福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)

2013年9月号 月報

司法修習生の給費制を取り巻く現状について

月報記事

司法修習費用給費制復活緊急対策本部 副本部長
千 綿 俊一郎(53期)

1 はじめに

2011年に司法修習生の給費制が貸与制に移行して以降、まもなく2年が経過しようとしています。2011年に採用された第65期(2012年修習修了)と、2012年に採用された第66期(現在修習中)の修習生が、無給での修習を余儀なくされています。

しかるに、弁護士会員の大半には、「司法修習生の給費制問題は既に終わった問題である。」と受け止めていらっしゃる方も少なくないようです。

特に、2011年5月に設置された「法曹の養成に関するフォーラム」と、その後の2012年8月に設置された「法曹養成制度検討会議」において、いずれも「貸与制を原則とする。」と取りまとめられたために、「日弁連は敗北した。」との雰囲気も一部に漂っているかのようです。そのような雰囲気の中、弁護士会における給費制復活運動は、かつてほどの熱気を維持することが困難となっています。

しかしながら、司法制度を担う法曹の養成は国の責務であり、司法修習生の給費制復活は、法曹養成制度として本来あるべきものと言えます。また、1年間もの研修期間中に、給与を支払わない会社があれば、それは違法なブラック企業であり、国が司法修習生に対してこれを強いるのは明らかに誤っています。

そのため、「貸与制は誤っている」という声は挙げ続けなければならないと考えています。

もちろん、「司法制度改革の失敗」は「失敗」として受け止めて、貸与制以外の諸課題も改善されなければならないことは当然のことです。ただ、諸課題が改善されないまま遺っているからと言って、同じく問題を遺している貸与制が是認されて良いことにはなりません。また、なにより、給費制の復活に向けてはなおチャンスが残されている目下の状況にあることも後述致すとおりです。

本稿では、引き続き給費制復活への運動を継続することに対して、会員各位のご理解を得て、再び関心を持っていただきたく、給費制を取り巻く最近の状況について、ご報告したいと思います。


2 2013年7月16日法曹養成制度関係閣僚会議決定「法曹養成制度の改革の推進について」

法曹養成制度関係閣僚会議は、2013年6月26日付の「法曹養成制度検討会議」の取り纏めを受けて、同年7月16日「法曹養成制度の改革の推進について」を決定しました。

そこでは、第67期司法修習生(2013年11月修習開始)から、(1)分野別実務修習開始に当たり現居住地から実務修習地への転居を要する者について、旅費法に準じて移転料を支給すること、(2)集合修習期間中、司法研修所内の寮への入寮を希望する者のうち、通所圏内に住居を有しない者については、入寮できるようにすることが求められました。

他方で、(3)司法修習生の兼業の許可について、法の定める修習専念義務を前提に(中略)、司法修習に支障を生じない範囲において従来の運用を緩和する。具体的には、司法修習生が休日等を用いて行う法科大学院における学生指導をはじめとする教育活動により収入を得ることを認めるという提案をなしています。これは、「生活ができないなら、ほかに働けばよい」という提案ですが、修習期間が1年と短縮されているにもかかわらず、その専念義務を緩和するのは、かえって有害でさえあると言えます。

この点、2012年7月27日に可決した「裁判所法及び法科大学院の教育と司法試験等との連携に関する法律の一部を改正する法律」において、修習資金の貸与制について、「司法修習生に対する適切な経済的支援を行う観点から、法曹の養成における司法修習生の修習の位置づけを踏まえつつ、検討が行われるべき」と明記され(同法第1条)、この改正に際しての国会質疑では、将来の給費制復活も排除されていない旨の答弁がなされていました。

また、この法改正を受けて設置された「法曹養成制度検討会議」では、新たなメンバーからの給費制復活を求める声や、従来からの委員からさえも貸与制の問題状況を踏まえて少なくとも一定額の手当の支給などを求める声も多く挙がっていました。

そのため、個人的には、一足飛びに給費制復活とはならなくとも、その足がかりくらいにはなる手立てがなされるのではないかという期待は有していました。

しかしながら、現実には、上記の(1)、(2)の改正に止まるものであり、そのあまりに「しょぼい」内容に驚きを隠せませんでした。かえって、有害な(3)のような内容まで提案されているのです。

