福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)

2013年8月 1日

◆憲法リレーエッセイ◆ロックと憲法のコラボ

憲法リレーエッセイ

会 員 後 藤 富 和(55期)

6月20日、フライングダッチマンのライブ「つゆのはれま九州ツアーin福岡」に参加しました。出演アーティストは、フライングダッチマンの他にRIKI a.k.a.Ozonbaby、SUNDRUMと私です。私に来たオファーは、ライブの合間に原発と憲法のワークショップをやるというもの。

講演を聴きに来た人にお話しするのとは違い、観客はロックのライブを観に来ています。その中で原発と憲法の話。厳しすぎます。アウェイ感満載です。

どうしたら短時間でライブの観客の心に響く訴えができるのか考えました。そして、15秒くらい考えた末、中国人留学生の宋さんにアシスタントを頼むことにしました。開演前のリハーサルでは、出演アーティストから「今日は弁護士さんの話しが聴けるので楽しみにしています。勉強させて下さい」との暖かい(?)言葉。めっちゃプレッシャーです。

ライブが始まると、ミュージシャン達は曲の合間のMCで原発や憲法改正の問題に触れ「この後、弁護士さんが話ししてくれるから、みんな真剣に考えようぜ」ってな具合に、盛り上げていきます。

こんなに期待させちゃってどうするんだよと内心ドキドキ。

RIKIの演奏が終わり、MCが私のことを紹介。

プロジェクターで写し出した映像を、観客は静かに注視します。お喋りをしたりする人はいません。さっきまで踊っていた観客たちが福島の映像に食い入ります。

昨年福島に行った際の写真を見せながら解説し、風船プロジェクトや原発なくそう!九州玄海訴訟の写真を示し「憲法が改正されれば脱原発の歌やデモなんかは国益に反するという理由で禁止されるだろう、だから今、憲法とは何かについて考えて欲しい」と言って、憲法の紙芝居に移ります。

憲法紙芝居は宋さんにお願いしました。宋さんの舌足らずな可愛らしい日本語に、観客は惹きつけられます(これも狙いのひとつでした)。

そして、国際貢献の名の下にアメリカが世界中でやっている戦争、そして犠牲になるのはいつも子ども達。その子ども達は選挙権もなく戦争についてyesもnoも意思表示できなかった。その子ども達の命を私たちは左右しようとしている。ちょっと立ち止まって憲法について考えようと訴えました。

最後まで観客は集中して話を聴いてくれました。

そして、フライングダッチマンのライブ。原発反対、憲法改正なんてあり得ねえ、選挙行こうぜ、と訴えてくれます。彼らの音楽に引き込まれてしまい、最後までずっと踊っていました。ミュージシャンって、憲法改正がヤバイって気付く鋭い嗅覚を持っていますね。

宋さんにアシスタントを頼んだ理由はもう一つあります。

日本は、憲法9条2項で、軍隊持たない、交戦権も持たないと誓っていることから、軍事力によって国を守るというシステムをとっていません。では、どうやって国民の安全を守るのか。憲法前文に「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して」とあります。ポイントは「諸国」ではなく「諸国民」となっている点です。中国の脅威とか、嫌韓国というと、つい勇ましい意見が出てしまいます。でも、あなたの友人である中国人や韓国人のことを具体的に思い浮かべてください。彼らがあなたやあなたの家族を殴ったり殺したりするのを望んでいると思いますか。逆もそうです。あなたが友人である中国人やその子どもを殺したいと思いますかと。そうであるならば、戦争になった時にどうやって中国を叩き潰すかを考えるのではなく、どうやったら戦争にならないように仲良くできるのかを考えましょう。それが日本国憲法の理念です。と僕は講演で訴えています。

今回、中国人である宋さんに憲法の紙芝居を読んでもらったのは、彼女が私達を殺すと思いますか。また、彼女を殺したいと思いますか。ということを少しでも感じてもらえればと思ったからです。

ロックのライブと憲法のコラボ。やる前はどうなることかと思っていましたが、意外にうまくいったと思います。

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