少年付添人日誌弁護士会月報「付添人日誌」より転載したものです。

付添人日誌(27・2月号)

1 少年院から届いた手紙

昨年秋、一通の手紙が事務所へ送られてきました。私が、約1年前に付添人として活動し、少年院送致となった少年からの手紙でした。手紙には、少年院で出院に向け進んでいること、ついては、被害弁償がしたいので力を貸してほしいと書かれていました。

少年が起こした事件は、いわゆるひったくりでしたので、被害弁償といえば何らかの経済的補償が思い浮かぶところです。しかし、少年は早くに父を亡くし、母は生活保護を受給中であること、他に経済力ある親族も見当たらないことからすれば、少年が直ちに何らかの経済的補償を行うことは困難ではないかと思われました。

しかし、少年が被害者への償いを心に留めていたことに心を動かされた私は、もはや付添人ではない中、何ができるか分からないまま、被害者と少年との橋渡しを試みることにしました。

2 警察の協力

被害者に直接連絡することは躊躇されましたので、当時の担当警察官に事情を説明して、被害者(2人)に連絡を取り、弁護士が連絡を希望していることを伝えてもらえないかとお願いしました。

対応した警察官は、付添人でもない弁護士からの唐突な依頼に戸惑ったようで、前例もない、被害者対応であれば検察庁へ相談してほしいと消極的な態度でした。しかしながら、最後には一応検討してもらえることになりました。

その後、しばらく連絡がなく直接被害者へ連絡することを考え始めたころ、被害者の一人から、弁護士の話を聞いてもよいと回答を得られた旨の報告が、警察よりありました。そしてもう一人の被害者とは、時間、日にちを変えて何度も連絡を試みたが、一切電話に出られず、このような事情で回答が遅くなったことが説明されました。

この後、被害者と話をした際に、警察が懸命に被害者を説得してくれたことを、私は知ることになります。

3 被害者との対話

被害者とは、電話でお話することができました。

とにかくそっとしておいてもらいたいこと、例え謝罪文あるいは賠償金を受け取るだけであっても少年と関わりを持ちたくないこと、少年が恵まれない境遇にあったとしても同情する気持ちにはなれないこと、事件がきっかけで家族や同僚などにも悪影響があり、それを考えると辛いことなどを冷静に述べられました。本当は弁護士と話をすることも断ろうと考えていたところ、連絡してきた警察官から、熱心な弁護士なので話だけでも聞いてみてはどうかと勧められ、ためらいながらも応じたことを明かされました。

そのような状況ではありましたが、最後には被害者から、話の内容を少年に伝えてよいとの承諾を得ることができ、「少年の更生のために弁護士を始め、多くの人が活動していることを知った。意義のある活動なので今後も続けてもらいたい。弁護士と話をすることができて良かった」と声を掛けてもらいました。

4 少年の受け止め

少年には、警察から報告があった時点で、被害者の一人と話ができそうなので、今後被害者に何をしたいのか、できるのかを考えてほしいこと、別の被害者とは、最後まで連絡が取れなかったことを手紙で知らせました。少年からは、「被害者の拒絶反応を目の当たりにして、自分の浅はかさに気づいた。どうすればよいのか分からなくなった。できれば、被害者が今何を感じ、望んでいるのかを知りたい」という返事が届きました。

私は、被害者から聞くことができた話とともに、クリスマスカードに松下幸之助の言葉を添えて送りました。この原稿の締め切り日に、少年から、その後も被害者の気持ちや償いを考え続けていること、出院したらまた相談したいこと、カードへのお礼などが書かれた返事が届きました。
私も、これから少年と一緒に償い方を考えてみようと思います。

吉 野  泉

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