福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画

会長日記

2011年9月22日

会長日記

平成23年度福岡県弁護士会会長 吉 村 敏 幸(27期)

1.「皆さんは、憲法の自由権保障は大変重要だと考えているでしょう。じゃ、社会権保障についてはどうですか。最高裁や有力学者はこの点の違憲審査基準について二重の基準を作ったのが誤りです。自由権=厳格基準、社会権=合理性基準=緩やかな基準、という二重の基準です。食うに困らない人は自由権を重要だといい、社会権保障を緩やか基準でいいといいます。しかし、食うに食えない人、生きていけない人は自由の前に食うこと、生きていくことのほうが大事なのです。したがって、違憲審査基準の二分論は誤りなのです」。  これは、委員会合宿の講師の先生のご発言です。久しぶりに憲法の講義を聞いています。  今日は、生存権本部委員会の夏合宿帰りに、この日記を書いています。場所は、佐賀古湯温泉でした。金曜日に日弁理事会から帰福し、土曜日午前は九弁理事会があり、午後から松井副会長の車に便乗しての古湯行きです。久しぶりの委員会合宿なので、若かったころの委員会共同作業を思い出し、気分が高揚してきました。  参加者は約20名。登録2~4年目前後の人が多く、10年、20年、30年前後の会員が各1名ずつくらい。今回は、金沢大学大学院人間社会社会環境研究科長、井上英夫教授の講演も予定されており、大変楽しみでした。この合宿は9月17日13時15分(天神センタービル8階)からの人権大会プレシンポ(生存権)に向けての準備作業も含まれています。シンポの獲得目標は次のとおりです。・ 日本の社会保障がどうあるべきか、普通に働けば普通に生きていける社会を作るためにはどうすべきかというのが大テーマ。・ 大テーマを基本において、あるべき社会保障ないし国の進むべき道-労働を基本にして国をどう持っていくかを議論する。また、東日本大震災を契機とする生存権保障にかかわる価値の転換、今後の日本の在り方を問う。・ 働いて生活していける国づくり-ナショナルミニマム、最低賃金、年金、税と社会保障の一体的改革、規制緩和、地方分権、福祉国家型の社会保障とは何か。・ 社会保障の重要テーマである労働現場、雇用関係はどうあるべきか。市民・弁護士はどういう視点を持つべきか。・ 労働と社会保障との密な連携が前提になるという視点。労働市場の健全性、就労支援、社会保障という3つが揃うことが必要不可欠であること。 人権大会プレシンポは、ほかに、  9月5日18時(アクロス円形ホール)「死刑制度の我国における現状と国際的動向」等、  9月10日13時30分(博多区千代町ガスホール)「患者の権利の法制化を目指して」等 が予定されています。

2.執行部に入ると、自分の個人的業務のみではおよそ関与しないはずの文書に接することが多くなります。私の分野では、憲法に関する講演録や公害、環境に関するものです。  秋田弁護士会から平成18年3月11日に樋口陽一教授を招いた憲法講演会講演禄が送られてきました。明治憲法制定時「臣民ノ権利」を入れるか入れないかに関して闘わされた伊藤博文と森有礼との論争、夏目漱石の個人主義的人権観などが述べられていて面白かったです。可能であれば、追而月報等に転載できればと考えています。  公害、環境に関するものとして、日弁連は7月15日理事会で、原子力発電と核燃料サイクルからの撤退を求める意見書を採択しました。この問題は、今年の九弁連大会の宣言・決議にも提案されることになると思われます。  原発は補償問題もあり、発電と送電網を分離しての売却論など初めて聞く議論であり、興味深い論点がたくさんです。

3.東日本大震災の問題については、二重ローンからの解放の問題に漸く目途がつきそうです。  7月15日日弁理事会における報告によると、ADRにおいて債務者と金融機関、保証会社と合意することによって債務免除を認める方式とすること、当該保証人に対しても求償しないこと、とされています。多くの金融機関、リース会社、保証会社、信用保証協会も同意しています。以上が骨子です。ただし、3月11日以前に既に期限の利益を喪失する等の遅滞者の場合は利用ができないこととなっています。  この問題は、震災直後に復興のためには避けて通れない重要な課題として宇都宮日弁連会長がマスコミ等にアピールし、政府、国会等に働きかけてきたものであり、今回、漸く実現に向けた見通しがたち、日弁連として復興への重要な役割が果たせたことを嬉しく思います。

4.給費制問題7月13日法務省の検討会議(フォーラム)において、貸与制の問題の議論がなされました。日弁連からは丸島委員と川上明彦委員が意見を述べましたが、法務省からは弁護士登録5年目会員の平均所得が約1,100万円であることの報告がなされたそうです。このことが、多くの委員に驚きとともに、充分返済可能であり、貸与制が大勢であるとの佐々木毅座長の意見に連なったとの報告もありました。しかし、このアンケート報告は、わずか回収率が13%であることから、日弁連としては早急かつ正確なアンケートのやり直しをすることを決めて、直ちに作業に入りました。対象会員は、57期、62期です。次回のフォーラムは8月4日ですので、執行部としても全力をあげて、対象会員にはアンケートの作成報告の協力をお願いするつもりです。

5.夏は合宿の季節です。九弁連理事会も鹿児島合宿です。テーマは法曹人口問題、原発問題等です。生存、消費者、刑弁なども合宿をします。この合宿は若手会員が基礎的問題から応用まで幅広く研究し、かつ意見交換できる場として、大変重要な機会です。ここから委員会と弁護士会、日弁連を牽引していく会員が育っていきますので、多くの会員の参加を願っています。古湯合宿では、近くの渓流で2日続けて24cm、25cmのやまめをゲットした幸せな弁護士もおられました。

2011年7月29日

会長日記

福岡県弁護士会会長日記


平成23年度 会 長  吉 村 敏 幸(27期)

福岡家庭裁判所からお濠を隔てた南側に平和台陸上競技場があります。福岡高裁から西側へ約500mの場所です。福岡国際マラソンの開催場所でお馴染みです。
以前、ここでは春から秋にかけて中高生たちの競技会がよく開かれていました。赤いトラックが周囲の緑とフィールドの緑に浮かび上がり、美しいです。芝生の土堤に座って子どもたちの走る姿を見る。するとスタート直後からスッ、スーッと一瞬のうちに集団から抜け出し、あっという間に後続を引き離す選手がいます。この当時は筑紫女学園高校全盛の時代で、速いのは大抵筑女の学生で、圧倒的な差をつけての1位でした。
これが実業団レベルになると、圧勝はあまり見られないと思っていたところ、今年の日本陸上の女子ショートスプリンター福島千里選手はぶっちぎりの優勝でした。為末選手は全くダメ。先天的な能力に優れた選手であっても、努力不足や精神面の不調などから、好不調があるとか。
(今、ほとんどの陸上競技会は「博多の森」へ移っており、平和台ではあまり実施されないとか。残念です)
たまたま先日、東京帰り便飛行機の中で「一瞬の風になれ」(佐藤多佳子著・講談社文庫)を読みました。高校生の陸上競技部の400mリレーを中心とした物語でしたが、バランスの良い走法を作り上げることによって走力がかなりつくことを知りました。その努力のうえに、精神面の充実も伴うという。
私たちの執行部活動も、努力努力の二文字です。
最近は、移動の交通機関の中では女性作家の文庫ばかりを読んでいることに気づきました。男性とは異なる視点やスタイルが多く、あまり考えないで、スーッと読めるのが多いです。

会務報告です。
◆ 毎年、新執行部は3月から5月にかけては、会務引継ぎ、新執行部の課題設定、委員会人事、あいさつ回り、予算、定期総会など、課題山積で、怒涛の毎日を過ごすといわれます。
  今年は大震災と原発事故の対応がさらに重い課題となり、加えて、困難な状況下での給費制の運動があります。
  6月4日の法曹養成を考える市民集会は、給費制をメインテーマとして開催したところ、西日本新聞会館にて約350名の参加者があり(「ホウな話」を読んで参加したという一般市民もおられました)。また警固公園→国体道路→昭和通り→天神交差点→アクロス前公園へと至るパレードにも約130名の参加者が元気一杯で行進し、通りの一般市民のビラ受取りの反応も良く、市民から激励を受けたという会員の報告もありました。
  6月16日、17日、18日は日弁の理事会と法曹人口政策会議ですが、私は市丸前会長と高橋副会長の3名で、福岡県選出の全国会議員あて6月4日給費制市民集会の報告書を携えて、更なる協力依頼のあいさつ回りをしました。
  衆議院18名、参議院8名。早朝8時30分に集合し、10時までに足早に回ります。議員がいるところではじっくり話ができましたが、多くは勉強会や外出中のため、秘書に冊子を渡し「今年8月末日の検討会議(フォーラム)において給費制廃止の結論にならないよう」念押しの口上を申述します。
  時間が足りなかったのですが、市丸前会長は理事会昼食時間に一人で残り全議員を回っていただきました。頼もしい限りです。
  回った限りでは、議員や秘書は問題の所在を概ね理解しておられ、反応も大変良かったとの印象を受けました。
  この視点は、・給費制が戦後間もない昭和22年5月に統一修習制の採用とともに給費制が始まった歴史的経緯、・弁護士、弁護士会の公益性、・修習生の修習専念義務、・ロースクール生、修習生の置かれた現状、などです。これらから金持ちだけしか受け入れない貸与制は廃止すべきことを訴えていきました。
  しかし、フォーラムの第1回議事録(公開)を読む限りでは、桜井財務副大臣の感情的反発などが露わであり、歴史的経緯と現状に対する分析と評価が明確になされるか否かについて議論の行方が懸念されます。まだまだ10月末日まで運動を盛り上げなければなりません。

◆ 当会独自の問題としては、共済規定廃止の問題と、新会館建設に向けた取組みに取りかからなければなりません。
  共済規定については、前年度執行部が3月の臨時総会で成立を目指したものの、会員への周知が不足しているのではないかとの問題提起がなされたため、一旦撤回され、今年度へと引き継がれた課題です。
  現在、共済会費は毎月1,000円をいただいています。この積立金が現在約9,000万円近くに達しています。以前は各部会互助会において積立金から慶弔、退会等の事由に対して一定の金員が支払われてきたわけですが、平成8年4月1日から県弁全体として一本化しました。ところが、会員が1,000名を超えると保険業法の適用対象となることから、大きな単位会はこの規定の改廃を余儀なくされています。
  方法としては、・これまでの積立金の一定割合を返還するのか、・これを一般会計に繰り入れて基金的に運用するために、共済会費は受領せず、従前積立金のみから出損することとして、今後の払戻金を少額とする方式、などです。
  臨時総会で指摘された周知方法については、登録歴30年以上等、一定年限以上の登録会員を対象とした説明会を開催するか、またはアンケート方式とするか、いろいろと方法があると思われますが、ともかく今年中には当会会員数は1,000名を超えることが見込まれますので、早急に皆様にご提案したいと考えます。

