の印象:警察の留置施設で橋山先生とともに初めて誠二君に会った印象は、「最近の不良ってこんな感じなの?」でした。マイルドヤンキー予備軍というか、一本芯の通った昭和時代の不良感がないというか、ひねくれたところはない。むしろ、どちらかというと可愛げのある少年と思いました。

(2) 非行事実

非行事実(1):▲月26日早朝、共犯者のA君、B君とともに、地元のバイクショップに夜間侵入し、バイクのパーツなどを盗む。見張りのA君は、オーナーに現行犯逮捕された。建造物侵入、窃盗。

非行事実(2):▲月29日早朝、10名・自動二輪6台で、◎◎市内を並走進行・蛇行進行し、覆面パトカーに追跡されてからは、赤信号無視。結局パトカーを振り切り、現行犯逮捕者はなし。ただし、警察に顔写真を撮られている。道路交通法違反(集団暴走行為)。

(3) 審判結果

誠二君は、非行事実(1)で通常逮捕され、そのまま勾留、勾留延長ののち少年鑑別所に送られました。♦月21日の午前9時、橋山先生とともに少年鑑別所に面会に行き、「明日の家裁審判は、しっかり頑張ろうね!」と肩を叩いて出てきたところ、10時半に事務所に戻ると「非行事実(2)で再逮捕されました、明日の審判はキャンセル」との連絡が家裁からありました。「捜査当局はそこまでするか」と腹を立てると共に、誠二君がキレてしまわないか、心配でした。その日の晩には、別の警察署の留置施設に誠二君に面会に行きました。

♣月19日に、非行事実(1)(2)を合わせて家裁の審判がありました。事前に予定調和的にある程度の結論が見えている事件も多いとは思いますが、鑑別所意見も調査官意見も少年院送致相当。調査官とは複数回面談し、電話連絡等も行いましたが、以前の少年院での処遇効果が上がっていないということで、少年院送致意見を変えてもらうことはできませんでした。このため、審判直前に裁判官と面談し、直接、付添人らの意見を伝えましたが、ここでも甘い言葉はなく、裁判官は審判での少年の受け答えを聞いて決める、という感じでした。

審判当日の裁判官の問いかけはけっこう詰問調で、「それは計画的犯行ですよね」、「侵入盗の3日後に暴走していますね」と、手厳しい。誠二君は、きちんと答えていたけれども、最後は小さな声で「はい」と答えるのが精いっぱい。私からは、鑑別所に面会に行ったときに誠二君から聞いた、「受けさせられる保護観察から受ける保護観察へ、の中身を説明してください」、「就労予定先で、社長、寮長、先輩からガミられたらどうしますか」、を質問しました。事前の打ち合わせはなかったにもかかわらず、誠二君はこちらの想定通りの受け答えをしてくれて、誠二君が真摯に反省し、今後のことを考えている姿に感心しました。

調査官との協議のために長い中断後、再開した審判の最後に、裁判官から、「非行事実は、はっきりいって悪質です」との発言。「えー、そんなー」と声にならない声が出ました。しかし、そのあとの、「しかし、」を聞いたときには、思わず涙が出ました。「君に最後のチャンスを与えるということで、在宅の試験観察とします。」遵守事項は、寮付の勤務先できちんと就労すること、心身障がい者施設でボランティア活動をすること等。

◎月29日に、最終的な家裁の審判がありました。勤務先では朝早く起きて夕方まで働く模範的な振る舞いで遅刻も一日だけ、施設の評価も二重丸で、最終審判結果は、保護観察所の観察処分になりました。

3 付添人活動をして考えたこと

(1) よかったこと
ア 現場主義

初めての少年事件ということもあり、誠二君と頻繁に面会することもそうですが、関係者と直接会って話すことを心がけました。事件が配点された週の週末には少年の自宅を訪問してご両親とお会いしました。既往の就労先の現場監督さんにお会いして、今後の就労確約の陳述書をいただきました。また、被害店舗を私一人で直接訪問して地ならしをしたあと、ご両親を連れて謝罪に行きました。

私は、会社員時代に、アメリカ人の上司から、「もっとスマートに動け」と言われて、「日本式経営の根幹は現場主義、それをないがしろにするとは何事か!」と喧嘩して辞めました。現場、現物、現実は、少年事件でも大事だと思います。

イ 付添人の仕事は裁判官の説得

一般の民事事件もそうですが、付添人弁護士の仕事の中核は、裁判官の説得です。もちろん、理詰めの説得も大切ですが、多数の事件を抱え忙しい裁判官を説得するには、「一言で言ってこの少年はどういう少年か」というキーワードや、「もののたとえ」といったものが大事です。法曹の世界では「もののたとえ」を使うことはあまりないと思いますが、一般の忙しいビジネス社会では、小難しい三段論法よりも万人が納得できる的確な比喩の方が、説得力が高い。そして、何がキーワードになるかは、時間をかけて少年本人から聞いていくしかない。

誠二君の場合、このキーワード、「もののたとえ」は、「枠」でした。誠二君は、児童相談所や少年院で生活している時は、誰もが認める優等生です。そして、そこで学んだことを留置場や鑑別所で何度も自分の口で整理し、私たちに説明することができました。誠二君は「枠」があれば本当にしっかりとした生活ができるのです。問題はその「枠」が無くなった時の油断、生活の乱れ。「枠」がないときにどう自分を律していくかが課題。そのように問題を早々と設定し提示することにより、裁判官や調査官は、「本当に枠があるときは大丈夫なのか」、「枠がないと、どうダメなのか」、「少年院は適切な枠なのか」、「それ以外の枠は考えられないのか」、という方向で検討してくれました。

