少年付添人日誌弁護士会月報「付添人日誌」より転載したものです。

不処分事件から見えてくる少年事件の問題(その3)(14・7月号)

二 橋の下での恐喝事件

1 また恐喝?

前回の少女Aの審判が終わり、ホッとしていたところ、当番付添人で鑑別所に出動した。その当番日は、新人研修ということで五四期の永原先生と共に面会に行った。 恐喝事件ということで、「またか。」と思いつつ、どんな女の子だろうと思っていたが、その女の子(K子という。16歳)は、恐喝などしそうにない本当に普通のかわいらしい娘であった。

K子は、バレンタインの前日の夕方、友人の女の子(M子という。16歳)とチョコレートを買いに行き、帰宅するときに女子中学生の集団とすれちがった。そのとき、M子が中学生から何やら言われたのに気づき、振り返るとニヤニヤと笑っていたので、馬鹿にされたと思い、二人でかけよって文句の言い合いになった。中学生の態度にキレて、M子は、一人の中学生を連れて、近くの橋の下に連れて行き、K子ももう一人の中学生を連れて、M子らについていった(そこまでは何ら共謀はない。)。

K子が橋の下に行くと、M子は既に中学生のカバンをあさくっており、その手にタバコを持っていた。そこで、K子はM子に近づいていくと、M子は中学生に「財布もっとらんと。」と聞いたが、持っていないということで金員はとれず、その後M子が殴ったりしたが、K子は止めれずにいたということだった。

2 こんなんで逮捕するの?

はっきりいって、こんなの警察に行って、両親ともに頭を下げれば、説教されておしまいの事案である。K子の父もそう思っていたらしい。K子は、真面目に仕事もしていたし、タバコや夜間徘徊もない健全な女の子である。両親もしっかりしている。どうやら、集団でいた他の中学生が学校や被害者の彼氏に電話したことで警察がきて、逮捕されたようであるが、身柄を何週間もとるべき事案とは思えない。

さらに、送致事実についても、すでにタバコを取った後に現場に居合わせのであり(この順番は、被害者の調書でも同様になっている。)、金員を要求したが、交付を受けなかった事実について共犯は成立するものの、タバコを喝取した点については共犯は成立するはずがない。そうであるにもかかわらず、検察官は恐喝既遂で送致しているのである。これには、あまりにばかげた処理をしているのに「何じゃこりゃ。」と思わずにいられなかった。おまけに、K子の調書でも既遂が成立するように時間の前後を曖昧なものにしており、取調べでもK子はタバコを一緒に取った事になるのか聞いたところ、「2人で共謀しているから、タバコを取るところを見ていなくても一緒にやっていることになる。」とめちゃくちゃなことを言っているのである。

3 仕事に戻らないと

永原先生と共同で私選受任し、まずは前回と同様にK子の供述録取書を作成し、確定日付をとった。

それから、バイトをしばらく風邪ということで休んでいたがこれ以上休む訳にもいかない。K子は高校に入学したものの、自分の進路に行けないコースであることが分かり、納得いかず中退した後、自立しようと現在のバイトをしており、これで首にでもなれば、それこそ自暴自棄になる可能性がある。それで、早速、観護措置を取消してもらうよう申し立てをし、すぐに取消してもらうことができた。しかし、裁判所としてはK子については、些細な事を取り上げて「問題あり」との指摘をしていた。

4 新たな事実が・・

在宅になった後、K子とは今回の件についてと将来のことについて、何回か話しをした。ところが、被害者に対しては、素直に悪かったという気持ちになれないというのである。そこに、我々も何か引っかかるところがあった。そして、調査官の調査の日、我々にポロリ事実を話してくれた。

それは、中学生ともみ合った後、帰ろうとしたときに、被害者の彼とその友人が駆けつけ、彼女らはその男らに殴る蹴るの暴行を受けていたのである。そして、そのことについて、「ばらしたらただじゃ済まさないぞ。」と口止めをされて、警察にも言えなかったのである。

被害としては彼女らの方が大きかったのであるが、警察も分からなかったのであろうか。その場の雰囲気(怪しい男が二人もいること)や彼女らの様子をよく見ていれば分かったのではなかろうか。彼女らだけが逮捕されるのに納得できないのはもっともである。

ただ、それはそれで別のことだと我々はK子に理解してもらい、そのことは審判で言わなければK子も納得できないだろうからということで裁判所にも報告することにした。

5 K子の変化

審判を迎えるにあたり、K子と母親と面談して、今後のことについて話をした。K子は色々とこの機会に将来のことについて考えたらしく、このままバイトをしていくのも限界があると思い、現在ではメイクアップ等の仕事がしたいと考えるようになり、そのためにも高卒の資格をとり、専門学校に行きたいと話してくれた。それで、通信制の学校に通う準備をしているそうである。

私は、彼女がこの事件で不当に逮捕されたのにもかかわらず、前向きに生きていこうという姿にとても感動してしまった。この子は、もう立派な大人だと感じた。

審判でも、裁判官はそのことについてとても評価しており、結局、要保護性なしということで不処分になった。非行事実についても、恐喝既遂ではなく、未遂に落とされたのは言うまでもないことである。

6 当番付添人の効用

K子の父親は、娘が逮捕されて、あわてて色んなところで調べたところ、当番付添人という制度を知り、天神センターに電話をしたということである。当番付添人制度がなかったら、そのまま鑑別所にいたであろうし、調査官の意見が保護観察だったことから、保護観察になったかもしれない。それ以上に、本当の事実を隠したまま審判を受けたかもしれない。永原先生も最初の付添人活動でその意義を十分に感じた事件であったと思う。

三 その後の彼女たち

これらの事件を担当して、当番付添人の意義を私も肌で十二分に感じた。日常業務の中でも彼女らと面談しているときが一番ホッとする時間であった。私も彼女らからたくさんのエネルギーをもらった。

最初の少女Aは、今、会社向けのコーヒー販売の営業をしており、一番若いのに営業成績は一番だそうである。少女Bのためにも頑張っていきたいと言っている。

K子は、通信制の高校に通う事になり、週に三回はスクーリングに行き、残りの日はバイトに頑張っている。

彼女らが将来どのような女性になっていくのか本当に楽しみである(いやらしい意味ではありませんよ。)。

(完)

弁護士 田中裕司

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