「どうしてかかる結果になってしまったのか」については、様々な分析があるところです。例えば、「法曹養成検討会議」に寄せられたパブリックコメントは3119通あったところ、そのうち法曹養成課程における経済的支援に関する意見は2421通にも上り、そのほとんどが給費制を復活させるべきという内容であったとのことですが、これらは何ら反映されませんでした。

ただ、検討会議の議論状況からは、この取りまとめは、法改正を要せずに直ちに実施できる最低限の措置であったところです。貸与制の問題状況を改善すべく、検討会議に続く次の検討体制において、修習生に対する経済的支援策を引き続き検討してもらうことを求める旨が共通認識となっています。この点は今後に希望をつなぐ足がかりと言えます。


3 2013年6月18日自民党司法制度調査会「法曹養成制度についての中間提言」

そして、2013年6月18日の自民党の司法制度調査会による「法曹養成制度についての中間提言」では、司法修習生の給費制について、その復活を求める声も多かったことが触れられています。

具体的には、「司法試験合格者数の動向や生活実態も踏まえつつ、司法修習の位置づけや司法修習生の地位のあり方を再検討し(ただし、給費制については復活すべきという意見と、これまでの経緯からあり得ないという両論があった旨両論付記する)、修習生の過度な負担の軽減や経済的支援の必要性について、真剣かつ早急に検討し、対策を講じるべきである」とされています。


4 2013年6月11日公明党法曹養成に関するPT「法曹養成に関する提言」

また、2013年6月11日の公明党の法曹養成に関するプロジェクトチームによる「法曹養成に関する提言」でも、踏み込んだ指摘がなされています。

すなわち、「司法試験に合格した法曹有資格者に対し、国家が特別の義務として課する実務研修である司法修習においては、少なくとも研修医に準じてその経済的支援を行うべきである。」「実務庁の近くに住居を移すことに伴う引越代や、修習中に生じる通勤・交通費等の実費的支出の補填がなされるべきである。また、司法研修所の集合修習において、寮に入れない人が生じている事態の解消も図られるべきである。」「国家公務員、地方公務員に対し認められている旅費法上の『研修日額旅費』を参考に支給することを検討すべきである。」などとされています。


5 今後について

今後は、上記の2013年7月16日法曹養成制度関係閣僚会議決定「法曹養成制度の改革の推進について」を受けて、内閣に関係閣僚で構成する会議体(閣僚会議)を設置し、その下に事務局を置いて、各施策の実施をフォローアップするとともに、2年以内をめどに課題の検討を行うとされています。残る課題についての検討作業は、ほどなく開始される予定です。

給費制問題は、公式には決着済みの論点であり、法曹人口論、法曹資格者の活動領域、法科大学院のあり方、司法試験のあり方、司法修習の充実などをメインに議論される予定ですので、そこにおいて、日弁連が給費制復活を主張し続けることの賛否、様々な勢力がいる中でのかじ取りの難しさはあろうかと思います。

しかしながら、救いは、上記3、4のとおり、給費制復活を熱烈に支持して頂ける国会議員が少なからず存在することであり、それは、「司法制度を担う法曹の養成は国の責務である」という認識を持っていただいているからこそと言えます。また、上記2の通り、法曹養成制度検討会議も、次の検討体制において更なる経済的支援策の検討を求めつつ閉幕したことも忘れられてはなりません。

そのような中、この問題について、我々弁護士自身が関心を失くして、その燈火を消してしまうことがあってはなりません。

上記のとおり、その中間提言で給費制について両論併記とした自民党の司法制度調査会では、近く議論を再開したうえで最終提言を取りまとめるものと見込まれます。政権与党の自民党や公明党の意向は重大です。当会の対策本部や日弁連の対策本部においては、この数ヶ月間をとりわけ重要な時期と認識し、国会議員要請や世論喚起に注力する決意です。

どうか、会員の皆様の一層のご理解、ご協力を頂きますようお願い申し上げる次第です。

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