6月の一回目の審判で、そして10月の最終審判でも、裁判官からも調査官からも「枠」の話が出ました。自分の設定した土俵は間違っていなかった、と確信しました。

ウ 少年を依頼人として扱うこと

日本の医療関係者は、患者や心身障がい者を、庇護すべき弱者として扱うことが多いように思います。これに対し、米国の知的障がい者施設の施設長の知人は、入所者を「クライアント」と表現していました。

同様に、日本の法曹関係者は、パターナリスティックな観点から、被疑者、被告人、少年を、庇護すべき存在として扱うこと、もう少し言えば、上から目線で扱うことが多いように思います。

しかし、国選弁護人、少年付添人は、国費から報酬が出るのですから、ボランティアではありません。であれば、直接に弁護士報酬をもらう関係にはなくとも、被疑者、被告人、少年は、依頼人=クライアントであるはずです。自分が少年事件を担当したら、少年を依頼人としてきちんと扱おうと思っていました。

初めて面会に行ったとき、親子以上に年は離れていますが、いきなり「誠二君」と名前で呼ぶのではなく、本人からなんと呼んでほしいかと聞きました。「太田黒さんと呼んでください」と言われれば、そうするつもりでいました。

非行事実(1)の審判前日に非行事実(2)で再逮捕され、翌日の審判がキャンセルされたときは、自分に全責任があるわけでも防げたわけではないとしても、大人の代表として、どう考えても卑怯な事態になったことに対して、申し訳ないと誠二君にお詫びしました。6月の審判の前日、少年鑑別所に面会に行かなかったのは私が手を抜いたからで、審判当日に誠二君にあやまりました。

(2) 悪かったこと
ア 結果として3か月近くに及ぶ長期の身柄拘束となったこと

▲月26日に逮捕されてから♣月19日の家裁審判まで、誠二君は、3か月近く警察署の留置施設及び少年鑑別所に身柄拘束されていました。特に、当初予定されていた♦月22日の家裁審判の前日の非行事実(2)による再逮捕は、日ごろから誠二君を面白くなく思っていた地元警察署が、嫌がらせをしたとしか私には思えません。

非行事実(2)の勾留却下を求める意見書・準抗告、勾留延長却下の意見書を提出しましたが、「共犯者取り調べ未了」「被疑者取り調べ未了」のゴム印二つで、認められない。自分の力不足を感じました。

イ やみくもに頑張っただけで、結果につながる効果的な活動ではなかったこと

私は、誠二君の既往の就労先の現場監督さんと連絡を取って、誠二君の父母と共にお会いして、誠二君の今までの仕事ぶりは良好であったこと、希望すれば今後も働いてもらいたいこと、をお伺いし、陳述書も作りました。しかし、調査官は、「非行前と同じ、自宅に居住して職場に通う環境で、非行前と同じ仕事をしても、今後の非行が防げるのだろうか」と、懐疑的でした。

「このままではまずい」と判断した橋山先生は、早速、別の就労先、それも寮付で誠二君にとって新しい環境での就労先を探してこられました。少年鑑別所で誠二君と面会したときに、誠二君は最初は「慣れた仕事の方がいい」と新しい就労先に抵抗を示していましたが、「自宅にいて地元の悪い友達と顔を合わすこともあるのでは、なかなか悪いことをやめられないだろう」との橋山先生の説得に、誠二君もだんだんと乗り気になってきました。

♣月19日の審判では、寮付就労先の社長も審判に出席してくれ、誠二君の頑張りもあり、在宅の試験観察となりました。裁判官がこのぎりぎりの判断をする決め手となったのは、橋山先生にアレンジしていただいた寮付の就労先の確保でした。

橋山先生は、ご経験から、審判結果の相場観というか、何をしたら裁判所を説得できるのかの勘所がわかっていて、行動していた。それに比べ、自分は、既往の就労先の現場監督さんとお会いしたり、被害弁償に行ったり、頻繁に誠二君に面会に行ったり、頑張ってはいたけれど、努力の方向が結果につながる効率的なものではなかった。今回の誠二君の件で、自分はそれなりに頑張ったけれども、それは単なる自己満足ではなかったのか。

経験を積めば、勘所がわかるようになるのかもしれない。新人のうちは、うまくやるよりも全力でやるしかない。でも、要領は大事だな、と痛感しました。

4 弁護士の仕事について考えること

会社員は、必ず上司のチェックがあり、同僚や部下も自分の仕事ぶりを見ています。一方で、弁護士は、必ずしも自分の仕事ぶりは他人の批判にさらされません。手を抜こうと思えば、いくらでも手を抜けます。6月の審判の前々日に少年鑑別所の面会予約の電話を一本入れればいいところを、忙しさにかまけてさぼってしまい、面会室が一杯で面会できませんでした。自分のことなら自分が悪いと諦めもつきますが、他人だと取り返しがつかない。少年事件は、なおさらです。怖い仕事だと思いました。

今回の誠二君の事件で、面会、移動、文書作成にかかった時間は、67時間になりました。少なめに計上しているので、実際には100時間以上かかったと思います。そこまで時間を使えるのか、使うべきなのか、議論はあろうと思います。しかし、弁護士は、基本的には自分の時間の使い方を自分で決められる職業です。会社にいる時間は会社のものだから自分の好きには使えない、会社員とは違います。10月の審判で、現場の仕事で真っ黒になり、ほんの数か月のうちに大人びた誠二君を見て、弁護士になって本当によかったと思いました。

内 田 幸 一

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