◆ 新会館問題
  この問題は、会員の会費負担とも絡んでおり、広く皆様のご意見をお聞きしながら会館の機能と規模を判断していくことになります。
  月報6月号に山口雅司会員のアンケート分析報告がなされていますが、これを受けての新会館委員会の検討結果を踏まえて、秋ごろには一定のご提案を出さなければいけないと考えています。
  現在は、会員の活動が活発で部屋が足りずに執行部は困ることが多く、かといって賃貸も空きがなくて困ることが多いというのが実状です。
  皆様のご理解をよろしくお願いします。

2011年6月27日

会長日記

平成23年度福岡県弁護士会会長日記会 長吉 村 敏 幸(27期)

1、5月になると、風が新緑の薫りを運んできます。
  およそ20年程前であったか、6月上旬ごろ、筑後川下流の土堤下(いわゆる後背湿地という場所です)の家で友人の母親の「えつ」の手料理フルコースをご馳走になったことがありました。淡水と海水のまじりあう付近でとれるカタクチイワシ科の魚で、硬い小骨が多いために、小さくたたいて食べやすくするとか、弱い魚のためすぐ死んでしまい、新鮮さを保って刺身で食べるためには予め漁師に注文しておかなければ入手できない珍品、などとの話を聞きながら、筑後川の土堤を吹き渡ってくる風にえつと城島のお酒がうまく合い、ゆったりと時間を過ごしたことを思い出しました。  ところが、会長になった今、一日中部屋に閉じこもり、会議室で短い休憩時間を取って会席弁当を食べ、またその後会議に没頭するという日常が多くなりました。
2、日弁連理事会についてご紹介します。
1)日弁理事会は月1回開催木曜日 午前10時15分から10時45分まで常務理事会午前10時45分から17時30分ごろまで理事会午後7時から九弁連理事者懇談会金曜日 午前10時から17時30分ごろまで理事会土曜日 午前10時から15時30分ごろまで法曹人口政策会議全体会議(土曜日は偶数月のみ)のスケジュールです。全体で10cmくらいの厚さの資料が配布され、日弁連各委員会から種々の声明、決議文、意見書が提案され、質疑・応答・討論・議決されていきます。
2)5月理事会でも議題はてんこ盛りでした。私の印象に残った議題のうち、次をご紹介します。足利事件に関しての日弁連(公式)調査報告書です。これは、一審弁護人批判および一、二審裁判批判が厳しいです。この報告書をこのまま承認できるか否か、あらかじめ読了し、関係委員等に意見をお聞きして理事会に臨みます。この報告書は追而会員に配布されることになると思いますので、ぜひ皆様も読んでいただきたいと思います。弁護士が陥りやすい誤りと注意すべき点がきちんと指摘してあります。
3)菅家さんは、事件(1990年5月12日)の約1年半後(1991年12月1日)早朝に任意同行を受け、深夜に自白、翌日未明に逮捕。その3日後にF弁護人が弁護人選任届を提出。その6日後に接見。さらにその6日後に再接見。菅家さんは第1回公判前に足利事件以前に発生した別件2件の幼児誘拐殺人事件も自白。 1991年 12月12日 菅家さん足利事件で起訴 12月27日 G弁護士選任 1992年 1月15日 別件のうち1件は処分保留保釈 1月27日 菅家さんはこのころから断続的に「逮捕に納得できない」旨家族あて手紙を書く「自分は無実」 2月13日 足利事件で第1回公判「犯行を認める」 12月22日 第6回公判。家族への手紙が公開されて、菅家さんが犯行を否認(この間、F弁護人が否認撤回(自白)を勧める...後述のとおり) 1993年 1月28日 第7回公判。再び犯行を認める 2月   栃木弁護士会がF弁護人に支援を申し入れるもF氏拒絶 2月26日 別件2件とも不起訴処分 3月25日 第9回公判。結審 5月31日 菅家さんは弁護人あて無実の手紙を書く 6月14日 F弁護人弁論再開申立 6月24日 第10回公判。被告人質問で再度否認 7月7日 無期懲役判決 9月6日 L弁護人、M弁護人を選任 1994年 4月28日 控訴審第1回公判   ~     (控訴審は佐藤博史、神山哲史、岡慎一、上本忠雄ら4人の弁護人) 1996年 5月9日 第18回公判。控訴棄却(判例時報1585号136頁) 2000年 7月17日 上告棄却 2002年 12月20日 日弁連再審支援決定 12月25日 再審請求 2008年 2月13日 宇都宮地裁再審棄却 2月18日 即時抗告 12月24日 東京高裁DNA再鑑定採用 2009年 6月23日 東京高裁再審開始決定 2010年 3月26日 第7回公判。無罪判決以上が大まかな経過です。
4)日弁の調査報告書は、一審の第6回公判時点で菅家さんが犯行を否認した後の弁護人の対応を特に問題としました。  同書27頁・「F弁護人は、公判終了後、新聞記者に対し『信頼関係が崩された気分だ。24日に菅家被告と面会し、もう一度確かめる。それでも起訴事実を否認するなら、辞任もあり得る』(1992年(平成4年)12月23日付朝日新聞栃木版)などと述べた。そして、F弁護人は、同月24日、菅家さんと面会した。菅家さんは、同月25日に、裁判所あてに、犯行を再度認める内容の上申書を提出した。このころ、第6回公判で菅家さんが否認したという報道などを受けて、栃木県弁護士会がF弁護人に弁護活動支援の申入れを行なったが、F弁護人は自白事件であるから支援は不要であると断った」  第7回公判「1993年(平成5年)1月28日の第7回公判で、菅家さんが家族にあてた14通の手紙が証拠物として取り調べられた。しかし、被告人質問において、裁判所、検察官および弁護人から、手紙についての質問がなされた際、菅家さんは上申書に記載された内容のとおり、家族に心配をかけたくなかったので無実と書いたのだと述べた。菅家さんは再び、本件犯行を認める供述に転じた」  F弁護人は、なぜこんなことをしたのか。  私は、菅家さんが逮捕された当日の新聞報道を念のためにインターネットで見てみました。  報道内容は、*幼女誘拐殺人事件の犯人が逮捕された、*DNA鑑定は一千人に1人の確率でほぼ同一人物、*1年半に及ぶ地道な捜査、*14時間の取調べで自供、*自宅からは幼児のポルノ発見押収、という見出しです。  菅家さんの話によると、警察は自宅にやってくるなり肘鉄やひっくり返すなどの暴行を加えたようですが、最初の高裁判決は、警察の暴行の点は認定していません(判例時報1585号150頁)。  F弁護人は最初のDNA鑑定と自白の重みには抗しきれなかったのでしょうか。  また、さらには新聞報道やTVワイドショー等からくる連続幼児誘拐殺人事件の重圧。1件だけなら死刑回避との弁護方針なのか。それでも、第6回公判前に家族にあてた無実との真摯な訴えの手紙をなぜきちんと受け止めなかったのか。  疑問は残るものの、当時の状況におかれた弁護人として、マスコミなど大勢の敵を前にして、唯一の味方として必死に戦う弁護人魂こそが弁護士としての命であることを改めて自覚させられる調査報告書です。  この報告書は、裁判所批判もきちんとしています。  しかし、マスコミ批判はありませんでした(なお「自宅から幼児ポルノ等を押収」との報道も事実無根であったことが後に判明しました)。
5) 私は、当会刑事弁護委員会の船木、林、甲木委員らのご意見を受け、一審弁護人がなぜこのような対応を取ったのかについての背景事情をいくらかでも入れないと、弁護人の対応としては理解しがたい点がある旨、意見を述べたところ、その点は修正されることになりました。  少々くどくなりましたが、日弁連理事会報告の一コマでした。

2011年6月 1日

会長日記


平成23年度 福岡県弁護士会 会 長吉 村 敏 幸(27期)

東北地方では四月に入っても被災の現場に雪が降っていました。寒い春の訪れでした。一方、福岡は四月も下旬になると暖かな陽光とともに新緑が芽吹き、一気に初夏の装いを始めました。1、私たち執行部の今年度の課題はたくさんありますが、そのうちの第一順位に対応を求められたテーマが、東日本大震災、原発事故を巡る復興支援活動でした。  4月2日に「東日本大震災復興支援対策本部」を立ち上げ、以下の活動を始めました。・ 被災移住の人たちを対象とする無料相談活動・ 中小事業者を対象とする「ひまわりほっとダイヤル」を通じての取引関連の無料相談活動・ 震災・原発事故に対応する研修活動・ 義援金募集・ 将来の現地派遣に向けた弁護士の応募体制づくりの検討  これらの諸活動は、多くの会員の皆様からの強い要請に基づくものでした。  義援金は4月23日現在149件、合計908万円が寄せられています。  この使途は会長一任とされていますが、執行部としては、かつての阪神淡路大震災当時の日弁連の方針を参考にしたうえで、大方の目安として半額を被災弁護士会、半額を被災者の方々へと考えています。  岩手、宮城、福島の東北三県の弁護士会では、多くの会員が事務所機能を喪失しながらも、自治体と連携して被災現場での無料法律相談活動を継続しており、資金的に困難であるということから、4月8日までに各三県の弁護士会から義援金の要請がありました。  そこで、同日時点の約半額分として、各県弁護士会あて各100万円、合計300万円を送金しました。  研修活動についても、・災害救助法、・災害弔慰金の支給に関する法律、・被災者生活再建支援制度に基づく救済、・雇用保険の失業等給付制度(労働者)、・雇用調整助成金制度(事業者)、・死亡認定制度、・その他労災認定にあたっての通達や生保・損保の対応策など、従来、一般的な法律相談では必要とされない法制度が多く、またメンタルサポートも重要であるため、弁護士としても人格面も含めた総合的な対応能力が試される現場になることが予想されます。  また、5月25日午後1時からホテルニューオータニにおいて、定期総会前に被災現場から2名の弁護士を招いての被災現場の状況と相談事例等の報告会を受け、当会として復興支援活動の具体策をさらに充実させたいと考えています。  ぜひ、多くの会員の皆様のご協力をお願いします。2、給費制の運動  前記のとおり、現在東北三県の弁護士会はボランティアで多くの被災者と向き合い、彼らとともに悩み、同時に権利擁護活動を行なっています。  阪神大震災のときも、この度の東日本大震災のときも、常に弁護士会は早い時期に救済体制をとり、国民とともにあり続けました。  もともと、司法修習生の給費制というのは、昭和22年の敗戦後の国の財政窮乏化において、採用された経緯があります。すなわち、昭和22年5月裁判所法の改正により、法曹養成を司法修習に一元化したことです。現下の国難ともいうべき時期にあっても、法曹を養い育成する義務は国にあります。より良い法曹を育てることは、ひいては国民全体の利益になることを訴えていくことが大事だと思います。  給費制の催しは6月4日土曜日西日本新聞会館において開催されます。多くの会員の参加をお願いします。3、私たち執行部は、すでに2月から前年度執行部の引き継ぎを受けつつ、助走を始めました。感じることは、業務の多さです。  会務の継続性は委員会の継続活動により保たれますが、1年任期の執行部は継続性を検証しつつ、各委員会間の調整役となり、また社会状況の変化に応じて新たな課題を見出して、委員会での議論をお願いしています。  今年度は、第一に国際委員会と中小企業支援センター委員会にまたがるテーマとして、国際取引問題を調査してみたいと思っています。  これは、とりわけ福岡の中小企業が対アジア方面に向けての取引において弁護士としてどのような関与が可能なのかについての勉強会を行なうというものです。  第二に現在、執行部では当会会員が任期付公務員として採用された場合において会費免除が可能とならないかどうかについての検討を行なっています。  これは、本来は所管委員会の検討を踏まえて常議員会等での議論を行なうべきことであると思いますが、5月の定期総会が目前に迫っていましたので、執行部において早急にご提案することとしました。  また第三に、会長として将来の執行力を考えたとき、業務の多さに対して現行の副会長体制のままでいいのかどうか、また副会長は多くは義務的に選出されつつも、さらに自ら多額の執行部活動費を拠出しながら、職務に専念しています。  私は、このような執行体制は改めるべきではないかと考えています。今年度、議論をお願いしたいと思います。4、私は会長になって、変わったこと、気を付けるようになったことがあります。  あらためて言うまでもないことですが、会長職は公人です。  そのため、身だしなみに気を配るようになりました。  以前は、ネクタイなど気に入ったものがあれば1年中同じものを、まさに擦り切れるまで使っていましたが、気を付けるようになりました。洋服や整髪も今まであまり気にしませんでしたが、いろいろな催しがあるので気を付けるようにしました。  最も気を付けるようにしたのは、言動です。できるだけ舌禍事件を起こさないように、慎重に配慮すべく心がけていきます。

