福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)

2013年8月号 月報

災害対策委員会報告

月報記事

会 員 吉 野 大 輔(64期)

1 はじめに

平成25年6月17日に、日本弁護士会連合会、四国弁護士会連合会、高知弁護士会主催によるシンポジウムが、高知市で開催されました。シンポジウムのタイトルは、「災害時における個人情報の適切な取り扱い~高齢者・障がい者等の安否確認、支援、情報伝達のために~」というものです。

現在、災害対策委員会・東日本大震災対策本部の委員を中心に、東日本大震災・原発事故による被災者支援活動として、東日本大震災被災者のための無料相談会を定期的に行っています。多くの被災者及び自主避難者が、福岡県内にも避難しています。私たちは、福岡県への避難者に向けて無料相談会が開催されることについて自治体への広報や記者レク等を活用して広報を行ってきました。しかしながら、多くの避難者へ広報が届いているのか、確認できないまま広報の方法を模索している状況です。被災者を支援する上で、支援者側が避難者へのアクセスをする上で障害となっているのが、個人情報保護法です。支援者側の立場からは支援を望む被災者へのアクセスを要望しても、行政側の立場からは、個人情報保護の観点から被災者の個人情報の開示に消極的になるという問題があります。東日本大震災から2年以上経過しましたが、東京電力への損害賠償請求の消滅時効問題、不動産等の賠償問題、慰謝料の算定の問題など様々な問題が新たな問題として浮上してきています。新しく発生する法的問題について、被災者への広報を続けていくことが必要です。そこで、被災者へのアクセスの現状を考えるために、シンポジウムに参加して来ました。


2 基調報告について

東日本大震災における高齢者・障がい者や避難者の個人情報取り扱いの実情について、基調報告がありました。まず、避難者をサポートするNPO法人の代表者より支援者側からの話がありました。震災の際に大きな被害を受けた人達は、サポートなくして避難することが困難な高齢者や障がい者でした。支援者側としては、高齢者や障がい者等を支援するためには、住所や病状等の個人情報が必要でしたが、個人情報保護法が壁になって、スムーズな支援ができなかったようです。次に、行政側の立場から報告がありました。行政側の立場から被災者支援のために個人情報を開示するためには、目的外利用については原則として本人の同意が必要という問題がありました。行政側に震災が起きたときに個人情報を開示する準備ができていなかったことが大きな原因だったようです。

支援者側も行政側も、被災者を支援する目的を同じくしていたにもかかわらず、個人情報の開示制度の不備のためにスムーズな被災者支援ができず、特に支援が必要だった高齢者や障がい者に支援が行き届かず不幸な結果が生じたことが理解できました。


3 平成25年災害対策基本法について

東日本大震災の個人情報の取り扱いについての教訓を踏まえて、災害対策基本法一部改正法が平成25年6月17日に成立しました。かかる改正で、震災における個人情報の取り扱いの交通整理が行われました。この改正では、地方自治体に、震災が起きたときのために、事前に個人情報を開示するルール等を準備することが求められるようになりました。


4 最後に

私たち支援者側としては、スムーズかつ安心して個人情報を開示してもらうためには、個人情報の管理体制を築き被災者や行政側との信頼関係を築くことが必要です。このシンポジウムから得たことを、無料相談等の被災者支援に結びつけていきたいと思います。

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