少年付添人日誌弁護士会月報「付添人日誌」より転載したものです。

付添人日誌(2・7月号)
「受け子」にされた少年

1 はじめに

71期の野々上と申します。今回は、私が国選付添人として担当した窃盗未遂事件についてご報告させて頂きます。

2 事案の概要

本件事案は、地元の先輩に脅迫され、やむなく犯罪グループに入れられた少年が、そこから抜けるためにカードすり替え型窃盗の受け子をさせられたというものです。

カードすり替え型窃盗とは、簡単にいうと、被害者に対し、銀行口座が犯罪に利用されているなどと伝え、封筒に暗証番号を書いた紙と銀行のキャッシュカードを入れさせ、その封筒を被害者の目を盗んで別の封筒と入れ替えるというものです。

少年は金融庁の人間を装って被害者宅を訪ね、カードを受け取る役割を担っていました。本件では、被害者が事前に警察に通報していたため、被害者宅の前で警察に職務質問されてしまったため、カードを受け取ってはいませんでした。

3 少年について

少年の年齢は16歳で、高校受験に失敗し、ラーメン屋のアルバイトをして生活していました。もともと社交的な性格であり、良くも悪くも友人は多いようでした。ただ、素行がよくない友人が多く、夜中に家を抜け出しては友人宅や外で遊び、朝方家に帰るという生活を繰り返しているようでした。

職場でも周囲から可愛がられているようで、良好な人間関係を築いていたようです。年上の社員の方と休日に服を買いに行ったり食事をしたりしていたと聞きました。

4 両親とのかかわりについて

家族構成は、父、母、少年、妹の4人家族です。

両親との関係は良好で、他愛もない話や簡単な悩み相談などは日常的にしていたとのことでした。ただ、母は少年に甘く、本人の機嫌を損ねないよう、少年の生活態度について特にことはないというような状況でした。父は放任主義で、あまり少年の生活態度を注意することはなかったようでした。

妹とは、年齢を重ねるうちにあまり話さなくなったようですが、仲が悪いというわけではなく、今回の事件を機に少しずつ話す機会が増えたとのことでした。

5 審判に向けて

少年は、先輩に脅迫されたという被害者意識が強く、なかなか自分の行為と向き合うことができませんでしたが、面談を繰り返すことで少しずつ反省の色を見せるようになっていきました。

調査官の意見を含め、各関係機関の意見はすべて「少年院送致」でした。少年院送致を避けるためにも、少年の母と一緒に少年の生活を監督してくれる職場を探すことにしました。元々の職場であるラーメン屋も協力する旨の話はありましたが、少年が建設会社で働くことを希望していたため。

審判直前でようやく協力してくれる建設会社が見つかりました。雇用するかどうかは本人と会って決めたいとのことだったので、審判直後に面接をすることになりました。

6 審判当日

審判には少年も反省した態度で臨んでいました。ただ、少年は、裁判官からの質問に対し、こもったような小さい声で回答していたので、受け答えは明瞭にするよう事前に伝えておくべきだったかなと思います。審判の中で、少年は、地元の先輩たちとは二度と関わらないこと、今後犯罪に巻き込まれそうになってもすぐに両親に相談することを固く誓ってくれました。

事前に準備したかいもあり、保護観察処分が決定し、この日少年は自宅に帰ることができました。

7 おわりに

少年はその後、建設会社で真面目に業務に取り組んでいるようです。別件でお母さんの方から定期的に相談が来てはいますが、家族関係は相変わらず良好なようで安心しました。まだ色々と問題はあるようですが、これからは非行に走ることなく人間としてまっすぐ大きく成長して欲しいと思います。

野々上 祐太

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