2011年5月10日

会長日記

平成22年度福岡県弁護士 会 長市 丸 信 敏(35期)


自宅から県弁会館へ徒歩で向かう際、六本松の九大教養部跡地の脇を通り抜けます。そこに数あった建物は今や全部解体撤去され、目下、跡地整備作業が進められています。いよいよ当会の新会館に向けた夢が膨らみます。…そんな気持ちで任期末の3月を迎えたところ、思いもかけない激震に相次いで見舞われることとなりました。◆弁護士・弁護士会の真価が問われている3月11日に発生した東日本大震災や巨大津波による被害の惨状には、ただただ呆然と立ちつくすしかない思いでした。被災地の皆さまに心からのお見舞いを申し上げますとともに、犠牲になられた多数の方のご冥福をお祈り申し上げます。われわれは、弁護士として、基本的人権の擁護と社会正義の実現という使命を国民から負託され、日頃、その本分を全うすべく力を合わせて懸命に努めて参りました。今、未曾有の大災害、空前の被害(人権侵害)を前にして、弁護士・弁護士会としての真価が問われています。西日本の雄会としての当会は、率先して、なすべきこと、できることに心を砕き、被災者の救済、被災地の復興、日本の再起に向けて、一丸となって支援のための努力を払って参りましょう。なお、日弁連や全国弁護士会、一部ブロック会では、阪神淡路大震災以降の経験を教訓にして、災害対策や復興支援のための委員会組織を設け、連絡会議などを重ね、災害相談マニュアル等も作成・改善を重ねる等、災害時の対応や災害被害からの復興に向けて、被災地弁護士会を日弁連・他の弁護士会(支援弁護士会)が連携して支援する体制ができております。当会でも、災害対策委員会を中心にしかるべき体制で適時・適切な対応をもって臨むことになります。会員の皆さまのご支援方をよろしくお願いします。なお、3月15日に、当会会員の皆さまからの震災復興支援の義援金の受け付け口座を開設してご案内致しましたところ、最初の2日間で47口、266万円もの善意をお寄せ頂いたことには、執行部一同、感嘆と感激の思いで包まれました。なるべく早期に、被災地弁護士会を介しての被災地支援に役立たせて頂きます。ご協力に感謝申し上げます。◆信頼の回復にむけて3月3日夕刻、執行部に衝撃が走りました。当会会員(北九州部会、30期)が福岡地検に業務上横領罪容疑(平成18~21年頃の事件)で逮捕されたとの報が飛び込んできました。執行部は、当夜直ちに、拘置所にて当該会員との面会をして、逮捕容疑に間違いないことの確認が得られましたので、引き続き、緊急の執行部会議を開き、当会として綱紀委員会に対する調査請求をすることを決定しました。翌4日午前には、その手続を了したうえ、記者会見に臨み、国民の皆さまに向かっての謝罪を致すとともに、綱紀委員会に調査請求をしたことを公表しました。調査請求やその公表は、当会の規定に基づく処置です。当年度は、とりわけ修習生の給費制の問題に会員の皆さまと一緒になって懸命に取り組んで参りました。その運動を通じて、私たちは、法曹そして弁護士は一体誰のものであるのかを強く自問しつづけ、そして、弁護士はこれまでも司法を担う公共財であったし、これからも公共財であり続ける、との決意を新たにしたばかりでした。そのようなさ中のベテラン会員によるよもやの事件は、まことに無念の一語に尽きます。全国のほとんど全てに近い会員は、誠実に職務を遂行し、自己犠牲を厭わずにボランティアでの公益活動にも邁進しています。にも関わらず、ごく一部の例外的な不祥事であってもそれが起こってしまえば、弁護士全体に対する信頼が揺らいでしまうことになります。その信頼を取り戻すためには、再び、会員ひとりひとりが、地道にコツコツと弁護士の本分を全うする日々を積み重ねて参るほかありません。同時に、同じ過ちを決して繰り返さないための会を挙げての取り組みも欠かせません。今回の事件は、弁護士倫理(弁護士職務規程)以前の論外の問題ながら、事件の概要がつまびらかになったところで、今回の事件を検証して、会としてあるいは周囲の仲間として、このような事態を招かないで済むにはどうすればよかったのかをキチンと振り返ってみて、今後の有り様を皆で考えてみるべきはないかと感じております。◆法曹養成制度の改善に向けての正念場今次の司法制度改革の中で、もっとも困難な状況に陥っているのが、法科大学院を中核として制度設計された新しい法曹養成制度と理解します。司法を支える人材をいかに確保し養成して行くかは、極めて重要な国家的課題です。給費制の問題も、適切な法曹人口・弁護士人口の在り方も、養成制度と深く関係します。法科大学院、司法試験などを含む法曹養成制度の改善に向けて、政府のもとにその改善施策の検討・策定に向けたフォーラム(検討会議)が近々発足する予定です。極めて重要な会議になりますので、日弁連は、これに向けて緊急提言や昨夏以降激しく会内論議を重ねてきた法曹人口問題に関する提言をなす予定です。これらについては、当会でも鋭意検討や議論を致して参りましたが、非常にタイトなスケジュールの中で広く十分な会内論議を尽くすことができなかったことを申し訳なく思っております。ただ、内外に向けての運動の本番は、いずれもこれからです。吉村執行部には大変な重要課題が数多控えておりますが、会員の皆さまのご支援のほどをよろしくお願い致します。◆嬉しいお知らせ昨年5月号から続けさせて頂いた私からの会長日記も今回が最後です。最後にうれしいご報告で締めさせて頂きます。1) 福岡市こども総合相談センターの任期付公務員に当会会員報道でご承知の方も多いと思いますが、久保健二会員(福岡部会、62期)が、福岡市こども総合相談センター(児童相談所)のこども緊急支援課長に任期付公務員(任期2年)として採用され、この4月から常勤します。当会の子どもの権利委員会は児童虐待防止活動にもかねて熱心に取り組んできており、福岡市とも連携を強めてきたところ、昨秋、福岡市から推薦依頼が当会になされ、久保会員に白羽の矢が立った次第です。もちろん、全国初のケースであり、弁護士の活動領域の拡大、そしてなにより、弁護士会が取り組んできた子どもの権利の擁護活動が一歩前に踏み出した新たな形として、まことに画期的なことで、全国への波及効果も期待されます。会を挙げて支援すべきです。久保会員におかれては、常に緊急かつ緊張の現場対応が求められるハードな仕事だと察しますが、どうか身体に気をつけて頑張って頂きたいと願います。2) 法教育懸賞論文優秀賞の受賞法教育は、弁護士会が取り組むだけではなく、国(法務省・文科省)もまた日弁連との連携において強力に推進しています。法務省では昨年、法教育懸賞論文を募集したところ(テーマは「学校現場において法教育を普及させるための方策について」)、当会の春田久美子会員(福岡部会、48期)がこれに応募され、この度見事に優秀賞を受賞されました。もちろん春田会員は当会の法教育委員としても熱心に活動されています。近々、法務省のホームページに論文全文が掲載されるとのことですので、是非ご覧ください。そして、当会でこのほど発足した法教育センターにご理解とご支援をお願い申し上げます。3) 委員会活動活性化若手会員が急増するとともに、委員会活動に参画して頂いている会員もまた増えている状況を伺い見て、また各委員会から上がってくる毎月の議事録も拝見致しながら、当会の委員会活動が全体的にかなり活性化しているとの手応えを感じながらこの1年を過ごして参りました。実際、本年度第2回目の委員長会議(2月25日)の報告資料によれば、委員会の本年度の出席者数が前年比で増えた委員会が過半を超え(28委員会)、その余も多くは横ばい傾向であり、執行部一同とても嬉しく思いました。会員数が増えることで、従来は手を回し切れていなかった活動分野にも取り組むことができるようになりつつあります。数は力なりです。地域司法も充実して参ります。(退任のご挨拶は、あらためて次号になるそうですが、1年間、会長日記をお読み頂き、また、会務をお支え頂きまして、会員の皆さま、まことに有り難うございました。)

2011年4月 8日

会長日記

平成22年度福岡県弁護士会会長日記会長 市丸信敏(35期)

