少年付添人日誌弁護士会月報「付添人日誌」より転載したものです。

付添人日誌(29・9月号)

1 はじめに

今回、後藤富和先生のご指導の下、私が初めて付添人として活動した少年事件についてご報告させていただきます。

2 事件の概要及び経緯

事件名は虞犯で、その概要は17歳の男子少年による母親への暴力、盗撮、つきまといや児童相談所での年少男児に対する性的言動と多岐に亘りました。

特に、母親への暴力は、肋骨骨折による入院をさせるほど悪質なものでした。

少年は4月から母親に暴力を振るうようになり、5月上旬に少年の暴力により母親が入院したことから事件が明るみになりました。

少年は、高校を退学処分となり、また、親族が引き受けを拒否したため、児童相談所で保護されました。

その後、少年は児童相談所内で年少男児への性的言動を繰り返したことから、7月上旬に虞犯として鑑別所に送致されました。

3 家庭環境

少年が5歳の頃、両親が離婚し、以降母親が少年の養育をしていました。

父親は東京に住んでおり、少年と面会交流をしておらず、少年が中学生の頃に1週間一緒に過ごしたことがあるだけでした。

また、佐賀県に母方の祖父母がおり、少年が中学生の頃に約1年間、祖父母宅で生活したことがありました。

4 初回面会

少年は線が細く、声が小さく、ほとんど目を合わせてくれませんでした。

少年は母親の話をしながら泣いていましたが、私が女性だからか、私には泣き顔を見せないように手で顔を隠していたことが印象的でした。

5 少年に対する活動内容

(1) 少年との面会

まずは少年とコミュニケーションをとるために面会を重ね、少年の得意なこと、ペットのことや好きなサッカー選手など色々なことを聞きました。

ほんの少しずつですが、少年は私の目を見て話し、時折笑顔を見せてくれるようになりました。

そこで、少年の内省を促すべく、なぜ母親に暴力を振るってしまったのか聞いてみました。

最初は「イライラした」だけで、その理由は話してくれませんでした。しかし、徐々に、朝から晩まで部活動があり勉強する時間がないこと、部活の先輩達から理不尽な言動や暴力を振るわれていたことが理由でイライラしたと打ち明けてくれました。

(2) 環境調整

もっとも悩んだのが環境調整でした。

当初、母親は少年への強い恐怖心から、少年と同居するのは難しいと言っていました。その後、母親と面会をする度に、少年と同居するかどうかにつき、母親の気持ちは揺れ動いていました。

そのため、私自身も少年の更生のためにどのような環境調整をすべきか決め兼ねていました。

最初、私は少年の更生のためには母親と同居させるべきではないと考えていました。しかし、最終的に、私は「母親と同居での試験観察」という意見を書きました。

なぜなら、揺れ動いていたはずの母親も祖父母も「少年と同居はできない」「東京にいる父親と住んでほしい」「九州にすらいてほしくない」と言い出し、誰一人少年の更生のためにどうすべきか真剣に考えていないように感じ、付添人だけでも少年の可能性を信じていると伝えることが少年の今後の励みになると思い、上記の意見を書くことに決めたのです。

6 審判

審判前夜、母親は「少年と一緒に住みたい」とメールしてきました。そして、母親は審判でもそのように述べましたが、結果は11ヶ月の第一種少年院送致(環境調整命令付)でした。

7 最後に

初めての少年事件は、自分の無力さ、そして少年事件の難しさを感じるものとなりました。一つだけ良かったと思える点を挙げるとすれば、今まで「また手を挙げるかもしれない」と言っていた少年が「もう暴力を振るわない」と母親の目を見て伝えたこと、そして母親が「少年ともう一度一緒に頑張りたい」と伝えたことです。

今後の長い少年院生活を乗り切る上で、少年の心の支えになったのではないかと思います。

浅上 紗登美

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