◆人権白書「人権擁護活動2010」今年度の執行部は何をしたの、と問われると、「給費制で明け暮れました」と、つい口をついてしまいそうです。ですが、給費制の運動のおかげで多くの人の暖かいご支援に接することができて、これまで経験したことがないほどに大きな、そして多くの感激・感動を頂戴しました。本当にありがたく思っています。ただ一方で、街頭行動や各方面への要請活動等を通じて、弁護士そして弁護士会・日弁連の人権活動や公益活動が世間の人にこんなにも知られていないのかと呆然とし、日ごろ会員の皆さんがどれほどの自己犠牲の上にこれら活動に地道に奮励して頂いているかをよく知る一人として、誠に悔しい思いをしたことも少なくありませんでした(このことは、昨年10月号の会長日記に詳しく記させて頂きました)。しかし、これは考えてみれば、端から見ると、単にわれわれの的確な広報の努力がまだまだ足りていなかったというだけのことなのかも知れません。大事なことは何度でも繰り返し伝える努力をしなければダメだ、分かってくれているはずとの思いこみではダメだ、ということも、給費制運動で学んだことの一つです。そこで、今回、ひとつの試みとして、当会の昨年1年間(1~12月)の人権活動の白書を作って、県内の自治体や関係諸団体、マスコミ関係者や議員さんら等々に広く報告(広報)してみてはどうかと企画しました。もしこれを毎年続けて、この冊子を手にしてパラパラ(あるいはチラッ)とでも見てくれる人が少しずつでも増えてくれれば、当会のサポーターがさらにじわりじわりと増えてくれるのではないかとの構想です。常議員会の賛同を得て実行に移し、早速、多くの委員会から快く原稿を寄せて頂き、この度、「福岡県弁護士会の人権擁護活動2010」として刊行できる運びとなりました。本文40ページ程度の簡素な小冊子です。会員の皆さまにも1冊お届けさせて頂きます。ご自分が関係する委員会以外の活動を広くご存じ頂く機会も普段はなかなかないかとも思われますので、是非ご高覧を頂ければ幸いです。趣旨を踏まえて短期間で原稿を寄せて頂いた各委員会や、一手に編集作業を引き受けて頂いた小林副会長に、この場を借りて厚く感謝を申し上げます。◆法教育センター本年4月から、「法教育センター」を当会で発足させることになりました。子ども達などに正義、公平などの法の基本的な価値観に基づき問題の解決を考えてもらう授業などに取り組んで貰うことを推し進めるのが、弁護士会の法教育活動です。子ども達に生きる力を備えて貰うための新しい教育、そして、司法改革が実現を目指す法化社会の担い手としての主権者を育てる教育をサポートするものとして、近年にわかに重要性を帯びてきています。当会では、法教育センターを立ち上げることによって、会員の皆さまにひろく協力を募って、学校への出前講師(ゲストティーチャー=教員とのコラボレーションで授業に参加する)などを少しずつでも担って頂ければと願っております。生き生きと向きあってくれる子ども達と触れ合えて、楽しく、やり甲斐のある活動です。負担が重くならないように、テキスト類の作成作業も進んでおり、研修(オリエンテーション)などと合わせて、どなたにも参画して頂けるようになります。ご案内の節は、是非ともエントリーして下さるよう、よろしくお願い致します。◆ひまわりほっとダイヤル(中小企業支援コールセンター)中小企業にも法の光を!法の支配が中小企業を含めて社会の隅々まで行き届くことは、司法改革が目指す法化社会の実現のために重要なことです。その理念に基づいて、当会では昨年5月の定期総会で「中小企業への積極的な法的支援を行う宣言」をご採択頂いております。昨年4月から活動を開始した、当会の中小企業法律支援センターの取り組みの柱の一つとして、「日弁連ひまわりほっとダイヤル」というコールセンター業務(電話番号0570-001-240)があります。中小企業経営者がこのダイヤルに電話すると、最寄りの弁護士会(相談センター)に電話がつながり、会が相談担当弁護士を割り当て、その弁護士から折り返し連絡を入れて速やかに面談相談に応じる、という日弁連が構築した全国システムです。この事業開始に伴って、キャンペーンとして、全国で、当初は半年間、これを延長して更に半年間、コールセンター利用者に無料相談を実施してきました。当会は、委員会の努力の甲斐あって、全国でも常に上位の好成績を収めてきています。コールセンターの周知・定着のためには、なおしばらくの間のキャンペーン継続が相当であるとの日弁連の要請がなされました。当会では、商工会議所はじめ各種中小企業団体や行政(経産局や県など)・政府系金融機関などとの間の連携関係構築に委員会が地道に取り組んできており、このコールセンター無料キャンペーンはその有力なツールであることも報告されました。それらの結果、無料キャンペーンを更に1年間(24年3月末まで)続けることが常議員会で承認されました。研修等の一定の要件はありますが、希望する会員はだれでもコールセンターの相談員に登録できます。どうか、ご理解・ご協力をお願いします。◆共済制度の廃止について3月9日の臨時総会では、共済制度(共済規程)の廃止・残余財産の一般会計組み入れという重要議題がかかります。保険業法の改正によって、会員数1000名を越えた弁護士会では、保険業法の適用を受けることとなって共済制度の継続が困難となります。そこで、会員1000名を目前にする当会での対応が必要となり、他会での先例を調査し、機構・財務改革委員会からの答申を受ける等して、やむなく、共済制度は廃止をさせて頂くことに致した次第です。なお、この廃止後は、一般会計から社会的儀礼の範囲内での慶弔見舞金をお支払いさせて頂く新たな制度を設ける予定です。◆バトンゾーンをめがけてこの時期、次期執行部メンバーも各種会議に努めて出席を始められる等の光景を目にして、いよいよわが執行部のゴールも間近に迫ってきたなあという実感が湧いてきます。他団体の会長さんなどからは、1年で任期終了という話しをすると羨ましがられたりしますが、全国を見回しても、弁護士会の役員はほぼ例外なく1年任期です。但し、日弁連の会長と事務総長は2年任期であり、また当会でも、昭和60・61年度に田邉俊明会員が最後の2年間の会長をお務めになられましたが、それまではずっと2年任期(事実上の)でした。ところが、世間的には団体役員の1年任期はかなり異例と映るようです。実際に1年近く経ってみてようやく分かってきた事柄も少なくなく、対外的にも、やっと諸関係者との顔つなぎやパイプができかけたかなという感触があることも否定できません。正直、弁護士会としての執行力の強化という点からは、複数年任期制がベターなのではないかとの感想も覚えます。ただ、現実問題として、本業の傍ら会務に打ち込むには、1年間でも、気力・体力・財力の限界を痛感するに十分な期間と言え、やはり1年交代制が穏当なところなんだろうと感じる次第です(もっとも、今後、上記の3つの力を満たす方にご出馬頂ければ、話しは別でもよいのではないかと思います。)。当会では、従前から新旧執行部の引継ぎが重視され、重点課題を含めしっかりと受け継がれていきます。1年交代で会長が替わるからといって、急に路線が変わる、ということはまずありません。そんなこんなを感じつつ、2月20日に予定されている現次期執行部の引継ぎ会(第1回)に間に合わせるべく、会務引継書の作成作業が急ピッチで進められました。1年前に前年度の池永執行部から引き渡された引継書をベースに、執行部各員が手分けして、1年を振り返りながら作成し、日曜返上の打ち合わせ会などを経て校正を重ねました。最後に井上総務事務局長がつなぎ合わせて完成させてみますと、前年度の引継書から更に100ページほども増えて、総ページ数はついに300ページにも達してしまいました。任期末を間近に、たまっていた諸課題が目白押しに寄せてきて、定例(2週に3回)の執行部会議はついつい長引き、毎月2回の常議員会も議題山積となり、ついに前回(2/7)の常議員会は4時間半(終了は午後7時半近く)ものロングランでした。ダッシュで駆け出す構えの次期執行部が待つバトンゾーンまで何とか無事にたどり着き、しっかりとバトンを手渡すべく、息切れ気味の全身をムチ打ちながら、全員でラストスパートです。

2011年1月24日

会長日記

平成22年度福岡県弁護士会会長 市 丸 信 敏(35期)

師走を迎えました。暑く長かった夏から、一足飛びに冬になってしまったかのようです。会員の皆さまにおかれましては、この1年、いかがお過ごしだったでしょうか。◆司法修習生給費制1年延長!(感謝)残念ながら、10月末のタイムリミットに間に合わず、給費制の存続は叶わず、一旦貸与制が施行されてしまいました。しかし、日弁連執行部の粘りとこれを支えた各会の懸命の運動継続が実って、この臨時国会で1年間の「見直し期間」の限りながら、議員立法によって給費制が延長されることが、民主・公明・自民の3党で合意されました(10/18)。会期末までの残りわずかな時間ですが、ハプニングなど起こらずに無事に法改正までこぎ着けることができることを祈るばかりです。「今年の執行部は給費制しかやっていないじゃないか」との一部批判の声もあるとも聞き及びました。不徳の致す所ですが、足らざる所については、お気付きのことを、どうか遠慮・忌憚なくご指摘を頂ければ幸いです。もっとも、給費制については、執行部として、一所懸命に取り組みをさせて頂いたことは事実です。宇都宮日弁連会長の方針(公約)に即して、一方的に場外から名乗りを上げた敗者復活戦のような7ヶ月の運動でしたが、沢山の会員の皆さまの絶大なるご理解・ご支援と熱意ある運動のおかげによって、満足(給費制のそのままの存続)ではないながらもここまで到達できたことを、会員の皆さま、支えて頂いた多くの方々、そして後輩諸君らと一緒に、素直に喜びあいたいと思います。日弁連の宇都宮会長や川上本部長代行からも「7月31日の福岡の強烈な集会・パレードが、この運動の潮目の変わり目となった」との言葉を頂いています。ただ、与えられたこれからわずか1年の見直し期間内に、法曹養成制度全体を見直しつつ給費制を再検討する等の条件が付されていますので、私たち弁護士会は、引き続き、全力を挙げて、嵐の中にある新法曹養成制度全体の立て直しのため、困難ではありますが、前進を続けなくてはなりません。◆法曹人口問題今年8月にスタートした日弁連「法曹人口政策会議」での議論の進行状況を踏まえて、当会でもこの問題について会内論議を開始すべき時期が来たものと理解しております。司法改革を推進してきた当会として、その更なる推進のためには法曹人口の増員の方向性自体は今後とも維持すべきではあるものの、昨今の弁護士大量増員による就職難(OJTの機会喪失)や司法基盤整備の著しい遅れ、司法ニーズの伸び悩み等々の諸問題状況を踏まえると、その増員のペースを現状(司法試験合格者2000人強)よりもさらにスローダウンさせるべきであるという点では、まず会員の大方の考えは一致できるのではないかと個人的には察しております。ただ、そのペースはどの程度が適切なのか、将来的な安定法曹人口とは奈辺を妥当とするのか、そしてなによりも、この問題を弁護士内輪の論理ではなくて、国民・世論・マスコミ等々からの理解・共感を得るためには、私たちは、何を、どのようにアピールしてゆくべきなのか。「市場原理が法曹人口を決める」のであって、本来は数をあらかじめ決めることもできないとする司法改革審議会意見書ほかの意見を論破できるのか。皆さんから大いに意見や知恵を寄せていただき、前向きの議論ができることを願います。◆刑事裁判の状況裁判員裁判を巡っては、施行3年後の見直しに備えて、日弁連レベルでの論点整理作業が進められ、また、当会では刑事弁護等委員会の熟達の士の指導のもと若手会員による「裁判員裁判専門チーム」が発足し猛研鑽を重ねています。今後の会員の刑事弁護活動のサポート役・牽引役に成長してくれる日が待たれます。他方、裁判所も裁判員裁判への対応に相当の精力がそがれているようで、単独刑事事件の期日が入りにくい等のしわ寄せが生じているとの声もあるようです。会員のうちで日頃お感じになっていること、お困りのことがありましたら、是非、当会(執行部や裁判員本部、刑事弁護等委員会など)に声をお寄せ下さい。◆民事裁判の改革の動き福岡地裁本庁民事部から、労働審判にヒントを得た「迅速トラック」なる審理方法が開始され(11月1日)、また、民事裁判の「新福岡方式(福岡地方裁判所審理方式)」に関する10年振りの改訂作業が進められていること(平成23年1月からの実施目標)も、すでにご案内のとおりです。いずれも、民事裁判の一層の充実・迅速化を目指し、もって司法の利用者である当事者により納得して貰えるように、との理念に出るものです。今回の改訂も、新民事訴訟法(平成8年)の先駆けともなった平成3年度スタートの福岡方式、平成12年度に改訂された新福岡方式と同様に、基本的には、弁護士・裁判官として当たり前のことをキチンとやろうということ、すでに実務的に定着している運用などを再確認しようというものです。有り体に言えば、折角、民事裁判の改革でも全国をリードしてきた福岡にあって、いささか昨今の民事裁判は沈滞気味ではないのか、手続がルーズに流れてはいないだろうか、これを再度活性化させて、真に国民のニーズに応えてゆこうではないか、という思いに基づく今回の改訂作業であると理解しています。充実した手続のもとで迅速な裁判を実現するために、弁護士同士も互いに緊張感をもって個々の裁判に向き合いたいものだと思います。今回の改訂福岡方式についても、これまで同様、検証・見直し・改善を続けてゆくことになります。仮にも裁判官にあって「迅速かつ迅速」な裁判といったような「充実」をお留守にする訴訟指揮、福岡方式の理念に悖るような運用がなされるようなことが起こるとすれば、それも検証・見直しの対象となりますので、大いに関心を払って頂きたいと願います。どうか、ご理解とご協力のほどをお願い申し上げます。◆業務妨害事件への対応今年は極めて残念な事件が続きました。6月の横浜の会員殺害事件、11月の秋田の会員殺害事件です。いずれも代理人として業務を遂行した離婚事件がらみで、相手方当事者からの逆恨みによる一方的な凶行でした。断じて許せることではありません。弁護士は、普段から、こうやって体を張って依頼者の盾や身代わりにもなって活動しているわけですが、残念なことに、過去、当会でも弁護士に対して危害等が加えられた事件は少なくありません。事務所のセキュリティ強化ほかの防犯体制を整えて頂いた上、具体的に心配な案件が生じた場合は、当会(弁護士業務妨害対策員会)にご相談ください。早期の警察との連携その他のサポートに努めます。また、マニュアルもできており、今後、会員研修も強化して参ります。◆嬉しいニュース3題・ 新司法試験考査委員に船木会員任命さる10月、新司法試験考査委員(兼、予備試験考査委員。刑事訴訟法担当)に当会の船木誠一郎会員(福岡部会)が任命されました。地方会からの司法試験考査委員の任命は画期的な出来事です。重責を担われる船木会員のご苦労は大変なことかと思いますが、地方法曹の代表として頑張って頂きたいと思います。・ 福岡市の包括外部監査人に牟田会員を推薦11月、平成23年度(4月~)の福岡市の包括外部監査人として、牟田哲郎会員(福岡部会)を推薦致しました。これも快挙です。福岡市の包括外部監査人には、この制度創始以来もっぱら公認会計士が就任していました(全国的にも圧倒的に公認会計士が主流です)。しかし、当会の弁護士業務委員会による地道な勉強会やサポート態勢構築等の努力の甲斐が実って、この度、福岡市においてははじめて弁護士に白羽の矢が立った次第です。これまた大変なご労苦を伴う任務ですが、いずれ選任される補助者の会員の皆さんともども、弁護士業務のあたらしい道を切り開く先達として、存分なるご活躍を願う次第です。・ 日本公庫との協力覚書に調印11月、当会と日本政策金融公庫福岡支店との間で中小企業支援に関する相互協力・連携に関する覚書を調印しました。全国初の意欲的な取り組みです。4月に発足した当会の中小企業法律支援センターは、川副正敏委員長・池田耕一郎事務局長(副委員長兼務)・北古賀担当副会長らの熱意と各部会の若手・中核の委員らの献身的活動によって、県内各方面の中小企業団体・機関等との間で多様な連携を模索して、パイプ作り・協働化を進めています。また、コールセンターも多数の会員のご協力によって順調に運営されています。この度の覚書によって日本公庫とは連携の太いパイプが敷かれたもので、中小企業センターの活動に大いなる弾みを付けました。このことは中央をも刺激して、日本公庫本部と日弁連との間でも同様の連携を模索する動きが出始めました。中小企業に法律支援をしてゆくことは、法の支配を中小企業分野にも及ぼすことに他なりませんし、会員の皆さまの業務にも資するものと信じております。どうか、今後ともご理解とご支援を頂きますようお願い致します。◆釜山地方弁護士会との交流20周年記念式典11月5日~7日、釜山地方弁護士会との交流20周年記念式典(釜山側開催)への訪問行事も、50名ほどの訪問団をもって無事に終了しました。6月の当会開催の同記念式典ともども、ご苦労な準備をして頂いた国際委員会やご協力を頂いた会員・関係者の皆さまに感謝申し上げます。今回の訪問では、釜山地方検察庁(大きな庁舎!)の可視化取調室の視察や法律事務所訪問等もプログラムに組み入れて頂く等、周到かつ豪華に準備された式典や行事からは、釜山弁護士会のおおいなる熱意がひしひしと伝わってきました。また、個々の会員同士が再会を喜びあい、爆弾酒による2次会やゴルフ、トレッキングをごく自然に楽しむ姿に、20年の交流によって醸成された強い相互信頼関係を感じました。私がとりわけ嬉しかったことに、釜山弁護士会による大塚芳典会員(福岡部会)に対する顕彰のことがあります。大塚会員が両会の永年の交流に寄与された功績に対して、釜山の愼_道会長から式典で表彰をして頂いたのです。ご承知の方も少なくないと思いますが、大塚会員は、今日、九弁連の各会がそれぞれに国際交流(外国会との姉妹締結)をするに至る原動力となった人であり(現在も九弁連国際委員会委員長)、また、九州だけではなく全国のいろんな会の国際交流の橋渡し・推進にも尽力しておられます。文字通り、わが国弁護士会の国際交流の恩人と形容するにふさわしい人であり、当会の誇りです。

会長日記

平成22年度福岡県弁護士会会長 市 丸 信 敏(35期)

司法修習生の給費制運動に取り組んだことの意義◆記録的な猛暑・残暑のあと、一転して涼気に恵まれました。澄み渡る秋空のもと、この1ヶ月(9月中旬~10月中旬)、当会では、「子どもの貧困を考える~子どもたちが希望を持てる社会に~」(人権大会プレシンポジウム。9/12)、「デジタル社会の便利さとプライバシー」(人権大会プレシンポジウム。9/18)、「全件付添人制度10周年シンポジウム」(9/25)、「精神保健当番弁護士制度発足17周年記念シンポジウム~精神科医療を動かすもの~『社会的入院』の解消に何が必要か」(10/16)など相次いで開催され、また、日弁連では、司法シンポジウム(9/11)、人権擁護大会(10/7・8)と最大級の重要行事が続きました。いずれも、日頃の地道な人権擁護・権利擁護活動の実践に裏打ちされ、課題・論点が深く掘り下げられて、市民からの参加者も多く、充実感に満ちあふれるものでした。これらを通じて、日頃の弁護士会としての公共的・公益的活動への取り組みの成果が発表され、対世的に問題提起され、あるいは今後の活動に向けての弁護士会としての決意表明がなされました。 多くの会員仲間が、それぞれの持ち場において、多方面の社会的・公共的活動を担い、弁護士(会)としての責務を大いに果たしてきて頂いていることを、一会員としても大きな誇りに感じます。◆本年5月頃以来、会員の皆さまとともに、また、日弁連・全国弁護士会を挙げて、市民・市民団体等の理解と支援を仰ぎながら、走りに走ってきた司法修習生の給費制の存続に向けた取り組みも、いよいよ最後の大詰めの局面を迎えています(10/18現在)。この月報が会員の皆さまのお手元に届く頃にはすでに決着が付いているはずです。幸いに、これまで民主党・公明党・社民党・共産党などの理解が取り付けられ、委員長提案による超党派での議員立法で法改正を、というところまで何とかこぎ着けることができています。崖っぷちの状態からここまで押し返して来ることができたこと自体、すごいことだと思います。目下、残るは自民党次第ですが、その自民党内部では強固な反対論者もあり、自民党としての態度決定がなかなかなされ得ないで時間が推移しているというこの半月ほどの状況です(10/18からの3日間が勝負です)。10月31日というデッドラインを果たしてクリアできるのか、胸が苦しくなるような思いの中、お百度を踏む気持ちで、対策本部メンバー一同、今年の司法試験合格者の若い皆さんや市民団体関係者等と一緒になって、連日(10/4・5・12~14・18~20)、天神で最後の街頭宣伝行動に励んでいるところです。◆さて、ここに来て、地元新聞社の社説に、「国民の声に耳傾け議論を」と題して、当会や日弁連が取り組んできた給費制維持運動に対していささか批判的な論説が掲げられました(10/13付)。その論旨は、民主党が、9月になって、6年前の法改正の際、慎重に導き出したはずの決定をわずか1時間程度の党法務部門会議で覆したことは唐突に過ぎる、日弁連が「貸与制になれば金持ちしか法律家になれない」と言うだけでは国民の理解は得られないのではないか、裁判官や検察官になる人はともかく修習生の大半がなる弁護士は民間人であり経済的事情も違うはず、これを考慮せずに一律に国が給与を払ってきたことに首をかしげる市民も少なくない、貸与制導入が決まったときにも、弁護士過疎地域で勤務した人には貸与金の返還を免除をする措置が議論されたが、こうした公益活動を再考する価値はある、給費制の是非も国民の声に耳を傾けながら司法改革全体の中で議論するべきである等とするものです。 しかしながら、この社説は、必ずしも私たちの主張内容や弁護士会の活動が十分に理解されないままに展開されているようで、残念に思います。例えば、・この問題は、民主党のたった1時間程度の会議で唐突に方針変換されたというものではありません。当会や九弁連等では、給費制存続にむけて法改正を求めるための決議等を少なくとも昨年度からも繰り返す等して対外的に要請してきていましたし、またこの半年間、全国各地での市民集会、国会議員や政党への要請行動・懇談会、全国から集まった60万の署名の国会への提出、数度に及ぶ院内集会等々の運動を続けてきた結果として、ようやくにして各政党の理解・賛同を得られる状況になってきたものです。しかも、いったん貸与制が実施されてしまうと、後述するように取り返しのつかない禍根を残すという懸念から、どうしても本年10月末までに解決しなければならないという極めて切迫した事情があり、これを理解してくれた政党側の対応であったものです。また、・日弁連も金持ちしか法律家になれない、という主張だけをしているものでもありません。もちろん日弁連は、若者が多額の債務を負う窮状に心を痛め(給費制が廃止されてしまうと、修習終了時には6~700万円ないし1,000万円以上の奨学金等の債務を負ってしまっている者が過半となる見込みです。)、また、将来的に法曹が富裕層出身者に偏ることを強く懸念していますが、それだけが給費制廃止に反対する理由ではありません。何度も繰り返してきていることですが、・そもそも国は司法修習生に修習専念義務(=兼職の禁止)を課して国家公務員に準じた処遇をしておきながら、なんらの生活や費用の保障をしないのは条理(法理)として通らないこと、・法科大学院の修了者が多額の債務を抱えて、法曹の志願者が激減している状況のもと(その原因には司法試験合格率や修習生の就職難などもあると思われます)、今、給費制を廃止することは、法曹志願者激減傾向に重大なダメージを与えかねないこと、・1947年(昭和22年)、新憲法の施行と同時に誕生した司法修習制度は、戦前の天皇制司法を支えた官僚優位の法曹養成の弊を一掃し、民主主義の下、司法の担い手である法曹(裁判官・検察官・弁護士)を、統一・公正・平等の理念のもと給費で養成しようとしたものであって、法曹を公共財として位置づけて国家が養成すべしとしたその理念(とりわけ、基本的人権の擁護者としての弁護士は人権擁護のためには国家とも闘う必要があるが、このような弁護士をも国費で養成することこそが基本的人権尊重主義、民主主義という憲法の理念に即するとしたこと)は、今日・将来とも堅持すべきこと等々も論拠にしてきているのです。また、・同社説が、弁護士は民間人であり経済的事情も様々、弁護士過疎地に勤務した弁護士については貸与金返済を免除する価値があるとする点も、弁護士(会)が担っている各般の公益活動に対する見方が一面的に過ぎるのではないかとの指摘をせざるを得ません。弁護士会が繰り広げてきている公益活動の一端については、10月号の会長日記でも多少触れましたので、ここで繰り返すことはしませんが、要は、たとえば、過疎地の弁護士であれ都市部の弁護士であれ、企業法務・国際業務・知財業務等をになう弁護士(なお、司法改革ではこのような専門家を増やすことも目標に掲げられました)であれ住民訴訟・薬害訴訟・公害訴訟・えん罪事件等々の弁護団活動に取り組む弁護士であれ、あるいは日頃から地道に自治体等の諸々の公益委員や管財人・後見人・国選弁護人等々の裁判所からの委嘱業務を担う本当に多くの弁護士など、弁護士は実に多種多様・多方面で、それぞれの持ち場・立場で、いろんな形で公共的活動を付託されて実践しているのです。また、全国2万9000人の弁護士は、一律に毎月の特別会費を負担して、年間15、6億円にも及ぶ日弁連の法律援助活動を直接支えていること(それら法律援助活動は、市民のための権利擁護活動として必要なもので、本来一日も早く公的制度にまで高められるべきところ、弁護士会が手弁当で支えてきているものです。結局、当会で徴収させていただいている毎月の会費6万円ほどのうち1万円近くが日弁連や当会の法律援助活動等を支える基金に直接充てられています。)も、繰り返しご説明してきているとおりです。すでに東京など大都市部では、会費を払えない会員に対して内容証明郵便等で督促をしなければならない実情にあると聞きますし、当会においても、大量の入会者、弁護士大増員時代を迎えて、昨今の厳しくなる一方の業務環境に鑑み、老若を問わず会費負担の問題は心を痛める事柄の一つです。決して弁護士は裕福だから慈善活動をしているというわけではないのです。 確かに、一部には残念な弁護士が存在することや不祥事が発生することを否定できません。しかし、わが国全体の弁護士を社会の公共財、司法を担う公共財として呼ばないとしたら、いったい何と呼べばよいのでしょうか。◆私たち弁護士(会)は、実践段階に入った司法改革を、実践体験を通じて検証しつつ、改革になった制度で進めるべきは更に進め、足らざるは更なる制度改革の努力を払い、また、見えてきた課題で正すべきものは果敢に正す、との姿勢で臨むものです。あくまでも「市民の司法」を、という司法改革の理念のもと、その理念を貫くために、法曹人口問題や法科大学院の在り方を含む法曹養成制度についても、今一度、全体としてどうあるべきか、検証・改善の努力を重ねているものです。ただ、給費制の問題は、時間が限られた中、法曹人口問題や法科大学院制度改革の今度の有り様如何に関わらず、トコトンその意義を再検討した結果、やはりこれは司法にとって欠くべからざる重要な制度であると確信するに至った結果に鑑み、なんとしてもこれはこれとして維持しなければならないとして、この間の運動に注力し、また、市民や諸団体、国会議員などの理解を得てきた次第です。 とまれ、給費制の運動の結論(成否)がどうであれ、この運動への取り組みは、弁護士・法曹としての足もと、弁護士(会)としての社会的責務(公共性の実践や対世的広報の在り方等)を見つめ直す、大いなる契機となりました。私たちは、このことを深く胸に刻み込んでおかなければならないと思う次第です。

2010年11月15日

会長日記

平成22年度会 長市 丸 信 敏(35期)

弁護士会の公益活動に関する広報について思う◆9月9日、今年度の新司法試験の合格発表が行われました。合格者総数は2074名、福岡県内のロースクール4校からも、まずまずの合格者数でした。修習生の厳しい就職状況、苦戦する法律相談センターなど弁護士人口がすでに飽和状態にあるようにも感じられる昨今の実情下、今年の司法試験で果たして何人の合格者がでるのか気がかりでしたが、結果的には、直近の3年間と概ね同水準でした。ただし、司法改革の結果、本来は、政府目標(閣議決定)では、合格者3000人が本年度での達成予定でしたので、マスコミは、「目標下回る」、「法曹人口5万人遠のく」、「合格率25%、過去最低」等々、一様に厳しい論調でした。◆8月号の会長日記でも簡単にご報告しましたが、日弁連は、今年度、あらたに「法曹人口政策会議」を発足させました。日弁連の宇都宮健児会長は司法試験合格者数を1500人程度にすべきであるとの公約を掲げて当選した経緯があります。これまで2回の会議(8月の第1回政策会議全体会議、9月の理事会内意見交換)では、昨今の弁護士を取り巻く苦境を訴え、また、司法改革の失敗を指弾して大幅減員を主張する強硬な意見や、他方、まだまだ弁護士が対応できていない分野があるのではないか、人権救済のニーズに十全に対応できているのか、初めに数字ありきの議論は正しいのか、等々の意見が相次ぎました。 適正な法曹人口や如何に。本当に難しい問題です。どうすれば、現在の、あるいは将来のあるべき法曹人口を把握できるのでしょうか。また、それを我々自身が声高に唱えるだけで、それが実現できるものでしょうか。しかし、まずは我々自身が問題提起をしなければ、だれも代わりに訴えてくれる人もいないであろうことも確かです。市民を、マスコミを納得させることのできる、客観性をもった議論や論証に努めることが大事です。これからの時代にあって、あるべき弁護士像、あるべき法化社会の姿をどう描くか、つまりは、これまでの司法改革の検証とこれからの課題や達成目標等々と、総体的に絡む問題であり、答えを見いだすのは簡単ではありません。日弁連は、今年度末には一定の中間答申を出す、との目標を掲げています。 因みに、日弁連の将来予測では、仮に2011年以降、司法試験合格者を毎年3000人で継続した場合、法曹三者の合計人口(以下、法曹人口といいます)は2017年には5万人を突破し、その後、2048年頃には法曹人口は12万人前後で安定人口に達するとしています。また、仮に、2011年以降、司法試験合格者が毎年2000人で推移した場合は、2021~2年頃に法曹人口は5万人に到達し、その後、2050年頃以降は8万4、5000人程度で安定人口に達する、としています。(弁護士白書2009年版)。◆そもそも、司法改革では、司法予算(現状は国家予算の0.4%)を大幅に増大させ、弁護士だけでなく、裁判官、検察官も大幅に増員させることが目指されていました。しかし、現実には、増大した法曹人口のほとんどは弁護士会に押し寄せています。司法予算の拡大、それによる裁判官・検察官の大幅増員、支部機能の充実、弁護士偏在の解消、法律扶助予算の抜本的拡大、刑事被疑事件の国選対象外事件に対する援助活動や少年保護付添人活動はじめ、弁護士会が特別会費で支えている各種法律援助事業の早期公費化、企業・官庁内のインハウス弁護士の大幅増員等々、掲げられていた各種の司法基盤の整備課題は、弁護士会の懸命の努力にも拘わらず、なかなか思うようにははかどっていません。しかし、たとえば、裁判所も、労働審判は大成功であったと自賛しているのですから(これにならって迅速トラックという民事訴訟の審理方式が提案されています)、それほど優れたものであれば、国民が平等にこれを利用できるように、裁判所の各支部においてもこれを実施できるよう、早急に裁判所の人的・物的施設を拡充すべきことを、裁判所自ら最高裁・財務省に強く要請すべきではないのでしょうか。◆司法改革は、「市民のための司法」を実現するという理念のもとに、裁判員裁判制度を初めとする諸改革を実施し、また、司法の容量を大きく拡大することを目指しました。私たちは、希望に燃えつつ、歯を食いしばって、市民のために、と司法改革に立ち向かって、これを実践すべく努力を払ってきたのです。 当会の、法律相談センターを県内くまなく設置するという活動も、どこでも、だれでも、いつでも、司法へのアクセスを容易にしよう、と目指して、25年がかりでコツコツと充実を図ってきたものです。この法律相談センターを足がかりとして多種多様なリーガルサービスを供給することができています。当番弁護士活動も、20年前、手あかにまみれた携帯電話を弁護士から弁護士へとハンド・ツウ・ハンドでバトンタッチしつつ、決して一日たりとて途切れることなく活動を続け、そしてこれを全国に拡大させてきたものです。その努力が、ついには被疑者国選弁護人制度というおおきな成果に結実したことはご承知の通りです。昨今では、派遣切り、貧困等の問題状況を踏まえて生活保護申請の援助活動という地道ながらも命を守る活動にも取り組んでいます。当会は、目下56個の委員会を有していますが、そのほとんどは、直接・間接に、市民のための司法を実現するための活動をしています。当会では、会員の総掛かりで市民のための司法を担う活動をしているのです。◆私たち弁護士は、本当に困っている市民のために十分に必要とされる権利擁護活動・人権救済活動に取り組んできたのか、一部の小金持ちの市民だけを市民として自己満足してきていたのではないか、という痛烈な自省の指摘も胸を打ちます。このような指摘を踏まえるならば、確かにもっともっと増員を図ってゆかなければならない、と思えてきます。 しかし、他方、誰からの財政的援助もない弁護士、弁護士会は、まずは自立できるだけの経済的基盤を確立・維持できていることが不可欠です。その基盤があってこその人権救済活動であり、公益的活動であるはずです。 そういった意味で、今後も増員は必要であるとしても急激すぎる弁護士人口の増大は、弁護士全体をいたずらに競争原理に陥れ、多くの弁護士をビジネス優先の心理に追い込む危険があります。司法改革の際の法曹人口のあり方の参考とされたフランスでは、昨今、弁護士の破産が増大している問題を抱えているとの報告もあります。司法基盤の整備状況とのバランスを保ちながらの増員(ペースダウン)の方向性自体では、おおかたの意見の一致を見られると考えてもよいのではないかと感じます。◆しかし、それでもマスコミは、人口増員のペースダウンをいうと、すぐに「司法改革の後退」であるとか、「後ろ向き」である等と批判します。そこに、我々の認識とマスコミの見方とのギャップを感じます。我々は、実は大変な努力や犠牲を払って司法基盤の整備、弁護士偏在解消、法律援助活動への取り組み等々をしてきていることが、実は、マスコミにほとんど理解されていないようにさえ思えるのです。 例えば、日弁連では、毎年15、6億円も払って(その主たる原資は、全国の会員が支払っている特別会費です)、当番弁護士、被疑者弁護人援助活動、少年付添人援助活動、犯罪被害者、高齢者・障害者・ホームレス、外国人等々に対する援助活動等を、要するに手弁当で実施しています。しかし、マスコミにはこれら実情はあまり知られていないかのようです。(しかも、日弁連は、これら援助事業費を法テラスに委託して法テラスの窓口を通じて行っているため、弁護士であっても法テラスの事業であると誤解している人が少なくありません。)弁護士偏在を解消するために、日弁連は、公設事務所(ひまわり基金事務所)を全国に100カ所ほども開設し、また過疎地域での弁護士開業を経済的に支援する等してきています。これらにもこれまで莫大な費用が投入されていますが、すべて全国の会員の人的・経済的負担で担ってきているものです。 ちなみに、当会では独自に、8年前から、全会員から毎月5,000円の臨時負担金や管財人報酬から負担金を支払って頂き、「新リーガルサービス特別会計」を維持してきています。これをもって、公益的な相談活動の日当や、当番弁護士、少年保護事件付添人、精神障害者援助などの各種の法律援助活動に関する当会からの活動費の支払い、その他多くのリーガルサービス活動の原資にしております。法律援助活動の多くは、本来的には公費で賄われなければならないものです。それを一日も早く実現させるために、苦しい中、手弁当ながら実践活動を維持し、これを全国的な取り組みにまで昇華させることによって公的制度に持ってゆくことを目指しているのです。なお、当会は、NPO法人福岡犯罪被害者支援センターに対して、長らく財政支援を続けています(過去10年間で3,600万円)。◆私たちは、こうやって頑張って地道に公益活動に邁進していることを、もっともっと上手にPRしておかなければならなかったと、今、痛切に感じています。 この度の、司法修習生の給費制存続に向けての運動に関しても、弁護士会としてのこれまでのPR不足を痛感しました。給費制の維持を訴えていることが、あたかも法曹がエゴによって法曹だけの経済的支援を求めているかのように誤解している、また、給費制の維持を訴えることは司法改革の後退であると断ずるがごとき一部の大手新聞の論調が見られることは誠に残念です。 給費制は、司法を担う法律家は公共財(社会のインフラ)であること、また、戦後民主主義が、戦前の全体主義を反省して、ときに国家を敵に回す弁護士をも国費で養成することによって司法を、ひいては民主主義を健全に保とうとした制度的担保なのです。 私たちは、これまで当たり前と思ってきた給費制を失い掛けて、改めて給費制にトコトン思いを馳せてみて、なぜ、これまで私たちは国民の税金で育てて貰ってきたのか、私たちは何を国民に対して返してゆくべきなのか、大いに考え直してみる契機を得ました。 なにがあっても、その思いはこれからも維持し続けてゆかなければなりません。◆とまれ、会員の皆さまから連日次々とお寄せ頂いた、合計8万1369筆もの署名の数々(もちろん、圧倒的な全国第1位)、誠にありがとうございました。会員の皆さまの深いご理解と熱烈なるご支援、ご協力に、心から感謝申し上げます。 また、給費制に関してのカンパのご協力もありがとうございました。短期間でのお願いでしたが、73口、金額合計118万1,000円ものカンパをお寄せ頂きました。お陰様で、9月16日の東京での全国決起集会・国会パレード・院内集会・議員会館での議員要請行動には、当会から30名を超える会員を派遣して有意義な活動をすることができました。◆先の市民集会の大成功(今回の全国で開かれた数々の集会ではダントツの500名の動員)といい、驚異的な署名数といい、一体どこからそんなエネルギーが湧いてきたのでしょうか。もちろん、給費制対策本部のメンバーはじめ沢山の会員の皆さまによる熱心な取り組みの成果であることは言うまでもありません。しかし、熱心に取り組むだけではこのような大きな手応を感じることはできなかったはずです。修習生の給費制という、ある意味マイナーな問題についてどれほど市民の理解と共感が得られるだろうかと、不安がいっぱいでのスタートでした。しかし、嬉しいことにそれは杞憂でした。この運動を通じて強く実感したことですが、福岡県弁護士会では、これまで、多くの先輩たちや仲間たちが、長い年月をかけて、市民のために、市民とともにとして、熱い思いをもって地道に、また果敢に司法改革を実践してきていたのです。そして、それがしっかりと市民に、地域社会に浸透してきていた、だからこそ、この給費制の問題についても想像もできないほどに多くの市民の理解と協力が得られたのだと、強く実感しています。 市民集会500人、署名8万という数字を、私たちは大いなる誇りとしましょう。この会員一体の運動の熱い思いをベースに、これからも司法改革の残る課題への取り組み、問題点・課題として浮かび上がったこと等についてしっかりと向き合って取り組み、克服して参りましょう。 当会の、会員一丸の精神や伝統をもってすれば、どんな難問もかならずや克服できるものと信じます。◆給費制の問題は、ついに国会を主舞台にした最後の運動の段階にこぎ着けました。ここに来て、覚悟のうえながら、全国紙の論説や最高裁、法務省、財務省などからの強烈な抵抗にも遭っておりますが、それだけ実現可能性が出てきたことの証です。あと一歩の所まで来ております。 どうか、会員の皆さまにおかれては、最後までご支援を賜りますようお願い致します。

2010年9月 6日

会長日記

平成22年度会 長市 丸 信 敏(35期)


雨明けとともに猛暑となりましたが、会員の皆さま、いかがお過ごしでしょうか。司法修習生の給費制維持に向けた運動については大変なご協力を頂きまして誠にありがとうございます。署名は、なお8月末までは受付をさせて頂きますので、どうか、最後までご協力のほどをよろしくお願いいたします。今月は少々長くなりましたが、重要なご報告をさせて頂きます。最後までお目通しを頂ければ幸いです。中小企業の力になる現執行部として今年度の最重点課題にも掲げた中小企業に対する法律支援活動が徐々に本格化しつつあります。この4月1日に発足した中小企業法律支援センター委員会では、川副正敏委員長、池田耕一郎副委員長兼事務局長を中心に、多くの若手委員が奮闘中です。日弁連は、本年4月1日、全国一斉の中小企業向けコールセンター事業をはじめましたが、当会もこれを契機に、本腰を入れて中小企業支援活動に取り組み始めたものです。従来の弁護士業務委員会での活動の到達点を踏まえつつ、中小企業諸団体や金融機関などとの連携を一気に拡大・強化しています。5月25日の定期総会において全会一致で採択頂いた「中小企業への積極的な法的を行う宣言」の理念に即して、中小企業に法の支配を及ぼすため、中小企業諸団体等との連携のもと、これから、研修会、共同研究会、セミナー、相談会など、次々と繰り出されてくる予定です。ご期待ください。この取り組みを通じて、中小企業問題に精通した弁護士が多数育って頂くことを願うものですが、研修会等を通じて、相談担当をお願いするメンバーは今後とも適宜増強を重ねてゆきますので、会員の皆さまのご理解とご支援をお願いします。ちなみに、コールセンター業務での当会の実績はめざましいものがあります。たとえば、6月の実績では、受電して対応できた通話件数では、東京(3会合計で114件)、神奈川(58件)に続いて、堂々の全国第3位(54件)です。このなかには継続相談の案件も少なくありません。これも、委員会の皆さんが、懸命に、関係先との連携強化や絶え間ない広報に努めて頂いていること、そして、一つ一つの相談案件に対して、目下完全なボランティアながらも、きちんと対応に努めて頂いている相談担当の会員の皆さまのおかげです。厚く感謝申し上げます。なお、日弁連では、コールセンター業務が中小企業にとって高い社会的意義があること、そして、この業務が定着するまでにはもうしばらくの時間を要する状況にあることに鑑み、無料相談のキャンペーン期間を半年間延長すべく単位会に検討を要請しました(7月理事会)。当会でも、キャンペーン(初回無料相談)の期間を一応9月末までとの設定で参りましたが、県内でもコールセンター事業は未だ十分には浸透しておらず、なおしばらくの周知徹底のための時間が必要であると判断される状況に鑑み、無料キャンペーンの延長を致したいと考えております。どうか、ご理解とご支援をよろしくお願い申し上げる次第です。法曹人口問題のこれから適正な法曹人口とはいかなるものか、どのようなスピードで、いかほどの人数に到達するのが適切か、そのための施策はいかにあるべきか、この答えを見いだすのはなかなか容易ではありません。本年3月、日弁連「法曹人口問題検討会議」は、日弁連としての法曹人口に対する取り組み方に関して2年間に及ぶ検討結果を宮崎(前)会長あてに答申しました。その意味するところは、法曹人口は、あるべき法化社会、あるべき弁護士像をよるべき基準として策定すべし、というものです。(→詳しくは、当会ホームページ(会員専用ページ)に答申書の全文をアップしておりますので、ご覧ください。)そこで、宇都宮健児会長の現日弁連執行部としては、本年6月、新たに「法曹人口政策会議」を設け、上記の答申書が示した基準を踏まえて、これからの2年間で会内論議を尽くし、世論の理解と支持を得られる内容の、あるべき人口論についての日弁連としての基本施策を立案するというものです。この会議のメンバーは、全ての日弁連理事(単位会の会長など)と各ブロック会から4名ずつ選出する委員(なお、九弁連の4名の委員中、当会からは石渡一史会員が就任)など、合計140名以内で構成されます。今後、会議は毎月1回のペースで開かれ、うち3回に1回は全理事も加わったうえで、ほぼ1日をかけて討議する「集中検討会議」とされる予定です。早速、第1回の集中検討会議が8月21日に開催予定です。今後の日弁連の動向をご報告申し上げつつ、会員の皆さまのご意向を踏まえつつ、当会としてこれを日弁連の論議に反映できるよう努めてゆきたいと思います。急増する弁護士人口のもと、この数年、司法修習生は厳しい就職難に遭遇しており、法的ニーズの開拓や社内弁護士、任期付公務員等への進出も思うようには進捗しない苦しい状況のなか、法曹人口の問題は、今後のあるべき法化社会をどのように描き実現し、またそれに応えるべき弁護士像をどのようなものとしてイメージしてゆくか、わが弁護士制度のアイデンティティを再確認する作業に他なりません。特別会費で支えられる法律援助事業毎月払っている弁護士会費のうち、実はかなりの金額が、弁護士会自身の公益活動(法律援助事業等)を維持するための資金として使用されていることをご存じでしょうか。日弁連は、特別会費を徴収して刑事・少年やその他の法律援助活動の資金に宛てています。当会でも、各種のリーガルサービス活動を支えるための特別会費を頂いています(毎月5,000円の臨時の特別負担金や管財人報酬からの特別負担金)。平成18年4月、法テラスが発足し、法律扶助事業が国費で担われることになりました。弁護士会の永年の念願が叶った瞬間です。そこで、財団法人法律扶助協会は目的を達したとして平成18年度末に解散しました。ただ、法テラスの発足によっても国費での事業とはならなかった従前からの法律援助事業、すなわち、刑事・少年援助事業(被疑者弁護援助、少年保護事件付添援助)やその他の7援助事業(犯罪被害者援助、難民認定援助、外国人援助、子ども援助、精神障害者援助、心神喪失者医療観察援助、高齢者・障害者・ホームレス援助)は、高度の公益性があり、これを継続すべきものとして、日弁連が法律扶助協会から引き継ぎました。現在、日弁連はこれを法テラスに事業委託して実施しています。つまり、これらの援助事業は、日弁連が、全国の会員から集めた特別会費やしょく罪寄付金を原資として特別の基金を設けて維持している公益事業なのです。ところが、当初の想定を上回る援助件数の実績となっている反面、しょく罪寄付金が減少傾向をたどる等して、日弁連のこの基金は枯渇の危機に瀕しています。そこで、日弁連は、昨年度、全国単位会に向けて行った意見調査の結果を踏まえて、ひとまず今年度の応急の対応としては一般会計(予算規模約49億円)から資金(約6億円)を基金に繰り入れて凌ぐこととしました。そして、今後の抜本的な対応としては、被疑者・少年の資金捻出策として、現在の月額3,100円の特別会費(臨時)を4,200円に値上げして徴収すること(徴収期間は2011年4月から3年間)、上記の犯罪被害者支援など7事業の資金源として新たに月額1,300円の特別会費を創設して徴収すること(徴収期間は同上の3年間)の提案(日弁連からの意見照会)がなされています。これら合計で、毎月2,400円の会費値上げです。いずれ正式には臨時総会で諮られます。(なお、この問題の詳しい内容については、7月15日に全会員向けメールallfben:1085「Fニュース ・18」にて日弁連からの照会文書の全文を添付して配布致しておりますので、ご覧頂ければ幸いです。)ところで、当番弁護士発祥の会であり、少年全件付添人活動の提唱・実践者である当会は、これら刑事・少年援助や上記のその他7援助事業への取り組みが極めて活発で、全国単位会の範となっています。昨年度、被疑者弁護援助の実績件数では、東京(3会合計。以下、同じ)、大阪に次いで全国第3位、少年付添人援助では、東京にわずかに後れて第2位、精神障害者援助ではダントツの1位(というよりも、他会が続いていない!)、高齢者等では第4位など。そして、これら各援助事業の総合計件数では、東京についで全国第2位です。これら援助事業の全国での1年間の総件数のうち、ほぼ1割を福岡が占めています。つまり、当会にとっては、負担している特別会費よりも遙かにそれ以上のものが、各援助活動を通じて還元されている実情にもあります。被疑者国選弁護制度の全面的実現まで、また、少年付添人の全面的な国選実現まで、その他の法律援助事業ともども、弁護士会の「手弁当」での粘り強い頑張りが欠かせません。どうぞ、この特別会費問題についてのご理解を頂きたく、また、併せて、刑事しょく罪寄付への更なるご理解とご支援をお願い申し上げる次第です。体罰のない教育を6月26日、福岡市の博多市民センターで、「体罰を考えるシンポジウム」が開かれました。当会の子どもの権利委員会が3教育委員会(県と福岡・北九州の両政令市)との協働の下、生徒たちに直接アンケート調査をするなど1年がかりで準備してきたものです。当日は、あいにくの大雨に見舞われながらも、会場は、多数の教員、教育委員会関係者、保護者、弁護士らの熱気に包まれました。このようなテーマで、弁護士会と教育委員会が協働したのは、前例がなく画期的なことです。私は、あいにく別の会合に移動する必要から残念ながら前半しか参観できませんでしたが、当日の参加者のアンケートでも建設的な意見が沢山寄せられ、また、教育委員会関係者からも弁護士会との協働を高く評価する声がありました。体罰のない教育を実現するためには、普段から教育関係者の地道でねばり強い取り組みが欠かせませんが、体罰を法的側面から分析・指摘し、今後の教育現場での取り組みのよりどころを提示したこの日のシンポは大きな意義のあった企画でした。地域の法曹は、地域の法曹の手で育てる7月17日、九弁連は「地方・地域から法科大学院を考える~地方法科大学院の存在意義と弁護士会に期待される法曹養成の役割~」として、九州大学法科大学院(以下、法科大学院をLSと略記します)を主会場にして、熊本大、鹿児島大、琉球大の各LSを衛生テレビ回線でつないで、シンポジウム(第24回司法シンポジウムのプレシンポ)を開催しました。福岡県内の4校を含む九州・沖縄の7校のLSにおける個性や特色のある教育内容などの取り組みが次々と紹介され、弁護士教官を含む関係の皆さんの熱意とご奮闘ぶり、創意工夫ぶりに感銘しました。そして、九州各地にあっても、LSがその地方在住者にとってかけがえのない法曹になる機会の保障になっている事実や、弁護士会や実務家教官が、地域における法曹は地域の法曹自身の手で養成するのだとの熱い理想のもと、これまでねばり強く取り組んでこられたことが着実に実を結びつつあることが、紹介された統計やアンケート、生の声(会場発言)などから実証された状況でした。LSの存在意義を司法試験合格者数に偏って捉えることは決して正しくないことも再認識できました。もっとも、はやくも「ロースクール淘汰の時代」とも言われ、文科省が一部のLSに対して「重点校」として締め付けを強化している事実もあります。法曹養成を巡っては、LSの定員・適正配置問題、司法試験全体の合格率の問題、LS生の経済的負担過重の問題、修習生の給費制廃止問題や就職難の問題等々、いわば個々のLSの努力だけではいかんともしがたい課題も山積しています。また、個人的には、合格者の一方で大量の不合格者の(再)就職支援のあり方も気掛かりです(多額の奨学金等の債務を抱えている点では合格者以上に深刻であることでしょう)。LSが法曹以外でも人材の供給源になるとの当初構想が実現できているようには窺えません。このような状況下、修習生の給費制が廃止されると、新しい法曹養成制度は決定的なダメージを受けるおそれを感じます。前途は多難ですが、私たちは、地域の法曹は地域の弁護士会こそが育てるのだという理想を堅守して、あるべき法曹養成のあり方を追求して、これからも能う限りの支援を継続しましょう。楽しみなこれからの行事当会や当会が中心となって取り組む各種シンポジウムや行事も、これより佳境に入ります。行政事件訴訟改革シンポジウム(7/24)、給費制維持の市民集会(7/31)、高校生模擬裁判選手権(8/7)、ジュニアロースクール(8/21)、子どもの貧困プレシンポジウム(9/12)、情報問題プレシンポジウム(9/18)、全件付添人10周年シンポジウム(9/25)、精神保健シンポジウム(10/16)、九弁連大会(10/22於・沖縄)、釜山地方弁護士会訪問(11/5)、九弁連支部交流会(11/1於・福岡3)など、目白押しです。これらの企画・準備に取り組んで頂いております会員各位に深甚の敬意を表させて頂きますとともに、会員の皆さまからの積極的ご参加やご支援を、よろしくお願い申し上げます。とりわけ、昨年の九弁連大会は当会での開催でしたが、沖縄弁護士会から沢山の参加者がありました。今年は当会が答礼をすべき番です。多くの方のお申し込みをよろしくお願い致します

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